・前回までのあらすじ!
ニガリ「妹が妖精狩りに殺された! 犯人は妖精狩りのプリキュアだろう! ムっ殺す!!」
クロニャン「クラゲ妖精……なんて強さなの……!」
ニガリ「ギャングルメの一族が怪しいだと? なに? 一緒に戦ってくれるのか? そうか、お前も
ガヴル「チヨコさんは置いてきました。この戦いにはついて来られなそうなので……」
チヨコ(あれっ? 私と二人でプリキュアじゃなかったの??)
クラゲ妖精ことニガリとの邂逅の翌日、伝説の戦士ガヴルは採石場の一角にて身を潜めていた。
物陰から様子をうかがうガヴルの視界には、ニガリを待つ赤ゴスロリの女の姿があった。
セイラの実の姉であるシャッカ・ギャングルメだ。
そこに、煙草の匂いを纏った長身の女が現れた。
「……待たせたな」
「それでそれで? ソウルフルーツを1個渡せば次の種の配布か、妖精界への帰還か選べるわよ?」
セイラとニガリの立てた作戦はシンプルだ。
まずニガリがシャッカと話し、
そのうえでカルメラの仇であれば、二人がかりでシャッカを殺すだけだ。
「お前に、確認したいことがある。以前ソウルフルーツを食べる旅行に行った、私の妹が……」
ニガリが言い終わるのを待たずに、凄まじい轟音が採石場に木霊した。
全高3メートルにも及ぶ赤毛の大猿へと姿を戻したシャッカが、その巨腕を振り下ろしてニガリを殺そうとしたのだ。
幸いニガリの方は回避が間に合ったため、シャッカの拳は地面を砕いただけで終わった模様である。
展開が早すぎて、ガヴルも完全に出遅れてしまっていた。
「あらあら、殺りそびれてしまったわ。貴女みたいなのは、初撃で大抵ミンチになるのだけれど」
「……そうか。私のような復讐者が旅行客に紛れているのも、お前にとってはよくある話という訳か……!」
よく分かった、とニガリが低く濁った声で呟いた。
ニガリは化物クラゲへと姿を戻し、束ねた触手に殺意を滾らせて刺突攻撃を放った。
そんなニガリの殺意を受けても、シャッカは嘲笑を崩さなかった。
シャッカは、ニガリの刺突攻撃を裏拳で弾いて軌道を変えることで防いだのだ。
流石に体格の問題で、フットワークだけでニガリの刺突攻撃を防ぐのは無理のようだが、シャッカは拳を器用に使って対応している。
一方、シャッカの巨腕から繰り出される拳もまた、殺人的な威力を誇っていた。
ニガリはクラゲのような丸い身体を回転させることで殺人パンチを滑らせ、上手く決定打を避けている様子ではあるが……。
「くっ……!」
「くすくす。衝撃を逃がしきれていないわよ?」
どうやらダメージレースで考えるとシャッカの方が有利な様子だ。
赤毛の大猿が剛腕をふるいながら、徐々に化物クラゲを追い詰めていった。
ついにシャッカは、切り立った崖へとニガリを追い込んだ。
逃げ場のないニガリへと、シャッカが剛腕からのフィニッシュブローを撃ち込もうとした。
「でりゃああああっ!!!」
赤毛の大猿が剛腕を振り切ったのとほぼ同時に……ガヴルによる飛び蹴りが炸裂した。
ガヴルによる奇襲の直撃を背中に受けてしまったシャッカは、そのまま崖から突き落とされる羽目になった。
「甘い甘い! この程度の高さから落ちても、致命傷には程遠いわよ!」
崖の高さが30メートル程度あるとはいえ、妖精族の頑丈さを勘定すれば決定打には至らない。
……そんなことはガヴルもニガリも承知のうえだ。
次の瞬間、シャッカが味わったのは固い地面への着地の衝撃ではなかった。
シャッカが落下した先にあったのは、ケイ素系列の固い地面ではなく……液体だった。
しかもその液体は、人間界によくある透明な池の水ではなく、毒々しい赤色だ。
「痛っ!? この赤いのは、まさか……!」
「……愚問だな」
罠の正体は、ガヴルとニガリが
赤毒の沼に全身で浸かってしまった赤毛の大猿が、悲鳴をあげながら必死に毒液の沼から這い上がろうとしている。
明らかに効いている。
そう確信したガヴルとニガリは、しかし手を緩めなかった。
どこからともなくマッチ箱をとりだした巨大クラゲが、触手を器用に使って火種を赤毒の沼に投げ込んだ。
「カルメラの受けた痛みと苦しみ、お前も味わえ……!!」
毒々しい真っ赤な沼が、爆発的に燃え広がった。
鼻を突くような異臭にガヴルは顔をしかめた。
復讐に心を燃やすニガリの気持ちは、ガヴルにも一応分かる。
目の前で母親を殺された身として、その実行犯の一人であるシャッカに対する憎悪は確かにあるからだ。
それでも……苦しむシャッカの姿を目の当たりにして、少なくとも「嬉しい」という感情は湧いてこなかった。
胸の奥が、痛んだ。
「ぐっ、ぎゃあああああああああっ!!!?」
赤毛の大猿は、腹の底まで響くような絶叫をあげた。
採石場全体を震わすような悲鳴に、土砂崩れが起こり、建機が横倒しになった。
炎の渦と化した毒沼から何とか抜け出したシャッカは、採石場の冷たい地面に転がって何とか火を消そうとしている。
そんな赤毛の大猿へと、クラゲ妖精が容赦なく追い打ちの刺突攻撃を何度も浴びせた。
ようやく火足が弱まってきた頃には……既に、シャッカは虫の息だった。
ガヴルは、胸の内が苦しかった。
――私、妖精族を絶対に許さない。これからも私と一緒に妖精族を殺してくれるって、信じていいんだよね?
