【カオ転三次】おっさん転生者がなんとか生き抜く話 作:Vp6121
技術部打ち合わせ翌日、朝
男子寮自室
そろそろ技術部に発注した下級シキガミ3体がロールアウトする。となると、2週間程一緒に異界に潜っていたレンタル下級シキガミ(悪魔警報機及び荷物持ち役)は役目を終えるので、返却しなくてはいけない。
目の前で起動しているレンタル下級シキガミ(一反木綿型)は、最初に借りた時とさほど変わらずに、目の前にいた。
「2週間だけとは言え、世話になったな。お疲れさん」
私がそうシキガミに話すと、シキガミが黙って頭を下げた。
最初はこういった反応をせず、話すのは、『悪魔がどこに何体いる』と『はい/いいえ』程度だったが、無言の仕草程度をするようになった。成長が見られて嬉しい。
だが契約は契約だし、ウチの新人と役目が被ってしまう。コイツは新しい所で腕を振るってもらおう。こっちはコイツについて褒めまくった…実際に役に立ちまくった…レポートを一緒に出すから、次のレンタル先でも役に立つだろう。
「さて、お前さんを今日返却するが、その前にキレイに拭いてから返却するぞ。役に立った事への餞のようなもんだからな。
今から清掃するが、何か問題あるか?」
「いいえ。ありません」
音声返答にも成長が見られる。良い事だ。
「よし。それじゃ始めるぞ」
そう言ってまずは水拭きから始まる清掃を開始し、シキガミを借りてきた時と同じぐらいにキレイにした。
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同日午前中
レンタルシキガミ部
清掃が終わり、キレイになったレンタルシキガミを連れ、レンタルシキガミ部に返却に来た。
「お疲れ様です。シキガミの返却に来ました」
店と言うかブースには、借りる時に対応してくれたおっちゃんがいた。
「ああ、夢野さんですか。お疲れ様です。返却ですね、わかりました」
おっちゃんは貸し出しリストを取り出した。
「夢野さん。レンタル時の伝票をお願いします。伝票・シキガミ・受け取り時チェックの3つが揃ったら返却終了ですので」
「あーはいはい。コイツと…あと、このシキガミを連れて戦った時のレポート的なものを書いてきたのでそれも出します」
おっちゃんが少し驚いた表情を見せた。
「レポートですか。珍しい。出す人あまりいないのでありがたいです。あれば色々フィードバックに使えるので」
「いやーこのシキガミものすごく役に立ってくれたので、これぐらいはしても良いかと思いまして」
「おお、それは良かった。コイツの評価が上がるな」
私に良し、おっちゃんに良し、シキガミに良し。
近江商人の三方良し的でヨシ!(現場猫風イラスト
「さて、夢野さん。今からコイツのチェックしますんで。外観確認・自己診断・アナライズチェックで問題無いか確認します。問題があったら協議の上で補償金支払い等になりますので」
「はい。そこら辺はレンタル時に説明されたので問題ありません」
「それは良かった。たまに、説明されているのに『聞いてない』ってゴネるアホが出るんですよ…すぐ警備俺たちに連れられて、『O・HA・NA・SHI』*1するんですが」
「こっちにもそーゆーアホが湧いて草。事務局でも似たようなアホがいるって言ってましたよ」
お互いあるあるネタで意見が合った。
「『石川や 浜の真砂は尽きるとも 世に盗人の種は尽きまじ」*2じゃないですが、アホの種も尽きませんからねぇ。前世も今世も」
「夢野さん。『だって、にんげんだもの』*3ですから」
それを聞いてお互い大笑いした。
「さて、それではチェックを開始しますね」
おっちゃんがチェックリスト片手に下級シキガミの周囲を回り、大雑把な外観確認を行う。その次に詳細確認としてシキガミの手・関節・感覚器の確認を行った。
その後、おっちゃんが下級シキガミの正面で、独特の抑揚をつけて何か命令し始めた。
【Admin_Tools.Security.Authorize_Root_Access(Key => "537CamlannHill", Level => Mission_Critical);】
『権限承認。管理者:537CamlannHill。……これより全セーフティをバイパスします』
あーたぶん、おっちゃんがアドミン権限使って内部コマンド実行か。それにシキガミが答えたと。そんなのあるんだ。
【Spirit_Circuit.Diagnostic.Verify_All_Packages(Mode => Fast_Scan, Result => Summary);】
『チェックサム一致』
【Ada.Exceptions.Trace_Occurrence(Category => Hardware_Fault, Severity => High);】
『例外検出ナシ。全変数、定義範囲内です』
シキガミの返答を聞き終わったおっちゃんがこちらを見た。
「夢野さん。外観確認・自己診断で目立った問題はありません。丁寧に使って頂いたようで」
「まぁ、借り物ですし、あと、望んだ役目が悪魔探知機と軽い荷物持ちで、悪魔の攻撃からは逃げ回れと指示出してたので」
