マジカル☆ガヴリンク!   作:カードは慎重に選ぶ男

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この作者、幼少期に見たアニメで不良生徒が木の枝を咥えているという場面をしばしば見た記憶があったりします。

当時は全然理解できていなかったんですけれども、クリエイター的にはアレは煙草のつもりらしいというのを後年になって知りました。*1

日本のアニメで喫煙していたキャラが海外版だと棒付き飴キャラに改変されるなんて事例もあり、案外喫煙ってセンシティブなネタなのかもしれないですね……。

*1
50年以上前のドラマである『木枯らし紋次郎』が起源だとする説もあるとか。




第25話:代替の味 3人目の戦士

しばしの間、ココアシガレットの独特の風味を味わっていたニガリであったが。

天文台の裏手まで聞こえた悲鳴に、身構えた。

 

先ほどまでニガリと話していた館長の悲鳴だったように思った。

悲鳴元は天文台の正面口だと思われた。

駆けつけてみると……館長が、黒い種を植え付けられてヒトバシランダーへと姿を変えたところだった。

 

下手人は……眼鏡をかけた、ぎりぎり大人とは言えないぐらいの年齢の少年の姿をしていた。

ニンゲンに化けているが、妖精族だ。

この妖精を、ニガリは見たことがあった。

ニンゲンたちの世界に来るときに、ニガリを案内してくれたのがこの少年だったのだ。

名前は知らないが、ギャングルメの一族である可能性が高い。

 

 

「お前が、レンジオ・ギャングルメか?」

「兄さんを探しているのかい? 僕はニビル。レンジオ兄さんの弟さ」

 

どうやら、目の前の少年はカルメラの仇では無いらしい。

ならば用はない……と言いたいところだが、ニガリは立ち去るのを躊躇ってしまっていた。

 

頭から双葉を生やした、漆黒のクマのような怪獣が唸っている。

そのヒトバシランダーの中身は……先ほどまで話していた、天文台の館長だ。

その頭の双葉が育ってソウルフルーツを実らせれば、館長は干からびて死んでしまう。

 

ニンゲンたちの世界に来たばかりの頃は、ニンゲンの命など知ったことではないと言えたはずだった。

そういうのはセイラたちで勝手にやっていれば良いと、冷たく突き放せたはずだった。

 

ニガリは、煙草の煙を吐き出す仕草をした。

しかし実際に口から出たのは白煙ではなく、独特の刺激臭を伴った偽物の匂いだった。

……悪くない、気分だった。

 

 

「兄さんを知っているってことは、キミも妖精族かな。それとも、妖精狩り?」

「生憎、セイラ(あいつ)は今は体調不良でな。……代理だが、相手になってやる」

 

ニガリは、セイラが消化器不調で苦しんでいるのを知っている。

この天文台に来る道中で館長を背負っていた時も、セイラが少し無理をしていたのをニガリは見逃さなかった。

そして……そんなセイラに代わって戦うのも、悪くないと思えた。

 

 

 

……ニガリの腹の奥で、何かが灯った。

 

 

 

なんだか、ソウルフルーツを食べた時にも似た高揚感が沸き上がった。

いつの間にか……ニガリは、装いを変化させていた。

クラゲのような丸い意匠の灰色ドレスに、赤毒の模様が散りばめられた、独特の衣装だった。

口に咥えたままのココアシガレットの先からは、火を点けたわけでもないのに白煙が立ち上っていた。

 

 

「姿が、変わった? やっぱりモドキちゃんと同じ妖精狩りみたいだね?」

「……そのようだな。あいつらの言葉で言うところの、『伝説の戦士』というヤツか」

 

ニガリは、赤と灰色のドレスから伸びている自身の掌を握りこんでみた。

生物としての形だけを見ればニンゲン態と一緒だが、身体に満ちる力は妖精態と同等以上だと思えた。

不思議と、今の身体で何が出来るのか大まかに理解できた。

眼鏡の少年の観察するような視線に不快感を覚えるものの、伝説の戦士には臆することなど何一つない。

 

 

「威力偵察といこうか。ヒトバシランダー、行きたまえ!」

「ヒトバシラァ!!」

 

