マジカル☆ガヴリンク!   作:カードは慎重に選ぶ男

23 / 37

ちゃんと話し合うことが大事なんだ。

香村純子先生もそう言っている。

話し合って、相互理解を進めることが大事なんだ。

いつも私たちはニチアサから大切なことを教わってきたんだ。




第23話:混迷の味 知りたかった真実

絆田チヨコは、その日の授業を完全に上の空で聞き流してしまっていた。

幸い体育や家庭科のような怪我をしそうな科目は無かったが、ノートは真っ白だった。

考えが、まとまらなかった。

 

 

――セイラちゃんなんて、大っ嫌い!!!

――ごめんなさい、チヨコさん。

 

セイラの苦しそうな顔が、頭から離れなかった。

どうしてこんなにモヤモヤするのか、チヨコ自身でも言語化できない感覚だ。

 

オオカミのような妖精族によって攫われる母親を、幼少期に見た。

そして、今年に入ってからはキノコの妖精族に父親を殺された。

妖精族への憎悪は常に燃え滾っているし、あのクラゲ女に叩きのめされた恨みだって真新しい。

人間を肥料にしてソウルフルーツを貪り食う妖精族は、殺さなくちゃいけない。

 

 

そのはずなのに……セイラの泣きそうな顔を思い出すと、どうしても決意が鈍った。

 

 

(……昨日はカッとなっちゃったけど、よく考えたらセイラちゃんは妖精族の被害者を救い続けてきた訳だし、何か事情があるのかも)

 

チヨコとて、ガヴルが人間を救うために戦っている姿を数知れず見た。

何度も一緒に戦った。

それに、昨日のガヴルとクラゲ女は、赤毛の大猿を殺していた。

ギャングルメの一族というヤツも、きっと一枚岩ではないのだろう。

 

 

(やっぱり、もう一度ちゃんとセイラちゃんの言い分を聞いた方が良いかも……)

 

 

――私に内緒で、人食いの化け物同士で手を組んで……それが、本当のセイラちゃんだったの?

――ち、違います! チヨコさんはニガリさんを誤解しています!

 

だがセイラとのやり取りを思い出しているうちに、なんだか再びイライラし始めてしまった!

あの腹立たしい煙草臭い女が、セイラの相棒みたいな顔をしているのがムカつく!

 

……なんて、考えごとをしているうちに、無意識に足が帰路から外れてしまっていた。

いつのまにか絆田チヨコは帰宅ルートを逸れて、いつもの公園の手前まで来てしまっていたのだ。

 

セイラに会いたい、と想いが募った。

どの面を下げて会いに行くんだ、と足が重くなった。

あと一つ角を曲がればいつもの公園が見えるというところまで来ても、チヨコは心を決めきれなかった。

そして……なんの運命の悪戯か。

 

 

 

「「……!!」」

 

 

よりにもよってこのタイミングで、例の煙草臭い妖精女とエンカウントしてしまった!

目が合った瞬間、チヨコは即座に後ろ飛びで距離をとって、いつでも変身できるように油断なく身構えた。

一方、長身の女に擬態しているクラゲ妖精は、面倒くさそうに煙草の煙を吐いた。

チヨコのことなど警戒するまでもない、という態度にチヨコは眉をひそめた。

 

 

(攻撃してこない……?)

 

なんだか妙だ、とチヨコは思った。

一昨日は、遭遇して直後に殺しにかかってきた相手なのに。

今は、面倒くさそうにこちらを見下ろしたまま煙草をふかしている。

 

 

「……無暗に戦おうとしない分だけ、今日は冷静のようだな?」

 

お前が言うな、というツッコミを絆田チヨコはなんとか飲み込んだ!

内心、ブチ切れそうだったが、ぎりぎりキレずに持ちこたえた!

