おっさんキヴォトスに行く 作:無い頭のおっさん
おっさんが空を駆けながら子うさぎ公園の前まで戻ってくる
どうやら、先生達の方も一段落したらしい
公園の入口には先生とキリノ達、そしてカンナがいた
そのすぐ近くには――
簀巻きにされたミヤコが、地面に転がっている
「おー、先生。お疲れさん」
「そっちもなんとかなったんやな」
そう声を掛けながら、おっさんは肩に担いでいた三人をゆっくりと地面へ下ろす
ミユ、サキ、モエ
3人とも意識はなく、しかも鎖でぐるぐる巻き
「サキ!?」
「モエ!」
「ミユ!」
その姿を見たミヤコが、ぎょっとしたように目を見開いた
「大丈夫ですか!?」
簀巻きにされたまま、必死に身体を動かして3人へ近づいていく
ずるっ
ずるっ
ずるっ
そんな音が聞こえてくる
(なんというか・・・芋虫みたいやな)
そんなミヤコを見ながら、先生が少し引いた顔をする
そして、おっさんへ視線を向けた
「"本当に怪我させてないんですよね・・・?"」
「後ろから口抑えて首をキュっとしたから、怪我なんぞしとらんわ」
「・・・・・・」
先生とカンナが、ほぼ同時に頭へ手を置いた
「"その方法で制圧したらトラウマになりません?"」
「曲がりなりにも特殊部隊が、そんなんで折れるほどショボイ精神しとらんやろ」
実際、死んどらんし
たぶん大丈夫やろ
たぶん
カンナが小さく息を吐いた
「まぁ、何はともあれ」
「これでRABBIT小隊は全員拘束できましたね」
そして、こちらへ向き直る
「ヴァルキューレ警察学校を代表して、お二方に、感謝いたします」
「"力になれたようで良かったよ"」
先生がそう答え、
おっさんも軽く手を上げた
「まぁこれで昔の件はチャラで」
「・・・・・・」
その瞬間カンナの表情が、苦虫を噛み潰したような顔になった
まぁ、まだ何か引っ掛かっとるんやろな
昔の件やしおっさんとしては、もう終わった事やから流して欲しいんやけども
そんな事を考えていると
「・・・・・・う」
地面から、小さな声が聞こえた
「ミユ、大丈夫ですか!」
ミヤコがすぐに反応する
ミユがゆっくりと目を開けた
「・・・・・・?」
まだ意識がはっきりしていないらしい
何が起こったのか分からない、といった表情で辺りを見回している
すると
「う・・・・・・ここは?」
サキも目を覚ました
「・・・・・・あれ?」
モエも続く
3人とも、まだ身体は鎖でぐるぐる巻き
(まぁ、起きたところで状況は変わらんわな)
おっさんは3人の前まで歩いていく
そして、しゃがみ込んだ
「おー、お疲れさん」
3人の視線がこちらへ集まる
「君ら、全滅したんよ」
できるだけ軽く言う
「・・・・・・」
サキがこちらを睨み噛みついてくる
「お前・・・・・・!!」
やっぱり覚えとったか
強襲した時、こいつだけはおっさんの顔を見とったからな
「おー、こわ」
笑いながら立ち上がる
「まぁ後で色々事情聴取されるやろうと思うし」
「そこでくっちゃべったらええで」
それだけ言って、その場を離れると
入れ替わるように先生が3人の前へ歩いていった
先生もしゃがみ込む
「"初めまして、君達がSRT特殊学園の生徒達だよね?"」
「お前と話す事なんて1つも無い!」
サキが即座に噛み付く
「何なに、冷やかし?」
モエも続く
「それともバカにしに来たの?」
その少し後ろでおっさんは思わず口を挟んだ
「ほんまのアホをバカにしてもしゃーないやろ」
「・・・・・・!」
モエがおっさんを睨む
「・・・・・・」
先生が振り返って、おっさんを見て
深いため息をつく
なんや事実やろ
「貴女が今回、私達の鎮圧を担当した先生ですか?」
ミヤコが先生へ問い掛けた
「"うん、そうだよ"」
先生が頷き
ミヤコはじっと先生の目を見る
「そうですか・・・」
「貴女があの多くの生徒達の悩みを解決し、」
「生徒達から信頼されている、超法規的捜査権を持った【シャーレの先生】・・・」
「・・・・・・先生」
