マジカル☆ガヴリンク!   作:カードは慎重に選ぶ男

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・前回のあらすじ

絆田チヨコの誕生日前日、井上セイラはレモン叔母さんの指導のもとバースデーケーキを制作する。

だが誕生日当日、浮かれ気分で絆田宅を訪れようとしていたセイラを、理由のない理不尽な暴力が襲う!!




第15話:祝福の味 ハッピーバースデー

 

 

 

 

「ううっ……!」

 

セイラは、傷だらけの身体で目を覚ました。

ぼんやりした意識を覚醒させつつ、どうして傷だらけになっているのか思い出してみた。

 

……セイラは、伝説の戦士ガヴルとしてシャッカ・ギャングルメと戦い、負けたのだ。

赤毛の大猿の姿へと戻った実姉の圧倒的な暴力を前に、ガヴルはなすすべもなく痛めつけられたのだった。

小さい頃から身に染みていたことだったが、やはり純粋な暴力に晒される恐怖は心を削る。

途中からは、命からがら逃げ回っていた有様である。

 

 

ふと、そこでセイラは気付いた。

私は何故生きのびているんでしょうか、と。

 

 

「あっ、セイラちゃん! 意識が戻って良かった!」

 

セイラを心配してくれる声の主は、絆田チヨコだった。

話を聞いてみると、セイラを介抱してくれたのもチヨコだったらしい。

……というか、冷静になって周囲を見回してみると、セイラが意識を取り戻した場所は絆田家だった。

敗北したセイラを回収して、チヨコが絆田家に匿ってくれたということらしい。

 

チヨコへと礼を述べつつ、セイラは今の時刻が気になった。

カーテンのかかった窓の向こう側には、夜のとばりが降りているように思われた。

ガヴルが戦っていた時はまだ日は傾いていなかったはずだが……セイラはどれだけ長く昏倒していたのだろうか?

 

 

「……今日は、何月何日ですか?」

「7月7日だけど……どうかしたの?」

 

セイラは、自身が気絶している間に日付が回ってしまっていることを危惧して聞いた訳だが。

どうやらその心配は杞憂であったらしい。

当のチヨコは、なんでそんなことを聞いてきたんだろう、と言わんばかりに不思議そうな顔をしていた。

そんなチヨコに向き合うべく、セイラは痛む身体を起こした。

 

 

「チヨコさん。……タンジョウビ、おめでとうございます」

 

――人間たちの風習でね、生まれた日付を周りの大人たちが覚えておくものなんだよ。

 

 

……言えた。

 

ニンゲンさんたちのお祝いの言葉を、セイラも言うことが出来た。

この世界で初めてセイラを友達と呼んでくれた大切なニンゲンさんに、綺麗な言葉を残せた。

なんだか、セイラは胸の中に暖かいものが満ちてくる気がした。

まだ体中が傷だらけなのに、不思議と痛みが和らいだように思えた。

 

 

「こ、こんな時に、急にどうしたの……?」

 

セイラからの真っすぐな言葉を受けて、チヨコは動揺している様子であった。

不快だという態度ではないが、たじろいでしまっているのが一目瞭然に思えた。

まぁ、チヨコが「こんな時」と言った気持ちも分かる。

セイラが傷だらけで昏倒していた状況だったのだから、他のことに気を回す余裕も無かったのだろう。

 

でもセイラにとっては、大切なことだった。

シャッカ姉さんに襲われて、命からがら逃げ回っていた時にも強く思ったのだ。

チヨコさんのタンジョウビを祝うまでは死ねない、と。

 

ハッキリいって、シャッカ・ギャングルメとの戦いは伝説の戦士ガヴルといえど死んでも不思議ではない一戦だった。

それでもガヴルが生き延びることが出来たのは……絆田チヨコへの想いによるものだったのかもしれない。

絶対に絆田チヨコの誕生日を祝うのだという強い願望が、ガヴルを生かしたように思えた。

 

 

「レモンさんから、チヨコさんのタンジョウビの話を聞いたんです。

その時に、思ったんです。絶対にお祝いしたい、って」

「あっ、もしかして? それもセイラちゃんがお母さんから聞いたっていう『幸せ』の一つなの?」

 

 

――私には母さんの言う「幸せ」が何なのか分からなくて聞き返したんです。

――そうしたら母さんは、屋敷の外で暮らしていた時の「幸せ」を沢山話してくれたんです。

 

……チヨコに言われるまで、セイラ自身もあまり意識していなかった指摘であった。

セイラは、少しばかり首を捻って考えた。

母親から聞いた「幸せ」たちの中に、誕生日に関する話があっただろうか?

 

ちょっとだけ考え込んでしまったセイラであったが、誕生日に関する話を母親から聞いた覚えは全くなかった。

というか、昨日レモン叔母さんに聞くまでは誕生日という概念すら知らなかった身の上である。

母親の話の中にもそんな概念が出てきた覚えはなかった。

 

 

「そういう訳ではないです。単純に、私がそうしたいと思ったんです」

「……ありがとう。セイラちゃんがお祝いしてくれて、嬉しいよ」

 

チヨコは、セイラの真っすぐな言葉に戸惑い気味であったが、何とか返事を紡ぎだしてくれた。

そんなチヨコの姿が、愛しい。

そして、チヨコへと「幸せ」を与えることが出来た自分自身のことが少しだけ誇らしく思えた気がした。

大好きなニンゲンさんの喜ぶ姿を見て、セイラ自身も「幸せ」だと思えたのだ。

母親の言い残したもの以外の「幸せ」も、ニンゲンさんたちの世界には沢山あるのだと心に刻み込んだ。

 

