この素晴らしい魔法学園に祝福を!   作:バニルの弟子:ショーヘイ

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ダクネス登場


第五話 この右手にお宝を!

 演習の完了報告を送ると、すぐさま無機質な通知音が鳴り返答があった。

 画面には「受理。学園指定演習課題E−04、環境浄化用・生体模倣型魔導回路の定置メンテナンス。五体のユニットに対するパージおよび再定義シーケンスの完了を確認」という定型文が表示されている。

 本来、実地演習を終えればそれに見合った正当な「貢献度ポイント」が自動的に個人口座へと振り込まれる。

 今回の演習だと、ユニット一つにつき五千ポイントと演習達成ボーナスとして一万ポイントが支払われる。

 しかし、カズマのデバイスに表示された最終的な算定結果は、到底納得のいく数字ではなかった。

「……おい、ちょっと待て。五体のメンテナンスを終わらせたはずなのに、なんで合計ポイントがこんなに削られてるんだ?」

 カズマは画面に表示されたグループポイントは五千ポイント。

 たったの五千ポイントである。

 内訳を確認すると、そこには「演習機材の全損による損害賠償・修理費用:二万五千ポイント差し引き」という冷徹な一文が。

 それを見た瞬間、カズマは深い溜息をついた。

 現場でめぐみんが変換した爆発的な魔素放出によって、ユニットの一体を物理的に消滅させた時、嫌な予感はしていたのだ。

 やはり、あの機材損壊のペナルティが適用されていた。

 修理できたユニット四基で二万ポイント、ボーナスで一万ポイント、そこから一基分の修理費が差し引かれて五千ポイント。

 演習報酬を合わせた合計額から、手痛い授業料が差し引かれる形となった。

 アクアの説明によれば、この手の演習は通常、四人から六人の混合グループで共同活動を行うのが標準的であるという。

 普通の研究生の相場に当てはめて考えれば、数日をかけてあの暴走個体と渡り合い、五台分の処理報酬で三万五千ポイント。

 五人パーティだと仮定して、一人当たりの取り分は七千ポイント。

 これでは、ちょっとしたバイト程度にしかならない。

 演習が一日で済んだとしても、生体反応を極限まで振り回される実働任務としては、あまりにリスクが高い。

 一応、他の公開演習課題や依頼リストにも目を通してはみたものの、そこに並ぶ項目はどれも一癖あるものばかりであった。

 

『環境維持:森の生態系に悪影響を与えるエギルの木の剪定・伐採。報酬は回収重量に応じた出来高制。』

『捜索:研究区画から逸走した生体模倣型ペット、ホワイトウルフの確保。』

『教育補助:教職員子女への近接戦闘技術インストラクター。※要、博士前期課程以上に限る。』

『被験体募集:高エネルギー曝露および魔法理論の実証実験における、負荷耐性データの提供代行。※要、強靭な物理的体力または高度な魔素抵抗値を有する者……』

 

「……これって学園というより、単なる低賃金な労働力供給システムなんじゃないか?」

 カズマはスマートフォンをポケットにしまい、深くため息をついた。

「……すまない、ちょっといいだろうか……?」

 背後からボソリと声をかけられ、学園という場所のシビアな現実を突きつけられてぐったりしていた彼は、虚ろな目で振り返った。

「なんでしょ…………うか……」

 視界に入った声の主を見て、カズマは絶句した。

 これまで見てきた女性の中でも、とびきりの美人がそこにいたからだ。

 ぱっと見た感じはクールな印象を受けるその美女は、無表情にこちらをじっと見つめていた。

 身長はカズマよりも若干高い。

 カズマの身長が百六十五センチメートルだから、彼女は百七十センチメートル前後だろうか。

 仕立ての良そうな高級感のある学生服に身を包んだ、金髪碧眼の美女だった。

 年齢は、カズマよりも一、二つ上といったところ。

 厚手の制服のせいで詳細な体型までは判然としないが、その美女には、どこか目を引く色気が漂っていた。

 凛とした顔立ちなのに、なぜだか被虐心を煽る。

 思わず見惚れたカズマだったが、慌てて自分を律した。

「あ、えっと、何でしょうか?」

 同い年のようなアクアや、年下のめぐみんと違い、年上の美人相手ということで緊張し、若干声が上ずってしまう。

 長い引きこもり生活の弊害が、こんなところで顔を出していた。

「うむ……。この募集は、君たちのグループの募集だろうか?」

 その女子生徒が見せてきたスマホに映るのは、募集告知のページだった。

 めぐみんを仲間に加えた後、掲示板を募集終了に変更するのを忘れていたことを思い出す。

「あぁ、まだメンバーは募集していますよ。といっても、あまりオススメはしないですけど……」

「ぜひ私を、ぜひ、この私をメンバーに!」

 やんわりと断ろうとしていたカズマの手を、突然、彼女がガシッと掴んだ。

 あまりの勢いにカズマは面食らう。

「い、いやいや、ちょ、待って待って、色々と問題があるグループなんですよ。仲間二人はポンコツだし、俺なんて一般科で、さっきだって仲間二人がトード・ユニットの粘液みたいな排出液まみれイダダダダダダ!」

