わたしだけ、魔物じゃなくて【人間】を殺害しないと経験値をもらえないんですが?~『癒やし系大天使』とバズった幼女、実は配信の裏で『虐殺』しています~   作:北川ニキタ

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24話 どうみてもこれが最効率

 誰がどう見ても、ここで殿下の手を取るのが「賢い生き方」だよね。

 

「はい、本当に……反論の余地がないくらい、素晴らしい提案です」

 

 わたしは、ニヤリと唇を吊り上げた。

 鏡を見なくてもわかる。

 今のわたしはきっと、悪魔ですら裸足で逃げ出すような、最高に計算高く、そして邪悪な「ドヤ顔」を決めているはずだ。

 

 ガシッ。

 

 わたしは迷うことなく、その手を強く握りしめた。

 

「――普通の人なら、ね?」

 

 ザシュッ。

 乾いた音が、一つだけ響いた。

 

「…………え?」

 

 ドゴルゴン殿下の表情が、歓喜の形のままで凍りついた。

 彼が差し出した右手。

 その手首から先が、ぽろりと地面に落ちたからだ。

 一拍遅れて、鮮血が噴き出す。

 

「あ……あ、あァ……?」

 

 殿下は、何が起きたのか理解できない様子で、血を吹き出す自分の腕と、わたしの顔を交互に見た。

 わたしの右手からは、黒い影が鋭い刃となって伸びている。

 

「な、なぜ……?」

 

 彼は、呻くように問うた。

 

「なぜだ……ッ! 私の提案は……完璧だったはずだ……ッ! 損など、ないはずだ……ッ!」

 

「はい、完璧でしたよ。論理的にはね」

 

 わたしは、返り血を避けるように一歩下がって、呆れたように肩をすくめた。

 

「でもね、お兄様。わたし、気が付いちゃったんです」

 

 わたしは人差し指を立てて、チッチッと振ってみせた。

 

「お兄様の言う通り、わたしが良い子にして待っていれば、安全に経験値がもらえるかもしれません。……でも、それっていつになるんですか? 五年後? 十年後?」

 

「そ、それがどうした! 待てば確実に手に入るのだぞ!?」

 

「待てないですよ」

 

 わたしは冷たく言い放った。

 

「わたしは今すぐ、強くなりたいんです。そんな気の遠くなるような時間、指をくわえて待ってるなんて退屈すぎて死んじゃいます」

 

 それにね。

 わたしは、とびきりの笑顔で、悪魔的なアイデアを披露した。

 

「ここで『王族殺し』の大罪人になったほうが、断然『面白そう』じゃないですか!」

 

「は……?」

 

 殿下が、理解不能という顔で口を開けた。

 

「だって考えてもみてくださいよ。わたしが王族を殺したら、国中が大騒ぎになって、優秀な騎士様や暗殺者が、たーくさんわたしを殺しに来てくれるかもしれませんよ?」

 

 わたしはウットリと頬に手を当てた。

 

「つまり、自分から探しに行かなくても、向こうから勝手に『経験値』がデリバリーされてくるってことですよね? これって、お兄様が提案してくれた『狩り場』よりも、ずっとエキサイティングで効率的じゃないですか?」

 

 追われる身になる?

 上等だよ。

 全プレイヤーを敵に回して生き残るサバイバルモードなんて、むしろゲーマーの腕が鳴るってもんだ。

 それに、さっき手に入れた『邪竜の加護』。これのレベルアップ条件が『悪意を集めること』ってのも理由のひとつだ。

 

 まあ、でも、『おもしろそう!』ってのが理由の大部分かな!

 やっぱりゲームは楽しく遊んでなんぼだよね。

 

 ドゴルゴン殿下は、絶句していた。

 恐怖すら通り越して、ただただ呆然と、理解の及ばない異界の生物を見つめるように。

 

 やがて、彼は震える唇を開き、かすれた声で絞り出した。

 

「き……貴様……やはり人間ではない……ッ! こ、この、化け物がぁぁぁぁッ!!」

 

 化け物。

 その言葉に、わたしはムッと頬を膨らませた。

 

「もうひどいなぁ」

 

 わたしは影の刃を、無慈悲に振りかぶる。

 

「そんなひどいこと言わなくてもいいじゃないですか。殺したくらいで」

 

 わたしは、怯える殿下を見下ろし、諭すように、優しく微笑みかけた。

 

「だって、この世界はただの『――』なんですから」

 

 ――ザザッ……!

