おっさんキヴォトスに行く   作:無い頭のおっさん

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主演のセイアさんが体調不良の為、番組内容を変更していましたが。
この度、セイア様が快復されましたので、【今日のセイア】を再開させて頂きます。


おっさん解体ショーする

【アリウス分校・旧校舎】

 

旧校舎

そこへ辿り着くまでの道中

何度か、遠くから何かが突き刺さる音が響いていた

けれどおっさんが振り返る事は、一度もなかった

遭遇したミメシスはどれも、おっさんの視界入るより先に

串刺しになり、煙へと変わっていった

 

「・・・・・・」

 

やがて旧住宅街を抜け

視界が開けた先にアリウス分校の旧校舎が姿を現した

 

サオリが足を止める

 

「こっちだ。」

 

「"・・・・・・"」

 

先生は目の前の建物を見上げた

 

廃墟

 

ボロボロに崩れ

屋根の大部分は抜け落ち

壁には、無数の亀裂が走っている

 

「"ここが・・・"」

 

視線を巡らせる

 

「"アリウス分校の、昔の校舎・・・"」

 

「・・・・・・」

 

おっさんはそんな先生の横顔を眺めながら

小さく声を掛ける

 

「先生。」

「普段はどうしてたんや・・・?」

 

「"・・・・・・"」

 

先生がほんの少し気まずそうに視線を逸らした

 

「"いや・・・お恥ずかしいですけど。"」

「"一回ベアトリーチェに捕まってから"」

「"内部から強襲してました・・・"」

 

「・・・・・・」

 

おっさんはしばらく黙って考える

 

「・・・それでも、良かったっちゃ良かったんか・・・・・・?」

 

「"・・・・・・"」

 

先生も何とも言えない顔をしていた

その二人を置いてスクワッドの三人は、さっさと旧校舎へ入っていく

 

「中に入るのは初めてです・・・・・・」

 

崩れかけた入口を見上げながらヒヨリが呟いた

 

「そうだね。」

 

ミサキが続く

 

「ここは廃墟・・・・・・というより。」

「もはや、遺跡に近い所だから。」

 

「・・・・・・」

 

先生とおっさんも二人の後を追って内部へ入る

 

中も外と大差なかった

 

崩れた壁

剥がれ落ちた床

割れた窓

 

長い年月誰にも使われなかった場所だけが持つ

静かな死の気配が建物全体に染み付いている

 

ヒヨリが辺りを見回し

 

「昔は・・・ここでアリウス生が勉強をしていたのでしょうか・・・・・・?」

「ど、どんな事を学んでいたんでしょう・・・・・・」

 

「さぁ・・・?」

 

ミサキは少しだけ考えるように視線を上へ向け

 

「それを覚えている人はもう居ないだろうね。」

 

「・・・・・・」

 

サオリが会話を切り上げるように前を向く

 

「急ぐぞ。回廊は地下にある。」

 

 

 

【アリウス旧校舎・地下回廊】

 

崩落した廊下を避け

瓦礫で塞がった教室を横目に

一行は地下への入口を探していく

 

しばらく進んだ頃

 

「み、見つけました!」

 

ヒヨリの声が響いた

 

「こっちです!」

 

サオリがすぐに振り返る

 

「そうか。」

 

そのまま先へ進もうとしたところで

 

「・・・待って。」

 

ミサキが呼び止めた

 

「リーダーの言葉通り。」

「ここがバシリカまで一直線につながっている通路なら・・・」

 

崩れた天井

狭い廊下

途中には遮蔽物もほとんどない

 

「この地形は危ない。」

 

サオリもその意図を察し

 

「待ち伏せの可能性なら。」

「私も考えている。」

「だが、むしろ一直線なら・・・」

 

「いや。」

 

ミサキが言葉を挟んだ

 

「私は、あのゴリラの話。」

 

「私が彼女なら。」

「どうするのか・・・考えたの。」

 

「彼女にとっての障害は多分、この大人と先生。」

「先生には怪我をさせたくもないし。」

「先生の指揮も厄介だろうしね。」

 

「それに、この大人は」

「あの女と真正面から殴り合える。」

 

「なら・・・」

 

ミサキが目を細める

 

「きっと・・・・・・」

 

「なぁ・・・・・・」

 

おっさんが嫌そうな顔をする

 

「ミサキ。お前さん・・・それ。」

「フラグって言うんやで・・・」

 

直後

 

・・・・・・ゴゴゴゴゴゴッ!!

 

建物全体が腹の底へ響くような音を立てて揺れた

 

「・・・・・・!」

 

ヒヨリが振り返る

 

「き、気を付けてください!」

「先生!後ろから柱が・・・!!」

 

「"・・・・・・!?"」

 

崩れかけていた柱が

まとめてこちらへ倒れ込んでくる

 

「走れ!!」

 

サオリの怒号が飛び

全員が一斉に駆け出す

 

ドォォォォン!!

 

ドガァァァン!!

