おっさんキヴォトスに行く   作:無い頭のおっさん

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さぁ始まりましたエデン条約四章
そして、先に言っておくと、
久しぶりに今日のセイアが復活しております。
ただし、本編の内容にがっつり関わってくる今日のセイアなので、
出来れば後書きは今日のセイヤだけでも読んで頂けると幸いです。

あ、あと今回の本文は2万2000文字と莫大です。
しかも後書きの今日のセイアですら、4000文字とあります・・・

時間がかなりある時に読む事をお勧めします。


エデン条約編、四章
おっさんセイアを叱る


【トリニティ総合学園】

 

白を基調とした美しい校舎が立ち並び、整然と手入れされた庭園には、

色とりどりの花々が咲き誇っている

石畳の道は綺麗に掃き清められ、噴水からは涼やかな水音が聞こえてくる

 

「・・・・・・ほぉ。」

 

おっさんは、目の前に広がる景色を眺めながら感心したように声を漏らした

 

「相変わらず、見た目だけはええとこやなぁ。」

 

「"見た目だけ・・・でも確かに綺麗なところですよね。"」

 

おっさんが呟いた一言に先生が何処か引っかかりつつも、

穏やかな笑みを浮かべている

 

今日は、ナギサから先生へ直接の呼び出しがあった

その護衛として、おっさんも同行することになったわけや

 

・・・・・・まぁ今回ばかりは、特に断る理由もない

 

いや、むしろ

断る理由がないどころか、積極的に付き合うべき案件やった

何せ、これから始まるのはエデン条約編の第四章

つまり、アリウスに関わる一連の出来事の始まりや

 

これから先生が何を頼まれ、誰と会い、どんな問題に直面するのか

大まかな流れは、頭の中に入っとる

もちろん、知識として知っとることと、目の前で実際に起きることは別物やし

これまでの出来事を考えれば、筋書き通りに進む保証なんぞ、どこにもない

 

せやけど、今回は

少なくとも、先生を一人で行かせるわけにはいかん

あのクソみたいなチョーカーにかけてあった呪いについて、

あのカスに聞かんといけんしな・・・

 

 

「・・・先生。」

 

「"はい?"」

 

「今回の話、おっさんはナギサとの面談には参加せんでええやろ?」

 

先生は、少しだけ不思議そうに振り返った

 

「"え? 護衛として来ていただいたんですから、一緒にいてもらっても大丈夫ですよ?"」

 

「いやいや。」

 

おっさんは、軽く手を振った

 

「今回の話は、ティーパーティーの政治ががっつり絡むんやろ?」

 

「"まぁ・・・そうですね。"」

 

「おっさんはアビドス側の人間や。」

「そんな立場の奴が、ティーパーティーの政治的な話に同席するんは、」

「あんまりよろしくないやろ。」

 

先生は少し考え込んだ

 

「"・・・確かに、そうかもしれません。"」

 

「せやろ?」

 

「"でも、護衛としては・・・"」

 

「先生の身に何かあったら、その時は動くわ。」

 

おっさんは、いつもの調子で笑った

 

「せやから、面談中は談話室か応接室で待たせてもらうで。」

 

「"・・・分かりました。では、面談が終わったら迎えに行きますね。"」

 

「おう。ゆっくり話してき。」

 

先生は、少しだけ表情を和らげた

 

「"・・・ありがとうございます"」

 

「礼を言われるようなことでもあらへんよ。」

 

そもそも、護衛として呼ばれたんはおっさん自身やし

先生の安全を確保するのが仕事なら、政治的な話にまで口を挟む必要はない

 

「"それじゃあ、行ってきます。"」

 

「おう。いってらっしゃい。」

 

ティーパーティーの執務室がある建物へ辿り着く

先生は扉の前で足を止め、軽くノックした

 

コン、コン

 

「どうぞ。」

 

扉の向こうから、ナギサの声が返ってくる

 

「"失礼します。"」

 

先生が扉を開け、室内へ入っていく

おっさんは、その背中を見送ってから、ゆっくりと踵を返した

 

さて、政治の話は、先生とナギサに任せるとしよう

おっさんは、案内された談話室へ向かうことにした

 

 

 

 

 

【トリニティ総合学園・談話室】

 

先生がナギサと話しとる間、おっさんは何をしとったかと言うと

 

「・・・んー」

 

大きな窓から庭園を眺められる、上品な談話室

その中に置かれた、座り心地の良さそうなソファ

 

おっさんは、そこへどっかりと腰を下ろしていた

 

テーブルの上には、陶器のティーカップと紅茶のポット

その横には、綺麗に焼き上げられたクッキーが盛られた皿が置かれている

 

表面に細かな砂糖がまぶされたもの

 

バターの香りが濃厚なもの

 

ナッツが練り込まれた、少し香ばしいもの

 

どれもこれも、明らかに高級品だった

 

「・・・・・・お。」

 

おっさんは、さっそくティーカップを手に取った

紅茶の香りが、ふわりと鼻をくすぐる

 

一口

 

「・・・ん。」

 

美味い

流石紅茶バカ(ナギサ)が居る学校は違う

 

次に、テーブルの上のクッキーへ手を伸ばす

 

一枚

 

「・・・・・・ぼりぼり。」

 

二枚

 

「・・・・・・ぼりぼり。」

 

そして、紅茶を一口

 

「・・・・・・うま。」

 

おっさんは、満足げに頷いた

 

やっぱトリニティの高級茶菓子はうまいなぁ・・・

 

「・・・・・・ん。」

 

もう一枚

 

「・・・・・・ぼりぼり。」

 

紅茶を一口

 

うん、香りがええ

 

口当たりも滑らかやし、クッキーとの相性も抜群や

 

「・・・・・・」

 

おっさんは、満足げに背もたれへ身体を預けた

 

ほんま、こういう時間が一番ええわ

 

余計な仕事も

 

厄介な事件も

 

面倒くさい政治の話も

 

何も考えずに、ただ茶しばいて菓子を食う

 

最高やな

 

 

 

・・・まぁ、この後アリウス絡みの面倒ごとが始まるんやけどな

 

 

 

「・・・・・・」

 

おっさんは、窓の外へ目を向けた

 

整えられた庭園

 

穏やかな日差し

 

静かな風

 

鳥の声まで聞こえてくる

 

まるで、これから起きる騒動なんぞ存在しないかのような景色やった

 

・・・・・・さて、明日の聴聞会

ミカは、出席するんやろか

 

おっさんの知っとる原作では、先生が説得して出席する流れやったはずやが

ただ、今のミカがどれほど思い詰めとるかは、実際に会ってみな分からんしな

 

それに、ナギサもおそらく相当な苦労をしとるやろうし

 

ティーパーティーの立場

 

学園内の世論

 

調印式での事件

 

その後始末

 

・・・まぁ、その辺りはナギサが考えることや

おっさんは先生の護衛としてついてきただけ

 

余計な口を挟むつもりはない

 

「・・・ん。」

 

おっさんは、もう一枚クッキーを摘まんだ

 

「・・・・・・ぼりぼり。」

 

・・・・・・うん

 

うまい、ほんまにうまい

 

いやぁ、ええなぁ

こうして座っとるだけで、お茶と茶菓子が出てくる

トリニティの上層部も、なかなか分かっとるやないか

 

「・・・・・・」

 

おっさんは、紅茶を飲みながら、ゆっくりと目を閉じた

しばらくは、のんびりさせてもらおう

 

 

 

 

・

 

・

 

・

 

 

 

 

どれくらい時間が経ったやろか

 

カチャリ

 

談話室の扉が開いた

 

「"・・・お待たせしました、アンラさん。"」

 

先生が戻ってきた

 

「おう。」

 

おっさんは、口の中のクッキーを飲み込む

 

「話は終わったんか?」

 

「"はい。"」

 

先生は、向かい側のソファへ腰掛けた

その表情には、少しだけ疲れが見える

 

おっさんは、ティーカップを置いた

 

「・・・どうやった?」

 

先生は、一度小さく息を吐いてから口を開いた

 

「"ナギサからの依頼は、ミカを明日の聴聞会に出席させることでした。"」

 

「ほーん。」

 

おっさんは、さして驚かずに相槌を打つ

 

「明日、聴聞会やろ?」

 

「"はい。"」

 

「で、ミカは出たがらへん、と」

 

「"そうなんです。"」

 

先生は、膝の上で手を組んだ

 

「"ナギサも、ミカを弁護するつもりみたいで、"」

「"でもミカ自身が聴聞会への出席を拒んでいるそうで・・・"」

 

「ほーん。」

 

おっさんは、もう一度、軽く頷いた

 

「ナギサが説得しても、あかんかったんか。」

 

「"はい。何度か話をしたそうですが、どうしても応じてくれなかったみたいです。"」

 

「まぁ、そうなるやろなぁ。」

 

「"・・・アンラさんは、驚かないんですね?"」

 

先生が、少しだけ首を傾げた

 

「ん?」

 

「"ミカが聴聞会を欠席しようとしていることです。"」

 

「まぁ、そらな。」

 

おっさんは、残っていたクッキーを一枚摘まんだ

 

「元々【知っとる事】やしな。」

 

「"・・・やっぱりそうなんですね。"」

 

先生は、ため息を付きこちらをジトっとした目で見る

おっさんは、紅茶を一口飲みその視線を無視する

 

まぁ、ここまでは原作通り

ナギサが先生に協力を求め

先生がミカのところへ向かう

 

そして、ミカ自身の口から、今の気持ちを聞く

ここまでは、知っとる流れ

 

「おっさんを見ても答えは出て来んし、さっさとミカんところ行くで」

 

おっさんが立ち上がる

 

先生も頷いた

 

「"・・・はぁ。そうですね、ミカのところへ行きましょう。"」

 

おっさんは、ティーカップを手に取り、最後の一口を飲み干した

 

「・・・ごちそうさん。」

 

「"・・・私がナギサの所で胃を痛くしてた間に随分くつろいでいたみたいですね。"」

 

「そら、こんなうまい茶菓子出されたら、くつろぐやろ。」

 

先生が小さくため息を付く

 

「ま、そないなんはどうでもええさかい。ぱっぱと行こか。」

 

そのまま、おっさんは先生と共に談話室を出た

 

