【カオ転三次】おっさん転生者がなんとか生き抜く話 作:Vp6121
あと、サブタイトルは…ずっと先に結実するので…思わず…
4月
単独戦闘許可から1ヶ月後
シキガミ用素材採取3日前
午前中
技術部
技術部応接スペースで、世話になっている技術部の本田さんと、テーブルをはさんで向かい合っている。
今日は下級シキガミ3体分の『素材』採取の前準備開始日であり、シキガミ製造契約日である。
「夢野さん。今日がシキガミ3体分製造契約の契約日です。ルール上、分かりきった事でも確認します」
「わかりました。本田さん」
そう言ってから私は、カバンから付箋がいくつも貼られ、書き込みがされた書類をを取り出し、テーブルの上に置いた。
シキガミ契約書内容
シキガミとの生活のしおり
シキガミ人格発現段階別ガイドライン
強制行動の禁止条項
生活共有に関する注意事項
過去の事故・失敗事例(黒塗り)
それらを見て、本田さんが苦笑した。
「夢野さん。これらの書類って、中級-高級シキガミ契約用なんですが、下級シキガミ製造で使うのは初めてですよ」
「でも本田さん。新たな相棒を受け入れるのですから、これぐらいはあって然るべきだと思います。だって前世で車や投資信託を買う時、こういった契約事項を読み込み、質疑応答を何回も繰り返してからサインとハンコをしてましたし」*1
それを聞いて本田さんが呆れた表情を見せた。
「まぁ…夢野さん…車や投資信託もけっこうな金額を突っ込む、人生でも大きい買い物だからわからなくもないですが…シキガミ購入の例にそれを出す人初めてですよ」
「珍しいですか?」
「珍しいです。それと、夢野さんが希望した、『下級シキガミの伸び代を使い切るようなカリカリチューンを施した、下級シキガミを極めたもの』も初めてで珍しいから、技術部みんなが注目ですよ」
「本田さんが前に言っていた、未踏箇所を独り占めしてるようなもんですからね。嫉妬されてません?」
「されてるされてる。アルニキがホントに『その考えは(余裕が無いので)無かった!』と叫んだので爆笑しましたよ。その後、データ共有と、色々支援をお願いして今回のプロジェクトになりました」
思った以上に大ごとになってて草。
「そういや夢野さん。あなたから、普通は高級シキガミにやるけど、みんな簡易儀式で済ませる『起動の儀式』『インプリンティングの儀式』『名づけの儀式』*2の会場として『音響的にも霊的にも静かな場所』を希望していたが、なぜガチ儀式を下級シキガミに?」
本田さんが不思議そうな顔をして聞いてきた。確かに珍しい。だが私には譲れない願いがある。
「まず本田さん。シキガミって、生命ですよね」
「まぁ、生命ですね」
「次に本田さん。私はたぶん、このシキガミ3人としか恒常的パーティーを組めないと思います。スキルのせいで。
だから、シキガミみんなと一緒に生き、一緒に学び、一緒に喜び、一緒に悲しみ、一緒に死ぬでしょう」
「残念ながら、夢野さんの現状ではその可能性があり得ます」
「でしょうね…そんな一生の相棒とも言える生命が、私と共に生きるシキガミ3人が、この世に生まれるのです。新たな生命の誕生は、寿がれるべきなのです。
そして新たな生命の誕生を寿ぐのは、主人たる私の絶対的かつ神聖な義務です。
ならば、静かな場所で厳かに、密やかな儀式で、特別な日になるようにしてやりたい。だから…それを満たす部屋が必要だったんです」
私の言葉に本田さんは半ば呆れたような表情を見せた。
「いやはや半分信仰が入っている言葉だ。
だがそれがいい。
確かに筋は通っている。ただ対象が下級シキガミなだけだ。それでも技術部担当者としては気持ちはわからんでもない。ウチが造るシキガミにそれだけ入れ込んでもらっているのは、製作者の誇りだ。それには応えよう」
本田さんはそう言うと、ある冊子を開いてあるページを私に見せた。そこには『白い部屋』と言うべき部屋の写真があった。
「四方が白い壁に囲まれ、音響的にも霊的にも安定している特殊実験室を儀式日の前日3日間も含めて押さえた」
「ありがとうございます、本田さん。無理をされたのでは?」
「この部屋を使うまでもない案件ばかりで、予定が空いてる。有効利用ってヤツだ。この部屋の使用前3日間を霊的安定性確保に使う。これならどうだ?」
「ありがとうございます。使わせてもらいます」
本田さんは満足そうに頷き、冊子を仕舞った。
