カードで運命を切り開け!バトル・ディスティニー・チェンジャー! 作:葉分
「前にあいつと戦った時は典型的な
「となると、フィリオ。お前が鍵ってことか……そういや、お前がここにいる時ってお前のカードは使えるのか?」
「使えるよ。召喚すると僕がこの場から消えて、バトルゾーンに移るからね。僕が使うと、分身が現れるよ。」
「へえ。」
作戦会議を終え、俺はバトルコートへと入っていく。
「大口叩いて逃げるかと思ったぜ、初心初。」
「俺は遊牙だ。」
「あっそ、お前の名前なんてどうでもいい。お前が負け犬詩杏からレクチャーを受けた初心者ということに意味がある。甘く見て、あの時の負け犬と同じくらいの実力だろう?」
鼻で笑うその顔を見た瞬間、胸の奥に熱が灯るのを感じるが、それを無理に押し込めて視線だけを鋭く返す。
「舐めてんな、テメエ」
「オデは舐めてなんかないさ、過大評価って知らないのか?」
「そうか、ならその過小評価、強引に捻じ伏せてやる。」
お互いデッキを台の上へと置き、5枚のカードをドローする。
「先攻後攻を決めるのはコイントスで行わせてもらう。「表」と書いてがある方が表、裏と書いてある方が「裏」だ。」
そう言って店長がコインを空中へと投げ、落ちてきたコインを片方の手の甲で受け止め、他方の手で押さえた。
「さあ、どっちにする?」
「表だ。」
「じゃあ、裏。」
ニヤケ顔で押さえた手を退けて現れたのは「裏」だった。
「じゃあ、先行を貰う。異論ないよなあ?」
「ああ、とっと始めるぞ。」
「「バトル・スタート!」」
[勝藤遊牙
手札:5枚
椚田勉
手札:5枚]
「オデのターン。ドロー。『ネクロ・グール』を攻撃形態で召喚。」
椚田がカードを置くと、墓地の縁に似た黒い影が床を舐め、そこから腐った土の匂いをまとった人型が、地面を這い出るように現れた。骨ばった指、剥がれかけた皮膚、半端に垂れた顎、そして目の奥だけが濁った黄緑に光る、見るからに気味の悪いネクロ・グールだ。
『ぐぅあぁぁあ』
[ネクロ・グール
効果キャラクター
レベル3/
「カードを1枚伏せてターン終了。」
「俺のターン!」
[勝藤遊牙
手札:5→6枚
椚田勉
手札:4枚]
やっぱり、初手から
「『理想の魔術師リソーサラー』を攻撃形態で召喚!」
俺がカードをバトルゾーンに置くと、薄灰色の大きめのとんがり帽子とローブを身に纏い、長い杖を抱えた陰気な女ソーサラーが、淡い魔法陣の粒子と共に姿を現した。髪は白に近い灰色で、瞳はどこか眠たげなのに、胸の内に秘めた知性だけが妙に鋭い。いかにも「理想」と名がつくだけあって、無駄のない、だが頼りになる雰囲気をまとっている。
[理想の魔術師リソーサラー
効果キャラクター
レベル4/
「けっ、
「リソーサラーは召喚に成功した時、デッキからカードを1枚ドローすることができる!」
伏せカードが気になるが、ネクロ・グールのパワーはリソーサラーのパワーより下。ここは臆せず攻める。
「アタックフェイズ!リソーサラーでネクロ・グールに攻撃!リソーサルマジック!」
[理想の魔術師リソーサラー
パワー:1500
VS
ネクロ・グール
パワー:1200]
リソーサラーが杖を振り下ろすと、空間を裂くような灰色の光線が一直線にネクロ・グールへと走り、ネクロ・グールはそれを迎え撃つように腐敗した腕を振り上げるが、その動きはどこか鈍く、あっけなく破壊される。だが、ネクロ・グールが破壊された瞬間、やつの口角が上がる。
『ぐぅるぁぁあ!?』
[椚田勉
「やっちまったなあ。」
そう椚田が言うと、俺のデッキの上からカードが5枚独りでに墓地へと送られた。
[勝藤遊牙
デッキ:33→28枚]
「デッキのカードが墓地に……?」
「破壊されたネクロ・グールの効果、プレイヤーを選んでそのプレイヤーのデッキの上から5枚のカードを墓地に送る。」
「そんなことをして何の意味が……?」
「さらに、キープ
[勝藤遊牙
デッキ:28→25枚]
「またデッキのカードが墓地に……!」
「始めるぜ、オデはのおっそろしいいデッキ破壊の連鎖が!」
「デッキ破壊ですって!?遊牙!あいつのデッキのコンセプトが変わってる!あいつ、あんたのデッキを枯らすデッキ破壊による勝利を狙ってる!」
「デッキ破壊だと!?」
「その通り!どんなに強いバトラーもデッキが切れればそこで負けが確定する。オデの真のデッキコンセプトはデッキ破壊!店舗予選なんかで自らの戦法をひけらかすバカとは違うんだよ。」
