【カオ転三次】おっさん転生者がなんとか生き抜く話   作:Vp6121

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第4話:戦う為の前準備。事務局編。

3月

早朝

ガイア連合独身寮内食堂

 

 ガイア連合独身寮の朝は、早い。

 別に職人だからではない。寮の食堂が開く朝6時に合わせて起きるからだ。

 

「おはようございます。渡さん。鳳翔さん」

「おはよう。夢野さん」

「おはようございます。夢野さん」

 

 食堂のキッチンそばにある配膳台で、今日の朝食を並べている寮監の渡さんと寮母の鳳翔さんに挨拶する。

 渡さんは『Fateの高校生衛宮士郎がそのまま英霊エミヤ・アーチャーになった』外見で、鳳翔さんは『艦隊これくしょんの軽空母艦娘・鳳翔さん』な外見だ。

 渡さんと鳳翔さんは、転生者である主人と『人間そっくりかつ人間以上の戦闘力』を持つ高級シキガミという関係だが、同時に夫婦である。彼らは住み込みで独身寮の管理を担っている。

 なお、2人とも強い。

 

 朝食のトレイを取り、席について食べ始める。今日も渡さん夫妻が作った食事が美味い。

 大勢が食事を摂っているので少し食堂は騒がしいが、気にせず食事を終わらせた。

 

「ごちそうさまでした」

 

 そう言って食器をトレイごと返却する。

 今日はこの後から事務局で打ち合わせだ!

 

□□□□□□□□□□

 

午前中

ガイア連合事務局

 

 1ヶ月。

 それは長いようで短い時間。

 私の1ヶ月は、キツい修行と座学と技術部依頼スキル試験で消えた。

 

 ショタおじの「訓練で覚えられる以外のスキルは取得できない」が信じられなくて、2週間も「キツい方の修行」をやってみたが……文字通り死ぬような体験を何度も繰り返しただけで、本当に何も覚えられなかった。

 修行がダメならば、勉強をキッチリ受けるしか無い。

 そう思って初心者講習を一通り受講してみたのだが、その中で『対メシア教実践』で見た『メシア教過激派被害者や制圧したメシア教過激派拠点のデータ』が生々しくて酷かった。

 ゲーム内メシア教の所業は酷かったが、現実のメシア教過激派による

『誘拐拉致監禁からの洗脳コンボ』

『肉体及び脳改造実験動物』

 

――そのどれもが、前世のトラウマを激しく刺激する、酷いにも程がある内容だった。

 

 メシア教死すべし。ジヒは無い(忍殺感)。

 

 それはさておき、そんな勉学の日々が終了し、これからは自由に行動できるようになった。

 

 同期の中には自由行動になってすぐに英雄願望を満たす為、ソロで修行用異界に突入。開始3分で顔に最弱悪魔スライムが張り付いて窒息死をキメたやつがいた。

 他にも複数人で突入し、1回目が無事だったので調子に乗り、2回目で全滅したのもいた。

 なぜそんな話を知っているかと言うと、初心者用異界には死者回収班が巡回していて、死者を回収して復活までしてくれるからだ。

 復活した連中と話した際、「灰にならなくて良かったな」と洞窟野郎ジョークを飛ばしたが、ウケたのは半分だけだった。

 やはり世代と言うヤツなのだろうか。

 

 さて。

 そんな先達の情報を知った上で、私はこれからどう戦っていくかを決めなくてはならない。

 そのためには、先達や有識者からの助言が必要だ。

 そこで私は、ガイア連合に担ぎ込まれた際に世話になった事務員――千川ちひろさんを頼ることにした。

 そのための面談予約を入れ、午前中の事務局を訪れた。

 

 事務局は、日本の市役所や一般的な事務所とほぼ変わらない光景だった。

 

 各種窓口で事務員がガイア連合員と応対し、

 書類を抱えた事務員が忙しなく行き交い、

 自席では端末に物凄い勢いでデータを入力している。

 ただし、聞こえてくる用語がオカルト寄りなのが、決定的な違いだが。

 

 ガイア連合事務局の『各種予約』窓口で予約がある旨を告げると、事務局内の談話スペースに案内された。

 

 そのスペースの座席に座ってしばし待つと、元ネタ服装である『蛍光グリーンの事務服』を着た千川ちひろさんが書類を片手にやってきた。

 

「ちひろさん。お疲れ様です」

 

 座席から立ち上がってアイサツする。アイサツは大事と古事記にも書いてあるし、相手は事務局の実力者。粗相をしては今後に差し支える。

 

「お疲れ様です、夢野さん。まずお座り下さい」

 