「私達は、貴女の様な大人が一番嫌いです」
「先生嫌われたなー!」
おっさんは後ろでゲラゲラ笑う
「地獄に落ちろ」
サキが吐き捨てる
「特に後ろのお前」
「なんでおっさんやねん」
「まぁ、ええけど」
モエも呆れたように言った
「もう二度と会わないだろうね」
やがてヴァルキューレの生徒達が三人を連れていく
ぐるぐる巻きのまま
「・・・・・・」
先生はその姿を見送り
そして
「"うーん、元気だなぁ・・・"」
「"あと多分、私よりアンラさんの方が嫌われてますからね?"」
「まぁおっさんは嫌われとっても別にええしなー」
「はぁ・・・」
先生が深いため息を吐いた
カンナが先生の横へやって来る
「気にする必要はないですよ」
「綺麗に負かされた事でイライラしてるんでしょう」
「"そうなのかな・・・"」
先生が遠ざかっていく3人を見る
「"あの子達はこれからどうなるの?"」
カンナは少し考えてから答えた
「まずは取り調べですね」
「普段ならその後、ヴァルキューレが処罰を決める流れなのですが・・・」
一度言葉を切る
「今回はある程度連邦生徒会が関わりましたので、恐らくはそうなりませんね」
「防衛室長が処遇を決める事になるかと」
「ご希望でしたら、取り調べの様子を見る事も可能かと思います」
「"そっか・・・"」
「では、一先ずお疲れ様でした」
そう言って、カンナ達ヴァルキューレも撤収していった
公園の前が静かになる
おっさんもシャーレへ戻ることにした
【シャーレ・部室】
その後おっさんは一人、シャーレの書類を片付けていた
(ほんま、いつになったらアビドスに帰れるんやろか・・・)
そんな事を考えていると扉が開き
先生が部室に入ってくる
「おー、お疲れさん」
おっさんは書類から顔を上げる
「兎の聴取、おわったん?」
「"終わりました"」
「さよかー」
しばらく先生は何も言わなかった
そして
「"正義って何だと思いますか?"」
「・・・・・・」
おっさんは胡乱げな目を先生へ向けた
「はぁ・・・」
嫌な予感しかしない
「どうせミヤコやろ、それ言ったん」
「"っ・・・・・・"」
先生が少し驚いた顔をする
「"なんで分かったんですか?"」
「あのアホは正義を妄信しているというより、誤解しとるからな」
「考えるだけ無駄やで」
「"誤解?"」
先生が聞き返す
おっさんはため息を吐いてから続きを話す
「どうせ」
「正義は利害関係の上で成り立っていて、自分達に都合のいいように歪曲されているとか」
「それに対してSRTは独自の理念を持って正義を掲げてる」
「とかいっとったんやろ?」
先生が呆れたように言う
「"まるで聞いてたみたいに言いますね・・・"」
「まぁ知識や、知識。」
おっさんはそんな事を言って適当に流す
「そんで、あいつが妄信しとるSRTの正義っちゅうんは」
「結局はアイツが否定していた、誰かにとって都合のいい正義でしかないんよ」
先生が黙る
おっさんは椅子へ背を預けながらさらに続ける
「なんでかって?」
「そんなもんSRT自体が連邦生徒会長直下の暴力装置やからに決まっとるやん」
「つまり、連邦生徒会長にとっての都合の良い物――正義でしかないんよ」
「そこをあいつは見とらんし、考えとらん」
部屋に沈黙が落ちた
先生は長い間、何かを考えていた
そして
「"じゃー・・・"」
ゆっくり顔を上げる
「"アンラさんが考える正義って?"」
おっさんはケラケラと笑いながら言う
「全存在にとっての悪」
「つまり、全ての悪と戦ってる奴が正義やろな」
先生が少しだけ目を細める
「"冗談じゃなくて――"」
先生の言葉に被せるようにおっさんが続ける
「冗談やないで」
「全員にとって、本当の正義ってのは」
「全員にとっての悪と戦ってる間しか名乗れないモンや」
おっさんは少しだけ視線を落とした
「そもそも本当の正義ってのは」
「単一では存在出来ない」
「対義語のようなもんでしかないからな」
先生は何も言わず
ただ、じっと考えている