 

轟音と土煙を上げながら

柱が次々と床へ叩きつけられ

廊下そのものが揺さぶられていく

 

どうにか前方の回廊へ逃げ切ったところで

 

「・・・・・・」

 

ミサキが肩越しに後ろを確認する

 

「・・・先生、大丈夫?」

 

「"うん。何とか・・・"」

 

ヒヨリもようやく息を吐いた

 

「よ、良かったです・・・」

「急に柱が壊れるなんて・・・」

「一体・・・・・・」

 

その時

ヒヨリの視線が何かを探すように周囲を走った

 

「あ、ああっ!?」

「り、リーダーは!?」

 

ミサキも慌てて振り返る

 

「リーダー?」

 

瓦礫の向こうでかすかに

サオリの声が返ってきた

 

「・・・ここだ」

「反対側に居る。」

 

「瓦礫のせいで良く見えない。」

「怪我は?」

 

ミサキが声を張る

 

「ああ。大丈夫だ。」

 

ヒヨリがすぐに瓦礫へ駆け寄った

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいね、リーダー!」

「柱をどかしてみます・・・!」

 

その瞬間

 

・・・ゴゴゴッ

 

嫌な地響きが再び腹の底を揺らす

 

「え・・・・・・?」

 

次の瞬間

 

・・・ゴゴォォォォン!!

 

さらに柱が何本も倒れてくる

天井まで巻き込んで崩れた土砂が大量に降り注いだ

 

「きゃあっ!?」

 

ヒヨリが飛び退くと同時に

 

ドドドドドド!!

 

土煙の向こうで最後の隙間まで完全に塞がれた

 

「ダメだ・・・・・・」

 

ミサキが瓦礫を見つめる

 

「完全に塞がれてる・・・」

 

先生がすぐにおっさんへ振り向いた

 

「"アンラさん。"」

「"この土砂、なんとか出来ませんか?"」

 

「・・・いや。」

 

おっさんは崩落した天井を見上げた

 

「出来るっちゃ出来るけど。」

 

「これ、どかしたら俺らん所もサオリの所も」

「一緒に崩落する可能性があるぞ・・・」

 

「・・・・・・」

 

ヒヨリの顔が青ざめる

 

「か、完全に終わりですね!?」

「リーダーは大丈夫ですか!?」

 

ミサキが瓦礫の向こうへ声を飛ばす

 

「リーダー、聞こえる?」

「そっちに戻る道が塞がってないなら合流地点を探すよ。」

 

直ぐに返事は帰ってこなかった

 

数秒後

 

サオリが答えた

 

「・・・・・・いや。それは厳しそうだ。」

 

その直後だった

 

・・・コツ・・コツ・・・コツ

 

瓦礫の向こうから

規則正しい足音が響く

 

「・・・・・・」

 

サオリが暗闇の奥へ視線を向け

 

やがて一人の少女が姿を現した

 

「・・・良かった。」

 

ミカだった

 

「先生が巻き込まれるかもと思って。」

「手加減したんだけどさ。」

「それでも不安だったから。」

 

その瞳は濁りながらも爛々と輝いている

 

手には一丁の銃を持っていた

 

「まぁでも。」

 

ミカがゆっくり笑った

 

「先生とあの厄介な人」

「二人とも綺麗に分断出来て。」

 

「錠前サオリ。こうして、あなただけが残ってくれて。」

「本当に良かった。」

 

「"・・・・・・!"」

 

先生が顔を青くする

 

「"ミカ!!やめて!!!"」

 

瓦礫の向こうからミカが返す

 

「・・・・・・ごめんね、先生。」

「それは出来ないよ。」

 

その視線がサオリへ向く

 

「ねぇ、サオリ。」

「時間が無いんでしょう?」

「急がなくていいの?」

 

「・・・・・・」

 

サオリがわずかに目を細め

 

「・・・日の出まで・・・あと一時間か。」

 

ミカが

 

「あーあ・・・せっかく分断したけど。」

「先生と、あの大人がここに来ちゃったら。」

「これ以上、私に出来ることは無いんだよね。」

 

口元に笑みを浮かべ続ける

 

「でも。それって」

 

「一体どのくらいかかるんだろうね?」

「――それまで持ちこたえられたら」

 

「あなたの勝ちだよ、サオリ。」

 

「・・・・・・」

 

サオリは目を閉じ

ほんの僅かに口角が上がる

 

「・・・・・・」

 

ミカが不思議そうに首を傾げる

 

「・・・何、その表情。」

「何か楽しい事でもあったの?」

 

「それとも、諦めちゃった?」

 

サオリは静かに答えた

 

「・・・いや。」

「昔の事を思い出しただけだ。」

 

「昔・・・?」

 

「――来るな!!」

 

突然サオリが叫んだ

 

「先生!!!」

 

ミカが一瞬だけ目を見開く

 

「・・・・・・!」

 

「時間が無い。」

「そのままアツコの所へ行ってくれ!!!」

 

「・・・姫を。」

「頼む!!!」

 

「リ、リーダー・・・!」

 

ヒヨリの声が震える

 

先生は俯いたまま

拳を固く握り込んだ

 

「"・・・・・・!"

