【カオ転三次】おっさん転生者がなんとか生き抜く話   作:Vp6121

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第6話:技術部打合せ

夕方

技術部

 

 技術部は建物がカオス寄りである。

 

 中小鉄工所のようなモロに『昭和!』な雰囲気がある建物があれば、入口にエアシャワーがあり、精密機械製造が予想される建物もある。

 また、振動が出そうな機械がある建物と、振動を嫌いそうな機械がある建物が隣り合っている。普通はトラブルになると思うが、何かオカルト技術でどうにかしているらしい。

 そんな技術部の中を歩き、各種相談窓口がある建物に入った。

 

 各種相談窓口で呼び出し鈴を鳴らすと、アポを取っていて、私のスキル検証依頼で同行してから仲良くなった本田さんが出てきた。   

 容姿はちょいハゲだが愛嬌のある、青い少しくたびれた作業服を着た小太りなおっちゃんだ。なお、普通の技術屋である。念の為。

 

「誰かと思えば夢野さんか。ああ、もう面談の時間か」

「お疲れ様です。本田さん。実はシキガミ導入についてなんですが、ちょっと技術的に可能か相談したくて来ました」

「技術的ね…それじゃあ1番のスペースで話を聞こうか」

 

 そう言って相談窓口から談話スペースに移動し、本田さんが途中で冷蔵庫から持ってきたペットボトル入りのお茶をテーブルに置き、テーブルを挟んでお互い向かい合って椅子に座った。

 

「さて、夢野さん。詳しく聞かせてもらおうか」

「はい。結論から言うと、転生者全員に配布されている中級シキガミ権利で中級シキガミを1体製造しません。中級シキガミ1体分製造権利を製造料と解釈し、その製造料で一反木綿型下級シキガミを3体、しかも製造に私の肉体を通常よりも多く使ったカスタマイズ版を製造できるかというものです」

 

 本田さんがちょっと意外そうな顔をした。

 

「普通は中級シキガミあたりを依頼する場合、嫁か婿や相棒にする為、前世サブカル再現等のカスタマイズを依頼するのが多い。

 だが夢野さん。あなたの場合はそれとは逆だ。それに下級シキガミなら吊るしのヤツでもいいはず。事情を教えてくれ」

「はい。本田さんもご存じの通り、私はスキル『経験値70%OFF』のせいで長期の人間パーティーに入るのが難しい。

 そしてそのままあと発生まで10年切ってる『終末』が来たら、私は低レベルボッチでそれに対抗しなければならない。

 ガイア連合が助けてくれるとは思いますが、最悪でガイア連合が機能不全であった場合、私は悪魔のオヤツになり、魂もずっとオモチャにされます。

 それを防ぐには、パーティーを組んで経験値を他人の3倍は稼がねばならない。だが人間ではパーティーが組めない。だから代わりにシキガミでパーティーを編成したいのです。

 それに、スキル『自動広域挑発』で押し寄せる悪魔の波と戦わなければならないので、量とある程度の質を兼ねたいし、早く調達したいんです」

 

 納得したのか、本田さんは頷いた。

 

「こっちはスキル検証依頼で夢野さんの事情を知っているのでそこら辺は分かる…

 下級シキガミは安く早く量を調達できるが、質が心許ない。

 中級以上のシキガミは質は申し分ないが、高価で調達が遅い。

 どちらも一長一短だ。それをどうにかする為の手か」

「はい。ですので本田さん、こちらの簡易ですが仕様書の確認をお願いします」

 

 そう言うと紙ペラ1枚程度に収めた簡易仕様書を本田さんに渡した。

 

「今回はあくまでも『可能かどうか』の確認です。この後に条件のすり合わせを考えています」

 

 本田さんは真面目な表情で簡易仕様書を読み終わると顔を上げた。

 

「夢野さん。コレはおそらく可能だ。技術的に難しく無い。

 今の所、中級以上シキガミ製造のボトルネックは『都合の良い要素』を持つ霊的存在を呼ぶ降霊術が難しく、それができる人間が少ない。だが俺たち製下級シキガミに使う程度の降霊術なら難易度が相当下がるので、できるヤツはそれなりにいる。それと…」

 

 本田さんは紙に比較するように2つに分かれた金額群を書いた。

 

「仕様書にあった『中級シキガミ1体無料製造権利を製造料と解釈し、その製造料で下級シキガミカスタマイズ版を3体製造する』というのは金額的にも可能だ。

 高級シキガミはもちろん中級シキガミも製造するのにコストがかかるようになってきている。これは『俺たち』が細かいにも程があるカスタマイズ要望を出す傾向があるのがコスト上昇原因だ。まったくどんだけ工数が増えるか考えてほしいが」

 

 本田さんが『めんどくせー』な表情をしながらボヤいた。

 噂ではかなり大変と聞いていたが、本当に大変なようだな。主にユーザーの癖が強すぎて。

 

「そんな中、外見・中身は一反木綿型の下級シキガミで良く、使用する原材料が転生者なだけ。これはかなり製造コストが低く、製造経験が豊富で手間がかからないので早くできる。これはありがたい」

 

 本田さんはニコニコしながら言い切った。

 

