この素晴らしい魔法学園に祝福を!   作:バニルの弟子:ショーヘイ

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ダストパーティー登場


第二話 この真の仲間たちとトレードを!

「おい、もう一度言ってみろ」

 カズマは沸騰しそうな怒りを何とか抑え込みながら、静かな声でそいつを睨みつけた。

 学園の掲示板の前、先日残留魔素浄化の実地演習に失敗してポイントがない彼らは、少しでも稼げる案件を探していた。

「何度だって言ってやるよ。適正上位者が揃ったグループで、なんであんな簡単な演習に失敗するんだ。大方お前が足を引っ張ってるんだろ? なあ、一般科さんよ?」

 ダスト・マゼランという男が、仲間の学生たちと肩を揺らして笑っている。

 カズマは必死に堪えた。

 相手の言う事も一理ある。

 不審者扱いされていたウィズを見逃そうと言い出したのは自分だった。

 だが、無言で耐えているカズマを、ダストはビビって何も言えないのだと受け取ったらしい。

「おいおい、何とか言い返せよ一般科さん。ったく、いい女ばっか引き連れてハーレム気取りか? さぞかし毎日、このお姉ちゃん達相手に良い思いしてんだろうなぁ?」

 ホール内に爆笑が巻き起こる。

 カズマは思わず拳を握りしめた。

「カズマ、相手にしてはいけません。私なら何言われても気にしませんし」

「そうだ、酔っ払いの言う事など捨て置けばいい」

「あの男、私達を引き連れてるカズマに妬いてんのよ。ほっときなさいな」

 アクアたちが止めに入るが、カズマの堪忍袋の緒は、男の最後の一言で完全にブチ切れた。

「適正上位者におんぶに抱っこで楽しやがって。苦労知らずでよろしいこって! おい、俺と代わってくれよ兄ちゃんよ?」

「大喜びで代わってやるよおおおおおおおおおおおおっ!!」

 ギルドの中が一瞬で静まり返った。

「……えっ?」

 ダストが、間の抜けた面を晒して硬直する。

「代わってやるよって言ったんだ! ああそうだ、演習失敗は俺の判断だ! だがなあ、お前! お前その後なんつった!」

「そ、その後? その、いい女三人も連れてハーレム気取りかって……」

 思い切りテーブルに拳を叩きつけた。

 その音にホール内の皆がビクリとする。

「いい女! ハーレム‼︎ ハーレムってか⁉︎‘ おいお前、顔にくっついてるのは目玉じゃなくてビー玉かなんかなの? どこにいい女が居るんだよ、教えてくれよ! いいビー玉付けてんな、俺の濁った目玉と取り替えてくれ!」

「「「あ、あれっ?」」」

 なぜかグループメンバーの三人が、それぞれ自分を指差しながら小さな声で呟いた。

 だがそのような呟きなどカズマには届かない。

「テメーこの俺が羨ましいって言ったな! 言ったなオイ! 上級職におんぶに抱っこで楽しやがって⁉︎ 苦労知らずだああああああああっ⁉︎」

「……そ、その……。ご、ごめん……俺も言い過ぎた……。でもお前さんは確かに恵まれている境遇なんだよ! 代わってくれるって言ったな? なら、今日の実地演習。一日だけ代わってくれよ。お前らもいいだろ?」

 ダストは、自分のテーブルの仲間に確認を取った。

「ま、まあ俺は構わないが……。今日はサバイバル演習だしな」

「私もいいよ。でもダスト。あんた、居心地が良いからってもう帰ってこないとか言い出さないでよ?」

「俺も構わんぞ。ダストぐらいいなくてもどうとでもなる」

 絡んできた男と同じテーブルに居た仲間達は口々に言った。

 その様子に調子に乗ったダストがニヤリと笑う。

「っは! いってくれるな。だったら、どっちのグループが優秀な成績を収めるか勝負しようぜ。負けた方が晩飯奢りってのはどうだ?」

「はあ? 何勝手なこと言ってんだよ」

「私たちが不利すぎるじゃん。そんなの受けるわけ……」

「いいぞ、受けてやる」

「「「ちょ⁉︎」」」

 ダストの仲間達が慌てる中、カズマはそのまま受付カウンターへと足を向ける。

「というわけでお姉さん、今日一日ダストとグループの入れ替えをお願いします」

「とうわけでと言われても困りますよ。というかダストさん、アクアさんたちのグループはかなり特殊な編成ですが、本当に大丈夫ですか?」

 受付のお姉さんは困惑した顔で、ダストへと視線を向ける。

「大丈夫だって! この俺様があの上級専科の美女たちを紳士的にエスコートしてやるからよ!」

 ダストが自信満々に学生証を差し出すと、お姉さんは不承不承ながらも端末を操作し、手続きを完了させた。

「ねえカズマ、勝手に話が進んでるけど私達の意見は通らないの?」

「通らない。おい、俺の名はカズマ。今日一日って話だが、どうぞよろしく!」

「「「は、はあ」」」

 絡んできた男の三人の仲間は、若干戸惑い気味の返事を返した。

 

