おっさんキヴォトスに行く   作:無い頭のおっさん

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途中までで1万6000文字はばっかなげぇ・・・!
今回のお話でミカVSまで持って行きたかったけど
次話に持ち越しです!


おっさんアホに復讐する

カタコンベの中を、私達は進み続けていた

薄暗い石造りの通路は、どこまでも奥へと続いている

時折、遠くから重たい駆動音が響いてくる

 

・・・・・・カタコンベの構造変換

 

先ほどまで通れた道が塞がれ、別の通路が開かれていく

背後では、まだアリウス生達の銃声が聞こえていた

けれど、ここまで来れば、すぐに追いつかれることはないだろう

 

「・・・・・・この先だ。」

 

先頭を歩いていたサオリが、足を止める

目の前には、ただの石壁にしか見えない場所があった

 

「"ここが出口?"」

 

私が尋ねると、サオリは頷いた

 

「ああ。ここから地上へ出られる。」

 

ヒヨリが周囲を確認し、壁際に設置された古い梯子を見つけた

 

「こ、ここですね・・・・・・!」

 

彼女は慎重に梯子を上り、天井にある石畳の蓋へ手を伸ばす

地上の舗装と完全に同化した蓋

その縁を探り、ゆっくりと押し上げた

 

ゴト・・・・・・

 

僅かな隙間から、地上の冷たい空気が流れ込んでくる

ヒヨリは頭を出し、周囲を見渡した

 

・・・・・・しばらくして

 

「・・・・・・だ、大丈夫です!上がってきてください!」

 

その声を聞き、サオリが梯子へ向かう

続いてミサキ。

 

そして私、最後にアンラさんの順番で地上へと上がっていった

 

 

 

 

 

【アリウス自治区・旧訓練場】

 

外へ出ると、そこは古びた遺跡を訓練場の様にして使っている場所だった

広い敷地には雑草が伸び、地面には長年放置されていたことを示すひび割れが走っている

訓練用の障害物は崩れかけ、周囲を囲む建物も所々が風化していた

夜明け前の薄明かりの中、静寂だけが敷地を包んでいる

 

ミサキは周囲を見回し、小さく頷いた

 

「・・・・・・この古い訓練場なら、警備の手が薄いと思ったけど・・・・・・正解だね。」

 

「そ、そうですね・・・・・・」

 

ヒヨリも安堵したように頷く

 

「・・・・・・少なくとも、今のところは誰もいないみたいです。」

 

二人がそう話している間に、サオリは訓練場の壁際まで歩いていた

そして、壁に手をつく

 

「・・・・・・ふぅ。」

 

息を吐いた、その直後

 

「・・・・・・ぐっ。」

 

身体が僅かに傾いた

腹部を押さえ、荒い呼吸を繰り返している

 

・・・・・・サオリ、大丈夫だろうか

 

私は、周囲を見渡した

 

「"ここもアリウス自治区なの?"」

 

ミサキが答える。

 

「・・・・・・昔はそうだったけど、今はただの跡地だよ。本当の自治区はもう少し先。」

 

「"そうなんだ・・・・・・"」

 

「でも、私達が向かってることがバレてるから、そう簡単には近づけないと思う。」

 

ミサキはそこで言葉を切り、サオリへ視線を向けた

 

「・・・・・・それで、これからどうするの?」

 

サオリは壁に手をついたまま、腹部を押さえていた

息も荒く、顔色も悪い

 

「・・・・・・リーダー?」

 

ミサキが声をかけた、その瞬間

サオリの膝から力が抜けた

 

「・・・・・・っ!」

 

倒れ込む身体

 

「おっと!」

 

アンラさんが即座に滑り込み、サオリの身体を抱きとめた

そのまま、地面へゆっくりと寝かせる

 

「・・・サオリ!?」

 

私は慌てて駆け寄った

アンラさんはサオリの額に手を当て、次に腹部の傷を確かめる

 

「・・・熱が高いな。」

 

「ね、熱ですか・・・!?」

 

ヒヨリが驚いた声を上げる

 

「ああ。身体も相当熱を持っとる。それに・・・この傷も、えらい熱いな。」

 

サオリが自分で撃った腹部の傷

その周囲は熱を帯び、腫れも出始めていた

 

「傷が炎症を起こしとるんやろな。無理して動き続けたせいで、身体が限界を迎えたんや。」

 

ミサキは、サオリの顔を見つめた

 

「・・・リーダーは何日も休んでない。」

 

少し間を置いて、静かに続ける

 

「負傷してる上に、睡眠不足と疲労・・・。気力で我慢するのも、限界だったんだと思う。」

 

「・・・あ、あわ・・・ど、どうしましょう?」

 

ヒヨリが慌てて周囲を見回す

 

「"・・・はい、これ。"」

 

私はシャーレの制服の内ポケットから、小さな薬の包みを取り出した

 

「く、薬・・・!?」

 

ヒヨリが目を丸くする

ミサキも、私の手元を見た

 

「・・・持ち歩いてるんだ・・・」

 

「"まぁ・・・転ばぬ先の杖的な・・・ね?"」

 

私は、少し苦笑しながら答えた

 

「・・・それ以外にも、色々と前準備して内ポケットに忍ばせとりそうやな、コイツ。」

 

アンラさんが呆れたように呟く

 

「そ、そうなんですね・・・大人って怖い・・・」

 

ヒヨリが呟くと、私は苦笑した

 

「"・・・そこまでじゃないよ!?"」

 

ミサキは薬と水を受け取り、サオリの上半身を支えた

 

「・・・よかった。ありがとう。」

 

そして、眠ったままのサオリへ声をかける

 

「リーダー、これ飲んで。少しは楽になるよ。」

 

サオリの唇へ水を運び、薬を飲ませる

 

「・・・ごくっ。」

 

サオリは、ゆっくりと喉を動かした

 

「・・・はぁ・・・ふぅ・・・」

 

荒かった呼吸が、少しずつ落ち着いていく

 

「・・・リーダー。」

 

ヒヨリが心配そうに顔を覗き込む

 

私は空を見上げた

夜明けまでは、まだ少し時間がある

 

「"まだ夜明けまでは少しだけ時間があるから、ここで休もうか。"」

 