 排出液まみれ、という単語を口にした瞬間、カズマの手を握る彼女の指先に、一段と強い力が込められた。

「やはり、先程の粘液まみれの二人は、あなたの仲間だったのか! 一体何があったら、あんな目に……! 私も……! 私もあんな風に……!」

「えっ⁉︎」

 今、彼女は何と言ったのか。

 カズマは自分の耳を疑った。

「いや、違う。あんな年端も行かない二人の少女が、あのような目に遭うなど、私の誇りにかけて見過ごすわけにはいかない。どうだろう、私は制御の適性は一応Sだ。募集要項の条件には合致すると思うのだが」

 ――この人、目がやばい。

 カズマは直感した。

 落ち着いた雰囲気のお姉さんだと思っていたのに、何かが決定的に食い違っている。

 そして、カズマの危機感知能力が激しく警報を鳴らし始めた。

 彼女もまた、アクアやめぐみんに通じる「何か」を抱えたタイプだと。

 美人だが、関わるとろくなことにならない。

 少し惜しくはあるが、ここは断るのが懸命であろうという判断を下した。

「いやー、先ほど言いかけましたが、本当にオススメはしないんですよ。仲間の一人は何の役に立つのかよくわからないですし、もう一人は一日に一発しかまともに活動できないそうです。そして俺は一般科の最底辺。ポンコツ集団なんで、他を当たった方が……」

 カズマが説得を試みる間にも、彼女の手に込められる力は増していく。

「ならなおさら都合が良い! いや、実は少し言いづらかったのだが、私は事象を安定させるのは得意なのだが不器用で……。その……指向性が全く定まらないのだ」

 やはり自分のセンサーは正しかった、とカズマは遠い目をした。

「だが、自分の方へ引き寄せて固定することなら、ある程度はできる。というわけで、私をストッパー代わりにこき使ってほしい」

 彼女は、ベンチに座るカズマに向かって、その端正な顔をズイと寄せてきた。

 あまりの距離の近さに、カズマはたじろぐ。

 座っているため相手から見下される形になるのだが、彼女のさらさらの金髪がカズマの頬に触れ、不覚にもドキドキしてしまった。

 こんな切迫した状況でも、長期の引きこもりによる弊害が牙を剥く。

 しかし、とカズマは思い直す、

 これは思春期の男子にとって刺激が強すぎるだけである、と。

 この美貌に惑わされてはいけない、と。

「いや、女性をストッパー代わりにするなんて……。うちのグループは脆弱なんで、本当にあなたに演習の負荷が集中しますよ? それこそ毎回、逃げ場のないゼロ距離でユニットに揉みくちゃにされるかもしれませんよ?」

「望むところだ」

「いや、あれですよ。今日だって仲間二人がトード・ユニットに飲み込まれかけて、全身粘液まみれにされたんですよ? あなたが自分に引き寄せるなら、それが毎日続くかもしれないんですよ?」

「むしろ、望むところだ!」

 ――あぁ、理解した。

 カズマは全てを察した。

 頬を上気させ、カズマの手をギリギリと締め上げる彼女。

 その悦びに震える瞳を見て、カズマは確信した。

 彼女も能力の欠陥以前に、人間としての根幹部分がダメな系である、と。

 

 

「なあ、お前の専科って、普段は一体何をやってるんだ?」

 翌日、カズマたちは学食で、遅めの昼食をとっていた。

 アクアがカエル相手に見せた、周囲の魔素を強引に励起させるような高出力の干渉技術。

 あれ以外にも、学問としてどのような技術があるのかが気になったのだ。

 この学園では、入学時の診断結果に基づき、各学生に最適な専攻が推奨される。

 アクアが所属する「魔素発生専科:高密度魔素干渉専攻」は、環境中の無干渉魔素を効率よく精製し、安定したエネルギー源として抽出する技術を研究する領域だ。

 魔素は既存の物理装置単独では熱暴走を起こしやすく、極めて不安定な特性を持つ。

 彼女が学ぶ技術は、そのエネルギー密度を極限まで高めつつ、発生時のノイズや異常現象を抑制し、供給環境を正常化する実務に直結していた。

 一方で、めぐみんのようなタイプに推奨されるのは「魔素変換専科:高出力位相固定専攻」である。

 これは、精製された魔素に対し、膨大な情報量の記述を介して、熱や衝撃といった物理エネルギーへと瞬時に転換・適用させるプロセスを追求する。

 未知のエネルギーを人類が利用可能な事象へと翻訳するこの研究は、次世代の基盤として最も期待されている花形領域だった。

 他にも、魔素の記述を多重化して構造体の堅牢性を高める「魔素制御専科:分子構造定着専攻」や、散乱する魔素の残滓を観測し環境ノイズを解析する「特殊枠:環境情報制御専攻」。

