わたしだけ、魔物じゃなくて【人間】を殺害しないと経験値をもらえないんですが?~『癒やし系大天使』とバズった幼女、実は配信の裏で『虐殺』しています~   作:北川ニキタ

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21話 ルール違反はよくない!

 シン、と。

 

 倉庫の中が、真空になったみたいに静まり返っていた。

 

 ……あれれー? 反応が渋いなぁ。

 

 ただドゴルゴン殿下やナガクがドン引きするのはまあ想定内だ。

 

 ――でも、解せないのは『そっち』だよ。

 

 わたしは、宙に浮かぶ『黒いおじさん』こと、邪竜の霊体を見上げた。

 このおじさんは言ったはずだ。

『最も罪悪感なく殺した者に力を与える』と。

 だからこそ、わたしは空気を読んで、そのオーダーに完璧に応えてあげたのに。

 躊躇なく殺し、微塵も心を痛めず、あまつさえ「人助け」というポジティブな動機まで添えた、最高の「サイコパス・アピール」をね。

 

 なのに、なんで出題者のあなたが一番引いてるのかな?

 

『……ひ、ひぃ……ッ』

 

 邪竜の声が、不協和音のように震えている。

 その赤い瞳は、合格者を称えるどころか、得体の知れない怪物を前にした時のように泳いでいた。

 

『わからぬ……貴様のその精神構造は、生物としての枠組みから逸脱している。「殺した」という事実と、「人助け」という認識が、なんの矛盾もなく直結しているだと……?』

 

 邪竜の視線が、わたしの深淵を覗き込もうとして、逆に怯えたように揺らいだ。

 

『貴様は……「人間」ではない。人の皮を被った、もっと別の……さ、「災厄」だ!』

 

 おや?

 災厄だなんて、レディに向かって失礼しちゃうな。

 わたしはただ、効率を愛するゲーマーとして、あなたの出したクエスト条件をクリアしただけなんだよ。

 

 自分から「化け物を連れてこい」って言っておいて、いざ本物が来たらビビっちゃうなんて……さては、この邪竜さん、見た目より繊細なタイプなのかな?

 

『……認めん。認められん』

 

 邪竜が、拒絶するように影を膨張させた。

 

『貴様のような理解不能な存在に、我が力を貸すわけにはいかぬ! 我が加護は、王の器を持つ者にこそふさわしいのだ! 貴様のような、理解不能な狂気になど……ッ!』

 

「――あ?」

 

 わたしの口から、自然と低い声が漏れた。

 

 今、なんて言った?

 認めない? 力を貸さない?

 

「……ちょっと、おじさん」

 

 わたしは、コツコツとブーツを鳴らして一歩前に出た。

 ニッコリと笑ったまま、けれど瞳の奥だけは絶対零度に冷やして、見上げる。

 

「大人が子供に嘘ついちゃ、メッ! でしょ?」

 

 わたしは人差し指を立てて、チッチッと振ってみせた。

 

「『最も罪悪感なく殺した者に力を与える』。それがルール。わたしはそれをクリアした。……だったら、わたしに賞品を渡すのが義務だよね?」

 

『く、来るな……ッ! 近寄るな!』

 

 邪竜が後ずさる。

 影が萎縮し、輪郭がブレている。

 ああ、なるほど。

 

 ――怖がってるんだ、わたしを。

 

 その姿を見た瞬間、わたしは理解した。

 

『あ、こいつ、いけるわ』って。

 

 ビビって震えている時点で、こいつはもう「格下」だ。格下なら、従わせることができる。喰らい尽くして、わたしの力にできる。

 根拠はないけど、ゲーマーとして勘が「イエス」って言ってるんだもん。

 

「ふーん。おじさん、わたしのことが怖いの?」

 

 わたしは一歩、また一歩と距離を詰める。

 

『ち、違う! 我は古の邪竜! 貴様のような幼子になど……!』

 

「怖いんだよね? 震えてるもんね?」

 

 わたしは両手を広げ、無邪気に笑いかけた。

 

「いいよ、怖がっても。……だって、弱いものが強いものを怖がるのは、世界の真理だもん」

 

 その言葉が、決定打だった。

 わたしが「強者」として振る舞い、彼が「弱者」として怯えた。

 その関係性が成立した瞬間、概念的な主従関係が確定する。

 

『あ、あぁ……ッ!? ん、体が、吸い込まれる……ッ!?』

 

 邪竜の影が、わたしの影に向かって雪崩を打って流れ込み始めた。

 魂そのものを「屈服」させた。

 

「ほら、おいで。……わたしが、あなたを有効活用してあげるから」

 

 わたしは、悪魔のように甘く囁き、右手を差し出した。

 

『や、やめろ……ッ! 貴様、その小さな器で、我という巨大な「悪意」を受け止めきれると思って……ぎゃああああああああッ!?』

 

 わたしの掌が、掃除機のように影を飲み干していく。

 邪竜の悲鳴が倉庫に木霊した。

 

 抵抗? 無駄だよ。

 

 だって、もう完全にビビっちゃってるじゃん。恐怖に震えてる負け犬さんがいくら吠えたって、ちっとも怖くないんだよ。

 

 ――ジュルルルルッ!

 

 黒い泥のような奔流が、わたしの右手に収束し、すべて消え失せた。

 血管の中を、氷のように冷たい力が駆け巡る感覚。

 

『や、やめろぉぉぉぉぉぉぉッ!!』

 

 断末魔と共に、邪竜の自我は砕け散り――わたしの影の一部として再構成された。

 

 ――ピロン♪

 

【スキル獲得:『邪竜の加護』】

 

 わたしは、表示されたウィンドウを素早く確認する。そこには、今のわたしにとって運命的とも言える、とんでもない能力が記されていた。

 

 

 

邪竜の加護(ドラゴンズ・シャドウ):Lv1】

・権能1 『影の支配』:自身の影の「形状」「硬度」「質量」を自在に変化させ、物理干渉を可能にする。

・権能2 レベル2になると解放 

 

【LvUP条件】

・『悪意ポイント』を一定量蓄積する。

(※悪意ポイントは、他者から向けられる殺意、恐怖、憎悪の総量、およびその質によって算出されます)

 

 

 

「……んーっ、ふふっ」

 

 わたしは自分の右手を見つめ、握ったり開いたりした。

 指先から、黒い靄が立ち上っている。

 すごい。力が馴染む。まるで最初からわたしの体の一部だったみたいに。

 

 それにしても……「悪意を集めろ」だなんて。

 わたしが押し付けられた【殺人鬼の加護】と、あまりにも相性が良すぎるじゃない?

 人を殺して経験値を稼ぎ、人から憎まれてスキルを強化する。

 システム的に言えば、これ以上ないほど完璧なシナジーだ。無駄がない。美しいとさえ言える「悪役ビルド」の完成だ。

 

 ……うん。

 ゲーマーとしては満点なんだけど、乙女としては、ちょっと複雑……。

 

 だって、わたしは「世界一かわいいる完璧な公爵令嬢」なんだよ?

 なのに、強くなろうとすればするほど、世界中の人々から「死ね!」って思われなきゃいけないなんて。

 運営さん、わたしのこと嫌いなのかなー。それとも「お前はヒールがお似合いだ」っていう皮肉?

 

「ま、いっか」

 

 わたしはそう言って、小さく肩をすくめるのだった。

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