文学少女の先輩と放課後の部室でお喋りするだけ   作:天都ダム∈(・ω・)∋

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七月・ヨム先輩とお買い物

 第三文芸部は月に二度ほど『買い出し』のために外出する。

 主に一〇日と月末、つまり主要なラノベレーベルの新刊発売日合わせである。

 

 期末テストが終わった後の開放感もあり、気分は浮かれ調子というものだ。

 

 駅前書店『山月堂』は書店が減少していくこのご時世にあって、ビルの一階から三階までがまるまる売り場となっていて、入荷する本もジャンルを問わない事で知られている。

 

 蔵書量の多さはすなわち正義である。マイナーなラノベレーベルの新刊だって必ず三冊は仕入れてくれるので、僕としては本当に本当にありがたい。カードも使えずバイトも認められず、小遣い制の学生の身分だと、通販サイトの使いづらさったらないのだ。

 

 僕は自転車を乗らずに転がし、歩幅の小さいヨム先輩は、少し後ろをついてくる形だ。

 

「そういえば、最近やっと駅前商店街の工事が終わりましたよね」

「そうなんですか?」

「そうなんですよ。なんで知らないんですか」

「商店街って駅の裏じゃないですか、最近あんまり行ってなくて……」

 

 昔はよく通ってたんだけどな。

 山月堂は素晴らしい書店だが、私立風光学園からは若干距離があるのが難点だ。

 僕は家からの近さで進学先を決めたので良いのだけど、毎朝駅についてから二〇分かけて登校する同級生たちに尊敬の念を禁じ得えない。

 

「美味しいかき氷のお店が出来たらしくて、一度行きたいんですよね。かっくん、次の土日のご予定は?」

「読書と読書、それに読書の予定です」

「じゃあ暇ですね、空けておいてくださいね」

「先輩はあれですか、人の可処分時間に暇というレッテルを貼るタイプですか?」

 

 話が通じていない……読書という用事があるんだぞ!?

 

「かっくん、普段から放課後の大半を読書で潰してるじゃないですか」

「一日没頭する時間だって必要ですよ、僕にとっては最重要事項です」

 

 放課後は放課後で読書時間ではあるんだけど、半分ぐらいは楽しい会話で潰れちゃうしな……。

 

「わかりました、では言い方を変えますね」

 

 ヨム先輩はにこっと笑顔で言い放った。

 

「取材に行くので、ついてきてください」

「……………………はい」

 

 それを持ち出されると、僕は何も言えなくなってしまう。何せ第三文芸部に籍を置かせてもらう条件の一つに、ヨム先輩の執筆活動に可能な限り協力する、という約束事があるからだ。

 

「もう、大丈夫ですよ。費用はちゃんと先輩が出してあげますから。経費ですし」

「あ、ホントですか? やったあ! 一番高い奴食べちゃお!」

「かっくんのそういうところ、私、嫌いじゃないですよ」

 

 ヨム先輩に苦笑されてしまったが、こちとら小遣い制の学生であり、先輩はそれなりの収入があるプロ作家なので、資金力が違う。この辺は遠慮しても仕方ない。

 

 実際問題、月々どの本を買うかで頭を捻っている僕にとって、休日に外食なんてのはかなりの負担なわけで……そうこうしている内に、山月堂についた。新刊の発売日はやはり人もそれなりに多く、店内は賑やかだった。

 

「では、一旦解散とします。一時間後に集合で」

「了解です」

 

 僕とヨム先輩の守備範囲は重なる所もあれば違う所もある、という感じなので、入口前で別れて各々欲しい本を見に行く。

 

 三階フロアが、いわゆるサブカル系のエリアだ。漫画、ラノベ、公式グッズに同人誌など一日潰せるラインナップが揃っている。

 

 雷撃文庫、喜多見ファンタジア、ブーツ文庫といったメジャーどころは一通り抑え……うーん、これは、受賞作品でもなければ実績もまだない、生え抜き新人の一冊目か……。

 

