・前回のあらすじ!
セイラとチヨコは妖精族に友達を殺されたアイネという少女と出会った!
やっぱり妖精族は皆殺しにしなきゃ、とチヨコは決意を新たにする!
一方、人魚姫の悲惨な末路を聞かされたセイラは密かに苦しむのであった!
「ちょっとアイネちゃんのことが気になるから、もう一度様子を見てくるね。セイラちゃんは先に帰ってて」
「分かりました。気をつけてくださいね」
浜辺を後にして帰路を歩き始めたチヨコとセイラであったのだが……。
海岸で会った中原アイネの様子が気になるらしく、チヨコは踵を返してしまった。
快く返事をしながら、実のところとしてセイラは迷った。
このままいつもの公園に帰って「幸せ手帳」を書くのが安定の選択肢ではある。
チヨコに貰った大切な手帳に、浜辺で追いかけっこをした実績を綴るのだ。
なのだが……なんだか、一人で帰ると思うと足が重くなった。
胸騒ぎがしたのだ。
チヨコが一人で向かった場所は先日妖精族による被害が出たばかりの海岸だ。
もちろん妖精族とて毎日同じ場所に出現する訳ではないだろうし……心配しすぎかもしれない、とセイラ自身でも思った。
……そう思いつつも、結局セイラも浜辺へと戻ることにした。
セイラが迷っているうちにチヨコの背中は見失ってしまっていたが、目的地が分かっているのだから問題は無い。
中原アイネと会った浜辺へと、井上セイラは歩いた。
そうして歩いているうちに、だんだんと潮風の匂いを感じるようになった。
そして波の音が聞こえたと思ったタイミングで……物々しい重い音も聞こえてきた。
遠目に、全高2メートル程度の漆黒のゾウ怪獣が見えた。
よく目を凝らしてみると……新手のヒトバシランダーとクロニャンさんが浜辺で戦っている!!
セイラは適当な物陰に隠れて伝説の戦士ガヴルに変身しつつ、浜辺へと駆け寄った。
だが……浜辺に駆けつけたガヴルは、さらなる想定外の事態へと直面する。
「きゃあっ!!」
ゾウ怪獣の鼻で砂浜へと叩きつけられたクロニャンさんが、変身解除に追い込まれてしまったのだ。
ガヴルは目を疑った。
傷ついて浜辺で倒れているその姿は、絆田チヨコだったのだから。
「あらあら、これは勝負あったわねぇ! 殺っておしまい、ヒトバシランダー!」
ガヴルの頭の中で複数の選択肢が浮かんでは消えていった。
ゾウ怪獣のヒトバシランダーを倒して中身のニンゲンさんを一刻も早く助けなければ、という焦りはあった。
それでも、ガヴルは撤退を選んだ。
砂浜にクレーターパンチを打ち込んで砂を巻き上げつつ、ガヴルはチヨコを抱き上げて逃げた。
シャッカは真っ赤な傘を取り出して砂を防御していた様子だったが。
……それでもガヴルはチヨコとともに最寄りの岩場へと隠れることが出来たのだった。
平たい石が積んである岩場の影で、伝説の戦士ガヴルは意識不明のチヨコを寝かせながら必死に思考を整理した。
傷だらけの絆田チヨコを前に、ガヴルはどう対応すればいいのだろう。
クロニャンさんのことは、セイラと同じくニンゲンさんの血が混じった妖精族だと思っていたのに。
まさかニンゲンさんが変身しているとは思わなかったのだ。
チヨコが気絶しているのをいいことに、そっとガヴルはチヨコの衣類の隙間に指を入れて、腹部を確認した。
その腹部にはニンゲンさんたちに特有の丸い傷があった。
ひょっとしたらチヨコも妖精族なのかと疑ってしまったが、別にそんなことは無かった。
チヨコはニンゲンだ。
しかし、妖精とニンゲンの力を合わせるのが変身のカギだと言っていたような気もするが……?
もしかして、後天的に妖精の力をニンゲンさんたちに付与できるだろうか?