 慣性制御の基礎となる「空間位相幾何専攻」や、身体能力の拡張を目的とする「生体組成同期強化専攻」など、専門性は多岐にわたる。

 そんな中、カズマが所属しているのは「一般科:汎用魔素運用専攻」だ。

 基礎的なデバイス操作や定型スクリプトの運用を広く浅く学ぶ専科である。

 どの専科の講義も取ることができるという利点はあるが、裏を返せば専門的な出力や深い理論構築においては、専科の学生を上回ることは極めて難しい。

 端的に言えば、器用貧乏であった。

 そのため、効率よくポイントを稼ぎ、かつ実戦での生存率を上げるために、他の二人の「発生」と「変換」をどう「制御」で補完すべきか。

 カズマは三専科のバランスを考えたカリキュラムを組もうと思案していた。

「しょうがないわねー。言っとくけど、私の技術は半端ないわよ? ホイホイと誰にでも教えるようなものじゃないんだからね?」

 やたら勿体つけるアクアだが、教えてもらう立場なカズマはじっと我慢を決め込む。

 アクアは不敵に笑って手近にあった水の入ったコップを引き寄せた。

 彼女が優雅に指先を動かすと、コップの中の水が意思を持ったかのように空中に飛び出し、精密な多面構造を持つ結晶体のような形に整えられ、虹色の光を反射しながら宙を舞った。

「……おお」

 思わず感嘆の声が漏れる。

 魔素による精密な発生と変換によって、流体の表面張力と光の屈折率を完璧に掌握し、芸術の域まで昇華させる技術。

「これぞ、私が生み出した新技術、『花鳥風月』!」

「誰が宴会芸を見せろって言った!」

「ええっ!」

 なにやらショックを受けたらしいアクアが、しょぼんとしながらジョッキの中身をちびちびと啜る。

 そんなカズマたちのテーブルへ、不意に背後から重みのある声がかけられた。

「探したぞ」

 振り返れば、そこには昨日出会ったばかりの金髪碧眼の美女――ダクネスが、冷徹なまでの美貌を湛えて立っていた。

 ――しまった。

 カズマは思わず身構えた。

「昨日は疲れたと言ってすぐに帰ってしまったが。体調はどうだ?」

「お、お気遣いなく。おかげさまでピンピンしてますよ」

 カズマは引きつった笑みを浮かべる。

 昨日は適当な理由をつけて逃げるように別れた。

 やんわりと断ったつもりだったのだが、どうやらこの女性には、カズマの意図がこれっぽっちも伝わっていないらしい。

「ならば、昨日の話の続きをさせてもらおう。私を君のグループに入れてくれ……」

「お断りします」

「っん……! はあ、はあ……即断……だと……!」

 拒絶された瞬間、ダクネスの頬が朱に染まり、喉の奥から艶めかしい吐息が漏れた。

 その表情は明らかに喜んでいるように見える。

 ――この人危険だ。

 カズマの危機感知センサーがけたたましく鳴り響く。

「あっはっは! ダメだよダクネス、そんな強引に迫っちゃさ」

 カズマが戦慄していると、彼女の隣に座っていた短い銀髪が印象的な少女が、愉快そうに笑い声を上げた。

「えーっと、失礼ですが、あなたは?」

 カズマが尋ねると、少女は親しみやすい笑みを浮かべて軽く手を挙げた。

「あたしはクリス。J3の環情制だよ。この子とは……まあ、友達かな」

 J3の環情制とは、中等課程第3セクションの環境情報制御専攻のこと。

 学年で換算すれば、カズマの一つ下になる。

 比較的まともな対応をするクリスに少しだけ安堵した。

 アクア、めぐみん、そして目の前のダクネス。

 これまで出会った連中がことごとく常軌を逸していたため、クリスのまともな態度はカズマにとって救いの神のように見えた。

「ねえキミ、学科の履修単位に困ってるなら『環境情報制御』なんてどうかな? 一般科の君なら、うちの基礎理論を知っておいて損はないはずだよ」

「環境情報制御? えっと、具体的にどんな内容があるんでしょう?」

「環情の技術は使えるよー。『魔素感知』に、『魔素同調』、『魔素感応』。持ってるだけでお得な技術が盛りだくさんだよ。基礎技術ぐらいなら一時間も勉強すれば習得できるだろうしね。どうだい? 今なら、クリムゾンビア一杯で講義してあげるよ?」

 なんとも気前がいい。

 幸いこの後は予定もないし、タイミングとしてもちょうどいい。

「よし、お願いします! すんませーん、こっちの人にキンキンに冷えたのひとつ!」

 

 

 

