おっさんキヴォトスに行く   作:無い頭のおっさん

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本日放送を予定しておりました【今日のセイア】につきまして、
主演のセイアさんが体調不良のため急遽出演できなくなりました。
これに伴いまして、本日の放送は番組内容を変更し、
急遽【今日のゴリラ】をお送りいたします。

視聴者の皆様におかれましては、何卒ご理解とご容赦を賜りますようお願い申し上げます。




おっさん驚かす

 

 

【トリニティ郊外・路地】

 

夜のトリニティ

昼間はあれほど晴れ渡っていた空も、今はすっかり雲に覆われていた

しとしとと降り続く雨が、石畳を濡らしている

 

街灯の光が水たまりに反射し、郊外の路地をぼんやりと照らしていた

 

「・・・ほんで?」

 

おっさんは、隣を歩く先生へ視線を向けた

 

「ここなんや?」

 

「"・・・・・・"」

 

「なんか用事あるんか? こんな時間に、わざわざこんな所まで来て。」

 

先生は傘を差したまま、じっとおっさんを見つめていた

 

「"・・・アンラさんは、知らないんですか?"」

 

「何をや?」

 

「ここに誰が来るのか、とか。」

 

「・・・は?」

 

おっさんは、本気で何のことか分からんという顔をした

そもそも、ここへ来ることを決めたんは先生やし

おっさんは、護衛としてついてきただけ

 

場所も、理由も、詳しいことは聞いていない

 

「・・・いや、知らんけど。」

 

そう答えると

 

先生は、ぱちくりと目を瞬かせた

 

そして

 

「"・・・ふふっ"」

 

小さく笑った

 

「"アンラさんが知らなくて、私が知っている・・・"」

 

先生は、どこか嬉しそうに続ける

 

「"なんだか、いつもと逆ですね。"」

 

「・・・何や、その妙な嬉しそうな顔は」

 

「"いえ。ちょっとだけ新鮮だなって。"」

 

「おっさんかて、知らんことくらいあるわ。」

 

「"そうですね。"」

 

先生は、くすくすと笑った

その表情は、普段と変わらない

 

けれど

 

次の瞬間には、その顔から笑みが消えていた

 

「・・・もうすぐです。」

 

「おん・・・?」

 

先生が前を向く

 

おっさんも、傘を少し傾けて周囲を見渡した

 

郊外の路地

 

人通りは少ない

 

周囲には古びた建物が並び、所々に雑草が生えている

昼間ならともかく、こんな夜更けに人が出歩くような場所ではなかった

 

雨音だけが、静かな路地に響いている

 

「・・・・・・」

 

・・・さて

 

先生は、一体誰を待っとるんやろな

おっさんは、そんなことを考えながら、傘の柄を握り直した

 

その時、路地の奥から、誰かの足音が聞こえてきた

ペタペタと雨に濡れた地面を踏む、重く不規則な足音

 

おっさんは、そちらへ目を向けた

 

街灯の届かない暗がりから、一人の人物が姿を現す

 

白いコート

 

乱れた髪

 

濡れた服

 

その人物は傘も差さず、ふらふらとした足取りで路地を進んでいた

 

まるで、何日も眠っていないかのような様子だった

 

「・・・・・・」

 

おっさんは、その姿を見た瞬間

思わず目を見開いた

 

・・・ああ、なるほど

そういうことか

 

「"・・・・・・サオリ。"」

 

先生が、静かに名前を呼んだ

 

その瞬間

先ほどまでふらふらと歩いていた人物が、ぴたりと足を止めた

 

ゆっくりと

 

こちらへ顔を向ける

 

「・・・・・・先生。」

 

その声は、掠れていた

 

そして

 

「・・・・・・アンラ・・・・・・さん・・・・・・?」

 

サオリは、目の前にいるはずのない二人を見て、驚いたように固まった

 

ほんの一瞬

 

その瞳に、戸惑いが浮かぶ

 

しかし

 

次の瞬間には、彼女の手がコートの内側へ伸びていた

 

「・・・・・・っ!」

 

銃を抜く

その動きは、あまりにも速かった

 

「・・・・・・!」

 

おっさんは、反射的に先生の前へ出た

 

傘を傾け、先生の身体を背後へ庇う

 

「先生、下がっとき。」

 

「"サオリ・・・!?"」

 

先生の声が響く

 

しかし、サオリは二人へ銃を向けなかった

抜いた銃口を自分自身の腹部へ押し当てた

 

「・・・おい。」

 

おっさんが、思わず声を漏らす

 

直後

 

銃声が、雨音を塗り潰した

 

ダダダダダダダダンッ!!

 

短い連射音

 

サオリの身体が大きく震える

それでも彼女は、引き金から指を離さなかった

 

最後の一発まで

 

銃声が途切れた時

 

サオリは、膝から崩れ落ちた

 

「・・・っ、ぐ・・・!」

 

銃が、濡れた地面へ落ちる

彼女は腹部を押さえ、その場に蹲った

 

コートの隙間から覗く肌が、みるみるうちに青紫色へ変色していく

 

「・・・・・・なっ!?」

 

おっさんは、完全に呆気に取られていた

 

・・・・・・何しとんねん、こいつ

 

先生は、血相を変えて駆け寄った

 

「"サオリ・・・!!"」

 

「・・・・・・っ!」

 

「"何してるの・・・!?"」

 

先生は、サオリの傍へ膝をつき、その肩へ手を伸ばす

しかし、サオリはその手を避けるように、ゆっくりと両手を地面についた

 

そして

 

身体を前へ倒す

 

額が、濡れた地面へ近づいていく

 

土下座

 

まるで、全てを差し出すかのような姿勢やった

 

「・・・・・・先生」

 

その声は、痛みに震えていた

 

「・・・・・・アツコが・・・・・・連れていかれた」

 

先生の表情が変わる

 

「"・・・・・・え?"」

 

サオリは、歯を食いしばりながら続けた。

 

「他の仲間も・・・アリウスの襲撃に遭って・・・散り散りに・・・」

 

「"・・・・・・"」

 

「生死も・・・分からない・・・・・・」

 

サオリは、一度息を吸った

その呼吸は、明らかに苦しげだった

 

「・・・・・・あれから、何日も・・・逃げてきた」

 

雨水が、サオリの髪から滴り落ちる

 

「・・・・・・だが、私では・・・彼女を止められなかった」

 

先生は、言葉を失っていた

 

「・・・このままでは・・・アツコは・・・・・・」

 

サオリの肩が震える

 

「・・・姫は、死んでしまう。」

 

その言葉に、おっさんは目を細めた

 

「・・・・・・」

 

サオリは、地面に額をつけたまま、必死に声を絞り出す

 

「・・・・・・明日の朝。」

「夜明けと共に・・・・・・彼女に殺されてしまう。」

 

雨音が、二人の間に落ちる

 

「・・・・・・私の話など、信じられないだろうが・・・・・・」

 

サオリの手が、地面を強く握った

 

「・・・これだけは、真実だ。」

 

そして

 

「・・・私が先生にしたこと。」

「決して、許されることではない。」

 

彼女は、一度だけ顔を上げた

濡れた前髪の隙間から、先生を見つめる

 

その眼差しには、逃げ場のない覚悟が宿っていた

 

「・・・だが。」

 

「"・・・・・・"」

 

「頼む。」

 

サオリは、再び頭を下げた

 

「私の命を賭けて約束する。」

 

「"・・・・・・"」

 

「どんな指示だろうと従う。」

 

その言葉と共に、彼女はコートの内側へ手を伸ばした

 

「・・・・・・死ねと命じられれば、この場でこの命を断つ。」

 

先生が、はっと息を呑む

 

サオリは、懐から小さな金属製の装置を取り出した。

 

「"・・・ヘイロー破壊爆弾"」

 

それを、地面へ置く

 

「これも預ける。」

 

雨水が、爆弾の表面を滑り落ちていく

 

「・・・・・・私の命を握ってもらって構わない。」

 

サオリは、再び先生を見上げた。

 

「私を信用できないなら。」

 

「"・・・・・・"」

 

「私を許せないなら・・・・・・」

 

彼女は、地面に置いた爆弾へ視線を落とす

 

「・・・・・・それを使ってくれ。」

 

そして

 

「・・・・・・だから、頼む。」

 

サオリの声が、震えた

 

「どうか・・・・・・」

 

「アツコを・・・・・・」

 

一瞬

 

その言葉が、喉の奥で詰まる

それでも彼女は、最後まで言い切った

 

「・・・・・・姫を助けてくれ・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

おっさんは、黙ってその姿を見つめていた

 

濡れた路地

 

蹲るサオリ

 

彼女の前で膝をつく先生

 

そして、地面に置かれたヘイロー破壊爆弾

 

 

 

この場面でおっさんが口を出すべき事ではない

これは、サオリ自身のケジメの話

自分が先生に何をしたのか

その罪をどう背負うのか

 

そして

 

それでもなお、仲間を助けるために頭を下げる

その覚悟を、今ここで先生へ示しとる

 

・・・・・・なら

 

「・・・・・・」

 

おっさんは、静かに見守ることにした

 

先生が、ゆっくりと口を開く

 

「"・・・・・・立って、サオリ。"」

 

「・・・・・・っ」

 