経緯として気になる部分が多いとは思ったが……そんなことより、ガヴルは胸が痛んだ。
傷だらけで気絶しているチヨコの姿は、見ているだけで胸の中がザワザワした。
絆田チヨコは、ニンゲンさんたちの世界で困っていた井上セイラを助けてくれて、初めて仲良くなった相手で。
母親の好きだった世界を一緒に楽しんで、笑いあってくれる大切な友達だ。
野良猫を容易く手なずけて楽しそうにしている顔が好きだ。
熱いものが飲めなくて苦戦している姿が可愛い。
肝試しと聞いて及び腰になっていたチヨコが、セイラと一緒なら行くと言ってくれたのが嬉しかった。
浜辺で追いかけっこをしてもすぐに息があがってしまうぐらいに弱弱しくて、でも健気だ。
そんなチヨコが傷だらけで倒れている姿は、セイラの心を揺さぶった。
ニンゲンさんたちは妖精族に比べて傷の治りが遅いと聞いたし、外見からではどの程度の負傷なのか判別しかねた。
素人目にはそんなに出血していないように思えるが、ニンゲンさんの耐久力と再生力の低さが不安要素だ。
もしかしたら、見た目よりはるかに重症だということも有り得る。
すぐにでもチヨコを絆田家に連れて行って、レモン叔母さんに診てもらいたいと思った。
でも、怪獣ヒトバシランダーにされてしまったニンゲンさんを放っておいたら、干からびて死んでしまう。
「……チヨコさん、ここで待っていてください」
後ろ髪をひかれる思いで、ガヴルは友達を岩陰に置き去りにした。
「くすくす。戻ってきたのね、モドキちゃん! オトモダチの御冥福をお祝いするわぁ!」
「クロニャンさんは死んでいません!」
浜辺では、漆黒のゾウ怪獣を従えてシャッカが時間を潰していた。
全高2メートル程度のゾウ怪獣の頭からは植物が生えており、その先端には真っ黒な花が咲いていた。
実が付いたら肥料にされているニンゲンさんは干からびて死んでしまう。
短期決戦が望ましいとガヴルは理解した。
しかし、ゾウ怪獣は今までのヒトバシランダーよりも重量がありそうだ。
あの突進を正面から受け止めたら、たとえガヴルの弾力的なバリアでも破られてしまう可能性が高い。
シャッカが、漆黒のゾウ怪獣をけしかけた。
超重量級の突進がガヴルに迫る。
砂浜に地響きを奏でながら、ゾウ怪獣が走ってくる。
あの巨体からの突進を正直に迎え撃つのは、ガヴルには無理だと思われた。
直撃しようものなら重傷は避けられない突進を、ガヴルは冷静に対処した。
ガヴルは背を見せて逃げるフリをして……浜辺の近くに建設されていた、細長い
ゾウ怪獣も細長い波止場を走ってガヴルを追ってくる。
そして波止場の端に追い詰められたかと思われたガヴルは……迷わずに海へと飛び込んだ。
直後、急停止できなかったゾウ怪獣も海へと落ち、盛大な落水音と水柱をあげた。
あの巨体では泳げないだろう、という目算でのガヴルの作戦であった。
なんとなく、形状的にゾウ怪獣は泳げないような気がしたのだ。
相手が溺れてくれれば隙も生まれるという目算である。
「ヒトバシラァ!」
「泳いだ!?」
「なんでなんで?? どうしてその形状の生物が泳げるの??」
だがしかし。
なんと、漆黒のゾウ怪獣は身体の9割程度を水没させつつも、泳いでいる!!
これにはガヴルもビックリである。
シャッカも驚いている。
この姉妹、どうやらそろってゾウが泳げることを知らなかった模様である。
ゾウ怪獣は目や口は完全に水没してしまっているのだが、長い鼻の先を水上へと伸ばして呼吸を確保している様子だ。
もっとも、地上戦時のような機動力は皆無のようで、ガヴルとしては戦いやすくなった。
どちらかと言えば、ゾウ怪獣は泳いでいるというよりも浮いているだけだ。
ガヴルは浮島のようになっているゾウ怪獣の背中に乗った。
安全地帯が出来てしまったからには、あとは単調作業である。
「あだだだだだだだだっ!!!」
ガヴルはゾウ怪獣の背中をひたすら殴った!