 

ミサキが低い声で告げる

 

「・・・リーダーの言う通りだよ。」

「あるのかも分からない道を探す時間はない。」

「それに、もし道を見つけたとしても――。」

 

「手遅れだよ。」

 

「先生の指揮が無いリーダーでは」

「ミカの相手なんかできない。」

 

「私達が到着するまで耐えられるかだって・・・」

 

「多分、無理だ。」

 

「で、でも・・・」

 

ヒヨリが呟く

 

ミサキがまっすぐ彼女を見る

 

「だから。このまま姫を助けに行くのが正しい。」

「私達が何のためにここに居るのか思い出して。」

 

先生は黙ったまま聞いている

 

ミサキが最後に先生へ視線を向けた

 

「最終判断は先生に任せる。」

 

「それに、あの女。」

「自分が何をやっているのか。」

「自覚してるみたいだけど・・・」

 

「そんなあの女を」

「先生は説得できるの?」

 

「"・・・・・・"」

 

長い沈黙ののち

 

やがて先生が顔を上げる

 

その目にははっきりとした覚悟が宿っていた

 

「"・・・私は。"」

 

「"目的を果たすよ。"」

 

その一言に迷いはなかった

 

「・・・・・・」

 

おっさんはそんな先生の顔を見て

ほんの少しだけ口角を上げる

 

「・・・・・・せやな。」

 

先生が走り出した

 

その後をミサキ、ヒヨリ

そして、おっさんが追う

 

サオリだけを残して

 

遠ざかる足音が

 

やがて

 

聞こえなくなる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【錠前サオリ視点】

 

「・・・・・・」

 

ミカが小さく笑った

 

「あーあ・・・」

「結局、先生は行っちゃったね。」

 

「良かったね、サオリ。」

 

「きっと、あなたのお姫様は助かるよ。」

 

サオリはミカを見る

 

「ミカ・・・お前が望んでいたのは」

「こんな事だったのか?」

 

「私が望んでいた事・・・?」

 

ミカは少し困ったような顔をする

 

「私は・・・何を望んでたんだっけ・・・」

 

ほんの少し考えて

 

「ああ。うん。」

 

「そうだね。目的達成、みたいな?」

 

「・・・・・・」

 

「でも。」

 

肩を竦める

 

「別にあなたを狙ったわけじゃないよ。」

 

「正直に言えば、誰でも良かった。」

 

「むしろ・・・」

 

視線を逸らし

 

「先生がここに残ってくれたらいいなー。」

「とか、思ったりしたくらい。」

 

「まぁ・・・それはちょっと」

「高望みだと思うけどね。」

 

「・・・・・・」

 

サオリは黙って聞いている

 

ミカが苦笑する

 

「えー・・・そんな目で見ないでくれる?」

「セイアちゃんにもよく言われたんだよね。」

 

「衝動的で何も考えてないって。」

「私だって自覚してるけど・・・ちょっと酷くない?」

 

「本人に言う?」

 

そこまで話して

 

ミカは少し黙った

まるで自分の中を探るように

 

「・・・うん。」

 

「やっぱり。」

「私が一番望んでいたのは。」

 

ゆっくり

 

サオリを見る

 

「これかなぁ。」

 

「もっとも殺したいあなたが」

「こうして、私の前に居る事。」

 

「・・・・・・」

 

ミカが小さく笑った

 

「それに先生は。」

「生徒を助けに行くのが正しいよ。」

 

「最後はすべての苦難を乗り越えて皆で幸せになる。」

「そんなハッピーエンドに向かうのがね。」

 

「そして。数多くの悪行を重ねてきた私達は。」

 

「ここで」

 

「結末を迎える。」

 

「・・・・・・」

 

ミカが一歩近づく

 

「だからさ。」

 

「そろそろ。私達の結末を迎えようかサオリ。」

 

「さっきから黙ってないで何か言ったらどう?」

「魔女が猟犬を処刑する場面だよ?」

「何か言い残したい事とかないの?」

 

「納得できないとか、お前の不幸は自業自得だろうだとか」

「言い訳しなくていいの?」

 

サオリは静かに答える

 

「・・・いいや。」

 

「納得している。」

 

その一言でミカの表情が固まった

 

ほんの一瞬でサオリの手元かが何かが転がる

 

「・・・・・・」

 

コロコロ

 

ミカの足元へ

 

「・・・・・・?」

 

次の瞬間

 

ドンッ!!

 

爆発と共に白煙が一気に広がる

 

「・・・・・・っ!?」

 

ミカが後ろへ跳ぶ

 

「手榴弾!?」

 

目を細める

 

「・・・違う。」

「煙幕・・・・・・?」

 

「何、これ?」

 

また煙の中から

何かが転がってきた

 

ドゴォォォォン!!

 

今度は明らかな爆発

 

「――っ!?」

 

ミカが吹き飛ばされ壁へ叩きつけられる

 

「い・・・たた・・・・・・」

 

サオリの声が煙の向こうから届く

 

「今は生産が禁止されている武器だ。」

「アリウスの訓練場に大量に捨てられていてな。」

 

「・・・・・・」

 

ミカの顔に青筋が浮かべながらにっこり笑った

 

「そうなんだ☆」

 

「別に、興味ないんだけど?」

 

そのまま声の方向へ走る

 

その春化足元を細いワイヤーが横切る

 

「・・・・・・!」

 

ピンッ

 

ドゴォォォン!!

