カードで運命を切り開け!バトル・ディスティニー・チェンジャー!   作:葉分

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第8話 試行錯誤はバトラーの所作

 あれから一睡もできなかった俺は、このまま何もせずに朝を迎えるのも癪だったのでフィリオ向けに最低限守ってほしい生活ルールとこの世界での注意点をまとめた簡易的な常識本と家事リストを作り上げ、それを起きてきたフィリオに俺の古着と共に手渡して一通り説明を済ませると、試しに作ってもらったベーコンエッグとパンを食べ、まだ少し重たい体を引きずるようにして俺達は昨日訪れたカードショップ「マスター」へと足を運んだ。

 

 だが、そこにあったのは昨日までの賑わいとはかけ離れた光景で、黒く焦げた外壁とひしゃげた看板、周囲には立ち入り禁止を示す黄色と黒のテープが幾重にも張られ、消火活動の名残で濡れた地面が朝日を反射して鈍く光っており、鼻の奥に微かに残る焦げた匂いがあの戦いが夢でも何でもなかったことを無理やり現実として突きつけてくる。

 

「ここのカードショップ行け付けだったのに……」

 

 詩杏がぽつりと漏らした言葉には、昨日までの何気ない日常が一つ消えてしまったことへの寂しさが滲んでいて、俺はその横顔を見ながら何も言えずにいたが、その沈黙を埋めるようにフィリオが静かに口を開く。

 

「仕方がないよ。これは君が壊したんじゃない。君を操った魔凰のせいだ。そう自分を責めないほうがいい。」

 

 真っ直ぐすぎるその言葉に詩杏は小さく息を吐き、わかっていると言いたげに肩をすくめるが完全には飲み込めていないようで、その様子を見ていると胸の奥にじわりとした苛立ちが湧き上がる。

 

「落ち込んでても仕方がねえ。詩杏、ここ以外にカードショップってあるか?」

 

 意識的に声を少し強めて空気を切り替えると、詩杏は少し考えるように視線を逸らしたあと、あまり乗り気ではなさそうな表情で答える。

 

「まあ、ちょっと歩いたところにもう一つあるけど……あそこあまり行きたくないのよねえ……」

 

「どうしてだい?」

 

 フィリオが首を傾げると、詩杏は意味深に笑って肩をすくめる。

 

「まあ、行ってみればわかるわ。」

 

 嫌な予感しかしねえなと思いながらも、他に選択肢があるわけでもなく俺達は詩杏の案内に従って住宅街を抜け、少しだけ人通りの多い通りへと出るとそこには派手なネオン看板が昼間だというのに点灯しっぱなしで、店先には「初心者お断り」「勝てない奴は帰れ」といった物騒な文言が踊る一軒のカードショップが姿を現し、入口付近にはいかにも常連といった雰囲気の連中がたむろして笑いながらデッキを広げている。

 

「……なるほどな、行きたくねえ理由が一発でわかった。」

 

「でしょ?」

 

「ああ、頑固で癖が強い店主が仕切ってる次郎系ラーメン屋って雰囲気だ。」

 

 詩杏が苦笑しながら言うと、フィリオは逆に興味深そうに店を見上げていた。

 

「随分と殺伐とした空気だね……だが、戦いの場としては理にかなっているとも言える。」

 

「理にかなってても居心地は最悪だろうが。」

 

 俺はため息を吐きながらも扉に手をかけ、そのまま押し開けると鈴の音と同時に中の空気が一斉にこちらへと向けられ、値踏みするような視線が肌に突き刺さる。

 

「お、新顔か?」

 

「ここは遊びじゃねえぞ?」

 

「ルールわかってんのかよガキども。」

 

 好き勝手言いやがって、と内心で舌打ちしながらも無視して店内を見渡すと、壁一面にカードが並び、中央にはバトルスペースがいくつも設置されていて、その一角ではすでに何組かが真剣な表情で対戦を行っている。

 

「……ここでデッキを作るのか?」

 

 フィリオが小声で聞いてくる。

 

「やるしかねえだろ、強くなるならな。」

 

 俺達は空いている机に座り、詩杏とフィリオからデッキ製作のレクチャーを受ける。

 

「じゃあ、まずはデッキコンセプトから決めましょうか。遊牙は、どんなデッキを作りたい?」

 

「どんなデッキって……そりゃ最強のデッキだろ。」

 

「そうじゃなくて、どんな戦略で戦いたいかってこと。正面から押し切るのか柔軟に戦うのか。」

 

「どっちもあったら最強だろ。」

 

「それはそうなんだけど……じゃあ、まずは私のデッキから教えるわ。」

 

 そう言って、詩杏はデッキを広げて見せる

 

「私のデッキは火属性(フレイム)のビースト族キャラクター中心のデッキよ。デッキを作るうえで属性(エレメント)は重要な要素。ある程度統一することでその属性(エレメント)専用のサポートカードをちょっと入れるだけでデッキとしてのまとまりが出るし、共鳴による打点上昇も見込めるわ。」

