文学少女の先輩と放課後の部室でお喋りするだけ   作:天都ダム∈(・ω・)∋

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そして過去編へ


第二章 文学少女の先輩と邂逅
四月・僕の部活探し 1


「自分の人生の主人公はいつだって自分だ」

 

 そんな格言めいた言葉が書いてあったのは何の本だったか。

 

 それはある意味で正しくて、ある意味では間違っているのだと思う――少なくとも、史上最年少、十四歳でプロ入りして、二九連勝という記録を樹立し、八冠を独占するような人間と、同い年でプロ入り前の登竜門をくぐる機会すら貰えずに弾き出された人間を、同列に語るのはいくらなんだって無理がある。

 

 たとえ望んだ道を歩めなくても人生は続くのだから、主観的には主人公であり続けるしかない、という理屈は分かるのだけど……結局の所、誰かが主人公である時、誰かは脇役なのだ。

 

 だから僕は自分のことを脇役だと思っているし、それで特に不自由していない。強がりでもなく、負け惜しみでもなく、本心で、心の底から。

 

 だから、幼馴染の二瑞夜々美(にずいよよみ)に一言、

 

「将棋、今日で辞めるよ」

 

 と言った時は、信じられないような顔をされた。

 

 怒られ、罵られ、なんなら数発叩かれて、お互いの両親が出てくる騒ぎになり、それでも火は止まらず、更には進学先を同じにしてしまったことで、

 

 

「将棋部に入りなさい、かっくん」

 

 

 と、入学二日目から言ってくるようになった……夜々美はなんとしても、僕を将棋に復帰させたいらしい。

 

 私立風光学園は、半共学という特殊な形態をとっている。

 

 男子と女子の校舎が別々に存在し、授業のカリキュラムも当然別。校門だって敷地の正反対の位置にあるから、普通に生活していれば異性と校舎の中で遭遇することはまずありえないのだが……クラブ活動に使う部室や図書室といった設備は、男女ともに使えるよう、お互いの校舎の間に位置する共通棟、と呼ばれる建物の中にある。

 

 この学園は図書室の蔵書が下手な市民図書館よりも豊富で(進学先に選んだ理由の一つだ)、入学したら往年の名作を心ゆくまでむさぼる予定が、夜々美の待ち伏せを受けるようになってしまった。

 

 これは大変厄介だった。借りるだけ借りて別のところで読む手もあったが、その手続きはどうしても図書室に直接出向いてしなければならない以上、遭遇のリスクがある。

 

 夜々美本人とは子供の頃からの付き合いだし、人間としては好ましいと思っているが、やりたくないことを強制されて良いとまでは思わない――何かいいアイディアはないかと頭を捻りながら入学ガイダンスをめくっていたところ、部活動一覧、という項目が目にとまった。

 

「そうだ、僕も部活動に入ればいいんだ」

 

 掛け持ちを禁止するルールはないが、軸足を置いてるクラブがあれば、少なくとも言い訳は立つ。

 

 できればそのまま読書を継続できる部活があるとありがたい……ということで、まず足を運んだのが第一文学部だった。

 

 しかし残念な事に、第一文芸部は読むのと同じぐらい〝書く〟ことを主軸にしたクラブだった。

 月に一度部誌を発行し、部員は全員原稿の提出のノルマがあって、年に三回は同人誌即売会に出張版を頒布しに行くというのだから驚きだ。

 

 趣味が合いそうな部員は居たけど、僕はもう小説を書くのを辞めてしまった(、、、、、、、、、、、、、、)し、残念ながら諦める事になった。

 

 続いて門を叩いたのは第二文芸部で……こっちは、もう、なんか、うん、完全に反りが合わなかった。

 

 読み専メインではあったのだけど、彼らにとっての『本』とは、いわゆるハードカバーの純文学のことであり、僕の愛するライトノベルなんかは「あんなもの小説じゃない」という価値観の生徒たちで構成されていた。

 

 人の好みにケチをつけるつもりはないが、僕とは方針が真逆で、仲良くできそうもない。文芸部が二つに分かれた理由がよく分かった。

 

「困ったな……」

 

 早々に詰んでしまった。

 理想をいうなら本を読んでいても何も言われない……いや、本を読むことこそが部活動であってくれることが望ましい。

 