 

また途轍もない爆発が起こる

 

ミカが咄嗟に腕を交差し防ぎ爆風が身体を包む

けれど足は止まらない、止めない

 

「・・・・・・っ。」

 

煙の中からミカが飛び出してくる

 

サオリはその姿を捉え銃口を向けた

 

「――お前を相手にする際の注意点は理解した。」

 

「お前は、手足に神秘を集中させている時。」

「それ以外の防御が」

 

「極端に落ちるな?」

 

ダダダダダッ!!

 

爆発によって起こった砂煙越しに銃弾が次々と飛び

ミカは腕で受ける

 

それでも何発かが胴体を掠めた

 

「・・・・・・っ。」

 

ミカが一度柱の陰へ身を隠す

 

「・・・・・・くっ。」

 

サオリは柱から柱へ

姿を隠しながら距離を取る

 

「ミカ」

 

「私はお前の憎悪を否定しない。」

 

ミカが顔を上げる

 

「お前に幸せな未来が訪れない事も」

 

「全てを奪われた事も」

 

「孤独になった事だって」

 

「・・・全て。私に原因がある。」

 

「ならば、私はその憎悪に応じよう。」

 

ミカの口角が僅かに上がった

 

「・・・面白いね。うん。」

 

「ゲリラ戦で行くんだ?」

 

周囲を見渡す

 

崩れた廃校舎、狭い通路

大量の瓦礫、入り組んだ柱

 

「まぁ。この地形を考慮したら」

「それが最善だろうね。」

 

視線が床に転がる手榴弾の破片へ落ちる

 

「それに・・・あはは☆」

「それ。サーモバリック手榴弾でしょ?」

 

「ちゃんと、沢山用意してる?」

「少量で私を相手に出来るなんて思わないでよね?」

 

ミカがゆっくり笑う

 

「これなら、うん。」

 

「今からちゃんと相手するからさ。」

 

一歩

 

「全力で。抵抗してみてよ?」

 

「――あなたにとっては全ては虚しい物なんだろうけど。」

 

サオリは銃を構えたまま

 

「そうか。」

 

「――なら、最後までもがいてやろう。」

 

ミカが笑う

 

「へぇ・・・退屈させないでよね?」

 

次の瞬間

 

ミカが目にも止まらない速度で駆け出した

 

「・・・・・・!」

 

サオリも走る

 

曲がりくねった角

 

薄く残るスモーク

 

その向こうへ

 

ピンッ

 

またワイヤーが引かれた

 

ドゴォォォン!!

 

ドゴン!!

 

ドォン!!

 

いくつもの爆発が連続して弾ける

 

爆風がミカを包む

 

それでもミカは止まらない

 

「・・・・・・っ!!」

 

傷を負う事すら構わず

そのままサオリへ向かって駆ける

 

「・・・・・・!」

 

サオリは

 

曲がりくねった廊下へ逃げ込み

スモークを撒く

 

ダダダダダッ!!

 

煙越しに銃弾を叩き込む

 

ミカが身体を捻るも何発かが身体を掠める

それでも止まらない

 

一歩、二歩、三歩

 

距離が確実に縮まっていく

さらに角を曲がる

 

「・・・まだ。」

 

もう一つスモークをたき廊下の脇へ身体を滑り込ませる

 

「・・・・・・」

 

ミカの足音が近づく

 

・・・コツ・・・コツ・・・コツ・・・

 

サオリは息を殺し隠れる

煙の向こうにミカの影が浮かぶ

 

「・・・・・・」

 

次の瞬間影が消えた

 

「・・・・・・!」

 

振り向くも遅い

 

目の前にミカがいる

 

「見つけた。」

 

黒い神秘を纏った拳が一直線に迫る

 

「・・・・・・!!」

 

サオリは視界の端にあったものへ手を伸ばした

分厚い鉄板、崩れた廃屋の壁材

 

「・・・・・・これを!」

 

微かに使える神秘で無理矢理強化し

鉄板を目の前へ滑り込ませる

 

その直後ミカの拳が鉄板へ叩き込まれた

 

「――――ッ!!」

 

ドゴォォォン!!

 

分厚い鉄板が大きくひしゃげ砕け散る

衝撃はそのままサオリの身体まで貫いた

 

「・・・・・・がっ!!」

 

身体ごと吹き飛ばされる

 

その直前鉄板の背後

 

天井近くに仕掛けていた

複数のサーモバリック手榴弾

 

その一つへ

 

鉄板の破片がぶつかり

ミカの表情が変わる

 

「・・・・・・あ。」

 

次の瞬間

 

ドゴォォォォン!!!!

 

巨大な爆炎が一気に弾けた

 

ミカの身体が反対側へ吹き飛ぶ

 

「・・・・・・っ!?」

 

その一方サオリも

 

ミカとは逆方向へ弾き飛ばされ

 

ドガァン!!