 この買い出しは第三文芸部の部活動の一環であるため、僕が籠に入れた本は全て部費で賄われ、一度部室の本棚を経由した後、最終的には学園の図書室に置かれる事になる。

 

 ヨム先輩の〝特権〟によってある程度判定はガバガバだけれど、それでも一冊ごとに購入した理由を求められ、『僕が面白そうだと思ったから』では苦言を呈される事もある。

 

 となると……これは僕が個人的に買うほかあるまい。あらすじを見た感じは面白そうだ。現代の怪異をファンタジー世界に送り込み、剣と魔物で対処できない化け物に魔王を倒してもらおうとする、という感じの話らしい。

 

紗堕子(しゃだこ)vs異世界魔王…………」

 

 会計はフロア別なので、預かった部費で支払い、領収書を切ってもらい、実費で買う分の本を別途購入してから下の階へ。メディア化した作品や売れ筋のベストセラーが置いてあるフロアだ。

 

 ハードカバー系の単価が高いものも、購入対象だ。不思議な間取りから謎を解き明かしていく『奇妙な間取り』シリーズも、確か映画に合わせた新作が出てたはず……でもそっちはヨム先輩がチェックしてるかな。

 

 書店というのは少し目を離すと中身が入れ替わっているもので、一度歩いた道も次訪れたときは違う景色が見えてくる。だから毎回道を練り歩くようにしているのだが。

 

「あれ、ヨム先輩だ」

 

 通路の奥、女性向けの恋愛モノが並んでいる棚の前で、平積みにされていた本を開き、じっと凝視しているヨム先輩が居た。

 

 なるべく気取られないように、身を隠しながらゆっくりと近づいていく。

 一列隣の棚まで来ると、表紙のデザインもなんとなくわかった。美形の騎士がお姫様を抱きかかえ……いや首輪つけてるなこれ。

 

 あれだ、これ、ちょっとエッチな奴だね。冒頭のカラー口絵を眺め、ぺらぺらと中身を見て、挿絵のところでぴたっと止まり、うーん、うーん、と悩んでから……そっと、カゴの中に入れた。どうやらお眼鏡にかなったらしい……。

 

 続けて隣の本を手に取り、開く。スーツ姿の大人の男性に若い女性が顎を掴まれていて…………なるほど、オフィスラブ系か。スパダリ上司と新入社員の恋。ヨム先輩が内容を吟味する様は真剣そのものなのだが、耳が真っ赤なので動機は不純っぽいな。あまり人がいないエリアだから良いものを……。

 

 僕はとりあえずその横顔をスマホの遠望カメラで撮影し、自分が欲しい本を探すにその場をあとにした。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 閏年(うるうどし)おりがみ先生の新作、『地雷元』の発売日を見落としていたのは一生の不覚だった。

 

 心の中の『地雷(トラウマ)』を踏まれると爆発して死んでしまう、摩訶不思議なデスゲームに巻き込まれた民衆を描くパニックホラーとでも言うべきか。

 

 タイトル通り『地雷元(、、)』を見つけ出して爆発させないと終わらないのだが、このターゲットが有史以来のサイコパスで…………というあらすじを見た瞬間、即決だった。

 

 ……今日はこんなものかな? 一応、他にめぼしいものはないかと見渡して……とあるコーナーが目についた。

 

『二〇万部突破のベストセラー』『書店員の一押し』

『第二回・新世代ドリームノベルコンテスト大賞受賞作』

『ドラマ化決定』『テレビで紹介されました』

『オリコン日間一位獲得・電子書籍週間ランキング一位』

 

 ポップで飾られた小さな特設コーナーの中央には、赤いハードカバーの本が平積みされている。高さがまちまちなのは、日々誰かが買って、少しずつ減っていってるからなんだろう。

 

 発売から一年以上経過しているし、部室の棚にも、なんなら自室の棚にもあるので、内容は知っているのだけど、なんとなく手にとって、軽くページを開く。

 

 

【初恋はダリアのように 花冠(はなかんむり)ゆら】

 