 

 不意に。

 わたしの口から出るはずだった単語が、不快なノイズにかき消された。

 

「……はへ?」

 

 殿下が、死の直前で呆けた顔をする。

 

 あれ?

 わたしは今、「ゲーム」って言ったはずなのに。

 まるで世界のシステムそのものが、その言葉を遮断するかのように、強制的に音を歪ませた。

 

 あー、なるほどね。

 きっとこの世界をデスゲームにした「悪いAI」の仕業だろう。

 他の人たちに「ここが仮想現実だ」って気づかせないための、検閲機能ってところかな。

 そんなことを考えながら、わたしは影の刃を振り下ろした。

 

 ――ズドンッ!!

 

 振り下ろされた影の刃が、殿下の脳天から股下までを一瞬で駆け抜けた。

 ドゴルゴン殿下の体は、左右に綺麗に分かれ、物言わぬ肉塊へと変わった。

 

 ――ピロリン♪

 

【レベルアップ! レベル46になりました】

【レベルアップ! レベル47になりました】

【レベルアップ! レベル48になりました】

 

 脳内に響く、気の抜けた電子音。

 

 わたしは足元の「元・お兄様」を見下ろし、ふう、と息を吐いた。

 

「あ、そうだ。忘れないうちに確認しとかないと」

 

 わたしはウィンドウを開き、一番のお目当てだった項目をチェックする。

 

【殺人鬼の加護:レベル1】

 ・NEXT:あと3人殺害でレベルアップ

 

「……そっか、あと3人殺さなきゃいけないのか」

 

 ちょうど、さっきお兄様が儀式のために薬漬けにした部下たちが、まだ何人か床で痙攣している。

 

 ――ラッキー。ちょうど、三人いるや。

 

「ごめんね、名もなきモブさんたち。どうせ廃人になっちゃってるし、楽にしてあげるね」

 

 わたしは右手を軽く振った。

 黒い影が鞭のように伸び、床に転がる3人の首を、流れるような動作で刈り取った。

 

 ――ピロン♪

 

【レベルアップ! レベル49になりました】

【レベルアップ! レベル50になりました】

 

 あっ、ついに50レベルの大台にのった!

 そして――。

 

【条件達成を確認。スキル『殺人鬼の加護』がレベル2に到達しました】

【新たな権能の解放条件を達成しました】

 

「やったーっ! 今度こそ達成!」

 

 わたしは両手を広げてバンザイをする。

 詳しい能力の確認は、おうちに帰ってからのお楽しみにとっておこう。

 今は、さっさと撤収作業をしなくちゃ。

 

 ……と、その前に。

 

「せっかくだし、記念に『足跡』を残しておこうかな」

 

 わたしはニヤリと笑い、殿下の死体のそばにしゃがみ込んだ。

 指先に、殿下の血をちょん、とつける。

 

 せっかくだし、わたしは、国中から恨まれて、恐れられる「大悪党」になろう。

 そのためには、この事件がただの「行方不明」や「事故」で処理されちゃ困るのだ。

 それには、誰が見ても震え上がるような、かっこいい「犯行声明」が必要だよね?

 

 わたしは、倉庫の壁に、血文字でサラサラとメッセージを刻んだ。

 

『ごちそうさまでした♡』

 

 その横に、可愛らしいドクロのマークを添えて。

 

「くっくっくっ、中二病っぽくて最高にかっこいいかも!」

 

 自画自賛しながら頷く。

 これで明日には、新聞の一面間違いなしだ。

 みんながこの「正体不明の殺人鬼」に恐怖し、憎悪を募らせてくれれば、わたしの新スキル『邪竜の加護』の糧になる。

 

「まあ、まさか犯人が『6歳の公爵令嬢』だなんて、誰も思いつかないだろうけどね」

 

 わたしはケラケラと笑った。

 だって、わたしの顔を見た殿下もナガクも、部下たちも、もう全員喋らない肉塊だ。

 死人に口なし。完全犯罪。

 現場には「不気味な死神」の痕跡しか残っていない。

 

「さて、帰ろっと。セーラが起きる前にベッドに戻らなきゃね」

 

 わたしはURブーツの踵を鳴らし、軽い足取りで闇夜へと消えていった。

 背後に、国を揺るがす大事件の火種を置き土産にして。

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