「すごい戦術を使うな……俺はカードを1枚伏せてターンエンド!」
「どこまでその威勢が続くか楽しみだねえええ。オデのターン!!」
[勝藤遊牙
手札:4枚
椚田勉
手札:4→5枚]
「いいカードを引いたなあ。オデは
[椚田勉
そう言って椚田は土の中の黄金に輝く小判ぎっしりと敷き詰められた古びた木箱とそれを見て驚く人のイラストが描かれたカードを発動した。
「その効果で、オデは墓地からカードを1枚戻す。その代わり相手はデッキから2枚のカードをドローする。さあ、2ドローのサービスだ。受け取ってくれよお?なあ?」
「本来なら、デメリット効果の2ドローをこんな使い方するなんて……」
「甘んじて受け取ってやる。ドロー!……っ!」
[勝藤遊牙
デッキ:25→23枚]
「じゃあ、さっき手札に戻したこいつを召喚しよう。さあ、再び来な『ネクロ・グール』!さらに、サービス!クイック
[椚田勉
『『ぐぅあぁぁあ』』
「ネクロ・グールが2体……!」
「共鳴の効果が発動し、ネクロ・グールのパワーが200アップ!」
[ネクロ・グール
パワー1200+200]
「さらにキープ
[椚田勉
「お互いのプレイヤーはカードが墓地に送られる度、その枚数×200ポイントのダメージを受ける。さあ、行けネクロ・グール共!自爆特攻だあ!」
1体目のネクロ・グールがリソーサラーへと襲いかるが返り討ちとなり破壊される。
『ぐぅあぁぁる!?』
[椚田勉
[勝藤遊牙
デッキ:25→17枚
さらに、2体目のネクロ・グールが自爆特攻する。
『ぐぅるるぁぁ!!!』
[椚田勉
[勝藤遊牙
デッキ:17→9枚
「くっ……」
「アタックは終わったが、まだ続くぜえ?クイック
[椚田勉
[勝藤遊牙
デッキ:9→6枚
「もう、デッキが半分以上削れちゃったなあ???これはオデの余裕の圧勝かなあ?????オデはカードを1枚伏せてターンエンド。」
「俺のターン!」
[勝藤遊牙
手札:6→7枚
デッキ:6→5枚
椚田勉
手札:0枚]
「スタンバイフェイズに、カウンター
[椚田勉
マジかよ……ここでネクロ・グールか。これだと、あのネクロ・グールが破壊された時点で俺のデッキが0になる。つまり、これがラストターンってことか……待てよ?こいつらってターン1回とかの回数制限ってなかったよな……
「ユウガ君、大丈夫かい?」
「ああ、どうってことねえ。デッキを大きく削られたが、策はある。即興で思いついた必殺のコンボだ。」
「お前、何を喋ってやがる。」
「テメエをこのターンで倒す必殺のコンボが思いついたんだ。」
「このターンで倒すだと?」
「ノーマル
[勝藤遊牙
「これで気兼ねなくカードが使える。ノーマル
[理想の魔術師リソーサラー
「さらに俺は『ストロベリー・スライム』を攻撃形態で召喚!」
『イッチーゴ!』
[ストロベリー・スライム
効果キャラクター
レベル3/
「これにより、共鳴が発生!」
[ストロベリー・スライム
パワー:1000+2000=1200
理想の魔術師リソーサラー
パワー:1500+200=1700]
「はっ!バカめ。お前のデッキの残り枚数は5枚。その中に同名カードが残ってる可能性は低い。さらに攻撃力は属性相性と共鳴を加味してその差は500。到底勝てねえぜえ??」
「それで満足か?」
「はあ?」
「遺言は、それで満足かと聞いているんだ。」
「遺言を言うとしたらそっちだぜ?お前のデッキは残り8枚、お前が攻撃しようがしなかろうが、エンドフェイズには瞬間蘇生の効果が切れてネクロ・グールが破壊される。破壊されたネクロ・グールの効果でお前のデッキの枚数は0になる。次のターンにオデがターンエンドを宣言すればその時点でライブラリアウトによってお前の負けだってこと理解してねえのかあ??」
「それは、お前のデッキが残った場合の話だろ。アタックフェイズ!ストロベリー・スライムでネクロ・グールに自爆特攻!」
[ストロベリー・スライム
パワー:1200
VS
ネクロ・グール
パワー:1200+500=1700]
『イチーゴー!』
ネクロ・グールに突撃するストロベリー・スライムはネクロ・グールの両腕でぐちゃりと押しつぶされ、その腐食した破片が俺の方へと迫る。
「血迷ったな初心者!お前の受けるダメージは500、お前の
「キープ
俺の目の前に現れたリサイクルポッドが飛び散った破片を吸い込むと同時にデッキのカードが回復する。
「そんなことをしてなんの意味がある!」