「じゃあ、まずは環情制のド基礎、『魔素感知』と『魔素同調』をいってみようか」

 学園の裏手にある、今は誰もいない屋外演習場。

 カズマとクリス、そしてダクネスの三人は、芝生の上に立っていた。

 ちなみに、テーブルでへこんだままのアクアは置いてきた。

「まずは魔素感知。これは機械任せじゃなく、周囲にある魔素の流れを自分の感覚で掴む技術だよ。慣れれば敵意を持つ人の接近とかも感知できるようになるんだ。ダクネス、ちょっとその場で動かないで」

「ん、分かった」

 前置きをした後にクリスはカズマを招き寄せ、自身の腕に装着した個人用魔素モニターを前にかざした。

 画面にはダクネスの位置に、人型のモヤのような反応が点灯している。

「いい? 人間を感知する時のコツは、相手の『感情の起伏』を情報のトリガーにすることなんだ。感情が動くと魔素の波形が乱れて、機械でも生身でも捕捉しやすくなる。……ちょっと見てて」

 クリスはニヤリと笑うと、ダクネスに向かって声を張り上げた。

「おーい、ダクネス! 今日はお姫様みたいなふりふりの服は着てくれないの?」

「っ⁉︎ な、何をっ……!」

 真っ赤な顔で振り返ったダクネスは、無言のままスタスタとこちらへ歩み寄る。

 同時に、クリスのモニターに映る反応が、警告音と共に激しく明滅し膨れ上がった。

「感知……感知……! ダクネスの怒気がピリピリ伝わってくるよ! ねえダクネス、わかってると思うけど、これは教育課程の一環で仕方なく言ったことだからね! 悪気はないんだからね……お、お手柔らかにああああああああああああ、やめてええええええええええ!」

 ダクネスが魔素制御の基礎技術を応用し、クリスの周囲の空間構造を強引に固定したらしい。

 物理的に身動きを封じられたクリスに対し、ダクネスは容赦なくその脇腹をくすぐり倒していく。

 逃げ場を失ったクリスは、悶えながら情けない声を上げ続けた。

 ――本当に技術として覚え込めるんだろうか。

 カズマは笑い声のような悲鳴を上げるクリスを見ながら、自分の選択が正しかったのか少し不安になった。

 

 

 

 

「さ、さて、これが魔素感知。今はデモのためにデバイスで見せてるけど、最終的にはこれを自分自身の感覚だけで、直接読み取れるようになるのが目標だよ」

 復活したクリスは乱れた銀髪をかき上げると、不敵な笑みを浮かべてカズマに向き直った。

 ふと、カズマは一つ疑問を抱く。

「なあ。これだけ精度の高いモニターがあるなら、わざわざ苦労して生身で覚える必要なんてないんじゃないか?」

 現代的な効率性を求めたカズマの問いに、クリスは「甘いなあ」と言うように人差し指を振った。

「現在の技術力だと最新のデバイスを使っても、動作の速い物体に対しては全然捕捉が追いつかないんだ。ほら、見てて」

 クリスがその場で軽くステップを踏んでみせると、カズマの目の前にあるモニターの表示が目に見えて乱れ始めた。

「あ、ラグってる。人型のモヤが残像みたいに遅れてるな」

「そう。今は何もない場所でダクネスが止まっているから映るけど、少し動きが速くなるともう無理。現段階ではシステムのロバスト性が脆弱すぎるのさ」

「ロバ……なんだって?」

「要するに、ちょっとした変化に弱いってこと。デバイスは数値化した後の結果を追うだけだけど、何故か人間は直感や無意識の選択で、機械には到底できない最適解を導き出せちゃうんだよね」

 なるほど、とカズマは腑に落ちるものを感じた。

 計算機が弾き出す膨大なデータよりも、土壇場での人間の一拍早い反応の方が真実を射抜くことがある。

 そんな理屈を超えた「勘」の世界が、この魔素工学の肝なのだろう。

 納得した様子のカズマを見て、クリスは得意げに自身のデバイスを操作した。

「お次は魔素同調。自分の魔素波形を周囲と完全に一致させる技術だよ。目視では確認できたとしても、情報網の上では存在が消える。一種のステルス機能みたいなものだね」

 クリスが印を組むように指を動かすと、モニターから彼女の反応がふっと消滅した。

 目の前には確かにクリスが立っているが、解析システムを通した世界では、彼女はただの背景と化したのである。

「ここまでが基礎技術。それじゃ次はあたしのイチオシ、魔素感応をいってみようか」

 楽しくなってきたのか、魔素同調を解いたクリスが快活に声を上げる。

「これはさっき見せた二つの技術の応用だよ。対象と自分の魔素波形を同調させて、空間的な座標情報を無理やり一致させるんだ」

 クリスは軽く手首を回しながら、教え子に語りかけるように言葉を続ける。

「成功すれば、相手が握りしめていようが鞄の奥だろうが、波形さえ重なれば、対象を自分の手元へ一瞬で引き寄せることができる。ただ、この波形の一致させるのが補助デバイスを使っても難しいんだよね」