サオリは、地面に額をつけたまま、かすかに首を振った

 

「だ、だが・・・・・・」

 

「"サオリ。"」

 

先生の声は、静かだった

けれど、はっきりとした意志が込められている

 

「"立って。"」

 

「・・・・・・」

 

サオリは、動けなかった

 

先生は、もう一度言った

 

「"サオリ、立って。"」

 

そして

 

「"私は、サオリと対等に話がしたいの。"」

 

「・・・・・・!」

 

その言葉にサオリの肩が、僅かに震えた

 

しばらくの沈黙ののち

サオリは、ゆっくりと顔を上げた

 

濡れた地面に手をつき、腹部を押さえながら、どうにか立ち上がる

その顔には、痛みと疲労が色濃く浮かんでいた

露出した腹部には、先ほど自身で撃ち込んだ銃弾の衝撃により青紫色の痕が広がっている

 

サオリは、立ったまま俯いた

 

「"・・・・・・"」

 

先生は、その姿を見て一度だけ眉を寄せた

けれど、今は何も言わなかった

 

まずは、事情を聞かなければならない

 

「"・・・・・・先に質問させてね。"」

 

サオリが顔を上げる

 

「・・・・・・ああ。」

 

先生は、真剣な表情で尋ねた。

 

「"彼女って、ベアトリーチェのこと?"」

 

その問いに、サオリは一瞬だけおっさんを見た

 

「・・・・・・アンラさんに聞いたのか・・・・・・?」

 

「"ううん。"」

 

先生は首を横に振った

 

「"私独自の情報網だよ。"」

 

「・・・・・・」

 

「"でも、そっか。やっぱりベアトリーチェなんだね?"」

 

サオリは、ゆっくりと頷いた

 

「・・・・・・ああ。」

 

先生は、続けて質問する

 

「"じゃあ、散り散りになったって言ってた他のスクワッドの子達は、今どうしているか分かる?"」

 

「・・・・・・分からない。」

 

サオリは、苦しげに目を伏せた

 

「アツコを連れ去られてから、すぐに襲撃を受けた・・・・・・その時から、消息が途絶えている」

 

「"・・・・・・"」

 

「もしかしたら、まだアリウスの生徒に追われているかもしれない。」

 

先生は、頷いた

 

「"連れ去られたアツコが、どこにいるかは分かる?"」

 

「・・・・・・おそらく。」

 

サオリは、少しだけ顔を上げた

 

「アリウス自治区にある、アリウス・バシリカ。」

 

「"・・・・・・バシリカ。"」

 

「その地下に、彼女が用意した秘密の至聖所がある。」

 

サオリは、雨に濡れた路地の奥を見つめた

 

「・・・・・・おそらく、そこだろう。」

 

先生は、一度考え込むように視線を落とした

 

「"そっか・・・・・・"」

 

そして

 

「"ちなみに、どうしてそこにアツコを連れて行ったかは分かる?"」

 

サオリは、ゆっくりと首を横に振った

 

「そこまでは分からない。」

「あそこも、以前から姫のために準備された場所としか・・・」

 

サオリの手が、僅かに震えた

 

「ただ・・・アツコは以前から、いつかそこで生贄に捧げられるのだと口にしていた。」

 

先生の表情が、険しくなる

 

「"・・・・・・生贄。"」

 

「ああ。」

 

サオリは、唇を噛んだ

 

「彼女は・・・明日の夜明けと共に、儀式を行うそうだ。」

「アツコに残された時間は、もう無いかもしれない。」

 

雨音が、少し強くなった

 

先生は、しばらく黙っていた

 

そして

 

「"・・・・・・うん。"」

 

ゆっくりと顔を上げる。

 

「"状況は、大体把握したよ。"」

 

サオリが、先生を見つめる

 

先生は、そのまま隣に立つおっさんへ顔を向けた

 

「"・・・・・・アンラさん。"」

 

「・・・・・・言わんぞ。」

 

「"・・・・・・"」

 

先生が、少しだけ目を細めた

 

「"まだ何も聞いていませんよ?"」

 

「聞かれる前から分かっとるわ。」

 

おっさんは、肩をすくめた

 

「どうせ、アリウス自治区の場所やら、」

「バシリカまでの道やら、そこら辺の情報を出せっちゅう話やろ。」

 

「"・・・・・・"」

 

先生は、少しだけ困ったように笑った

 

「"アツコの命がかかってるのに、ですか?"」

 

「先生なら、おっさんの情報が無くても必ず辿り着いてみせる。せやろ?」

 

先生は、返事をしなかった

ただ、小さく息を吐いた

 

「"・・・・・・はぁ。"」

 

そして、少しだけ笑う。

 

「"その言い方は、ずるいですね・・・"」

 

「せやろ?」

 

おっさんは、悪びれもせずに笑った

 

「先生が自分で考えて辿り着いた答えなら、それはそれでええ。」

 

「"・・・・・・もう。"」

 

先生は、呆れたように肩を落とした

 

けれど

 

おっさんは、そこで一度だけサオリへ視線を向けた

 

「まぁ、サオリのために一個だけ情報を出したるとしたら・・・」

 

サオリが、顔を上げる

 

「・・・何だ?」

 

「よほどのド三流のゴミ術者でもない限り、儀式の条件は綿密に決められとる。」

 

「・・・・・・」

 

「せやから、決められた条件は絶対に厳守せんといけん。」

 

先生も、真剣な表情で聞いていた

 

おっさんは、空を見上げる

 

厚い雲に覆われた夜空

 

雨を降らせ続ける雲の向こうには、月も星も見えない

 

「夜明けって言うなら・・・・・・本当に夜明けや」

 

「・・・・・・」

 

「つまり、朝日やら光やら、そういうもんが儀式の条件になっとる可能性が高い。」

 

サオリは、僅かに目を見開いた

 

「・・・・・・では。」

 

「ああ。」

 

おっさんは、軽く頷いた。

 

「少なくとも、今すぐ儀式が始まるわけやない。」

 

一拍

 

「そこは安心したらええで。」

 

先生は、ほっと息を吐いた

 

「"・・・・・・ありがとうございます。"」

 

おっさんは、軽く手を振った

 

「礼はええ。」

 

そして先生は、サオリへ向き直った

 

「"さ。サオリ"」

 

「・・・・・・ああ。」

 

先生は、まっすぐ彼女を見つめる

 

「"アツコを助けにいこっか。"」

 

「・・・・・・!」

 

サオリの目が、見開かれた

 

先生は、続ける

 

「"でも、その前にまずはスクワッドの皆を探すところからだね!"」

 

サオリは、信じられないものを見るような顔で先生を見た。

 

「・・・ほ、本当に・・・?」

 

声が、震える

 

「・・・手を貸して、くれるのか・・・?」

 

先生は、当たり前のように頷いた

 

「"生徒のお願いは、無碍にできないからね。"」

 

「・・・・・・っ!」

 

サオリは、何かを言おうとして

言葉が出てこなかった

 

やがて、ようやく声を絞り出す

 

「・・・・・・それだけの理由で・・・・・・?」

 

先生は、微笑んだまま頷く

 

「"うん。"」

 

サオリは、目を見開いたまま、ゆっくりと首を振った

 

「そんな・・・・・・」

 

そして

 

「・・・・・・忘れたのか?」

 

その声に、僅かな怒りが滲む

 

「私は、お前を撃ったんだぞ!」

 

先生は、静かにサオリを見つめていた

その横から、おっさんが口を挟む

 

「まぁ、この先生アホやからな。」

 

先生が、ぎょっとした顔で振り向く

 

「"アンラさん!?"」

 

おっさんは、気にせず続けた

 

「損得勘定で動くタイプやないし、根っからの教師やさかいな。」

 

「・・・・・・」

 

「それに、お前さん。」

 

サオリへ視線を向ける

 

「ケジメを付けるために、先生と同じところを自分で撃ったんやろ?」

 

サオリは、黙っていた

 

「その覚悟も含めて、先生はお前さんを生徒やと言うて、手ぇ貸すことにしとるんよ。」

 

おっさんは、先生へ目を向けた

 

「ま、それにおっさんも。」

 

「・・・・・・?」

 

「アズサから、お前らのことを頼まれたさかいな。」

 

サオリの目が、僅かに揺れる

 

「・・・・・・アズサが?」

 

「せや。」

 

おっさんは、軽く笑った

 

「手伝ったるよ。」

 

先生は、呆れたようにため息をついた

 

「"・・・余計なこと言わなくていいんです。"」

 

「何やねん。」

 

「"私が言おうとしていたんですから。"」

 

「ほーん。」

 

先生は、サオリへ向き直った

 

「"・・・でも、後でサオリは説教だよ。"」

 

「・・・・・・え?」

 

「"自分で自分のお腹を撃つなんて。"」

 

先生は、少しだけ眉を下げた

 

「"そんなこと、二度としちゃダメだからね。"」

 

サオリは、少しだけ目を伏せた

 

「・・・・・・ああ。」

 

「"それと、その爆弾は没収するからね!"」

 

サオリは、地面に置いた爆弾へ目を向けた

 

「あ、ああ。約束通りだ。」

 

そう言って、サオリは先生へ近づく

コートの内側から、小さな起爆装置を取り出した

 

そして

 

先生の前へ差し出す

 

