おっさんキヴォトスに行く   作:無い頭のおっさん

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うおー!!
やっと長かった閑話も終わり!

というか、本当は3章→4章と繋げて書いてから投稿する予定だった閑話なので、
実質本編の3章と変わらない容量になってしまった・・・

4章の閑話分の話のストック使ったから、後で色々考えないとなぁ・・・


先生とヒナ委員長の夏休み 後編

【アラバリゾート】

 

食事を終え、デザートまでゆっくりと味わった私達は、レストランを出た

廊下へ出るとさっきまで聞こえていた食器の音や、宿泊客達の話し声が遠ざかっていく

 

夜のホテルは静かだった

昼間とは違い、窓の外もすっかり暗くなっていて、

遠くから波の音だけが微かに聞こえている

 

隣を歩くヒナも何となく窓の外へ視線を向けていた

そして、しばらく歩いたところで、ヒナがふと足を止めた

 

「先生。」

 

「"ん?"」

 

私も足を止める

ヒナは窓の向こうに広がる夜の海を見つめたまま、少しだけ考えるように黙っていた

やがてこちらへ振り返る

 

「・・・ねぇ、先生。」

「もう一回。」

 

「"え?"」

 

ヒナが少しだけ恥ずかしそうに言葉を続ける

 

「今度は・・・夜の海を。」

「一緒に歩かない?」

 

「"・・・・・・"」

 

私は一瞬意外な言葉に目を丸くした

昼間に歩き、夕方にも歩いた

そして今度はヒナ自身から、

もう一度海へ行きたいと言ってくれた

 

「"もちろん"」

 

私は笑って頷く

 

「"行こうか"」

 

「うん。」

 

ヒナも小さく笑い、二人でホテルを出て

そのまま、夜の浜辺へ向かった

 

 

 

 

【アラバ海岸・ビーチ】

 

砂浜へ足を踏み入れる

夕方とは、まるで別の場所だった

 

空はすっかり暗くなり

その上には、無数の星が瞬いている

 

そしてその星々が静かな海面へ映り込んでいた

波が揺れるたび星の光が細かく砕ける

 

キラキラ、キラキラと

 

まるで海そのものが、星空を映した巨大な鏡になったようだった

 

「・・・・・・」

 

ヒナが足を止め、

その光景をじっと眺めている

 

「"綺麗だね。"」

 

「うん。」

 

ヒナは小さく頷く

 

「昼とは、全然違う。」

「夜の海って、こんな感じなんだ・・・」

「私、こうしてちゃんと見るのは初めてかも。」

 

そう言ってヒナがゆっくり歩き出し、

私もその隣を歩く

 

二人分の足跡が、月明かりに照らされた砂浜へ残っていく

 

波が寄せる、砂を濡らし

そして静かに引いていく

 

ザァァ・・・

 

その音を聞きながら

私達は何も言わず、ゆっくりと浜辺を歩いていった

 

昼間とは違う

夕暮れとも違う

 

今度は本当に何もない

ただ夜の海を歩いているだけ

そんな時間だった

 

しばらくしてヒナが、ぽつりと言った

 

「・・・今日。」

「先生が忙しかったのは、風紀委員会の訓練の為なんでしょう?」

 

「"えっ・・・"」

 

私は少しだけ目を瞬く

ヒナは前を向いたまま続ける

 

「あんなに一生懸命に」

「私達の訓練の為に走り回って・・・」

 

そしてこちらを見た

 

その顔には花が咲いたような

柔らかな笑顔が浮かんでいた

 

「ありがとう、先生。」

「私達の事、手伝ってくれて。」

 

「"――――"」

 

その瞬間私の心臓が跳ねた

 

「ヒ、ヒナからこんないい笑顔でお礼を・・・!」

「これがひと夏の魔法・・・!」

 

「・・・・・・」

 

ヒナの笑顔がほんの少しだけ引きつる

 

「何その反応・・・私の事なんだと思ってるの・・・」

「そんなに大げさに言わなくても良いでしょう。」

 

「"いや、だって・・・!"」

「"ヒナがこんなに素直に感謝してくれるなんて・・・!"」

 

「・・・・・・」

 

ヒナは少しだけ呆れたように私を見る

 

「・・・本当に大げさ」

 

そう言いながらも

その口元にはほんの少しだけ笑みが残っていた

 

「まぁ・・・ありがとうって言いたかったから。」

 

「"――――"」

 

その一言で私はまた胸を撃ち抜かれた

 

「"――――"」

 

「先生?」

 

「"っは、い、いや"」

「"何でもないよ"」

 

私は慌てて前を向いた

 

("危ない")

("今日のヒナ、破壊力が高すぎる・・・")

 

そのまま少し歩く

するとヒナがふと、昼間の風紀委員会の様子を思い出したように口を開いた

 

「そういえばさっき」

「皆、やたら土まみれで・・・」

「相当疲弊してたみたいだけど・・・」

 

ヒナが少しだけ首を傾げる

 

「もしかして・・・そんなに激しくしごいてた?」

 

「"・・・・・・"」

 

私は今日一日の出来事を思い返す

 

朝、戦闘、走る

海岸、戦闘、走る

ホテル、走る、また戦闘

 

戦車、ヘリ、ドローン

焼きトウモロコシ

さらに戦闘

 

そして夕方まで続いた、戦闘のフルマラソンのような一日

 

私は思わず苦笑した

 

「"・・・まぁ、色々あってね"」

 

「色々・・・?」

 

「"うん。"」

「"本当に色々・・・"」

 