さすがにゾウ怪獣は耐久力もそれなりであったが、それでも一方的に殴られ続ければいつかは負けるわけで。
数十秒ののちに……ゾウ怪獣は沖合にて爆発と水柱をあげながら撃破されたのであった……。
ゾウ怪獣から救出された中原アイネを確保して、ガヴルは地上へ戻ってきた。
既にシャッカは逃げおおせたあとだった。
おそらく、ガヴルが連打を始めた直後ぐらいには、シャッカは負けを察して逃げたと思われる。
まぁハメ技が決まったら、あとの結果は見なくても分かるという判断だろう。
ともかく、中原アイネを浜辺から少し離れた謎の無人家*1へと預け、ガヴルは岩場へと戻った。
絆田チヨコの身が心配だったからだ。
幸いガヴルはあのゾウ怪獣の巨体からの突進攻撃を一度も受けなかったが、クロニャンさんは少なくとも変身解除する程度にはダメージを受けていたわけで。
当然、ガヴルは岩場に置き去りにしてある絆田チヨコが心配だった。
そして岩場に戻ってきたガヴルは、予想外の光景を目の当たりにする。
絆田チヨコが……膝を抱えて、涙を流していた。
傷だらけの姿で涙を流す絆田チヨコの姿を見ているだけで、ガヴルは胸の奥が苦しくなった。
「ガヴルちゃん……! 私、全然ダメだった……!!」
傷が痛むのもあるだろうが、それだけではなさそうだ。
チヨコの涙は精神的な要因によるものらしい。
ガヴルは、急かさずにチヨコの紡ぎだす言葉を待った。
「ようやく妖精族と戦える力を手に入れて、何も出来なかった私から少しでも前に進めたって思ってた」
幼い頃に連れ去られた母親を探し続けた絆田チヨコにとって、その力はどれだけ救いになっただろうか?
「でも大猿妖精には手も足も出なくて、結局ガヴルちゃんに助けてもらって」
しかし初戦もかなり苦しい戦いだった様子であったし、その力も大猿妖精にはまるで通じなかった。
「あの大猿妖精が野放しなせいでまた人間が死んで、アイネちゃんは悲しんでた」
岩場に積んである平たい石が、静かに崩れた。
「アイネちゃん本人も肥料にされて、またガヴルちゃんに戦ってもらって」
ゾウ怪獣をガヴルが単騎で撃破してきたのは事実だった。
「私、また何も出来なかった……!!」
チヨコは涙を流しながら悔しさを漏らしていた。
無力感に心を苛まれているのだろう。
ガヴルは胸の内に苦しさを抱えつつ、チヨコにかけるべき言葉を考えた。
だが、ガヴルとてニンゲンさんたちの世界に来たばかりで、対人経験に乏しい身だ。
何を言ってやればいいのか、いまいち判断がつかなかった。
「ねぇ、ガヴルちゃん。もし、今日みたいに私がまた倒れたらさ。
……私なんて助けないで、ヒトバシランダーの被害者の方を優先してよ」
だがコレには、ガヴルは素直に頷くことはできなかった。
伝説の戦士への変身が解けてしまったニンゲンさんは、簡単に傷ついたり死んだりしてしまうだろう。
今の傷だらけのチヨコを目の当たりにするだけでも、ガヴルは気が気ではないというのに。
そんな頼みを聞くことは出来なかった。
「それは嫌です。そんなことをしたら、クロニャンさんの身が危険ですよ!」
「だって!! 私のせいで誰かが傷つくのは、もう嫌なの!!
