この素晴らしい魔法学園に祝福を!   作:バニルの弟子:ショーヘイ

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第二章最終話です。


第六話 この理不尽な競技会に終焉を!

 カズマは最終種目の開始を告げるホイッスルを待ちながら、整列した緑組の隊列の中でクリスと肩を寄せ合った。

 フィールドの最前列では四色のハウスが対峙し、空気を震わせるほどの魔素圧がグラウンドを覆い尽くしている。

「……ということで頼む、クリス。お前の機動力を貸してくれ」

 カズマが手短に計画の全貌を告げると、クリスは一瞬だけ呆れたように目を見開いた。

「うわー、えげつないな。カズマくん、それって監査官に正面から喧嘩を売るってことだよね?」

 クリスは小声で囁きながらも、その瞳にはどこか楽しげな、危うい輝きが宿り始めていた。

「でもいいね、そういうノリ。窮地をひっくり返すそういう展開、嫌いじゃないよ。わかった、協力するよ」

「助かる。めぐみんの事象発動が決行の合図だ」

 競技開始の合図と共に数百人の学生たちが一斉に事象展開を開始し、フィールドは一瞬で光と衝撃の濁流と化した。

 魔素を纏ったキャリアが弾丸のごとき速度で飛び交い、各ハウスの演算が衝突するたびに、空間の物理定数が激しく書き換えられていく。

 カズマは緑組の乱戦に身を投じながらも、常に意識の端で本部席のベルディアを捕捉し続けていた。

 ベルディアは眼下の混迷を侮蔑するように見下ろし、端末の画面に不適合のログを冷酷な速さで刻み続けている。

 奴の意識は完全に学園を仕留めるための事務作業に没入しており、背後の警戒は薄れているはずだった。

 カズマは隣で虎視眈々と機会を伺っていたクリスに視線を送る。

 彼女はひとつ頷くと、 魔素同調で陽炎のように気配を消した。

 クリスの存在が完全に周囲に溶け込んだのを確認し、カズマは赤組の陣地にいるめぐみんへと接近する。

「めぐみん、作戦通りに頼む」

「待ってました! いいでしょう、この極限の混沌に終止符を打ってあげましょう!」

 めぐみんは待機させていた膨大な励起魔素を、単一の数理モデルへと一気に圧縮し、変換工程の全リソースを解放した。

「『エクスプロージョン!』」

 爆心地から放たれた光輝と衝撃がフィールドを焼き尽くし、大気を強制的に潜伏相へと押し戻すほどの圧力がグラウンドを揺らした。

 想定外の過剰出力による事象展開を目の当たりにし、ベルディアは端末を叩く手を止めて、激昂と共に身を乗り出した。

「ええい、またあの紅魔の娘か! 懲りずに出力制限を無視しやがって! これ以上の非正規プロセスは断じて容認できん、即刻是正を下してやる!」

 怒号を上げ、ベルディアの意識が眼下の爆炎に完全に釘付けとなった、その一瞬。

 彼の背後で、完全に周囲と同化していたクリスが、必殺の間合いへと踏み込んだ。

 自身が専攻する精密空間干渉の術理を右手の指先に凝縮し、一切の躊躇なくベルディアの領域へと手を伸ばした。

「っ! なんだ⁉︎」

 誰もが完全な不意打ちを確信したその瞬間、ベルディアがまるで見えない眼で背後を捉えたかのように、鋭い警告を漏らした。

「っ! 『スティール』!」

 正体不明の検知に焦ったクリスだが、迷わず魔素感応を解き放った。

 剥き出しの魔素が激突して火花を散らし、眩い閃光がクリスの視界を一時的に白く染め上げる。

 手元に残る確かな手応えを感じながら、クリスは本部席から飛び退き、光の収まった自身の掌を確認した。

「なっ……しまった!」

 手元に残る冷たい無機質な感触に、クリスの顔から一気に血の気が引いていく。

 カズマもまた、グラウンド上で自らの心臓が止まるような錯覚を覚えた。

 ――クソ、失敗か。

 最悪の結末が脳裏をよぎり、カズマは来るべきベルディアの激昂と、学園全土に響き渡るであろう強制処刑の宣告に備えて奥歯を噛みしめる。

 物理的な接触を伴わぬ魔素記述の強制引き抜きが完了した瞬間、本部席の空気は文字通り氷点下まで凍りついた。

 だが、どれほど待ってもベルディアの怒号は聞こえてこない。

 あまりの静寂に耐えかね、カズマが恐る恐る本部席を伺うと、そこには予想だにしない光景が広がっていた。

 ベルディアは言葉を失ったまま、崩れ落ちるようにその場に凝固していたのだ。

 テックマスクから漏れていた規則的な呼吸音すら消失し、静寂の中に彼の指先が虚空を求めて震え始める。

 不審に思ったクリスが、奪った球体を握りしめたまま、おどおどとした足取りでベルディアの正面へと回り込んだ。

 すると、彫像のように固まっていたベルディアの体が、壊れた時計の針のようにじわじわと、不自然な角度で動き出す。