ヒナは少し困ったような顔をしながらも

 

「まぁアコの事だし」

「ちゃんとやってくれたとは思うけど・・・」

 

「でも、それくらい皆頑張ってたんだなって思うとやっぱり・・・」

 

ヒナの声が少しだけ小さくなる

 

「今日みたいにずっと部屋にいるのは、なんだか落ち着かないと言うか・・・」

 

私はその言葉を聞いて少し考える

 

「"もしかして"」

「"逆に疲れさせちゃった?"」

 

「えっと・・・」

 

ヒナは少し迷いながら

 

「何ていうか・・・ずっと慌ただしくて、忙しくて」

「面倒な事がいくらでもあるのが常だったから・・・」

 

「先生も居なくて、ホテルの部屋で一人ポツンといるのは・・・」

 

少しだけ視線を落とす

 

「その・・・少し・・・退屈・・・だった、かも。」

 

「"・・・"」

 

私は静かにヒナを見て

そして

 

「"・・・ごめんね、ヒナ"」

「"お詫びにって訳じゃないけど・・・"」

「"ヒナは何かやりたい事とかある?"」

 

「やりたい事・・・」

 

ヒナが呟き、しばらく考える

 

「・・・一つだけあるかもしれない」

 

「"何?"」

 

ヒナは少しだけ恥ずかしそうに

 

「・・・泳ぎ方を教えて欲しい。」

 

「"泳ぎ方?"」

 

「うん。」

「私、その・・・ほとんど泳いだ事が無くって」

「スキルとしてかなり未熟で・・・」

 

そこで少しだけ真面目な表情になる

 

「だから、今回少しでもそれを鍛えられたらなって。」

「アコから貰ったスケジュール表だと、明日の午前中も部屋で待機になっちゃってるから・・・」

 

ヒナがこちらへ近づき

そしてにこりと笑った

 

「だから先生。」

「明日の午前中、私に泳ぎを教えてくれない?」

 

「"いいよ!"」

 

私は即答した

 

「"もちろん、任せて!"」

 

「・・・」

 

ヒナの顔がぱっと明るくなる

また花が咲いたような笑顔を浮かべていた

 

「ありがとう。」

「じゃあ明日、お願いね。」

 

「"うん。"」

 

そのまま私達はもう少しだけ

夜の砂浜を歩いた

 

波の音を聞きながら

 

星空を眺めながら

 

今度こそ誰にも邪魔されることなく

静かな時間を過ごした

 

やがて私はヒナを客室まで送っていった

 

「"じゃあ、おやすみ。"」

 

「うん。」

「先生も、おやすみ。」

 

「"おやすみ、ヒナ。"」

 

扉が閉まる

私はその場に少しだけ立ち尽くし

 

そしてスマートフォンを取り出す

連絡先はもちろんアコ

 

「"・・・さて。"」

 

明日のことを伝えないと

私は通話ボタンを押しスマートフォンを耳に当てた

 

数回の呼び出し音の後

 

『先生!どうされました!?』

 

「"アコ。"」

「"明日の朝なんだけど。"」

「"ヒナが泳ぎの練習をしたいって。"」

 

『――――』

 

一瞬沈黙があった

そして

 

『感激しました!!』

 

「"え?"」

 

『あの委員長が・・・!』

『あの委員長がご自分の口で【泳ぎたい】だなんて・・・!!』

 

「"いや、まぁ・・・"」

 

『つまり、ようやく委員長も夏休みを過ごす気になってくださったと言う事!!』

 

「"そういうことになるのかな・・・?"」

 

『先生も少しは役に立つのですね。見直しました!』

 

「"それは褒めてるのかな・・・?"」

 

『さあ、こうしてはいられません!』

『これで明日の目標も決まりました!』

 

「"アコ?"」

 

『それでは!』

 

「"ちょ――"」

 

プツッ

 

通話が切れた

 

「"・・・・・・"」

 

私はスマートフォンを見つめ

 

なんだろう

妙な胸騒ぎがする

 

ただ、明日はヒナに泳ぎ方を教えるだけだ

きっと明日こそは本当に何事も起きないだろう

 

そう思いながら

私は自分の客室へ戻った

 

 

 

 

【アラバリゾート・客室】

 

翌朝

 

目を覚ました私は、枕元に置いていたスマートフォンへ手を伸ばした

画面を確認すると、アコから一件のメッセージが届いていた

 

『先生、起床しましたら現場待機所までお願いします』

 

「"・・・現場待機所、か"」

 

昨日まで使っていた、浜辺の風紀委員会用テント

 

私は身支度を整えると、ホテルを出た

 

 

 

 

【アラバ海岸・ビーチ】

 

朝の海岸には、昨日までの騒動が嘘だったかのような静けさが戻っている

 

・・・少なくとも、今のところは

 

そう思いながら歩いていると

少し離れた場所に、風紀委員会のテントが見えてきた

そして、その入口から無線通信の声が聞こえてくる

 

「・・・あー、あー」

「聞こえますか? 待機中の各チーム、返答をお願いします。」

 

『チームα、準備出来ました』

 

『チームβ、所定の位置で待機中です』

 

『チームγ、問題ありません』

 

「はい、通信も良好ですね。問題無さそうです。」

 

テントの中では、アコが無線機を手にしていた

 

その横にはイオリとチナツ

2人とも既に準備を整え、今日の訓練に備えていた

 

私は入口から声を掛けた

 

「"おはよう、みんな。"」

 

「あ、先生。」

 

アコが振り返る

 

「おはようございます!」

 

