【カオ転三次】おっさん転生者がなんとか生き抜く話 作:Vp6121
製造されたシキガミを主人に引き渡した後に行う儀式がある。
「起動の儀式」
「インプリンティングの儀式」
「名づけの儀式」
である。
【起動の儀式】
これはわかりやすい。不活性状態にあるシキガミを「主人が魔力を込め、不活性化を維持している専用御札を破る」事により、シキガミを起動させると同時に、シキガミ側が「この魔力を持っている人間が自分を起こした」と認識させる儀式だ。
【インプリンティングの儀式】
これは動物で有名な「動物が生後ごく早い時期に見たものを親として学習し、それが強く永続的に記憶される現象」という「刷り込み」と同じようなものである。
シキガミは「起動の儀式」で起き上がると、近くにいる人間を見る。その時に「起動の儀式で感じた、自分を起動させた魔力を持つ人間」であれば、その人間を主人と認識する。
【名づけの儀式】
これは霊的関係では名前というものは非常に重要なものである。「真の名前を知られると力を失う・相手の命令を聞かなくてはいけない・呪いをかけやすくなる」といったものが有名なところだろうか。それぐらい名前には力がある。
それと同時に「名前がないものに名前を与える」という事は、その「名前のない曖昧な状態のものを、名前という力がある言葉でくくり、現世に固定する」という事になる。これの見方を変えれば、「新しく生まれた生命に祝福を与え、この世に生誕させる」という事になる。
ここではシキガミという新たな生命に主人が名前をつける事でシキガミとして存在が固定される事と、「主人が名前をつけた=主人に真の名前を知られた」という事からシキガミに主人を認識させて固定させるという儀式になる。
昨今はこの3つの儀式を簡略化した儀式で済ませる事が、中級・高級シキガミでも多く見られる。だがこれは少しの時間と引き換えに、『対象シキガミとの強い関係性を結び易くできる』『シキガミの人格を通常よりも深く成長させる事ができる』という、黄金よりも貴重なチャンスを逃がす事を意味する。
これを取り戻すには多くの時間と経験が必要になる。
ガイア連合シキガミ契約概論より抜粋*1
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早朝
技術部内特殊実験室
私と本田さんだけがいる特殊実験室。
この部屋は白い壁に囲まれた、一辺が5メートル程度の正方形の形をしている。更に外部からの音を遮断している為、静かだ。また霊的に『凪』の環境である事から、霊的にも静かだ。
そのような特殊な環境であるから、ここは特殊実験室と呼ばれている。
その部屋の中央にあるテーブルに、折りたたまれ、未稼働状態のカスタマイズ版下級シキガミが3体並んで置かれている。
1番左は、黒白黒の線が入った「初号機」。
真ん中は、ホワイトゴールドの線が入った「弐号機」。
1番右は、白・黒・青の線が入った「参号機」
私の肉体3体分と、ガイア連合からの奨学金の80%を注ぎ込んだ結果が目の前にあった。
そして、私と一生の付き合いになるだろう相棒たちになる。
私の横に立った本田さんが、私に書類を渡した。
「夢野さん。これが下級シキガミの譲渡契約書類です。儀式が終わったら引き渡し終了ですので、2通分署名した上で1通を私に渡して下さい」
「わかりました」
本田さんは私をじっと見た。
「夢野さん。ここにいる眠り姫たちは幸せだ。外観こそ下級シキガミだ。だがその中味は主人の肉体を1人分使った、中級シキガミ級の肉体。そして高級シキガミでも滅多に行われない、『起動の儀式』『インプリンティングの儀式』『名づけの儀式』を、一生を共に生きると決意した主人によって、静かな環境で、厳かに執り行われる。あなたにそこまで想われたこいつらは幸せだ。だから早く、この眠り姫たちを起こしてやってくれ」
そして本田さんが、私に黒い御札を見せた。
「夢野さん。この御札がシキガミを非稼働状態にしている封印のキーだ。私が部屋の外に出た事を確認したら、その御札を破る。そうしたら自動でシキガミが起動する。そして儀式を行ってください」
そう言って本田さんは私に真っ黒な御札を渡した。
「それでは良い出会いを」
そう言って本田さんは特殊実験室から出ていった。
1人になった特殊実験室に立ち、黒い御札を眺めた。
これが『起動の儀式』開始用封キーか。
これを破れば、シキガミ3体が起動して、私の生活に大きな変化をもたらす。
同時にもう後戻りができなくなる。
もっとも、後戻りなんてする気は無い。
『切り結ぶ 太刀の下こそ 地獄なれ 踏み込みいれば ここは極楽』*2
私の先には、このままでは破滅しかない『終末』が、その恐ろしい未来を掲げてこちらに向かって来ている。ならば切り結ぶ『太刀』としてのこのシキガミたちと共に、その地獄に踏み込もう。死中に活を求めよう。
そしてより良い未来を奪い取ろう。
決意した私は、その真っ黒な御札を破った。
御札を破ると同時に折りたたまれていた一反木綿型シキガミが展開した。
これで『起動の儀式』は終了した。
次にシキガミたちが一斉に私を見た。『起動の儀式』で感知した私の魔力。それを色濃く纏っている人間。すなわち私を見たシキガミたちは、最初に定められた通りに私を主人と認識した。
これで『インプリンティングの儀式』も終了した。
最後の『名付けの儀式』を残しているシキガミたちが、私の前に横並びで3体並んだ。そして3体が揃って口を開いた。
『『『問おう。貴方が私のマスターか』』』
-3分後-
思わずツッコミを入れたくなったのを我慢した代わりに、そのネタっぷりに頭を抱えた程度に済ませた私は、褒められてもいいと思うんだ。
そんな私を我慢強く待っていてくれたシキガミ3体に、自分がマスターである事を宣言する為の『名付けの儀式』に入った。
1番最初に、黒-白-黒の線が入ったシキガミ『初号機』前に立った。
「夢野龍が汝を名付ける。汝はこれより『シルエット』である。黒の中なら白く、白の中なら黒くあるように、常に汝は明確な意思を持って我と共に歩む事を望む」
2番目に、ホワイトゴールドの線が入ったシキガミ『弐号機』の前に立った。
「夢野龍が汝を名付ける。汝はこれより『オーロラ』である。ホワイトゴールドの光沢は、深海に差し込むオーロラのような光の筋を思わせる。汝は我が闇で迷いし時、我を光で照らす事を望む」
最後に、白・黒・青の線が入ったシキガミ『参号機』の前に立った。
「夢野龍が汝を名付ける。汝はこれより『ロール』である。3つの色は汝の別側面を表す。汝は異なる側面から物事を見定め、我を支える事を望む」
シキガミ全員分の名付けを宣言し、再度シキガミに向かって話しかける。
「汝等は我の名付けを受け入れるか?
我を主人として受け入れるか?
我と共に在るか?
応えよ」
元・初号機が前に進み出た。
「我が名はシルエット。マスターと共に歩む者也」
元・弐号機が前に進み出た。
「我が名はオーロラ。マスターを照らす者也」
元・参号機が前に進み出た。
「我が名はロール。マスターを支える者也」
シキガミ3体が進み出て、自分は私がつけた名前を持つ者であると宣言した。
それでは最後の締めだ。
「汝等はこれより、
我と共に歩み、
我と共に喜び、
我と共に悲しみ、
我と共に戦い、
我と共に生き、
我と共に死す。
これは世界が終わる時が来ても、
永遠の世界に分かたれたとしても、
この約束は消える事は無い。
約束はここに結ばれた」
宣言が終わると同時に、私とシキガミとの間で何かが繋がった感覚がした。
全ての儀式は終了した。