「…………あ、あの…………その」

 喉の奥から漏れ出したのは、先ほどまでの威厳を微塵も感じさせない、情けないほどに掠れた絶望の声だった。

「それ、返してもらえませんか?」

 ベルディアは本部席の手すりを乗り越えようとして力なく足をもつれさせ、泥まみれのフィールドへと無様に転げ落ちた。

 一歩歩くごとに見当違いの方向にふらつき、まるで重力すら見失ったかのように地面を這いずるその姿を見て、クリスが目を見開いた。

「……カズマくん、これ端末じゃない! あいつ、これがないとまともに歩けてない……もしかして、感覚同期のコアなんじゃないかな?」

 その指摘を聞いた瞬間、カズマの脳内で悪魔的な発想が火花を散らした。

「クリス、そいつをグラウンドのど真ん中に放り込め!」

「ちょっ⁉︎」

「ええっ⁉︎ 流石にそれは……」

 ベルディアが小さな悲鳴をあげるが、カズマは御構い無しでクリスを急かす。

「いいからいいから、ほら早く!」

「ああもう、どうなっても知らないよ!」

「ちょ、やめっ!」

 銀色のポッドは放物線を描いて密集する学生たちのど真ん中へと吸い込まれ、激しい奪い合いの渦に巻き込まれる。

 それを確認したカズマは、本部席に置いてあった放送用マイクのスイッチを入れた。

『緊急アナウンス! これより、監査官の提示した三条件に基づく動的セキュリティ訓練を開始する! このポッドを奪い合い、管理者の介入実効性を証明せよ!』

 カズマの実況がスピーカーから爆音で流れ出し、それを合図に数百人の学生たちの視線がベルディアと銀色のポッドへと集中した。

「ちょ、まっ、たすたすけ! まってくれ酔う、酔いそう! それは蹴っていいものではないんだ!」

 ベルディアは本部席の段差を踏み外し、無様に転がり落ちながらも、必死に手を伸ばして叫び声を上げた。

 カズマはその様子を眺めながら、放送用マイクにさらに力を込めて解説を続ける。

『さあ見ろ! 第一条件、非正規な出力プロセスの全面禁止! 学生たちは今、正規の競技目標としてアンタのポッドを演算対象にしているぞ!』

 学生たちが一斉にポッドへと群がり、泥だらけのスパイクで情け容赦なくそれを蹴り飛ばし始める。

 今やベルディアのポッドは学生たちの格好のオモチャにされていた。

『続いて第二条件、余力なき全出力の制限! 学生たちはアンタを追い回しながらもリソースを完璧に管理し、次の一蹴りに余力を残している! 素晴らしい運用だ!』

「ひゃはははは! これおもしれー!」

「おい、こっちこっち!」

「やめっ⁉︎ ちょ、いだだだ、ちょ、やめえっ⁉︎ 待て、待つのだ諸君! それは精密機器も搭載してて……ああっ! 視界の左半分がモノクロになった!」

 ベルディアは視覚のノイズに翻弄され、見当違いの方向に全力疾走してはゴールポストに激突して派手にひっくり返る。

「おーいアクア! そっちに行ったぞ、そいつを絶対に逃がすな!」

「任されたわ」

 カズマの指示にアクアはポッドに飛びついて過剰な事象復元の波動を叩き込んだ。

「これね! このピカピカしてるのを、私が綺麗に初期化してあげるわ! えいっ!」

「ぎゃああああ! 初期化はやめろ! 俺の個別設定ファイルが、記憶が、真っ白に戻るぅぅ!」

 ベルディアは上下の感覚を失い、フィールドでバタバタと手足を動かして溺れるようなポーズを取った。

『最後は第三条件、被監査対象としての適格性の証明だ! 監査官自らフィールドに立ち、学生と身を挺して交流する……これ以上の適格性があるかよ!』

「やめろお! 痛覚は体にも残ってて、ひゃあ……!」

 監査官という権威を完全に踏みにじられ、揉みくちゃにされるベルディアの元へ、カズマはゆっくりと歩み寄った。

「……なあ、ベルディアさん。そろそろ体力の限界だろ? 五感もめちゃくちゃ、プライドもボロボロだ」

 カズマが足元に転がってきたポッドを軽く踏みつけ、挑発的に笑う。

「どうだ? 今ここで三条件すべて適合とサインしてくれたら、その大事なボールを返してやるぞ」

 ベルディアは泥だらけの顔を上げ、震える声でカズマを呪いながらも、その瞳には明らかな恐怖が浮かんでいた。

「……貴様、これは脅迫だぞ……。監査官に対する、明白な公務執行妨害……」

「いいや、これはあんたが望んだ死に物狂いの証明の結果だ。あんたが自ら管理の実効性を示したんだ、素晴らしい評価じゃないか」

 カズマがわざとらしくポッドを高く放り投げ、ボレーシュートの構えを取る。

「あ、あああ! 待て、待て! 分かった、俺の負けだ! 条件は全てクリアだ、だからそれを返してくれ!」

 ベルディアは泣きながら、手元の端末に震える指で「適合」の文字を叩き込んだ。

 

 

 