「先生も来られましたね。」

 

チナツが小さく会釈する

 

「おはよう、先生。」

 

イオリも手を上げる

 

私は三人に挨拶を返してから、テントの中へ入った

 

アコは再び無線機へ向き直る

 

「では改めて、作戦概要の確認です。」

「私達風紀委員会の夏合宿訓練は、今日の午後4時をもって終了。」

「その後、速やかに帰還となります。」

 

「委員長に元々お伝えしている今日のスケジュールは、午後の全体射撃訓練への参加のみ。」

 

そこまで言ったところで、アコの声が妙に弾んだ

 

「ですが、その訓練の前に」

「委員長自らが時間を作って、海で泳ぎたいとおっしゃいました。」

 

「つまり・・・」

 

アコが拳を握る

 

「委員長ご自身もまた、休暇をお過ごしする気になってくださったと言う事!!」

「なので私達の任務は簡単です!」

 

「ヒナ委員長の夏休みを最後まで全力でサポートし、不穏分子を全滅させる事!!」

「学園に帰るまでが休暇です!!」

 

「・・・・・・」

 

イオリのが小声でつぶやく

 

「これ・・・風紀委員会がやっていい事なのか・・・?」

 

チナツも

 

「昨日の騒ぎでほとんど誰も居ないので、ギリギリセーフでしょう・・・」

 

「無駄口をたたかない!」

 

アコが即座に怒鳴り

そしてこちらを振り返った

 

「それから先生!」

「肝に銘じてください!今回一番大事な役割を担うのは先生なのですから!」

 

「"えっと・・・頑張ります。"」

 

思わず少し引きながら答える

 

すると、アコがズイッと迫ってきた

 

「委員長に直接泳ぎ方を教えるのですよ!!」

「本当にその責務の重大さを分かっていますか!?」

 

「どうして先生が!?」

「なぜ私ではだめなのですか!?」

「今すぐ訓練など放棄して、その手を導いて差し上げたい・・・!!!」

 

「"・・・・・・"」

 

アコの目が本気だった

 

「というのがまぁ正直な気持ちなのですが」

「これも全ては委員長の為・・・」

「委員長がそう望むのであれば、それを全力で支えるまで」

 

そして私を睨む

 

「ですので!」

「どうか誠心誠意全力で命がけで行ってください!!」

 

「それから言っておきますが!」

「間違い等、絶対に在ってはなりませんからね!?」

「やったら手足へし折りますよ!?」

 

「"落ち着いてアコ。"」

 

私は思わず苦笑し

 

「"女同士だよ、女同士。"」

 

「委員長の魅力が性別程度が壁になると思っておいでで!?」

 

「"・・・・・・"」

 

私は深いため息を吐いた

 

何を言っているんだろう

この子は、そう思っていた時だった

 

「あっ!」

 

アコが突然声を上げた

 

「たった今、委員長が水泳の支度を終えて、部屋から出ました!」

「皆さん、気を引き締めてください!!」

「それでは作戦開始です!!」

 

私とイオリ、チナツは

同時にテントの外へ出た

 

 

 

 

 

朝の海岸まだ人影は少ない

イオリが海岸全体を見渡す

 

「海辺は特に異常無し。」

 

チナツが無線を確認する

 

「周辺一帯も問題ありません。」

「それではお願いします、先生。」

 

「"ラジャー!"」

 

私は少しふざけながら敬礼し、

そのまま離れようとした

 

すると

 

「ま、大丈夫でしょ。」

 

イオリがボソリと言った

 

「これ以上問題も起きっこないだろうし・・・」

 

「・・・・・・」

 

その言葉を聞いた瞬間、私の身体がピタッと止まり

ゆっくりとイオリへと振り返って

ジト目でイオリを見る

 

チナツも同じ顔でイオリを見ていた

 

「イオリ。」

「昨日もそうでしたが・・・」

「変な事は言わない方が・・・」

 

イオリも自分の発言が何を意味するのか理解したらしく

 

「まぁ確かに。」

「二度あることは三度あるって言うけど。」

「流石にもう―――」

 

ウゥゥゥーー!!

 

警報音が鳴り響くと同時にイオリの顔が固まる

 

「え・・・・・・」

 

私とチナツは

同時に深い深いため息を吐いた

 

「「"はぁぁ・・・"」」

 

その時テントの中から

 

「まさか、これは・・・!」

「いえ、どうして!?」

 

アコの困惑した声が響いた

私達3人は急いでテントへ戻り

イオリとチナツがアコに声をかける

 

「どうしたの、アコちゃん!?」

 

「・・・行政官?」

 

通信機から

風紀委員の報告が漏れ聞こえてくる

 

『情報部からの報告です!』

『ホテル裏手のスラム街に現在、』

『スケバン集団【破茶滅茶】とびしょびしょヘルメット団が集結中!』

『その規模・・・二個大隊以上と予想されます!』

 

「どうして!」

 

アコが声を上げる

 

「どうしてあの2つの集団が一緒に!?」

 

その直後別の通信が入った

 

『私達がどうして一緒にいるのか・・・今頃、さぞかし驚いてることだろう!』

 

『ふははは!!』

 

『あたしらは一時的に、同盟を結ぶことにした!』

 

『何せ、丁度いい情報が入ったからな。』

 

『どうやら、あの風紀委員長が不在らしいじゃん!?』

 

『そうと聞いたら話は別!』

 

『委員長が不在のゲヘナ風紀委員会など、そこまで怖い物ではない!』

 

『待ってろよ烏合の衆め!』

 

『私達の戦いを邪魔をしたケジメ、きっちりつけさせてくれる!』

 

『ま、つまりは宣戦布告ってところだ!』

 

『あははははっ!』

 

『あたしらに手を出した事、後悔させてやる!』

 

ブツッ

 

言い終わると同時に通信が切れた

 

「なっ・・・!」

 

アコの顔が引きつり痙攣してる

 

「この、たかがエキストラの分際でっ!!!!」

 

バンッ!!

