やっぱりプリキュア活動の基盤になるものは腕力なのだ
それは相手を救う場合であっても殺す場合であっても変わらないのだ
「……大火傷させてあげる!!」
人気のない路地裏にて、黒い戦士とキノコ妖精の戦いが始まった。
黒い戦士は、距離を詰められないように気をつけながら、指鉄砲の構えからブラウンの弾丸を散発的に放った。
だが……ブラウンの弾丸は決定打の役割が期待できる威力では無さそうだ。
というか冷静に考えてみると、不意打ちで後頭部にぶち当てても致命打にならなかった指鉄砲がメインウェポンになるはずもないのだ。
「不意打ちにはビビっちまったが、やっぱ所詮はニンゲンだぜぇ!!」
「くっ……このっ!!」
キノコを無理矢理人型に押し込んだような怪人は、人間を遥かに凌駕するスピードで黒い戦士へと駆け寄った。
腕を振るって殴り掛かって来るキノコ怪人に対して、黒い戦士はカウンターの拳を繰り出した。
カウンターを決めてキノコ怪人の頭部へと拳が入った、と思った。
「が、はっ……!」
「ぐおっ!?」
だが同時に、キノコ妖精の拳も黒い戦士の腹へと入っていた。
一方的にカウンターが決まった訳ではなく、お互いに一発ずつの形での痛み分けであった。
(痛い! 痛い痛い痛い痛いっ……)
黒い戦士は、腹部に受けたダメージに怯んでしまっていた。
そもそも殴り合いのケンカなんて未経験な13歳の中学生なのだ。
妖精界に由来する謎のテクノロジーによって強化されている身体とはいえ、心はそのままだ。
人知を超えた異形に対しても、恐怖を感じるに決まっている。
「ぐ……! まぐれだ、そうに決まってやがる!」
だが、同時に黒い戦士は気付いていた。
キノコ怪人も、痛み分けの打撃を受けて怯んでいる……!
黒い戦士の打撃は効いているのだ。
「ああああああああああっ!!!!」
「ひっ……!?」
見えた希望の灯に憎悪をくべて、業火へと燃え上がらせた。
黒い戦士は、痛みに構わずキノコ怪人へと殴り掛かった。
おそらく……インファイトにおけるスペックは、ほぼ互角だったのだろう。
しかし、両者は戦闘における心持ちがまるで違った。
黒い戦士は戦い慣れていないとはいえ、親の仇へと憎悪を燃やしながら戦っている。
かたやキノコ怪人は、美味しいソウルフルーツを食べるために人間界へと遊びに来ただけの旅行者だ。
人間に例えて言うならば、イチゴ狩りを楽しみに来たはずなのに、人間並みの戦闘能力を持った肥料に襲われているようなものである。
肉体的なスペックが近しいといっても……この両者の戦いが互角なはずも無かった。
自身の腕力はこのキノコ怪人を殺すだけの凶器となり得る、と確信した黒い戦士はひたすら殴り掛かった。
指鉄砲からの牽制も織り交ぜつつ、黒い戦士はとにかく殴った。
キノコ怪人からも破れかぶれの反撃をもらったが、憎悪を燃やして殴り続けた。
どれだけ泥臭い殴り合いを続けたのか、分からなかった。
ただ、戦いの結果として……最後に立っていたのは黒い戦士の方だった。
キノコ怪人は身体のいたるところから体液を流しながら倒れている。
「も、もう、やめ……」
息も絶え絶えになったキノコ怪人に、もはや戦意は無いように思えた。
だが黒い戦士は最後まで油断しなかった。
キノコ妖精が今までいわゆるキノコっぽい特技*1を使っていなかったのを鑑みて……ここで情けをかけると逆転されると思ったのも理由の一つだ。
動けないキノコ妖精の眉間へと、黒い戦士は指鉄砲を構えた。
まだ高速戦闘中に撃てるような練度ではないが、指鉄砲は溜め撃ちができるのだ。
黒い戦士は……キノコ妖精の命乞いへと耳を貸さず、限界まで溜めたエネルギーを指先から放った。
断末魔の声すらあげずに、キノコ妖精は頭部を打ちぬかれて絶命した。
光の粒になって消えていったキノコ妖精の最期を見届けた黒い戦士は……膝をついてしまっていた。
憎悪のままに殴り合いを続けた身体はボロボロだったし、心も疲れ切っていた。
(やったよ……お父さん、私……!!)
このまま泥のように眠ってしまいたいと思った黒い戦士であったが……駆け寄って来る人影に気付いて意識を保った。
気絶したときに変身が解除されるのかどうかは不明だが、この路地裏で気絶するのは良くない。
「そこの黒い方! 大丈夫ですか!?」
結局、黒い戦士――チヨコは、変身を解除することなく最寄りのビルの屋上まで運ばれた。
チヨコを運んでくれたのは、いつぞやチヨコを助けてくれた青い伝説の戦士であった。
青い伝説の戦士の正体は、井上セイラなのだが……ここで運命のすれ違いが起こってしまった。
二人の戦士は、お互いの正体に気付いていないのだ。
(声をかけてみましたけれど、この黒い方って何者なんでしょうか……?)