 

 

 

 

 

【トリニティ総合学園・要人用拘禁棟前】

 

しばらく歩くと二人の耳に、騒がしい声が届いてきた

 

「・・・ん?」

 

おっさんは足を止めた

先生も、声のする方へ目を向ける

 

そこには、一つの広場があった

 

そしてその広場を埋め尽くすように集まった、生徒達の姿

 

「セイア様を害そうとした裏切者を引きずり出せ!!」

 

「アリウスと手を組んでエデン条約を台無しにした罪人が、」

「ティーパーティーだなんて許せません!!」

 

「罪人には罰を!!断罪を!!」

 

「私達を騙した代償を払わせろ!!」

 

怒号

 

罵声

 

激しい抗議の声

 

生徒達は手に持った紙や簡易的なプラカードを掲げ、拘禁棟の方へ向かって声を張り上げていた

まるで、小規模なデモ活動のような光景だった

 

その周囲では、正義実現委員会の生徒達が列を作り、

必死に群衆を抑え込もうとしている

 

「み、みなさん!!」

 

一人の正義実現委員会の生徒が、声を張り上げた

 

「この線の中に入らないでください!!こちらは立ち入り禁止区域です!!」

 

「そんなこと知るか!!」

 

「裏切者に罰を!!」

 

「私達を騙した代償を!!」

 

「セイア様を害そうとした罪人を、いつまで匿っているつもりですか!!」

 

「お、落ち着いてください!!」

 

正義実現委員会の生徒が、必死に両手を広げる

 

「現在、正式な手続きが進められています!皆さんは、どうか冷静に――」

 

「冷静でいられるわけがないでしょう!!」

 

「そうです!!」

 

「エデン条約を壊したのは誰ですか!!」

 

「ティーパーティーは責任を取るべきです!!」

 

「罪人には相応の罰を!!」

 

声が重なり、ざわめきが広がっていく

 

先生は、その光景を見て

思わず顔を引きつらせた

 

「"・・・凄い空気だなぁ"」

 

「まぁ。」

 

おっさんは、群衆を眺めながら答えた

 

「叩いてええ奴を見つけて、調子乗っとるだけやろ。」

 

「"・・・アンラさん。"」

 

「何や。」

 

「"相手は生徒なんですから、もう少し言い方がありませんか?"」

 

「いや、実際トリカスはそんなもんやろ。」

 

おっさんは肩をすくめた

事情を全部知っとるわけでもない連中が、誰かを悪者にして、声を揃えて石を投げとる

 

もちろん、何が起きたか分からん連中が不安になるのは当然だが

 

自分達が信じていたものが崩れた

大切にしていた学園の象徴が傷つけられた

その責任を誰かに求めたくなる気持ちも、分からんではない

 

せやけど

 

「正義を叫ぶんと、正義を成すんは別もんや。」

 

ぽつりと呟く

 

先生は、少しだけ黙った

 

群衆の中には、本当に怒っている生徒もいるだろう

不安を感じている者

裏切られたと思っている者

 

そして

 

ただ周囲の怒りに同調している者

 

様々な感情が、あの広場には混ざっている

 

その時

 

「み、皆さん!!下がってください!!」

 

正義実現委員会の生徒が、再び大きな声を張り上げた

 

「これ以上は危険です!!」

 

「危険なのは裏切者を放置していることです!!」

 

「そうだ!!」

 

「ミカを出せ!!」

 

「罪人に罰を!!」

 

先生は、困ったように眉を下げた

 

「"・・・あの中を通るんですか?"」

 

「いや。」

 

おっさんは、騒ぎの端に立つ正義実現委員会の生徒へ目を向けた

 

「ちょい待っとき。」

 

そう言って、群衆から少し離れた場所にいる生徒へ近づく

 

「おーい。」

 

「・・・・・・え?」

 

振り返った生徒が、おっさんの姿を確認して目を丸くした

 

「あ、あの・・・・・・何か?」

 

「ミカの面会に来たんやけどな。」

 

おっさんは、先生の方を指差す

 

「先生も一緒や。通してもらえるか?」

 

「せ、先生!?」

 

正義実現委員会の生徒は、慌てて背筋を伸ばした

 

「し、失礼しました!!」

 

先生が近づく

 

「"ミカに会いに来たんだけど、面会許可の連絡は来てる?"」

 

「は、はい!ナギサ様から連絡を受けています!こちらへどうぞ!」

 

生徒は周囲の様子を確認しながら、先生とおっさんを建物の入口へ案内した

 

背後では、まだ抗議の声が続いている

 

「裏切者に罰を!!」

 

「私達を騙した代償を!!」

 

先生は、一度だけ振り返った

その表情には、複雑なものが浮かんでいる

 

「"・・・・・・"」

 

おっさんは、そんな先生を横目で見た

 

「気にせんでええ」

「今は、ミカの話を聞いたるんが先や。」

 

「"・・・・・・はい"」

 

先生は、小さく頷いた

二人は正義実現委員会の生徒に続いて、建物の中へ入っていった

 

 

 

 

【要人用拘禁棟・ミカ収容室】

 

建物の中は、外の騒がしさが嘘のように静かだった

廊下には正義実現委員会の生徒が配置されている

 

壁には高級感のある装飾

 

床には柔らかな絨毯

 

扉の一つ一つには厳重な鍵が取り付けられ、

要所には正義実現委員会の生徒が立っていた

 

案内された先にあったのは、鉄格子が備え付けられた豪華な一室

 

「"・・・・・・"」

 

案内をしている正義実現委員会の生徒が、ある部屋の前で立ち止まる

 

「ミカ様はこちらに収容されています。」

 

「えっらい豪華な場所におるんやな・・・」

 

おっさんが周りを見ながら言う

 

案内をしている正義実現委員会の生徒が答えた

 

「要人用の拘禁室ですので、最低限の生活環境は整えられています。」

 

「・・・・・・最低限、ねぇ。」

 

調度品は上等

家具はどれも美しく、寝具も高級そうなものが揃っている

窓には頑丈な鉄格子

扉にも厳重な鍵

 

檻というには、妙に豪華な部屋だった

 

「まぁ、ゴリラの檻の割にはええ部屋やな。」

 

先生が苦笑する

 

「"アンラさん・・・そういう言い方は、ちょっと・・・"」

 

「事実やろ。」

 

「"もう・・・"」

 

案内の生徒が、扉の鍵を開ける

 

「それでは、どうぞ。私は外で待機しておりますので、何かありましたらお声がけください。」

 

「"ありがとう。"」

 

先生が礼を言うと、生徒は一礼し、扉の脇へ下がった

先生とおっさんは、室内へ足を踏み入れる

 

 

 

部屋の奥

 

鉄格子の嵌まった窓の近くに、一人の少女が座っていた

 

ピンクの髪

 

アクセサリーが付いた大きな翼

 

そして、どこか疲れたような静かな横顔

 

聖園ミカ

 

彼女は目を閉じていた

両手を膝の上へ置き、まるで祈るようにじっと何かに耳を傾けている

 

「"・・・・・・ミカ?"」

 

先生が、ミカを呼ぶ

 

しかし、返事はない

先生は、少しだけ首を傾げた

 

普段のミカなら、先生の声を聞いた瞬間に勢いよく振り返ってくるはずだ

それなのに今は、目を閉じたまま微動だにしない

 

「"・・・・・・?"」

 

先生が、ゆっくりと近づこうとした

その時ミカがこちらに振り返り、すっと人差し指を自分の唇へ当てた

 

「・・・・・・」

 

そして、小さく

 

しーっ

 

そんな仕草を見せた

 

先生が足を止める

ミカは目を閉じたまま、指を唇に当てている

 

その表情は、どこか穏やかだった

 

おっさんも、そこでようやく耳を澄ませる

 

・・・・・・微かに、音楽が聞こえとる

 

とても小さな音、けれど静かな室内だからこそ、はっきりと耳に届く

 

厳かで

 

静謐で

 

どこか悲しげな旋律

 

先生も、そこで初めて音楽に気づいたらしい

 

「"・・・・・・あ。"」

 

小さく声を漏らし、耳を傾けた

おっさんは、旋律を聞きながら、ぽつりと呟く

 

「・・・キリエやな。」

 

「・・・キリエ?」

 

先生が、小声で聞き返す

 

「せや。キリエ・エレイソン。」

 

「・・・知ってるんですか?」

 

「まぁ、ちょっとな。」

 

それ以上は説明せんかった

以前、トリニティで活動するために、グレゴリーとして身分を整えた際

おっさんは、司祭としての資格まで用意した

その過程で、聖職者として必要な知識や作法も身につけている

その中に、こういった礼拝の音楽もあった

 

・・・・・・主よ、憐れみたまえ

 

そういう意味を持つ祈りの言葉

今のミカが、それを聞いとるというのも、なかなか皮肉な話だった

 

「・・・・・・」

 

旋律が、静かに流れていく

 

ミカは目を閉じたまま、指を唇に当てている

その横顔には、先ほどまでの騒ぎも、拘禁されていることへの不満も、何も感じられなかった

 

ただ、静かに音楽を聞いていた

 

やがて、最後の旋律が、ゆっくりと消えていく

 

音が途切れ

 

室内に静寂が戻った

 

ミカは、ゆっくりと目を開けた

そして先生とおっさんの方へ振り返る

 

「・・・お待たせ。」

 

少し困ったような

けれど、柔らかな笑顔

 

「礼拝の時間だったの。今日は讃美歌を聞く日。」

 

ミカは、窓の外へ視線を向けた

鉄格子の向こうには、静かな庭園が見える

 

「ここでも礼拝だけは必ず参加しなくちゃいけないなんて、ちょっと過酷じゃない?」

 

そう言って、肩をすくめる

 

「こういうところくらいは、大目に見てくれてもいいのにね。」

 

先生は、微笑んだ

 

「"でも、良い曲だね。"」

 

ミカは、少しだけ目を丸くする

 

「そうかな?」

 

「"うん。静かで、綺麗な曲だった。"」

 

「・・・聞いてて退屈じゃなかった?」

 

ミカは、少し困ったように笑った

 

「ご慈悲を、とか。憐れみたまえ、とか・・・」

 

そして、小さく呟く

 