 

机が叩かれる

 

チナツが小声で呟いた

 

「この口調・・・相当本気で怒ってますね・・・」

 

イオリも小声で続ける

 

「マジか・・・各個撃破でもあんなに大変だったのに、連合って・・・これマズくないか?」

 

その瞬間アコの首がグルンと回りイオリを睨む

 

「マズいも何も知った事ではありません!!」

「断固阻止です!!!」

 

チナツが苦言を呈する

 

「その・・・これは流石に委員長に報告した方が・・・。」

 

「却下します!!」

 

アコが即答する

 

「せっかく委員長が休暇を取る気になってくださったのに!」

「ここで諦める訳にはいきません!!」

 

イオリが次善策を提示する

 

「じゃあ学園に残ってる風紀委員に支援要請とか・・・」

 

「出来るわけが無いでしょう!」

「ひとつ間違えば委員長にバレてしまいます!!」

「合宿に来ている分の現存兵力で、何とかしなくてはなりません!」

 

「いやでも、こればっかりはもう無理でしょ・・・」

 

「無茶でも無理でもやるんです!!!」

 

アコが叫ぶ

 

そして少しだけ呼吸を整えた

 

「幸いにも、まだ時間はあります。」

「今のうちに作戦を練って」

「例えば向こうが完全に陣形を整える前に――」

 

『行政官、ご報告です!』

 

別動隊から通信が入った

 

「はい!?」

 

『ホテル周辺に少数ではありますが、武装した何者かが接近中!』

 

「いったい何者ですか!!」

 

『まだ報告がはっきりしないのですが、何やら袋を沢山持っているとか・・・』

 

「"袋・・・?"」

 

私は眉をひそめる

 

袋、何か引っかかる

昨日そういえばハルナ達が袋を持っていたような・・・

 

『追加情報です!』

『今し方その袋の中身について、【凹凸が沢山ある円筒状の何か】だと報告がありました!』

 

アコが青ざめる

 

「まさか噂の改造パイナップル手榴弾!?」

「一体どこでそんな危険なものを・・・!?」

 

「"・・・・・・"」

 

私は遠い目をした

 

凹凸、円筒

もしかして・・・

 

『あっ!』

 

無線から声が上がる

 

『今ちょうどはっきり見えました・・・!』

『あれは・・・トウモロコシです!!』

 

「はい・・・?」

 

アコが固まる

 

私は頭を押さえた

 

「"・・・ハルナ達だ・・・"」

 

イオリとチナツも

同時に昨日の光景を思い出したらしい

焼きトウモロコシを食べていた美食研究会

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

アコも私からの報告を思い出したのか頭を抱えていた

 

「・・・もう、意味が分かりません・・・」

 

その時

 

『すいません、もう一件ご報告です!』

 

「・・・・・・」

 

アコが嫌そうな顔をする

 

『また別の勢力がスラム街に向かっているとの事で・・・!』

 

「これ以上何なんですか!?」

「ひとしきりもう出て来たでしょう!?」

 

『あ、あの集団は・・・!』

『画面に映します!』

 

ホログラムが展開される

そこに映し出されたのは

 

大量の生徒達

 

そして先頭には

重機を引き連れ、火炎放射器を持った赤い髪の少女

 

「・・・・・・」

 

アコが目を見開く

 

「温泉開発部!?!」

 

『温泉開発部の部員、約200名が集結中!』

『それに、戦車に加え重機も・・・!』

『ブルドーザーにショベルカーまで・・・!』

 

「・・・・・・」

 

『スラム街の兵力が増加中!』

『遠方にばらけていたスケバン集団とびしょびしょヘルメット団の人員が徐々に集まってきている模様!』

『それだけではなく、ドロイド兵、戦車、ヘリも確認出来ました!』

 

『これは・・・?』

 

『他の地域から、別のスケバン集団たちもやって来ています!』

『えっと・・・なにやらシートを広げて完全に観戦モード!』

 

『あっ!』

 

『お互いにいい席を取ろうと戦闘を始めました!!』

 

『美食研究会、大通りのど真ん中に、トウモロコシの屋台を出し始めました!!』

『温泉開発部、ブルドーザーとショベルカーの進撃をはじめ・・・』

『えっと、何故か美食研究会と交戦を開始しました!』

 

『スケバン集団並びにびしょびしょヘルメット団がこちらに向かって進軍中!』

 

次々と無線が鳴り、

報告が止まらない

 

アコの顔から少しずつ

血の気が引いていく

 

『アコ行政官、どうしましょう・・・!』

 

『行政官、ご指示を!』

 

「・・・うっ」

 

『・・・う?』

 

アコが震える

 

そしてその場に崩れ落ちた

 

「うわあぁぁぁんっ!!!!」

「こんなの、こんなの私にどうしろって言うんですかぁっ!?!」

「あちらを立てればこちらが立たず!」

「こんなに一斉にこられてどうしろと!?」

 

『ですが!行政官!』

 

「だから無理ですよぉ!!」

「こんなの私一人でどうしろって言うんですかぁ!!」

 

私達全員

 