今は情報収集を優先すべきだという理性が何とか働いたのだ。

 

 

「あなた、セイラちゃんを利用しているんでしょ? 何が目的なの?」

 

チヨコの問いかけを、煙草女は小さく鼻で笑った。

……いけ好かない。

 

 

「お前が言えた義理ではないだろう」

 

バチバチと、火花が散った気がした。

人を見下しているその態度が、非常に気に食わない。

チヨコは心の底から、この煙草臭い女のことが鼻についた。

一方、長身の女の側もチヨコの言葉を不快に思っている様子で。

 

 

「弱くて守られているだけのお前よりは、私のほうが余程マシな関係を築けていると断言できる」

 

煙草女の吐き捨てた言葉が……絆田チヨコの、逆鱗にふれた。

それは、チヨコが内心で気にしていることだからだ。

事実は時に暴論よりも人を怒らせる、というのは誰の言葉だったか。

 

 

端的に言って、チヨコはブチ切れた。

 

いつもの黒のドレスとピンク髪を振り乱して、怒りのクロニャン参上である。

 

 

「……面倒だが、死なない程度に分からせてやる」

 

煙草女は、全高2メートルにも及ぶグロテスクな巨大クラゲへと姿を戻した。

海中を泳ぐような仕草で、化物クラゲが宙に浮いている。

 

 

 

だが、しかし。

 

 

「二人とも、やめてください!! どうか……矛を収めてください!!」

 

 

一触即発の二人のもとへと駆けつけたセイラの一声にて。

かろうじて、二人の激突は回避されたのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チヨコさん、ごめんなさい。妖精族だって、黙っていて」

「私も……ごめん。話も聞かずに殴ったりして」

 

煙たいクラゲ女には公園から出払ってもらい、ようやくセイラと二人きりになれて。

ようやく、チヨコは胸の内につっかえていた言葉をセイラへと届けることができたのであった。

 

まだ、気まずいままであったが……それでも。

二人の間にあった距離が、少しずつでも戻っていくように思えた。

 

セイラは、ゆっくりと話し始めた。

ギャングルメという一族の当時の家長によって勝手に見初められて、妖精界へ拉致された女性がいたこと。

その女性が、後妻として妖精界で産んだ子供がセイラであること。

先妻の3名の子供たちは、ソウルフルーツの肥料を見初めた家長を異常者と見なしていたこと。

混血児のセイラは兄姉に殴られて育ったが、唯一のニンゲンであった母親に守られてなんとか生きてきたこと。

家長であった男が死んだあと、先妻の子らが後妻を殺したこと。

セイラも殺されるかどうかの瀬戸際であったが、命からがら逃げ延びてニンゲンさんたちの世界に辿り着いたこと。

 

 

「妖精族の証です。ニンゲンさんたちのお腹の傷が、私たちには無いんです」

 

セイラが震える手で、いつもの水色のパーカーの裾を持ち上げて中を見せてくれた。

その腹部には……チヨコたちのようなヘソの穴は無かった。

小さな違いでありながらも、決定的に生物としての違いがあるのは明らかだった。

 

 

 

チヨコは、絶句した。

 

異種族恋愛のラブロマンスなんかとは程遠い、地獄のような話だった。

チヨコとて、同級生らが「私を攫いに来てくれる王子様!」みたいな憧れを盛り込んだ創作物の噂話をしているのを聞いたことはあった。

しかし、ここまで救いのない話を聞かされてしまうと、もうその手のファンタジーを楽しめる気がしなかった。

 

 

「……そっか。セイラちゃんも、お母さんも、ギャングルメの一族の被害者だったんだ」

 

なんとか、チヨコは言葉を絞り出した。

今まで見てきた井上セイラという人物像が、少しだけ違って見えた。

 

 

――これで私とセイラちゃんも友達だね!

――嬉しいです! チヨコさんは私の初めての友達です! チヨコさんのことを一生守り抜いてみせます!!

 

あの日、チヨコの言葉を嬉しいと言ってくれたセイラの態度は、大げさでもなんでもなかった。

ギャングルメの屋敷に13年間幽閉されて育った井上セイラという一人の人間の、本当に初めての一歩だったのだ。

 

 

――素敵な思い出だね。セイラちゃんのことを考えてくれる、いいお母さんだったんだね。

――私の自慢の母さんです!