 

 

 ダストの仲間である大柄な男が、カズマを値踏みするように眺め回しながら言ってくる。

「俺はテイラー・グランド。分子構造定着を専攻している。このグループのリーダーだ。俺の言う事はちゃんと聞いてもらうぞ」

「勿論だ。指示してもらえるってのは楽だし、新鮮でいいな。よろしく頼むよ」

 カズマの言葉にテイラーが驚いた表情を浮かべた。

「何だと? あの適正上位者ばかりの連中を一般科のお前がまとめていたのか?」

「そーだよ」

 当たり前のように頷くカズマに、三人が絶句した。

「え、えっと。私はリーン。リーン・フロランス。元素基礎理論を専攻しているわ。風属性変換が得意よ。私が守ってあげるわ、駆け出しクン」

 どこぞのなんちゃって変換者ではなく、本職の変換担当なら心強いと、カズマは素直に感心した。

「俺はキース・フェザーだ。キースでいいぜ。専攻は動体空間補完。空間把握や魔素解析は任せろ。よろしく頼むぜ?」

「改めてよろしく。俺はサトウ・カズマ。一般科だ。……えっと、俺も得意な事とか言った方がいい?」

 カズマの言葉に三人が吹き出した。

「いや、別にいい。カズマは荷物持ちでもやってくれ。ちゃんとポイントは四等分してやるよ」

 テイラーは少し小バカにしたように言ったが、カズマはそんなことはどうでもよかった。

 むしろ荷物持ちをするだけでポイントをもらえるなんて、なんと美味しい話だろうか。

「今日の演習は山道に住み着いたレベル3の自律機の排除だ。それじゃ新入り、早速行こうか」

 快適な演習の予感を前に、カズマは胸を躍らせた。

 

 

 

 学園の喧騒が遠くに霞み、代わりに重苦しい静寂が周囲を支配し始める。

 急勾配で足場の悪い山道を、カズマたちは一定の距離を保ちながら慎重に登っていた。

 一行が足を踏み入れているのは、「高干渉区画」と呼ばれる特殊な地帯だ。

 ここは魔素の密度と流向が激しく変節するため、高度な技術習得者でなければ、魔素の安定運用すらままならない。

 実際、カズマの左腕に装着されたデバイスのモニターには、周囲の干渉波を拾った細かなノイズが走り始めていた。

 