「・・・そうだね。」

 

ミサキも頷いた

ヒヨリは少し考えてから、おずおずと手を挙げる

 

「は、はい・・・! それでは、寝ずの番は私が・・・?」

 

「交代でやるよ。ヒヨリも休まないと。」

 

ミサキが、静かに告げる

 

「いんや。」

 

アンラさんが口を挟んだ

 

「不寝番は、おっさんがやるで。」

 

先生が振り返る

 

「"アンラさん?"」

 

「元々、不眠で一ヶ月くらいは活動できるしな。問題ないで。」

 

「"でもアンラさん、さっきミカに腕を吹き飛ばされたりとか・・・"」

 

私は、先ほどの戦闘を思い出し思わず顔を曇らせた

 

「あー、あんくらいの負傷は日常茶飯事やったから平気やで。」

 

アンラさんは、何でもないことのように右腕を振ってみせる

 

「それより、今は全員休むことや。まだ先は長いんやからな。」

 

「"・・・そうですね。"」

 

私は少し迷った後、頷いた

 

「"じゃあ・・・少しだけ、休ませてもらいます。"」

 

「おう。任しとき。」

 

アンラさんは訓練場の周囲を見渡し、警戒できる場所を確認する

 

「サオリは動かさん方がええ。先生もヒヨリも、今のうちに身体を休めとき。」

 

「・・・分かった。」

 

ミサキはサオリの傍らに座り、彼女の様子を見守った

ヒヨリも、その近くで腰を下ろす

 

私はシッテムの箱を確かめ、訓練場の壁に背を預けた

 

・・・朝からずっと動き続けていた

 

地下道を進み、警備を突破し、ミカとの戦闘まで

身体の疲労は、とうに限界を超えていた

目を閉じると、意識が急速に遠のいていく

 

そして

 

私は、夢の世界へと旅立った

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・暗い

 

周囲には、何もない

地面も、天井も、境界も曖昧な場所

夢なのか、現実なのか

その区別さえ、つかない

そんな空間の中で

 

「・・・・・・先生。」

 

誰かの声が聞こえた

聞き覚えのある、穏やかな声

 

「・・・先生、私の声が届いているかい・・・・・・?」

 

霧の向こうから、少女の姿が浮かび上がる

 

百合園セイア

 

「もしも・・・私の声が届いているのなら・・・・・・」

「どうか、耳を傾けてくれ・・・・・・頼む・・・・・・」

 

その姿は、どこか透き通っていた

セイアは苦しげに目を伏せ、静かに言葉を続ける

 

「私は今、夢でも現実でもない狭間の世界に閉じ込められている・・・」

「いつまで君の夢に留まれるのかも、定かではない・・・・・・」

「時間があまり残されていない・・・・・・」

「先生に、今の状況を伝えなければ・・・・・・」

 

私は、声を出そうとした

しかし、喉が動かない

身体も、思うように動かせない

 

ただ、セイアの声だけが、はっきりと届いていた

 

「私は・・・いや・・・・・・私の身体を、何者かが動かしている。」

 

セイアの表情が、悲痛に歪む

 

「ミカを・・・ミカを、あんな風に追い詰めた・・・・・・」

「このままでは、ミカは己を責め・・・・・・」

「取り返しのつかない罪を犯そうとするだろう・・・・・・」

 

その言葉に、胸が締め付けられる

セイアは、ゆっくりと顔を上げた

 

「私が・・・もっと・・・もっと早く、ミカに全てを伝えていれば・・・・・・」

 

「すまない・・・・・・すまない、ミカ・・・・・・」

 

声が震え、その姿が、少しずつ薄れていく

 

「どうか・・・どうか、ミカを・・・・・・止めてくれ・・・・・・」

 

「・・・・・・頼む・・・・・・」

 

セイアの姿が、霧の中へと溶けていく

 

「・・・・・・あぁ・・・・・・先生」

 

最後に、彼女は微笑んだ

 

「あなたに・・・・・・私の言葉が届いていることを・・・・・・祈る・・・・・・」

 

その瞬間

 

 

 

 

 

 

【七篠アンラ視点】

 

「・・・・・・っ!!」

 

・・・・・・ん?

 

先生が、勢いよく上半身を起こし

おっさんは、思わず肩を跳ねさせた

 

「な、なんや先生、そない跳び起きて」

 

思わず、いつもの調子で声をかける

 

「セイアから、なんかお告げでも受けたんか?」

 

しかし、先生は笑わなかった

 

「"アンラさん!!"」

 

その声に、先生の表情が変わる

先生は、息を切らしながら詰め寄ってきた

 

「"今すぐ、未来のことを教えてください!"」

 

「・・・・・・は?」

 

「"ミカは・・・ミカは、アンラさんの知識でも、ああなっていましたか!?"」

 

先生の目は、真剣そのものやった

 

「"それと、セイアはどうなっているんですか!?"」

 

「お、おいおい・・・ちょい待ち。落ち着きぃ」

 

おっさんは、両手を軽く上げた

 

「その反応からするに・・・セイアから夢に干渉があったんやな?」

 

先生は、必死に頷いた

 

「"セイアは・・・誰かに身体を乗っ取られて、"」

「"今は夢の世界に捕らわれているらしいです・・・"」

 

「・・・・・・乗っ取られた?」

 

おっさんは、思わず眉を寄せた

 

「それは・・・初耳やな。」

 

先生は、動揺を隠せないまま尋ねてきた

 

「"アンラさんの・・・知識でも、知らないことなんですね・・・?"」

 

「・・・クソ。」

 

おっさんは舌打ちし、腕を組んだ

 

「多分、セイアが予知夢で干渉した未来関係や・・・」

 

「"・・・未来が、変わっているんですか?"」

 

「せやろな。」

 

おっさんは、険しい表情で遠くを見つめた

 

「本来なら、そこまでの事態にはならんはずやった。」

 

「"アンラさん・・・・・・どうにか出来ませんか?"」

 

おっさんは、即座に答えた

 

「出来る。」

 

先生の顔が、少しだけ明るくなる

しかし、続く言葉は重かった

 

「・・・が、今ここをおっさんが離れるわけにはいかん。」

 

「"どうして・・・?"」

 

「今のミカを止められるんは、殺す気になったホシノか」

「おっさんくらいしかおらん。」

 

先生は、はっと顔を上げた

 

「そうです、ミカです!」

 

・・・・・・ん?