もう頭を抱えるしかなかった

 

その時テントの入口から

誰かが入ってきた

 

「"・・・・・・?"」

 

振り返り入ってきた人物を確認する

 

アンラさんが入り口に立っていた

私は思わず顔を明るくなり声をかける

 

「"あ!アンラさ――"」

 

アンラさんの横に水着姿のユメさんを見た瞬間

思わず止まってしまう

 

「"・・・・・・"」

 

「先生?」

 

アンラさんが首を傾げ、

私は慌てて笑顔を作った

 

「"・・・ううん、なんでもないですよ?"」

 

笑顔は出来ている

 

でも、自分でも分かるくらい

猛烈に不機嫌な空気が出ていると思う

 

「で、何があったん?」

 

アンラさんが尋ねてきて

私は疲れ切った顔で説明する

 

「"ヒナがストレスを溜めてたから数日休ませようと思ってね。"」

「"ホテルでちょっと騙すような形で休息を取ってもらってるんだけど。"」

 

「ほーん。」

 

「"でも今、このアラバ海岸がゲヘナで一番ホットな場所になっててね・・・"」

 

「は?」

 

アンラさんが眉をひそめる

 

「・・・どういうこっちゃ?」

 

私は指を一本立てる

 

「"まず、二個大隊規模のヘルメット団とスケバンの連合部隊。"」

 

「・・・・・・」

 

二本目

 

「"次に、アラバ海岸近辺を爆破して採掘しようとしてる温泉開発部"」

 

「・・・・・・・・・」

 

三本目

 

「"さらに観戦場所を巡って別地域のスケバン同士が銃撃戦"」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

四本目

 

「"そして大通りのど真ん中で営業を始めた美食研究会の焼きトウモロコシ屋台"」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

アンラさんがゆっくり空を見上げる

 

「・・・なんやそれ・・・」

 

ユメも困ったような顔をする

 

「これ、休暇中に起きる規模の騒ぎ・・・なのかな・・・」

 

「おっさんもそう思う。」

 

私はアンラさんを見る

 

「"だから・・・アンラさん、これ何とか出来ませんか?"」

 

「うーん・・・」

 

アンラさんが腕を組み考えてる

 

「流石に他所の自治区でこの規模の戦闘に堂々と参加するんはなぁ・・・」

「アビドス側の政治的な隙を作ることになりかねん。」

 

「せやから、表立っては動きにくいわ。」

 

「"・・・そうですよね・・・"」

 

分かっている

アンラさんの言い分は正しい

 

だからこそ少し残念だった

 

その横で

 

「方法も何も!!」

 

まだ無線で色々言われているのかアコが再び叫んでいた

 

「こんなのどう解決しろって言うんですかぁ!?」

「ゲヘナで一番静かな海岸とは何だったんですか!?」

「今やゲヘナで一番ホットな場所ではないですか!!」

 

その瞬間、背後から

 

「なるほど。」

 

静かな声が聞こえた

 

「鉄床戦術の状態ね。」

 

「・・・・・・」

 

私とアンラさんがゆっくり振り返る

 

そこには

 

浮き輪を持った水着姿のヒナが立っていた

 

「「"・・・・・・"」」

 

私とアンラさんは同時に頭へ手を当てた

 

("来ちゃった・・・")

 

しかしアコはまだ気づいていない

 

「い、言われてみれば・・・!」

「確かにそうですね!」

「流石は委員長です!」

 

「"・・・・・・"」

 

私はそっと目を閉じた

アコは完全に作戦立案モードへ入っている

 

「となると、この状況を打開する戦略は籠城ではなく。」

「美食研究会、ヘルメット団、スケバン。」

「それに温泉開発部・・・」

「数は多いけど、連携が取れているわけじゃない。」

「ヘルメット団とスケバン集団の指揮命令系統もそれほど確立されていないはず・・・。」

「まずは包囲網の隙間に割り込む。」

「となると取るべき戦術は・・・。」

 

アコが顔を上げる

 

「電撃戦。」

 

「そう。」

 

ヒナが頷いた

 

「相手は円形包囲網で来るだろうけど。」

「その何処か一点を電撃戦で突き崩すのは難しくない。」

「そこからはいくらでもやりようがある。」

「なるほど・・・!」

 

アコの顔が輝く

 

「流石は委員長です!」

「一発で解答が見つかりました!」

「では!作戦を実行します!」

「すべては委員長の――」

 

そこでアコの思考がようやく追いついた

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

テントの中に

 

長い沈黙が落ちる

 

ヒナが小さく息を吐いた

 

「ふぅ・・・」

 

そして

 

「アコ?」

 

「あ・・・」

 

アコの顔から血の気が引いた

 

「は、はい・・・」

 

「訓練が」

「どうしてこんな事になっているのか。」

 

ヒナが静かに言う

 

「その話は、また後で。」

 

「・・・・・・」

 

アコの顔が死んだ

 

「・・・はい。」

 

ヒナはそのままアンラさんへと向き直った

 

「アンラさん。」

 

「・・・ん?」

 

「貴方に確かセクハラの時に出来た借りがあったよね?」

 

「あー・・・あれな。」

 

アンラさんが苦笑する

 

私はアンラさんの横で

 

目つきが鋭くなっていた

 

そして反対側に居るユメさんも同じように

凍てつくような視線をアンラさんへと向けていた

 

「・・・アンラさん」

 

「ん?」

 

「セクハラって・・・何をしたんですか?」

 

「・・・いや、それはやな。」

 

ユメの目がさらに細くなる

 

