マジカル☆ガヴリンク!   作:カードは慎重に選ぶ男

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おお、チヨコ殿がまたピンチになっておられるぞ!!




第17話:願望の味 二人で掴む光

 

 

「セイラちゃん、起きておくれ! 起きられそう? 起きた起きた!」

「…………ふぁ?」

 

今晩も普段通り、屋根のある遊具の中で寝ていたセイラは……聞き覚えのある声とともに揺さぶり起こされた。

眠い目をこすりながら確認すると、セイラを起こしたのはレモン叔母さんだった。

チヨコの叔母である石動レモンだ。

 

こんな夜分にゴメンね、なんてレモン叔母さんは軽く謝った。

確かに、公園は未だに闇に包まれているし、起きて活動しているニンゲンさんたちなんていない時間だろうに。

いったい、レモン叔母さんの用事とは何なのだろうか?

急ぎの用であると見受けられるが……?

 

 

「実は、チヨコちゃんがコッソリ出ていったみたいでね。

セイラちゃんなら行先を知っているかと思って確認に来たんだよ。心当たりはあるかい?」

 

セイラは、レモン叔母さんの言葉の意味を理解しかねた。

寝ぼけた頭で、何とか思考を始めた。

 

 

絆田チヨコが、単独行動をしている?

こんな夜中に?

セイラに声をかけることもなく?

レモン叔母さんにすら内緒で?

もしかして昼間に出会った妖精族の女性と何か関係が?

 

 

……そこまで考えて、背筋が寒くなった。

もしチヨコの単独行動が、妖精族に絡んだ事情によるものだとすれば?

セイラには、思い当たる節があるのだ。

すっかり頭から眠気が飛んでしまっていた。

 

 

――でも、ツライーネはどうやって妖精たちの世界に帰るつもりなの?

 

ツライーネへとチヨコが問いかけたあの疑問の意味は、もしかして?

チヨコが妖精界への行き方を探っているのだとしたら?

一人でツライーネと接触している可能性がある。

そもそもチヨコは8年前に行方不明になった母親の手掛かりも探している状況なのだ。

その母親の情報を求めて妖精界へと足を延ばしても不思議ではない。

 

 

「何を知ってるのか説明して欲しいトコだけど……なんだか、のっぴきならない事態みたいだね?

……セイラちゃん。チヨコちゃんのこと、頼んでも良いかい?」

 

セイラの焦りを察したらしいレモン叔母さんは、説明をしろとは言わなかった。

一分一秒が惜しい状況ならば説明は後回しで良いのだろう。

 

 

「チヨコさんは絶対に連れ戻します!!」

 

 

セイラは、伝説の戦士ガヴルへと姿を変えて夜の街を駆けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガヴルが駆けつけた先は、昼間に訪れた陸橋だった。

ツライーネという妖精族と会った場所は、確か線路の敷かれた陸橋の下だったはずだ。

しかし深夜の線路には電車など走っておらず、ガタガタゴトゴトという賑やかな音は聞こえない。

 

なのだが……ガヴルの耳は、かすかな戦いの音を聞き分けていた。

物々しい闘争の調べが、確かに聞こえたのだ。

 

 

「きゃぁっ!!」

「なぁんだ、意外と大したことないわねぇ!」

 

駆けつけた先は、放置された土管たちの目立つ空き地だった。

鉄色の大サソリのような姿をした妖精族が、傷だらけのクロニャンをいたぶっていた。

全長3メートルを超えているであろう大サソリの妖精族は……おそらく、ツライーネの本当の姿なのだろう。

 

満身創痍のクロニャンは必死に反撃の拳を叩きつけ、ブラウンの指鉄砲で抵抗している。

しかし、大サソリの甲冑のごとき外皮に全ての攻撃を阻まれてしまっていた。

あの外殻を砕くのは、ガヴルでも一筋縄ではいかないだろう。

 

大サソリが、ボロボロのクロニャンへととどめを刺そうと右手のハサミを力いっぱいに振り下ろした。

ガヴルは咄嗟に走り寄り、クロニャンを抱きかかえて窮地から救い出した。

クロニャンが1秒前までいた場所が、クレーターのように抉れた。

 

 

「……どうして、お二人が戦っているんですか」

 

クロニャンを抱きかかえながら、ガヴルは普段より低く震える声で問いかけた。

心が、苦しかった。

二人が殺し合いをしているのはガヴルにとって……井上セイラにとって、あってほしくない未来だったからだ。

 

 

「ゴメンねぇ~? あのあと元締めの連中に会ったらさぁ、妖精狩りを捕まえてきたら種を10個くれるって言われちゃってねぇ!