「・・・これが、起爆装置だ。」

 

先生は、手を伸ばしかけた

 

しかし、サオリはそのまま続けた。

 

「いつでも、これを押すと良い。」

 

「"・・・・・・"」

 

「私の命は、お前に預ける。」

 

先生は、受け取った起爆装置をじっと見つめた

 

そして

 

「"起爆装置だけじゃなくて、全部だよ。"」

 

「・・・・・・え?」

 

「"爆弾も、全部没収。"」

 

サオリが、目を見開く

 

「ば、爆弾も・・・・・・?」

 

先生は、にっこりと笑った

 

「"うん。全部。"」

 

「・・・・・・」

 

サオリは、少しだけ困惑したように視線を泳がせる

 

そして

 

「・・・・・・分かった。」

 

小さく頷いた

 

「先生がそう言うのなら・・・」

 

サオリは、懐からヘイロー破壊爆弾を取り出し

それを、先生へ渡す

 

先生は、両手で受け取った

 

「"ありがとう。"」

 

サオリは、少しだけ表情を和らげた

 

「だが、安心していい。」

 

先生が顔を上げる

 

サオリは、真面目な顔で説明した

 

「その起爆装置なしでは、それは絶対に爆発しない。」

 

「"・・・そうなんだ。"」

 

その横で、おっさんは爆弾をじっと見つめていた

 

「・・・・・・」

 

そして

 

「プラスチック爆弾みてーやな、コレ。」

 

ぼそりと呟く

先生は、受け取った爆弾を確認しながら頷いた

 

「"それは良かった。"」

 

「・・・・・・?」

 

「"生徒が危険物を持っているのを、見過ごすわけにはいかないからね。"」

 

「・・・・・・」

 

おっさんは、思わず先生を見た

 

「いや、それキヴォトスで言うたところでやぞ。」

 

「"・・・・・・え?"」

 

「危険物しか持っとらんぞ、コイツら。」

 

その瞬間

 

ゴスッ!!

 

「ウッ!?」

 

おっさんの横腹に、先生の肘がめり込んだ

 

「"・・・アンラさん。"」

 

「・・・ぐっ・・・魔力障壁を気軽にホイホイ無視しよってからに・・・!」

 

「"余計なことを言わない。"」

 

先生は、無言でおっさんへ爆弾と起爆装置を差し出した

おっさんも、ため息を付きつつも何も言わずにそれを受け取る

 

サオリは、二人のやり取りを見て、ぽかんとしていた

 

「・・・・・・?」

 

・・・・・・何なんだ、この二人は

 

そんな疑問が、顔に書いてあるようやった

おっさんは、受け取った爆弾と起爆装置を眺める

 

「・・・・・・」

 

ふむ、なるほどな

 

おっさんは、爆弾と起爆装置を軽く上へ放り投げた

 

「・・・・・・え?」

 

サオリが、目を見開く

 

同時におっさんは、左腕を空へ掲げた

掌を、落ちてくる爆弾へ向ける

 

その瞬間掌の前に、幾重もの魔法陣が浮かび上がった

白い光を放つ魔法陣

それぞれが、異なる角度で高速回転を始める

 

カチリ

 

カチリ

 

カチリ

 

まるで歯車が噛み合うように、複数の陣が重なり合っていく

その中心へ、魔力が集中していった

 

白

 

赤

 

そして

 

黒へと色が変わっていき

魔法陣の中心に、黒い光が生まれた

 

空気が僅かに震える

 

雨粒が、その周辺だけ弾かれるように散った

 

「"・・・アンラさん?"」

 

先生が、少しだけ目を細める

 

サオリは、何が起きているのか分からず、ただその光景を見つめていた

 

おっさんは、空中へ掲げた手を動かさない

 

そして

 

「(font:102)【裂光】《/font》《グレア》」

 

その一言と同時に黒い一筋の光が、空へ向かって伸びた

音は、ほとんどない

 

ただ、光が通り過ぎた瞬間

空中にあった爆弾と起爆装置が、

破片も、煙も、爆発音すらも残らさず跡形もなく消え去った

 

ただ、雨だけが再び降り注ぐ

 

おっさんは、腕を下ろした

 

「・・・うし。」

 

軽く肩を回す

 

「一仕事終わり。」

 

「・・・・・・」

 

サオリは、完全に呆然としていた

 

「な・・・・・・何を・・・・・・!?」

 

先生は、特に驚く様子もなく、傘を持ち直した

 

「"さて。"」

 

そして、前を向く

 

「"まずはミサキとヒヨリと合流するよ。"」

 

サオリは、まだ空を見上げていた

 

「・・・・・・」

 

先生は、そんなサオリへ声を掛ける

 

「"夜明けまで時間はあまりないから、急ごう。"」

 

サオリは、ゆっくりと先生へ視線を戻した

 

「・・・・・・一体、今のは・・・・・・」

 

「"歩きながら説明するね。"」

 

先生は、そう言って歩き始めた

おっさんも、その後ろへ続く

 

サオリだけが、しばらくその場に立ち尽くしていた

 

・・・・・・

 

やがて

 

「・・・・・・ちょ、ちょっと待ってくれ!」

 

慌てて、二人の後を追い始める

 

「私は、まだ理由を聞いて・・・・・・!」

 

しかし、先生も、おっさんも止まらなかった

サオリは、少しだけ足を速める

 

「・・・・・・待ってくれ!!」

 

その声が、雨の降る路地に響いた

 

 

 

 

 

 

 

【トリニティ郊外・路地裏】

 

「・・・・・・ほんで。」

 

しばらく歩いたところで、おっさんは先生へ声を掛けた

 

「二人の場所、分かっとるんか?」

 

先生は、前を向いたまま歩いていた

その足取りには、迷いがない

 

「"ふふ。"」

 

小さく笑う

 

「"教えたら、未来が変わっちゃうので教えません。"」

 

「・・・・・・」

 

おっさんは、苦虫を噛み潰したような顔で先生を見た

 

「・・・・・・お前なぁ。」

 

先生は、振り返ってにっこりと笑った

 

「"たまには、私にも秘密があっていいでしょう?"」

 

「いや、そういう話ちゃうやろ。」

 

「"ふふっ。"」

 

先生は、楽しそうに笑った

 

・・・・・・ほんま、完全に仕返しのつもりやなコイツ・・・

 

おっさんは、小さく息を吐いた

 

「まぁ、ええけどな。」

 

「"ありがとうございます。"」

 

「せやけど、あんまり遠回りはさせんといてや。」

 

「"大丈夫です。ちゃんと間に合いますから。"」

 

その言葉に、おっさんは少しだけ目を細めた

 

・・・なるほど

先生はやっぱり以前の周回で二人の場所は知っとるっていう訳か・・・

 

おっさんは、傘を少し傾けて前方を見た

雨は、まだ降り続いている

夜の路地は暗く、街灯の光も途切れ途切れやった

 

濡れた地面に、三人分の足音が響く

 

先生

 

おっさん

 

そして、少し後ろを歩くサオリ

 

彼女は、まだ腹部を押さえながら歩いとる

先ほど自分で撃ち込んだ銃弾の衝撃が、相当堪えとるんやろう

 

それでも

 

一歩も遅れまいと、必死についてきていた

 

・・・・・・まぁ

今は無理してでも、進むしかないしな

 

サオリにとって、アツコはそれほど大切な存在やしな

おっさんは、先ほどの土下座を思い出した

 

命を差し出し

自分の命を握ってくれと言う

 

そこまでして、仲間を助けようとする

その覚悟そのものを否定するつもりはない

 

せやけど、ガキが自分の命を軽く扱うんは、いただけんな

あとで先生が説教する言うとったが

おっさんからも、一言くらい言うてやる必要がありそうや

 

「・・・・・・」

 

そんなことを考えていた、その時だった

 

遠くから

 

ダァンッ!!

 

乾いた銃声が響いた

 

「・・・・・・!」

 

おっさんが顔を上げ

先生も、すぐに足を止めた

 

もう一発

 

ダァンッ!!

 

今度は、少しだけ近い

 

「"・・・・・・銃声!"」

 

先生が声を上げる

 

その瞬間

後ろを歩いていたサオリが、弾かれたように駆け出した

 

「・・・・・・っ!」

 

「"サオリ!"」

 

先生が呼び止める

しかし、サオリは止まらない

腹部の痛みなど、もう気にしていないようだった

サオリは雨の路地を駆け抜けていく

 

「・・・・・・行こか。」

 

おっさんは、先生へ短く声を掛けた

 

「"はい!"」

 

先生も走り出す

 

おっさんは、傘を畳み、先生の後を追った

濡れた地面を蹴る

街灯の光が、視界の端を流れていく

 

 

 

 

 

 

 

路地をいくつか曲がった先

そこには、複数の人影があった

 

「・・・・・・!」

 

おっさんは、足を緩めずに目を向ける

 

薄暗い路地の奥

 

アリウスの制服を着た生徒達が、ひとりの少女を取り囲んでいた

 

長い髪

 

大きな鞄

 

そして

 

どこか怯えたような表情

 

・・・・・・ヒヨリか

 

「・・・・・・っ!」

 

サオリが、真っ先に飛び込んだ

 

「ヒヨリ!!」

 

その声に、取り囲んでいたアリウスの生徒達が振り返る

 

「・・・・・・っ!?」

 

「リーダー!?」

 

ヒヨリも、驚いたように目を見開いた

 

しかし

 

サオリは、構わず踏み込んだ

濡れた地面を滑るように低く接近する

 

そして

 

一人のアリウス生の側頭部へ、鋭い蹴りを叩き込んだ

 

「ガっ・・・!」

 

その生徒が、横へ吹き飛ぶ

サオリはそのまま体勢を崩さず、隣の生徒へ銃口を向けた

 

ダダダンッ!