 

「"ミカのヘイローが変わっていたのも、アンラさんの知識にはなかったんですか!?"」

 

おっさんは、少しだけ目を細めた

 

「・・・ヘイローが変わること自体は、ある。」

 

「"・・・・・・!"」

 

「せやけど、ミカはそれに該当せんはずやった。」

 

先生は、唇を噛んだ

 

「"どうにか、ミカのことも止めないと・・・"」

 

「・・・はぁ。」

 

おっさんは、深く息を吐いた

 

「本当なら、もう少し場を整えて・・・」

「あのアホ(アロナ)を、もっと追い詰められる場面で切りたかったんやが・・・」

 

「"・・・・・・?"」

 

先生が首を傾げ

 

おっさんは、先生の手元にあるシッテムの箱へ視線を落とした

 

「・・・先生。ちょっとだけ、シッテムの箱貸してくれるか?」

 

「"え・・・? 分かりました。でも、返してくださいね?"」

 

「おっさんがコレ持っとっても、使えんわ・・・・・・多分。」

 

そう言いながら、シッテムの箱を受け取る

おっさんは、箱の表面を軽く叩いた

 

「さて・・・ほんなら、ボケナスアロナ。」

 

その声が、妙に楽しげになる。

 

「お前の勤務時間の始まりや。」

 

口元が、にやりと歪んだ

 

「またおっさんと一緒に、人権投げ出して死ぬまで労働しよか。」

 

そして、おっさんはシッテムの箱へ魔力を流し込んだ

 

最初は、僅かな光だった

しかし、すぐに箱全体が強く輝き始める

おっさんは、さらに魔力を注ぎ込み

その量は、尋常なものではなくなっていく

箱の表面に見たこともない術式が次々と浮かび上がり、光の輪が幾重にも展開される

 

・・・・・・おうおう、ええ感じや

 

その時先生が、突然目を見開いた

どうやら、シッテムの箱から何か聞こえとるらしい

 

『・・・・・・先生!!!』

 

先生の表情が、みるみる引きつっていく

 

『この雑で、人の心がない上に!!考えなしの人を止めてください!!!』

『なんか、よく分からないシステムが解放されて、』

『私の処理能力が圧迫されていくんですけど!!!』

 

先生は目を瞬かせた

 

それから、おっさんとシッテムの箱を交互に見る

 

恐らく、アホアロナが先生になんかいっとんのやろうな・・・

 

先生は、困惑しながらも、おっさんへ声をかけた

 

「"あ、あのアンラさん・・・アロナが、必死にやめてほしいって言ってるんですけど・・・"」

 

「・・・まぁ、今回はこんくらいでええか。」

 

おっさんが魔力の供給を止めると

箱の光が少しずつ弱まり、浮かび上がっていた術式も消えていく

 

「・・・・・・ふぅ。」

 

そして、先生へ向き直る

 

「さて、先生。」

 

その声が、先ほどまでとは打って変わって静かになった

 

「ここで一つ、俺と追加の契約をしよう。」

 

先生が、目を瞬かせる

 

「"え・・・?追加の契約?"」

 

「ああ。」

 

アンラは、先生をまっすぐ見つめた

 

「【先生】が本来持つ力を一つ、俺が解放してやる。」

 

一拍置いて、続ける

 

「その対価に、聖良。君は何を差し出す?」

 

「"え・・・?。アンラさん?何を・・・?"」

 

アンラは、穏やかに笑った

 

「さぁ、答えろ。」

「君は、何を対価として差し出す?」

 

先生は困惑したまま、制服の内ポケットを探った

 

「え、えっと・・・」

 

そして、取り出したのは

一本のチョコバーだった

 

「"じゃ、じゃあ・・・・・・"」

「"今、手持ちにあるの、このチョコバーだけなんですけど・・・要ります?"」

 

先生は、遠慮がちにそれを差し出し

おっさんは、差し出されたチョコバーを見つめた

 

「・・・・・・クク。」

 

肩が震える

 

「・・・・・・ぷっ。」

 

そして

 

「ぷっはははははは!!」

 

腹を抱えて爆笑した

 

「いや・・・はっはっはっは!!」

 

笑いすぎて、まともに立っていられへん

 

「ひひっ・・・ひひひぃぃ・・・あー・・・・・・!」

 

ようやく息を整え、おっさんは先生の肩を軽く叩いた

 

「いやぁ・・・長いこと生きてきて、」

「おっさんに契約の対価でチョコバー差し出してきたんは、先生が初めてやわ!」

 

「"・・・そ、そうなんですか?"」

 

「ひっさびさに、くっそ笑わしてもろたわ!」

 

そう言いながら、先生の手からチョコバーを受け取り

そして、シッテムの箱を返した

 

「"・・・あ、ありがとうございます?"」

 

先生は、困惑した表情でシッテムの箱を受け取った

おっさんは、チョコバーの包装を指先で弄びながら続ける

 

「さて・・・まぁ、急に言われてびっくりしたと思うけんど、これは必要な手順なんでな。」

 

包装紙を破り、ひと口かじる

 

「それでや、先生。」

「魔法の言葉を教えたろ。」

 

「"魔法の言葉・・・?"」

 

「せや。先生に、一つ授けたろう。」

 

おっさんは、チョコバーを食べながら頷いた

 

「忘れるなよ。」

 

その声に、少しだけ真剣さが混じる

 

「おっさんが何かしらの条件で先生と一緒に居れん時・・・」

「もし、おっさんクラスの相手が出てきたら、シッテムの箱を持って、この言葉を唱えろ。」

 

先生は、真剣な顔で聞き入った

おっさんは、二つの言葉を告げる

 

「【コードジェリコ・アクティベート】」

「【システムオーバーライド】」

「・・・これを覚えとけよ。」

 

先生は、ゆっくりと頷いた

 

「そして、必ず管理者権限で起動するんやで。」

 

おっさんは、口元をニヤリと吊り上げた。

 

「シッテムの箱の管理者権限のコードは・・・もちろん、先生なら知っとるよな?」

 