やがて
「"それじゃ、アンラさんはSRTの閉鎖をなんとかするにはどうしたらいいと思う?"」
「あー・・・」
おっさんは少し考える
「・・・あれなぁ」
視線が、机の上に置かれたシッテムの箱へ向く
「連邦生徒会長が復帰するのが一番速いんやけどな」
「SRTが持っとった、自治区に介入出来る権限さえなければ問題ないんやけど」
「・・・・・・」
「SRTは、あれがあるから普通の学校としてやっていかすのも難しいからな」
「"そうですよねぇ・・・"」
先生も頷き、少しの沈黙が流れ
おっさんはふと思い出した
「そういや」
「結局連中はどういう処遇になったんや?」
「"あー・・・"」
先生が答える
「"カヤが来て、シャーレのほうで処分を任せてくれる事になりました。"」
「・・・・・・」
おっさんは一瞬だけ考える
(カヤのクーデターって・・・赤い空の後か)
(なら先生は知らんのか・・・)
「・・・さよかー」
おっさんは何でもないように言う
「まぁ、学籍消去の追放処分にならんでよかったやん」
「"そうですね"」
先生が頷く
「"本当にそうならなくてよかった。"」
「ほんで、アイツらはどうしたんや?」
「"あー・・・"」
先生が少し笑う
「"子うさぎ公園で、変わらずキャンプする事になりました"」
「やっぱあっこで野宿することにしたんやな」
「"うん"」
そして先生がこちらを見る
「"明日にでも、様子を見てこようと思うから"」
「"アンラさんもついてきてくれるよね?""」
「えぇ・・・」
おっさんは露骨に嫌そうな顔をする
「そろそろいい加減、アビドスに帰りたいんやけど・・・」
おっさんがそう言うと先生がお腹に手を当てる
「いたたた・・・!!」
「・・・・・・はぁ」
くっそデカいため息が出た
「いきゃーいいんやろ、いきゃー・・・」
すると先生は、すぐに演技をやめ
「はい!」
にっこりと満面の笑みを浮かべる
「ありがとうございます!」
「はぁぁ・・・・・・」
おっさんは再び深いため息を吐いた
こいつほんま、いつかしばいたろ
【子うさぎ公園】
翌日、先生と2人で公園の中を歩いていた
「しかしまぁ・・・キャンプ生活かぁ」
「大丈夫なんやろか」
「"一応、本人達は大丈夫って言ってましたけど"」
「ほーん」
そんな話をしながら歩いていると
「・・・ん?」
先生が突然、足を取られた
「"わっ!?"」
そのまま
「"うわぁっ!"」
ズサーッ
地面にヘッドスライディングしていく
「おん?」
おっさんが足元を見る
細いワイヤーと木の枝を使った簡単な仕掛けがあった
「あぁトラップやな」
「こけた所に竹やりなくてよかったな。」
「"えぇ!?"」
そんな事を言いながらおっさんはしゃがみ込み、先生の足に絡んでいた仕掛けを掴み
そして、ブチッとワイヤーを引き千切った
「ほれ」
先生を立たせる
「"ありがとうございます・・・"」
「気ぃつけや」
「ここ、連中のキャンプやからな」
「"・・・・・・"」
その時
「何だ、先生か」
声が聞こえた
振り返ると、サキが立っていた
「何か変な動きしてるから、不審者か野良犬かと思った」
「"公園に罠とかしかけたら危ないでしょ!"」
先生が叱る
「そうはいっても仕方ないだろ」
サキは平然としながら返す
「侵入者を防ぐ為には、これくらいやらないと」
「そこの足元、気を付けた方が良いよ」
別の場所からモエが声を掛ける
「地雷埋まってるから」
「"えぇ!?"」
先生が完全に固まった
「・・・・・・」
そんな話を聞いたおっさんは呆れながら
「お前さんら」
「ここがお前らの土地やない、公共の土地なん忘れとるんか?」
「ここで一般人が怪我したら、シャーレで庇う事も出来へんぞ?」
「うっ・・・」
サキが言葉に詰まる
「ちぇー・・・」
モエも拗ねる
「たったと撤去しとけよー」
そう言いながら、おっさんは先生を横抱きにする
「"え?"」
先生が驚く
「"ちょ、アンラさん!?"」
「ほな行くで」