あんたたちをボコる程度でそれだけソウルフルーツが食べられるなら、オイシイ話よぉ!」

 

大サソリの妖精族は、悪びれなく言い放った。

昼間に会った時と変わらない、軽々しい調子のままで。

ガチガチと鉄色のハサミを打ち鳴らしながら、悪意の言葉を口ずさむ。

……ガヴルの、聞きたくなかった言葉だ。

 

 

「……ソウルフルーツから手を引く気は、本当にありませんか」

「おバカさんねぇ! ソウルフルーツをやめられる訳ないでしょぉ!!」

 

ガヴルは、心が苦しかった。

身勝手な願望だとは自分自身でも理解していた。

それでもツライーネには、ニンゲンさんと和解できる妖精族でいてほしかった。

妖精族の中にもニンゲンさんたちと仲良くなれる者だっているのだ、という実例になってくれると信じたかった。

 

 

…………そういう存在だっているということを、チヨコに見てほしかった。

 

 

「……分かりました」

 

ガヴルは、拳を固く握りしめてしまっていた。

もう、目の前の妖精族は殺すしかない。

もしかしたら、またツライーネは嘘をつくかもしれないが……ガヴルは同じ相手に何度も騙されるほど愚かではないつもりだ。

 

 

……そんなガヴルの拳を、優しく包み込む掌があった。

 

 

「ゴメン、ガヴルちゃん。本当は私、気付いてたんだ。ガヴルちゃんが妖精族を殺すのを嫌がってるって。

でも……私一人じゃ、やっぱりダメだった」

 

傷だらけのクロニャンが、それでも立ち上がっていた。

ガヴルと同じ目の高さで見つめ返してきてくれた。

 

ここで初めて、ガヴルはクロニャンの単独行動の意味が理解できた気がした。

チヨコはセイラのために、単独行動を選んだのだ。

セイラの気持ちを尊重するためだ。

 

 

――大切なニンゲンを守るためだったら、私も手を汚してみせます。

 

セイラとて、あの時の言葉が嘘だったというつもりはない。

それでも本当は苦しかったというのも、正直なところだった。

きっと、それがチヨコにもバレていたのだ。

だからセイラに無理強いしたくなかったのだろう。

思えば、セイラはチヨコの優しさに幾度となく救われてきた。

 

 

 

初めて会った日に、水道の蛇口を壊して焦っているセイラを助けてくれて。

 

 

その後も、母親の言い残した「幸せ」を一緒に探し回ってくれて。

 

 

セイラのために「幸せ手帳」をプレゼントしてくれて。

 

 

伝説の戦士として一緒に隣で戦ってくれて。

 

 

セイラに誕生日を作ってくれて。

 

 

 

今更ながら、チヨコには優しさを貰ってばかりだと噛みしめた。

そう思い始めてから、ふと気づくことがあった。

心の中に、いつの間にか暖かい不思議な力が溜まっているのだ。

 

ガヴルは、直感に任せて掌に暖かい力を集めた。

瞬く間に掌から伸びた光は、ガヴルの身の丈ほどもある武器へと変化した。

イチゴで彩られた白いホールケーキのような鍔から、巨大なロウソクが生えている不思議な武器だ。

チヨコの誕生日に作ったバースデーケーキみたいだとガヴルは思った。

 

 

そして、掌に返ってきた感触は……重かった。

変身して普段より腕力が高まっているはずのガヴルですら、持ったまま走ることは出来ないほどの重さだ。

何やら強そうなケーキとロウソクの武器だが、さすがに重すぎる。

……でも、あの固そうな大サソリの妖精族でも殺せそうだ。

 

そんなフラついたガヴルの隣に立って、一緒にケーキの武器を握ってくれる手があった。

ボロボロで、ちょっぴり頼りなくて、でも暖かくて優しい手だ。

 

 

抱える武器の重さが、半分になった。

誰よりも近くで支えてくれる人がいるからだ。

たったそれだけのことが、何よりも嬉しいと思えた。

 

 

「あれぇ……? なんだかヤ~な予感……?」

 