 

三発、胸に二発と頭に一発

その三発をくらったアリウス生が意識を失う

 

「・・・・・・っ!」

 

サオリは、さらに前へ出ようとする

しかし、その視界の端に、動く影はなかった

 

・・・・・・?

 

サオリが、わずかに目を向ける

 

そこには

すでに、地面へ倒れているアリウスの生徒が四人

 

全員、気絶していた

 

その傍らに立っていたおっさんが、軽く手を振る

 

「おう。こっちは終わったで。」

 

「・・・・・・!」

 

サオリは、ほんの一瞬だけ目を見開いた

 

・・・・・・いつの間に

 

おっさんが処理した四人でミサキを囲っていたアリウス生は全員制圧されていた

サオリは、すぐにヒヨリの方へ振り返り

 

「ヒヨリ!大丈夫か!?」

 

駆け寄る

 

ヒヨリは、まだ驚いた顔をしていた

 

「・・・・・・リ、リーダー・・・・・・」

 

か細い声

その姿を見て、サオリは彼女の身体を確認する

 

服は濡れている

 

腕や頬には擦り傷がある

しかし、大きな怪我はなさそうだった

 

「・・・・・・よかった。」

 

サオリが、ほっと息を吐く

 

「無事だったか・・・」

 

ヒヨリは、戸惑ったようにサオリを見上げた。

 

「・・・どうして、ここが・・・?」

 

サオリが答えようとした、その時

 

「"ヒヨリ。"」

 

先生が、少しだけ息を切らしながら声を掛けた

 

「"無事でよかった。"」

 

「・・・・・・」

 

ヒヨリの身体が、ぴたりと固まった

まるで、時間が止まったかのように

 

「・・・・・・」

 

先生は、首を傾げる

 

「"・・・・・・ヒヨリ?"」

 

ヒヨリは、ゆっくりと顔を動かした

 

先生を見る

 

もう一度、先生を見る

 

そして

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

沈黙

 

「・・・・・・・・え?」

 

ヒヨリの目が、これでもかというほど見開かれた

 

「え、ええぇぇっ!!?」

 

叫び声が、雨の路地に響き渡った

 

「シャ、シャーレの先生が・・・!?」

 

先生は、少しだけ苦笑する

 

「"うん。久しぶりだね、ヒヨリ。"」

 

「ど、どうして・・・!?」

 

ヒヨリは、サオリと先生を交互に見た

 

そして

 

「リ、リーダーと一緒にいるんですか・・・!?」

 

サオリは、少しだけ目を伏せた

 

「それは・・・」

 

しかし、ヒヨリは、その言葉を遮るように両手を上げた

 

「つ、ついに・・・・・・!」

 

「"・・・・・・?"」

 

「ついに天罰の時がやって来てしまったんですね・・・!?」

 

先生が、目を瞬かせる

 

「"・・・・・・え?"」

 

ヒヨリは、がくがくと震え始めた

 

「やっぱり私は終わりなんだ・・・・・・」

 

「"ヒヨリ?"」

 

「そうですよね・・・よくよく考えてみたら・・・!」

 

その目には、すでに涙が浮かんでいた

 

「チョーカーが外れても、先生は私達を自らの手で処罰したいですよね・・・・・・!」

 

「"・・・・・・ええ?"」

 

「わ、私達を捕まえて、シャーレにあると噂の地下牢に入れる気なんですね!?」

 

先生が、完全に困惑する

 

「"地下牢・・・?"」

 

ヒヨリは、勢いよく頷いた

 

「そうです!!」

 

「"・・・・・・"」

 

「シャーレに反抗した子達のすすり泣き、」

「夜な夜な聞こえるという・・・・・・」

「いわくつきの、あの場所に・・・・・・!」

 

先生は、思わずおっさんを見た

 

「"・・・・・・ええぇ・・・・・・何それ、私も初めて聞いた・・・・・・"」

 

おっさんは、ヒヨリを見ながら呆れたように呟いた

 

「・・・なんつうか。」

 

「"・・・・・・?"」

 

「洗脳が薄まったら、元の愉快な性格に戻ったな、コイツ・・・」

 

「"・・・・・・アンラさん。"」

 

先生が、苦笑いを浮かべる

しかし、ヒヨリの妄想は止まらなかった

 

「うわぁぁぁぁぁぁああん!!」

 

両手で頭を抱える

 

「もう終わりです・・・・・・!」

 

「"ヒヨリ、落ち着いて。"」

 

「まだやりたいことも・・・・・・!」

「次の支援物資で頼む予定だったファッション雑誌もあったのに・・・!」

 

「・・・・・・」

 

サオリが、無言でヒヨリを見つめる

 

おっさんは、口元を押さえた

 

・・・・・・いやほんま、相変わらずやな

 

「・・・・・・」

 

ヒヨリは、涙目のまま先生を見た

 

そして

 

「・・・仮に、そうだとしても。」

 

先生が、少しだけ首を傾げる

 

「"・・・・・・?"」

 

「リーダーが先生と一緒にいるのは、どうしてでしょうか・・・?」

 

サオリが、僅かに眉を寄せた

 

「ヒヨリ・・・・・・」

 

しかし、ヒヨリは、何かを思いついたように顔を上げた

 

「・・・はっ!」

 

そして

 

「私、完全に理解しました。」

 

「・・・いや、何をや。」

 

おっさんが小さく呟く

 

ヒヨリは、サオリを指差した。

 

「リーダーは・・・!」

 

「・・・・・・」

 

「シャーレの先生に弱みを握られて、脅されているんですね!?」

 

「・・・・・・は?」

 

サオリが、固まった

 

ヒヨリは、気の毒そうに目を伏せた

 

「リーダーは、先生を撃ったことを凄く負い目に感じてましたもんね・・・」

 

「・・・・・・」

 

「可哀想に・・・・・・」

 

「ヒヨリ。」

 

サオリの声が、低くなる

 

「何だ、その解釈は・・・・・・」

 

しかし、ヒヨリは止まらなかった

 

「先生に脅されて、仲間を売るように命令されて・・・・・・!」

 

「・・・・・・違う。」

 

「そうですよね・・・・・・!リーダーは、そんな人じゃないですもんね・・・・・・!」

 

「ヒヨリ・・・・・・!」

 

そこで、先生が手を上げた

 

「"ヒヨリ、ちょっと待って。"」

 

ヒヨリが、びくっと肩を震わせる

 

「・・・・・・は、はい。」

 

先生は、優しく微笑んだ

 

「"私は、ヒヨリを助けに来たんだよ。"」

 

「・・・・・・え?」

 

ヒヨリの動きが止まった。

 

「・・・・・・わ、私を・・・・・・ですか?」

 

「"うん。"」

 

「・・・・・・何故・・・・・・?」

 

ヒヨリは、困惑したように先生を見つめた

 

そして

 

「も、もしかして・・・・・・」

 

「"・・・・・・?"」

 

「記憶喪失とかですか?」

 

先生が、目を丸くする

 

「"・・・・・・え?"」

 

ヒヨリは、真剣な顔で続けた

 

「私達が誰なのか、分からないとか・・・・・・?」

 

先生は、首を横に振った

 

「"違うよ。"」

 

そして

 

サオリへ視線を向け

 

サオリは、ゆっくりと頷き

真剣な表情で告げた

 

「先生が、私達の手助けをしてくれる。」

 

「・・・・・・・・・・!?」

 

ヒヨリの口が、ぽかんと開いた

 

「・・・・・・せ、先生が・・・・・・?」

 

「そうだ。」

 

サオリは、頷いた

 

「事情は、後で説明する。」

 

先生は、ヒヨリの目線に合わせるように、少しだけ身を屈めた

 

「"事情は聞いたよ。"」

 

「・・・・・・」

 

「"一緒にアツコを助けよう。"」

 

ヒヨリは、しばらく先生の顔を見つめていた

 

そしてゆっくりと俯いた

 

「・・・そうだ」

 

小さな声

 

「・・・・・・姫ちゃん。」

 

サオリが、静かに頷く。

 

「・・・・・・ああ。」

 

ヒヨリは、濡れた袖を握りしめた

 

「・・・・・・果たして。」

 

「・・・・・・」

 

「私達で・・・・・・姫ちゃんを助けられるんでしょうか・・・・・・?」

 

その言葉に

 

おっさんは、ぽつりと呟いた

 

「まぁ・・・・・・いけるか、いけんかで言うなら。」

「余裕やとは思うが・・・・・・」

 

しかし、ヒヨリには聞こえなかったらしい

 

彼女は、そのまま言葉を続けた

 

「・・・・・・リーダーの居場所を教えれば、アリウス自治区に戻れるように便宜を図ると、彼女に言われました・・・・・・」

 