 苦笑いを浮かべた彼女は、自身の右手をひらひらと振ってみせた。

「今の魔素感知はそこまで精度が高くないから、対象を捉えてもそれが何なのかまでは、実際に引き寄せるまで判別できない。おまけに波形が合うかどうか自体も、その時の環境ノイズや使い手の運次第っていう未完成な技術なんだ」

 魔素感応による空間同期――。

 本来なら、精密な観測機器と膨大な演算を必要とするはずの空間の書き換えを、個人の感覚一つで行おうという無茶な理論だ。

 しかし、将来的に予測不能な事態が多発する演習を成功させるためには、こうした機材に頼らない高度な制御技術の習得が不可欠になる。

 何より、成功率が個人の幸運値に依存するというなら、それはカズマにとって絶好の機会だった。

 理論やスペックでエリートに勝てずとも、不確定要素が支配するこの領域なら、自分の唯一の取り柄を最大限に活かせる可能性がある。

「じゃあ、キミに使ってみるからね。いってみよう! 『スティール』っ!」

 手本を見せるようにクリスが叫ぶと同時、彼女の手の中に、いつの間にか見覚えのある板状の端末が握られていた。

「あっ! 俺のスマホ!」

 それはカズマのポケットに入っていた、学園生活の生命線であるスマートフォンだった。

「おっ、当たりだね。まあ、こんな感じで空間的な座標情報を同期させるわけさ。それじゃ、スマホを返……」

 クリスはスマホを返そうとして、ふとにんまりと笑みを深めた。

「……ねえ、あたしと勝負してみない? 今から練習してみて、その後にあたしから何か一つ奪ってみせなよ。それがあたしのスマホでも魔素モニターでも文句は言わない。でも失敗したら、このスマホは授業料として貰う。……どう?」

 唐突に面白い提案をしてくる先輩だとカズマは内心で感心した。

 だが、と一度思考を巡らせる。

 自身の測定データによれば、幸運値だけは学園内でも異常なほど高い。

 対するクリスの持ち物は、学生が手にするには過剰なほど高価な精密機器ばかりだ。

 波形の同期に失敗したところで、手元のスマートフォンを没収される以上のリスクはない。

 もし没収されても、紛失したと学生事務にでも届け出れば、備品として新しい端末が支給されるだろう。

 実質的な痛手にならない以上、この勝負はカズマにとって分が良すぎる賭けだった。

「その勝負、乗った!」

「いいね! そういうノリのいいやつって好きだよ!」

 カズマの決意を見て、クリスは満足げに頷いた。

 

 それからしばらく、カズマはクリスの指導の下、地味で神経を削るような反復訓練に没頭することになった。

 まずは魔素感知。

 デバイスのモニターを消し、目を閉じた暗闇の中で、周囲全域に漂う無数の魔素の断片に意識を向ける。

 クリスの服が擦れる音に伴う微細な振動や、ダクネスの強固な生体反応、さらには遠くを歩く学生たちの話し声さえもが、不規則な波形のうねりとなって脳裏に直接流れ込んできた。

 次に魔素同調。

 魔素感知で周囲の魔素周波数を認識し、自分の魔素波形をそれに近づける。

 自分という存在の境界線が環境の中に溶け出す感覚は、なかなか慣れそうにない。

 そして最後が、空間の再定義を試みる魔素感応だ。

 混濁した波形の中から、特定の事物が自分の右手にある状態を、直感だけで強引に確定させる。

 なかなか難しいが、時間をかけるごとに少しずつ解像度の低いノイズの海から、事物を引き寄せる感覚を掴み始めた。

 こうして一時間が過ぎた頃。

「そろそろいいかな?」

「ああ、何盗られても泣くんじゃねえぞ?」

 気合い十分なカズマにクリスが不敵に笑う。

「さあ、何が盗れるかな? 当たりは、この高感度魔素デバイス。四十万ポイントはくだらない逸品だよ。残念賞は……さっき拾っといた、この石だ!」

 クリスはポケットから大量の小石を取り出し、自分の周囲にバラ撒いた。

「ああっ、きったねえ! そんなの有りかよ!」

「これも授業料だよ。どんな技術も万能じゃない。こうやってダミーの波形を混ぜれば、感応の精度はガタ落ちする。さあ、いってみよう!」

 確かにいい勉強だと内心で毒づいた。

 それに心底楽しそうに笑うクリスを見ていると、騙された方が悪い気にすらなってくる。

 多数の囮情報を混ぜることで、本命の座標を特定させない高度なジャミングだ。

 だが、まだ残念賞に当たると決まったわけではない。

 カズマは極限まで集中を高めた。

 多様な魔素波形の海を掻き分け、その奥に潜む当たりの波形を探る。

 一番当たりそうな、最も複雑な波形。

 カズマは確信した。

 この波形こそが、クリスが提示した最高級の魔素デバイスに違いない。

 理屈を越えた直感が指し示すその一点に、カズマは全神経を叩き込んだ。

「やってやる! 『スティール』ッ!」

 叫ぶと同時、突き出した右手には確かな手応えがあった。

「よし、とりあえず成功!」

 自分の幸運が高いというのは本当らしい。

 カズマは手に入れたものをマジマジと見つめた。

「……なんだこれ?」

 それは、石でも精密機器でもなく、一枚の白い布切れだった。

 それを両手で広げてみた、その瞬間。

「ヒャッハー! 当たりも当たり、大当たりだあああああ!」

「いやああああああ! ぱ、ぱんつ返してえええええええっ!」

 クリスが自分の短パンを押さえながら、涙目で絶叫した。

 

