マジカル☆ガヴリンク!   作:カードは慎重に選ぶ男

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作者はケーキ作りエアプ勢なので、描写に関しては甘口評価でお願いします!

ケーキだけに甘口でッ! はいっ、或人じゃーっ、ないとっ!!




第35話:甘い夢の味 食えない男

寒空の下の、12月23日。

来たる聖夜に備えて、絆田家に集まったのは人間と妖精の計5名であった。

ギャングルメの次男および次女であるニビルとセイラ。

ソウルフルーツ事件の遺族であるチヨコとレモンに加えて、ニガリも参加する形となった。

 

 

チヨコとしては、なんだかセイラが複雑そうな感情をニビルへと向けているのが気になった。

一応ニビルから直接殴られたことは無いと言っていたセイラだが、それだけでは割り切れない想いもあるのだろう。

ソウルフルーツ事業の片棒を担いでいたというニビルの実績もあり、セイラからの悪印象もそれなりにあると推測された。

 

それに加えて、ニガリも何だかニビルを好意的には見ていない様子であった。

ニガリの復讐対象がレンジオだという話も聞いた覚えがあるので、レンジオの弟であるニビルにもあまり良い印象が無いのかもしれない。

 

というか楽しそうにしているレモン叔母さんも、実の姉をソウルフルーツ事業の犠牲にされた人間である。

こちらもニビルに対して全く思うところがないと言えば嘘になるハズなのだが……レモン叔母さんは、いつも通り軽々しく笑っていた。

 

 

……なんだか、腹の底に不発弾を抱えてる人ばっかりじゃない??

 

チヨコ自身も含めて、敵意や憎悪をあからさまに表面化している者こそいないが、一歩間違えれば死人が出そうに思えた。

こういうのを、一触即発なんていうのかもしれない。

 

 

 

「さーて、楽しいクリスマスパーティのために! みんなで渾身のケーキを作るぞ~! 総監督のレモンお姉さんを信じろ!」

 

……レモン叔母さん、この状況で本当に顔色一つ変えずに平常運行なの、心が強すぎない??

丈のあっていない白衣の袖をふりながら、レモン叔母さんはいつも通り軽々しく笑って音頭をとった。

ノンデリな訳ではないはずだが、レモン叔母さんなりに心を強くもってイベントを取り仕切ろうという気概の現れなのかもしれない。

 

 

「その『くりすますぱーてぃ』? というヤツが、妖精とニンゲンの和平への歴史的な1ページとなることを期待しているよ」

 

……ニビルはニビルで、悪い意味で心が強すぎない??

常に済まなそうな顔をしていろとまで言うつもりは、さすがにチヨコ側にも無いが……。

全く悪びれない様子のニビルを見ると、それはそれでモヤモヤするというか。

なんだかニビルが楽しそうにしているのを見ると、何か悪巧みを隠しているように見えてくるのである。

 

 

「……」

 

ニガリは、何か喋ってくれない??

この長身の女……もといクラゲ妖精も、大概によく分からないヤツだ。

今更ながら、チヨコはそう思い返した。

復讐者であるという話は又聞きで知っているが、絶妙にチヨコと話す機会が無かったというか。

チヨコとしては初対面で凹られた苦い思い出があるので、なんやかんやで積極的に話すことは無かった相手だ。

 

 

「色々辛いこともありましたけれど……このメンバーで『クリスマス』を迎えることが出来て嬉しいです! 母さんもきっと、草葉の陰でそう言ってくれています!」

「セイラちゃん……! セイラちゃんは、ずっとセイラちゃんのままでいてね……!」

 

やっぱりセイラちゃんが一番信じられる……!!(贔屓目)

冷静に考えたらギャングルメ崩壊RTAの筆頭走者みたいな立場なので、不発弾どころか火薬庫だが。

でもチヨコの心理的には、セイラが一番の癒しなのであった。

ニンゲンって不思議である。

 

 

 

 

 

そんなこんなで、楽しいケーキ作成イベントはレモン叔母さん監督のもとで進行した。

 

鶏卵を器用に割ってみせるセイラに対して、その成長にチヨコが涙ぐむ一幕もあった。*1

 

