文学少女の先輩と放課後の部室でお喋りするだけ   作:天都ダム∈(・ω・)∋

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七月・ヨム先輩とおでかけ 1

 相手がヨム先輩とはいえ、休日にプライベートで女子と出かける、というのは高校一年生男子である僕にとって大きな試練だといえる。

 

 同年代の女子との付き合いは生まれてこの方、夜々美(よよみ)ぐらいしかなく、アイツに気を遣ったことなど人生で一度たりともないので、実質的な経験値ゼロに等しい。

 

 ファッション……は買ってもらったものを着るしかないが、その他の禁じ手がわからない。

 

 その上、おもてなしをする、なんて口走ってしまったし……対面してしまえば待ったがきかないのが勝負の世界、事前研究は抜かりなく行わねばならない。

 

「なあ、ちょっと相談があるんだけど……」

 

 無謀な挑戦に打って出て、取り返しのつかない傷を負うより、多少ダメージを覚悟で安全策を取りたい。

 

 そう思った僕は、金曜日の夕飯後、どちらが先に風呂に入るかを決めるべく盤に駒を並べ始めていた双子の妹たちにそう呼びかけた。

 

「かしこまってどうしたの、兄さん」

「頼み事なんて珍しいですね、おにぃ」

 

 ツインテールとポニーテール。髪型で判別できるようになっているものの、不定期に入れ替わるので勝手にどちらがどちらだと思いこんでいると痛い目を見る。

 

「ははあん、もしかして女絡みなんじゃないの?」

「それ以外でわたしたちに〝頼み事〟なんてないですものね」

「夜々美ちゃんとなんかあったんじゃないの、兄さん」

「夜々美ちゃんと仲直りの方法なら一つですよ、おにぃ」

「頼むから口を挟む暇をくれ」

 

 この二人はとにかく、ほうっておくとぐんぐん会話を進めていくので厄介なのだ。

なまじ、半分あたってるといえばあたっているし……。

 

「まず、夜々美は関係ない。他の話」

「ええ、もう七月だよ?」

「もう、さっさと謝ったらどうですか」

 

 二人は僕と夜々美の決裂の内容を知っている……というか他ならぬ我が家のこのリビングで発生したイベントであり、その時から二人はずっと夜々美側に着いている。

 

「僕が謝る理由は何一つないだろ」

 

 ……のだが、今はその話はしたくない。

 

「誰がどう考えても兄さんが悪いよ」

「誰がどう考えてもおにぃが悪いです」

 

 しかし、早く本題に入りたいのに、妹たちは不満げに抗議の声をあげる。

 

「わかった、相談相手を間違えた」

 

 この状態の妹たちに『部活の先輩と二人で出かけてくる』なんて言おうものなら、また望まない方向に暴発しそうなので、早々に二人を見切った。仕方ない、ネットで調べて行き当たりばったりで行くか……。

 

「まぁまぁ、待ってよ兄さん」

「話だけでも聞きますよ、おにぃ」

 

 食い下がってくる妹たち。一旦返事をせずに居ると、二人で話を進め始める。

 

「もしかして告られちゃったとか?」

「ありえます、顔だけはいいですから」

「陰キャでオタクでノンデリなのにね」

「本当に笑えるぐらいデリカシーがないですよね」

「やっぱお前ら敵だ」

「大丈夫だって兄さん、告られ慣れしてるウチらがバッチリ断り方考えてあげるから」

「大丈夫ですよおにぃ、断り慣れしているわたし達が禍根を残さないようにしますから」

「なんで断る前提なんだよ」

 

 いや、告られてないけども、誰からも。

 二人は同時に顔を見合わせて、はて、と同時に首をかしげ、同時に再びこっちを見た。

 ……分かったよ、相談すればいいんだろ、相談すれば。

 

「………………明日ね、兄さんはね? 部活の先輩と出かけるんだけどね?」

「ちょっと待ってちょっと待って兄さん」

「話が変わってきましたよおにぃ」

 