 

「共鳴?」

 

「共鳴は同じ属性(エレメント)が横並びになることで、形態に応じたステータスが上がるルールだよ。2体いれば200、3体で300、4体で400、5体で500ステータス上昇する。5体まで並べることは難しいけど、並べば属性相性の壁を打ち破ることができるようになるんだ。」

 

「なるほど……でも、それって横並び前提の話だろ?いくらサポートカードが使えたりしても弱点属性相手に弱いのは変わらないだろ?」

 

「だから、相性補完を考えて別の属性(エレメント)のカードも入れる必要がある。私のデッキに入れてある「ソニック・ダチョウ」とか「ツイン・ガーゴイル」とかがいい例ね。」

 

「そういえば前から思ってたんだが、闇属性(ダーク)キャラクターって強くないか?基本の四属性全部に弱点突けるじゃん。俺、闇属性(ダーク)キャラクターでデッキ組みたい。」

 

「あー、闇属性(ダーク)キャラクターは確かに強いけど、サポートカードとかそんなに充実してないのよ。それにツイン・ガーゴイルみたいに出回ってるノーマルキャラクターや弱い効果キャラクターは多いけど、強い効果キャラクターはそれこそレアカード。強い上にあまり出回ってないから高いのよ。」

 

「フィリオのカードは見た感じ強そうだからデッキに入れたいし、スライム系統には助けられてるからデッキから外したくないんだよな……プチドランとかステータスも低いしノーマルだしでシンプル・イズ・ベストありでも使いずらいから抜いてもいいか……この「POTI(ポチ)」ってカード群は強いか?」

 

「遊牙の「スライム」以上に専用カードが刷られてるからテーマデッキとしては強いけど汎用性は低いわ。遊牙ってオールラウンダー好きでしょ?だったらハイランダー構築とかもいいと思う。」

 

「ハイランダー構築?」

 

「ハイランダー構築は全てのカードを一種類ずつ採用して作るデッキタイプのことよ。まあ、あまりに上級者向きだし、運に結構左右されるから使ってる人は少ないけど、変幻自在でどんなデッキにも対処できるのが強みってところね。」

 

「なら、俺そんな感じのデッキにするか。勇者のカードも一点ものだし相性良いだろ。それに新しくパックも剥きたいな。」

 

「いいと思うけど、ハイランダーは引きの質が全てよ。ちゃんと理由を持って1枚ずつ選ばないと事故るわよ?」

 

「事故っても勝てばいいんだろ。」

 

「その思考が一番危ないのよ。」

 

 軽口を叩きながらも、俺は立ち上がってカウンターへと向かう。

 

「パック、10パックくれ。」

 

 カウンターの奥で椅子にふんぞり返っていた店長:椚田勉と首に名札をかけた太めのおじさんが、こちらを一瞥してニヤリと口元を歪める。

 

「坊主、賭けをしてみねえか?」

 

「賭けだと?」

 

「ああ、お前さんが勝てば追加で10パックタダでやる。負ければ20パック分の代金を払ってもらう。どうだ?悪い話じゃないだろ?」

 

 条件だけ聞けば一見得に見えるが、こういう提案をしてくる時点で向こうは勝つ算段があるに決まっている、頭の中で警鐘が鳴るが同時に別の感情がじわりと湧き上がる。

 

「なんでそんなことする。」

 

「初心者サービス。とでも言わせてもらおうか。あの負け犬詩杏が来たかと思えばお前みてえな初心者をレクチャーしてんだもんなあ?」

 

「負け犬詩杏だと……」

 

 思わず声が低くなると、男は待ってましたとばかりに鼻で笑う。

 

「その通り、負け犬詩杏さ!あいつは全国大会に出る前の店舗予選でこのオデに敗れている。本来なら、オデがベスト10入りするはずだったんだ!」

 

 ……なるほどな、完全に拗らせたタイプだ。だが、だからこそ話は簡単だ。

 

「なんだよ、実力不足のただの逆恨みじゃねえか。本当にこいつに負けたのか?」

 

 振り返ると、詩杏は少しだけ苦笑しながら肩をすくめる。

 

「行きつけだったカードショップで抽選落ちしちゃったから、こっちの店舗予選から地区予選に出たんだけど、そのときに1回だけ負けちゃったの。まあ、その後は当たることなくサクサクと県大会、全国大会に出れたんだけどね。」

 

 その軽さに、逆にこいつの格の違いがよくわかる。だからこそ目の前の男の言葉は、余計に癪に障る。

 

「さあ、どうする受けるか。受けないか。」

 

 挑発、条件、状況、全部が揃っている。普通なら受ける理由は薄い、だが俺の中ではもう答えは決まっていた。

 

「いいぜ、受けてやる。」

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