カードで運命を切り開け!バトル・ディスティニー・チェンジャー! 作:葉分
薄暗い月明かりとわずかな街頭を頼りに、近くの公園で一度休憩をすることにした。人気のないベンチに詩杏を横たわらせるとまだ体温の残る短ランをそっと腹に被せ、荒い呼吸を整えながらも未だ消えずにそこに立ち続けているフィリオへと視線を向け、さっきまでの出来事が現実だったのかを確かめるように声をかけた。
「お前、いやフィリオ。あの首無し野郎に勇者だとか、ここまで追って来たとか言われてたけど、お前はどこから来たんだ……?」
「僕は異世界から来たんだ。魔凰の気配を追ってね。」
「異世界!?…...ってそこまで驚くことじゃないな。それ以外に考えられない。でも魔凰ってなんだ?魔王じゃなくてか?」
「意味としてはそんなに変わらない。不死鳥の魔王だから魔凰と呼ばれている。魔凰は僕たちの世界で圧政を敷いていた。欲しければ奪い、邪魔なら丸め込み手中に収める。そうやって僕の世界を無茶苦茶にした悪い存在だったらしい。」
「だった?」
思わず聞き返すと、フィリオは一瞬だけ遠くを見るように視線を逸らし、それから小さく息を吐いた。
「魔凰は先代の勇者様に封印されたんだ。だけど、最近になって魔凰が蘇ったと魔凰軍の残党が騒ぎ始めた。魔凰との戦いで致命傷を食らい、弱った先代様の任を僕が譲り受け、魔凰が本当に復活したのか、魔凰軍残党を倒しながら調査を進めていた。その最中に、この世界で微かな魔凰の気配を感じたんだ。」
「魔凰がこの世界に……」
「異世界に渡る際に、目印となるものが必要だった。それが、君が持つ5枚のブランクカード。いや、だったものかな。僕は自らの分身であるカードを送り、君がバトルしてる最中にようやく渡って来ることができたんだ。」
言われて俺はデッキケースからデッキを取り出し、中身を確認すると、そこにあったはずの何も描かれていなかったカードは、今ではどれも淡い光を帯びながら勇者フィリオに関係するカードへと姿を変えており、その変化がただの偶然ではないことを嫌でも実感させてくる。
「ユウガ君、この僕の世界の戦いに君達を巻き込んでしまったこと、謝罪させてくれ。」
勇者は深々と頭を上げた。その仕草はどこまでも真っ直ぐで、だからこそ逆に苛立ちが込み上げてきて、俺は奥歯を噛み締めながら拳を握った。
「本当だったら、今すぐにテメエをぶん殴ってやりたいところだ。だが、この拳の矛先はその魔凰とやらに向けさせてはくれねえか?」
「ユウガ君……?」
勇者は俺の言葉に驚くように顔を上げる。
「俺だけが巻き込まれてんなら、お前を殴って終わりだった。だが、詩杏を人質みてえに扱われて、何もせずに引き下がれるほど俺は出来ちゃいねえんだよ……お前が魔凰とかいう野郎を倒すってんなら、俺にもそいつを一発ぶん殴らせろ。」
俺はフィリオの前に拳を突き出して宣言する。
「わかった……僕たち異世界の戦いはこの世界にもあるBDCを使うものだ。直接殴る蹴るなんて生易しいものではないことだけは、覚悟してくれ。」
「異世界にBDCがあるのが驚きなんだが。」
「君たちの世界じゃ戦いの道具じゃないのかい?」
「娯楽だよ娯楽。こっちの世界じゃむしろ戦い何てご法度だ。」
「でも、君は魔凰を殴りたいって」
「俺は、その……あれだから。ヤンキーだから!ご法度にならない程度の喧嘩が好きな暴力少年だから!」
ぐぅ~~~
「「あ」」
言い訳みたいな言葉を吐き出した直後、俺とフィリオの腹の虫が静まり返った夜の公園に響いた。そういえばもうそんな時間だった。詩杏に長く夜風に当てるのもあれだ。とりあえず、家まで送ってやらねえと。飯はその後だな。