 二人は顔を寄せ合って、ごにょごにょと小さな声で何かを相談し。

 

「はい、兄さん質問」

「なんでしょう、(あゆみ)ちゃん」

「女子でいいんだよね? その先輩は」

「そう、一つ上の先輩」

「はい、おにぃ質問」

「なんでしょう、(かおり)ちゃん」

「デートですか? ラブい意味で」

「そういうワケではないんだけど……」

 

 部活動の一環で、取材がてら駅前の商店街にかき氷を食べに行く事、その前に少しトラブルがあって機嫌を損ねてしまい、何かしらのおもてなしをしなければならなくなったことなどを、夜々美と接触したことは伏せて伝えた。

 

「なるほどなるほど、こりゃあ難題だね」

「慣れないことをいうもんじゃないですよ、おにぃ」

「それは本当にそうなんだけど、反省しているからこそ意見を求めているんだよ……あれかな、サプライズとか用意すべきなんだろうか」

「兄さん、女子って基本サプライズ苦手だよ」

「そうなの!?」

「予想の範疇で驚かせてくれるならいいんですけど、男子のサプライズって大体『絶対ありえない』のラインを平気で超えてきますからね」

「後輩を動員してフラッシュモブで告ってきた先輩いたじゃん」

「曲が流れ始めた段階で逃げ出した歩ちゃん、凄い面白かったです」

「流石に僕もそこまではやろうと思わないが……」

「じゃあ兄さんが考えうるサプライズを言ってみてよ、試しに」

 

 

 

 

 

「…………………………は、花束を持っていく?」

 

「ばか」「あほ」「ぼけ」「まぬけ」「たこ」「おたんこなす」

 

 レベルの低い罵倒がジャブみたいな勢いで耳を殴り抜けていく。

 

「普段からラブコメ読んでるくせになんでわかんないかな、兄さん」

「花束を送りつけていいのは別途預けるスペースを用意したり、家まで運べるぐらいの経済的余裕がある人に限りますよ、おにぃ」

「好きな人からの贈り物でもギリギリのラインだよね」

「部活の先輩に渡すようなものじゃないですよ」

「お前らが何かしら言えって言ったんだろ!」

「二歩を指せとは言ってないんだけど」

「指そうと思って指せる悪手じゃありませんよ」

 

 本当に好き勝手言いやがる。

 

「そもそも、前日のこの段階でとってつけたサプライズなんて意味ないよ兄さん」

「確かに。それよりは振る舞いを大事にしたほうが良いと思います、おにぃ」

 

 気をつけろ妹たち。僕の心はもう結構打ちのめされているぞ。

 

「振る舞いって言うと……?」

「服を褒める」「アクセもね」「髪型変えてたら気づいて」「ネイルも当然チェックね」「靴も注目してほしい」「他の女を見ない」「スマホより相手の顔を見る」「道路側を歩く」「歩幅を合わせないのありえないから」

 

 まあ次から次へと出てくるでてくる。

 

「特に靴と爪ね、男の子ってほんっとうにそういうところ見ないけど一番気づいてほしいんだから」

「まさかとは思いますけど、お化粧綺麗だね、なんて褒め方しないでくださいね。化粧を使った結果の自分を褒めてほしいんですから」

 

 ヨム先輩、どうなんだろう、化粧とかしてくるタイプなのかな……。

 しかしアドバイスを求めたのはこちら側だし、僕が想像していなかった注意事項もいくつか説明していただけたし……。

 

「…………ありがとうございます、参考にさせていただきます」

「どういたしまして、兄さん」

「お安い御用ですよ、おにぃ」

 

 笑顔でそう答えてくれる妹たち。

 うん、なんだかんだ言っても家族だ、困ったときは助けになってくれる。

 

「ウチ、ハーゲンダッツのリッチミルクでいいからね、兄さん」

「わたしはプレミアムなロールケーキでいいですよ、おにぃ」

 

 前言撤回、お前らに頼った僕が馬鹿だった。

 

 

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