 今回の演習内容は、 二十四時間の間に指定されたチェックポイントを五箇所回り、観測データを回収すること。

 演習意義としては、過酷な環境下での適応力と、普段通りのパフォーマンスを維持できるかを試すためである。

 さらに厄介なのは、チェックポイントを守るようプログラミングされた自律式歩行型掃射機の存在だった。

 この不気味な緑色の迷彩を施した小柄な警備ロボは、学生たちの間で「ゴブリン」と呼ばれ忌み嫌われている。

 一機ごとの性能は大したことないが、集団での連携掃射に秀でており、粘着性のペイント弾で学生側のデバイス機能を一時的に麻痺させてくるのだ。

 接敵すれば、地形を利用して逃走するか、あるいは魔素技術を駆使して強引に機能停止させるしかない。

 まさに、理論と実技を極限状態で試される、実戦さながらの付加実験と言えた。

 当然ながら難易度は跳ね上がるが、完遂した際に付与される報酬ポイントも破格だ。

 慣れた者にとっては、それなりに美味しい演習となる。

 先行するテイラーたちは手慣れた様子で各自の専用デバイスを起動させ、無駄のない動きで役割分担を済ませていた。

「カズマ、お前は後ろで荷物を見ててくれればそれでいい」

 テイラーが、余裕を感じさせる笑みを浮かべて言い放つ。

「索敵は俺の動体予測で十分だ。一般科のお前が下手に動くとノイズが混じるから、余計なことはするなよ」

 キースも多機能観測機を調整しながら、どこか小馬鹿にしたような調子で言葉を添えた。

 だが、カズマの内心は清々しいほどの感動で満たされていた。

 普段の、誰が何をするかも決まっていない支離滅裂なグループとは違う。

 カズマの前にいるのは、安全と理屈を突き詰めた、最先端技術を学ぶ学生のあるべき姿だった。

「……斜面の上、何か山道をこっち向かって来ている。魔素感知に反応があった。でも、一体だけだな」

 ゴブリンは集団で行動するルーチンが組まれているはずだが、はぐれ個体だろうかとカズマは思考を巡らせる。

 しかし、その指摘を聞いた三人は、まるで雷に打たれたかのようにその場に硬直した。

「カズマ、お前魔素感知が使えるのか? ……キース、確認しろ!」

「了解! 今全域スキャンを前方セクターに絞る」

 キースが端末を操作し、広域探査から超精密解析へとモードを切り替える。

 数秒後、解析結果を映し出したモニターを見たキースの顔は、みるみるうちに土気色へと変わっていった。

「……マジかよ。新人殺しだ」

 新人殺し、それは広域環境守護個体の別称である。

 高干渉山岳区域の秩序維持を司るガーディアンであり、動体を排除対象として認識し、容赦ない粛清を仕掛ける自律ロボットだ。

 非常に狡猾なAIを搭載しており、時には下位個体であるゴブリンを扇動して包囲網を形成させることすらあるという。

 極めて高いステルス性能を有するため、通常の索敵デバイスでは直前まで探知できず、未熟な学生たちにとっては正に天敵と呼ぶべき存在だった。

 テイラーとリーンの全身に、一気に緊張が走る。

「よく分からんが、とりあえずそこの茂みに隠れとく? 魔素同調を使えば、俺に触れている間は全員分隠蔽できるはずだけど」

 カズマは事の重大さを完全には理解せぬまま、顔面を蒼白にさせている三人を不思議に思いつつ提案した。

 三人は一瞬だけ顔を見合わせたが、速やかにカズマの提案に乗り、大きな岩陰へと身を潜めた。

 周囲に不気味な静寂が戻り、ただ風で木々がざわめく音だけが鼓膜を打つ。

 張り詰めた空気の中、ついに「それ」は姿を現した。

 外見は大型のネコ科猛獣を模した、四足歩行の多脚戦車。

 低い駆動音を心臓に響かせながら、全身を光を吸収する黒い合成繊維で覆った個体が、彼らの潜む岩のすぐ前で足を止めた。

 頭部の赤外線センサーが不規則な軌道で虚空をなぞり、不可視の敵を検知しようと不気味に蠢いている。

 その威圧感を至近距離で浴びたリーンが、悲鳴を殺すように慌てて自分の口元を両手で押さえた。

 魔素同調を維持するカズマの肩や腕に、三人の震える手が必死に縋り付く。

 神経質な探索を続けていた獣の機械は、やがて獲物がいないと判断したのか、カズマたちが登ってきた山道の方へと静かに消えていった。

「……ぶはーっ! こ、こ、怖かったあああ!」

「し、心臓が止まるかと思ったぞ……。あいつが導入されてるなんて聞いてねえ」

 リーンが涙目で胸を撫で下ろし、キースが冷や汗を拭いながら消え入るような声で悪態をつく。

「えっと、さっきのやつってそんなにヤバいのか?」

「逆になぜ知らないんだ! あれは新人殺しだぞ。学生を含め、事前登録のない動体を見つけ次第、物理的に制圧する広域警邏ロボだ。病院送りにされた学生は数知れないんだぞ」

 −−−なにそれ怖い。

「そんな危険な代物、なんで演習中に止めておかないんだよ」

「普段は停止させているらしいんだが、学生の臨機応変な危機管理能力を測定するため、ランダムで稼働させることがあるというのが運営側の言い分だ」

 あまりにも理不尽な教育方針である。

 この学園は学生の安全を軽視しすぎているのではないかと、カズマは憤りすら感じた。

「とりあえず、観測チップの回収を急ごう。規定枚数を集めてしまえば、とっととこの山を下りられるからな」

 テイラーの切実な提案に、一行は慎重に茂みから這い出した。

 すると、リーンがカズマの背負っていた予備機材の一部を、無言で手に取った。

「……もしまた新人殺しに遭遇した時、全員で離脱するなら、カズマも身軽な方がいいでしょ。私も持つわ。そ、その代わり、魔素感知と魔素同調、頼りにしてるね?」

 自分の分の重い荷物を抱えながらも、おどおどとした視線でカズマに懇願してくる。

 リーンのその言葉を合図に、テイラーとキースもカズマの背中から残りの荷物を分担して取り上げた。

「「べ、別に、俺たちはカズマを頼りきってる訳じゃないからな!」」

 顔を背けながらも完璧なハモりを見せるツンデレな二人に、カズマは満足げにほくそ笑んだ。

 