大サソリのような妖精族は、ガヴルたちの様子から嫌な気配を察した様子だった。

そんなツライーネを、ガヴルとクロニャンは正面から見据えた。

二人で握ったケーキの武器が、闇夜に煌めいた。

不思議と、初見の武器なのに何が出来るのか分かった。

 

 

ガヴルとクロニャンの二人は、ケーキの武器を唐竹割のように振り抜いた。

そして……その先端からは、敵対者を焼き尽くすような細長い光が伸びていた。

逃げようとしていたツライーネを、10メートルを超える直線状の光が頭上から両断した。

 

断末魔の声をあげることすら許されず、ツライーネは絶命した。

あまりにも呆気ない最期であった。

両断された大サソリの妖精族は、やがて煙のように消えていった。

まるで……最初から何もいなかったと言わんばかりに。

 

 

戦いの幕は、あまりに突然に降りたのであった。

夜の街に再び静寂が戻り、二人の息を吐いた音が夜闇に溶け込んだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

互いに変身を解いた状態で、セイラはチヨコを背負って歩いた。

ツライーネと一人で戦ってダメージが溜まっていたチヨコの身を気遣って、セイラが言い出したのだ。

ニンゲンさんは脆くて傷つきやすいので、セイラとしては心配だったのである。

そんなセイラに甘えると、チヨコは言ってくれたのだった。

 

 

「レモン叔母さんが心配していましたよ。元気な姿を見せてあげてください」

「外出したの、バレてたんだ……」

 

しょぼんとしているチヨコの声も、どこか微笑ましい。

まぁ妖精族がらみの案件ならばレモン叔母さんも理解は示してくれるのだろうが。

それでも、家族というのは色々あるのかもしれない。

セイラ自身の母親のことを思い返してみても、セイラが危険なことをしたら良い顔はしなかったものだ。

 

 

「チヨコさんが一人で妖精族の世界に乗り込んだかもしれないって、私も心配したんですよ」

「……あっ」

 

その手があったか、というチヨコの反応を見るにセイラの予想は外れていたらしい。

これは、薮蛇だったかもしれない。

思わぬ失言に、セイラは少しだけ慌てた。

ここは強めに釘を刺しておかないと、本当にチヨコは実行しかねない。

 

 

「絶対にダメですよ!」

「でも、ギャングルメっていう一族の手掛かりは、そうでもしなきゃ見つけられないよ」

 

……なのだが、チヨコの返事を聞いてセイラは背筋が寒くなった。

チヨコの口からその名前が出てくる未来がいつか来ることは、セイラも覚悟していた。

もちろん、攫われた母親の手掛かりを探していれば、いつかはチヨコもギャングルメの一族へと突き当たる日が来るだろうとは思っていた。

既にチヨコはシャッカに遭遇したことがある訳だし、ギャングルメの一族を知るのは時間の問題だったのだろう。

しかしそれが、セイラの思っていたよりも遥かに早かった。

 

このままチヨコが調査を続ければ、ギャングルメの一族の末妹の存在に辿り着くのも時間の問題だろう。

そこまでいかずとも、ギャングルメの一族に深入りしすぎて命を落とす危険だって有り得る。

 

 

――私、妖精族を絶対に許さない。これからも私と一緒に妖精族を殺してくれるって、信じていいんだよね?

 

 

セイラがギャングルメの家の者だと知ったら、チヨコは何と言うだろうか。

 

 

――私は、やっぱり妖精族を信じるなんて出来ないよ。

 

 

ただでさえ妖精族だと知られたらマズいというのに……ましてや、ギャングルメの一族だなんてバレたら?

 

 

「あの大猿の妖精族の実力を、チヨコさんも見たでしょう? ギャングルメの一族は本当に危険なんです」

「あの赤いの、ギャングルメの一族だったんだ……?」

 

……セイラの、痛恨のミス!!

チヨコに余計な情報を与えてしまった!!