 

「そういえば、セイラちゃんの誕生日って聞いたことないよね。いつなの?」

「私の……?」

 

だが、この切り返しは全くの予想外であった。

セイラ自身に誕生日があるという発想に、まず全く至っていなかったのだ。

そもそもセイラの母親とて、妖精界に一人で拉致されてきてからの日付など数えていなかっただろうし。

ましてや子供を産む予定などあったはずもなく、セイラの誕生日を知る人間は誰もいないのだ。

 

ただ、誕生日が不明だという事実を正直に告げて良いのかどうかは分からなかった。

レモン叔母さんはニンゲンたちの風習だと言っていたが……。

実際、誕生日が分からないニンゲンというものがどのぐらい居るのか、セイラには判断できなかったのだ。

……でも、チヨコに嘘は言いたくなかった。

ただでさえ、妖精族としての正体を隠している身であるからして。

 

 

「実は、私の誕生日は分からないんです」

「……えっ」

 

チヨコは、一瞬だけ本当にセイラの返事の意味を理解しかねた様子だった。

やはりというべきか、自身の誕生日を知らない人間というものが存在すると思わなかったのだろう。

困惑したまま、チヨコは言葉を選んでいると見える。

そして少しだけ悩んだ後に、チヨコは何かを閃いたと見えた。

 

 

「それなら……私たちで、決めちゃおう。セイラちゃんの誕生日」

「???」

 

……どういうことだろうか?

誕生日というのは、ニンゲンさんたちが生まれた日を覚えておくことを前提とした文化のはずだ。

それを後から決めるというのは、誕生日という概念そのものに反しているのでは?

 

 

「ええっと……? タンジョウビって、後から決めても良いんですか?」

「良いんじゃないかな。そもそも自分自身の生まれた日のことを正確に覚えている人なんて基本的に居ないし。

その日が本当に生まれた日かどうかって、実はそんなに重要じゃないと思うよ」

 

確かに、言われてみるとその通りかもしれない。

セイラも自分自身の生まれた日の記憶など無いし、ニンゲンさんたちも一緒なのだろう。

周りの大人たちの言葉を信じて、その日が自分の誕生日だと認識しているだけなのだ。

 

 

「大切なのは、お祝いの気持ちの方だと思う。

……セイラちゃんがお祝いしてくれて、本当に嬉しかったんだよ。ありがとう」

 

チヨコは、少しだけ言うのが恥ずかしいという素振りを見せたが、飾らない言葉をセイラへと返してくれた。

そんなチヨコからの感想が、セイラは何よりも嬉しく思えた。

そして、そんな素敵な日が……セイラにも来るのだろうか。

誕生日を決めてしまおう、というチヨコの提案の意味をセイラは理解していた。

 

大好きなチヨコが祝ってくれる。

きっと嬉しい。

そうセイラは確信できた。

 

しかし……そんな大切な日を、いったいどうやって決めたら良いのだろうか。

セイラは頭を悩ませた。

あまりにも基準となるものが無かったからだ。

 

……それでも、セイラは一つの心当たりに行きついた。

 

 

「それなら……私が初めて家を出た日が良いです。

チヨコさんに出会った、あの日です」

 

――昔の人は仲良しの例えとして『同じ釜の飯を食べる』なんて言ったらしいよ。

――これで私とセイラちゃんも友達だね!

 

 

きっと、あの日から井上セイラの新しい人生が始まったのだ。

母親を殺されてしまったのは悲しかったが、それでもギャングルメの家を出られた契機となった日でもあった。

そして何より……絆田チヨコに出会えた。

右も左も分からないニンゲンさんたちの世界で心細かったセイラを助けてくれた、大切な友達だ。

 

 

「ええっと、セイラちゃんと初めて会った日は……3月19日だよ」

 

チヨコが部屋の隅にあったカレンダーをめくりながら、その中の一点を指さしてくれた。

なんだか、不思議な感覚だった。

何でもないようなカレンダーの中の1日が、特別な日に変わったのだ。

 

たぶん、これも母親の愛した世界の美しさの一つなんだろう……と井上セイラは強く思った。

こんな幸せを一つずつ積み重ねて、ニンゲンさんたちは生きていくのだ。

 

 

 

 

 

 

結局、タイミングを見計らってレモン叔母さんが遅れてリビングに入ってきてくれて。

 

 

冷蔵庫からケーキを出してくれて。

 

 

セイラちゃんが作ってくれたケーキだよ、なんて普段通りに軽々しく笑いながら教えてくれて。

 

 

ビックリしているチヨコが、やっぱり嬉しそうにセイラへと礼の言葉をくれて。

 

 

セイラも幸せな気持ちになって。

 

 

誕生日を祝う歌を、二人に習って一緒に歌って。

 

 

ロウソクの灯を、うっかりセイラが吹き消してしまって、やっぱり一緒に笑って。

 

 

切り分けられたケーキを、一緒に食べて。

 

 

味見のために少しだけ食べた昨日のケーキよりも、もっと美味しいような気がして。

 

 

チヨコの嬉しそうな顔と、レモン叔母さんからの褒め言葉が、とっても嬉しくて。

 

 

身体の痛みも忘れるほどに、素敵でキラキラした時間だと思えて。

 

 

 

 

 

 

……そんな眩しくて幸せな瞬間を、これからも積み重ねて生きていきたい。

 

そう、井上セイラは強く思った。

 

 

 

 

 

 





セイラちゃんとレモン叔母さんに誕生日を祝ってもらえて良かったね、チヨコちゃん!

これからも元気いっぱい、妖精族を殺していけるね!

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