 フィールドの中央で、泥まみれになりながらセンサーポッドを愛おしそうに、そして必死な手つきで抱きしめるベルディアがいた。

 カズマは放送用マイクを無造作にポケットへねじ込み、肩で荒い息をつく彼のもとへとゆっくり歩み寄った。

 周囲の観客は何が起きたのか正確には理解せぬまま、地鳴りのような喝采を送り続けている。

「……約束だぜ、監査官さん。あんたが自分の管理端末で適合のボタンを押し、本部サーバーへ正式に送信したのを、俺たちは確かにこの目で見たからな」

 カズマは微かな罪悪感を覚えながら、ポッドの表面にこびり付いた泥を震える指先で拭うベルディアに語りかけた。

「……分かっている。一度確定させ、ログに記録された判定を、後から私怨や後悔で覆せば、俺の……いや、国立監査本部の権威に致命的な傷がつく」

 ベルディアは掠れた声で応じ、力なく首を振った。

「今回の競技会における学園の管理体制は、極めて特異で、かつ野蛮で、およそ正気の沙汰とは思えぬ代物ではあったが……」

 彼は一度言葉を切り、泥の付いた手で自身の膝を支えた。

「現場責任者たる俺が身を挺してリスクを沈静化したという一点において、一応の合格ラインに達しているからな」

 彼はフラフラと覚束ない足取りで立ち上がり、歪んだテックマスクの位置を直した。

 その背中はまるで十数年も老け込んだかのように丸まり、隠しきれない震えを帯びている。

 五感の演算補完が再起動し、ノイズ混じりの視界が徐々に鮮明さを取り戻していくにつれ、自分がどれほど無様な姿を全校生徒の前に晒していたかを自覚したのだろう。

 ベルディアは一度もこちらを見ようとせず、カズマに背を向けて立ち去ろうとした。

「佐藤和真……貴様、何故ここまでやる? こんなメチャクチャな実験環境で対応策もままならないプロジェクトなど、即刻中止にすべきと思わないのか?」

 振り返らぬまま、ベルディアは地を這うような低い声で問いかけた。

「一番被害を受けるのは、研究生である貴様たちなのだぞ?」

 投げかけられた問いに、カズマは少しだけ視線を泳がせ、それから小さく鼻で笑った。

「確かにこの都市は色々おかしいし、学園の演習も非人道的だし、ここに通う連中も変人ばかりだ。だけど……」

 カズマは自嘲気味な苦笑を浮かべ、夕闇が迫る校舎を見上げた。

「なんだかんだ言って、今の生活も嫌いじゃないんだよ」

 その言葉を聞いたベルディアは、屈辱に顔を歪めながらも、どこか敗北を認めたような長い溜息を吐き出した。

「……若いな。だがな、佐藤和真。無秩序な魔素がどれほど容易く、理不尽に人の日常を奪うか……貴様はまだ、その真実を知らないだけだ」

 彼の声には、経験した者だけが持つ、凍りつくような冷徹さが宿っていた。

「俺はこれ以上、防げたはずの悲劇を繰り返したくないだけだ」

 ベルディアはそれ以上語らず、泥に汚れたマルチセンサーポッドを懐に深くしまい込んだ。

 その仕草には、単なる精密機器への執着を超えた、何か重苦しい戒めのような祈りが込められているように見えた。

「今回の結果は是正勧告レベル1に留めてある。学園の運営継続は当面の間認めるが、今回の手法はあまりに例外的なものだ」

 彼は重い足取りで一歩を踏み出し、最後通牒を突きつける。

「次回までに、監査官を安全装置として物理的に使い潰さない、正規の自動管理システムを構築せよ。……さもなければ、次は容赦せんぞ」