「"わわっ!"」
そのまま地面を蹴り
空へ一気に駆け上がる
「"この抱き方辞めて欲しいって言いましたよねえぇぇぇぇぇぇ!?"」
先生の声が遠ざかる
下ではサキとモエが、ぽかんと口を開けたままこちらを見上げていた
そのまま先生を抱えて空を駆けていると目的地の
RABBIT小隊のキャンプが見えてきたので、その近くに着地する
「ほい」
先生を下ろす
「"・・・毎回思いますけど"」
「"アンラさんって、本当に人間なんですか?"」
「なんや?人間以外に見えるんか?」
「"そりゃ、人間に見えますけど・・・"」
先生は何とも言えない顔をしていた
そしてテントの近くで、話していたからか
話声が聞こえたミヤコとミユが出て来た
そしてミユがおっさんを見た瞬間
「ひっ!」
身体を震わせる
「首は絞めないでください・・・!」
「もうせぇへんよ・・・たぶん」
「たぶん!?」
ミヤコが先生へ向き直り
渋々といった様子で挨拶をしてくる
「・・・・・・おはようございます」
「"うん、おはよう"」
先生も普通に返し
ミヤコが尋ねる
「早朝から何か用ですか?」
「"何か困ってる事とかある?"」
「見ての通り、何も問題もありません」
ミヤコは胸を張る
「SRT特殊学園はキャンプ生活に慣れてますから」
「ですので、気にしなくても大丈夫です」
その瞬間
ぐぅ~~~~
そんな音が公園に響き渡る
「"・・・・・・"」
「・・・・・・」
ミヤコの顔が赤くなる
おっさんは
「ぷっ」
思わず吹き出した
「・・・・・・」
ミヤコがおっさんを睨む
「"今のって・・・"」
先生はミヤコを見る
ミヤコは顔を赤くしながらも
「・・・何も問題はありません・・・」
ぐぅ~~~~
先生がじっとミヤコを見つめる
「"・・・本当に?"」
ミヤコは観念したように答える
「水はあります・・・が、」
「逆に言うと、水しかありませんから・・・」
ミユが小さな声で続けた
「お店で買おうにも、学校の口座が停止されてしまってるので・・・」
そしてどんどん声が暗くなっていく
「私達きっと、このまま飢え死にするんだ・・・」
「"いや、そこまで悲観しなくても・・・"」
先生が困ったように言う
おっさんは腕を組みながら口を開き
「この季節なら喰える虫もおるし」
「木の若い根とか、野草も行ける奴がまだ生えとると思うんやけどなぁ・・・」
「"・・・・・・"」
先生がドン引きした顔でこちらを見る
「"アンラさん・・・"」
「おぅ」
「花の女子高生に何を薦めてるんですか・・・」
「生きるための知恵や」
「そんな知恵要りません。」
その時
「おーい!」
遠くから声がする
見ると、サキとモエが戻ってきた
どうやら地雷を撤去してきたらしい
「おー、お疲れさん」
「ちゃんと全部撤去したかー?」
ミヤコが首を傾げる
「撤去?」
「なんですか?」
おっさんが説明する
「あー、お前さんらが仕掛けとった地雷や」
「あれが一般人踏み抜いて怪我でもしてみろ」
「次はシャーレでも庇えへんからな」
ミヤコは少し考え
「確かに・・・この公園は私達の物でもないですしね」
「一般人が来ないとも限りませんか・・・」
「まぁ、そういう事や」
サキが先生達を見る
「それで、何でここに来たんだ?」
先生が答えた
「"皆が何か困ってる事が無いか聞きに来たんだよ"」
「そんで」
おっさんが続ける
「お前さんらが食うもんなくて困ってるって、さっき知った感じや」
おっさんが話してる間に先生が持ってきたカバンを開く中を漁る
ガサガサ
中から取り出したのはカップ麺だった
色々な種類のカップ麺がが人数分テーブルに置かれる
「〇清の醤油ラーメン・・・!」
モエの目が輝いた
「私の好物・・・!!」
「"他にも色々持ってきたから"」
先生が微笑む
「"一緒に食べない?"」
「ま、まぁ・・・?」
モエが視線を逸らす。
「先生がどうしてもって言うんなら?」
明らかに釣られかけている
しかし
「待ってください」
ミヤコが止めた