 

一枚目

 

ドゴォォン!!

 

二枚目

 

壁を二つぶち抜いた。

 

「・・・・・・ぁ。」

 

最後の壁へ背中から叩きつけられる

 

「――――ッ!!」

 

サオリの身体がその場で止まった

 

銃が手から落ちる

 

「・・・・・・」

 

力が抜ける

 

視界が滲む

 

遠くから爆発音と共に何か叫んでいる声

 

その全てが少しずつ遠ざかっていく

 

「・・・・・・姫・・・・・・」

 

最後にそれだけ呟いて

錠前サオリの意識は静かに途切れた

 

 

 

 

 

夢を・・・見ていた

 

アンラさんがスイカを持ってきて皆と分けた事

 

ミサキが腕を切り、その頭を殴った事

 

自治区が急に憎悪で溢れ私達も徐々に飲まれていった事

 

アズサをトリニティに逃がした事

 

そして・・・アズサを人殺しの道具として使ってしまった事

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・すまない。」

 

誰かへ向けた

 

掠れた声

 

「・・・・・・アズサ。」

 

その名をミカが拾った

 

「アズサ・・・・・・?」

 

吹き飛ばされたサオリの目の前まで来ていたミカが

 

その名前を繰り返す

 

その声にサオリの意識が浮上した

 

「・・・・・・!!」

 

目を開き身体を起こそうとする

 

「く・・・・・・!」

 

激痛。

 

「ぐっ・・・・・・う、ぐ・・・・・・!」

 

歯を食いしばり腕に力を込める

膝へ体重を掛ける

 

けれど足が震えた

 

「・・・・・・っ!」

 

力尽き膝から崩れ落ちる

 

ミカが静かに告げる

 

「・・・その傷じゃ。」

「無理だよ、サオリ。」

 

「・・・・・・そうか。」

 

サオリが荒い呼吸を整える

 

「そうだな・・・」

 

「私は・・・負けたのか。」

 

「・・・・・・」

 

しばらく何も言わなかった

 

やがて

 

「もういい。」

 

ミカが

 

僅かに首を傾げる

 

「もう、いい・・・?」

 

「・・・あぁ。」

 

「これ以上は。」

 

「もう、いい・・・」

 

「正しいと思って突き進んできた。」

 

「だが、それも全て間違いだった。」

 

「白洲アズサ・・・」

 

「・・・・・・?」

 

サオリが怪訝そうに首を傾げる

 

「あなたはアズサちゃんに」

「何を謝りたかったの・・・?」

 

「・・・・・・聞いていたのか。」

 

「補習授業部のアズサちゃん。」

 

「そもそも、私のクーデター計画を手伝う為に選ばれたスパイだったでしょう?」

「先生の助けが無ければ、ただの駒の一つだったはずなのに・・・」

 

サオリはゆっくり首を横に振る

 

「・・・アズサは」

「スパイとして選んだ訳ではない。」

 

「・・・・・・え?」

 

「あの子は、平和の象徴にする予定だった。」

 

「・・・なっ。」

 

サオリはミカを見つめる

 

「トリニティとアリウスの平和の象徴。」

「その表現を使ったのは、お前だったな、ミカ。」

 

「何を言ってるの・・・」

 

ミカの表情が僅かに曇る

 

「それは・・・うん。思い出したよ。」

 

「先生を騙す為に適当に言い繕った・・・」

 

サオリは悲しそうにミカを見つめる

 

「――いや。」

「お前が初めてこのアリウスに尋ねてきた時に使った言葉だった。」

「セイアの暗殺が起こる前。」

 

「そもそも、エデン条約も」

「お前のクーデター計画も」

「何一つ、計画されていなかった頃。」

 

「そう、まだ。」

「この自治区にこんな憎悪が渦巻いていなかった・・・」

 

「あの頃だ。」

 

「・・・・・・」

 

「お前はあの時アリウスと和解したいと言った。」

 

「当時は・・・自治区内は今よりも。」

「もっと笑顔と希望があった。」

 

「だから、お前が言った。」

「平和の象徴としてアリウスの生徒を一人、トリニティへ転校させる。」

「その話を実際に進めようとしていた時だった。」

 

「・・・・・・」

 

「だが、アリウス自治区全体が」

「今のような憎悪に溢れ始めてきた。」

 

「私達スクワッドも、徐々に憎悪に呑まれるのを感じた。」

「だから、まだ大丈夫だったアズサを送り出した。」

 

「だが、その機会をマダムは逃さなかった。」

「セイアはマダムにとって目障りな存在だったから・・・」

 

「・・・・・・」

 

サオリは苦しそうに息を吐く

 

「ミカ。」

 

「お前は本当に心から」

「私達と和解したかったのだろう。」

 

「・・・・・・」

 

「お前は善意を持って私達を訪ねてきた。」

「そんなお前の心を踏みにじり。」

 

「騙し。」

 

「この地獄へ導いたのは私だった。」

 

「そして」

 

「お前はこの地獄を受け入れられなかった。」

「だから自分自身の記憶に蓋をして否定した。」

 

「お前だけじゃない。」

 