(この青い人、前にも会ったことあるけど、いったい……?)
お互いの視線が交差した。
なんとなくお互いの姿が似ているという共通認識はあった。
両者とも犬と猫の違いはあれど動物の特徴を持っているし、近しい形状のミニドレスを纏っている。
「ええっと……黒い方。その姿は……?」
「貴女の後輩、みたいなもの……かも? 私も正直よく分かってないんだ。先輩は?」
セイラに聞かれてから改めて思い返してみると……チヨコは今の黒い姿が何なのか説明できなかった。
レモン叔母さんの話では、チヨコが飲んだ黒い液体は、妖精界の生物の体細胞サンプルから作った薬品……だったはずだ。(うろ覚え)
正直チヨコは、復讐で頭が一杯だったのもあって、ほぼ何も知らないようなものだった。
「実は私も、よく分かっていないんです。
昔読んだ文献には、ニンゲンと妖精が力を合わせると伝説の戦士が生まれるとあったので、たぶんソレだと思っているんですけれども……」
(あ、やっぱり? この青い人も、妖精族の力を取り込んだ人間なんだ?)
「私もそんな感じだよ。妖精と人間の力を併せ持ってるのが変身のカギっぽいよね?」
(なるほど! この方も祖先にニンゲンさんがいる類の妖精族なんですね! 私の同類です!)
チヨコは、人間に好意的な妖精族がいるという発想が無いので、青い戦士のことを人間の同族だと判断した。
セイラは、ニンゲンさんが妖精族に敵うなどとは考えないので、黒い戦士のことを妖精の同族だと判断した。
「ねえ、先輩。お互い、詮索は無しにしない? 正体がバレると厄介だし……」
(ニンゲンさんたちの世界で妖精族だとバレると生きづらいですよね。後輩さん、よく分かってますね!)
一応チヨコの側の発想としては、残った最後の身内であるレモン叔母さんに危険が及ぶのも嫌だったし、友人のセイラのことも勿論心配だからこその発言だ。
一方セイラは、自身が妖精族として常に身バレを恐れているために、黒い戦士も同じだろうと思ってしまっていた。
色々と空中分解を起こしまくっている会話なのだが、それにツッコミを入れられる人間は居なかった。
「秘密を知る存在が少ない方が良いというのはその通りです。その方針でいきましょう!」
二人は、頷きあった。
互いの心が一致していると確信している者同士の顔だった。
なお、全くそんなことは無い模様。
「お互いの正体は知らなくても、人間を肥料にする『妖精族』を倒したい気持ちは同じだし、一緒に戦っていけるよ!」
「私も想いは一緒です! 『ニンゲンを肥料にする妖精族』を止めるために、これからは力を合わせましょう!」
ここでも、互いの会話は絶妙に嚙み合っていなかった……。
チヨコの発言を要約すると「妖精族は見つけ次第殺す」ということである。
なのだがセイラは「ニンゲンを肥料にする妖精族だけを止める」という発言意図だと解釈してしまっていた。
ディスコミュニケーション極まれり、である。
「これからよろしくお願いしますね。……ええっと、後輩さんのこと、どうお呼びしたらいいですか?」
「……どうしよう? コードネームとか全く考えたこと無かったよ。ちょっと待ってね」
ここでチヨコは、思いがけない質問に頭を悩ませた。
確かに、この先も先輩後輩と呼び合うのは恰好がつかない。
しかし本名は論外だし……なんてチヨコは思い悩んだ。
「私の特徴から覚えやすそうな名前を付けると……黒猫のクロニャン、かな。そっちは?」
黒猫のような尻尾をゆらゆらと揺らしながら、チヨコ……もといクロニャンが尋ね返した。
青い戦士のコードネームはどうするのか、と。
実はセイラの方もコードネームを全く思いつかずに悩んでいたりするのだが……。
「そういえば先輩、妖精族からは『モドキちゃん』って呼ばれてるよね?」
「それは絶対にイヤです」(即答)
セイラの脳裏には、『妖精モドキちゃん』と口にしながら暴力を振るってくる家族の姿が浮かんだ。
思わず身震いをしてしまうぐらいには嫌な思い出のある名前だ。
しかし、だからといって代替案がある訳でもない。
「あの……名付けのセンスに自信がないんですけれども、クロニャンさんの方で何かありませんか?」
「ううーん……。統一感を出すなら、そっちもなるべく色+擬音みたいなのが良いよねぇ……?
青系と犬だから、ええと、そうだな~? じゃあ、ガヴルなんてどう?」
「なんだか良さそうです! よろしくお願いします、クロニャンさん!」
「よろしくね、ガヴルちゃん!」
……かくして、お互いの正体を知らない者同士のあまりに前途多難なコンビ活動が始まったのであった!!
文章量的に1話分にするほどじゃないけど、フラフラになって帰宅したチヨコちゃんをレモン叔母さんが待っていてくれる。(9話と10話の幕間)
帰ってきたときに「おかえり」って優しく迎えてくれる人がいるって素晴らしいよなぁ。
何だか家族な感じがするってお前もそう思うだろ戦兎ォ?