それを見て謎の対抗心を発揮したニビルが、力加減ができずに鶏卵を粉砕してしまうという御約束も挟んだ。

 

ニガリが薄力粉の袋を爆発させ、絆田家に死の灰が降った。

 

妖精族の力加減の下手さを察したレモン叔母さんは、イチゴだけはチヨコを専属係に任命した。

 

卵白を泡立てるミッションをセイラへと与えつつ、レモン叔母さんは卵黄の入ったボウルをニガリに攪拌(かくはん)させた。

 

卵黄に砂糖を入れながら卵黄を混ぜると徐々に白化が進み、そこにニビルが慎重に薄力粉を加えていった。

 

なんとか生地を型に流し込むところまで辿り着き、レモン叔母さんは12月とは思えない額の汗を白衣の袖で拭いつつ、オーブンを起動した。

 

その間に、チヨコはイチゴの洗浄からヘタ除去やスライスまでの工程を終えていた。

 

チヨコさんの手が血だらけです、なんて慌てた声を出したセイラに対して、イチゴの汁が染みついた指を舐めて笑いあう一幕もあった。

 

切除されたイチゴのヘタを食べて、なかなかイケるなんて頷きあっているセイラとニビルの兄妹へのコメントに困る場面もあったりしながら。

 

膨らんでオーブンから取り出されたスポンジに、何やら酒の匂いがするシロップを塗ったりなんてして。

 

スポンジ生地の形を整えつつ、最後はイチゴとクリームの層を交えつつ全員で組み立てたのであった。

 

 

 

 

 

 

「完☆成! いや~、どうなるかと思った時もあったけど、みんな良く頑張ったねぇ!」

「こうして完成してみると感慨深いね。石動さん、監督おつかれさま」

「……これが、クリスマスケーキというものか。悪くないな」

「前に作った時よりも上手くいった気がします!」

 

なんというべきか。

疲労感とか、一体感とか、達成感とか。

そういった諸々の感情が一度に湧き上がってきた絆田チヨコなのであった。

 

チヨコたちの目前についに完全体となって顕現した白い物体は、どこに出しても恥ずかしくないクリスマスケーキであった。

不思議と、5人の間に漂っていた不和というか不発弾のような雰囲気は、いつの間にか影を潜めていた。

 

 

「あっ、そうだ。せっかく来てもらったし、ついでにセイラちゃんの健康診断も済ませておこっか?」

「よろしくお願いします!」

 

ちょっとセイラちゃん借りるよ~、なんて言い残しながら、レモン叔母さんはセイラを連れて地下ラボへと降りていった。

残されたのは……妖精族の二人と、チヨコだ。

不思議と、気まずさは感じなかった。

 

 

「……本当に、良いのか? 今回の企画の目的をセイラに伝えなくても?」

「僕も、正直それは気になっていたよ」

 

ニガリが疑問を口にし、ニビルもそれに同調した。

実は……今回のケーキ作りの企画意図は、セイラには伏せられていた。

レンジオを倒すための力に目覚めてもらうべく、チヨコの誕生日の時よりさらに大きな幸せを味わってもらおうという話である。

なのだが事前の協議の際に、セイラに対しては企画意図を秘密にすることをチヨコが主張していたのだ。

 

 

お兄さん(レンジオ)を殺すための企画だって伝えたら……上手く言えないんだけど、セイラちゃんは心から楽しめなくなっちゃう。そんな気がしたんだ」

 

ニガリを今回の企画に参加させるために、企画の意図自体は事前にニガリには伝えてあったが。

その説明と同じ内容をセイラに聞かせるのは、チヨコとしては良くない気がしたのだ。

 

 

「……そうか。そうかもしれない。セイラの心の小さな動きを、お前が一番よく見ているのかもしれないな」

 

そういうのを何と言うか知らないが、なんて言いながら。

ニガリは、懐から出した紙箱を開けて、その中から手のひらサイズの白い棒状の何かを差し出してきた。

形状からして煙草かと思い、一瞬だけ顔をしかめてしまったチヨコだが……よく見るとその白い棒状の物体は煙草では無さそうだ。

チヨコの嫌いな煙草の匂いは、既にニガリの周囲には存在しなかった。

 

