文学少女の先輩と放課後の部室でお喋りするだけ   作:天都ダム∈(・ω・)∋

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十月 花冠ゆらとさよなら

「本日は、かっくんにプレゼントがあります」

「へ?」

 

 日が落ちるのもそれなりに早くなり、最終下校時刻の十八時近くになると、もうすっかり暗くなって、寒さを感じるようになった。

 

 幸いというかなんと言うべきか、ヨム先輩の帰宅ルートは人通りが多く明るい道を通るのだけど、あれだけ小さくか弱い生命体を、暗い道に一人で送り出すことに若干の抵抗を感じてしまう……そんな時期。

 

 部活動の終わり際、ヨム先輩は唐突に、僕にそう言った。

 

「ヨム先輩が、僕に、ですか?」

「はい。…………何でそんな意外そうなんですか」

「いえ、プレゼントを貰う理由が見当たらないので……」

「仕方ないじゃないですか、かっくんの誕生日、四月の頭なんでしょう? 中々タイミングが無くて。クリスマスもバレンタインもまだ先ですし」

「…………」

 

 それはつまり、クリスマスやバレンタインには何か貰える、ということなんだろうか。

 

 …………いやいや、今はそうじゃなくて。

 

「でも、なんでこんな時期に」

「先日届いたので。はい、どうぞ」

 

 先輩が鞄から取り出したのは、一冊の本だった。

 単行本サイズ、三〇〇ページぐらいだろうか? 少し分厚めの単行本。

 夕暮れの空き教室を描いた写実的なデザインの表紙。

 それらと調和するように、タイトルと著者名が記載されていた。

 

 

 ――――【かくて想いはミモザのように】、花冠ゆら。

 

 

 

「………………せ、先輩、これ」

「献本が届いたんです。ご存じの通り、発売は来月の頭ですけど」

 

 ヨム先輩は照れくさそうに頬をかいて、言った。

 

「関係者の方以外では、かっくんが最初の読者ですね」

「い、いいんですか? ちゃんと買うつもりだったんですけど……」

「もちろんです、かっくんのおかげで書けたんですから」

「…………取材ってちゃんと意味あったんですね……」

「あ、当たり前じゃないですかっ!」

 

 本を受け取る。正直、手が震えている。

 僕の人生を変えた作家の最新作が、突如この手の中に現れた。

 

「…………でも、先輩、どうせなら部活が始まった時に渡してくれれば」

「さ、流石に目の前で読まれたら恥ずかしいじゃないですか!」

「それは……………………そうかも」

 

 なまじ執筆経験があるだけに、理解出来てしまう感覚だった。

 ああ、でも、どおりでヨム先輩、今日一日、そわそわしていたはずだ。

 

「じゃあ……ありがたく、受け取ります。読ませて貰いますね」

「感想、聞かせてくださいね。それじゃあかっくん、また明日」

「はい、お疲れ様でした」

 

 柔らかく微笑んだヨム先輩と、校舎の中で別れる。

 男女校舎が分かれているこの学園では、下校時は一度お互いの校舎に戻って、そこから帰宅するというルールがあるからだ。

 

 ヨム先輩の姿が見えなくなって、僕は階段を駆け下りた。

 

「いやっほう!」

 

 素早く靴を履き替えて、自転車に飛び乗って、気をつけながらも急いでペダルを漕いで回す。

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまぁあああああああああああああああああ!」

 

「きゃあ! どうしたの兄さん!」

「きゃあ! 何ですかおにぃ!」

 

 妹たちに怒られたけど気にしない。夕飯をかっこみ、爆速で風呂に入り、全ての準備を整えて自室に戻って、僕は本を開いた。

 

 そして―――翌日。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕は少し早めに第三文芸部の部室に向かい。

 テーブルに退部届と合鍵をおいて、そのまま部室を後にした。

 

 




今日の一口ヨム先輩


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