 そう言ってちひろさんが向かいの座席に座ったので、私も着席した。

 

「夢野さんは修行や座学は一通り終わらせたようですね……ショタおじの『厳しい方の覚醒修行』を2週間ですか」

 

 ちひろさんが、私が持ち込んだ書類を見て驚いた表情を見せた。

 

「夢野さんはよくあの『厳しい修行』を2週間もできましたね。1日で脱落する人が珍しくないのに」

「新しいスキルを覚えられないというのが信じられなかったんです……その結果……なんの成果も、得られませんでした」

「夢野さん……それでもあの厳しい修行を2週間も継続できたというのは誇って良いですよ」

「ありがとうございます。ちひろさん。覚醒時の死亡と復活経験があったので耐えきりました」

 

 そう話していると、ちひろさんが何か書類にメモをした。何だろう?

 

「さて、夢野さん。本日ですが相談したい事があるとの事ですが、どういった内容でしょうか?」

「はい。私の現状ですが、先程の話の通り、ショタおじの『厳しい方の修行』を2週間終わらせました。その後は座学を一通り受け、技術部の指定依頼をこなす事で生活していました。この後、このガイア連合の神社内だけで生活を続けるのは良くないので、今後についての助言をお願いしたく」

「ああ、事務局としてはそういった相談は助かります。何も聞かず突っ走り、トラブルを起こす人がよくいますので。さて、それでは夢野さんは今後、どう動きたいとお考えですか?」

「はい。この女神転生世界、ニートやると終末が来ると詰みます。かと言って現状で神社外に出るとマイナススキル等で酷い目に遭います。よって神社が抱える初心者用異界で実戦を経験して自分を鍛える事を考えています」

 

 それを聞いたちひろさんが感心したような表情をした。

 

「半ニートやってる駄目転生者が出始めている中、立派な心がけです。夢野さんはすぐに異界に入るおつもりですか?」

「いえいえちひろさん。同期…と言っても30歳は年下な人間が異界に突入して、3分でスライムに殺されて回収されたのを見ました。だから準備が必要だと思います。今日はその準備について伺いたく」

「慎重ですね。良い事です」

 

 ちひろさんがまた書類にメモをした。

 

「ありがとうございます。その準備は2つあります。1つ目は戦闘訓練。2つ目はショタおじから伺った低利息貸付についてです」

 

 ちひろさんの眼が少し鋭くなった。

 

「ちひろさん。戦闘訓練を初心者用異界で行っていると聞きました。教官が随伴して、実際の動きを見て助言すると」

 

「夢野さん。制度としての戦闘訓練教習はありません。その代わりに教官を紹介する事はできるので、それでよろしいでしょうか?」

「ありがとうございます。教官の紹介をお願いします」

 

 そのセリフを聞いたちひろさんが、『こんな事もあろうかと』というセリフが聞こえてきそうな勢いで、書類から1枚の書類を取り出した。

 

「それでは夢野さん。こちらの書類に記入しての提出をお願いします。提出後に教官を紹介しますのでお早めにお願いしますね」

「わかりました」

 

 そう言ってちひろさんから書類を受け取った。

 

「それではちひろさん。2つ目の低利息貸付なんですが…」

「真面目でやる気があって、ショタおじの占術によるOKが出た人に、低利かつ単利で資金を貸し出しています。夢野さんにはショタおじから許可が出ていて、ほぼ無利息返済期限2倍になっています」

 

 許可がもう出ているのはありがたい。

 

「ちひろさん。その貸付なんですが、奨学金のようなものという認識で良いのでしょうか?」

「その認識で合っています。ただし、こちらから強制依頼を出す場合がある事と、まとまった金額の使用には確認が入りますがご了承下さい」

 

 世の奨学金とはちょっと異なるが、問題無い。

 

「ちひろさん。このご時世にほぼ無利息で借りる事ができるのですから、そこら辺は覚悟しています」

「そういった所を認識している夢野さんはありがたい存在です。人によっては、お金を貸してくれるという所だけ聞いて押しかけてきて、『無利息にしろ』『強制依頼は人権無視』『ガチャに突っ込んで何が悪い』などと話されやがりましてこっちの手ぇ煩わせる連中が……」

 

 そう言う笑顔のちひろさんの背後に黒いオーラがふつふつと湧き出した。

 

「ちひろさんちひろさん、黒いの漏れてます」

「あらあらオホホ……と、こちらの書類に入力して提出して下さいね」

 

 ちひろさんはまた書類をこちらに渡した。

 

「わかりました。すぐ書きます」

 