 

「悪かったな。弱いくせに生意気だ、というようなことを言ってしまって」

「私こそ……言わなきゃいけないことがあったよ。私が離れている間、セイラちゃんを見守ってくれてありがとう」

 

礼を言いつつ、チヨコはそのココアとハッカの香りがする駄菓子を受け取り、口に咥えた。

多分、チヨコの知らないところでニガリにも何かしらの心境の変化があったのだろう……なんて思えた。

煙草によく似た白い駄菓子を口にした、この長身の女が……ほんの一瞬だけ笑ったような気がした。

 

 

「これからもよろしくね。ニガリ……さん、って呼んだ方が良いのかな?」

「愚問だな。ただのニガリで良い。……チヨコ」

 

クリスマスケーキ作戦は、主にセイラのためのものであったはずだが。

思わぬ収穫も、あったのかもしれない。

チヨコは、胸の内が暖かくなるのを感じたのであった。

 

 

 

「……だが、ニビル。この作戦はお前の発案だそうだな。本当は何か裏があるんじゃないか?」

 

だがそれはそれとして、ニガリはギャングルメの次男に関してはまだ疑いを持っている様子だ。

対してニビルは、特に動揺を表情に出さずに眼鏡を直してみせた。

逆にそれを傍らで聞いていたチヨコの方が、胸を押さえてしまっていた。

チヨコとて、薄々思っていたのだ。

このクリスマスケーキ作戦を発案したニビルに、何か裏があるのではないか……と。

 

 

「理由なら幾つかあるよ。他でもない石動さんの頼みだしね。それに、腕力ばかり重視するレンジオ兄さんにも不満が積もっていた。それを僕の頭脳と作戦で見返せるなら悪くないと思ったのさ」

 

確かにニビルが戦闘能力に秀でている訳ではないというのは、セイラからも聞かされたことがあった。

レンジオより弱いのは言うまでも無いし、おそらくシャッカにも敵わないのだろう。

ニビルの寝返りは、筋が通っていない訳ではないのだ。

ただ、ツッコミどころもあるというだけで。

 

 

「レンジオという後ろ盾を失えば、お前を守るものもなくなる。そうなった後に、セイラが……私達や人間達がお前を殺すという危険性に、気付かないお前ではないだろう?」

 

そう考えれば裏の一つや二つはあると勘ぐってしまうのも仕方ない、とニガリは続けた。

そもそもセイラの母親を殺した一件も、一応実行犯はレンジオだとはいえ、シャッカやニビルも恨まれても不思議ではない立場なのだ。

しかもソウルフルーツ事業のせいでギャングルメの一家に恨みを持つ者も多いだろう。

それは妖精族でも人間族でも変わらない。

 

 

「君たちは僕を買いかぶり過ぎだよ。僕は科学者の端くれではあっても軍師でも策略家でもないし、そんな大局や長期的なプランなんて考えていない。セイラが強くなったら、その情に甘えるのもアリかな、っていうぐらいの緩い予定だよ」

 

……矛盾はしていないのだ。

ニビルの言うことは、決定的に破綻している訳ではない。

なのだが、その眼鏡の奥の細い目が、悪巧みを隠しているように見えるというか。

ニガリが疑る気持ちも、チヨコには分かる気がするのである。

 

 

「それに、面白いものも見られそうで楽しみだというのもある」

 

……妹を利用して兄を謀殺しようとしている奴の言うことじゃないと思うんだけど??

 

だがしかし、ニビルの言う面白いものとやらに、チヨコ達も興味を引かれないと言えば嘘になる。

倫理観の欠如した実験を行うのであれば話は変わってくるが……果たして?