「Kyrie eleison・・・なんて名前も、あんまり気に入らないんだよね。」

「どうして、見えもしない存在にすがらなきゃいけないの?」

 

ミカは、窓の外を見つめたまま続ける

 

「憐れみたまえ、だなんて口にしたところで、悲惨なだけじゃん。」

 

少しだけ、表情が曇る

 

「そんなの、自分にも、他人にもするものじゃないよ。」

 

それから

 

すぐに、いつもの明るさを取り戻すように微笑んだ

 

「でも、歌は好きだよ!」

 

先生が、優しく笑う

ミカは少しだけ身を乗り出した

 

「あ、そうだ。先生。」

 

「"うん?"」

 

「私の歌、聞いたこと無いよね?」

 

「"え?うん、そうだね。"」

 

「本来なら、タダで聞かせるものじゃないんだけど・・・」

 

ミカは、わざとらしく頬へ指を当てる

 

「先生なら特別っていうか。」

 

「"・・・え?"」

 

「こうやって、わざわざ会いに来てくれたし!」

 

その顔に、少しだけ悪戯っぽい笑みが戻った

 

「塔に幽閉されたお姫様が、運命の人にセレナーデを歌うの。」

 

「"・・・・・・"」

 

「どう?物語のワンシーンみたいでしょ!」

 

先生は、何とも言えない顔で苦笑した

 

「"・・・塔じゃなくて、ここ檻だけどね。"」

 

「うっ」

 

ミカが、少しだけ口を尖らせる

その横で、おっさんは部屋を見回した

 

「まぁ、檻の割には調度品クッソ豪華やけどな、ここ。」

 

「・・・え?」

 

そこで、ミカが初めておっさんの存在に気づいたように目を向けた

 

「あ・・・・・・」

 

一瞬、目が合う

 

「・・・あなたもいたんだ。」

 

「おう。」

 

「また、その汚いローブ着てるの?」

 

「・・・・・・」

 

ミカは、おっさんの服装を上から下まで眺める

 

「ま、前の胡散臭い神父の格好よりは、そっちの方がまだマシだけど。」

 

「お前さん、ほんま口が減らんなぁ。」

 

「ふふん。褒め言葉として受け取っておくね。」

 

「褒めてへんわ。」

 

先生が、二人を見て苦笑する

 

「"・・・二人とも、相変わらずだね。"」

 

「いや、先生。」

 

おっさんは肩をすくめた

 

「こいつが先に喧嘩売ってきたんやで。」

 

「売ってないよ?ただ、率直な感想を言っただけ。」

 

「それを喧嘩売っとる言うんや。」

 

ミカは、楽しそうに笑った

しかし、その笑顔はすぐに静かに消えていった

 

ミカは先生へ視線を戻す

 

「・・・それで、先生」

 

声が少しだけ落ち着く

 

「今日は、どうしたの?」

 

先生は、ミカの方へ向き直った。

 

「"ミカが、明日の聴聞会を欠席するって聞いたから"」

 

「・・・・・・」

 

「"ナギサが心配してるよ。"」

 

その言葉を聞いた瞬間

ミカの表情が、ほんの少しだけ固まった

 

「・・・・・・」

 

しばらく沈黙し

 

そして

 

「・・・・・・ナギちゃんは、元気?」

 

先生は頷いた

 

「"うん。元気だったよ。"」

 

「・・・そっか」

 

ミカは、少しだけ安心したように微笑んだ

 

「・・・良かった。」

 

そのまま、先生の顔を見つめる

 

「多分、ナギちゃんの傍にシスターフッドと救護騎士団の団長が一緒にいたでしょ?」

 

「"うん。いたよ。"」

 

ミカは、やっぱり、と小さく呟いた

 

「・・・そっか。」

 

彼女は、少しだけ困ったように笑う

 

「ティーパーティーの立場が危うくなればなるほど、他の勢力が幅を利かせるようになる。」

「ここまで直接的に、ティーパーティーを牽制するとは思わなかったけど・・・」

 

ミカは、少しだけ目を伏せた

 

「ナギちゃんのストレス、酷そうだね。」

 

先生は、小さく頷いた

 

「"・・・そうだね。"」

 

それから、ふと思い出したように、窓の外を見た

 

「"そういえば、ここへ来る途中で、広場に集まっている生徒達を見たよ。"」

 

ミカは、ぎこちなく笑った

 

「あー・・・・・・うん。」

「そっか。」

 

彼女は、窓の外へ目を向けた

鉄格子の向こう遠くからでも、まだ抗議の声が微かに聞こえてくる

 

「・・・まぁ。」

 

ミカは、自嘲するように笑った

 

「今の私の立場は、見た通りだよね。」

 

「"ミカ・・・"」

 

「仕方ないよ。」

 

彼女は、ゆっくりと続けた

 

「ナギちゃんは、私が聴聞会に出席すれば、」

「すべてが丸く収まると思っているみたいだけど・・・」

 

「トリニティは、そんなに甘くない。」

 

室内に、静かな声が落ちる

 

「・・・私の一件と、調印式での事件以来、」

「ティーパーティーの権威は、地に落ちた。」

 

ミカは、両手を膝の上に置いた

 

「学園内の世論も。」

 

「政治的な立場も。」

 

「・・・・・・当然だよね。」

 

少しだけ、ミカの笑みが歪む

 

「私が、あんなことをしちゃったんだから。」

 

先生は、黙って聞いていた

 

「そんなボロボロの状態で、ナギちゃんが私を庇えば庇うほど・・・」

 

ミカは、自分の指先を見つめる

 

「ティーパーティーとして、ナギちゃんはおろか、セイアちゃんの立場すら危うくなっちゃう。」

 

「"・・・・・・"」

 

「私なんかのために、そうなってほしくないんだ。」

 

そして静かに

 

言った

 

「これは全部、私が払わなきゃいけない代償だから。」

 

先生は、少しだけ眉を下げた

 

「"・・・でも。"」

 

ミカが顔を上げる

 

「"それだと、ミカは退学になるかもしれないんだよ?"」

 

「・・・・・・」

 

「"それに・・・"」

 

先生は、窓の外へ視線を向ける

 

「"こんな仕打ちまで受けて。"」

 

そして、もう一度ミカの方を見る

 

「"もう十分、代償は払ってたんじゃない?"」

 

ミカは、その言葉を聞いて、辛そうな笑顔を浮かべ

 

「・・・・・・で、でも。」

 

言い淀む

 

「それでも・・・」

 

唇を噛みしめ

 

「・・・・・・私のせいだから」

 

先生は、何も言わずに待った

ミカは、俯いたまま続ける

 

「ナギちゃんと一緒に集めた、思い出が詰まった大切な宝物は・・・・・・」

 

「燃えちゃったみたいだけど。」

 

声が、少しだけ震える

 

「私は、それでも許されない。」

 

「セイアちゃんにも、まだ恨まれたままで・・・」

 

そこで、ミカはぎゅっと両手を握った

 

「・・・私は。」

 

「まだ、セイアちゃんにちゃんと謝れてない。」

 

先生は、ゆっくりと首を横に振った

 

「"セイアは、ミカを恨んでないよ。"」

 

「・・・え?」

 

「"私が保証する。"」

 

ミカが目を見開く

 

先生は、少しだけ笑った

 

「"なんせ、凄く悠々自適にアビドスで生活してたんだよ?"」

 

そして、先生はおっさんへ視線を向けた

 

「"ね?アンラさん?"」

 

「・・・んあ?」

 

突然話を振られたおっさんは、少しだけ目を瞬かせた

 

「あー・・・」

 

顎を掻く

 

「まぁ、書類仕事して、飯食って寝て。」

「仕事して、飯食って寝て。」

「・・・そんな生活やったな。」

 

ミカが、ぽかんとする

 

「・・・・・・え?」

 

先生は、少しだけ困ったように笑った

 

「"・・・・・・それ、私達の生活と変わらないんじゃ・・・・・・"」

 

「まぁ、シャーレも祈願屋も似たようなもんやしな。」

 

「"・・・・・・"」

 

「せやけど、セイアは別に恨んどる様子もなかったで。」

 

おっさんは、軽く肩をすくめた

 

「普通に仕事して、飯食って、寝とった。」

 

「・・・・・・」

 

ミカは、ゆっくりと首を横に振った

 

「ち、違う・・・!」

 

その声には、明らかな焦りがあった

 

「そんなわけない・・・!」

 

先生が、少しだけ目を見開く

ミカは、言葉を詰まらせながら続けた

 

「・・・だって」

「何度も、謝ろうとしたんだよ」

 

「でも、ダメだった。」

 

彼女は俯く

 

「この間、会った時だって・・・」

「謝ろうと思って、声を掛けたんだけど・・・」

 

ミカの表情が、苦しげに歪む

 

「体調がすぐれないからって、すぐ部屋に戻っちゃって・・・」

「・・・私のこと、避けてるんだと思った。」

 

その言葉を聞いた瞬間

おっさんは、ぴたりと動きを止めた

 

「・・・あん?」

 

ミカが顔を上げる

 

「・・・セイアが?」

 

「・・・うん。」

 

おっさんは、思わず聞き返した

 

「体調がすぐれん・・・?」

 

「・・・そうだよ。」

 

ミカは、弱々しく頷いた

 

「この間、会いに行った時も、具合が悪いからって・・・すぐに部屋へ戻っちゃって。」

 

「・・・・・・」

 

おっさんは、眉をひそめた

 

いや、待て

セイアの体調が悪い?