 

母親を目の前で惨殺された井上セイラは、それでも精一杯笑って生き抜いてきたのだ。

悲しみと苦しみを心の内に沈めて、同じ悲劇を少しでも食い止めるために兄姉の暴虐から人間を守ってきた。

 

 

――セイラちゃんに、プレゼントだよ。見つけた「幸せ」を書き残して、いっぱいにしてくれたら嬉しいな。

――これは……手帳ですか? ありがとうございます! 一生大事にします!!

 

右も左も分からない人間界で、母親から聞いた小さな幸せの欠片を集めて、精一杯生き抜いてきたのだろう。

一緒に見つけた「幸せ」を手帳に書き記すセイラの横顔が嬉しそうだったのを、チヨコは忘れない。

 

 

 

「……本当に、ごめん。初めて会った時だって、セイラちゃんが私を助けてくれたのに。

私、頭に血がのぼって、なんにも見えてなくて。酷いこと言って、ごめん」

 

そして、セイラが身の上を明かせなかった理由も察していた。

たびたびチヨコが妖精族への憎悪を口にしていたからだ。

妖精族を許せない、とチヨコが言うたびに、きっとセイラは苦しんでいたのだ。

だから言い出せなかったに決まっている。

 

 

「家族のことを言い出せなかったのも……『妖精族は敵だ』って私が言い続けてたからだよね。本当に、ごめん」

「……私が、チヨコさんに嫌われるのが怖かったからです。黙っていて、私こそごめんなさい」

 

セイラは、自身も己の都合で隠し事をしていたことを詫びる言葉を紡いだ。

正直にいって、それはセイラのせいではないとチヨコは思った。

それでもチヨコはその否定を口に出さなかった。

 

嫌われるのが怖かった、という言葉の背景にある気持ちが嬉しかったからだ。

セイラにとってチヨコがどんな存在なのか、単純な言葉以上に伝わってきた。

 

 

「私、セイラちゃんを信じるよ。妖精族でも人間でも、セイラちゃんを信じる。だから……もう一度、私と友達になってくれる?」

「チヨコさん……! 嬉しいです! また、一緒によろしくお願いします!!」

 

チヨコの差し出した手を、セイラも握り返してくれて。

セイラの喜ぶ姿が、嬉しく思えて。

きっと自分もそんな顔をしているんだろうな、なんて思ったチヨコなのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……完全和解みたいな雰囲気で握手しちゃった後で言うのもなんだけど、もう隠してる厄ネタとかないよね?」

 

……チヨコとしては冗談半分に言ったつもりであったのだが。

一瞬前まで尻尾を振っている子犬みたいだったセイラの笑顔が、凍り付いた。

チヨコは大体の事情を察した。

 

あるんだね、厄ネタ??

そう理解しているチヨコであったが、急かすべきかどうかは迷った。

セイラを信じると言ってしまった手前、簡単に前言撤回するのも如何だろうかという想いがあるのだ。

 

 

「……もう、チヨコさんに隠し事はしたくないです。

実は、妖精族の旅行者たちはニンゲンさんたちに化ける力を得るために、ソウルフルーツを1個食べているんです。

それは、最近仲間になったニガリさんも同じなんですけれども……それでも、ギャングルメの一族に抗うために共闘できますか?」

 

「ええっ……」

 

チヨコは、流石にドン引きした。

やっぱりあの煙草女も人食いの化け物だったんじゃないか、と。

人を既に食っている妖精と手を組むなんてありえない、という拒否感が喉元まで上ってきたが、何とか堪えた。

 

 

――ううう~ん、理屈としては、ニンゲンを知らずに食べたなら一律セーフで良いと思うんだよね。

――アタシたち人間だって、1週間前に食べた料理に妖精族の肉が入っていたから償え、みたいに言われても困るし。

 

だが、セイラは事前にレモン叔母さんに相談していたらしく、一応の理論武装を提示してきた。

あまり説明が上手いとは言えないセイラの言葉を噛み砕きつつ、チヨコは自分の頭でその成否を審議してみた。

確かにチヨコとて、自分が食べたものの全ての原材料を正確に把握している訳ではない。

その中に含まれている材料の一つに関して恨みを聞かされても困る。

 

 

……感情としては納得できないが、一応理屈は通っている、か?