その瞬間

 

サオリの身体が、ぴたりと固まった

 

「・・・・・・っ!?」

 

ヒヨリは、俯いたまま続ける

 

「わ、私はリーダーの言葉に従っただけの存在だから・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「情状酌量の余地があるのだ、と言っていて・・・・・・」

 

ヒヨリは、力なく笑った

 

「・・・・・・へへ・・・・・・」

 

サオリは、しばらく黙っていた

 

そして

 

覚悟を決めたような表情で、ゆっくりと頷いた

 

「・・・・・・そうか。」

 

ヒヨリが、顔を上げる

 

「・・・・・・?」

 

サオリは、真剣な声で言った

 

「ならば、そうすると良い。」

 

「・・・・・・え?」

 

「私の居場所を彼女に伝えて、そのまま自治区に戻れ。」

 

ヒヨリの目が、見開かれる

 

「・・・・・・は、はい!?」

 

サオリは、静かに続ける。

 

「そうすれば、ヒヨリ。」

 

「・・・・・・」

 

「少なくとも、お前に迷惑は掛からない。」

 

「・・・・・・」

 

サオリは、少しだけ目を伏せた

 

「いつか、こんな日が来ると分かっていた。」

 

「・・・・・・」

 

「お前は今まで、よく私に付き合ってくれた。」

 

ヒヨリは、きょとんとした顔をしていた

 

「・・・・・・ええと。」

 

「・・・・・・」

 

「その・・・・・・もう断ったんですけど・・・・・・。」

 

「・・・・・・」

 

サオリが、固まった

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

長い沈黙が流れた

 

 

 

その隣で

おっさんの肩が、ぷるぷると震え始めた

 

「・・・・・・っ。」

 

先生が、ちらりとおっさんを見る

 

「"・・・・・・?"」

 

おっさんは、必死に口元を押さえていた

しかし限界だった

 

「ヒィィィィー!!」

 

腹を抱えて笑い出す

 

「腹が痛い!!」

 

「"・・・アンラさん!?"」

 

「くふっ・・・・・・くっくっくっ・・・・・・!!」

 

おっさんは、膝に手をつきながら笑い転げた

 

「お前・・・・・・!!」

 

「・・・・・・?」

 

「今の流れで、それ言うんかい・・・・・・!!」

 

ヒヨリは、きょとんとしていた

先生は、深い深いため息をついた

 

「"はぁぁぁ・・・・・・"」

 

そして

 

ジトッとした目で、おっさんを見る

 

「"・・・・・・アンラさん。"」

 

「・・・・・・っ、くふっ。」

 

「"流石に、ちょっと我慢しましょうよ・・・・・・"」

 

「いや、無理や・・・・・・!」

 

おっさんは、涙目になりながら笑っていた

 

「これは・・・あかん・・・・・・!」

 

一方サオリは、ヒヨリの言葉を受けて、完全に固まっていた

 

「・・・・・・」

 

その表情は、先ほどまでの覚悟に満ちたものから、何とも言えない困惑へ変わっている

ヒヨリは、そんなサオリを見て、少しだけ眉を寄せた

 

「・・・・・・な、何ですか?」

 

サオリは、何も答えない

 

「・・・・・・」

 

ヒヨリは、さらに不満そうに頬を膨らませた

 

「な、なんですか、その・・・・・・」

 

一拍

 

「裏切者に理解を示すみたいなムーブは!!」

 

「・・・・・・」

 

「私って、そんなに簡単に裏切ると思われてたんですか!?」

 

サオリは、何かを言おうとして

しかし、何も言えなかった

 

おっさんは、まだ肩を震わせている

 

先生は、額に手を当てた

 

「"・・・・・・もう。"」

 

ヒヨリは、少しだけ怒った様子で続ける

 

「そもそも、彼女の言葉が本当かどうかも分かりませんし・・・・・・。」

 

「・・・・・・」

 

「それに」

 

ヒヨリは、サオリを見つめた

 

「もう私達は、同じ船に乗った運命共同体のようなものですし・・・・・・」

 

サオリの表情が、少しだけ変わる

 

「・・・・・・ヒヨリ。」

 

「私一人で自治区に戻ったって、何の意味もありません。」

 

ヒヨリは、少しだけ目を伏せた

 

「それに・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「私一人が救われたとして、アツコちゃんは・・・・・・」

 

その声が、僅かに震える

 

「・・・・・・わ、私も。」

 

ヒヨリは、ゆっくりと顔を上げた

 

「皆でアツコちゃんを・・・・・・姫ちゃんを助けられるなら、その方が良いと思うんです。」

 

サオリは、黙って聞いていた

ヒヨリは、少しだけ不安そうに首を傾げた。

 

「・・・・・・それは、リーダーだって同じじゃないですか?」

 

「・・・・・・」

 

「だから、私を助けに来たんですよね?」

 

サオリは、しばらく何も言わなかった

雨が、二人の間に降り続いている

 

やがて、サオリはゆっくりと顔を上げた

 

「・・・・・・ああ。」

 

その声には、確かな意思があった

 

「・・・そうだ。」

 

ヒヨリが、ほっとしたように笑い

サオリは、少しだけ頷いた

 

「詳しい話は、全員集まってからにしよう。」

 

「・・・・・・はい。」

 

「まずはミサキを探さないと。」

 

ヒヨリは、少しだけ考え込むように目を伏せた

 

「・・・・・・そうですね。」

 

そして。

 

「ミサキさんなら、この状況をもう少し上手く説明してくれるかもしれませんし・・・」

 

サオリが頷く

 

「・・・・・・ああ。」

 

その様子を見ながら

おっさんは、まだ少しだけ笑いを堪えていた。

 

「・・・・・・くふっ。」

 

先生が、呆れたようにこちらを見る。

 

「"・・・・・・アンラさん。"」

 

「いや、すまんすまん。」

 

おっさんは、ようやく呼吸を整え

そしてヒヨリへ視線を向ける

 

「せやな。」

 

「・・・・・・?」

 

「あと、ヒヨリ。」

 

ヒヨリが顔を上げた

 

「・・・・・・はい?」

 

おっさんは、まだ少しだけ笑みを残したまま言った

 

「お前さん、さっき笑わしてくれた礼や。」

 

「・・・・・・え?」

 

「次の補給物資、ファッション雑誌二冊にしたるよ。」

 

「・・・・・・・・・・え?」

 

ヒヨリの目が、丸くなった

 

「・・・・・・ほ、補給物資・・・・・・?」

 

サオリは、少しだけ苦笑した

 

「・・・その人が」

 

ヒヨリは、サオリを見上げる

サオリは、おっさんへ視線を向けた

 

「この二年、ずっとアリウスに物資を届けてくれていた人だ。」

 

「・・・・・・えぇぇぇ!?」

 

ヒヨリの目が、これ以上ないほど見開かれた。

 

「じゃ、じゃじゃー・・・・・・!!」

 

おっさんは、肩をすくめる

 

「何や?」

 

ヒヨリが、勢いよく両手を上げた

 

「お、お菓子も欲しいです!!」

 

「・・・・・・」

 

サオリが、少しだけ呆れた顔をし

先生は、思わず笑ってしまう

 

おっさんは、はっはっは、と笑いながら頷いた

 

「はいはい。」

 

「・・・・・・!」

 

「ミサキを回収して、アツコを救った後に、好きなだけ食わしたる。」

 

「・・・・・・・・・・!!」

 

その瞬間

ヒヨリの顔が、ぱっと明るくなった

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「おう。」

 

「・・・・・・お、お菓子・・・・・・!」

 

ヒヨリは、両手を胸の前でぎゅっと握った

そしてそのまま、妄想の世界へ旅立っていった

 

「・・・・・・クッキーに、チョコレートに・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「それから・・・・・・うへへ・・・・・・」

 

口元から、涎が垂れそうになっている

 

おっさんは、苦笑した

 

「・・・・・・ほんま、分かりやすい奴やな

 

橋へ近づいたところで

おっさんは、ふと足を止めた

 

「・・・・・・さて。」

 

先生が振り返る

 

「"アンラさん?"」

 

おっさんは、橋の下を覗き込むようにして言った

 

「念のため、おっさんは橋の下側におっとくわ。」

 

先生は、少しだけ首を傾げる

 

「"・・・・・・橋の下ですか?"」

 

「せや。」

 

おっさんは、軽く頷いた

 

「ミサキが飛び降りんようにな。」

 

先生の表情が、少しだけ真剣になる

 

「"・・・・・・そうですね。"」

 

サオリも、橋の方へ視線を向けた

 

「・・・・・・そうだな。」

 

ヒヨリは、不安そうに二人を見比べた

 

「ミ、ミサキさん・・・・・・また・・・・・・?」

 

先生は、ヒヨリの肩へそっと手を置いた

 

「"大丈夫。今は、私達がいるから。"」

 

「・・・・・・はい。」

 

おっさんは、軽く手を振った

 

「ほな、先に行っとくで。」

 

「"お願いします、アンラさん。"」

 

「おう。」

 

おっさんは、橋の脇から下へ続く斜面へ足を向けた

 

濡れた地面

 

崩れかけた石段

 

橋の下へ降りていく道は、長い間使われていないらしく、雑草が生い茂っている

 

おっさんは、そんな道を軽く歩き、橋の真下まで移動した

 