・・・何や、それ

 

「・・・いや。」

 

おっさんは、少し考え込んでから口を開いた

 

「今のアイツ、体調は改善しとったはずやろ。」

 

ミカは、困ったように笑った

 

「・・・うん。」

「昔は身体が弱くて、入院したりもしてたけど・・・」

「最近は、そんなことも無かったのに。」

 

ミカは、ゆっくりと目を伏せる

 

「・・・やっぱり。」

 

「"・・・・・・?"」

 

「私が襲わせたことで、どこか悪くしちゃったのかな・・・」

 

その言葉に、おっさんは眉間へ皺を寄せた

 

・・・・・・いや

 

おかしい

 

セイアは、アビドスで過ごしてた時は、体調不良なんぞなかった

 

もちろん、元々身体が弱かったことは知っとる

せやけど、ミカとナギサに殴られても死なない様に鍛えたのもあって

トリニティからこっちに来た時よりも元気になって帰って行ったはずやった

 

それが、いつの間に・・・

 

先生も、少し考えるように口元へ手を当てた

 

「"・・・そういえば"」

 

ミカが先生を見る

 

「"ナギサも、今のセイアは体調が悪くて、部屋から出られていないって言ってたね。"」

 

「・・・・・・」

 

ミカの顔が、青ざめる

 

「・・・やっぱり、そうなんだ。」

 

「"ミカ・・・"」

 

「じゃあ・・・」

 

ミカは、力なく笑った

 

「やっぱり、私は許されてないんだと思う。」

 

おっさんは、その言葉を聞いて小さく息を吐いた

 

「あー・・・」

 

「"・・・アンラさん?"」

 

「まぁ、多分それは・・・百パー無い。」

 

ミカが、目を丸くする

 

「・・・え?」

 

「言い切れる。」

 

おっさんは、腕を組んだ

 

「せやけど、その理由をおっさんが言うのは・・・筋が違うからな。」

 

ミカは、困惑したように首を傾げる

 

「・・・・・・筋?」

 

「そこはセイアから直接聞いて欲しい。」

 

「・・・・・・」

 

「まぁ、もしアイツが言わんかったら。」

 

おっさんは、にやりと笑った

 

「最悪、先生経由でおっさんに言えば、アビドス式尋問術で吐かせたるわ。」*1*2

 

「・・・・・・」

 

ミカが、少しだけ固まった

先生は、苦笑いを浮かべる

 

「"・・・アンラさん"」

 

「何や。」

 

「"そういう物騒な言い方は、やめてください。"」

 

「いや、冗談やがな。」

 

「本当に?」

 

「・・・まぁ、半分くらいは。」

 

「"アンラさん!"」

 

おっさんは、はっはっは、と笑った

ミカは、そんな二人を見て、ほんの少しだけ表情を緩めた

 

しかし、その笑みはすぐに消えた

 

「・・・ありがとう。」

 

ミカは、静かに言った

 

「でもね。」

 

先生が、彼女を見る

 

「セイアちゃんが私を恨むのは・・・別に、構わないんだ。」

 

「だって。」

 

ミカは、目を伏せた

 

「私はまだ、セイアちゃんにちゃんと【ごめんね】って言えてないから。」

 

その声は、少しだけ震えていた

 

「そんな状態で・・・私のせいで、セイアちゃんの体調がもっと悪くなって。」

「セイアちゃんが、無理をしてしまったら・・・」

 

ミカは、ぎゅっと自分の胸元を握った

 

「私は・・・・・・」

 

唇が震える

 

「自分のことを、絶対に許せないと思う。」

 

先生は、まっすぐミカを見つめた

 

そして優しく

それでいて、はっきりと

 

「"・・・私、セイアに会ってみるよ。"」

 

「・・・・・・え?」

 

ミカが顔を上げる

 

「せ、先生が・・・・・・?」

 

「"うん。"」

 

先生は、頷いた

 

「"ミカがセイアに、ちゃんと【ごめんね】って言えるように。"」

 

「・・・・・・」

 

ミカの目が、大きく見開かれた

先生は、そのまま言葉を続ける

 

「"そうしたら・・・"」

 

少しだけ笑う

 

「"私とナギサ、セイア、ミカの皆で一緒に、明日の聴聞会に出席しよう!"」

 

「・・・・・・」

 

ミカは、しばらく何も言えなかった

その表情には、嬉しさと困惑、そしてどうしようもない不安が一度に浮かんでいた

 

「・・・・・・ちょ、ちょっと待って。」

 

声が、少しだけ裏返る

 

「どうして、そんな・・・」

 

先生は、微笑んだまま彼女を見ている

 

「わ、私に・・・」

 

ミカは、ぎゅっと唇を噛んだ

 

「私に、そこまでする価値・・・・・・あるかな・・・・・・?」

 

その瞬間

目から、一筋の雫が零れ落ちた

 

「・・・・・・」

 

ミカは、慌てて顔を伏せる

 

けれど

 

もう、止まらなかった

ぽろぽろと頬を伝って、涙が落ちていく

 

「・・・・・・私」

 

声が震える

 

「二度と泣かないって・・・・・・」

「誓ったのに・・・・・・」

 

ミカは、両手で顔を覆った

 

「どうして・・・」

 

嗚咽が漏れる

 

「どうして・・・・・・そんなこと、言っちゃうの・・・・・・」

 

涙が、ぽたぽたと指の隙間から落ちていく

 

先生は、すぐに駆け寄ったりはしなかった

ただ、ミカが自分の気持ちを整理できるように

 

静かにそこにいた

 

おっさんも、何も言わなかった

普段なら、何か茶化す言葉の一つでも出てくるところやろう

 

けど今は、そんな場面やない

 

ミカが泣いている

それは、今まで溜め込んできたものが、

ほんの少しだけ外へ出てきたということなのかもしれん

 

やがてミカは、ゆっくりと顔を上げた

 

涙を手で拭い

 

鼻をすすり

 

それでも先生を見て、小さく頷いた

 

「・・・うん。」

「分かった。」

 

その声は、まだ震えていた

けれど、確かな意思があった

 

「そこまで言うなら・・・」

 

ミカは、もう一度頷く

 

「皆と一緒に、聴聞会に行く。」

 

先生の顔が、ぱっと明るくなる

 

「"うん!"」

「"決断してくれて、ありがとう、ミカ!"」

 

ミカは、少しだけ笑った

目元には、まだ涙が残っている

 

「・・・正直。」

 

「"・・・・・・?"」

 

「二度目のチャンスなんて、無いと思ってた。」

 

彼女は、窓の外を見つめる

鉄格子の向こう

 

遠くの空

 

その先に何があるのか

今のミカには、分からない

 

「・・・でも。」

 

小さく呟く

 

「これが運命なら・・・」

 

そして少しだけ困ったように笑った

 

「私はやっぱり、檻の中に閉じ込められたお姫様だったのかな・・・?」

 

「"・・・ミカ?"」

 

先生が首を傾げる

ミカは、はっとして顔を上げた

 

「あっ!」

 

慌てたように手を振る

 

「な、何でもないよ、先生!」

 

「"・・・そう?"」

 

「うん!」

 

ミカは、今度こそしっかりと笑った

 

「それじゃあ・・・・・・」

 

ほんの少し、声を落とす

 

「セイアちゃんを・・・よろしくね、先生。」

 

先生は、まっすぐ頷いた

 

「"うん。任せて。"」

 

その横で、おっさんも軽く手を上げた

 

「ほな、またな。ミカ」

 

「・・・・・・うん。」

 

ミカは、少しだけ笑って見送った

 

先生とおっさんは、そのまま部屋を後にする

 

扉が閉まる

 

鉄格子の向こうに、ミカは再び一人になった

 

けれど今度はほんの少しだけ

さっきよりも、前を向ける気がしていた

 

 

 

 

 

 

 

 

【トリニティ総合学園・廊下】

 

部屋を出て、しばらく歩いたところで

先生が、ほっと息を吐いた

 

「"・・・よかった"」

 

「ん?」

 

「"これで、ミカも何とかしてあげられそうです。"」

 

先生は、嬉しそうに微笑んだ

 

「"聴聞会にも出席してくれるって言ってくれましたし。"」

 

「せやな。」

 

おっさんは、軽く頷く

 

「まぁ、あとはセイア次第やろ」

 

「"・・・はい。"」

 

先生は、少しだけ考えるように視線を落とした

 

「"・・・それにしても。"」

 

「何や?」

 

「"セイアがミカを恨んでいない理由、知っているんですね。"」

 

「まぁな。」

 

おっさんは、前を向いたまま答えた

 

「今回の件には、結構深く噛んどるからな。」

 

「"・・・そうなんですか。"」

 

先生は、少しだけ不思議そうに首を傾げた

 

「"アビドスの祈願屋が・・・?"」

 

「いやいや。」

 

おっさんは、苦笑する

 

「アビドスの管理もしとるだけで、祈願屋は基本何でも屋やぞ。」

 

「"・・・何でも屋。"」

 

「せや。最近は見る影もないけどな。」

 

先生が小さく笑う

 

「"ふふっ・・・"」

 

「まぁ、色々あるんや。」

 

おっさんは、軽く手を振った

 

「そのうち、先生にも話したるわ。」

 

「"・・・約束ですよ?"」

 

「はいはい。」

 

「"本当にですよ?"」

 

「分かっとるって。」

 

そんな会話をしながら

二人は、セイアの私室へ続く廊下を歩いていった

 

しかし

 

おっさんの内心は、少しだけ複雑だった

 

・・・・・・セイアが、ミカを恨んでいない

それは間違いない

 

せやけど、今のミカには、そう思い込むだけの理由があるらしい

何度謝ろうとしても、セイアが体調不良を理由に部屋へ戻ってしまう

それが、ミカには拒絶に見えている

 

・・・・・・なるほどな

おっさんは、少しだけ息を吐いた

 

ただ、今の話で初めて知ったこともある

セイアの体調が、そこまで悪くなっとるということや

 

「・・・・・・」

 

おっさんは、歩きながら眉をひそめた

セイアは、アビドスで過ごしとった頃はぐーたらして太ったり、

生活習慣病になりかけて吐いたが、それでもおっさんとユメで物理的にしばき回して

滅茶苦茶頑丈な身体にしてトリニティに送り出した、そのはずやった

 

それがいつの間に、部屋から出られんほど悪化した?

 

・・・・・・何があった・・・?