 

あの煙草女のことは心底気に入らないし、妖精族の旅行客全般にも良い印象は全くないが。

それでも、一応チヨコの中の冷静な部分が辛うじてセーフ判定を出していた。

 

 

「一応、理屈は通ってる……と思う。多分」

 

セイラもその言葉を聞いて、少しばかりの安堵を漏らした。

これから3人で戦っていける、という希望が見えてきたのだろう。

家族仲が最悪の家庭で育ってきたセイラにとって、仲間たちがギスギスしていると辛いのかもしれない。

あの煙草女と一緒に戦うのは正直に言ってかなり抵抗感があるチヨコであったが。

セイラの顔を立てると思えば仕方ない、と思えるぐらいにはスタンスを軟化させていた。

 

 

「ここからが、本題です。私も……幼い頃に一度だけ、レンジオ兄さんから与えられたソウルフルーツを食べたことがあるんです」

 

その告白に、チヨコは息が詰まりそうになった。

セイラがチヨコに言えなかった秘密が、これだったのだと思った。

ニンゲンが材料だと知らずにソウルフルーツを食べるのはセーフだという理屈が出てきたことで、初めて口に出せた事実なのだろう。

 

 

――私に内緒で、人食いの化け物同士で手を組んで……それが、本当のセイラちゃんだったの?

――ち、違います! チヨコさんはニガリさんを誤解しています!

 

思えば、チヨコが前に問い詰めた時の会話にもヒントはあったのだ。

セイラは……自分が人食いであることは否定しなかった。

 

それでも、チヨコはセイラの手をとれると思った。

一緒に歩んでいける、と言うつもりだった。

 

 

「ソウルフルーツを食べた時、犠牲になったニンゲンさんの『幸せ』の記憶が一瞬だけ見えたんです。

夫と一緒に赤ん坊を抱いていて……そのニンゲンさんたちは、絆田家で見せてもらったウシオさんたちの家族写真と完全に同じだったんです」

 

しばしの間、セイラの言葉の意味をチヨコは理解しかねた。

脳が、情報を理解することを拒んだ。

時間が止まったみたいだった。

 

 

……死んでいる。

チヨコやウシオが8年前から探していた母親は、とっくの昔に命を落としている。

そのソウルフルーツが存在していたということは……そういうことだ。

容赦のない、救いのない現実がチヨコの心を蝕んだ。

 

 

ぼろぼろと、涙が零れた。

オオカミの妖精族を探せば、いつかは母親に辿り着けると信じて生きてきた。

でも、母親はとっくの昔に死んでいた。

 

 

 

 

 

……そして、母親のソウルフルーツを食らった相手が目の前にいる。

 

 

 

 

 

「……分かってる。分かってるよ」

 

 

 

 

 

震える声を、チヨコは必死に紡ぎだした。

 

 

 

 

 

「全部話してくれたのが、セイラちゃんの誠意だってことも」

 

 

 

 

 

握りしめた拳に、涙がしたたり落ちた。

 

 

 

 

 

「セイラちゃんが悪くないのも、全部、全部、全部分かってるんだよ……!」

 

 

 

 

 

頭では分かっている。セイラは悪くない。でも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ごめん、セイラちゃん。私、セイラちゃんと一緒にプリキュアできない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





・あとがき

ちゃんと話し合って、相互理解して、それでも一緒に生きていくのは無理だってなるから「曇らせ」なんだ。絶望が深まるんだ。




・備考

――私たちはニンゲンの世界に来る前にソウルフルーツを一つ食べて、ニンゲンへの変身能力を得たんだが……お前は、そうじゃないのか?
――いいえ、私は生まれた時からこの姿です。…………えっ? ニガリさん、ソウルフルーツを食べたことがあるんですか?

→セイラ自身がソウルフルーツを食べたことがあるのは否定していないのだ


ちょいちょいヒントを入れているので、勘が良いオトモダチはこの展開を察していそうではある……。
感想欄でネタバレを自粛してくださった皆様のご配慮に感謝です!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。