「簡単に受け取ってはいけません」
「追い詰められた環境において」
「重要な物資を提供するそぶりを見せ、その見返りとしてさらに大事なものを要求する・・・」
「よくある手口です」
「真意も分からない段階で受け取るわけにはいきません」
おっさんは冷静に返し
「お前さんらの大事なもんってSRTやろ?」
「そんなん、おっさんらいらんし」
「なんなら、おっさん単身でお前さんらの過半数制圧した時点で、武力面でもいらんぞ?」
「"アンラさん"」
先生がすぐに注意する
「"そんな冷たい言い方しないでください"」
「"まぁ私は特に何も求めないし"」
「"生徒が困ってるから手助けしたいだけだよ。"」
サキが鼻で笑う
「はっ」
「信じられるとでも思ったか?」
「元々作戦時は、持参したもの以外は胃に入れないなんてのは普通の事」
「安全性も保障されてない食べ物を、やすやすと口にする訳ないだろ」
先生の目が少しずつ据わっていく
そして無言でカップ麺を一つ手に取った
「・・・・・・?」
先生が徐に蓋を開ける
「なっ」
サキが慌てる
「おい!」
「食べないって言ってるだろ!?」
先生は無視しそのままお湯を注ぐ
そして、しばらく待つ
「・・・・・・」
湯気が立ち上り
醤油の香りと出汁の香り
そして麺の香りがキャンプ地に充満する
サキの口元が引きつる
「くぅっ・・・!!」
ミユが小さく呟いた
「良い匂い・・・」
「ますますお腹空いてきた・・・」
おっさんは先生を見ながら言う
「えっぐ・・・おっさんの事どうこう言えんやろ・・・」
先生がキッとおっさんを睨む
「"・・・・・・"」
「はいはい」
何も言わんとこ
「"折角だし"」
先生がRABBIT小隊へ向き直る
「"食べたら?"」
「結構です」
ミヤコが即答する
「そんな形で私達の意思を折ろうとしても無駄な事です」
「一度引っかかってしまえば先生の策略に巻き込まれ続ける事になりますし」
サキも必死に持ち直す
「た・・・た、たかがカップ麺ごときで降参してたまるか!」
見るからに虚勢だった
モエも
「ま・・・ま、まぁ」
「もっとごちそうとかで釣られるならまだしも・・・」
先生は全員が食べないことを確認し
「"そ、じゃーお先に"」
そう言うと湯を入れたカップ麺を一個取り
ズルズルズルと麺を啜りだす
麺が先生の口へ消えていく
ズズズズーッ
そんな音が静かなキャンプに響き渡り
そして香りがさらに広がる
サキとモエがじっとラーメンを見つめている
「・・・・・・」
よだれが垂れている
「いやホンマにエグイわ・・・」
おっさんは小声で呟いた
「拷問官の才能あるんやない?」
「うっ、ぐぅぅ・・・!」
モエが唸る
「滅茶苦茶いい匂いが・・・!!」
サキも頬を叩く
「ま、負けてたまるか・・・!!」
そして深呼吸
「こういう時こそ深呼吸して落ち着く!」
「薬物を使った拷問への対処法として、学園で習っただろ!」
「脳が刺激されたところで、意思が折れなければ問題ない!」
「別の方法で誤魔化すんだ!」
「うぅ、耐えないと・・・」
ミユも必死に耐える
ミヤコも拳を握って耐える
「私達は決して拷問には屈しません・・・!」
「"・・・・・・"」
先生がカバンを漁り何かを探し始める
そして温泉卵を取り出した
「・・・・・・?」
ミヤコの目が止まる
先生は何も言わず
ただカップ麺の中へ温泉卵を1つ投入した
「・・・あ・・・」
ミヤコの声が漏れた
サキも
「今の、もしかして・・・」
モエが絶望したように呟く
「この段階で卵は反則だわ・・・」
ミユも
「ううぅ・・・絶対美味しい・・・」
そして先生は
ゆっくり
温泉卵を見せつける様に割っていく
ぱかっと裂けた黄身からゆっくりと
ドロッとした濃い黄身が流れ出す
それを麺へ絡ませ、
とろり、とろりと醤油スープと黄身が混ざっていく
先生はわざと全員から見える位置でそれをやった
おっさんは絶句した
「・・・・・・」
(こいつ、ほんまにえげつないな)
「く・・・」
