わたしだけ、魔物じゃなくて【人間】を殺害しないと経験値をもらえないんですが?~『癒やし系大天使』とバズった幼女、実は配信の裏で『虐殺』しています~   作:北川ニキタ

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31話 突然の乱入

 シュッ、シュッ、シュッ!

 

 夜の寝室に、風を切る鋭い音が響いていた。

 

「主様! ご覧ください! これならば戦えますぞ!」

 

 月明かりの下、茶色いクマのぬいぐるみが、器用に黒塗りのダガーナイフを振り回している。

 

 短い手足。

 ずんぐりむっくりしたボディ。

 本来なら、指のないその丸い手で武器を握ることなんて不可能なはずだ。

 

 けれど、彼――元戦士のナガクは、その物理的な欠陥を、新しく手に入れたスキルで克服した。

 

「……すごい。本当にくっついているみたい」

 

 わたしはベッドに腰掛け、感心したように声を上げた。

 

 一見すると、丸い手がナイフを握っているように見える。

 けれど、実際にくっついているというべきだろうか。

 

 ――念動力。

 

 ナガクは、自身のスキル【ポルターガイストの加護】による力で、ナイフを掌に「吸着」させているのだ。

 

「ふむ。以前の肉体よりも、こちらのほうが可動域の制限がない分、変幻自在な剣劇が可能かもしれませぬな」

 

 ナガクは、空中でナイフをクルクルと高速回転させ、パシッと逆手に持ち替えてみせた。

 その動きは、生前の彼よりも鋭く、そして予測不能。

 

 うん、これは期待以上かも。

 見た目は愛らしいクマさん。中身は超・実戦仕様の殺戮マシーン。

 このギャップ、敵からしたら悪夢でしかないよね。

 

「他の人たちも蘇生させたいけど……器がなにがいいのかわからないのが悩みだね」

 

 わたしはウィンドウを開き、保留中の魂ストックを眺めた。

 ドゴルゴンお兄様や、他の部下たち。

 彼らも早く手駒に加えたいけれど、とはいえ、深く考えないで器を用意するのもなー。適当な家具に入れるなんてわけにもいかないし。

 

「まあ、焦る必要はないか。まずはナガクさん実力を確かめてもいいよね」

 

 わたしは、ウィンドウを切り替え、一番のお目当てのページを表示させた。

 

【殺人鬼の加護:レベル2】

『NEXT:あと30人殺害でレベルアップ』

『レベル3到達時、新たな権能が解放されます』

 

「……あと、三十人かぁ」

 

 なかなかしんどい数字だ。できれば、すぐさま達成したいけど、焦りすぎもよくないよね。ナガクにとっては初参戦だし、今日は慎重にいこう。

 わたしはパンッと手を叩き、ベッドから飛び降りた。

 

「さて、今夜も行こうか。……レベル上げに」

 

 わたしはすでに、夜のお仕事用の衣装に着替えていた。

 漆黒の外套に、ドクロの仮面。

 そして、その隣には――。

 

「ハッ! お供いたします、主殿!」

 

 ナガクが、ビシッと敬礼を決める。

 彼の茶色いボディは今、わたしとお揃いの黒い布で覆われていた。

 昼間、わたしがこっそり刺繍をして作った、特製の戦闘用ベストだ。背中には、禍々しいドクロのマーク入り。

 なかなかセンスいいね、わたし。

 

 パパとママは、王宮での会議が長引いているのか、今夜はもう帰ってこないみたいだ。

 まだ王宮は混乱している最中ってことだ。

 まさに、絶好の狩り日和。

 

「場所はわかるね、ナガク」

 

「無論にございます。『鍵』の刺青を持つ闇ギルド『パンドラ』……奴らのアジトは、スラムの地下水道の奥。そこならば、衛兵の目も届きませぬ」

 

 さすがは元・裏社会の住人。

 持っている情報量が違う。

 自分で獲物を探して歩き回る手間が省けるなんて、効率的すぎて笑いが止まらないや。

 

「よし、出発!」

 

 わたしが窓枠に手をかけ、夜風の中に身を躍らせようとした、その時だった。

 

 ――ジジジッ。

 

 不快なノイズが、部屋の空気を震わせた。

 耳障りな電子音と共に、空間が歪む。

 

「……あ?」

 

 わたしは露骨に顔をしかめた。

 この感覚、知っている。

 生理的な嫌悪感を催す、あの独特の気配。

 

『ぴんぽーん! こんばんわぁ、アリス様ぁ!』

 

 空間の裂け目から現れたのは、虹色に発光するふざけたAI。

 

 ――ピュピュアだった。

 

「……チッ。なに?」

 

 わたしは隠そうともせず舌打ちをした。

 せっかく楽しい狩りの時間だったのに、一番会いたくない奴が現れた。

 

『あらあら、ひどいご挨拶ですねぇ! 感動の再会だというのに!』

 

 ピュピュアは空中でくるりと一回転し、私の周りをウザったく飛び回る。

 

『どうですかぁ? プレゼントした『最強スキル』は! 気に入っていただけましたかぁ? あ、ちなみにそのクマさんも素敵ですねぇ! 趣味が悪くて最高です!』

 

「……アンタ、喧嘩売りに来たの?」

 

 わたしはドクロの仮面越しに、冷たい視線を浴びせた。

 こいつ、本当にいちいち神経を逆撫でする天才だよね。

 

「用がないなら消えてくれる? わたし、これから忙しいんだけど」

 

『おやおや、つれないですねぇ。わたくしだって、無意味に現れたわけではございませんよ?』

 

 ピュピュアは、空中でピタリと静止した。

 その張り付いたような笑顔が、一瞬だけ、底冷えするような無機質なものに変わる。

 

『ちゃんとお伝えしなきゃいけないことがありまして! ……運営からのお知らせ、みたいなものですねぇ』

 

「……お知らせ?」

 

 そういって彼女が告げた内容はあまりにも残酷な事実だった。

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