 

 

「あっ、ちょっとカズマ、やっと戻ってきたわね。あんたのおかげでえらい事に……。って、どうしたの? その子は」

 人だかりを面倒そうに押し除けて、俺の隣で涙目になり落ち込んでいるクリスにアクアが興味を抱いた。

 俺が説明するより早く、ダクネスが口を開き、ボソボソと呟く。

「……ん。クリスは、カズマにパンツを奪われた挙句、ポイントを全部毟られて落ち込んでいるだけだ」

「おい何を口走ってんだ、待て。事実だけど、語弊がありすぎるから待て」

 カズマはクリスが泣いて返却を頼んできたので、自分の下着の資産価値は自分で決めろと言っただけである。

 提示するチャージポイントに満足しなかったら、もれなくその下着は我が家の家宝として奉られることになる、と。

 泣きながらスマホを操作し、全ポイントを転送するクリスに免じて返却に応じたカズマ。

 どこをどう切り取っても、犯罪者予備軍である。

 アクアとめぐみんの引き気味な視線が刺さる中、やがてクリスが吹っ切れたように顔を上げた。

「公の場でいきなりパンツを盗られたからって、いつまでもメソメソしててもしょうがないね! よし。ダクネス、あたし、悪いけど臨時で報酬のいい高難度演習に参加してくるよ。パンツを人質にされて有り金失っちゃったしね!」

「おい、待て。アクアとめぐみん以外の女子学生たちの目まで冷え切ってるから本当にやめてくれ」

 周囲の冷たい視線に怯えるカズマに対し、クリスはクスクスと意地悪く笑った。

「このくらいの逆襲はさせてね? それじゃあ、ちょっと稼いでくるから適当に遊んでいてねダクネス。じゃあ、いってみよう!」

 言い残すと、クリスはどこかへ走り去っていった。

「それで? カズマは、無事に環情制の技術を習得できたんですか?」

 めぐみんの問いかけに、ニヤリと不敵に笑って応じる。

「ふふ、まあ見てろよ。行くぜ、スティールッ!」

 カズマが叫び、めぐみんに右手を突き出すと、その手にはしっかりと黒い布切れが握られていた。

 そう、パンツである。

「……なんです? 技術を覚えて一般科から変態に専攻を変えたのですか? ……あの、スースーするので早く返してください」

 「あ、あれっ⁉︎ おかしいな、こんなはずじゃ……。波形が一致する対象をランダムで奪い取る技術のはずなのに!」

 慌ててめぐみんに返却し、いよいよ女子陣の視線がゴミを見るようなものに変わっていく中、それは突然起こった。

『緊急警報。緊急警報。バイオ工学棟、第4管理セクションより、実験体が広域脱走。至急、近隣の全学生は回収任務に移行せよ』

 スピーカーから放たれた無機質な合成音声。

 思わず耳を塞ぎたくなるような音圧に顔を顰める。

 同時、ポケットに入れていたスマートフォンからプッシュ通知がなった。

 画面には、【学園指定緊急演習課題:E-08】という太字が躍っている。

「……農学部管轄・自律飛行型環境観測ユニットの集団暴走、ね」

 カズマが画面をスクロールして詳細を確認していると、横から覗き込んだめぐみんが、血色の良い顔で叫んだ。

「来ましたよ、キャベツです! キャベツがやってきたのですよカズマ!」

「いや、キャベツって何だよ。これ魔素データ収集ユニットじゃないのか? というか、よくある演習なのか?」

 カズマが画面上の無機質な名称と彼女の興奮ぶりを交互に見返すと、ダクネスが至極当然のように補足した。

「見た目がそれっぽいからだ。農学部の連中がそう呼んでいるのが広まったらしい」

 ダクネスによれば、この機体はまだ研究途上の試作段階であり、システムの脆弱性から定期的に集団暴走を引き起こすのだという。

「だから時々こういった緊急演習が出るのだが、そのたびに高額な報酬が設定されるから学生たちの間では一種のボーナスイベント扱いされているのだ」

「高額な報酬だと⁉︎」

 ダクネスの言葉に慌ててメールを読み返し、彼の思考から名前の疑問は綺麗さっぱり消失した。

『回収報酬:1ユニットにつき10,000ポイント』

「おいお前ら、モタモタすんな! 行くぞ、荒稼ぎの時間だ!」

 カズマは先ほどまでの怠惰な態度を投げ捨て、学園広場へと全速力で駆け出した。

 

