マジカル☆ガヴリンク!   作:カードは慎重に選ぶ男

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前回までのおさらい


・レモン叔母さんが妖精族とグルだった!
→チヨコのメンタルに100のダメージ!


・セイラとチヨコの特別な関係だと思っていたプリキュアに、レモン叔母さんも雑に変身した!
→チヨコのメンタルに50のダメージ!


・プリキュアなら他の人も変身可能になるのは時間の問題だし、チヨコちゃんプリキュア降りたら?
→チヨコのメンタルに150のダメージ!!


・プリキュア変身薬の正体はソウルフルーツだった!
→チヨコのメンタルに200のダメージ!!


・チヨコが飲んだ変身薬の原料は父親(ウシオ)だった!
→チヨコのメンタルに500のダメージ!!



チヨコは嘔吐した!




第28話:対話の味 不出来な愛情

「ま、そうなるよねぇ。だから今まであんまり積極的に話してこなかった訳だけどさぁ」

 

地に手を突いたまま動けないチヨコを見下ろしつつ。

石動レモンは、軽々しい調子で言葉を続けた。

チヨコの心境を見透かして、誰よりも理解している身として。

 

 

「はぐらかしても絶対に納得しないだろうから話したけどねぇ、ここで聞いた話、いったん全部忘れたことにしない?

エグい事実なんて何も知らなかったことにしてさ、明るくて健全で、楽しくて快活な、友情と青春のプリキュア活劇をセイラちゃんと二人で再開すれば良いじゃ~ん?」

 

だが……こう来るとはチヨコも読めなかった。

石動レモンが提示したのは、究極の現実逃避だ。

レモン叔母さんの交友関係も、プリキュアの作り方も、全部見なかったことにするのだ。

高熱モードも封印して、セイラと二人でコンビを組みなおして。

そうやって、若者の綺麗な活躍物語を謳歌すればいい。

 

……レモン叔母さんの言っているのは、そういうことだった。

 

 

「何かあったら、『悪い大人に騙されていました! 私は何も知りませんでした!』で良いんだよ。

それを言えるのが子供の特権ってヤツっしょー?」

 

魅力的な提案だ……そう心の片隅で思ってしまうのが、何だか癪だった。

実際、その頃が一番楽しかったのかもしれない。

妖精族を倒せる力を得たと喜んで、戦いに身を投じて。

力不足を嘆くことはあっても、なんやかんやで二人で戦えば何とかなるという希望もあった。

 

救いのない真実だって知らなかった。

あの頃に戻れるなら、楽しくて、楽だろう。

それを欺瞞だと切り捨てることが出来ないほどには、チヨコは精神的にボロボロだった。

 

 

「レモンさん、作戦タイムを要求します! チヨコさんは今、とても弱っています!」

 

だがここで、動けないチヨコを見かねてガヴルが掌を石動レモンへと向けた。

一体どこでそんな交渉(?)を覚えてきたのだろうか。

口が裂けても卓越しているなどとは呼べない交渉術であったが……レモン叔母さんは微笑ましいものを見る目をしていた。

 

 

「いいよイイヨー! じゃあ仕切りなおして……セイラちゃんがお姉さんと戦ったっていう採石場で、時間は日没ごろで良いかな?」

 

頷いたガヴルを確認した石動レモンは、伝説の戦士の脚力で足早に跳び去った。

後に残されたのは、変身を解いた井上セイラと、座り込んだまま動けない絆田チヨコだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

座り込んだまま、チヨコは涙を流し続けた。

心が苦しくて、立ち上がれなかった。

 

8年前に母親がオオカミの妖精族に連れ去られて。

それを見たチヨコの言葉を信じてくれたのは、父親と叔母だけで。

そんな父親も、妖精族の調査に深入りして命を落とした。

 

……自分が余計なことを言わなければ、絆田ウシオが命を落とすことも無かったのでは?

 

しかもそんな絆田ウシオのソウルフルーツを食べて、力を得たのだと舞い上がって……とんだ、道化だ。

それに今だって、セイラのことを一方的に拒絶したくせに、セイラに庇ってもらった。

俯くチヨコを、セイラが心配そうに見つめてきている。

 

……ひたすらに、惨めだった。

 

 

「チヨコさん……ひとまず、家の中に入って休みませんか?」

 

セイラの言葉を待たずに、チヨコは震える足で立ち上がり、ふらふらと走り出した。

というより、セイラから逃げた。

投げかけられる優しさがチヨコを惨めにしつづけるのだと分かり切っていたからだ。

 

 

「チ、チヨコ、さん、まって……!」

 

だが……電柱2つ分ほど走って、妙だと思った。

セイラの健脚から逃げきれる道理など無いはずなのに、背後のセイラの声が遠くなっていったのだ。

なんだか更に嫌な予感がした。

チヨコは、意を決して振り返ってみた。

 

セイラが……苦しそうに必死に足を進めてチヨコに追いつこうとしているのが見えた。

 

そんなはずはない、とチヨコは目を疑った。

浜辺で二人で追いかけっこをした時には、二人の差は歴然だったはずだ。

チヨコが早々にバテて、セイラは元気に駆け回っていたはずだった。

そんなセイラが……チヨコなんかに、追いつけない?