頭では、分かっているのだ。
チヨコの父親が殺されたのも、シャッカたちのせいだ。
ソウルフルーツ目的の旅行者たちによって、数知れずニンゲンさんたちが犠牲になっている。
数えきれない悲劇の元凶であるギャングルメの一族に、同情の余地は無い。
「もっとだ。もっと苦しんで死ね」
「がはっ!!?」
シャッカを恨んでいるのはニンゲンさんたちだけではなく、妖精族も一緒だ。
妹を殺されたニガリのような妖精族もゴマンといるのだろう。
やはり同情の余地など欠片もない。
こういうのをニンゲンさんたちの言葉で、「因果応報」と言うのだとか。
ガヴルとて冷静な部分では、理解できているのだ。
……ニガリと同盟を組んで立場からしても、シャッカの助命などありえない。
「ぐっ……濡れ衣、濡れ衣よ!
貴女の妹とやらが妖精界に辿り着いた後で殺されているなら、それはレンジオ兄さんたちの管轄なのよ!
貴女が妖精界で妹の死体を見ているならそれは私の仕業ではないわよ!!」
「……そうか。死ね」
ニガリの妹の直接的な仇は、シャッカではない。
その情報に、ガヴルは一縷の希望を見た気がした。
今にも渾身の刺突攻撃でトドメを刺されそうなボロボロのシャッカに対して、ガヴルは必死に声を張った。
「聞いてください、シャッカ姉さん!
もうソウルフルーツに二度と関わらないで生きていくと、言ってください!」
「コイツが、姉……? セイラ、それは一体どういう……?」
「な、なに? なにを、言って……?」
ニガリが戸惑う声が漏れた。
シャッカも、セイラの嘆願が予想外であったと見える。
そんな二人の動揺に構わず、セイラは心の底からの言葉を続けた。
「ニンゲンさんたちを殺すのをやめて、私たちと一緒に生きていく未来を選んでください!!」
ガヴルは……セイラは、ボロボロのシャッカに手を差し伸べた。
その手を、とってほしかった。
身勝手な願望かもしれない。
それでも、血を分けた姉に共存を選んでほしかった。
「一緒に生きて、ニンゲンさんたちをもっと知って……私たちと一緒に、ケーキを食べましょう」
絆田家でチヨコやレモン叔母さんと一緒に食べたケーキを思い出しながら。
そんな幸せをシャッカとも分け合えたらいいと心から思った。
そうしたら、シャッカだってニンゲンさんたちを好きになってくれるかもしれない。
「私に、私に汚らしいニンゲンの餌を食えというの!? そんなものを食べられる訳がないでしょう!!」
返ってきたのは、剛腕による拳だった。
ボロボロで死にかけているシャッカが、それでも怒りに任せて立ち上がり、ガヴルを殴り飛ばしたのだ。
採石場の冷たい地面で受け身をとりながら、ガヴルは身を震わせた。
悲しみが、心を苛んだ。
「……それが、自分の妹に対して言うことか」
たがガヴルの悲しみに、ニガリが寄り添ってくれた。
追撃にて振るわれた赤毛の大猿の拳を、クラゲ妖精が身体で受け止めて弾き返したのだ。
そして、もうガヴルも姉の助命を口にする気は無かった。
悲しみは胸の内に残ったままだが、これ以上は甘いことを言っている状況ではないと理解している。
「ニガリさん。私に力を貸してください」
ガヴルは、身の丈ほどもあるケーキとロウソクの武器を掌から生み出した。
キャンドルロッドの先端が採石場の地面を削り、その重さを思わせる。
ニガリも力を貸してほしいという意味を理解してくれた様子で、ガヴルと一緒にキャンドルロッドの柄を握ってくれた。
赤毛の大猿が、ボロボロの身体に鞭打って、殺意の拳を叩きつけてくる。
ガヴルとニガリは、キャンドルロッドを上段に構え、シャッカを正面から迎え撃った。
振り抜かれたキャンドルロッドからは純白の光が放たれ……シャッカを焼き尽くす。
10メートルを超える一筋の光に両断され、シャッカは絶命した。
辞世の句を詠むことすら、叶わなかった。