「なんじゃこりゃ」

 学園中央広場に到着した一行が目にしたのは、まさに地獄絵図だった。

 空を埋め尽くすのは、緑色の発光エフェクトを撒き散らしながら高速飛行する球体群だ。

 それらが不規則な機動で学生たちに肉弾突撃を敢行している。

「ぎゃあああ! 痛い、鼻に当たった!」

「こら、逃げるなポイント!」

 逃げ惑う人々と、魔素デバイスを構えて迎撃する人々が入り乱れている。

「カズマ、見てなさい! 私の技術の真髄を!」

 アクアが空中に指を走らせると、彼女の周囲に高密度の水属性に変換された魔素が霧のように展開された。

 それは単なる霧ではなく、粘性を持たせた魔素のトラップだ。

 突進してきたキャベツたちがその領域に踏み込んだ瞬間、粘着質な魔素に絡め取られ、失速して地面に転がっていく。

「おお、やるじゃないか。よっし、次は俺の番だ。クリスに教わった魔素感応、実戦で試させてもらうぜ……!」

 カズマは喧騒のなかで目を閉じ、意識を外の世界へと拡張した。

 魔素感知を全開にし、飛び交うキャベツたちが放つジャミングノイズの裏側を探る。

 理屈ではない。

 直感という確信が宿った瞬間、カズマは空間の情報を強引に書き換えた。

「『スティール』ッ!」

 右手にズシリとした重みが走る。

 目を開けると、そこにはキャベツの本体ではなく、鈍く光るデータチップと、まだ熱を帯びたエネルギーコアが握られていた。

 一方、空中で中身を抜かれたキャベツの外殻は、制御を失ってそのまま放物線を描き、遠くの植え込みにシュールな音を立てて突っ込んでいった。

「よし! これなら分解の手間も省ける。どんどん行くぞ!」

 カズマは自身の異常な幸運値に後押しされるように、次々と「当たり」の波形を引き当てていく。

 しかし、演習はそう簡単には終わらなかった。

「カズマ! あそこを見ろ、大型の群れが合流して、より攻撃的な陣形を組み始めているぞ!」

 ダクネスが指差す先では、数百のキャベツが編隊を組み、竜巻のような回転を始めていた。

「くっ、あんなの正面から行ったら骨が折れるぞ……おいダクネス、何やってる!」

「ふふ……ふふふ。あれだけの質量が、一斉に私にぶつかってくるのか……! これぞ演習の醍醐味だ!」

 ダクネスは恍惚の表情を浮かべると触媒を握りしめ、自身の魔素回路を逆流させるような特殊な制御を開始した。

 彼女は精密な放出制御が苦手である。

 しかし、周囲の魔素を自分へと吸い寄せる指向性のヘイト管理は超一流だった。

「さあ、来るがいい! 私のこの体を、ズタズタにしてみせろ!」

 ダクネスが放つ圧倒的な標的情報に釣られ、広場中のキャベツが一斉に向きを変えた。

 緑色の弾丸が、凄まじい風切り音を立てて彼女一人に殺到する。

 ドゴォ、バキィ、という鈍い音が連続し、ダクネスの身体が衝撃で小刻みに震える。

 だが、彼女は一歩も引かない。

 自身の周囲に魔素を凝縮させ、鉄壁の防御膜を張りながら、押し寄せるキャベツをその場に固定し始めた。

「……今です。カズマ、絶好の機会ですよ」

 カズマの隣で、めぐみんが重々しくデバイスを掲げた。

 彼女の周囲では、学園の安全基準値を遥かに超える熱量変換が始まっており、空間が陽炎のように歪んでいる。

「おい待てめぐみん! それは出力が高すぎるだろ! キャベツが全部消し飛んだら報酬がパーになるんだぞ!」

「問答無用! 今の私は、この煮えたぎる魔素を放たなければ爆発してしまいます!」

「壊さないように最低限の出力でやれって言ってるんだよ! おい、聞け、止まれ!」

 カズマの制止など、今の彼女の耳には届かない。

「深淵より出でし極大の火焔よ、全てを焼き尽くせ、『エクスプロージョン』ッ!!」

 轟音と共に、単一指向性の極大熱線が放たれた。

 ダクネスを中心に固まっていたキャベツの群れが、一瞬にして白い光の中に飲み込まれる。

 凄まじい衝撃波が広場を駆け抜け、カズマやアクアは慌てて地面に伏せた。

 数秒後。

 爆風が収まった広場には、もう動いているキャベツは一機も存在しなかった。

 中央には、ボロボロになりながらも満足げに膝をつくダクネスと、演算に脳のリソースを割きすぎ突っ伏しているめぐみんの姿がある。

 あたりには、熱線によって外殻が適度に調理され、機能停止したキャベツの残骸が転がっている。

 また修理費でポイントが減らされるのではないかと不安がよぎるが、それは取り越し苦労だったらしい。

「あ、見てカズマ! めぐみんが打ち込んだ場所が、ちょうどユニットのジャミング中枢だったみたい。外装はボロボロだけど、中のコアとチップは無傷のまま焼き固められてるわ!」