ガヴルちゃんの足手まといになって、そのせいで他の人たちが危険に晒されるぐらいなら、私のことなんて放っておいてよ!!」
確かにクロニャンさんは、ガヴルと比べると少し力不足かもしれない。
倒れたチヨコを救出したことによって、ガヴルがヒトバシランダーとの決着を焦ったのも事実ではあった。
そんな冷静な判断はガヴルの頭の中の理性的な部分に残っていた。
でも、それを踏まえても……やはり、チヨコを見捨てるという選択は嫌だと思った。
――きっと、いつかあの子は無茶をする。その時に隣であの子を守ってやれるのは……悔しいけど、アタシじゃない。だから、頼んだよ。
チヨコの身に何かあったら、セイラを信じてくれたレモン叔母さんに申し開きが立たないというのもある。
セイラだってチヨコのことを大切に思っているし、チヨコには帰りを待つ家族がいるのだ。
なんとなく慰めの方向性が頭の中で固まってきたように思えたガヴルであったが、ここで一つの問題点に気付いた。
匿名希望の「ガヴルちゃん」として説得するのは無理そうに思えたのだ。
平常心を保っているかどうか怪しいチヨコだが、それでも「ガヴルちゃん」があまりに物知り顔だったら不審に思うだろう。
正直に言って、ガヴルの正体が井上セイラであることがバレるのは宜しくない。
芋蔓式にセイラの生い立ちがバレてしまう展開だって有り得る。
万が一にも妖精族であることが明るみに出たら、チヨコは……それでもセイラのことを友達だと言ってくれるのだろうか?
ガヴルは怖いと思った。
――ま、大好きな人が離れていくのは苦しいよねぇ。だからこそ……何を話すべきか、セイラちゃん自身の意思で決断することが大切だ。
――月並みだけど、どういう結果になったとしてもそれが一番後悔が無いとお姉さんは思うよ
嫌な結果を恐れつつも……ガヴルは目の前で泣いているチヨコを放っておくことは出来なかった。
それが、セイラの心で選んだ決断だ。
リスクを背負う行為だと承知で、ガヴルは変身を解除した。
チヨコの顔が驚愕に染まったのが分かった。
「それがチヨコさんの頼みだったとしても……やっぱり、私はチヨコさんのことが大切なんです。
だから、チヨコさんを見捨てるなんて出来ません」
セイラは、力加減に気をつけながらチヨコを抱きしめた。
大好きだった母親がそうしてくれたように、だ。
ニンゲンさんの背中は、すこし力を入れすぎれば簡単に壊れてしまいそうなほど繊細に思えた。
それでも……セイラは、伝えたかった。
絆田チヨコを大切に思っている存在がここに居ると、伝わってほしいと思った。
チヨコの嗚咽の声は止まっていたが、セイラは抱擁を続けた。
抱きしめられたチヨコが落ち着くまで、セイラはただ動かず待った。
「…………ごめん。私、自分の力不足が嫌になって、ちょっと
「力不足は、私とて抱える問題です。だからこそ、力を合わせて戦っていけたら嬉しいです」
伝説の戦士の力を得た今でも、セイラは単独でシャッカに勝つのは無理だと理解できていた。
二人なら勝てるかと言われると、それもそれで怪しいのだが……1人で戦うよりははるかに希望が持てる。
一方、冷静さを取り戻し始めた絆田チヨコは、井上セイラの言葉の中に文面以上の意味をかぎ取っている様子だった。
探偵であった父親ゆずりの洞察力、というヤツなのだろうか。
「セイラちゃんも、力不足……? もしかして、セイラちゃんも身内が犠牲者に?」
「……母さんが、ソウルフルーツの肥料にされました」
まぁ、これは別に隠すことでもない事実なので、セイラはあっさり情報を吐いた。
セイラの母親は、妖精界にて命を落としている。
妖精族の男に勝手に見初められ、望まぬ子供を産まされた女の、あまりにも酷な最期だった。
そもそも当時の家長にはニンゲンの血の混ざっていない3人の子がいるのだ。
家長が生きているうちはギリギリ生かされていた後妻は、家長が死んだ直後に殺されてしまった。