そして

 

「よいしょっと・・・」

 

軽く地面を蹴った

 

身体が、ふわりと宙へ浮く

 

そのまま、橋の裏側へ近づいていき

空中に足場を作るように、何もない虚空に足を置く

 

「・・・・・・よし。」

 

おっさんは、満足げに頷いた

 

そのまま、橋の裏の虚空を歩き始める

 

頭上には、濡れた橋の床板

足元には、暗い川

 

雨粒が橋の隙間から落ち、川面へ小さな波紋を作っている

 

・・・・・・おっさんは、下を覗き込んだ

川の水深は、目測で五メートルほどやろうか

 

流れも結構早いし

この高さから落ちれば、普通なら無事では済まんやろな

 

ましてや

 

今、探しとる相手は

 

・・・・・・ミサキや

 

おっさんは、少しだけ眉をひそめた

 

・・・・・・自傷癖・・・結局、治らんかったよなぁ

 

アリウスでの二年間

物資を届ける中で、ミサキとは経過観察というていで何度か顔を合わせてきていた

 

おっさんは、橋の裏側を歩きながら、静かに息を吐いた

 

「・・・・・・まったく。」

 

そんなことを呟いた、その時やった

 

頭上

 

橋の上から、少女の声が聞こえてきた

 

「・・・・・・でも。」

 

おっさんは、足を止める

 

「だからと言って・・・・・・私は変わらないよ。」

 

・・・ミサキの声や

おっさんは、ゆっくりと顔を上げた

 

橋の端

 

欄干の近くに、ひとりの少女が立っている

 

黒い髪

 

背中にリュック

 

手には、ロケラン

 

その背中は、おっさん側、

橋の外に向けられていた

 

先生達の姿は、橋の中央にある

 

おっさんは、橋の主桁の側面に垂直に立ち、そっとミサキを覗き込んだ

 

・・・・・・

 

何やら、真面目な話をしとるらしい

声の調子からして、先生が説得を試みとるんやろう

 

ミサキは、橋の端に立ったまま、静かに続けた

 

「・・・・・・私は、もう十分分かってる。」

 

「・・・・・・。」

 

「私が何をしても、結局は変わらない。」

 

おっさんは、黙って聞いていた

 

「・・・・・・だから。」

 

ミサキは、欄干の向こうを見つめ

 

「"ミサキ。"」

 

先生の声がした

 

「"そこは危ない!"」

 

・・・・・・

 

おっさんは、少しだけ目を細めた

 

なるほど

 

原作通りミサキは、飛び降りようと橋の端へ立っていた

 

・・・・・・ほんま・・・目ぇ離せんな

おっさんは、主桁に垂直に立ち、ミサキの背後を見つめた

 

にしても・・・・・・ふむ

 

せっかくの再会や

ちょっとくらい、驚かしたってええやろ

 

「・・・・・・」

 

おっさんは、口元をにやりと歪めた

 

次の瞬間

 

「ミーサキちゃーん!!」

 

突然、ミサキの真後ろから、大声で呼びかけた

 

「あっそびましょー!!」

 

「・・・・・・っ!!!」

 

ミサキの身体が、びくんと跳ね

 

橋の端

 

誰もいるはずのない場所

その背後から、いきなり声を掛けられたのだ

 

「・・・・・・ひっ!?」

 

ミサキは、反射的に飛び退いた

その勢いのまま、先生達がいる方へ跳び下がる

 

「・・・・・・っ!!」

 

先生が、慌てて手を伸ばし

ミサキを捕まえる

 

「"ミサキ!!"」

 

サオリも、すぐに駆け寄る

 

 

 

ヒヨリは、目を見開いたまま固まっていた

 

そして

 

「・・・・・・」

 

橋の下から

 

おっさんが、ひょいっと顔を出した

 

「・・・・・・いやー!」

 

そのまま、橋の主桁の側面から上へ登っていき

 

「よいしょっと。」

 

橋の上へ姿を現す

 

そして、ニヤニヤと笑いながらミサキを見た

 

「ええ反応やったな、ミサキー!」

 

「・・・・・・」

 

「めっちゃおもろかったぞ!」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

ミサキは、無言だった

その顔から、表情が消えている

 

しかし次の瞬間

ミサキの手が、ゆっくりと武器へ伸びた

 

「・・・・・・っ!!」

 

巨大なミサイルランチャー

その銃口が、おっさんへ向けられそうになる

 

「ミサキ!!」

 

サオリが、即座に腕を掴んだ

 

「離して!!リーダー!!」

 

ミサキが、怒鳴る

 

「こいつは、一回これでぶっ飛ばさないと気が済まない!!!」

 

サオリは、必死にミサイルランチャーを抑えた

 

「気持ちは分かるが!!」

 

「・・・・・・っ!!」

 

「落ち着け、ミサキ!!」

 

「離して!!」

 

「駄目だ!!」

 

二人が揉み合う

 

その横で先生は、深い深いため息をついた

 

「"はぁぁぁ・・・・・・"」

 

そして

 

じとっとした目で、おっさんを見る

 

「"・・・・・・アンラさん。"」

 

「何や?」

 

「"もうちょっと、なんとか言うか無いんですか・・・・・・?"」

 

おっさんは、悪びれもせずに肩をすくめた

 

「いやー」

 

「"・・・・・・"」

 

「飛び降りようとしとったし、これが丁度ええと思ってな。」

 

「"・・・・・・"」

 

「あと、おもろいし。」

 

最後だけ、ぼそっと付け足す

 

「・・・・・・っ!!」

 

ミサキの肩が、さらに震えた

サオリは、必死にミサキを抑えながら声を上げる

 

「アンラさん!!」

 

「・・・・・・ん?」

 

「ミサキを煽らないでくれ!!」

 

「・・・・・・せやな。」

 

おっさんは、ようやく少しだけ表情を引き締めた

 

「悪かった悪かった。」

 

「"・・・・・・"」

 

先生は、再び深いため息をついた

 

「"・・・・・・はぁぁぁ・・・・・・"」

 

雨音だけが、しばらく橋の上に響いていた

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後

 

ようやくミサキが落ち着きを取り戻した

サオリがランチャーを下ろさせ、先生が間に入って話を聞く

ヒヨリは、まだ少しだけ怯えた様子で、先生の後ろに隠れていた

 

おっさんはというと

 

「・・・・・・ふんふん♪」

 

何事もなかったかのように、橋の欄干へ肘をついていた

 

ミサキは、そんなおっさんを睨みつけている

 

「・・・・・・」

 

おっさんは、その視線に気づいていた

せやけど、あえて目を合わせず

口笛を吹く

 

「・・・・・・ふーんふふーん♪」

 

「・・・・・・」

 

ミサキの眉間に、さらに深い皺が寄った

 

おっさんを視界から外しサオリを見る

 

「・・・・・・で、姫を助けるんだよね?」

 

サオリは、頷いた

 

「ああ。」

 

ミサキは、しばらく黙っていた

 

そして

 

「・・・・・・分かった。」

 

その声は、静かだった

 

「リーダーの命令なら、従う。」

 

サオリは、少しだけ目を伏せる

 

「・・・・・・ああ。頼んだ。」

 

ミサキは、再びおっさんへ視線を向けた

じっと睨みつけるように

 

「・・・・・・それに。」

 

「・・・・・・?」

 

「この大人がいるなら、確かにいけるかもね。」

 

おっさんは、目を逸らしたまま口笛を吹いていた

 

「・・・・・・ふーんふふーん♪」

 

「・・・・・・」

 

ミサキは、さらに目を細める

 

「・・・・・・聞こえてる?」

 

「・・・・・・ん?」

 

おっさんは、何食わぬ顔で振り返る

 

「何や?」

 

「・・・別に」

 

「そらよかった」

 

「・・・・・・」

 

先生が、呆れたように二人を見た

 

「"・・・アンラさん。"」

 

「何や。」

 

「"ミサキに、ちゃんと謝ってください。"」

 

「・・・・・・えー。」

 

「"えー、じゃありません。"」

 

おっさんは、肩をすくめた

 

「まぁ、すまんなぁ。ミサキ。」

 

ミサキは、じっとおっさんを見た

 

「・・・・・・」

 

「ちょっと驚かしただけや。」

 

「・・・・・・」

 

「悪かったって。」

 

ミサキは、しばらく黙っていた

 

そして

 

「・・・・・・次やったら、撃つ。」

 

「おう。そら怖いなぁ。」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・本当に撃つから。」

 

「はいはい。」

 

先生が、またもや額に手を当てた

 

「"・・・もう。"」

 

サオリが、間に入る

 

「・・・・・・ミサキ。」

 

「・・・・・・何?」

 

「今は、アツコを助けることに集中してくれ。」

 

ミサキは、少しだけ目を伏せた

 

「・・・分かってる。」

 

そして改めて先生を見る

 

「・・・先生。」

 

「"うん?"」

 

「アツコを助けるために、協力してくれるんだよね?」

 

先生は、はっきりと頷いた

 

「"もちろん。"」

 

ミサキは、その返事を聞いて小さく息を吐いた

 

「・・・・・・そっか。」

 

その表情が、僅かに和らぐ

 

「・・・・・・なら、説明する。」

 