「いやぁ、色々あってなぁ。」

 

「・・・そうですか。」

 

「まぁ、それは今度説明するから。」

 

「・・・本当に?」

 

「ほんまや。」

 

ユメさんはしばらくおっさんを睨んでいたが

やがて小さく息を吐く

 

「分かりました。」

 

「助かったわ・・・」

 

アンラさんが胸を撫で下ろす

そのやり取りが終わると

 

ヒナがアンラさんを見る

 

「それで、手伝ってくれる?」

 

アンラさんは少し考え

 

「表立っては動けへん。」

「でも、後方支援くらいなら出来る。」

 

「十分。」

 

ヒナが頷き、更に尋ねる

 

「何をするの?」

 

「ここから爆発物を投げる。」

 

「"爆発物?"」

 

私が思わず聞き返す

 

「おぅ、これや。」

 

アンラさんが虚空へ手を突っ込む

 

そこから

 

一本、また一本と

木の棒に金属がくっついただけのような物体を取り出していく

 

「刺突爆雷くん。」

「昨日も投げてたやつや。」

 

「"・・・・・・"」

 

私は昨日の光景を思い出す

 

突然スケバンの戦車へ降ってきた

 

爆発する謎の棒

 

「"昨日急にスケバンの戦車が爆散した理由・・・・"」

 

「せやで。」

 

「それでいい。」

 

ヒナは即答し

 

アンラが頷く

 

「分かった。」

 

「ほな、そっちが包囲食い破った後。」

「輪っかが繋がらない様に、邪魔する様に投げとくわ。」

 

「お願い。」

 

ヒナが風紀委員会へ向き直り

その表情は完全に仕事の顔へ戻っていた

 

「全員、戦闘準備。」

「行こう。」

 

「はい!」

 

アコが答える

 

「了解!」

 

イオリ

 

「了解です!」

 

チナツ

 

そして私も続く

 

「"じゃあ、行ってくるね。"」

 

アンラさんを見る

 

「おう。」

 

アンラさんが笑う

 

「まぁ頑張ってな。」

 

私達は一斉に走り出した

 

 

 

 

 

 

【アラバ海岸・スラム街】

 

アコが別動隊へ通信を入れる

 

「全員招集!」

 

「30名全員、指定地点へ!」

 

風紀委員会の隊員達が次々と集まっていく

 

そしてヒナが先頭へ出て、

デストロイヤーを構える

 

 

連合軍が風紀員会を見つけ次第発砲して来る

 

銃声が鳴り響き

弾幕が走る

 

だがヒナは止まらない

 

「前進!」

 

弾幕を張りながら

包囲網へ食い込んでいく

 

一歩、また一歩と

 

「押し込め!」

 

風紀委員会の一斉射撃

 

連合軍の隊列が揺らいだ

その瞬間、空から何かが降ってきた

 

一本、また一本と

 

無数に投げられた木の棒が地面へ突き刺さり

次の瞬間、轟音と共に大きな爆発が起こる

 

「な、なんだ!?」

 

「どこから来た!?」

 

「うわぁぁぁっ!!」

 

連合軍が混乱する

 

ヒナはその瞬間を逃さなかった

 

「今!」

 

「突入!」

 

風紀委員会が一斉に包囲網を突破する

 

その直後

 

背後から別動隊が襲い掛かった

 

前後から挟まれた連合軍は

 

一気に隊列を崩していく

 

「敵が後ろから!?」

 

「どこから来た!?」

 

「陣形を維持しろ!」

 

「無理だ!」

 

混乱し戦線が崩壊していく

 

そして

 

ヒナ掃射によって鎮圧されていく

 

 

 

 

 

その先の大通り

そこでは美食研究会と温泉開発部が激突していた

 

「温泉を掘る邪魔しないで!!」

 

「この屋台近くで爆破させないでください!!」

「焼きトウモロコシの邪魔だよ!!」

 

「知らない!!」

 

ヒナはその光景を見て

 

しばらく黙ったが、

ヒナがゆっくり銃を構えた

 

カチャッ

 

その瞬間温泉開発部と美食研究会の全員がヒナに気付き

 

「「「「え?」」」」

 

それと同時にヒナのヘイローが紫色の光を発しながら高速回転していく

デストロイヤーの銃口に紫色の神秘が集中していき光り輝き

ヘイローと同じ様に銃口が高速回転していく

 

そしてヒナが一言呟く

 

【イシュ・ポシェテ】

 

その瞬間、紫色の閃光が無数に射出される

 

ドドドドドドドドッッ

 

その神秘が込められた無数の弾丸が着弾する度に轟音が鳴り響く

そんな過剰な攻撃を受けた温泉開発部も、美食研究会も

 

まとめて吹き飛んだ

 

「えええええっ!?」

 

「な、なんで私達まで!?」

 

そしてその周囲では

 

観戦場所を巡って

別地域のスケバン達がまだ銃撃戦を続けていた

 

「そこ私の席!」

 

「知るか!」

 

「前が見えない!」

 

「どけぇ!」

 

ヒナはそちらへも銃口を向ける

 

「あなた達も」

 

「え?」

 

掃射

 

「うわぁぁぁぁっ!?」

 

「逃げろぉぉぉ!!」

 

こうして

 

アラバ海岸周辺に集結していた不良生徒達は

次々と鎮圧されていった

 

 

 

 

 

 

戦闘が終わる頃には

太陽も大きく傾いていた

 

夕暮れ長かった一日が

ようやく終わろうとしている

 

私達はアンラさん達が待機している風紀委員会のテントへ向かって歩いていた

 