「"えっと・・・起動した時の・・・?"」

 

「正解。」

 

おっさんは、満足そうに頷いた

 

「まぁ、基本はおっさんも一緒におるからな。」

「多分、使うことはないと思うけど・・・念には念を、って奴や。」

 

そして、少しだけ表情を引き締める

 

「正直、今の段階で、おっさんの知識とも大分ズレとる。」

「こっから先は、本当に何が起こるかわからへん。」

 

先生はシッテムの箱を抱え直した

 

「"最悪を想定して、過剰なくらい準備する・・・ですね?"」

 

「せや。」

 

おっさんは、にっと笑う

 

「先生の血肉になってるようで、良かったわ。」

 

「・・・アンラさん。」

 

不意に、サオリの声が聞こえた

どうやら、話し声で目を覚ましたらしい

彼女はゆっくりと身体を起こし、腹部を押さえながらこちらを見とる

おっさんは、すぐに傍へ寄った

 

「おう、サオリ。具合はどうや?」

 

「・・・問題ない。」

 

「・・・・・・」

 

おっさんは、苦笑した

 

「お前さん、平気な時も無理しとる時も、同じことしか言わんから分からんわ。」

 

サオリは、僅かに眉を動かした

 

「・・・本当に問題ない。」

 

「はいはい。」

 

おっさんは肩をすくめた

 

「皆起きたら作戦会議して出発やで。」

 

その間に、ミサキも目を覚ましていた

彼女は周囲を見回し、隣で眠っているヒヨリに視線を向ける

 

「・・・ヒヨリ。」

 

肩を軽く揺する

 

「・・・起きて。」

 

「・・・・・・ん・・・あ、あれ・・・?」

 

ヒヨリは眠そうに目を擦り、ゆっくりと身体を起こした

 

「・・・・・・えっと・・・もう出発ですか・・・?」

 

「まだ。これから話をする。」

 

ミサキは、サオリへ視線を戻した

 

「・・・それで、これからどうする?」

 

ヒヨリも、はっと顔を上げる

 

「・・・今から、姫ちゃんを助けるんですよね・・・?」

 

「ああ。」

 

サオリは、腹部を押さえながら答えた

 

「アリウスのバシリカに向かい、アツコを救出する。最初から目標はそれだけだ。」

 

ミサキは静かに頷く

 

「・・・バシリカには、どうやって侵入するつもり?」

 

視線を少しだけ上げる

 

「既に、私達が自治区内に潜入していることは、彼女も知っているよ。」

 

「ルートは既に考えてある。」

 

サオリは、訓練場の奥を見つめた

 

「アリウス分校の旧校舎に向かう。」

 

「きゅ、旧校舎ですか・・・!?」

 

ヒヨリが、驚いたように声を上げる

 

「あ、あそこは、かなり長いこと放置されていた廃墟ですよ・・・!?」

 

「・・・そこに何があるの?」

 

ミサキが尋ね

サオリは、一度息を整えてから答えた

 

「・・・アツコから聞いた話だが。」

 

彼女は、昔の記憶を辿るように続ける

 

「かつて聖徒会がアリウス分校を建設する際、」

「バシリカと分校を繋ぐ地下回廊を作ったのだとか。」

 

「"・・・聖徒会が、アリウス分校を?"」

 

先生が、意外そうに尋ね

ミサキが、静かに頷く

 

「・・・・・・うん。その昔、トリニティ連合に反対したアリウスの脱出を支援したのが、ユスティナ聖徒会。」

 

一呼吸置き、淡々と説明を続ける

 

「アリウスを最も糾弾した彼女達が、アリウスのエクソダスと再建を主導したの。」

 

先生は、少し考え込むように目を伏せた

 

・・・・・・何回聞いても複雑な歴史やな

 

自分達を糾弾した側が、その一方で脱出と再建を支援していた

その事実は、アリウスという場所が抱えてきた事情の深さを物語っとるようやった

 

「回廊は、かなり昔に作られたものだ。」

 

サオリが説明を引き継ぐ

 

「だから、彼女も見落としている可能性が高い。」

「遠回りにはなるが、安全にバシリカまで侵入できるはずだ。」

 

「・・・その回廊の場所は知ってるの?」

 

ミサキが確認する

 

「いや・・・まずは、回廊を探すところからだ。」

 

「・・・そう。」

 

ミサキは短く答え

 

ヒヨリは、心配そうに周囲を見回した

 

「で、でも・・・他に方法はありませんよね?」

 

それから、おっさんを見上げる

 

「そ、それとも・・・やっぱり、バシリカに強行突破します?」

「・・・・・・多分、足長おじさんの力を使えば・・・行けそうですけど・・・」

 

「おっさんがそれをすると、色々と不都合が出るからなぁ。」

 

おっさんは、苦笑しながら首を振った

 

「強行突破するなら、おっさんの力は無しで考えてくれよ。」

 

「じゃ・・・じゃ、絶対無理です・・・・・・」

 

ヒヨリが、しょんぼりと肩を落とした

 

「・・・はぁ。」

 

ミサキは小さく息を吐き、先生とおっさんを交互に見た

 

「普段なら、そんな噂を頼りに探すなんて絶対しないけど・・・」

 

少しだけ考えてから、続ける

 

「今は先生も、この大人もいるし・・・やれるんじゃない?」

 

先生は、力強く頷いた

 

「"うん。じゃあ・・・とりあえず行ってみよう。"」

 

「は、はい!」

 

ヒヨリが、慌てて立ち上がり

サオリは腹部を押さえながら、ゆっくりと身体を起こす

 

おっさんは、その様子を見て眉をひそめた

 

「・・・サオリ、無理はすんなよ。」

 

「・・・分かっている。」

 

「ほんまかいな・・・」

 

苦笑しながらも、おっさんはそれ以上追及せんかった

サオリは、訓練場の出口へ視線を向ける

 

「旧校舎は、ここからそう遠くない。目立たないように移動するぞ。」

 

「・・・了解。」

 

ミサキが短く答える

 

「しゅ、出発です・・・!」

 

ヒヨリも、少し慌てながら続いた

先生はシッテムの箱を確かめ、全員を見渡した

 

「"・・・それじゃあ、行こう。"」

 