クロニャンは、毒と殴打のダメージが残る全身に無理をさせながら、西の採石場へと辿り着いていた。
SNSで得た情報をもとに、ガヴルが妖精族たちと戦っているという情報を得たためである。
ガヴルが妖精族2体を相手取って苦戦しているのだろうと信じて加勢に来たのだ。
だが……採石場でクロニャンを待っていたのは、信じられない光景だった。
「私に、私に汚らしいニンゲンの餌を食えというの!? そんなものを食べられる訳がないでしょう!!」
ガヴルが、あのいけ好かないクラゲ妖精と一緒に赤毛の大猿を追い詰めている。
あのクラゲ妖精は昨日クロニャンを酷く痛めつけた憎き相手なのに。
そんな奴とガヴルが手を組んでいるというのは、クロニャンにとって受け入れがたい状況であった。
「……それが、自分の妹に対して言うことか」
そして、それ以上に受け入れ難い情報が脳に突き刺さった。
……妹?
誰が、誰の?
情報を噛み砕くことが出来ず、クロニャンは物陰に隠れたまま口元を抑えた。
――あの赤いの、ギャングルメの一族だったんだ……?
もし、あの赤毛の大猿の妹がセイラだとしたら?
それは、つまり……?
「ニガリさん。私に力を貸してください」
隠れて様子見を続けるクロニャンの視界で、ガヴルがキャンドルロッドを妖精族と一緒に握った。
クロニャンは、爪が砕けるかと思うぐらいに拳を握りしめてしまっていた。
――セイラちゃんの……
あの力は。キャンドルロッドは。
セイラがチヨコの誕生日を祝ってくれて、その時の想いによって生まれたものなのに。
それを、よりにもよって妖精族なんかと一緒に振るうなんて。
クロニャンは、頭の中で何かが破壊されたような気がした。
真っ白になった頭で、吐き気を抑えた。
あれだけ脅威だった赤毛の大猿が殺されたことに、何の感慨も持てなくなってしまっていた。
ガヴルに……セイラに、この状況を嘘だと言ってほしかった。
何かの間違いだと、クロニャンは思いたかった。
「……セイラちゃん。どういうことなの?」
「チ、チヨコさん……!? どうしてここに……!?」
涙を必死にこらえながら、クロニャンはガヴルたちの前へと姿を現した。
クロニャンも一杯いっぱいだったが、ガヴルにも動揺が見えた。
「セイラちゃん、妖精族だったの?」
「……」
ガヴルは、答えに窮している様子だった。
クラゲ妖精は、こちらを襲ってくる素振りは無いが、かといって友好的とも言い難かった。
「それに、ギャングルメの一族って、どういうこと?」
「……」
……何とか言ってよ。
そんなクロニャンの想いに反して、ガヴルは目を見開いたまま何も言ってくれなかった。
「私に内緒で、人食いの化け物同士で手を組んで……それが、本当のセイラちゃんだったの?」
「ち、違います! チヨコさんはニガリさんを誤解しています!」
…………その女を庇う言葉は、秒で出てくるんだ??
クロニャンは、頭の中で怒りのギアが一段階上がってしまっていた。
ぐちゃぐちゃだった。
情緒も、思考も、信頼も、友情も。
信じていた全部が裏切られた。
そんな悲しみと怒りが、胸の内に渦巻いた。
何か言葉を継ぎ足そうとしていたガヴルの頬を、クロニャンは引っぱたいた。
乾いた音が採石場に響いた。
「うるさい!! もう信じられない!! セイラちゃんなんて、大っ嫌い!!!」
・今回のNG大賞!
とあるカントクの裏話。
「ああ、あの浮気現場のシーンねぇ!」
「撮影の時にガヴルの子が『ホントにビンタして大丈夫だよ』って言い出して、凄い根性だなと思ったんだけどね」
「リテイク出し続けて、5回目の時には、逆にクロニャンの子が泣きそうな顔をしはじめちゃってね」
「その時の表情が凄く良かったから、思ってたのとイメージ違ったけどOK出しちゃった!」
いや~、修羅場って本当に良いものですね!(映画評論家感)