「おお、それは助かります。コイツはお安い代わりに他と違って比較的やわいので」
あーやっぱりそーゆーのがあるのね。
「それでは最後にアナライズチェックですね」
そう言うとおっちゃんがシキガミを見た…ら、首をまた傾げた。
「えー夢野さん。ちょっと問題と言えば問題が出ましたので確認したいのですが…」
「え!何があったんです?」
おっちゃんは困った表情を見せた。
「いや、悪い問題ではなく、良い問題なのですが、初見ですのでお話を伺おうと」
「あーはいわかりました」
私がそう答えると、おっちゃんはガイア連合製スマートフォン、通称ガイアフォン…90年代にスマホは凄いが、技術俺たちや富豪俺たちが頑張ったらしい…で連絡を取り、代わりの店番役を呼び出した。
そして私に椅子を勧め、おっちゃんも座った。
「夢野さん。この下級シキガミですが、2つの変化がありました」
「え、2つもあるの!」
普通に使って問題無いと思っていたのだが…
「はい。まず1つ目。返答が少し人間っぽくなっています。シキガミは成長しますが、レンタルシキガミは主を簡単に変えられる契約の代わりに、各種能力や人格成長スピードが遅いです。なのに2週間で少しですが成長が見られた。他ではありません」
原因に思い当たる事が…あと、使ってるうちに返答とかが変わってたな…
「2つ目。アナライズで見たのですが、レベルが上がって無いのですが、その代わり経験値が相当量積み上がっているようです。シキガミは主のレベルを超えられない縛りがあります。ですが高いレベルの人に預ければ、即レベルアップするんじゃないかと」
こっちも思い当たる事が…
「それでですね…夢野さん。ウチのシキガミをどう運用したんですか?」
「えーたぶん、経験値積み上げで説明つくんじゃないかなと」
「かなり積み上がってましたよ」
「えーと、私、マイナススキルで、取得経験値が70%減少するんですよ」
「うわマジですか夢野さん。それは酷い」
おっちゃんが顔を顰めた。
「それでですね、このスキル適用は私だけで、他のパーティーメンバーには、頭割りした経験値が入るんですよ」
「つまり夢野さん。例えばあなたとシキガミ2人パーティーとして、経験値10の悪魔を倒したら、シキガミに経験値5が入り、夢野さんには5ではなく1.5だけ入ると」
「その通りです」
おっちゃんは頭に手をやり、アチャーな表情をした。
「それでですね、神社が抱えている異界の、初心者用地域で、私の広域強制挑発で殺到してきた悪魔を倒しまくってですね…」
「夢野さん。どれだけ倒したんですか」
「1日400体までは行かないですが、それを5日間程…」
「夢野さん…それはふつーは死線を潜るとかそういったもんですよ。それならレンタルシキガミでも人格成長するし、経験値も積み上が……大きなシノギの匂いがするな…!」
おっちゃんが白竜みたいな事言い出して草。先日、技術部で私も言ったけど。
「夢野さん…ウチの悩みどころに、レンタルシキガミのレベルが揃わない・成長が遅いというものがあります。主を変えられる契約では主変更ができる代わりに、成長スピードが遅いんです」*4
「一旦、主固定契約にしてレベル上げて成長させてから、主可変契約にするのはダメなんですか?」
「契約は変えられないんですよ。そこら辺はおとぎ話とか星新一ショートショート作品の悪魔ネタの通りに契約は絶対ですから。悪魔交渉で変更可能にしておけば良いと言えば良いのですが、下級シキガミにそこまでやるのはコストが…」*5
あー契約は絶対か。なら無理だ。あと、泣く子とコストには勝てねェ。
「そこで、夢野さんにウチのシキガミを預けてパワーレベリングしてもらおうかと」
「私以外の俺たちに頼むのはダメですかね?」
「夢野さんはスキルのせいで戦闘回数が5倍ぐらいあるんじゃないですか?なら短期間で大きい成果を挙げられます。また、低レベルパーティーだとシキガミの損傷が気になるし、高レベルパーティーに頼むのは予算とかの問題で厳しそうですし」
確かにそうだ。納得しかない。
「それでですね、夢野さんに有料でお願いする事で、夢野さんは資金が入ってくるし、常にではありませんが、荷物持ちが使える。私たちはパワーレベリングができる。いい話だと思いますが?」
悪くない話だ。低レベルが長く続く私には資金を得るには他の俺たちよりも多く戦わなければならない。ガイア連合からの奨学金の80%をシキガミ製造に突っ込んだから、その分を稼がねばならない。で、この依頼、今のところ私だけが受注できるブルーオーシャン。受けない理由は無いな。
「私、ガイア連合から奨学金的なのを受けているんですよ。その奨学金的なもの、ガイア連合に貢献する行動で返還できるんですよ」
「ほほう…という事は夢野さん…」
「その話、受けます。ただし事務局経由で依頼を出して頂ければ」
「まずは事前交渉成立ですな」
そうして私とおっちゃんは握手を交わした。
後に事務局も交えた交渉により、レンタルシキガミ部が望んだ時に、レンタルシキガミを随伴させる事に決まったのであった。