「とりあえず、休憩はここまでだ。詩杏を家まで送るぞ。」
俺がベンチに足早に駆け寄って詩杏の体を起こそうとすると、不意に詩杏が体を起こす。
「あれ……あの後どうなって……遊牙……?それに……コスプレイヤー?」
「記憶が曖昧になってるようだ。操られてもなお抵抗した故の後遺症だろう。」
「いや、お前の姿俺らからしたら変だから。」
「変だとはなんだ。これは由緒正しき勇者の服だぞ!」
「そういうことじゃねえ!とにかく、詩杏今からお前を家まで送ってくから、ほら肩貸せ。」
「あ、それは大丈夫立てるから……っ」
立ち上がろうとした詩杏の身体がふらりと揺れ、そのまま倒れかけたところを慌てて支えると、思っていたよりも体温が低くて一瞬だけ心臓が嫌な音を立てる。
「フラフラの癖して強がんな。とりあえず、お前の両親には火事に巻き込まれてちょっと意識が飛んでたってことにしとくから。」
「今日、親二人とも夜勤で家にいない。」
「えぇ、こんな時にか……しょうがねえ、今日だけは俺ん家に泊めてやる。夕飯も作ってやるから、今度BDCのパック奢れよな。あとBDCのレクチャーも。」
「はいはい。」
「フィリオも食ってくか?簡単なものしか作れねえけど。」
「お言葉に甘えさせてもらおうかな。」
「あいよ」
「遊牙夕飯なにー?」
「たぶんカレー。てかカレー作るぐらいの材料しかない。」
「お風呂も入りたいー」
「着替えはどうすんだよ。」
「服貸してー」
「やだ。お前が着ると服が伸びる。」
そんなやり取りをしながら俺たちは公園を後にし、街灯の明かりが点々と続く夜道をゆっくりと歩き始める。さっきまでの戦いの余韻がまだ身体の奥に残っているのか、足元が少しだけふらつくのを感じながらも詩杏の体重を支えつつ一歩ずつ進み、途中で何度か立ち止まりながらもなんとか家まで辿り着いて玄関の扉を開けた。
「ただいま。」
返って来る言葉は無く、帰宅の合図が静かな家の中を木霊する。
「あ、そうそう。靴脱いで上がってくれよ。」
「なぜだい?」
「日本って国じゃこれが家に上がる時のマナーだからな。」
靴のまま上がろうとするフィリオに少しばかりのマナーを教え、玄関に入ってすぐ左横のリビングへと移り、ソファの上に詩杏を寝かせ、風呂場に行って風呂を入れ、二階の自室から持ってきた布団を思案にかぶせる。
「そこで大人しくしてろ。」
「はーい。」
「風呂大体15分くらいで入れるから。飯作ってる間とかに入っとけ。」
俺はそう言ってキッチンに向かい、カレー作りを始める。
「ユウガ君は、すごく面倒見がいいんだね。ご両親の教育が良かったのかな。」
「遊牙は、ほとんど親の愛情なんて受けてないわよ。」
「もしかして、既に他界を……?」
「そんなんじゃなくて、両親が海外で共働きしてんのよ。それも世界最先端を走ってるところの企業のエンジニアの母とメカニックの父。両親揃って気軽に帰って来れるような役職でもないから、届くのは仕送りだけ。それがかれこれ10年近くよ。」
「10年の歳月も親の顔を見れていないのか……」
「そういうこと。親の愛を受けてないって言っても、海外に行く前から仲が良かったうちの親に面倒を頼んでたみたいで、遊牙を夕飯とか旅行とかに誘ったりしてる。だから、あいつとは、家族絡みの付き合いなの。」
「なら、シアンさんは、ユウガ君の家族ってこと?」
「ああああいつと!?いや、私はあいつの家族じゃ……いや、家族なのか??とにかく、そうでいてそうじゃないというか!」
「暴れんな、寝とけ。それか風呂入っとけ。そうしないとお前の肉少なめにするぞ。」
「あー入ります入ります!お風呂入ります!」