 泥だらけのパーカーを翻し、夕陽の影を引きずりながら去っていく彼の後ろ姿を、カズマは無言で見送った。

「……少し、可哀想なことをしたかもしれんな。あの男、ベルディアといったか。彼がこれほどまでに管理と安全に執着する理由が、少し分かった気がする」

 傍らで見ていたダクネスが、どこか遠い目をしてポツリと呟いた。

「何だ、あいつを擁護するのか? さっきまで俺たちを社会的に抹殺しようとしてた敵みたいなやつだぞ」

 カズマは意外そうな顔をして、隣に立つ彼女を振り返った。

「いや、そうではない。ただ……この学園都市で魔素研究が始まったばかりの、混迷の時代を思い出したのだ」

 ダクネスの声には、都市の黎明期の歪みを見つめてきた者特有の、静かな哀愁が混じっていた。

「当時は魔素の制御理論が確立されてなくて、暴走事故など日常茶飯事だったらしいからね」

 いつの間にか隣に来ていたクリスが、小さく肩をすくめてその言葉を引き継いだ。

「彼もまた、その時代の理不尽な火の粉を浴びた一人なのかもしれないね。あの五感を失うほどの実装実験の後遺症が、何よりの証拠だよ」

 カズマはクリスの視線の先、校門の向こう側へと消えていくベルディアの孤独な背中を想像した。

 あいつにとっての管理とは、単なる官僚的な仕事などではなかったのだろう。

 かつての自分のような犠牲者を二度と出さないための、執念にも似た救済だったのかもしれない。

「あのような絶望的な窮地に追い込まれ、全校生徒の前で晒し者にされながらも、彼は最後までその信念を放棄しなかった。それは誇るべきことだ」

 珍しくまともなことを言うダクネスに、カズマが感心したのも束の間のことだった。

「……私はあのような、泥を啜ってでも己の正義を貫こうとする男の姿は、実に……実に気高くて……そして、たまらなくゾクゾクするものがあったぞっ!」

 見れば、ダクネスの頬は異常なほど赤く染まり、その瞳は怪しく潤んでいる。

「せっかくのいい話が台無しだよ!」

 カズマは深く溜息をつき、一歩、また一歩と彼女から物理的な距離を置いた。

 感動を返せと叫びたい気分だったが、ともあれ、最悪の結末だけは回避できたのだ。

 

 

 

 

 日が完全に落ち、学園の時計塔が夕闇の中に美しいシルエットを描き出す頃。

「みんな、本当にお疲れ様! 外から見ててハラハラしちゃったけど、無事で良かった。今日は特別に、故郷の秘伝のレシピで煮込み料理をたくさん作ったから、遠慮しないで食べてね!」

「おかわりもたっくさんあるからな! お前ら、好きなだけ食べろー!」

 極限の緊張から解放された学生たちは、爆発的な歓喜の声を上げた。

 祝勝会の会場となったのは、学園の端にひっそりと佇む学生寮の食堂。

 今夜の厨房を一身に引き受け、特大の鍋を威勢よく振るっているのは寮監のエイミーだった。

 エイミーとミーアが運んできたのは、スパイスの香りが食欲を激しく刺激する具沢山のポトフや、香ばしく焼き上げられた巨大な骨付き肉、そして色鮮やかなサラダの数々だ。

 食堂内には、今日という一日を文字通り死に物狂いで駆け抜けたダストをはじめとした学生たちの笑い声が絶え間なく響き渡り、熱気に満ち溢れている。

「カズマ、お前のあのクズ極まる機転には正直引いたが、おかげで俺たちの首がつながった! 今日は無礼講だ、この特注のシュワシュワを飲み干して、地獄の監査を笑い飛ばそうぜ!」