「意味ならあるわ。この瞬間、破壊されたストロベリー・スライムの効果とあんたの地獄連鎖の効果が発動するわ。デッキからストロベリー・スライムを特殊召喚し、破壊されたストロベリー・スライムのレベル分の3枚のカードがあんたのデッキから削られるのよ。」
「ストロベリー・スライム、リサイクルポッド、地獄連鎖の効果には回数制限が存在しない。つまり、これは墓地か続く限り無限に繰り返すことが可能。これがユウガ君が即興で編み出した無限ループ。君のデッキのカードは11回の自爆特攻で全て墓地に送られる。」
[勝藤遊牙
デッキ:5+2×11=27
椚田勉
デッキ:33-3×11=0]
「まさか……オデがデッキ破壊で負けるのかあ!?!?」
「ターンエンド。さあ、テメエのターンだ。確か、ルールじゃデッキからカードを引けなかったプレイヤーは敗北するんだったな?テメエの負けだ。」
立体映像が消え、バトルコートから光が消える。椚田は怒りのままに台を叩き、悔しさをあらわにしていた。
「屈辱だ……オデがデッキ破壊で敗れるなんて……一生懸命デッキを考えて作り上げたオデだけの最強デッキだったのに……!」
俺は台を叩きつける椚田の腕を掴む。
「そんなに勝ちたいなら実力を磨きやがれ。いくらカードが強かろうが、それをうまく扱えるプレイングスキルとタクティクスがなければカードはその強さを発揮できない……本当だったら、そうテメエに首掴んで言ってやりたがった。」
「へ?」
椚田の腕から力が抜ける。俺はそれを確認すると腕から手を放す。
「テメエはプレイングもタクティクスも、研鑽されてる。だけど、お前、勝ちにこだわり過ぎて楽しくなさそうだった。初心者の俺から言わせてみれば、遊びを純粋に楽しむ心の無いやつには負ける気はしない。」
「楽しむ心……」
「詩杏にお前がその時に勝てたのは、楽しむ心があったからだと俺は思う。そして、お前が全国大会まで上がれなかったのは途中に勝ちにこだわるようになったからだ。違うか?」
「オデは……そうだオデは……好きでカードゲームを始めて……店長になって……」
その声は、さっきまでのねっとりとした嘲りを失い、代わりに乾いた笑い混じりの掠れたものへと変わっていた。椚田は自分の胸を押さえたまま、まるで奥底に沈めていた何かを無理やり引きずり上げるみたいに、ぎこちなく息を吐く。
「……好きで始めたはずだったんだよなあ。強いカードを集めて、勝って、客を黙らせて、店の顔になって、そういうのがだんだんと全部気持ち良くてよお……いつの間にか、負けることが嫌で嫌でたまらなくなってた。勝つためにカードを組んで、勝つためにプレイして、勝つために店長までやって、気づいたらカードを楽しむのを忘れてたのかもしれねえなあ……」
その独白は、敗北の悔しさにねじ曲がっていた顔から、ようやく人間らしい輪郭を取り戻したみたいだった。椚田は俯いたまま、悔しさと納得の間みたいな声を漏らし、やがて肩の力を抜くと、ふっと笑ったような、泣いているような顔で俺を見上げた。
「坊主……いや、勝藤遊牙。オデの負けだ。正真正銘、完敗だ。お前さんの言う通り、オデは勝ちに囚われすぎてたんだなあ……」
「わかればいい。」
「だがよお……お前さん、ただの初心者じゃねえだろ。最後の無限ループ、あれは思いついてやれるもんじゃねえ。デッキを削られても、勝ち筋を諦めなかった。ああいうのが、ほんとのプレイヤーってやつなんだろうなあ……」
「お前もそうなればいい。」
「へっ、それもそうだなあ。」
椚田は鼻で笑うと、台の奥から束になったパックを引っ張り出し、約束通りの分を照れ隠しのように乱暴にこちらへ押しやったあと、さらにその上に何パックかを足して投げるように寄越した。その目はまだ少し赤いのに、口元だけは妙に軽く、さっきまでの殺気じみた空気はもうどこにもなかった。
「約束は約束だからな。それと、これはオデからの感謝の上乗せサービスだ。受け取ってくれ。」
「マジかいいのか?」
「ああ、それと詩杏の嬢ちゃん。すまなかったな。気分悪かったろ。」
「いや、私も強気になり過ぎてた。また今度楽しいリベンジバトルしましょ?」
「んだ。その時までには新しいデッキを組んでやるからな。」
そのやり取りを見ているうちに、さっきまでの張り詰めた空気が少しずつほどけていくのがわかった。昨日、どんな手を使って勝ちに行くと誓ったが、その行き着く先が目に見えたような気がした。だから、俺はBDCを戦いの道具としてではなく、あくまで娯楽として向き合うことにする。