クマ怪獣は、全長で言えばおそらく、妖精態のニガリよりも一回り大きいぐらいだろう。

そんな巨体を揺らして、クマ怪獣が突撃してきた。

伝説の戦士ニガリは……そんなクマ怪獣の突進を、正面から受け止めた。

さすがに突進の勢いを殺し切るまでの間に両踵で少しばかり地面を削ってしまったが、それでも問題なくクマ怪獣の突進を受け止めることが出来た。

 

単純な膂力だけで言えば、明らかにガヴルたちを凌駕している。

至近距離から噛みつこうとしてきたクマ怪獣を、膝蹴りで引きはがして。

唸り声をあげるクマ怪獣を、伝説の戦士は見据えた。

 

 

「どうやら分が悪そうだね……。ヒトバシランダー! ローリングアタックだ!」

 

眼鏡の少年が、ヒトバシランダーに指示を出しつつ自身は撤退を始めた。

クマ怪獣は身体をアルマジロのように丸めて、肉弾戦車のごとき回転走法でニガリへと迫った。

 

ニガリは……迫りくる肉団子を、冷ややかな目で見据えた。

口元のココアシガレットから漏れ出た煙が、ニガリの意思に従ってクマ怪獣の進路へと集まった。

 

そして……ニガリは指先をパチンと鳴らしてみせた。

生まれた小さな火種が、白煙に引火して大爆発を起こした。

前転しながらニガリへと迫っていたクマ怪獣は、地面スレスレのところで起こった爆発によって、宙に浮きあがってしまっていた。

 

地に足がついていないクマ怪獣は……もはや、ただの大きい的でしかなかった。

 

 

「ふんっ!」

 

そんなクマ怪獣へと、ニガリはただ渾身の力を込めて右拳を叩きこんだ。

重い物体同士が衝突する時に特有の、腹の底まで響くような低くて鈍い音が天文台を震わせた。

 

爆炎が、両者を包み込んだ。

しばしの後、爆炎が晴れたとき。

そこに立っていたのは、灰色のドレスを靡かせた伝説の戦士で。

地に倒れ伏している天文台の館長を見下ろしつつ……そっと声をかけてやったのであった。

 

 

「……安心しろ。あんたの星空が作ったあの子たちの笑顔は、本物だ。これからも、ずっとな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新たな伝説の戦士の初陣から、ほんの半刻ののちに。

 

 

「やあ、石動さん。こんにちは」

「はろー、ニビルくんじゃん! 毎度のことだけど急に来るねぇ!」

 

絆田家の地下にある石動レモンのラボにて、秘密の会合が開かれていた。

眼鏡の少年ことニビル・ギャングルメが来訪したのである。

ラボの主である石動レモンは……旧知の仲であると言わんばかりに軽々しくニビルを迎え入れた。

ニビルも、気の置けない友人に接する気安さで上がりこんだ。

 

 

「この間は興味深いサンプルを回してくれてありがとね! おかげで色々捗っちゃったよ!」

「石動さんが最近お熱なのは……例の、ニンゲンを伝説の戦士に変身させてみた実験体だったっけ?」

 

僕としてはそんなに興味は惹かれないけど、なんて零しながらも。

ニビルは……石動レモンからの感謝の言葉をどこか嬉しそうに受け取った。

 

 

「間違いなく成功の部類だし、人類の希望だと思うんだけどね。

やっぱ本物の『伝説の戦士』には一歩も二歩も劣るって感じっこ? 最近焦って無茶をしてるみたいだから、何とかしたいんだけどねぇ」

「本物っていうと……モドキちゃんか。結局、『伝説の戦士』っていうのも大概に不思議だよね。

僕の方でも分かっていることは少ないっていうのが正直なところだよ」

 

レモンとニビルの二人は、科学者としての意見を交換する仲であった。

人間族にしても妖精族にしても、この世界には未解明の現象や原理があまりにも多い。

そして、そんな謎を研究する楽しみを共有できる友人同士として、二人は笑いあい、語らいあった。

 

 

「ニンゲンと妖精の力を合わせた時に伝説の戦士が生まれるって、屋敷の古い本に書いてあった一節だけど、まさか本当に存在するなんてね」

「そういうよく分かんない『世界のバグ』みたいなものを研究して新しい裏技を発見するのが、科学者(アタシたち)の本領だぞよ~、科学少年くん?」

 