「姫が声と顔を隠して生きなければならなくなった事も」

 

「ヒヨリとミサキがあの首輪を着ける事になった事も」

 

「平和の象徴ではなく、人殺しとして。」

「皆を欺いて踏みにじられなければならなかったアズサも。」

 

「――すべてが私のせいだ。」

 

「・・・・・・」

 

サオリは自嘲するように笑う

 

「私は・・・猟犬なんかじゃない。」

 

「私は・・・・・・周囲全てに苦痛を撒き散らす」

 

「疫病神だ。」

 

「だから・・・私は、アズサに謝りたかった・・・」

 

「あぁ・・・出来るなら。」

 

「来世では・・・もう少し早く、良い大人に出会って。」

「小さな幸せで溢れた人生を・・・」

 

言葉が途切れ

 

サオリは目を閉じる

 

「ミカ。」

 

「もう、この有様だ。」

「――好きにするといい。」

 

「お前が奪われた分だけ奪うといい。」

「優しい心を持っていたお前を憎悪の魔女にしてしまったのは」

 

「他でもない、私なのだから。」

 

「私は他人から沢山、奪ってしまった。」

 

「これで少なくとも、公平になるだろう・・・」

 

 

 

 

 

 

ガチャン・・・

 

 

 

 

 

 

何かが落ちる音が響いた

 

 

 

 

サオリが目を開く

 

「・・・・・・?」

 

ミカが自分の手を見つめていた

 

「・・・わ、私は・・・・・・」

 

「私・・・・・・に、は・・・・・・」

 

「出来ない・・・・・・」

 

「そんなこと、できないよ・・・・・・」

 

「だって・・・・・・」

 

ミカの目から涙が零れ落ちる

 

「私も。」

 

「あなたみたいに、そんな機会を」

 

「望んでいたの・・・・・・」

 

「私も・・・幸せになりたかった・・・・・・」

 

「私も、あなたのように。」

 

「先生に・・・もう少し早く会っていたら。」

 

「そうしたら・・・過ちを取り返せたのかな・・・・・・って。」

 

「思ってた・・・・・・」

 

「これは、当然の罰なんだと受け入れていた・・・・・・」

 

「でも。やっぱり。」

「慈悲が欲しいって数え切れないほど祈った。」

 

「でも。無駄だったの。」

 

「私が犯した、取り返しのつかない事の数々を。」

「どうすれば許されるのか、全然分からない・・・・・・」

 

「二度目のチャンスが」

 

「先生や皆が。」

「私の為に集まってくれてやり直す事が出来る。」

「そんなチャンスが私にもあるって信じてた・・・・・・」

 

「でも。無かった。」

 

「そんな未来は、無かったの・・・・・・」

 

ミカの頭上で浮いている

黒い球体のようになってしまったヘイローに

 

小さな亀裂が走った

 

「全部が虚しい事ばかりで。」

 

「ただ、救いを願って苦しむだけだった・・・・・・」

 

黒い表面の一部がほんの僅かに剥がれ落ち

 

その下から淡い桃色の光が覗く

 

「あなたは・・・私だよ。サオリ・・・・・・」

 

「あなたは幸せになれない。」

 

「私が幸せになれないのと同じように。」

 

「・・・・・・」

 

黒い殻にまた細かな亀裂が増えていく

 

「そう思ってた。」

 

「あなたにも私と同じ結末が必要なんだって。」

「そうすれば私だけが不幸なんじゃないって。」

 

「そう思えたから・・・あなたに公平な痛みを願っていたのかもしれない。」

 

「・・・・・・」

 

ミカが落ちた銃を見る

 

「でも。だからこそ。」

 

「私には、できない・・・・・・」

 

黒い殻はもう半分近くが剥がれ落ちていた

 

その向こうで桃色の光を纏った

星が瞬くような、銀河のような輝きを放っていた

 

「私があなたの結末をこんな風に決めてしまったら」

 

「私に救いなど無いと自ら証明することになってしまう・・・」

 

さらに黒い殻が音もなく剥がれていく

 

「そんなの。嫌だ・・・」

 

「サオリ。私は。」

 

「あなたを殺せない。」

 

黒い殻はもうほんの僅かしか残っていない

 

ミカは震える声で

 

続ける

 

「・・・・・・ううん。殺したくない。」

 

その瞬間最後に残った黒い殻が音もなく砕け散った

無数の黒い欠片が霧のように夜の中へ溶けていく

 

その下から現れたのは

 

桃色の光星々が瞬くような

美しい銀河のヘイロー

 

完全に元のミカの姿へ戻っていた

 

「あなたまで。私と同じ場所に落としたくない・・・」

 

そこから先は言葉にならなかった

 

ミカはただ、泣きながらサオリを見つめていた

 

 

 

 

 

 

 

【七篠アンラ視点】

 

・・・コツ・・・コツ・・・コツ・・・

 

その時遠くから靴音が響いた

 

サオリが顔を上げる

 

「・・・・・・?」

 

暗闇の向こうから先生が歩いてくる

 

その少し後ろに

 

アンラ、ミサキ、ヒヨリ

 