「それじゃあ夢野さん。話を本筋に戻す。契約内容書類や注意事項書やガイドライン等の書類は…今まで何度も打ち合わせして、付箋とマーカーが入りまくった現物を前に質疑応答を行ってきた。現時点では議論し尽くしたと考えるが、どうか?」
「もうありませんね」
「でしょうね。オーダーメイドな高級シキガミユーザーでもここまで質疑応答をした人は片手で余る」
でもいるんだ…
「ならば夢野さん。質疑応答は終了とする。最後は倫理面確認だが、『シキガミの十戒』*3を出してもらえるか。そして私の前で読んで欲しい。ああ、黙読でいいぞ」
私は『シキガミの十戒』が書かれた紙を取り出した。
何度も読んだそれにはこう書いてあった。
1:私の一生はだいたい貴方と同じです。あなたと離れるのが一番つらいことです。どうか、私と暮らす前にそのことを覚えておいて欲しいのです
2:あなたが私に何を求めているのか、私がそれを理解するまで準備と共に待って欲しいのです。私は常に貴方の事を考えて生きています
3:私を信頼して欲しい、それが私にとってあなたと共に生活できる幸せなのですから
4:私を長い間叱ったり、罰として閉じ込めたりしないで下さい。あなたには他にやる事があって、楽しみがあって、友達もいるかもしれない。でも、私にはあなたしかいないのです
5:私に飽きても時々話しかけて欲しい。あなたの心さえあれば私はやってゆけます
6:あなたの周囲がどのように私を扱ったか、私はそれを決して忘れません。私にも感情はあります
7:私を殴ったり、いじめたりする前に覚えておいて欲しいのです。私は強い力であなたを傷つけることができるにもかかわらず、あなたを決して傷つけないと決めているのです。性癖なら全身全霊で受け入れますが殴らせるのだけは心が苦しいです。マゾ性癖を満たすのはシキガミの意義的に厳しい事です
8:寝取り寝取られ脳破壊は嫁婿シキガミにとって最悪の虐待です。ミナミィネキの甘言に惑わされないで下さい……悪魔しょうかんは悪い文明
9:私は子供を産む為の力はありません、その事だけは忘れないで下さい。それだけは覚悟して私の手を取って下さい
10:あなたが側にいてくれるからどんな日も幸せです。忘れないで下さい、私は生涯あなたを一番愛しているのです
『シキガミの十戒』を読み終わり、顔を上げた。
「さて、夢野さん。シキガミの十戒を読み終えたな。シキガミの十戒は、犬の十戒をベースに作られたものだ。
犬は意思があるが喋る事ができない。その犬に対して飼い主が『愛犬の生涯に責任を持つ』ことを再認識してもらうのが犬の十戒だ。
シキガミの十戒も同じかそれ以上で、シキガミには意思も感情も発現する。下級シキガミであっても、だ。その喋る事ができる知性体と共に歩む覚悟を認識してもらうものだ。
私たちは自分たちが製作したシキガミが、理由無く粗末に扱われたり、捨てられたくない」
私の言葉も重いが、本田さんの言葉も重い。
「本田さん……私は詰みかかった人間です。前世ゲームのキャッチコピーを借りるならば、『夢野龍に、逃げ場無し』です」
「イルファ。スーパーロボット大戦αか」
「ええ。私はそうあれかしと製作者・ユーザーから望まれるあのゲームの主人公たちのようにはなれません。だが生き残りたい。
覚醒し、ガイア連合に参加した事で半分は達成できました。残りの半分は…
常に隣で共に過ごし
常に隣で共に笑い
常に隣で共に泣き
常に隣で共に学び
常に隣で共に戦い
共に死す
そんな仲間が欲しい。
ですがマイナススキルで人間や悪魔を仲間にし難い。だから、シキガミ3人を選びました。
かのカエサル*4が暗殺された後、その遺体を運ぶ事はカエサルに与すると見られた。だがそれでも遺体を運んだのは、奴隷ではあるがカエサルと共に育ち、苦楽を共にし、深い絆で結ばれた者だったろう。*5
私は、そんな仲間が欲しい」
私の独白をじっと聞いていた本田さんが頷いた。
「それ程までシキガミを望み、高級シキガミ用儀式を持って迎える漢ならば、倫理面は問題は無いな」
そう言うと本田さんは契約書を取り出した。
「今回のカスタマイズ版下級シキガミ製造契約書だ。文言は事前に渡したサンプルと同じだが、確認後にサインを」
契約書とサンプルを比較した。違いは無かった。
「夢野さん。この契約書、シキガミでできている。だからこれは霊的契約書だ。反故にすると地獄に行っても取り立てとかするヤツだから注意してくれ」
恐ろしい契約書だ。
それでもシキガミが必要な私は、契約書にサインをした。