 

 

「屋敷にあった古い本に書かれていた一節でね、妖精族とニンゲン族が力を合わせた時に伝説の戦士が生まれると書いてあった。でもそれって少し奇妙だなと最近思うようになってね」

 

ニビルは、少しだけ妖精界に通じる次元ゲートの情報を出してくれた。

次元ゲートは今でこそギャングルメの家が秘匿及び独占をしているが、50年以上前は誰にも管理されていない状態であったそうだ。

そして、絶対数を数える手段は無いが、ニンゲン界に足を踏み入れた旅行者は長い歴史の中ではそこそこ居たはずだとニビルは睨んでいるらしかった。

 

 

「でもさ。単に混血児が条件なら、ニンゲン界でも『伝説の戦士』ってもっと沢山いそうじゃない?」

 

一応ちょっとした都市伝説にはなってるみたいだけど、それも信憑性は怪しい……なんてニビルは話を区切った。

言われてみるとチヨコの側でも、思い当たる節はあった。

街はずれの洋館で出会ったヨヨさんは、妖精族の旅行者の食レポ……もとい手記を持っていた。

妖精族の旅行者は、昔からそれなりの数がいたのだろう。

それにノワールの例も踏まえれば、妖精と人間が子を為すのはそこまで難易度も高くはないと推測できる。

人間族の中にも、知らずに妖精族の血を先祖から引いている者だっているのかもしれない。

 

しかし、チヨコの知る限りでは巷に伝説の戦士があふれているなんていう話は聞いたことはないのだ。

ここまで聞いて、チヨコはニビルの仮説が見えてきた。

 

 

「混血児であることと『伝説の戦士』であることに相関はない、ってこと?」

「サンプルが少なすぎて、あくまで仮説の可能性だけどね。その可能性も十分にある」

 

だが、チヨコに推測できたのはここまでだった。

ニビルの言う「面白いものが見られそう」という内容にまでは、チヨコは考えが及ばなかった。

これがレモン叔母さんだったら、もう少し奥まで見抜くことが出来たのかもしれないが。

一応ニガリの様子を横目でうかがうも、ニガリも分かっていない様子だ。

 

 

「ニビルさんの期待している『面白いもの』って何なの?」

 

もし「伝説の戦士」が混血を前提にしたものじゃないとしたらさ、なんてニビルは楽しそうに語った。

その視線の先には……本日の5人で作ったクリスマスケーキが鎮座していた。

 

 

「こうやって妖精族とニンゲン族が協力して何かを成し遂げて……その延長線上に、遠い未来かもしれないけど、もっと別の形で『伝説の戦士』が見られるかもしれないって思ったんだ」

 

なんだかワクワクしないかな、なんてニビルは眼鏡を直しながら結んだ。

なんとなく、チヨコはこのニビルという少年の心根が少しだけ分かったような気がした。

ニビルは、自分の想定外のことが起こってほしいのだ。

そして、それを研究してみたいのだろう。

 

道理でレモン叔母さんに惹かれるはずだ、とチヨコは思った。

あの叔母は、科学者というのは「ワケの分からないもの」を調べるのが仕事だと言っていた。

そういう意味で、このニビルという少年がレモン叔母さんと意気投合したのも、なんだか分かるような気がしたのだ。

 

 

「……なんだか、思ったよりロマンチストなんだね。もっと計算高いかと思ってた」

 

あの子供のような、大人のような、よく分からない叔母と……ある意味でニビルは同類なのかもしれない。

レモン叔母さんだって「幽霊もUMAも、いた方が楽しいに決まってるだろ~?」みたいなスタンスだ。

科学者ってそういうものだっけ、と端から見ていて疑問に思うことも多かったチヨコであったが……案外、本当に科学者とはそういう人達なのだろうか?

石動レモンのためにソウルフルーツから手を引くと言っていたニビルの言葉が、少しだけ真実味を増した気がした。

 

 

「ああ、石動さんも言っていたよ。ロマンチストじゃなくなった科学者は、科学者じゃなくて技術屋だって」*2

 

 

ある意味で、こいつもレモン叔母さんに救われた存在なのかもしれない。

 

 

……みんなで作ったクリスマスケーキを横目に、そんなことを思った絆田チヨコなのであった。

 

 

 

 

 

*1
ニンゲン界の滞在初日では蛇口ハンドルを捩じ切った女である。

*2
※別に技術屋が悪いわけでは無い。





セイラちゃんやレモン叔母さんの件では、秘密がバレることに関するトラブルもあったけど。

それはそれとして、「言わない気遣い」というものも存在はするのだ……というオハナシ。

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