五人は、使われていない訓練場を後にした

 

 

 

 

 

 

 

【アリウス自治区・元住宅街】

 

おっさん達は、路地を縫うように移動していった

大通りは避け、更に明かりの多い場所も避ける

 

なるべく人の気配が少ない道を選んで進んでいく

数分ほど歩いたところで

自治区の街並みが、はっきりと見える場所まで来た

ミサキが、建物の影から少しだけ顔を出す

 

「・・・クリア。」

「ここまでは安全。」

 

「は、はい・・・・・・」

 

ヒヨリも周囲を見回す

 

「大丈夫です!」

 

おっさんも街を見渡した

 

・・・・・・妙やな、静かすぎる

 

「・・・・・・おかしい。」

 

サオリが呟いた

 

「街が静かすぎる。」

「元々、人通りが少ない場所だが。」

「ここまでではなかったはずだ・・・」

 

ヒヨリも、周囲を見回す

 

「そ、それに・・・」

「なんか、知らないものが一杯増えてますね・・・」

 

ミサキも頷く

 

「そうだね。」

「さっきから、ずっと違和感がある。」

「自治区から長く離れていたとはいえ。」

「・・・私の全く知らない街になってる。」

 

「せやな。」

 

おっさんも、視線を落とす。

 

街のあちこち

 

道端や、建物の脇の地面に

石柱のような物体が、幾つも撃ち込まれていた

 

「おっさんが最後に見た時でも。」

「ここまで人の気配がせんかった場所やない。」

「それに・・・こんな石、置いとらんかったな。」

 

おっさんは一つの石柱を見つめる

 

・・・儀式の要石か?

 

今ここで壊したい

けど、これがアツコにどういう形で揺り返すか

それが分からん

 

「・・・・・・」

 

ヒヨリも石柱を見つめる

 

「な、なんというか・・・よくよく思い出すと、」

「以前から少しずつこんなよく分からない物が増えていたような気がします・・・」

「自治区内のあちこちに設置された、この石柱や。」

 

「巡航ミサイル・・・・」

 

「それに、アリウスに渡されたヘイローを破壊する爆弾・・・」

 

そこでヒヨリの表情が曇る

 

「それに、今考えてみると。」

「あのミメシスというのも、凄く変じゃないですか。」

「なのに・・・・何も疑わずに、受け入れてた気がします。」

 

「・・・あぁ。」

 

おっさんは静かに答えた

 

「そら、単純な話や。」

「お前さんらについとった首輪が外れ」

「それで、正常な思考力が戻っただけやな。」

 

「・・・・・・」

 

フードの内はいつもの温厚な表情は消えていた

 

「あの黒いチョーカー。」

「軽く調べただけでも、思考汚染の術式が組まれとった。」

 

その瞬間ミサキが、小さく手を上げた

 

「・・・・・・待って。」

「誰かいる。」

 

全員が身を隠し

建物の影から、表通りを覗く

 

そしてぞろぞろと

重武装したミメシスの聖徒会が歩いていくのが見えた

 

「・・・あれは。」

 

サオリの表情が変わる

 

「せ、聖徒会・・・!?」

 

ヒヨリも目を見開く

 

「ユスティナ聖徒会ですよね・・・?」

「それに、あの姿は・・・」

 

「・・・何故だ?」

 

サオリが低く呟いた

 

「エデン条約が取り消された以上。」

「使役は不可能なはずだ。」

 

ミサキが続ける

 

「・・・そもそも。」

「私達にエデン条約の会場を襲撃させた理由は、ミメシス能力を確保する為だった。」

 

「そうですね・・・」

 

ヒヨリが頷く

 

「だから姫ちゃんは、古聖堂の地下であの木の人形の言う通りにしました・・・」

 

ミサキがヒヨリに続く

 

「・・・そうして確保した聖徒会の兵力で。」

「トリニティとゲヘナを占領する。」

「それが私達の任務だった。」

 

「まぁ。」

 

おっさんが鼻で笑った

 

「一度起動した魔術や儀式っつうんは。」

「起動する工程を見せてもろたら、再現できる場合がある。」

「差し詰め。あのクソが、術式丸パクしたんやろ。」

 

「そんで。占領なんぞどうでも良かった。」

「実際は、自分の意思で使える兵隊を増やしたかった。」

「・・・とかいう落ちやろな。」

 

その時遠くから

聞き覚えのある

甲高い声が響いてきた

 

【ウォォォォォォォン―――――】

 

ヒヨリが凍りつく

 

「こ、この声・・・!」

 

ミサキも音の方を見る

 

「エデン条約の時に使ったアンブロジウスの悲鳴だよ。」

「確かにあの時、私達が扱ったミメシスで間違いないみたいだね。」

 

「・・・ミメシスは。」

「一度でも成功させればいいだけ。」

 

「つまり本来の私達の任務は。」

「姫を古聖堂へ連れて行って、ミメシスを発動させることだけだった・・・?」

 

「まぁ。」

 

おっさんが肩を竦める

 

「そういう事やろな」

 

「そこらへんは直接聞いたらええと思うで。」

 

その直後

前方、そして後方の建物の陰から、重武装したミメシス部隊が現れた

 

「・・・・・・!」

 

ヒヨリが息を呑む

 

「包囲されています!?」

 

サオリが舌打ちする

 

「チッ・・・罠か。」

 

ミサキが周囲を見回した

 

「・・・私達が、ここを通るって分かってたんだ。」

 

そして路地の中央の空間へ一つのホログラムが投影された

 

『ええ。』

『もちろんです。』

 

ベアトリーチェだった

 

「・・・マダム。」

 

サオリが睨み

ベアトリーチェは、静かに微笑む

 

『ここは、私の支配下にある領地。』

『皆さんの位置、目的地。』

『そこへ至るまでの経路。』

『全て把握しております。』

『あなた達が旧校舎の回廊へ向かおうとすることも。』

『最初から分かっていました。』

 

ヒヨリが青ざめる

 

「ひ、ひいぃ・・・さ、最初から・・・・・・」

 

ミサキも呟く

 

「・・・やっぱり。」

「掌の上だったの・・・」

 

『ええ。そういうことです。』

 

ベアトリーチェが笑う

 