三人の姿もある

 

「・・・・・・!?」

 

ミカの目が大きく見開かれる

 

「せ、先生・・・・・・?」

 

サオリも驚愕する

 

先生は二人を見る

 

それからミカの頭上へ視線を向けた

 

「"・・・・・・"」

 

ミカのヘイローが元に戻っていた

 

それを見た先生がほんの一瞬だけおっさんへと視線を送る

 

おっさんはニヤッと笑って返す

 

そうしたら先生の肘が

 

ゴスッ

 

おっさんの横腹に魔力障壁を無視して突き刺さる

 

「――うぐっ。」

 

「"・・・・・・"」

 

先生は何も言わない

 

サオリが震える声で尋ねる

 

「先生・・・姫を助けに行ったんじゃ・・・・・・?」

 

先生が頷く

 

「"もちろん行くよ。"」

「"サオリと一緒にね。"」

 

サオリが目を見開く

 

「・・・・・・!!」

 

その横でミサキが少しだけ気まずそうに告げた

 

「ごめん。リーダー・・・」

「説得したけど止められなかった。」

 

ヒヨリも荒い息を整えながら

 

「リーダー・・・無事で良かったです・・・」

「いえ。無事じゃないですね・・・?」

 

「と、とにかく。良かったです・・・」

 

「ミサキ・・・・・・」

「ヒヨリ・・・・・・」

 

サオリは二人の名前を静かに呼んだ

 

先生がミカを見る

 

「"サオリと。"」

「"戦ったんだね、ミカ。"」

 

ミカの目が泳ぐ

 

「え。せ、先生・・・・・・」

「えっと・・・・・・」

 

先生が一歩近づく

 

「"ごめんね。"」

 

「・・・・・・!?」

 

ミカが目を見開く

 

「せ、先生・・・・・・!?」

 

「"ミカと向かい合って。"」

「"きちんと話をしなければならなかったのに・・・"」

「"私が、それをしなかった。"」

 

「ど、どうして。先生が私に謝るの・・・・・・?」

 

「先生は悪くないよ。悪いのは私でしょう・・・?」

 

「それなのにどうして・・・」

 

先生は静かに答える

 

「"生徒の命が懸かっていたから。"」

「"私は、サオリの手伝いをしているんだよ。"」

 

「"だから。アツコの救出が終わったら。"」

「"一緒にトリニティに戻ろう?"」

「"セイアの事も、必ずなんとかするから。"」

 

「・・・・・・!!」

 

ミカが言葉を失う

 

「ど、どうして・・・・・・」

 

「そんな事をしたって。」

「何も変わらないのに・・・・・・」

 

「私は・・・退学が決まってて」

 

「セイアちゃんも私のせいで・・・・・・」

 

先生は一歩も引かない

 

「"手伝うよ。"」

「"ミカが直面している事、状況、望んでいた事・・・"」

「"私は、ミカがどんな子なのか知っているからね。"」

 

「あ。・・・・・・あはは。」

 

ミカが乾いた笑いを漏らす

 

「先生は何を言ってるの・・・?」

 

「私がどんな子なのか知ってる・・・?」

 

「――私の何を知ってるの?」

 

「私は魔女だよ。」

 

「何か勘違いしてない?」

 

「先生、ちゃんと私を見てる?」

 

「この姿を。私が犯した罪を。」

 

先生が真っ直ぐミカを見つめる

 

「"そうだね。"」

 

「"ミカは悪い子だ。"」

 

「"人を傷つけ。"」

 

「"自分を痛めつけ。"」

 

「"そんな事をしておきながら。"」

 

「"結果を受け入れる事が出来ずに、泣いてしまう――そんな子だ。"」

 

「・・・・・・」

 

「"でも。和解の手を差し伸べようとする優しさも持ち合わせているし。"」

「"嫌われることを恐れて、自分を傷つけてしまう不安定な子供でもある。"」

 

「"ミカは、魔女じゃないよ。"」

「"ただ、人の言う事を聞かない不良生徒だね。"」

 

「・・・・・・」

 

「"だから――ちゃんと、話を聞かせて欲しいな。"」

 

「・・・・・・なんで。」

 

ミカの声が震える

 

「なんで・・・・・・そのまま振り向かないで」

「行ってくれたらよかったのに・・・・・・」

 

「どうして、私を苦しめるの・・・・・・?」

 

「こんな・・・最後まで・・・・・・」

 

「まだ、私にチャンスがあるって信じさせるの・・・?」

 

先生は静かに笑った

 

「"大丈夫。ちゃんとあるよ。"」

 

「・・・・・・?」

 

「"チャンスは、無ければ作り出せばいいからね。"」

 

「そ、そんなの。無茶苦茶だよ・・・・・・」

 

「"それがダメでも、次のチャンスを作ればいい。"」

 

「"失敗したとしても。"」

「"何度でも・・・・・・そう。何度だって。"」

 

「"道が続いている限りチャンスは、何回だって生み出せる。"」

「"だからね、ミカ。サオリ。"」

 

先生の視線が二人の間を行き来する

 