 そう言って戦闘訓練と貸付の書類を書いてちひろさんに提出した。

 

「はい。夢野さん。書類に不備は無いので受理しますが…貸付金額が限度一杯ですがいいのですか?」

 

 ちひろさんが心配そうに聞いてきた。

 

「返せるなら借金は力ですし、『前より大きく張れ』は投資の基本ですから」

「夢野さんは覚悟完了されているようですね。ところで夢野さん、この後の資金の使い道は?」

「まず装備レンタルで装備を借りて、戦闘訓練で不具合確認して、それから装備を購入する流れです。ガチャは、厳密に回数を決めて、お楽しみ程度に回します」

「ならば問題ありませんね」

 

 またちひろさんが書類にメモをした。

 その後に近くを通った他の事務員に、私が書いた書類を手渡した。

 

「ところで、夢野さんはパーティーを組むおつもりは?」

「それなんですがちひろさん。私のスキル『私だけ取得経験値70%減少』の効果でレベル差が出るんですよ。だから長期パーティーはちょっと……短期間なら大丈夫そうですが。

 だから私のパーティーはソロかシキガミ複数体を想定しています。」

「あー成長スピードの差ですか。それは困りますね……成長でスキル制御ってできないんですか?」

「ショタおじが、自動強制広域挑発なら、レベル10あたりから制御でき始めると言っていました。だから『私だけ取得経験値70%減少』は変わらないようです…」

 

 ちひろさんが天を仰いだ。

 

「ちひろさん。他にも技術部スキル確認で確認が取れた、『自動広域挑発』なんですが、これ広範囲にいる悪魔を大量に引き寄せるんです。しかも交渉不能状態で。だから悪魔の波に呑まれて死にかねないので、私と組むのが嫌がられます」

 

 それを聞いたちひろさんは、私のマイナススキルの状況に頭を抱えた。が、すぐに復帰した。

 

「夢野さん……スキルならしょうがないですが、感知系のみを載せたシキガミが1万円ぐらいからあるので、異界に行く時は最低でもそれぐらいは連れて行って下さいね。悪魔の奇襲を防げるなど、お値段の割には役立ちますから」

「ちひろさん、ありがとうございます。そうします」

 

 そう話しているうちに他の事務員さん経由でちひろさんから封筒を渡された。

 

「ちひろさん。これは?」

「中に夢野さんと紐づけされた黒いカードが入っています。ガイア連合内での身分証や各種カードになりますので、取り扱いは慎重にお願いしますね」

「ありがとうございます」

 

 そう言って渡された封筒内にある『黒いカード』の名義人が自分である事を確認し、自分の鞄に仕舞った。

 

「さて、夢野さんとの面談はこれぐらいで終了ですが、今日のご予定は?」

 

 書類をまとめながらちひろさんが聞いてきた。

 

「一旦休憩スペースで休みがてら自分のアセンブルとシキガミの簡易仕様書を再確認。その後にまずレンタル装備を見繕います。その後は運動スペースで装備の具合を試します」

「レンタルで装備を借りたらすぐ異界突入しようとする初心者が多くて困るんですが、夢野さんはそういった事をしないので安心です。何しろ無謀な突撃やって死んで回収されて復活したアホに説教したり事務処理と、忙しいのにアホに手前ァかけさせられて…」

 

 また笑顔のちひろさんの背後に黒いオーラが…

 

「ちひろさんちひろさん。また黒いの漏れてる」

「あらあらウフフ…」

 

 事務局も激務っぽいからストレスが溜まっていそうだ……

 

「それでちひろさん。レンタル装備の確認が終わったら、技術部にアポ取ってあるので、こっちが持ち込むシキガミの仕様が実現可能か専門家に見てもらう予定です」

「夢野さんは堅実だから安心できますね」

「『合戦そのものは、それまで積んだ事の帰結よ。合戦に至るまで何をするかが、俺は戦だと思っとる。猿(ひでよし)以外、本質は誰も理解せんかったがな』とノブノブも言ってますから、*1マイナスが大きい私は堅実に積上げていかないと不安なので」

 

 それを聞いてちひろさんがウンウンと頷いた。

 

「良い事です」

「それではそろそろ行ってきます。ありがとうございました。ちひろさん」

「それでは夢野さん。2、3日中に戦闘訓練のマッチングが終わって連絡が行くので、それまでお待ち下さい。困った事がありましたら事務局にすぐ相談して下さいね」

「わかりました。その時はよろしくお願いします」

 

 そして面談を終わらせ、事務局を後にした。

*1
平野康太「ドリフターズ」

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