『あなた達の任務は。』

『最初からロイヤルブラッドを古聖堂へ連れて行き、聖徒会を顕現させること。』

 

『それだけです。パスは一度接続さえすれば。』

『次からは、私が統制できますので』

『マエストロは、自分の作品を奪われるようで嫌がっていましたが。』

 

おっさんは鼻で笑った

 

・・・・・・なるほど、三流以下やなこいつ

わざわざ起動した術式へ上から乗っ取らな、自分で運用できん

自分一人では何もできんって自分で喧伝しとるようなもんや

それが分かっとらん

 

『まぁ。』

 

ベアトリーチェは続ける

 

『トリニティやゲヘナを占領するかどうかなんて。』

 

『私にとっては些末なことです。』

『この自治区に蔓延させた憎悪を統制する為の方便ですから。』

『私自身は、あの学園に何の遺恨もありません。』

 

それから

 

『ですから。あなた達は任務を遂行したと言えるでしょう。』

『私にミメシスの能力を提供し。』

『ロイヤルブラッドも、素直に生贄として捧げてくれました。』

『あなたは、言いつけをよく聞くいい子ですね。』

 

『サオリ。』

 

サオリの拳が、僅かに震えた

 

だがその時

ベアトリーチェの視線がおっさんと先生へ向く

 

『まぁ。不毛な話は、この辺りで・・・』

『私の興味は、そう、先生と』

『そして崇高なる存在。』

 

おっさんが鼻で笑い

先生は、ベアトリーチェを睨みつける

 

『私は、ベアトリーチェと申します。』

『既にご存じかもしれませんがゲマトリアの一員です。』

『通信越しでの挨拶となることをお許しください。』

『黒服やマエストロ達からあなた方については、色々とお話を聞いております。』

 

 

【先生視点】

 

私は一歩前へ出た

 

「"アツコは無事?"」

 

『ええ。』

 

ベアトリーチェは即答する。

 

『儀式は夜明けですので。』

『今は、まだ無事ですよ。』

 

その言葉を聞いた瞬間胸の奥が冷たくなる

けれど、アンラさんが先に口を開いた

 

「なぁ、お前さん。」

「サオリ達の首についてた奴。」

「あれ、どないした。」

 

『・・・・・・あぁ。』

 

ベアトリーチェが微笑む

 

『あれですか。』

『大変有意義な取引がありまして。』

『そちらのお方から、譲り受けた物ですよ。』

 

「さよけ。」

 

アンラさんの声が低くなる

 

「ほんなら。」

「この自治区に蔓延しとる、クソキショイ術式も。」

「そいつからの貰いもんっちゅうことやな。」

 

『ええ。この地獄の中で大人は子供を支配し、搾取し。捕食する。』

『実に素晴らしい楽園だとは思いませんか?』

 

「ほーん。」

 

アンラさんが笑う

 

「その捕食ってのがアツコっつう訳か。」

 

『ええ。』

 

ベアトリーチェは楽しそうに答えた

 

『あの子は私が丹精込めて教えた生徒なのです。』

『生贄として捧げればきっと私達大人に、素晴らしい福音を与えてくれる。』

 

その言葉を聞いた瞬間頭が真っ白になる

 

「"そこまでにして。"」

 

ベアトリーチェが、僅かに目を細める

 

『・・・ほぉ?』

 

「"そんな楽園に興味はない。"」

 

『・・・くくくっ。』

 

ベアトリーチェが笑う

 

『そうですか・・・』

 

『やはり、こうなるのですね。』

『やはり先生。あなたは私の敵対者で間違いはありません。』

 

『ええ。理解しました。』

『あなたの語る楽園はエデン条約だったのですね。』

『皆の友情で悪を退ける。単純で、理解しやすい世界。』

 

『くくくっ・・・どうして、子供達の考えはこんなに純粋で単純なのでしょう。』

『楽園という名前を付けたからと言って、変わることはありません。』

 

『むしろ。大人なら、きちんとこのように真実を教えなければ。』

 

『その楽園こそ、現在が始まった場所だと。』

『真の楽園こそ、憎悪、怒り、嫌悪、苦痛、悔恨。』

『そういった物で溢れかえっているのだと。』

 

私は、ベアトリーチェを睨みつけた

 

「"ベアトリーチェ。"」

「"あなたは、生徒を侮辱した。"」

「"そして、【教え】を【学び】を侮辱した。"」

「"私は大人として、あなたを絶対に許すことは出来ない。"」

 

『・・・・・・』

 

ベアトリーチェは、しばらく沈黙し

そして

 

『それは宣戦布告だと思っても?』

『いいでしょう。バシリカでお待ちしております。』

 

『――もし、到達できるのなら。』

『そこで決着をつけましょう。』

 

通信が切れる

 

その直前アンラさんが口元を吊り上げた

 

「ハハッ。」

「おっさんの気分だけで、今も生かされとる奴が言いよるわ。」

 

そして通信が完全に切れた

 

「・・・・・・」

 

周囲のミメシスが、一斉に動いた

 

「始まるぞ。」

 

サオリが銃を構え

ミサキがスティンガーを肩へ担ぎ

ヒヨリが対物ライフルを構える

 

私は皆を見る

 

「"行こう!スクワッド!"」

 

サオリが叫ぶ

 

「ああ!!」

 

アンラさんは一歩後ろへ下がった

 

「おっさんは周りの警戒に徹する。」

「先生とサオリ達は、そいつらを頼むぞ。」

「いつミカが奇襲してくるか分からんからな。」

 

「"分かりました!"」

 

最初に動いたのは、正面にいた三体だった

アサルトライフルを持って銃口が同時にこちらを向く

 

「――っ!」

 

ダダダダダッ!!

 

いきなりの一斉射撃

私達がいた場所の地面へ銃弾が集中する

 

「"散開!"」

 

私が叫ぶと

 

サオリが左へ

 

ミサキが右へ

 

ヒヨリはその場に残り、すぐに狙撃姿勢へ入った

 

私は一番近い遮蔽物――崩れた家屋のコンクリート壁へ身を滑り込ませる

銃弾が壁を削る

 

ガガガガガッッ!!