ミサキは、濡れた髪を軽く払った。

 

「今から、アリウス自治区にあるバシリカの地下へ向かう。」

 

サオリが、頷く

 

「・・・・・・ああ。」

 

「ただし。」

 

ミサキは、橋の向こう側を指差した。

 

「この先の地下通路は、一定の周期で構造が変わる。」

 

先生が、話を黙って聞いている

 

「"・・・・・・"」

 

ミサキは、淡々と続けた

 

「今の構造が維持されているのは、あと九十分くらい。」

 

「"・・・・・・九十分"」

 

「それを過ぎると、通路の接続が変わる。」

 

先生は、すぐに時計を確認した

 

「"・・・・・・つまり。"」

 

「そう。」

 

ミサキは、頷いた

 

「零時まで、あと一時間半。」

 

サオリが、すぐに顔を上げた

 

「・・・・・・なるほど。」

 

その目に、再び強い意思が宿る

 

「急ぐとしよう。」

 

ミサキは、静かに頷いた

 

「・・・・・・うん。」

 

そして

 

「それまでに、入口へ辿り着かないと。」

 

先生は、少しだけ表情を引き締めた

 

「"・・・・・・分かった。"」

 

ヒヨリも、慌てて頷く

 

「は、はい・・・・・・!」

 

サオリは、全員を見渡した

 

「説明は、向かいながらする。」

「行くぞ。」

 

ヒヨリが、先頭へ出る

 

「こ、こっちです・・・・・・!」

 

先生も、その後に続いた

 

「"うん。分かった!案内お願いね!"」

 

ミサキが、ランチャーを背負い直す

サオリは、その隣に並んだ

 

そして

 

おっさんは、最後尾へ回った

 

「・・・・・・」

 

雨に濡れた橋

 

薄暗い路地

 

その先にある、アリウス自治区

 

・・・・・・さて

 

今のアリウスは、どうなっとるんやろな

おっさんは、黙ったまま先生達の背中を見つめた

これから向かう先には、ベアトリーチェがおる

 

アツコが捕らえられ

 

サオリ達は追い詰められ

そして、明日の夜明けには儀式が行われる

 

 

 

 

おっさんは、雨の中で目を細めた

 

原作の知識として知っとる筋書きと

原作なんぞに勿論出て来る事なんぞ無かった

おっさんの世界にあった洗脳の魔術刻印が刻まれたチョーカー

 

「・・・・・・まぁ。」

 

小さく呟く

 

「まずは、アツコを助けるところからやな。」

 

おっさんは、傘を開き直し、先生達の後を追った

雨は、まだ降り続いていた

 

そして

 

夜明けまでの時間は、刻一刻と迫っていた

 

 

 




【今日のゴリラ】

【トリニティ総合学園・要人用拘禁棟】

少女は、部屋の隅で膝を抱えて蹲っていた
白を基調とした、上等な調度品に囲まれた部屋

けれど、その美しい内装は今の彼女には何の意味も持たなかった
膝を抱える両腕も、身に纏った服も、べっとりと赤黒い血に染まっている

それは、彼女自身の血ではない
つい先ほどまで、その腕の中にいた少女の血だった

「・・・・・・」

ミカは、ただ床を見つめていた
耳には、部屋の外から聞こえてくる慌ただしい声が届いている

「セ、セイア様のご容態は・・・・・・!?」

「ダメです! 痙攣と吐血が止まらなくて・・・・・・!」

「至急、救護騎士団に連絡を!!」

「シスターフッドでも、どこでも構わないから、早く対処法を確認して!!」

「ナギサ様は!?」

「今、病院に移動中です! 他の方々にも連絡を取っていますが・・・・・・!」

「先生は!?」

「さっきから連絡が取れません!」

「・・・・・・ま、まさか、先生にも何か起きたのでは・・・・・・!?」

「不吉なことを言っていないで、連絡を続けなさい!!」

廊下の向こうから、誰かの悲鳴にも似た声が響いた

そして

「犯人は!! 聖園ミカですか!!?」

「・・・・・・!」

ミカの肩が、びくりと跳ねた

「やっぱり、あの魔女が・・・・・・!!」

ドンッ!!

扉が激しく叩かれる

「待ってください! ミカ様は何も・・・・・・!」

「彼女がセイア様の部屋を訪ねたから、こんなことが起きたのではありませんか!?」

「・・・・・・っ」

「絶対に、あの女が何かしたに決まっています!!」

ドンッ!!

先ほどよりも、さらに強い衝撃が扉を揺らした

「やめなさい!! 今ここで争ったところで、何も・・・・・・!」

「人殺し!!」

その言葉が、廊下に響き渡る

「この魔女め!! 出てきなさい!!」

ミカは、ゆっくりと顔を上げた

扉の向こうから、いくつもの声が重なって聞こえてくる

「聖園ミカ!! この極悪人!!」

「全部、貴女のせいよ!!」

「・・・・・・」

その瞬間

ミカの脳裏に、先ほどの光景が蘇った

赤く染まったセイアの顔
自分の腕の中で、苦しそうに咳き込む姿

何度も名前を呼んだ

何度も、何度も

けれど、セイアは答えてくれなかった

それどころか
彼女の口から出たのは、信じられない言葉だった

【アリウスが、先生を狙っている。】

【ミカ、君のせいで。】

「・・・・・・っ」

ミカの指先が、ぎゅっと握り込まれる

「・・・・・・わ、た、し・・・・・・」

声が、掠れた

「・・・・・・のせいで・・・・・・こう、なっちゃった・・・・・・んだね・・・・・・」

膝を抱える腕に、さらに力がこもる

「・・・・・・わたしのせい・・・・・・」

部屋の外では、まだ誰かが怒鳴っている
けれど、ミカの耳には、もうその声すら遠く感じられた

聞こえてくるのは、頭の中で繰り返されるセイアの言葉だけ

【ミカ、君のせいで。】

【ミカ、君のせいで。】

【ミカ、君のせいで。】

「・・・・・・」

ミカは、血に濡れた指を見つめた

・・・・・・もしかしたら

挽回できるチャンスがあるかもしれない

そんな風に、思っていた

今夜を過ぎたら

明日の朝には

ナギちゃんと

セイアちゃんと

先生と

みんなで一緒に

いつか、また

あの頃みたいに、笑い合えるんじゃないかって

「・・・・・・そのはずだったのに」

小さく、言葉が零れる

「・・・・・・どうして、こんな・・・・・・」

ミカは、顔を膝へ埋めた

「・・・・・・挽回のチャンスだなんて」

喉の奥から、乾いた笑いが漏れる

「そんな・・・・・・おとぎ話みたいなもの、あるはずがないのに・・・・・・」

自嘲するように、唇が歪んだ

「・・・・・・バカみたい。」

そう

バカだった

そんなものを信じてしまったから
もう一度、皆と笑える未来があると信じてしまったから

・・・・・・だから

「・・・・・・っ」

ミカのヘイローが、不規則に明滅した

薄桃色の銀河の様なヘイローに、黒いノイズが走る

一瞬だけ光が乱れ、すぐに元へ戻る

しかし、それは一度きりではなかった

「・・・・・・私が。」

ミカは、ゆっくりと顔を上げた

「・・・・・・私が、バカだから・・・・・・」

声が、少しずつ冷たくなる

「アリウスに・・・・・・サオリに・・・・・・利用されるばっかりで・・・・・・」

自分の両手を見つめる

その手で、何をしてきた?

セイアちゃんを傷つけた

ナギちゃんを追い詰めた

先生が撃たれた

そして今度は

セイアちゃんが、あんな姿になってしまった

「・・・・・・大切な人達を傷つけて・・・・・・怪我をさせて・・・・・・」

ミカは、血の付着した袖を握りしめた

「・・・・・・これじゃ、まるで・・・・・・」

その時、部屋の外から再び大きな声が響いた

「魔女め!!!!」

「・・・・・・」

ミカの顔から、表情が消えた

「やめろ!! 誰か、早く正義実現委員会を連れて来てくれ!!」

その声に重なるように、ヘイローへ先ほどよりも強いノイズが走った
薄桃色の銀河が、僅かに震える

ミカは、しばらく俯いていた

そして

「・・・・・・そうだね。」

ぽつりと呟く

「・・・・・・そういうこと、だったんだ。」

ゆっくりと、顔を上げる
その瞳には、先ほどまでの絶望とは違う色が宿り始めていた


・・・・・・そういえば
アリウスを訪れた時

私は、何をしに行ったんだっけ

「・・・・・・仲直り、したかったんだよね。」

ミカは、誰もいない部屋で呟いた

アリウスの生徒達とサオリと
かつてのわだかまりを解いて、もう一度、同じ場所に立ちたかった

だから、会いに行った、話をした
自分の気持ちを伝えた

・・・・・・でも

あの時、サオリは何と言った?

何を話した?

どんな顔をしていた?

記憶の中の光景が、ゆっくりと繋がっていく

アリウス自治区

薄暗い街並み

そこで出会った、アリウススクワッドのサオリ

そして

エデン条約の調印式

古聖堂

会場を包み込んだ爆発

燃え上がる炎

混乱する生徒達

そして、全てが壊れていく光景

「・・・・・・」

ミカのヘイローが、再び黒いノイズを放った
回転速度が、徐々に上がっていく

薄桃色の銀河が、まるで何かに侵食されるように、暗く濁り始める

中央に浮かぶ星のような光が、明滅を繰り返した

「・・・・・・あれ?」

ミカは、僅かに首を傾げた

今まで、どうして気づかなかったのだろう
どうして、考えなかったのだろう

・・・・・・だって

自分は、アリウスと仲直りをするために行った

なのに

どうして、こんな結末になった?