 

 

 そのまま慎重に進行を続けた一行は、垂直に切り立った巨大な岩壁の合間に差し掛かっていた。

 この角を曲がれば、第一チェックポイントとなる観測装置が設置されているはずだ。

「……カズマ、キース、状況はどうだ」

 テイラーが声を潜め、鋭い視線を二人に投げかける。

「今のところ、新人殺しの気配はないな」

 気楽な調子で報告するカズマとは対照的に、キースが苦虫を噛み潰したような顔でモニターを指差した。

「逆にゴブリンの反応は山ほどあるぜ、ったく、どうなってんだ。通常、あいつらは五体一組のルーチンで動くはずだろ? ノイズが多すぎて正確な数が把握できねえ」

「一度、目視で確認した方が良さそうだね」

 リーンの提案により、三人は示し合わせたように慎重な足取りで岩の影から先を覗き込んだ。

 緩やかな下り坂の先、広場状になったセクターには、緑色の外装を施した機体がひしめき合っていた。

 その数、およそ三十体。

「「ちょ、多⁉︎」」

 テイラーとキースの驚愕が重なり、静寂を切り裂く。

「馬鹿、声が大きいわよ!」

 リーンの叱咤も虚しく、その音波を正確に拾いあげたゴブリン機体が一斉にこちらへと振り返った。

 無機質な機械の眼が赤く明滅し、接近者の捕捉を全機に共有する。

「もう、何やってんのよあんた達は!」

「ちくしょう、このまま逃げたって、新人殺しと鉢合わせるリスクが高い! やるぞ!」

「クソッタレ、今日は本当についてねえな!」

 リーンが半泣きで叫ぶ中、テイラーが腰に丸めていた防護布を前方へ勢いよく展開した。

 流し込まれた魔素によって瞬時に分子結合が強化され、布は鋼鉄を凌ぐ硬度の盾へと変貌する。

 ゴブリンたちはシステマティックな連携を開始し、崖と岩に挟まれた狭隘な山道を、機械的な駆動音を鳴らして駆け上がってきた。

 先頭集団が射程に入った瞬間、粘着性の汚染魔素を帯びたペイント弾が、弾幕となって一行を襲う。

 テイラーが盾を地面に叩きつけ、火花を散らしながらその猛攻を正面から受け止めた。

「前方は俺が抑える! カズマは側面からの奇襲を警戒、リーンは中距離から制圧の援護! キースはチップ位置の特定とあいつらの通信妨害を頼む!」

 テイラーが怒号のような指示を飛ばす。

「『ウィンドカーテン』!」

 リーンが手に持った変換器で事象展開を行うと、不可視の防護気流が生成される。

 荒れ狂う戦場において、味方の機動力だけを阻害せず、敵の弾道だけを逸らすその練度は、正統派の事象変換だった。

 普段、大雑把な変換しか見ていなかったカズマは感動に打ち震えていた。

「こんな場所こそこんな手が効くのではなかろうか。『クリエイト・ウォーター』!」

 テンション高めにカズマが発動させたのは、本来なら生活支援に用いるはずの基礎変換技術。

 急斜面の土壌に注ぎ込まれた大量の水分は、重力に従って瞬く間にゴブリンたちの足元を泥濘へと変質させていく。

「カズマ、一体何をやって……!」

 驚愕に目を見開くリーンの声を背に、カズマはさらに出力を集中させた。

「『フリーズ』!」

 泥濘化した地面に対し、一転して凍結変換を叩き込む。

 水分を吸った土壌は、ゴブリンたちの駆動脚を飲み込んだまま瞬時に硬い氷へと凝固した。

「「「おおっ‼」」」

 高速で突撃していたゴブリンたちは急激な環境変化に対応できず次々と転倒し、折り重なるように自壊していく。

「テイラー! このすっ転がってる奴らは二人でしばこうぜ、遠い個体は後ろの二人に任せた!」

「で、でかしたカズマ! これなら数がどれだけ居ようが関係ねえ。やっちまえ! ゴブリンなんて一機残らずスクラップにしてやれ!」

「うひゃひゃひゃ、なんだこれ、一方的すぎて楽勝じゃねーか!」

「いっくよ! 最大エネルギーの熱変換、ど真ん中に叩き込むよ!」

 テイラーはその好機を逃さず、防護布を今度は細く丸めた状態で大剣のように固定させ、ゴブリンの駆動源を潰しにかかった。

 キースは弱点部位へと的確に回路破壊パルスを狙撃し、リーンは圧縮された火の魔素弾を放ち、残存する機体を次々と爆砕していく。

 数分と経たぬうちに、三十体を超える大群は、有効な反撃の機会すら与えられず、完全に沈黙した。

 