「ところで今さらなんですが本田さん。中級シキガミ1体分製造を下級シキガミ3体分製造に変えるって制度上大丈夫なんですか?」

「ウチが公的機関みたいな所なら、予算の流用になるのでNGだ。

 だがウチって一応民間だし、制度上禁止されていない。その代わり自分で面倒や責任を取る必要があるが。まぁ、事務も通ると思うぞ。一応事務局のちひろさんに夢野さんから話を通しておいてくれ」

「わかりました」

 

 ここで本田さんの目つきが変わった。

 

「このカスタマイズ版下級シキガミ製造。こいつは、こっち-技術部-にも利益がある」

「え?本田さん。もしかしてコレって技術的に珍しいのですか?」

「かなり珍しい方に入るぞ。何しろ最近は中級シキガミの製造及びカスタマイズばかりでな。下級シキガミは下級シキガミで、吊るしのスタンダードな下級シキガミが多い。まぁ偶に農業用特化とかの特殊品はあるがな。だがそんな中にコレだ…」

 

 そう言うと本田さんは簡易仕様書のペラ紙を持ち、軽く立てた。

 

「さっき言ったように、下級シキガミの用途別機能特化モデルはあるが、下級シキガミを極める方向に行く案件は無いから面白い。外見は量産品、だが中身はラスボス蹂躙可能ってのは浪漫がある。そういった浪漫はいいものだ。だがそれ以上に技術屋の魂を刺激するものがある」

 

 そう言い放った本田さんの眼の色が変わったように感じられた。どちらかと言うとマッドな方に。

 

「生産技術的な話になるが、簡素なものをベースとして、それに機能を追加していく方が効率が良いし、部品共通化によるコストダウンや生産プロセスの単純化効率化ができ、シンプルだからバグ出しが楽だし、品質管理の安定性も良くなる。それに対し最高級品から機能を削る方は、不要な機能まで生産に組み込む事になるし、その分を削る手間やコストがかかるし、余計な機能がある分バグ出しが大変でコストが…うっ…頭が…」

 

 何か本田さんの前世トラウマを刺激したらしいがすぐ復帰した。

 

「さて、シキガミ製造において、ショタおじの設計…と言うより術式は、前世でちょっと触らせてもらった真賀田研究所の『UNIX Red Magic』*1以上のガチガチに硬くて解析できないセキュリティ部分を除き、とても軽くシンプルだ。多分、前世でショタおじにプログラミングやらせたら世界トップを取れるぞ。何せ軽くてシンプルなので高級シキガミに使う細かく重い術式すら動くし、同じ基本術式で簡易型から高級型までシキガミが動く。何と言うか…超軽量で機体を選ばず走って拡張性が高いOS…篠原のHOSウィルス抜きVer.っぽいな。そのOS上に人格プログラム代わりに召喚したスライムを入れて動かして、各種技能はハードウェアとしてのシキガミの上限まで積む、か」

 

 そう言って、本田さんはペットボトル茶を飲んだ。

 

「ああ、夢野さんすまんな。技術的なものになるとどうも止まらん」

「いいえ。なかなか細かい技術面の話って聞く機会が無いので面白いですよ」

「そう言ってもらえると助かる」

 

 そう言って本田さんは続ける。

 

「でだ、それらを踏まえてなんだが、今のところ下級シキガミは吊るしのヤツのように、一定の性能や機能を満たしたものを製造するものが圧倒的多数だ。それはそれで正しい。コストに見合った製品をユーザが求めているからな」

 

 前世でよく見た、必要以上に機能詰め込みすぎて高価になって誰も買わなくなり、単機能で安い他社製品に負けるパターンが近いか。

 

「だが下級シキガミの伸び代を100%使い切る、下級シキガミを極めたようなモノは見た事が無い。その極めた下級シキガミはそうだな…ディーラーで普通に売ってるスポーツカーをカリカリにチューンして『悪魔のZ』*2以上のモノに仕立て上げて、F1マシンに勝てるようなものにする、チューン屋のユメのユメのまたユメを実現とか…篠原のイングラムを改造して、シャフトの試作一品物なグリフォンと双方あの時と同パイロット乗せて再びケンカさせてイングラムが無傷でグリフォンを完封したり…そういったものをやってみたい。そしてそれは現在未踏だ」

 

 本田さんがニヤリと笑った。

 

「夢野さん。こいつは俺にやらせてもらおう。技術的に未踏部分な所を自分の手で開拓できるのは技術屋冥利に尽きる。それに下級シキガミを極めるにあたって磨いた技術は宝になり、あのショタおじに少しは近づける。その技術を高級シキガミで使えばもっと性能が上がる!

 まぁ技術部幹部のアルニキたちが『その考えは(余裕が無いので)無かった!』と言いそうで面白そうというのもあるが」

「本田さん前半カッコいいけど後半で台無しで草」

 

 本田さんはそれを聞いてガッハッハと笑った。

 

「そーゆーのでいいんだよ。そういった悔しさ的なものが、次へのGASと言うかニトロになるんだ」

「そんなもんですか」

「そんなんでいいのさ。さて夢野さん。簡易仕様書何て言わず、面倒だからここで仕様書とか立ち上げプロセスをキッチリ決めよう。なぁに時間はあるし、品質向上には必須だからな!」

 

 そう言うと本田さんは私と強制打ち合わせに入った。

 

 なお、各種決定が終わったのは日を跨いだあたりであった。

 

*1
森博嗣「すべてがFになる」

*2
楠みちはる「湾岸ミッドナイト」

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