ミヤコが震える
「うぅ・・・」
「あそこまでされたら、もう・・・」
サキも耐えきれなくなった
「・・・・・・っ」
「我慢できない!」
先生がニヤッと笑い
そして一言
「"食べる・・・?"」
「「「「食べる!!!」」」」
4人の声が重なった
次の瞬間RABBIT小隊全員が
一斉にカップ麺へ飛びついて食べていく
おっさんはその光景を見ながら呟く
「先生って前世悪魔やったりした?」
先生はアンラのその発言を完全に無視し、
そして何事もなかったように話を続ける
「"ところでやっぱり、ヴァルキューレに行くっていう手は無し?"」
「"そのほうが少なくとも食糧問題はなくなるけど"」
「・・・・・・!」
4人の動きが止まり
ミヤコの目が鋭くなる
「やはり・・・私達の忍耐力を揺さぶった上で交渉をしようと・・・」
「本性を現したなこの下種め!」
サキが叫ぶ
「やっぱり世の中は醜いもの・・・」
ミユまで先生を睨む
「おぞましい手段使ってくるじゃん・・・」
モエも睨んでいる
ミヤコは毅然とした態度で言った
「何をされても、私達の学園に対する気持ちは変わりません」
「確かに空腹もありますし不便です。」
「それでもこうしなければ、私達の信念は守れません」
「それを差し出してまで、悠々自適な生活など要らないのです」
先生は少しだけ笑い
「"そっかー"」
そして
「"うん。じゃー、コレ渡しておくよ"」
懐から一枚のメモを取り出す
「・・・・・・?」
ミヤコへ差し出す
「・・・コレは?」
「"情けに見える形が嫌なら"」
「"これはどうかなって思ってね"」
ミヤコは警戒しながらメモを見る
「ここに行けば、何かあると?」
「何をされても心は変わらないと、既に何度も言ったはずですが・・・」
それでも少しだけ考え
「・・・分かりました」
「どういった内容かは分かりませんが、これは受け取っておきます」
メモを受け取り
そして念を押すように
「あくまで、受け取るだけです」
「"うんうん"」
先生は頷く
そしてちょうどラーメンも食べ終わったらしい
「"じゃ、そろそろ私達は帰るね"」
そう言って立ち上がり
そして先生はさりげなく
カバンをキャンプの隅へと置いた
「・・・・・・」
最初からそのつもりやったんやな
先生とおっさんは、そのままテントを出ていった
公園を出てしばらく2人で歩き
おっさんは、ふと気になって先生へ聞いた
「ほんで、あの紙、なんやったんや?」
「"あー、あれはですね?"」
先生が振り返る
「"あれ、シャーレの一階にあるコンビニの住所"」
「あー」
おっさんも思い出す
「あのソラちゃんの?」
先生が頷く
「"そう。"」
「"ソラちゃんが、最近廃棄品の処理に困ってるようだったからね"」
「"丁度いいかなーって思ってね"」
「まぁ」
おっさんも納得する
「食料無駄に捨てるに比べたら、数兆倍マシだわな」
「"うん。"」
それだけ言って
2人はそのままシャーレビルへ向かって歩いていく
朝の街には、いつもの喧騒が戻り始めていた
「そういや先生」
「"ん?"」
「おっさんの書類、まだ残っとるんやけど」
先生が前を向いたまま答える
「"帰ったらお願いしますね"」
「・・・・・・はいはい」
おっさんは肩を落とす
まだアビドスには帰れないようだった
今回の更新はちょっと短め!
次の話を書くのにちょっと仕事の関係で間隔があきそうだったので、
今日の空き時間に急いで執筆しました!
本編解説!!
と言いたい所ですが、
今回の本編はなんだったら後日談よりも平和な感じなので・・・
まぁとりあえず、次のお話の予告でもしましょうかね!
次の話は、
ユメちゃんがキレてアンラを奪還しにシャーレにホシノ同伴(先輩命令による強制招集)で凸って来て、アンラを連れてアビドスに戻った後からの先生視点のお話になります!
あ、ちなみにもちろんホシノはすっごい嫌そうな顔で、
尚且つ先生に申し訳ないという感じでユメの後ろから平謝りしてました。