わたしだけ、魔物じゃなくて【人間】を殺害しないと経験値をもらえないんですが?~『癒やし系大天使』とバズった幼女、実は配信の裏で『虐殺』しています~ 作:北川ニキタ
「な……な、な……っ」
目の前で起きた怪現象に、ドゴルゴン殿下が腰を抜かしてへたり込んでいた。
「私の……私の邪竜が……! 食われた、だと……!?」
「あ、ありがとうございます殿下! とっても素敵なプレゼントでした!」
わたしはスカートをつまんで、本日二度目のカーテシーを披露した。
略奪完了。
さて、成果もあったことだし、そろそろ帰って寝ようかな――なんて思った、その時だ。
「ふ、ふざけるな……ッ! 返せ! それは私の力だ! 私が王になるための力なんだ!!」
ドゴルゴンが、子供のように喚き散らした。
そして、血走った目で隣の巨漢を指差す。
「ナガク! やれッ! 殺せ! そのガキを八つ裂きにして、中から邪竜を取り出せぇぇぇッ!!」
命令が下った瞬間。
それまで石像のように沈黙していた護衛騎士、ナガクが動いた。
――速い。
レベル64の瞬発力は伊達じゃない。
床を蹴る音と同時に、巨体が砲弾のように迫ってくる。
彼が振り上げたのは、身の丈ほどもある巨大な曲刀。あんなの、まともに食らえばわたしなんて、トマトみたいにプチっと潰れちゃう。
普通の幼女なら、死を覚悟して泣き叫ぶ場面だ。
――でも。
わたしは、あくびが出そうなほど冷静だった。
だって、今のわたしには、とびきりの「新しいオモチャ」があるんだから。
「……さっそく、試し斬り、しちゃおっか」
わたしは、迫りくる鋼鉄の刃を見据え、右手の親指と人差指を立てて、L字を作った。
イメージするのは、逃げ場なき完全切断。二つの刃が合わさり、その間の空間を綺麗に切り取る断裁機構。
ナガクの認識速度を遥かに超えて、影で構成された二枚の巨大な「刃の壁」が、音もなく出現した。
鋭利に研ぎ澄まされた二つの切っ先が、ナガクを挟んで向かい合う。
ナガクの体が、その射程内に飛び込んだ、次の瞬間。
わたしは、指をパチンと閉じた。
「――ジョッキン!」
スパァンッ――
空気を切り裂く鋭い音が、一瞬だけ響いた。
左右から迫った巨大な刃が、中央で吸い込まれるように、寸分の狂いもなく重なり合ったのだ。
抵抗? 悲鳴?
そんな無粋なものなんて入り込む余地はないんだよね。
レベル64の強靭な肉体も、どうみても高価な鎧も、振り上げられた大剣も。
交差する刃の前では、陽炎か煙のように脆かった。
残されたナガクは、まだ立っていた。
キョトンとした顔で、何が起きたのかわからないように。
けれど、次の瞬間。
――ズズッ……。
彼の身体の中心に、一本の赤い線が走った。
ドサァッ……!
左右に分かたれた肉体が、自重に耐えきれず崩れ落ちる。
断面は鏡のように滑らかで、心臓が動きを止めたことすら理解していないのか、血は一滴も流れていなかった。
あまりにも鮮やかすぎる、即死。
「うん。切れ味、抜群だね」
わたしは口元に手を当てて、満足げに頷いた。
手応えすら感じさせない、空を切るような軽さ。
速すぎて、自分が死んだことすら気づけなかったんじゃないかな? これぞ、アリスちゃん流の慈悲ってやつだね。
そして。
ナガクの死体が完全に沈黙した、その直後だった。
――ピロリン♪
――ピロリロリン♪
――ピロピロピロピロピロリンッ!!!
わたしの脳内で、通知音が狂ったように鳴り響いた。
「わ、わわっ!?」
【レベルアップ! レベル33になりました】
【レベルアップ! レベル34になりました】
【レベルアップ! レベル35になりました】
………… ……
【レベルアップ! レベル45になりました】
「すご……っ! 止まんない!」
全身を、温かい力が奔流となって駆け巡る。筋肉が密度を増し、魔力回路が焼き切れる寸前まで拡張され、感覚が鋭敏になっていく。
「ん、んぁ……♡」
わたしは思わず、とろんとした声を漏らしてその場にへたり込みそうになった。
この感覚。
一瞬で強くなる、この背徳的な快感。
これだから「格上狩り」はやめられないんだよねぇ。
一気に13レベルアップ。
今のわたしなら、素手でも岩くらい砕けるかもしれない。
わたしは、あふれ出る全能感に酔いしれながら、ほうっと熱い息を吐いた。
そして、ゆっくりと顔を上げる。
そこには。
「ひ、ひぃ、あ、あぁ……」
腰を抜かし、股間を濡らしたまま、ガチガチと歯を鳴らすドゴルゴン殿下の姿があった。
わたしは、彼に近づき、しゃがみ込んだ。
そして、レベルアップしたばかりのツヤツヤお肌で、とびきり可愛く小首をかしげて見せる。
「ねえ、お兄様?」
わたしは、まだ指先に残る黒い靄を弄びながら、天使のように微笑んだ。
「次は、お兄様の番ですよ――」