自分が、何をした?

何を言った?

何を利用された?

「・・・・・・ふふ。」

ミカの口元が、僅かに吊り上がる

「・・・・・・なんだ。」

その瞳が、すっと細められた

「・・・・・・考えてみたら、簡単なことじゃんね☆」

ヘイローが、さらに激しく明滅する
その中心の星が、ゆっくりと小さくなっていく

「・・・・・・アリウススクワッドの錠前サオリ。」

ミカは、その名前を口にした。

「・・・・・・全ては。」

一拍。

「・・・・・・あの女が元凶なんだから。」

その言葉と同時に
ミカのヘイローが、黒く染まった

薄桃色の光輪は、夜空に浮かぶ銀河のような輝きを失っていく
中心にあった星が、さらに小さくなる

明滅

収縮

そして

ぐしゃり

星の光が潰れ、砕け
その場所に、黒い球体が浮かび上がる
光を呑み込むような、深い闇
薄桃色の銀河のようだったヘイローが、まるでブラックホールのように変貌していく

「・・・・・・」

ミカは、ゆっくりと笑った

「・・・・・・あの女が。」

声は、驚くほど穏やかだった

「・・・・・・私を利用して。」

膝を抱えていた腕を、ゆっくりと解く

「セイアちゃんのヘイローを壊そうとして。」

血に濡れた服を、指先で軽く払う

「ナギちゃんにミサイルを飛ばして・・・・・・」

視線が、扉へ向く

「・・・・・・そして、先生のお腹を撃った。」

ミカは、立ち上がった
その頬には、涙の跡が残っている
けれど、もう泣いてはいなかった

「・・・・・・全部。」

小さく息を吐く

「・・・・・・ぜんぶ、ぜんぶ、ぜーんぶ!」

くすくすと笑い始める

「・・・・・・あの子が計画したことだった。」

黒く染まったヘイローが、低く唸るように明滅した

「・・・・・・そうだね。」

ミカは、部屋の中央へ歩き出した

「こんな結末になるくらいなら・・・・・・」

足音が、静かな室内に響く

「私、何をすればいいのか分かったよ。」

その顔に、少しずつ笑みが広がっていく

「私の大切な人達が、こんな目に遭っているのに・・・・・・」

ミカは、扉の向こうへ視線を向けた

「・・・・・・アイツだけが、安穏と過ごしてるなんて。」



「・・・・・・おかしくない?」

返事はない
けれど、ミカは満足そうに頷いた

「うん、そう・・・・・・そうだよ。」

その声は、まるで何かに納得した少女のようだった

「・・・・・・あの女も。」

唇が、ゆっくりと歪む

「私が奪われた分だけ、同じように奪われなきゃ・・・・・・不公平じゃんね。」

その瞬間、花が咲くように
ミカの顔に、明るく華やかな笑顔が浮かんだ

それは、普段の彼女が見せる、あの無邪気で人懐っこい笑顔によく似ていた
けれど、その奥にあるものは、まるで別物だった

「・・・・・・ふふっ。」

ミカは、くるりと踵を返す

「・・・・・・あの女の大切な人も。」

一歩

「・・・・・・同じように。」

もう一歩

そして

「・・・・・・全部、グチャグチャに壊してあげる。」








部屋の外では、騒ぎがさらに大きくなっていた

「離せ!! 出てこい、聖園ミカ!!!」

「ここで騒ぎ立てるな!! 今は状況の確認を・・・・・・!」

「黙りなさい!! あの魔女をいつまで匿っているつもりですか!!」

「落ち着け!! まだ何も確定していない!!」

「セイア様があんな状態になったのよ!! 誰が責任を取るの!?」

怒号が、廊下を埋め尽くす

その騒ぎの中心にある部屋

ミカの収容室

そこから

ゴゴゴゴゴ・・・・・・

低い振動音が響き始めた

「・・・・・・ん?」

扉の前にいた生徒の一人が、怪訝そうに振り返る

「今の音は・・・・・・?」

次の瞬間

ドガァァァァンッ!!!

凄まじい轟音が、建物全体を揺らした
ミカがいる部屋の扉が、壁ごと吹き飛び
砕けた壁材と扉が、廊下へと猛烈な勢いで飛び出す

「ぐあっ!!?」

扉の前で喚いていた生徒が、まともに吹き飛ばされ、床を転がった

「な、何だ・・・・・・!?」

「壁が・・・・・・壊れた!?」

粉塵が舞う

崩れた壁の向こうから、ゆっくりと少女が姿を現した

聖園ミカ

血に汚れた服

乱れた髪

そして、黒く染まったヘイロー

ミカは、廊下へ一歩踏み出すと、にっこりと笑った

「ごめんね~☆」

あまりにも明るい声だった

「・・・・・・えーっと。」

ミカは、きょろきょろと辺りを見渡した

「私の銃、どこだっけ?」

警備の生徒達は、あまりの光景に言葉を失っていた

「・・・・・・ミ、ミカ様・・・・・・?」

「んー・・・・・・」

ミカは、首を傾げる。

「押収品室・・・・・・あっちだっけ?」

崩れた壁の向こう
廊下の先にある区画へ、視線を向ける

そして

「さてさて。」

軽やかに、歩き出した

「行くとしよっか。」

まるで、散歩にでも出掛けるかのように
優雅な足取りで、押収品室へ向かっていく

「・・・・・・っ!」

警備の生徒が、慌てて銃を構えた

「か、壁を・・・・・・素手で・・・・・・!?」

「ミカ様!! お待ちください!!」

しかし、ミカは振り返らない

黒いヘイローが、静かに明滅する

その背中を見送る生徒達の顔が、次第に青ざめていった
そして部屋の前で騒いでいた生徒の一人が、ようやく我に返った

「・・・・・・み、聖園ミカ・・・・・・!」

震える指で、遠ざかっていく少女を指差す

「聖園ミカが・・・・・・!!」

喉が、ひくりと震えた

「聖園ミカが脱獄した!!!」

その叫び声が、拘禁棟の廊下に響き渡る
崩れた壁から、粉塵が静かに舞い落ちる

そして

誰もいなくなった収容室の隅には、
先ほどまでミカが蹲っていた場所だけが、ぽつんと残されていた















本文解説!
とりあえず、アンラがサオリと合流する時に、
なぜ場所を見ても分からなかったか・・・

それは、サオリからの電話を受けて呼び出された先生という
原作の場面しかしらないからですね。

今回の先生は、そもそものサオリの逃走ルートを先回りして、
そこで待っていた為、アンラからすると初見の状況でした。

珍しく先生と立場が逆転してますね。
先生も普段やられてる事をやり返してご満悦のご様子。

そして、呼び出される前にサオリと合流した事で、
ヒヨリが戦闘していた地点もズレてるので、
ここもアンラは知りませんね。

ですが、ミサキの場所に関しては原作通りだったので、
以前、スクワッドの拠点にお邪魔して経過観察を見ていた時の様に
ミサキに声かけをして後ろから驚かせてましたね。
普通にミサキはこの糞野郎をぶっ殺すっていう感じでしたけど。

まぁアンラとミサキはぶっちゃけて言うと、サオリよりも
直接会ってる回数は多いので・・・地味に仲が良いんですよね。

あ、あと最後に。
今回出て来た魔術は、
基本は閃光と同じなんですが、
そもそも閃光自体があれは厳密には魔術ではなく、
魔力運(・)用(・)方(・)法(・)です。
そして今回出て来たグレア・・・裂光が、正式な魔術ですね。
主な内容は、魔力運用、つまり圧縮により魔力を圧縮し、
それを外部から魔術で強化、そして効果を付与していく。
それが今回の技です。

まぁ、本アカに辿り着いた方は初見ではないと思いますが、
詳細は確か説明してなかったので今回詳細説明は初出しと言う事で。






さて、今日のセイヤ改め、
今日のゴリラに触れていきましょうか!!

さぁ!ゴリラがゴリラの檻から脱獄したぞ。
そして、ヘイローのノイズ。
久しぶりに出てきました。
初めて出たのは・・・そう、ホシノがユメとアンラが死んだと勘違いさせられ、
祈願屋の最初の事務所に訪れた時のお話以来です。*1


そして、念のために言っておくと。
これはクロコの様な完全なテラー化ではありません。
ですが、その力はテラー化とほぼ同一のものとなっています。
さぁ・・・スクワッドに先生。
元が神秘を完全にコントロールし、
アンラのローブというチートアイテム無しでキヴォトスバケモンランキングの4位を飾ってる
ナチュラルボーンゴリラのゴリラ*テラーを相手に
先生とスクワッドは何処まで通じるのかね・・・?
先生自身も補習授業部の時の戦いのリベンジマッチといこうじゃねーか。
気張れよ先生。




クックック、いやぁ楽しくなってきましたね。

*1:
「折れたナイフ小鳥遊ホシノ」

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