「まじか! よかったああ」

 アクアが拾い上げたキャベツは、まるで完璧なタイミングで火を通された温野菜のように、中のデータチップを保護した状態で停止していた。

 『緊急演習終了。全個体の無力化を確認しました。各学生は回収したユニットを速やかに受付へ搬入してください』

 校内放送が流れ、カズマは大きく溜息をついた。

 

 

 

 演習後の学生食堂にて。

 アクアがクリムゾンビアを掲げながら上機嫌に叫んだ。

「あなた、さすが分子構造定着専科のエリートね。あの鉄壁の分子結合強化は、暴走したキャベツたちの突進すら完全に無力化していたじゃない」

「ん……、私など、ただ分子構造を固定するだけの女だ。私は制御の器用度が低く、演算速度も無い。だから、干渉を行ってもロクに当たらず、誰かの盾になって衝撃を受け止めることしか取り柄が無い……」

 称賛されたダクネスは、心なしか頬を赤らめて視線を彷徨わせた。

「アクアの事象復元も見事なものでした。多くの演習グループに広域リカバリーのパッチを飛ばして大活躍だったではないですか」

「ふふん、まあ私ですから!」

 めぐみんの言葉に鼻高々なアクア。

「めぐみんも凄まじかった。群れたキャベツたちを極大熱変換の一撃で文字通り完全消滅させていたではないか。他の専科生たちのあの驚いた顔といったら無かったな」

「ふふ、我が必殺の位相変換の前において、何者も抗う事など叶わず。……それよりも、カズマの活躍こそ目覚ましかったですね。オーバーヒートしていた私を素早く回収して背負って帰ってくれましたし」

 「……ん。突出した私がキャベツに囲まれ、袋叩きにされている時も、カズマは颯爽と現れ、襲い来るキャベツたちを的確に収穫していってくれた。助かった、礼を言う」

「確かに、魔素感知で素早くキャベツの移動座標を捕捉して、死角から魔素感応でコアを抜き取るその姿は、まるで鮮やかな暗殺者のごとしでした」

「やるわねカズマ! 私から、『華麗なるキャベツ泥棒』の称号を授けてあげるわ」

「やかましいわ! ……ああもう! どうしてこうなった!」

 カズマは頭を抱えたままテーブルに突っ伏した。

 緊急事態である。

「……ん。では、みんな、これからよろしく頼む。名はダクネス。所属は分子構造定着専科だ。一応近接用の触媒デバイスは携行しているが、直接的な制圧能力は期待しないでくれ。なにせ、指向性の制御が低過ぎてほとんど制御できない。だが、衝撃エネルギーを自身に引き寄せて散逸させるのは大得意だ。これからよろしく頼む」

 そう。グループのメンバーが一人、増えたのだ。

 アクアがクリムゾンビアを喉に流し込みながら胸を張る。

「ふふん、ウチのグループもなかなか豪華な顔触れになってきたじゃない? 高密度魔素干渉専攻の私に、事象位相変換専攻のめぐみん。そして、分子構造定着専攻のダクネス。四人中三人が適正Sの属性を有するの専門職なんてグループ、そうそう無いわよ!」

 キャベツ狩りの最中、なぜかダクネスと意気投合したアクアとめぐみんが、彼女を正式にグループに誘おうと言い出した。

 カズマとて、まともな人物なら断る理由は無いのだ。

 何せ、彼女は相当な美人なのだから。

 だが……。

「んっ……。ああ、先ほどの、キャベツの群れにボコボコに蹂躙され、分子防壁が限界まで軋んだ瞬間は堪らなかったな……。このグループで本格的に制御をできるのは私だけのようだから、遠慮なくストッパーとして使い回してくれ。何なら、リスクが高いと判断したら捨て駒として見捨てて貰ってもいい。……んんっ! そ、想像しただけで、む、武者震いが……っ!」

 彼女はただのドMだった。

 アクアやめぐみんと波長が合っていた時点で警戒するべきだったのだ。

 頬をほんのり赤く染めて、ふるふると震えているダクネスを、カズマは泣きたい気持ちで眺めていた。

 こんなに整った顔立ちの美女なのに、もうカズマの目には重度の変質者にしか映らない。

「それではカズマ。多分……いや、間違いなく足を引っ張る事になるとは思うが、その時は遠慮なく強めで罵ってくれ。これから、よろしく頼む」

 カズマは特別な専門スキルを持たない、一般科の生徒だ。

 そんな平均的なスペックの自分が、なぜか学園屈指の適応者たちだらけのグループでリーダーをやっている。

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