原作では確かにセイアは病弱で、動けなくなっていた

せやけど、今のセイアはそこは既に克服済みだったはず・・・

 

「"・・・・・・?"」

 

隣から、先生の声がした

 

「"アンラさん?"」

 

「ん?」

 

「"どうかしました?"」

 

おっさんは、すぐに表情を戻す

 

「いや・・・何でもあらへんよ。」

 

「"・・・そうですか?"」

 

「せや。」

 

先生は、少しだけ不思議そうにしていたが、それ以上は聞かなかった

やがて二人の前に、一つの扉が見えてきた

 

セイアの私室

その前には、ティーパーティー所属の生徒が一人、控えていた

 

先生が、その生徒へ会釈する

 

「"こんにちは。セイアに会いに来ました。"」

 

「先生・・・!」

 

生徒は驚いたように目を丸くし、それからすぐに頭を下げた

 

「セイア様は、現在お部屋にいらっしゃいます。どうぞ、お入りください。」

 

「"ありがとう。"」

 

先生が答える

 

そしておっさんと先生は、扉の前に立った

 

コン、コン

 

「"セイア?先生だよ。"」

 

少しの間

 

返事はなかった

 

けれど

 

やがて

 

「・・・・・・どうぞ。」

 

扉の向こうから、かすかな声が返ってきた

先生は、そっと扉を開ける

 

 

 

【トリニティ総合学園・セイア私室】

 

「"失礼します。"」

 

先生が部屋へ入り

その後ろから、おっさんも続いた

 

室内は、落ち着いた色合いの調度品で整えられていた

 

窓辺には花

 

壁際には本棚

 

そして、部屋の端に置かれたベッド

その上に、セイアが腰掛けていた

 

「・・・・・・」

 

彼女は、こちらを見て少しだけ目を細めた

 

「・・・・・・先生」

 

そして

 

「・・・・・・それに、アンラ。」

 

小さく息を吐く

 

「君も来たのか・・・・・・」

 

先生は、セイアの顔を見た瞬間、表情を変えた

 

「"・・・・・・セイア?"」

 

一歩、駆け寄る

 

「"セイア、大丈夫!?"」

 

「・・・・・・?」

 

「"顔が真っ青だよ!"」

 

先生が、セイアの頬へ手を伸ばそうとする

 

しかし

 

セイアは、少しだけ困ったように笑った

 

「・・・・・・そうかい?」

 

「"そうだよ!どうしたの?どこか具合が悪いの?"」

 

「・・・・・・いや。」

 

セイアは、ぼんやりと先生を見つめていた

その眼差しには、どこか焦点の定まらない、不思議な揺らぎがあった

おっさんも、その様子を見て眉をひそめる

 

「おいおい・・・・・・」

 

一歩、近づく

 

「何があったんや。」

 

セイアが、ゆっくりと顔を向ける

 

「・・・・・・アンラ?」

 

「ああ。」

 

おっさんは、彼女の顔色を確認する

その肌は、驚くほど青白かった

呼吸も浅く、目の焦点もどこか定まっていない

 

・・・・・・これは

 

「・・・これじゃ、まるで一年ちょい前の時みたいやんけ。」

 

セイアは、少しだけ目を伏せた

 

「・・・・・・」

 

そして、ぽつりと呟いた

 

「先生・・・無事、だったのかい?」

 

「"・・・え?"」

 

先生が首を傾げる

セイアは、さらに言葉を続ける

 

「いや・・・・・・」

「私の都合の良い夢かもしれないな。」

「幻か、虚構か。」

「或いは・・・いずれも同じことかもしれないが・・・」

 

「"・・・セイア?"」

 

先生の表情が、困惑へ変わっていく

 

「"ど、どうしたの・・・?"」

 

その声を聞いて、セイアがゆっくりと顔を上げた

そして初めて、先生としっかり目が合ったような気がした

 

「・・・いや。」

 

セイアは、先生の瞳を見つめる

 

「違うようだね・・・」

 

一拍

 

「その瞳は・・・」

 

そこで、ようやく何かを思い出したように小さく笑った

 

「・・・・・・そうか。」

「今日は、先生がトリニティを訪れる日だったな。」

 

先生は、ますます困惑した

 

「"・・・え?"」

 

セイアは、申し訳なさそうに目を伏せる

 

「済まないね。」

「最近の私は・・・・・・夢と現実の境界が曖昧でね。」

 

その言葉を聞いた瞬間

おっさんの表情が、わずかに変わった

 

「・・・・・・」

 

一歩、近づく

 

「セイア。」

 

「・・・・・・何だい?」

 

おっさんは、彼女の顔をじっと見つめた。

 

顔色

 

呼吸

 

目の焦点

 

そしてセイアの身体に付着している、何者かの魔力の残滓

 

・・・・・・あぁ、なるほどな

 

「・・・お前。」

 

セイアの目が、こちらを向く

おっさんは、低い声で言った

 

「未来を変えようとしたな・・・?」

 

「・・・・・・」

 

セイアは、少しだけ口元を緩めた

 

「・・・・・・そう見える、かい?」

 

おっさんは、ため息を吐いた

 

「見えるも何も。」

 

「・・・・・・」

 

「今のお前の状態見たら、だいたい分かるわ。」

 

セイアは、目を伏せた

 

「・・・・・・」

 

おっさんは腕を組む

 

「過程を変えるんは、かまへん。」

 

「・・・・・・」

 

「せやけど、結果を変えようとするな。」

 

セイアの指先が、ぴくりと動いた

 

「特に・・・」

 

おっさんは、少しだけ声を強めた

 

「今のキヴォトスの未来を、お前が変えようとするんは実力不足や。」

 

その言葉にセイアは、ゆっくりと俯いた

 

膝の上で、両手を握る

 

白くなるほど

 

強く

 

強く

 

拳を握り込む

 

「・・・・・・それでは。」

 

声が、かすかに震えた

 

「・・・・・・まったく、意味が無いのだよ。」

 

先生が、二人を見比べる

 

「"・・・・・・?"」

 

セイアは、俯いたまま続けた。

 

「ナギサも・・・・・・ミカも・・・・・・」

 

「・・・・・・あそこまで傷付けて。」

 

拳が、さらに強く握られる

 

「やっと・・・・・・」

 

「やっと、二人が生きている未来を掴み取ったというのに・・・・・・」

 

その声が、震える

 

「なのに・・・・・・」

 

顔を上げる

 

その瞳には、怒りと悲しみと、どうしようもない悔しさが浮かんでいた

 

「どうして・・・・・・っ」

 

そこで、先生が慌てて二人の間へ割って入った

 

「"ま、待って!"」

 

「・・・・・・?」

 

先生は、おっさんを見る

それから、セイアへ向き直った

 

「"セイア、アンラさん・・・・・・"」

 

「・・・・・・」

 

「"一体、何の話をしているの?"」

 

先生の表情は真剣だった

 

「"未来って・・・?"」

 

その言葉を聞いて、おっさんは深くため息を吐いた

 

「・・・まぁ。」

 

セイアは、黙ったまま俯いている

 

「今のコイツは」

 

おっさんは、セイアをちらりと見る

 

「固定化された未来に触れて、身体がボロボロになっとるからな。」

 

先生が、目を見開く

 

「"固定・・・え?"」

 

おっさんは、もう一度ため息を吐いた

 

「しゃあない。」

「おっさんが代わりに説明したるわ。」

 

セイアが、ゆっくり顔を上げた

 

「・・・アンラ。」

 

「何や。」

 

「・・・君が、話すのかい?」

 

「今のお前に、まともに説明できる状態やと思うか?」

 

「・・・・・・」

 

セイアは、何も言えなかった

 

おっさんは、先生の方へ向き直る

 

「まぁ、ざっくり言うなら。」

「セイアが、一年ちょい前の時からずっと。」

「予知夢を使って、未来を変え続けてきたっちゅうことや。」

 

「・・・予知夢で?」

 

先生が、セイアを見る

 

セイアは、静かに頷いた

 

「・・・・・・そうだ」

 

先生は、少しだけ考え込む

 

「"・・・それって。"」

「"私みたいに・・・?"」

 

おっさんは首を横に振った

 

「いんや。」

 

「"・・・え?"」

 

「先生のように、というより。」

 

おっさんは、少しだけ目を細める

 

「どっちか言うたら、おっさんに近いな。」

 

先生は、驚いたように目を見開いた

 

「"・・・アンラさんに?"」

 

「ああ。」

 

おっさんは、セイアを見やる

 

「未来を見て。」

「自分が行動を起こして。」

「最も望ましい未来になるまで、修正を加える。」

 

「"・・・・・・"」

 

「そういうことを、何度も繰り返しとったんや。」

 

先生は、何も言えなかった

 

ただ、セイアを見つめている

その視線を受けながら、セイアは静かに目を伏せた

 

おっさんは、さらに続ける

 

「まぁ・・・そういう意味やと」

「ある意味では、ミカがセイアを襲うように未来を弄ったんも、セイアや。」

 

先生の表情が凍りついた

 

「"・・・・・・え?"」

 

セイアは、何も言わない

 

「調印式の、あの事件もそうや。」

 

おっさんの声は淡々としていた

 

「そういう風になるように、調整したんもセイアや。」

 

「"・・・・・・"」

 

先生は、ゆっくりとセイアへ視線を向ける

 

「"セイア・・・"」

 

セイアは、ただ俯いていた

 

「"・・・なんで。"」

 

先生の声が、かすかに震える

 

「"なんで・・・そんなことを?"」

 

しばらく、セイアは答えなかった

そして、ゆっくりと顔を上げた

 

「・・・ナギサも。」

 

「・・・ミカも。」

 

その瞳は、どこか遠くを見ていた

 

「この未来以外では・・・」

 

「"・・・・・・"」

 

「とうに、死を迎えていたからだよ・・・」

 

先生は、息を呑み

先生は、ゆっくりと近づいた

 

「"・・・君は・・・・・・それを、今までずっと・・・?"」

 

セイアは、頷く

 

「・・・・・・ああ・・・何度も・・・・・・何度も、未来を見た。」

 

その言葉には、疲労が滲んでいた

 

「そして・・・」

 

セイアは、自分の手を見つめる

 

「何度も、選び直した。」

 

「"・・・・・・"」

 

「ナギサが生きる未来を」

 

「ミカが生きる未来を」

 

「"・・・・・・"」

 

「二人が、生きていられる未来を」

 

その言葉を聞き、先生は胸の前で手を握った

 

セイアは、少しだけ困ったように笑う

 

「・・・・・・だからこそ。」

「私は、何も言えなかった。」

 

「誰にも、相談できなかった。」

 

「私が選んだ未来で。」

「私が、皆を傷つけてしまったのだから。」

 

おっさんは、目を閉じた

 

「・・・・・・」

 