その手の「よく分からないモノ」を研究してきたのが科学の歴史だ。

星の動きを記録して、雨季や洪水の発生時期との関係を考えてみた天文学者がいた。

世界は巨大なカメやゾウの上に載っていると考えた哲学者もいた。

傷口に馬糞を塗れば治りが早くなるかもしれないと信じた医者もいた。

 

後世から見て間違いだとされるものもあれば、偉大な閃きだとされるものもあった。

そしてそれら全てが偉大な科学史だ。

偶に創作物で見かける、「そんな現象が有り得るか! 非科学的ィ!」なんて金切り声をあげる科学者の姿は、はっきり言って出来の悪いジョークだ。

レモンやニビルは、この世界に現代科学で解明できていないものが幾らでもあることを理解できている程度には一端(いっぱし)の科学者なのだ。

 

 

「伝説の戦士といえば、うちのツアー客の中に潜んでいた……ニガリ、っていったっけ?

彼女も伝説の戦士に変身しているのをさっき見たんだけど、もしかしてアレも石動さんの研究成果なのかな?」

「えっ? ニガリちゃん、変身に成功したの??

そりゃービックリ仰天だよ? 一応仕込みはあったとはいえ、正直全然期待してなかったからさ~?」

 

楽しそうに笑う石動レモンの姿が、ニビルは好きだった。

これだから実験は楽しい、なんて二人で笑いあった。

 

 

「現状、あのニガリって子が、石動さんの目指している『最強の生物』に一番近いんじゃない?」

「ううう~ん、それはクマ退治用の装備をクマが使っているから強い、みたいな話なんだよねぇ。

出来れば人間ベースで運用できるのがベストなんだけどね」

 

ままならない話だ、という苦さはある様子だ。

似た話が起こる分野でいえば……格闘技も、これが当てはまるだろう。

格闘技というのは力や体格に恵まれない者がそれを覆すために築き上げた技術ではあるはずなのだ。

しかし開発の理念がどうあれ、同じ技術を持ってしまえば結局は力や体格に恵まれた者の方が強いという身も蓋も無い結論が出てしまうのである。*1

 

 

「ニビルくんの方こそ、どうなのさ? お兄さんより強くなるんでしょー?」

「一応、僕も自己改造で少しずつ強くなってるはずなんだけどね。やっぱりレンジオ兄さんは強すぎる……」

 

幸先良さそうな石動さんが正直羨ましいよ、なんてニビルは弱音を漏らした。

こんなふうに素直に弱音を口にできる相手は、ニビルにとってこの軽々しいニンゲンだけだった。

ニビルは、上の兄姉であるレンジオやシャッカと比べても力が弱くて、家の中では立場など無いに等しかった。

 

……末妹として生まれたモドキちゃんがいなければニビル自身が虐められていただろう、と理解できる程度に聡明であったのは幸か不幸か。

腕力を重視する妖精族の風潮もあり、有り得た可能性を容易に想像できた。

そんな経緯もあり、ニビルは率直に言ってギャングルメの家への愛着などなかった。

姉であるシャッカが死んだと聞いたときでさえ、ニビル自身ですら意外に思えたほどに、全く心が動かなかったぐらいだ。

 

 

「ま、お互いに先は長いってこったね~? のんびりゆっくりやっていきりゃんせ!」

「そのマインドも大切かもしれないね」

 

軽々しく笑う石動レモンの距離感が、ニビルはどこか心地よかった。

怪しげな科学者たちの密会は、終始楽しげなままに進むのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絆田チヨコは、未だ知らない。

 

 

 

憎き妖精族が……頻繁に、絆田家に出入りしていることを。

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
一部の古武術に「技を見た者は殺せ」という伝承があるのはこの現象を防ぐためだという説もあるのだとか。※諸説あります。





どうする絆田チヨコ……!

ようやく習得した高熱モードは身体への負担がヤバいぞ!

セイラとは一緒にプリキュア出来ないと自分から言ってしまった!

ニガリはプリキュアに覚醒して、黙々とセイラの相棒ポジションを固めようとしている!

そして唯一の寄る辺のレモン叔母さんは、実は裏で妖精族とズブズブだぞ!

この崖っぷちで、どうすれば良いんだ絆田チヨコ……??

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