 いっそ自分で作るか、読書部みたいなものを……と思ったが、校則によると部活動を始めるには部員が最低五人以上と顧問の教師を見つけてこなければならず、部室が与えられるかどうかは別途生徒会との交渉の必要があるとのことで、夜々美から逃げられる安全地帯が欲しい、という僕の目的からすると、あまり意味が無い。

 

 ……ここで交渉相手が生徒会なのが面白い学園だな、と思う。

 

「……………………うわっと、あぶね」

 

 考え事をしながら歩いていたら、危うく壁にぶつかりそうになった。廊下の角に行き当たってしまった。

 

 ううん、集中すると周りが見えなくなるのは良くない癖だな。自覚はあるんだけど。

 

三階の長い廊下を歩いて、突き当たって右に曲がった角の袋小路。

 階段も水道もかなり遠いから、この角に追いやられた部室の人は可哀想だな……と、何気なく教室の室名プレートを見てみる。

 

 通常クラスなら【1-A】、部室なら【手芸部】などと書かれているはずのそこには何も書いていなかった。物置か何かなんだろうか。

 そのまま視線を下げて、横開きの扉の取っ手の所に――小さなテープが貼ってあった。

 

 

 

【第三文芸部】。

 

 

 

「…………?」

 

 第三文芸部、いや、第一と第二があるんだから、第三があってもいいんだろうけど、ガイダンスには記載されていなかったはずだ。あったら見落としてない。

 

 新設の部活で、プレートが無いんだろうか。

 こんこん、と軽くノックしてみたが、反応はない。

 扉に軽く指をかけると、鍵がかかって居らず、するりと動いた。

 うーん、どうしよう、見学ぐらいならさせてもらってもいいかな。

 

「失礼しまーす……」

 

 ゆっくり扉を開けて、中に入る。予想通り誰も居ない……が。

 

「おお……」

 

 と、思わず声を上げてしまうぐらい、その部室は凄かった。

 

 通常教室の半分くらいのスペースの、ともすれば狭い、とも言えそうな室内。

 中央に鎮座するのは重厚な一枚板のテーブル、立派な拵えの椅子が二脚。

 半分開いたノートパソコンと、飲みかけの緑茶が入った湯飲みは、誰かがいた痕跡に相違ない。

 

 それとは別に、ゆっくり座ってくつろげそうな二人がけのソファ。

 

 水道の横には電気ケトルと小さな冷蔵庫、紅茶や緑茶のパックといくつかの食器。

 しかし僕の目を引いたのは、壁と一体化するように作られた本棚だった。

 

 文庫本、新書、ハードカバー。それぞれの種類の本が、見た限り出版社と作家順にまとめられている……軽く見ても、二〇〇冊以上は確実にある。

 

 第一文芸部にも第二文芸部にも本棚はあったし、蔵書量で言えば向こうの方が多いぐらいまであるのだけど……ここにある本は、ほとんどがここ一年以内に発売したものだ。

 

 ……あ、南國らぷそでぃー先生の新作がある!

 

 単価高くて費用を捻出できず、図書館で予約したら発売前から三十人待ちだった奴!

こっちは……二〇〇〇年代に流行したファンタジーライトノベルの新版だ!

 一七巻のロングタイトルで、巻数が多いからやっぱり手が伸びにくかった奴!

 他にもあれやこれや、僕の好みにザクザク突き刺さるラインナップの数々、あっという間に心惹かれ、そして思った。

 

 …………この蔵書を集めた人間は、僕の同類だ。

 

 本棚を見られることは裸を見られることより恥ずかしいと言う格言(?)がある。実際僕もその通りだと感じる方だが……この本棚を持ち主になら見せたって構わないと思った。

 

 仲良くしたい、多分、仲良くできるはずだ。

 

 それが先輩や同級生だっていうなら、心ゆくまで語り合い、下校時刻が来るまで読みむさぼりたい。

 

 鍵が開いてたってことは、多分トイレかなにかで中座してるんだろう。

であれば、人が来るまで待っているべきか。

 

 ちら、と今一度本棚を見る。

 読みたかった本、予算の問題で買えなかった本の続きがそこにある。

 

 …………少しぐらいはいいよね。

 

 僕はその中の一冊を手に取って、ノートパソコンが置いてある椅子の対面に座った。

 ほんのちょっと、部員の人が帰ってくるまでだから。

 

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