 

射撃音が続く

サオリが壁の端から身体を少しだけ出した

 

「・・・・・」

 

狙いを定める

敵の一体が、こちらを警戒しながら前へ出てくる

サオリが、そのタイミングを待っていた

 

「・・・そこだ!」

 

ダダダンッ!!

 

アリウス製のアサルトライフルから放たれる短いバースト

 

一発目が肩

二発目が胸部

三発目が頭部へ

 

ミメシスが身体を大きく揺らしながら、その場に膝をつき煙になり消えていく

 

「一体!」

 

だが、すぐ横

別のミメシスが遮蔽物を回り込もうとする

 

サオリが振り向く

 

「・・・・・・!」

 

敵のアサルトライフルが火を噴く

 

ダダダダダッ!!

 

サオリも同時に引き金を引いた

 

互いに撃ち合う

 

銃弾が空中で飛び交うような勢いで、周囲の壁へ次々と穴が空いていく

 

サオリが一発

 

二発

 

三発

 

敵が一瞬だけ怯む

 

その隙に、サオリは横へ踏み込む

 

遮蔽物から遮蔽物へ

身体を低くしたまま距離を詰める

 

最後の一歩で姿勢を上げ

至近距離から連射

 

ダダダダッ!!

 

ミメシスの胸部装甲が弾け

その身体が煙へと消える

 

「二体!」

 

その直後別の射撃音が響いた

 

――ダァァンッ!!

 

アサルトライフルとは明らかに違う

 

乾いた鋭い音

 

「"・・・・・・!"」

 

私は反射的に顔を伏せる

 

すぐ隣の壁

そこへ

 

ドンッ!

 

大きな着弾痕が残った

 

「スナイパー!?」

 

屋上を見る

しかし見えない

 

「"ヒヨリ!"」

 

「は、はい!」

 

すでにヒヨリも気付いていた

対物ライフルを構えスコープを覗き込んでいる

 

「・・・み、見えません。」

 

「"焦らなくていい!"」

 

私は周囲を見回す

 

屋上、窓、崩れた建物

どこから撃った?

 

二発目

 

――ダァァンッ!!

 

今度は私達の右

弾丸が廃屋の柱を貫通した

 

「"・・・右の建物の屋上!"」

 

ヒヨリが即座に銃口を向ける

 

「み、見つけました!」

 

私はその方向を指差す

 

「"撃って!"」

 

「はいっ!」

 

ズドォンッ!!

 

対物ライフルの発砲音が、夜明け前の街へ響き渡った

反動でヒヨリの肩が大きく沈む

 

放たれた弾丸は遠くの窓枠ごと吹き飛ばした

 

「・・・・・・っ!」

 

屋上からスナイパーが転がり落ちる

 

「・・・い、一体!」

 

だが

 

「"ヒヨリ! 伏せて!"」

 

「えっ――」

 

別の方向から

 

ダァンッ!!

 

弾丸がヒヨリのいた位置を掠め

後ろの壁へ突き刺さった

 

「"二人目がいる!"」

 

「・・・・・・っ!」

 

ヒヨリはすぐに身を低くする

 

「どこですか!?」

 

「正面左の廃屋!」

 

私は指を向けた

 

「窓!」

 

ヒヨリが振り返る

 

けれどそこには何もない

 

・・・・・・移動した

 

私は奥歯を噛む

 

「"ミサキ!"」

 

「・・・分かってる。」

 

ミサキは、すでにスティンガー(セイントプレデター)を肩へ担いでいた

 

「位置を教えて。」

 

「"今・・・"」

 

私は一瞬だけ周囲を確認する

敵のアサルトライフル部隊が、中央を押さえている

そのさらに後方の二階建ての廃屋

 

「"あの建物の二階。"」

「"窓が三つある方。"」

 

ミサキが頷き

 

「・・・了解。」

 

ロケット弾が発射される

 

ヒュンッ――

 

一瞬の静寂の後

 

ドゴォォォン!!

 

廃屋の二階が吹き飛んだ

瓦礫と煙が舞い

 

その奥から、スナイパーが転がり落ちる

 

「当たった。」

 

ミサキは淡々と呟いた

 

「残り、五体。」

 

中央にはまだアサルトライフルを持った三体がいる

しかも左右から二体増援が入り

 

合計五

 

「前衛、来る!」

 

ミメシスが一斉に前へ出た

 

ダダダダダダッ!!

 

サオリも撃ち返す

 

「っ・・・・・・!」

 

一体、二体と撃ち合いながら

サオリは遮蔽物の間を移動する

 

敵が一体、左から回り込む

 

「"サオリ、左!"」

 

「分かっている!」

 

サオリが身体を反転

アサルトライフルを横向きに構え

 

ダダダッ!!

 

一発胸部へ

 

二発肩へ

 

最後の一発でミメシスが煙に還る

 

残り四

 

「ミサキ!」

 

「・・・今。」

 

ミサキがスティンガーを構える

 

狙うのは二体

その後ろには

 

遮蔽物

 

一歩動けば敵同士が重なる

 

「一度に二つ・・・・・・。」

 

ミサキが引き金を引く

 

ヒュンッ!

 

ロケット弾が地面すれすれを飛び

中央のミメシスへ突っ込む

 

ドゴォン!!

 

二体の間で爆発が起こり

一体が吹き飛び煙へと変わる

 

もう一体が転倒すし

 

「・・・・・・!」

 

サオリが追撃する

 

ダダダダッ!!

 

転倒した一体へ弾丸を叩き込み、その一体も煙に還る

 

残り二

 

そしてその瞬間

上空から

 

――ダァンッ!!

 

再びスナイパー

 

「ヒヨリ!」

 

「見えます!」

 

ヒヨリが姿勢を低くしたまま

対物ライフルを旋回させ

 

遠くの建物の屋上

 

僅かに動いた銃身

 

「・・・・・・そこ!」

 

ズドォンッ!!

 

屋上の壁ごと

 

スナイパーが消し飛んだ

 

残る一体

 

アサルトライフルを持ったミメシスが

サオリへ突っ込む

 

距離。

 

十メートル

 

八

 

六

 

四

 

敵が撃つ

 

ダダダダッ!!

 

サオリは横へ飛び、地面を転がる

そのまま片膝をつき

 

ダダダダダッ!!