そして、静かに口を開く

 

「まぁ・・・見ての通りずっと抱えとったんや。」

 

先生が、こちらを見る

 

「"・・・アンラさん"」

 

「こいつは、嘘がクソ下手やからな」

 

おっさんは、苦笑した

 

「トリニティに返したら、即ボロ出して、」

「ナギサとミカからリンチに遭うと思っとったんやけど。」

 

「"・・・・・・"」

 

「まさか、触ったらあかん未来に手ぇ出して、死にかけとるとは思わんかったわ。」

 

先生は、顔を青くした

 

「"・・・死にかけてる?"」

 

おっさんは、セイアの顔を見やる

 

「せや。」

 

「"・・・・・・"」

 

「今の状態やと、まともに歩くんも難しいやろ。」

 

セイアは、少しだけ苦笑した

 

「・・・・・・まぁ」

「・・・否定は、できないね。」

 

先生は、慌てて彼女の傍へ寄った

 

「"セイア!どうしてそんなことを・・・!"」

 

「・・・・・・」

 

セイアは、答えなかった

ただ、ゆっくりと目を伏せる

その様子を見て、先生はあることに気づいた

 

「"・・・その、触ったらダメな未来って・・・"」

 

おっさんが、少しだけ視線を上げる

先生は、セイアを見つめたまま尋ねた

 

「"・・・何があったの?"」

 

セイアは、ゆっくりと顔を上げた

そして、静かに呟いた

 

「・・・世界が。」

 

「・・・キヴォトスが・・・・・・」

 

その声は、かすかに震えていた

 

「・・・・・・終焉を迎える光景を、見たんだ・・・・・・」

 

先生の表情が強張る

 

「"終焉・・・?"」

 

セイアは、小さく頷いた

 

「ああ・・・そうだ。」

「終焉を迎えて、滅亡したと言うべきか・・・」

 

そこで、彼女は少しだけ目を細めた

 

「・・・結果的に、そこへ至ってしまうのか・・・」

「それは、杳として知れないけれどね・・・」

 

先生は、静かに息を吸った

 

「"・・・どんな光景だったか"」

「"聞いても、良い・・・?"」

 

セイアは、しばらく何も言わなかった

 

そして、ゆっくりと窓の外へ目を向けた

 

「・・・天から。」

「巨大な塔が、飛来した。」

 

先生の指先が、僅かに動く

 

「"・・・・・・"」

 

セイアは、続けた

 

「虚空が、緋色に染められ・・・」

「不吉な塔は、まるで悲鳴を上げるように鳴動し・・・」

 

先生の表情が、少しずつ青ざめていく

 

「・・・この世界を少しずつ、削り取っていった。」

 

「そうして。」

 

セイアは、震える声で言った

 

「世界の破片を・・・何かに、被せていった。」

 

先生の表情が変わる

 

セイアは、まるでその光景を再び見ているかのように、言葉を紡いでいく

 

「削られた世界の欠片が・・・嵐のように吹き荒れる中で。」

 

「黒い光が、天から舞い降りて・・・」

 

「世界が、終焉へ傾いていく・・・」

 

その言葉を聞きながら、先生は胸の前でぎゅっと手を握った

セイアは、そのままゆっくりと視線を落とす

 

「・・・そうして」

 

「キヴォトスの全てが、崩壊した。」

 

「ナギサも。」

 

「ミカも。」

 

「そして、私も・・・」

 

セイアの声が震える

 

「・・・・・・地に伏せて」

 

「動かぬ骸になっていた。」

 

その瞬間

 

先生は、強く手を握りしめた

 

「"・・・・・・赤い空・・・・・・"」

 

ぽつり

 

そう呟いた

 

セイアが、顔を上げる

 

「・・・・・・先生?」

 

その瞳が、先生を見つめた

 

「・・・・・・君も」

 

「"・・・・・・"」

 

「知っているのかい・・・?」

 

その問いに、先生はすぐには答えられなかった

 

ただ先ほど聞いた光景が、先生の中にある記憶と重なったようだった

 

「"・・・・・・"」

 

その時

 

おっさんが、ぴしゃりと二人の間に言葉を挟んだ

 

「セイア。」

 

「・・・・・・?」

 

「そこまでや。」

 

セイアが、ゆっくりとこちらを見る

 

おっさんは、真剣な表情だった

 

「先生もや。」

 

先生が、目を見開く

 

「"・・・アンラさん。"」

 

「これ以上は、先が変わる。」

 

「"・・・・・・"」

 

「それも、ろくでもない方向にな。」

 

おっさんの声には、いつもの軽さがなかった

 

先生は、口を開きかける

 

「"でも・・・アンラさん。"」

 

「でもやない。」

 

おっさんは、即座に遮った

 

「これ以上聞こうとするなら、今すぐ先生の首絞め落とすさかいな。」

 

「"・・・・・・っ"」

 

先生が、固まる

セイアも、少し驚いたように目を瞬かせた

 

「・・・アンラ。」

 

「セイア、お前もや。」

 

おっさんが、セイヤへ視線を向ける

 

「その未来には触れるな。」

 

「・・・・・・」

 

「今のお前が、あの先へ手ぇ出したところで、何もできへん。」

 

セイアは、俯いた

 

「・・・・・・」

 

おっさんは、少しだけ声を落とした

 

「それに、今お前がせんといけんのは」

「そんな先の未来やなくて」

「お前がやったことの始末をつけるんが先やろ。」

 

セイアの指が、僅かに動く

 

「・・・・・・」

 

おっさんは、先生を一瞥してから続けた

 

「ミカが、思い詰めて、泣いとったぞ。」

 

「・・・・・・ミカが?」

 

セイアの声が、少しだけ揺れた

 

先生は、静かに頷く

 

「"・・・そうだよ。"」

「"ミカは、セイアに謝りたがってた。"」

 

セイアは、目を伏せる

 

「・・・・・・」

 

「"自分がセイアを傷つけたと思っていて・・・"」

 

先生は、言葉を選ぶように続けた

 

「"セイアが自分を恨んでいるんじゃないかって、ずっと不安に思っていたよ。"」

 

セイアは、何も言わなかった

ただ、膝の上の両手をゆっくりと握りしめた

 

「・・・・・・そうか。」

 

その声は、先ほどまでの不思議なほど落ち着いたものとは違い、ほんの少しだけ寂しげだった

 

「・・・・・・私が悪いのに」

 

先生が、顔を上げる

 

「"セイア・・・・・・"」

 

「ミカは、私が恨んでいると思っているのか・・・・・・」

 

セイアは、ゆっくりと目を閉じた

 

「・・・・・・」

 

そして、しばらくしてから小さく笑った

 

「・・・・・・そうか。」

 

その表情には、どこか決意が浮かんでいた

 

「・・・今すぐ。」

 

先生が、首を傾げる

 

「"・・・え?"」

 

セイアは、ベッドの傍に置かれた小さなベルに手を伸ばした

 

「・・・・・・ミカを、呼んできてもらうとしようか」

 

「"セイア?"」

 

セイアは、先生を見る

 

「ミカと言葉を交わし・・・」

 

少しだけ息を吐く

 

「・・・全てを、伝え、そして私も明日の聴聞会に出席するよ。」

 

そして、ベルを鳴らした

 

チリン

 

澄んだ音が、室内に響く

 

 

 

 

 

しばらくすると、扉の向こうから足音が聞こえてきた

 

コン、コン

 

「失礼いたします。」

 

扉が開き、ティーパーティー所属の生徒が室内へ入ってくる

 

「お呼びでしょうか、セイア様?」

 

セイアは、軽く頷いた

 

「ああ。」

「悪いが、ミカに会いたい。」

 

「・・・・・・え?」

 

生徒が、目を丸くする

 

セイアは、静かに続けた

 

「今すぐ、ここに連れてきてもらえるかな?」

 

「み、ミカ様をですか・・・?」

 

生徒の表情が、困惑に変わる

 

「わ、分かりました。ナギサ様に確認してみます!」

 

「ありがとう。」

 

セイアは、少しだけ微笑んだ

 

そして

 

「あと・・・」

 

生徒が顔を上げる

 

「なるべく、ミカと二人きりで話したいと伝えてくれないか。」

 

「・・・二人きり、ですか?」

 

「ああ。」

 

セイアは、少しだけ目を伏せた

 

「どうにも・・・他人が同席するのは、少し憚られる内容でね。」

 

「か、かしこまりました!」

 

生徒は、急いで頭を下げた

 

「ナギサ様にも、あわせて確認いたします!」

 

「よろしく頼むよ。」

 

「はい!」

 

その生徒は、慌ただしく部屋を出ていき

扉が閉じる

 

室内に、再び静けさが戻った

 

先生は、セイアを見つめる

 

「"・・・セイア。"」

 

「・・・何だい?」

 

「"本当に、ミカと話すんだね"」

 

セイアは、穏やかに頷いた

 

「ああ。もう先延ばしにはできないだろう。」

 

その言葉に、先生は優しく微笑んだ

 

「"・・・うん。"」

 

そして先生は、少しだけ視線を落とした

 

「"じゃあ、私もナギサのところへ行って、聴聞会のことを伝えてくるよ。"」

 

セイアは、ゆっくりと頷く

 

「ああ・・・ありがとう、先生。」

 

おっさんは、腕を組んだまま軽く笑った

 

「ま、ちゃんときっちり話して。」

 

「・・・・・・」

 

「きっちり、死なへん程度に殴られろ。」

 

セイアは、一瞬だけ目を丸くした

 

そして、ふふっ、と小さく笑う

 

「・・・ああ。そうするとするよ。」

 

先生も、苦笑した

 

「"・・・アンラさん。"」

 

「何や。」

 

「"もう少し、優しい言い方はないんですか?"」

 

「いや、これでもだいぶ優しい方やぞ。」

 

「"・・・そうでしょうか。"」

 

「せや。」

 

おっさんは、肩をすくめる

 

「おっさんやったら、無に還しとる。」

 

セイアは、そのやり取りを聞いてどこか安心したように笑った

 

「・・・・・・ふふ。」

 

先生とおっさんは、扉へ向かった

 

「それじゃ、また明日の聴聞会で。」

 

先生が振り返って言う

 

セイアは、ベッドに腰掛けたまま頷いた

 