そして「妖精モドキ」のセイラは命からがらニンゲンさんたちの世界へ逃げ延びてきたという経緯がある。
「そっか……。なんだか嫌な親近感だね」
「親近感……? チヨコさんのお母さんは、まだ消息は不明ですよね……?」
気まずそうなチヨコの零した言葉に、今度はセイラが文面以上の意味を見出した。
セイラの母親は死亡が確定しているが、チヨコの母親はオオカミの妖精族に誘拐されて消息不明のはずだ。
チヨコも母親が生きている可能性に縋っているからこそ、焦りに身を焦がしている訳だし。
そんなチヨコの口から「親近感」という言葉が出てくるのが不自然に思えたのだ。
チヨコを抱きしめている腕に、少しだけ力が入ってしまった。
「私のお父さんの方が、ね。先月干からびた変死体になって発見されたんだ」
悲しみを声に滲ませながらも、チヨコの喉の奥から怒りが燃え盛っているような気がした。
セイラは、思わず目を伏せた。
ギャングルメ一族のせいで更なる悲劇が積み上げられているという事実は、セイラにとっても重かった。
「私、妖精族を絶対に許さない。これからも私と一緒に妖精族を殺してくれるって、信じていいんだよね?」
「……!!」
チヨコの言葉に、セイラは動揺を隠せなかった。
妖精族を殺すとまで言われるとは思わなかったのだ。
セイラは、決して父親たちと仲が良かったとは言えないものの、それでも妖精族の父や兄姉を家族と呼んで育ってきた存在だ。
自分自身もハーフとはいえ妖精族だという自己認識は強かったし、妖精族を殺したことなんてあるはずもない。
……セイラは、「これからも」と言い放ったチヨコのことが怖いと思った。
おそらくチヨコは、すでに妖精族を殺したことがあるのだ。
しかし同時に、チヨコが妖精殺しを躊躇しない原因も分かる気がした。
ニンゲンさんと妖精族の間には、そもそも仲間意識など皆無なのだ。
セイラの父親は、ソウルフルーツの肥料を見初めた異常者として子供たちから嫌われていた。
ギャングルメの一族以外の妖精族をほとんど見たことのないセイラからすれば、その感覚がどの程度妖精族にとって普遍的なものなのか想像しにくいが……。
シャッカたちがニンゲン殺しを厭わないように、チヨコも妖精族殺しを躊躇わないのだろう。
「……正直に言って、私にはまだ迷いがあります。
甘いと言われるかもしれませんけれど、妖精族の中にもニンゲンと仲良くなれる相手だっているかもしれない……と今でも思っています」
妖精族全体がニンゲンさんたちの敵だったら、と思ったらセイラは怖くなった。
ニンゲンさんたちを守るためとはいえ、チヨコは既に妖精族を殺してしまっている。
妖精族たちがチヨコを危険視して集団で駆除に乗り出したら……と思うと背筋が寒くなった。
それに、シャッカ達が言うように、妖精族全体にとってニンゲンなんて肥料以上の価値は無い存在なのかもしれない。
「でも……大切なニンゲンを守るためだったら、私も手を汚してみせます」
チヨコの覚悟の決まり方に比べて、セイラは生温いことを言っているという自覚はあった。
だが、どうしても妖精族は全て敵だとは言えなかった。
それを言ってしまったら……チヨコのことが大好きだという自分自身の気持ちがウソになってしまう気がしたからだ。
「ありがとう、セイラちゃん。私……ガヴルの正体がセイラちゃんで、よかった」
チヨコの言葉が、心に沁みた。
セイラのことを大切だと思ってくれている、と伝わってくるからだ。
この腕の中の愛しいニンゲンさんとの繋がりを、失いたくない。
母親の好きだった世界の輝きとは、きっとそんな繋がりによって出来上がったもので。
そんな眩しくて素敵な瞬間を、誰にも奪われたくない。
そのためだったら……セイラ自身の手だって汚してみせる、と自分自身に言い聞かせた。
……本当は、血を分けた兄姉と戦うなんて、殺すなんて、怖くて堪らなかった。
セイラちゃんは、
でも、殺さなくちゃ……!
ニンゲンさんたちを守るために、家族を殺さなくちゃ……!!