その途中ヒナがアコへ問いかける

 

「それで、今回のこの騒動は一体何?」

 

「す、すみませんでした、委員長!」

 

アコが慌てて頭を下げる

 

「ただ、その・・・」

「何とか事態を大きくしない様に、解決しようとしたと言いますか・・・」

 

「それなりに大きくなってたけど・・・?」

 

「・・・・・・」

 

アコが顔を逸らす

 

「その・・・」

「委員長にバレないように解決すれば万事OKかなと・・・」

 

ヒナが首を傾げる

 

「そもそも。」

「どうしてバレない様にしようとしたのかが全然理解できない。」

「こういうのは、私に言ってくれれば直ぐに解決したはず・・・違う?」

 

「それは、その・・・」

 

アコが言い淀む

 

「ん?」

 

ヒナが首を傾げる

 

するとアコが叫んだ

 

「そんなことしたら・・・!」

「また委員長は頑張ってお仕事をされちゃうじゃないですかぁ!!」

 

「・・・え?」

 

ヒナが唖然とする

アコの目には涙が浮かんでいた

 

「私はただ!」

「委員長にお休みをとってほしかっただけでしたのに・・・!」

「うわぁぁぁん!!」

 

「ちょ、ちょっと待って・・・」

 

ヒナが困惑する

 

「何の話?」

「お休み?」

 

イオリが説明する

 

「えっと、委員長。」

「アコちゃんが言うには、その・・・」

 

チナツが続ける

 

「委員長のストレスが凄い事になってるから、と・・・」

 

「"ほら。"」

 

私は補足する

 

「"最近エデン条約でも色々あったし・・・"」

 

「ストレス?」

 

ヒナが目を瞬く

 

「私が?」

「・・・まぁ、エデン条約は確かに大変だったけど。」

「どうして?」

 

アコが答える

 

「この前、私が淹れたコーヒーを委員長が美味しいって・・・」

「ヒナ委員長、そんな事滅多に仰らないのに・・・」

 

「ああ」

 

ヒナが思い出したように言う

 

「コーヒーって・・・」

「あの、シャーレとの共同作戦の事を話してた時の・・・?」

 

「えっと・・・アコ、それは誤解。」

 

「・・・・・・?」

 

アコの頭に疑問符が浮かぶ

 

ヒナは少し恥ずかしそうに続ける

 

「あの時、私が美味しいって言ったのはストレスのせいじゃなくて」

「その・・・逆に気分が悪くなかったからと言うか・・・」

 

「・・・・・・?」

 

私も疑問符が浮かぶ

 

「どういう事・・・?」

 

「せ、先生はちょっと静かにしてて・・・!」

 

「"は、はい。"」

 

ヒナは少し赤くなりながら

 

「その、何ていうか・・・」

「えっと・・・こ、細かい事は気にしないで!」

 

「とにかく。」

 

アコをまっすぐ見つめる

 

「私の事を気遣っての行動だったのは分かったけれど・・・」

「他にもやり方があったでしょう。」

 

「・・・はい。」

 

アコが素直に頭を下げる

 

「すみません・・・」

 

ヒナは少しだけ表情を柔らかくし

 

「まぁ、でも・・・」

「この一泊二日で、結構ゆっくりできたのは確かだし・・・」

 

「うん。色々と悪くなかった。」

 

そして

 

少しだけ間を置いて

 

「・・・でもそれはそれ、これはこれ」

 

「それに私はやっぱり。」

「何もせずにじっとしてるより、仕事をしてる方が落ち着くって事も分かったし・・・」

 

私は思わず呟いた

 

「"完全にワーカーホリック・・・"」

 

ヒナの足が止まり、

私の方に鋭い目を向けてきた

 

「・・・何か言った、先生?」

 

「"言ってない!"」

「"言ってません!"」

 

ヒナはため息を吐く

 

「はぁ。」

 

「とにかく。」

「どうやら今回の夏の合宿訓練は滅茶苦茶になったみたいだし・・・」

「このまま帰ったら万魔殿の奴らに、どれだけ嫌味を言われるか分からない。」

 

「・・・うん。」

 

ヒナが決意したように頷く

 

「仕方ない。決めた。」

 

嫌な予感がする

私だけじゃなく、風紀委員会全員が同じ顔をしていた

 

「待機所のテントに付いたら。」

「改めて、夏の合宿訓練を始める。」

 

「えっと・・・」

 

イオリが恐る恐る口を開く

 

「委員長、訓練はある程度って言うか・・・」

「もう既にボロボロって言うか・・・」

 

私は周囲を見渡した

30名全員が既に歩いているだけでふらふらだった

 

しかしヒナは淡々と続ける

 

「訓練開始後、海への出入りは禁止。」

「元々私が準備していたスケジュール通りに」

「これから36時間の地獄の訓練を始める。」

 

「・・・・・・」

 

空気が死んだ

まるでお通夜だった

 

ヒナは構わず続ける

 

「自由時間は一切なし。」

「このくらいの長さだから当然徹夜。」

「この二日間、皆夏を満喫したみたいだし」

「少しくらい辛くても耐えられるはず。」

「これなら万魔殿のタヌキ共も文句は言えないでしょう。」

 

「うっそだろ・・・!?」

 

イオリが青ざめる

 

チナツはもう諦めた顔になっていた

 

「私達は、もう既に疲労困憊なのですが・・・」

「まぁ、こうなっては何を言っても言い訳ですね・・・」

 

「うぅ・・・」

 

アコもしょんぼりとしいる

 

「承知しました・・・」

 

私はそんな3人と

そして30名の風紀委員会を見渡す

 

("うわぁ・・・")

("皆、骨は拾うからね・・・")

 

その時ヒナがこちらを見る

 

「先生は何か言いたい事ある?」

 

「"・・・・・・"」

 

ヒナがさっきの目よりも更に鋭い目で見てきた

思わず私は直立不動になり

 

そして

 

敬礼

 

「"ありません!!!"」

 

背中に風紀委員会全員の

恨めしい視線が刺さる

 

("皆ゴメン!!")