「ああ。また明日だね。」

 

それから、少しだけ頭を下げた

 

「それでは、お気をつけて。」

 

先生とおっさんは、部屋を後にした

 

扉が閉じる

 

 

 

 

セイアは、そのまましばらく閉じた扉を見つめていた

 

「・・・・・・」

 

やがて、ゆっくりと目を閉じる

 

明日、聴聞会

 

ミカ

 

ナギサ

 

そして、自分がずっと隠してきたこと

 

「・・・・・・」

 

セイアは、膝の上で手を握った

 

もう、逃げられない

逃げるつもりもない

 

ただ、ひとつだけ気がかりがあった

 

・・・・・・未来

 

あの光景

 

あの終焉

 

そして、自分の身体を蝕む、この不調

 

「・・・・・・」

 

セイアは、ゆっくりと息を吐いた

 

「・・・私は。」

 

小さく呟く

 

「・・・何を、見落としているのだろうね。」

 

その問いに、答える者は誰もいなかった

 

 

 

 

 

 

 

【トリニティ総合学園・廊下】

 

セイアの部屋を出た先生は、そのまま足を止めた

 

「"・・・アンラさん。"」

 

「ん?」

 

「"私は、これからナギサのところへ行って、今日のことを伝えてきます。"」

 

「ああ。そういう話やったな。」

 

「"はい。ミカとセイアが明日の聴聞会に出席することも、伝えないといけませんから。"」

 

おっさんは頷いた

 

「"ほな、おっさんは最初の談話室に戻っとくわ。"」

 

「・・・・・・え?」

 

先生が少しだけ目を丸くする。

 

「"戻るんですか?"」

 

「そらそうやろ。ナギサとの政治的な話に、おっさんがついて行く必要はないしな。」

 

「"・・・そうですね。"」

 

「先生の護衛は続けるで。面談が終わったら呼んでくれたらええ。」

 

「"分かりました。ありがとうございます。"」

 

先生は、少しだけ笑った

 

「それじゃあ、また後で。」

 

「おう。気ぃつけてな。」

 

先生が、ティーパーティー執務室の方へ歩いていく

 

おっさんは、その背中を見送ってから、反対方向へ足を向けた

 

・・・・・・さて

 

ひとまず、ミカは聴聞会に出席することになった

そして、セイアも出席するつもりらしい

 

これで、明日に向けた準備は少し進んだと言えるやろう

 

・・・・・・せやけど、先ほどのセイアの様子

あれは、なかなか尋常やなかった

顔色は悪く、夢と現実の区別もつきにくくなっとる

 

修正力に魂その物を押しつぶされた・・・か・・・

 

「・・・・・・」

 

おっさんは、少しだけ目を細める

 

・・・・・・誰が未来を固定しとるかしらんが、

アリスが死ぬ未来、先生が死ぬ未来、そしてキヴォトスが滅ぶ未来

そんなもんに固定しとるカスは・・・・・・確実に殺す

 

「・・・・・・全ては赤い空で・・・か。」

 

 

 

 

 

 

 

【トリニティ総合学園・談話室】

 

「・・・ただいま戻ったでーっと」

 

おっさんは、再び談話室の扉を開いた

 

中は、先ほどと変わらず静かやった

大きな窓から庭園が見え、柔らかな日差しが床に落ちている

 

テーブルの上には、紅茶のポット

 

そして

 

クッキーの皿

 

「・・・・・・お。」

 

おっさんは、思わず笑みを浮かべた

 

「まだ残っとるやん。」

 

先ほどは、先生が戻ってきたから途中で切り上げた

せやけど、今は再び一人や

 

遠慮する理由もない

 

「・・・よっこらせ。」

 

おっさんは、ソファへ腰を下ろした

 

ティーカップを手に取る

少し冷めてしまっとるが、まだ香りは残っている

 

一口

 

「・・・・・・ん。」

 

悪くない

 

それから、皿に残ったクッキーへ手を伸ばす

 

「・・・・・・ぼりぼり。」

 

・・・・・・うまい

 

やっぱり、トリニティの高級茶菓子はうまい

 

おっさんは、満足げに頷いた

 

 

せやけど

先ほどまでとは、少しだけ気分が違う

 

ミカは、明日の聴聞会に出席すると約束した

 

それはええ

 

セイアも、ミカを呼んで話すと決めた

 

それもええ

 

ただ、あの二人が、ちゃんと話せるかどうか

そこだけは、少し気掛かりやった

 

ミカは、自分がセイアに恨まれていると思い込んどる

 

一方のセイアは、ミカを恨んでなどいない

 

むしろ、自分が悪いと思っている

 

おっさんは、クッキーをもう一枚摘まんだ

 

「・・・・・・ぼりぼり。」

 

まぁあの二人なら、話せば何とかなるやろ

 

・・・・・・多分

 

「・・・・・・」

 

おっさんは、紅茶を口へ運んだ

 

こういう時、余計な手出しをするんは得策やない

セイアがミカと二人きりで話したいと言った以上、それを尊重するべきや

 

それに祈願屋の人間が、

ティーパーティーの内輪の話へ必要以上に踏み込むのも、あまりよろしくない

 

おっさんは、あくまで先生の護衛

ナギサとの政治的な話にも参加せんかったし、セイアとミカの間に入るつもりもない

 

・・・・・・せやから

 

今は、茶を飲んで待つだけや

 

「・・・・・・ん。」

 

クッキーを一枚

 

紅茶を一口

 

「・・・・・・うま。」

 

おっさんは、ソファの背もたれへ身体を預けた

窓の外では、風に揺れた花がゆっくりと首を振っている

 

穏やかな午後が過ぎて行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1:
アビドスの砂に埋めて顔だけ出して30秒おきに砂をかけていく尋問術。