 ダストが差し出したキンキンに冷えたグラスを、カズマは苦笑いしながらも力強く打ち合わせた。

 隣の席では、アクアが貰ったばかりの個人報奨ポイントの通知画面をこれ見よがしに見せびらかしていた。

「そんな事よりカズマ! あんたも早く評価ポイントを受け取ってきなさいよ。もう、クラスの連中の殆どは事務局から受け取ったわよ。勿論私も!」

 アクアは鼻先に泡をつけながら、ケラケラと笑い転げている。

 見れば、周囲の学生たちも、これまでのストレスを爆発させるように盛り上がっていた。

 カズマは浮かれる連中を横目に、食堂の隅に設置された臨時事務局のカウンターへと歩いていく。

 背後には、同じく未受け取りのダクネスとめぐみんも続いていた。

 端末を操作していた受付の女性職員が、カズマたちの顔を見るなり、なぜか同情と困惑が入り混じった微妙な表情を浮かべた。

「ああ、その……佐藤和真さん、ですね? お待ちしておりました」

 職員の歯切れの悪さに、カズマは微かな胸騒ぎを覚える。

「あの……。まずはそちらのお二方に、今回の競技会の報奨ポイントです」

 職員は、ダクネスとめぐみんの端末にデータを転送した。

 だが、カズマの端末には何の通知も飛ばない。

「……あの、俺のは?」

 怪訝な顔をするカズマに、職員がさらに困ったように声を低くした。

「……実は、カズマさんのグループには、今回の事態収拾に対する特別報奨が決定しています」

 その言葉を聞きつけた周囲の学生たちが、一斉に囃し立てた。

「おいおいMVP! お前があの監査官をハメなきゃ、俺たち全員アウトだったんだからな!」

 そうだそうだ、と騒ぎ出すダストたち。

 カズマはこの数日の苦労を思い出し、不覚にもその言葉に少しだけ鼻の奥がツンとした。

 職員がコホンと一つ咳払いをして、公式な決定事項を読み上げる。

「えー。佐藤和真さん率いる一行は、監査官ベルディアによる緊急是正勧告を回避し、学園の運営継続に多大な貢献をした功績を称えて……。ここに、特別報奨一千万ポイントを付与します」

「「「「い、一千万っ!?」」」」

 あまりの巨額に、カズマたちはその場で絶句した。

 食堂内もしんと静まり返る。

 直後、地鳴りのような「奢れコール」が沸き起こった。

 カズマは有頂天になり、隣のダクネスに勝ち誇ったような笑みを向ける。

「おいダクネス、さっきこれからは演習の数が凄く減るぞ!」

「おい待て! それは困るぞ⁉︎」

 盛り上がる一同を前に、受付の職員が申し訳なさそうに、一枚の電子帳票を表示した端末を差し出してきた。

 そこには、恐ろしい数の「0」が並んだ請求項目が記されていた。

「ええと、ですね。競技中にめぐみんさんが構築した爆裂事象の過負荷演算により、グラウンドに修復困難な構造欠陥が発生しまして。さらにアクアさんの広範囲散水により、フィールドに設置されていた高価な精密計測機器が数十台、再起不能のショートを起ßこしました。……まあ、功績も大きいので全額とは言いませんが、一部だけでも賠償してくれ……と、理事会から……」

 職員はそのまま、逃げるように去っていった。

 その数字を見た瞬間、真っ先にアクアが背中を向けて逃げ出した。

 次いで、こっそり場を離れようとしためぐみん。

 その二人の襟首を、カズマは無言で掴んで固定する。

 周囲の学生たちは、カズマの顔色から察したように、そっと目を逸らして自分の食事に戻っていった。

 請求内容を覗き込んだダクネスが、カズマの肩にポンと手を置く。

「報奨一千万に対して、賠償請求が五千万。差し引き、四千万ポイントの赤字か。……カズマ。明日は、さらにポイント効率の良い、危険な演習に行こうか」

 ダクネスが、心底嬉しそうに、最高に良い笑顔で笑った。

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