 

幸運にも、背負われているチヨコからはセイラの焦り顔は見えなかったようだが……これは予想外の大ポカかもしれない。

このミスがどんなふうにマズいのかというと、次にシャッカに会った時に敗走しづらくなるのだ。

ガヴルたちが力負けしたときに、クロニャンが撤退を渋る危険性が出てきてしまった。

母親の手掛かりがあるかもしれないとなれば、撤退の提案をクロニャンが聞き入れないことだって有り得るのだ。

 

 

「さっきのセイラちゃんの……()()()の新しい力なら、あの赤いのにだって勝てるよね?」

 

チヨコが「私たちの」と言い直した気持ちを、セイラとて理解できていた。

武器自体はセイラが生み出したが、あの外見が先日のバースデーケーキに由来するのは明らかだった。

理屈までは分からないが、チヨコの誕生日を祝った時の幸せによってあのケーキの武器は生み出されたのだろう。

セイラだけでなく、チヨコもまた新たな力の起源となっている可能性は高い。

 

そして、チヨコが新しい力に期待しているのもよく分かった。

実際、幼い頃からシャッカの実力を知る実妹の目から見ても、あのケーキの武器がシャッカに通じる可能性は高そうだと思えた。

あの一族がソウルフルーツの種を管理する元締めなのだから、ニンゲンさんたちの命を守るためにも殺すべきだ。

先ほどツライーネを殺したときと同じように、シャッカ達だって殺せるかもしれない。

 

頭では、分かっている。

 

 

……それでも、セイラは頷くことを躊躇した。

 

 

「……そういえば、あのケーキとロウソクの武器の名前って、どうしましょうか。呼び名がないと不便かもしれません」

「私の方も、いうほどネーミングセンスに自信がある訳じゃないんだけどね? うーん、どうしよう……?」

 

幸い、セイラが話題をそらしたことにチヨコは気付かなかった様子だ。

キャンドルかケーキを名前に入れた方が直感的かも、なんて首を捻りながら新武器の名前を考えてくれている。

背負われているチヨコから聞こえてくる声は、とくに訝しげには感じられない。

私に付けさせるとケーキケンとかになりますよ、なんて冗談めかして少しだけ笑いあいながら、セイラは夜道を歩いた。

 

 

「ここは捻らずシンプルに『キャンドルロッド』が良いかも」

「なんだか良さそうな響きです!」

 

なお、ついでに単語の意味を説明してもらうのであった。

確かに、あの長いロウソクのような部分は剣と呼べるような切断機能は無さそうだったので、棒と呼ぶのは妥当かもしれない。

まぁ、棒といっても鈍器として使用することが可能かと言われると怪しい話ではあったが。

1人では振り回せない重さだったので、単純な鈍器として活躍させる機会があるとは思えなかった。

 

 

「あとさ、セイラちゃん。実は私たち……ガヴルとクロニャンにも名前が付けられそうなんだよ」

「?」

 

一瞬だけチヨコの言葉の意味を理解できなかったセイラであったが。

少々考えてみたら意図を推測することはできた。

おそらく、グミやチョコレートを合わせてお菓子と呼ぶみたいに、二人をまとめて呼ぶための言葉があるのだろう。

 

 

「まだ噂話の範疇だけど『プリキュア』って呼ばれてるみたい」

 

チヨコの話を聞いてみると。

どうもウシオさんたちが子供の頃からある噂話として、「プリキュア」と呼ばれる二人組のヒーローの存在が囁かれていたんだとか。

そして最近になって、妖精族やヒトバシランダーと戦うガヴルたちがそう呼ばれ始めたという訳だ。

 

 

「不思議と、しっくりくる言葉ですね。今夜から私たち二人はプリキュアです!」

「気に入ってくれて良かった。改めて……これからも、よろしくね」

 

チヨコを背負って歩く足取りが、少しだけ軽くなった。

そうやって足を進めているうちに……ようやく、絆田家が見えてきた。

深夜にもかかわらず灯りが点いており、きっとレモン叔母さんが待っているのだろう。

 

 

チヨコを無事に連れ帰れて、本当に良かった。

この先のチヨコの無茶な行動に釘を刺すこともできた。

キャンドルロッドという新たな武器も手に入れた。

プリキュアというチーム名もついた。

 

何かと収穫の多い一晩であった。

色々なものが前に一歩進んだという、良い意味での変化であったと思えた。

 

 

夜闇の中で絆田家の呼び鈴を鳴らしつつ。

セイラは、少しだけ安堵の息を吐いたのであった……。

 

 

 

 

 

 

 





別にプリキュアがTV番組として放映されている世界ではないので、作中人物のプリキュアへの解像度が低いのは仕様なのだ……。

個別コードネームは「キュア〇〇」にするだとか、変身後は敬称無しで呼ぶだとか、その手のお約束も全然知らない模様。

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