*2:
アビドスで問題を起こしたスケバンやヘルメット団に使用し、現在は改心して祈願屋の下部組織で警備パトロールのアルバイトをしている





【今日のセイア】

先生とアンラがトリニティから帰って
少しした後

【セイア私室】

セイアは、ベッドの端へ腰掛けていた
窓から差し込む光

穏やかな風

庭園から聞こえてくる、微かな鳥の声
部屋の中には、時計の針が進む音だけが響いている
先ほどまで、先生とアンラがいた

そして二人は、部屋を出ていった
今は、セイア一人だけ

「・・・・・・」

セイアは、静かに窓の外を眺めていた

先生に話したこと

未来を見たこと

何度も未来を修正したこと

そしてナギサとミカが死ぬ未来を避けるために、自分が選んできたこと

「・・・・・・」

本当は、ずっと誰かに話したかった

いや、話すべきだったのだろう

けれど、どうしても口にできなかった

自分が選んだ道
自分が仕組んだ出来事

それによって

ナギサも

ミカも

傷ついた

自分の手で大切な二人を傷つけた

「・・・・・・」

セイアは、ゆっくりと目を閉じる

・・・・・・それでも

あの未来よりは、ずっとましだった

少なくともナギサは、生きている

ミカも、生きている

自分も、今はこうしてここにいる

「・・・・・・」

それだけで、十分だった

・・・・・・そう

思っていた

けれど

「・・・・・・っ」

胸の奥に、鈍い痛みが走った

セイアは、僅かに顔をしかめる

まただ、最近、こういうことが増えている

予知夢を見た後

あるいは未来の出来事を変えようとした時
身体の中にある何かが、軋むように痛む

視界が揺れ意識が遠のく

そして夢と現実の境界が曖昧になる

「・・・・・・」

セイアは、目を伏せた

もう・・・無理はできない

アンラにも、そう言われた

未来に触れるな、
これ以上、手を出すなと

「・・・・・・」

分かっている
分かっているのだ

それでも

もし

もしも

自分が何もしなければ
また、誰かが死ぬ未来が訪れるのではないか
その恐怖だけは、どうしても消えなかった

コン、コン

その時
扉を叩く音がした

セイアは、ゆっくり顔を上げる

「・・・・・・どうぞ。」

扉が開く

「・・・・・・セイアちゃん。」

そこに立っていたのは、ミカだった

「・・・・・・」

セイアは、少しだけ目を見開く
ミカは、どこか緊張した様子で部屋の中へ入ってきた

「えっと・・・・・・その。」

少しだけ視線が泳ぐ

「・・・・・・こんにちは、セイアちゃん。」

セイアは、静かに答えた

「・・・・・・ミカ。」

その声を聞いた瞬間
ミカは、ほっとしたように笑った

「う、うん!」

少しだけ、いつもの調子が戻る

「連絡もらったから、急いで来たよ!」

「・・・・・・」

「二人っきりで話したいって・・・・・・」

ミカは、少しだけ頬を掻いた

「セイアちゃんらしくなくて、ちょっとびっくりしたけど!」

それから、部屋の外へ目を向ける

「いつも監視してる正義実現委員会の子にも、扉の外で待っててもらってるよ。」

セイアは、ゆっくり頷いた

「ああ・・・・・・ありがとう。」

ミカは、少しだけ不思議そうに首を傾げる

「・・・・・・それで?」

「・・・・・・」

「何の話?」

セイアは、ゆっくりと息を吸った

そして

「・・・・・・ミカ。」

「・・・・・・うん?」

「・・・・・・その。」

セイアは、目を伏せる

「・・・・・・すま――――」

その瞬間

口元から、赤いものが溢れた

「・・・・・・っ!?」

セイアの身体が、びくりと跳ねる

「ゴフッ・・・・・・!」

咳き込む

喉の奥から、大量の血が溢れ出した

「・・・・・・え?」

ミカが、目を見開く

セイアは、胸元を押さえた

「・・・・・・っ、か・・・・・・」

もう一度、血が口から零れる

「セ、セイアちゃん・・・・・・!?」

ミカが駆け寄ると
セイアの身体が、ゆっくりと傾いた

「・・・・・・っ!!」

ミカは、慌ててその身体を抱きとめる

「セイアちゃん!!」

腕の中のセイアの身体は、驚くほど軽かった

そして

熱い

「・・・セイアちゃん!?」

ミカが、必死に呼びかける

「ねえ!!どうしたの!?」

セイアの目が、ゆっくりと閉じられていく

「・・・・・・っ。」

ミカは、震える手でセイアの頬に触れた

「しっかりして!!」
「・・・・・・セイアちゃん!!」

けれど

返事はない

「・・・・・・いや。」

ミカの声が震える

「・・・・・・いやだよ。」

「セイアちゃん・・・!!」

その時

腕の中のセイアが、微かに息を吸った

「・・・・・・っ。」

目が、薄く開かれる

「・・・・・・セイアちゃん!?」

ミカは、顔を覗き込んだ

「ああ・・・・・・!セイアちゃん、気が付いた!?」

涙が一気に溢れる

「よかった・・・・・・!!」

ミカは、泣きながらセイアを抱きしめた

「どうして・・・・・・!」

「・・・・・・」

「どうして、セイアちゃんがこんな目に・・・・・・!」

声が、どんどん震えていく

「私は・・・・・・!」

「・・・・・・」

「私は、どうすれば・・・・・・!」

ミカは、セイアの顔を見つめる

「セイアちゃん・・・・・・」

「・・・・・・」

「どうしよう・・・・・・」

涙が止まらない

「・・・・・・お願い。」

「・・・・・・」

「何か言って・・・・・・」

セイアは、目を開いたままミカを見つめていた

・・・・・・違う

・・・・・・違う

・・・・・・私は

・・・・・・ミカに

・・・・・・謝りたかった

・・・・・・許すと

・・・・・・伝えたかった

・・・・・・違うんだ

セイアは、必死に口を動かそうとした

「・・・・・・み・・・・・・」

声が出ない

喉が焼けるように痛い

「・・・・・・っ。」

無理に、もう一度言葉を紡ごうとする

その瞬間

また口の中に血が溢れた

「・・・・・・ゴフッ!!」

「きゃあっ!!」

ミカが悲鳴を上げる

「セイアちゃん!!」

腕の中で、セイアの身体が大きく震えた

「しっかりして!!」
「セイアちゃん!!セイアちゃん!!」

ミカは、何度も何度も呼びかける

けれど

その時

セイアの口が、自分の意思とは無関係にゆっくりと動いた

「・・・・・・」

・・・・・・何だ

・・・・・・何を

・・・・・・私の身体が

・・・・・・勝手に

セイアの瞳が、大きく開かれる

そして

自分の意思ではない声が、口から零れた

「・・・・・・アリウスが。」

ミカの動きが止まる

「・・・・・・え?」

セイアの唇が、再び動く

「・・・・・・先生を狙ってる。」

「・・・・・・」

ミカが、息を呑む

そして

その声は、さらに言葉を続けた

「・・・・・・ミカ。」

「・・・・・・っ。」

「・・・・・・君のせいで。」

「・・・・・・」

その言葉を聞いた瞬間

ミカの顔から、血の気が引いた

「・・・・・・え?」

セイアは、目を見開いたまま、自分の身体を動かす何者かに必死に抵抗していた。

・・・・・・違う

・・・・・・違う!!

・・・・・・ミカじゃない!!

・・・・・・私が

・・・・・・私がそうさせた!!

・・・・・・違う!!

・・・・・・君のせいではない!!

・・・・・・誰だ!!

・・・・・・誰なんだ!!

・・・・・・私の身体を

・・・・・・何故、勝手に動かす!!

セイアは、必死に自分の意識で何(・)か(・)を押し返そうとする

だが

その瞬間

鼻の奥が、焼けるように痛んだ

「・・・・・・っ!!」

血

鼻から、赤い血が止めどなく流れ出す

目元にも、熱いものが伝う

「・・・・・・っ、あ・・・・・・」

視界が、赤く染まる

頭の中で、何かが軋む

「・・・・・・違う・・・・・・!」

セイアは、心の中で叫び続ける

・・・・・・違う!!

・・・・・・ミカじゃない!!

・・・・・・私は!!

・・・・・・私は、そんなことを言いたくない!!

・・・・・・やめろ!!

・・・・・・私の身体を!!

・・・・・・私の口を!!

・・・・・・勝手に使うな!!

しかし

身体は、言うことを聞かなかった

「・・・・・・っ」

ミカは、腕の中のセイアを見つめ、震える声で叫んだ

「だ、誰か!!」

「・・・・・・っ!!」

「誰か来て!!!」

涙が頬を伝う

「お願い!!」

「・・・・・・」

「セイアちゃんが・・・・・・!!」

ミカは、必死に扉の方へ叫ぶ

「セイアちゃんが!!」

その声が、部屋の中に響き渡る

しかし

セイアの意識は、もう限界に近かった

目の前が暗くなる

耳鳴り

身体の感覚が遠ざかっていく

・・・・・・違う

・・・・・・私は

・・・・・・ミカを

・・・・・・恨んでなんか

・・・・・・いない

・・・・・・謝りたかった

・・・・・・伝えたかった

・・・・・・私は

・・・・・・私は・・・・・・

その時

セイアの意識の奥に、一つの光景が浮かび上がった

赤い空

どこまでも広がる、死んだような緋色の空

その中に、一隻の船が浮かんでいた

巨大な

異様な船

宙を漂うように、ゆっくりとその姿を現している

「・・・・・・」

セイアの意識が、その船へ引き寄せられる

そして

船の中

そこに、三人の人物が立っていた

白い髪の喪服の様なドレスを着た少女

鉄仮面を被った巨大な人物

そして・・・砂色のローブ

顔は、よく見えない
ただ、その姿だけが、奇妙なほど鮮明だった

アンラ・・・?

何故

ここに

・・・・・・

セイアは、必死にその人物を見ようとした

けれど視界が霞んでいく

赤い空も

船も

砂色のローブの人物もそれ以外の者達も

全てが遠ざかる

「・・・・・・」

そして最後に
自分の腕の中で泣いている、ミカの声が聞こえた

「セイアちゃん!!」

「お願い・・・・・・!!」

「目を開けて・・・・・・!!」

・・・・・・ミカ

・・・・・・すまない

・・・・・・違うんだ

・・・・・・私は

・・・・・・君を

・・・・・・

セイアの瞼が、ゆっくりと閉じられていく
その意識は、深い闇の底へ沈んでいった

「・・・・・・セイアちゃん?」

ミカの声が、震える

「・・・・・・ねえ。」

「・・・・・・」

「セイアちゃん・・・・・・?」

返事は、なかった

「・・・・・・いや。」

ミカは、セイアを抱きしめたまま、何度も何度もその名前を呼び続けた。

「・・・・・・誰か!!」

「誰か来て・・・・・・!!」

「お願い・・・・・・!!」

「セイアちゃんが・・・・・・!!」

部屋の外では、控えていた正義実現委員会の生徒が異変に気づき、慌ただしく扉へ駆け寄っていた

しかし

ミカには、もうその足音すら聞こえていなかった

ただ、腕の中のセイアを

必死に抱きしめていた

その頬に、涙がいくつも、いくつも零れ落ちていった

そして

窓の外

穏やかなトリニティの空は

何事もなかったかのように

青く

澄み渡っていた













今日のセイヤ!!臨時復活!
え?こんなガチ描写の悲しいお話見たくなかった?
知らなかった?この小説曇らせタグ付いてるんだよ・・・?

作者が曇らせるのがホシノだけだなんて・・・いつ言った・・・?


さて!
本文解説の前にちょっと謝罪をば!

今回は、一個の話として、完結させる為に思いっきり押し込んだため、
二万文字オーバーというとんでもボリュームになった事を謝りたい!
すまん!

でも、ここから、色々動き出すよ。


さて!本文解説行こうか!
まず、先生が初見反応が多いの!
これはエデン条約編の1~2章の時にも行ったけど、
エデン条約編は先生は正解ルートを走った事が無い。
その為、全てが初見だよ!

まぁごく一部原作の内容と違うけどね。


そして、アンラが原作と違う動きしているセイアに何故協力していたか。
それが今回出て来た内容ですね。
アンラがアロナを交わした契約は、アロナが組んだ未来計画において、零れ落ちる子供の救済。
つまり、セイアのやってる、ナギサとミカの救済はアンラからしても願っても無い物だった。
故に計画を邪魔せずに協力体制をひいた。
そういう事です。

そして、今回の事で、セイアが未来を弄っている。
ずっとそういって言葉を濁して来た、何故弄る必要があったのか。
そこにスポットライトが当たりました。

そして、セイアの体調不良の原因。
それは修正力による反発作用ですね。
あれはアンラとユメに身体を鍛えられ、
更に予知夢を出来る程の神秘を保有していたセイアだから、死んでないだけです。
もし未来予知から未来を変えようとしたのがナギサだった場合。
血を吐いて即死します。
死因?魂の圧殺ですね。

世界っていう存在そのものの力に魂が押しつぶされて
潰れて消えてなくなります。文字通り・・・消えてなくなります。
輪廻の輪にすら帰る事もなく・・・アンラの蘇生に使う時間魔導でも蘇らせる事が出来ません。


そして、
今日のセイヤについての解説といきましょうか。

まぁ・・・何個か何故?と疑問に思われるだろうと思う所を解説していきます。

セイアが血を吐いた理由
これは前記した修正力によるもの・・・だけではありません。

ほら、良く言いますよね?
深淵を覗く時、深淵もまた覗いている。と

つまり、ある人物が力を使い未来を固定化した。
セイアはその固定化した未来に触れ、変えようとした。

これにより、反作用としてセイアの魂に著しい傷を負った。→これが大量不良の原因
そして血を吐いた→半分は修正力が原因ですが、
もう半分が、未来を固定化した人物からの接触です。

それが、セイアの身体を乗っ取るという状況になりました。
またあの血を吐いたのはセイアが未熟な力で、超越者の力に抗おうとした結果
身体と魂が悲鳴を上げて血を吐いた。
これが理由になります。
鼻血と血涙もそのまま無理を押し通して体の主導権を取り戻そうとした結果ですね。

ぶっちゃけて言うと、多分寿命が数十年縮んでると思いますね。
それくらいに危険な事をやったっていう事です。

そして、最後にセイアが見た映像ですが・・・

先ほども言いましたが、
深淵を覗く時、深淵も又覗いている。
つまり、深淵からの接触があったのなら、
セイア自身も深淵を覗く事が出来る。

そういう事です。




さぁ・・・面白くなってきたよ・・・クケケケケ

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