 

 

――セイラは1か月ほど前からストレス性とみられる消化器不良を起こしていてな。

 

 

「あっ、あああ……っ!」

 

チヨコは……ここでようやく、セイラが想像以上に体調を崩していたことを理解した。

あんなに元気という言葉が服を着て歩いているようだったセイラが、ここまで弱っている原因は?

それが分からないほど、チヨコは愚鈍ではなかった。

 

ずっと、セイラは苦しんでいたのだ。

……絆田チヨコのせいで。

 

チヨコは、ぼろぼろと泣いた。

自分自身が惨めで仕方がなかった。

頼りない足取りで駆け寄ってくるセイラに、あわせる顔なんて無かった。

 

 

「もう、やめてよ! 追ってこないでよ!!」

 

半狂乱のままに、チヨコは金切声をあげた。

苦しくて、惨めで、もう消えてしまいたいとさえ思った。

それでも……セイラの目にはチヨコへの心配が浮かんでいた。

 

 

「お父さんも殺されて、セイラちゃんもこんなに弱って……全部、ぜんぶ私のせいじゃん!!」

 

チヨコは、顔を両手で覆って泣き崩れた。

最低最悪の気分だった。

セイラが、ようやくチヨコへ追いついてきた。

 

 

「私なんて……私なんか、もう放っておいてよ!!!」

 

どん底だった。

涙が枯れ果てるかと思うぐらいに泣いた。

そんなチヨコに寄り添ってくれたセイラは……悲しそうにしながらも、チヨコの背中に手を当てて慰めてくれようとしている。

 

結局セイラの優しさに縋るしかない自分自身が、ひどく汚らしく思えた。

でも、セイラの手を払いのけることはしなかった。

できなかった。

ここでセイラの優しさを無下にするなら、さらにチヨコ自身が惨めになると分かり切っていたからだ。

チヨコは……嗚咽を漏らし続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、セイラに付き添われながらチヨコは絆田家に戻った。

見慣れた我が家のはずなのに、なんだか静かすぎるように思えた。

あの明るくて軽々しい叔母と過ごした日々が、なんだか途轍もなく遠くに感じられた。

ソファに深く身体を預けたまま、チヨコはぼんやりと天井を眺めてしまっていた。

 

何も聞かなかったことにして明るくて楽しいプリキュア活動に戻れ、というレモン叔母さんの言葉が耳の奥から離れなかった。

悩めば悩むほど、それが一番幸せのような気がしてきてしまうのだ。

そうして……ソファの置物になったまま、チヨコが頭を悩ませていると。

 

 

「チヨコさん。どうぞ」

 

台所から出てきたセイラが、チヨコへとマグカップを渡してくれた。

頭の中に嫌な思い出がよみがえり、反射的にマグカップの中身が雑草スープかどうかチヨコは確認してしまった。

……幸いにして、マグカップの中身は深緑色の雑草スープでは無さそうだ。

なんだか乳白色に近い液体の中に、冷凍庫から取り出したと思しき大量の氷が浮かんでいる。

少しだけ褐色が混ざっているこの液体の正体は……?

 

警戒心を少しだけ保ちつつ、チヨコはマグカップの中身を啜ってみた。

大量の氷をかき分けて口の中に入ってきた乳白色の液体は、牛乳と水道水の混合液とみて間違いない。

あと甘味は砂糖だ。

 

そして、氷の合間に……小さな茶色の球体がいくつも浮かんでいるのが見えた。

チヨコは、このマグカップの中身のコンセプトを理解した。

 

これは……アイスココア()()()だ。

マグカップの中に浮かんでいる茶色の球体はココアの粉末なのだろう。

牛乳と水道水をベースに、ココアの粉と氷と砂糖を投入したものの、上手く混ざらなかったという工程を経たに違いない。

 

 

「すみません……。なんだか、上手く混ぜられなくて……」

「ココアの粉は、油分が多いから冷水に直接入れるとダマになっちゃうらしいよ。お湯に一度溶いてから冷やすと良いんだって」

 

「そ、そうなんですか……? ()から、気をつけます」

 

チヨコは、もう一度マグカップを傾けた。

カップの底に溶けていない砂糖の層が見えたし、そもそも氷も入れすぎだと思えた。

でも……そんな不出来なアイスココアが、チヨコは嬉しかった。

 

セイラが、チヨコのために作ってくれたのが分かっているからだ。

ココアが絆田親子の思い出の品であることを知ったうえで、チヨコが猫舌だと覚えていてくれたのだろう。

だから拙い知識をもとに、熱くないココアを作ろうとしてくれたに違いない。

そんなセイラの暖かな想いが、チヨコの心を満たしてくれた。

 

 

「セイラちゃん……私、いままで本当にごめん。ごめんなさい。

セイラちゃんの方がずっと苦しんできたのに、自分のことばっかりで、身勝手でセイラちゃんを傷つけて……」

 