 

 いじめを苦に自殺を試みた女子中学生が、通りすがりの男子学生に助けられて一目惚れし、それ以外のことが見えなくなって――――という、どっかで聞いたような、捻りのないあらすじなのだけど、主人公の少女が『なんでお前自殺なんて考えてたの?』『いじめを苦にするようなタマじゃないだろ』と誰もが突っ込むぐらいぶっ飛んでいて、高すぎる妄想力で大暴れして、紆余曲折あって恋が実ってからの――――怒涛の伏線回収による大どんでん返しが待っている、という感じの内容だ。

 

 ダリアの花言葉にちなんだサブタイトルがつけられており、最終章が『裏切り』な辺りで『ああ……』となってしまうのだが、それが何を(、、)裏切るのかを理解した瞬間『おお……!』となる二段構造が魅力的で――――。

 

 

「かっくん、かっくん」

 

 

 腕をぐい、と引っ張られて我にかえる。エコバックに会計を終えた本を詰め込んだヨム先輩が、顔を赤らめて、むくれた顔をしていた。

 

「その、そこでじーっと本を持って立っていられると、困るんですけどっ!」

「すいません、つい」

 

 本を平積みの山に戻して、その場を離れる。その少し後に制服を着た女子学生がやってきて、それぞれ本を手にとって行った。

 

「部室に戻ればいくらでも読めるじゃないですかっ!」

「いえ、あそこに置いてあるのが感慨深いなあと」

「かっくんは何目線なんですか?」

「ファン目線ですかね」

「ううー………………」

 

 流石のヨム先輩も、こう言われると言い返せないらしい。

 何せ……。

 

 

 

 

「で、新作の調子はどうですか。花冠ゆら先生」

「日々執筆してますよ! 眼の前で見てるじゃないですか、もうっ」

 

 

 

 人前で呼ばないでください、と言いたげにじろりと僕を睨みつけ、ぐいぐい早歩きするものだから、僕も小走りで追いかけて、停めておいた自転車の所まで辿り着く。

 本というのは紙で出来ていて、束になった紙は重く、持ち運びに苦労する。

 

 わざわざ乗りもしない自転車を転がしてきたのは、カゴにこいつをいれる為だ。

 荷重が前方にかかってしこたま重くなった自転車のハンドルを握って押し出すと、ヨム先輩の小さな歩幅と自然に並んでくる。

 

「かっくん、何か良さそうな本はありました?」

「呪いのビデオを異世界に送り込んでホラーハザード起こす感じの奴を買いました」

「お、面白そうじゃないですか」

「ヨム先輩は何を買ったんです?」

「【作家王国の創作法律】という技術本です。気になってた作家さんのだったのでつい」

「なんか思想強そうですね」

 

 いや、まぁ、作家なんて皆そんなもんか……?

 

「ところで先輩、結局どっちを買ったんですか?」

「? どっちって?」

「いや、だから」

 

 僕は一度自転車を道端に寄せて、しっかりスタンドを立ててからスマホを取り出し、隠し撮りした写真を見せた。

 

「中世ロマンスと現代オフィスラブのどっちを選んだのかな、と」

 

 それまで朗らかに笑っていたヨム先輩の笑顔が、みるみるうちに真っ赤になっていく。

 

「い、いいいい、いつのま、いつのまにっ!?」

「しっかり夢中になっていらしたので、つい……」

「消してください! 忘れてください! 肖像権の侵害です!」

「僕とヨム先輩の仲じゃないですか」

「次は法廷で会いましょうかっくん! 私の父は弁護士です!」

「子供の喧嘩に親を持ち出さないでくださいよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私立風光学園、第三文芸部。

 ここには僕とヨム先輩の、二人しかいない。

 

「ヨム先輩、オフィスラブは本棚のどこへ……」

「それは私物! ですっ!」

「ヨム先輩、中世ロマンスは本棚のどこへ……」

「それは一番上!」

「こっちは私物じゃねえのかよ」

 

 

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