 その後、カズマたちは順調にチェックポイントを回っていき、朝日が昇る頃にはかつてない達成感を胸に、意気揚々と学園へと帰還した。

 だが、自動ドアの先でカズマたちを待ち構えていたのは、あまりに無残な光景だった。

「うっ……ぐずっ……。ふぐっ……、ひっ、ひぐう……っ……。あっ……、カ、カズマあああっ……」

 ホールの中央で、全身をどぎついピンク色のペイントで塗りつぶされたアクアが泣きじゃくっていた。

 よく見れば彼女の頭部には巨大な獣の歯型が白く残っており、粘着質なシミュレーターの潤滑液で湿っぽく光っている。

 カズマはなにも見なかったことにして、その横を通り過ぎようとした。

「おいっ! 気持ちはよーっく分かるが、頼むから無視しないで聞いてくれよっ!」

 しかし、半泣きになった男が食って掛かってきた。

 それは昨日の朝がた威勢よくグループの交換を申し出てきたダスト。

 アクアたちのグループの新しいリーダーとなった男は、今や見る影もなくボロボロに疲れ果てていた。

 彼の背後では、ダクネスが頬を赤らめて至福の表情を浮かべたまま、白目を剥いて硬直している。

 さらにその傍らのベンチでは、めぐみんが爆裂変換の反動か、抜け殻のように突っ伏していた。

「……えっと、なにこれ。いや、大体分かる。何があったかは大体分かるから、あえて聞きたくないんだけど」

 カズマが引き気味に視線を逸らすと、ダストは逃がさないと言わんばかりにその肩を掴んで揺さぶった。

「聞いてくれよっ! 俺が悪かったから、頼むから一通り説明させてくれよっ!」

 ダストの必死な訴えによれば、演習開始直後にまず各自の保有技術を確認したのが運の尽きだったらしい。

「爆裂理論を用いた特殊変換が使えるって言うから、そりゃすげーって褒めたんだよ。そしたら、我が真の力を見せてやろうとか言い出しやがって!」

 めぐみんは普段の制御リミッターを解除し、全魔素を込めた爆裂変換を、何もない草原で意味もなくぶっ放したのだという。

 泣きながら惨状を書き連ねるダストの言葉を、カズマは耳を塞いで聞こえない振りを決め込んだ。

「おい聞いてくれ、聞いてくれよ! その轟音を聞きつけたのか、新人殺しがいきなり飛んできたんだ! 対処しようにも肝心の変換者はオーバーヒートでぶっ倒れてるしよぉ!」

 ダストが逃げようと指示を出したにもかかわらず、ダクネスが新人殺しに突進したのがトドメだったらしい。

 結果、ダクネスが気絶したタイミングでなんとか新人殺しを振り切り、学園まで戻ってきたのだという。

「ふーん、それは大変だったな。でもほら、あんな美女三人に囲まれてハーレムだって喜んでたじゃないか。一日と言わず、卒業まで交換しててもいいんだぜ?」

 カズマがニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて揶揄うと、ダストはプライドも何もかも捨てて床に膝をついた。

「俺が悪かった! 土下座でも何でもするから、こいつらから俺を解放してくれ!」

 ダストは本気で涙を流しながら、カズマの靴を掴まんばかりの勢いで懇願を続ける。

「そんなこと言われてもなぁ。あ、そういえば負けた方が晩飯を奢るっていう勝負、受けてくれたよな?」

「奢る! いくらでも奢ってやる! なんなら一ヶ月分奢り続けてもいい! だから……」

「おい皆、一日がかりの演習で腹も減ったし、ダスト様の奢りでのんびり最高級の飯でも食おうぜ! 新しいグループの門出に乾杯だ!」

「「「おおおおおっ!!」」」

 テイラー、キース、リーンの三人が、カズマの提案に万雷の拍手と歓声で応える。

 阿鼻叫喚の声を上げるダストを尻目に、カズマはこれ以上ないほど晴れやかな気分で食堂への足取りを早めた。

「これからも、その新しいグループで仲良く頑張ってくれよな。応援してるぜ、リーダーさん」

「嫌だああああっ‼︎ 俺が悪かったからっ‼︎ 全面的に非を認めるから許してくださいっ‼︎」

 響き渡る断末魔のような絶叫は、ホールの喧騒の中に虚しく消えていった。

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