チヨコは、ようやく冷えてきた頭で、セイラに謝らなければならないと判断できるようになっていた。

セイラが身体を壊していたのも、あのゲロ不味い雑草スープで消化器不調を誤魔化していたのも、みんなチヨコのせいだ。

絆田チヨコの拒絶の言葉が、井上セイラを追い詰めたのだ。

 

だが……セイラは、チヨコの言葉を正面から受け止めつつも、ゆっくりと言葉を返してきた。

 

 

「遠い昔に私も母さんに、今のチヨコさんと似たようなことを言ったことがあるんです」

 

ぽつぽつと、セイラは妖精族の屋敷に監禁されていた時代のことを話し始めた。

妖精族の世界に一人で拉致されて、ギャングルメの一族の家長に勝手に見初められた女が、セイラの母親だった。

真夜中にセイラが目を覚ましてしまい、一人で泣いている母親を目撃してしまったときのことだ。

どうも細かい会話の流れはセイラも完璧に覚えている訳ではないようだが……。

セイラは、「お母さんの方が辛いんだから私も耐えてみせる」と母親に対して言ったのだとか。

 

 

「でもその時、母さんが言ってくれたんです。世界中探せばセイラより苦しんでいる人はいるかもしれない、でもそれはセイラが苦しんでいていい理由にはならない、って」

 

もっと苦しんでいる人間がいるのだから我慢しろ、というのは呪いの言葉だ。

そうセイラの母親は続けたのだという。

そんな呪いの言葉を振りかざす人間のせいで、世界がどんどん不幸を蔓延させる方向に進んでしまう。

どんどん苦しんでいる人間ばかりの地獄になってしまうからだ。

 

 

「チヨコさんにはチヨコさんの、私には私の苦しみがあります。でもそれは、苦しんでいるチヨコさんをそのままにする理由にはならないと思います」

 

――セイラちゃんの方がずっと苦しんできたのに、自分のことばっかりで、身勝手でセイラちゃんを傷つけて……

 

チヨコの吐いた言葉も、きっとそんな呪いに毒されたフレーズだったのかもしれない。

そしてチヨコにも、似たような思い出があった。

絆田家の母親が蒸発して翌月、夜中に目が覚めてしまったチヨコは、レモンと一緒に酒を飲みながら弱音を吐いていたウシオの姿を覗き見たことがあったのだ。

ウシオのそんな姿を、チヨコは見たことが無かった。

きっとウシオは娘の前では無理をして気丈に振る舞っていたのだ……と、チヨコはその時はじめて理解した。

 

その時からだったのだろう。

チヨコが、ウシオの方が苦しんでいるんだから自分も我慢しなくちゃいけないんだ、と思うようになったのは。

 

でも……違ったのかもしれない。

本当にチヨコがすべきだったのは、黙って自室のベッドの中に戻って一人で泣くことではなく、ウシオやレモンと一緒に泣くことだったのではないだろうか。

踏み込んでこないレモンたちとの距離感が心地よくて、チヨコはそれに依存してしまっていたのかもしれない。

 

……そうしているうちに、レモン叔母さんとの心の距離が開いてしまったのでは?

 

 

「私は……結果的に上手くいきませんでしたけれど、それでもシャッカ姉さんに自分の気持ちを伝えて良かったと思っています」

 

――ニンゲンさんたちを殺すのをやめて、私たちと一緒に生きていく未来を選んでください!!

 

その時のセイラの言葉で、セイラの素性がニガリに知られてしまったし、そこからチヨコにもバレた。

結果的には、セイラは辛い思いをすることばかりだった。

それでも……セイラは、自分の想いを伝えたことに後悔はないと言い切ったのだ。

 

 

「チヨコさんが何を苦しんでいて、レモン叔母さんにどうしてほしいのか。伝えられるのは、きっとチヨコさんだけだと思います」

 

セイラは、チヨコの意思で選べと言っているのだろう。

レモン叔母さんと、どのように向き合うのか。

救いのない真実なんて聞かなかったことにする、とチヨコが言ったら、きっとそれも尊重してくれるのだろう。

 

……だとしても。

 

 

「私、レモン叔母さんが何を思っているのか……もう一度話して、聞いてみたい」

 

チヨコの両親を、レモン叔母さんはどのように思っていたのか。

 

絆田ウシオのソウルフルーツを、どんな気持ちで実験材料にしたのか。

 

何を想ってそれをチヨコに飲ませたのか。

 

チヨコは、レモン叔母さんを問いただす道を選んだ。

 

 

「……セイラちゃん。ちょっとだけ、私に勇気を貸して」

 

頷いてくれたセイラへと頷きかえして。

 

チヨコは、不出来なアイスココアを飲み干した。

 

マグカップの下の方に溜まったジャリジャリとした砂糖の層は、想像以上に甘ったるかった。

 

それすら、愛おしく思えた。

 

腹は、既に決まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





ダチが良い奴すぎるからこそ曇らされるのって、独特の味がしてイイよね……。

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