("でも今のヒナに口答えは無理!!")

 

ヒナは満足そうに頷いた

 

「うん。いい返事。」

 

そして私のところへ近づいてくる

周囲には聞こえないような

 

小さな声

 

「・・・先生がすっぽかした約束の埋め合わせは」

「また訓練の後で・・・ね?」

 

にっこり

 

「"・・・・・・"」

 

私は顔を引きつらせ

 

「"は、はい・・・"」

 

そのままヒナ以外の全員が

ふらふらになりながら

風紀委員会の待機用テントへ戻っていった

 

 

 

 

【アラバ海岸・ビーチ】

 

テントへ入るとそこには

アンラさんとユメさんが椅子に腰掛けのんびりとコーヒーを飲んでいた

 

あまりにも平和だった

 

まるでここだけ別世界のようだ

 

ヒナが2人の前へ歩み寄る

 

「ありがとう、助かった。」

 

アンラさんが軽く手を上げる

 

「おう。」

「おっさんは大したことしてへんけどな。」

 

「十分。」

 

ヒナは頷く

 

「私たちは今日はこのまま訓練に入るから」

「また何か私が手伝えることがあったら連絡して。」

 

「おー」

 

アンラさんが笑う

 

「まぁ機会があれば声かけさせてもらうわ。」

 

「じゃあ、また。」

 

ヒナはそう言うと

そのままふらふらの風紀委員会を引き連れて

テントの外へ消えていった

 

最後に残ったのは

私、アンラさん、ユメさんの3人

 

私はアンラさんをじーっと見ていた

 

("・・・何でアンラさんここに?")

("もしかしてユメさんとホテルで・・・?")

 

さっきから

ずっと気になっていた

 

するとアンラさんが首を傾げる

 

「どうしたん?」

 

「"えっと・・・"」

 

私は渋々口を開き

 

「"アンラさん・・・"」

 

「おん?」

 

「"アンラさんとユメさんは・・・"」

「"ここのホテルに一緒に泊まってるの?"」

 

「せやで。」

 

即答された

 

「"・・・・・・"」

 

やっぱり

 

ホテルで

 

一緒に

 

泊まっていた

 

胸の奥からふつふつと黒い何かが湧いてくる

そんな私を見て

 

ユメさんが苦笑する

 

「先生も一緒に居た、あのデパートの抽選で当たったリゾートホテルの宿泊券。」

「ここだったんですよ。」

 

「"あぁ・・・"」

 

私はようやく理解した

 

「"あのチケット・・・そういうことだったんだ。"」

 

「せやね。」

 

アンラさんが頷く

 

「"・・・・・・"」

 

少しだけ安心した

けれど次の瞬間

 

「"ん・・・?"」

「"待って?ホテルで一緒に泊まったのは変わらないよね・・・?"」

 

私はゆっくりとユメさんを見る

 

ユメさんは少しだけ悪い顔でにっこりと笑っていた

 

その瞬間理解した

 

これは宣戦布告だ

 

「"・・・・・・"」

 

ピキッ

 

何か静かな火花が散った

 

そんな私達の空気に気づくことなく

アンラさんが立ち上がり、

 

「ほな、おっさんら。」

「そろそろホテル戻るわ。」

 

私は表面上笑顔を作り

 

「"はい。"」

「"今日はありがとうございました、アンラさん。"」

 

「おぅ。」

 

アンラさんは手を振る

 

「気にすんなー。」

「ほなまたな。」

 

「またね、先生。」

 

アンラさんとユメさんは2人は並んで

ホテルの方へ歩いていく

 

私はその背中をじっと見つめ、

そして誰にも聞こえない声で

 

「ふ・・・ふふふ・・・」

 

「いいですよ。」

 

「いいですよ。」

 

「その戦争、買いますよ・・・ユメさん。」

 

私は静かに決意した

 

(しばらくアンラさんをシャーレの書類地獄に拘束しよう。)

(今回のホテルの件の埋め合わせ分くらいは。)

(せめて一緒に居てもらおう。)

 

 

 

こうしてアラバ海岸での騒がしすぎる夏休みは

 

ひとまず終わりを迎えた

 

 

 

 

 

 




お待たせしました!!

最近筆の速度が落ちてしまって自分でも困惑!

さて!
本文解説をしていきますね!

といっても、
場面的には以前書いていた
祈願屋の休日後編の先生視点ですね!

ちなみに、
この日アコたちがもしも海水浴してたアンラ達を排除に動いたら
四面楚歌に祈願屋が合流する無理ゲーになってましたね。

あと、何故イオリが海岸を見た時に見つけられなかったかと言うと、
この時点でアンラ達は遠泳していた為、そもそも見える範囲に居なかったってのがありますね。

そして、
アンラの後ろで実は悪い顔していたユメちゃんでした、
先生視点でしか見えない視点ですね。
ぶっちゃけコレもあるので複数視点で書きました。

それでは、次はカノヴァルクの兎1章ですね!
がんばって書いて行きます!

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