 

最後のミメシスが倒れた

 

「・・・終わりだ。」

 

その言葉と同時に

 

周囲が静かになった

 

銃声も

 

爆発音も

 

足音も

 

何もない

 

瓦礫が、ぱらぱらと落ちる音だけが残っている

ヒヨリが、対物ライフルを下ろす

 

「お、終わりました・・・?」

 

ミサキもスティンガーを下ろす

 

「・・・うん。」

 

サオリは息を整えながら、周囲を見る

 

「・・・・・・完全に沈黙している。」

 

私も、ようやく息を吐いた

 

「"・・・・・・終わった。"」

 

その瞬間張り詰めていた空気が

ほんの僅かだけ緩んだ

 

サオリが銃口を下げ

ヒヨリも肩の力を抜く

 

私も

 

「"・・・・・・"」

 

そしてその一瞬だった

空から何かが落ちてくる

 

「・・・・・・?」

 

サオリが顔を上げる

 

「"サオリ!!"」

 

私が叫んだ

 

上空

 

そこに黒い神秘を手に纏わせたミカがいた

落下しながら拳を握っている

 

「"・・・ミカ!?"」

 

ミカが、笑う

 

「ごめんね~☆」

 

そして

 

サオリへ向かって拳を振り下ろした

 

「――っ!」

 

間に合わない

 

サオリが振り返る

 

次の瞬間

 

「サオリ!」

 

アンラさんが滑り込んだ

 

ドォンッ!!

 

サオリの身体を横へ吹き飛ばし

 

その代わりにアンラさんが正面からミカの拳を受け止めた

 

ドッゴォン!!!

 

地面へ轟音が響き、アンラさんが立っている石畳が砕け散る

 

「"アンラさん!!"」

 

「・・・・・・!」

 

アンラさんが踏ん張る

その目の前でミカが、ゆっくりと手を開いた

 

「やっぱり。」

「あなたは反応するよね。」

 

その声はいつもの柔らかさを保っていた

 

なのにどこか

ぞっとするほど自然だった

 

ミカの指先で黒い神秘が、形を変える

 

圧縮

 

回転

 

そして

 

「【深く暗い井戸の底】」

 

瞬間、黒い闇が固まった

 

球体、小さな

けれど異様なほど濃密な黒

 

その中心が空間そのものを歪め始める

 

ゴゴゴゴゴ・・・・・・

 

地面が引き寄せられる

 

瓦礫が

 

空気が

 

光までも

 

その黒い球へ吸い込まれていく

 

「・・・星系魔術!?」

 

アンラさんが目を見開いた

 

「クソッ!!」

 

身体を引こうとする

 

けれど

 

「・・・・・・!」

 

ミカの手が、アンラさんの腕を掴んだ

 

「離せ!このメンヘラゴリラ・・・!!」

 

アンラさんが踏み込む

だが動かない

 

黒い闇が周囲の空間ごと

ねじ込み始める

 

「"アンラさん!!?"」

 

私は叫んだ

 

「"ミカ!やめて!!"」

 

ミカは静かに笑った

 

「・・・ごめんね。」

「でも。今は邪魔されたくないんだ。」

 

「アンラさん!」

 

サオリが立ち上がろうとするのを

 

「止まれ!」

 

アンラさんが叫んで止めた

 

それから私を見る

 

「先生!!俺は大丈夫や!」

 

「十分。・・・いや。」

「五分で戻る!!」

「今が使い時や!!持たせろ!」

 

「死ぬなよ!!!」

 

その言葉を言い切るより早く

空間がねじ切れた

 

「・・・・・・!」

 

アンラさんの身体が

黒い球体へ引きずり込まれる

 

腕、肩、身体

 

その全てがまるで空間そのものを巻き取るように

ぐにゃりと折れ

 

「・・・・・・っ。」

 

最後にアンラさんの姿が黒い闇の向こうへ消え

そしてそこには小さな黒い球だけが浮かんでいた

 

 

 

 

 




さて!
メンヘラピンクゴリラ(ミカ*テラー)の星の呼び声の代わりに入ったスキル構成が公開されましたね。
そうです。マイクロブラックホール生成の【深く暗い井戸の底】です。

アンラはそれを見た時に術式の構成から星系魔術・・・
これは魔術大全にものしてない物なんですが・・・
まぁ、何でかと言うとアンラが使う事が出来ない血統系の魔術なので、のしていませんでした。
まぁそれは置いておいて

今回はアンラはマイクロブラックホールに吸い込まれてしまいました!

ごりんのじゅうでございます・・・!!








まぁブラックホール如きで殺せるならアンラが元居た世界の奴も苦労しないんすよ・・・
と言う事で生きてます。
何でしたら空間が拉げて吸い込まれたせいで
先生視点から見るとアンラが拉げて潰れていく絵面に見えてますが、
本人は平然と事象の地平線を飛び越えすっぽり特異点に収まってます。
宣言通りの分数からそれよりも早く出て来るでしょうね。

ぶっちゃけアンラをキヴォトスとか言うぬるま湯に浸かって錆び付いてる状態だったとしても、
数分間拘束出来るのは破格ですけどね。
元居た世界の連中が知ったら確実にアンラ討伐の協力要請飛んできますね。


さて、話を戻しますが。
アンラが今回ミカにこのブラックホールで拘束された理由ですね。
まず第一に、ミカはアンラを拘束する為にこれを叩き込み。
さらには逃げれない様に掴んで拘束しました。

ですが、アンラ視点から見ると別なんです。
ぶっちゃけ、ブラックホール如き消し飛ばす事も、
ミカから拘束を振りほどく事も容易な事でした。
でもしなかった。それはなぜか。

どっちもミカを殺しかねないからですね。
なので、アンラから見た状況は、
ミカがアンラを捕まえて自分自身を人質にしてアンラを拘束したという状況になってます。

このメンヘラがよぉ・・・!!
それがアンラの心境ですね。



さて次に・・・読んでくれている方が気になるポイントとしては
『【先生】が本来持つ力』でしょうか・・・

まぁ次話でその辺も含めて出て来るので少々お待ちくだせぇ!
次の話でこそ、やっと先生達VSミカです!

頑張って続きかくぞー・・・!
仕事クッソ忙しくてマジで死にそうだけど!
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