「"一度や二度の失敗で。"」

「"道が閉ざされるなんて事は無いんだよ。"」

「"この先に続く未来には、無限の可能性があるんだから。"」

 

「・・・・・・」

 

ミカの瞳が震える

 

背後ではおっさんが腕を組みながら静かに成り行きを見守っていた

 

「・・・・・・」

 

(先生がそれ(無限の可能性)を言うと説得力が違うねぇ・・・・・・)

(それにしても、これを生で見れたか・・・ここだけはアロナに感謝やな。)

 

(それ(感謝)はそれ(感謝)、これ(復讐)はこれ(復讐)で、これからも重労働はやらすけど。)

 

先生はゆっくりと言葉を続ける

 

「"生徒が未来を諦めるなんて、あってはいけないからね。"」

「"チャンスが無いと言うなら私が、何度だって作ってみせるよ。"」

「"そういう事は、私達大人に任せて。"」

 

「"ね?"」

 

そう言いながら

 

先生がおっさんを見る

 

おっさんは苦笑を浮かべ

 

「まぁ・・・ガキが死に急ぐような未来なら。」

「おっさんがひん曲げ――」

 

その瞬間

 

「戯言もそこまでになさい!!」

 

部屋中に

 

ドブの様な濁った声が響き渡った

 

先生が顔を上げる

 

「"ベアトリーチェ・・・!"」

 

目の前にベアトリーチェのホログラムが浮かび上がる

 

「よくも私のバシリカでそんな戯言を言えますね。」

「興が冷めました。」

 

「見世物はここまでといたしましょう。」

「あなた達の位置を私が知らないとでも?」

 

「いいえ。私はただ。見守っていただけ。」

 

ベアトリーチェが薄く笑う

 

「こんな、つまらない一幕。」

「今日はもう終わりにしましょう。」

 

「さぁ。今から私の全力を尽くして」

「あなた達を相手して差し上げます。」

 

「――儀式を始めましょうか。」

 

その瞬間

 

ホログラムの映像が切り替わった

そこに映し出されたのは

 

オブジェに赤い荊のような植物で身体を縛り付けられた

 

「・・・・・・」

 

アツコが居た

 

「・・・・・・!」

 

サオリが目を見開いた

 

「ア、アツコ!!」

 

ミサキも顔を強張らせる

 

「そ、そんな・・・まだ時間は・・・・・・」

 

ヒヨリも空を見上げた

 

「た、太陽はまだ昇ってないのに・・・・・・」

 

ベアトリーチェが笑った

 

「何を勘違いしているのですか?」

 

「私が日が昇るまで待つとでも?」

 

「いいえ。遊びはもう終わりです。」

「ロイヤルブラッドのヘイローはもう間もなく破壊されるでしょう。」

 

「そして――」

 

「ピーチクパーチク。」

 

アンラが

 

言葉を挟む

 

「うるせぇなぁ。」

 

「儀式の条件すら真面に守れねぇ。」

「三流術士以下のカスが誰の許可得て俺の言葉を遮ってんだテメェ。」

 

ベアトリーチェの表情が固まる

 

「今。お前が生きてるのはあくまで俺の気分次第やとさっき言ったよな。」

 

アンラの目から殺気が滲む

 

「この程度の殺気で動けなくなるんなら。」

「最初から俺に喧嘩売ってくるなや。」

 

腰の刀へ手を掛ける

 

「今ここで、テメェの首落としてやってもええんやぞ?」

 

――――カチン

 

鯉口が切られる

 

その瞬間ベアトリーチェの首に赤い一本の線が走った

 

「・・・・・・」

 

一筋の血がベアトリーチェの首から流れる

 

ベアトリーチェは口を開きかけ、閉じ

 

そのまま通信を切断した

 

ブツン

 

「・・・・・・」

 

アンラは刀から手を離す

 

「登場から退場まで。」

「三流やな、あのゴミ。」

 

 

直後、先生達の周囲に黒い影が次々と湧き上がった

 

「"・・・・・・!"」

 

一体、二体、十体、数十体とミメシスの群れが

瞬く間に周囲を埋め尽くす

 

さらにその包囲の外側

 

巨大な影が

 

一つ異様な姿の個体だった

 

全身をラバースーツのような黒い装甲で包み

両手には途轍もなく大きな銃器を携えたミメシス(バルバラ)が現れた

 

アンラがその姿を眺める

 

「はぁ・・・・・・」

 

「いや。ここまで原作と乖離してるんや。」

「ここで俺が力を使うのは、正当な理由足りえるな。」

 

刀を抜く

 

「――――虚月・重」

 

チンッ

 

鍔鳴り

 

その音が静かな廃校舎へ

 

鋭く響いた

 

直後、周囲を囲んでいたミメシス全てに

 

一本、また一本と斬線が

頭、首、腕、脚、胴体と無数に浮かび上がる

 

「・・・・・・」

 

次の瞬間

 

群れが一斉に崩れた

 

ザァッ

 

黒い煙へと数十体いたはずのミメシスがほんの数秒で消え去った

 

残ったのは重武装の個体、バルバラただ一体だけだった

先生もサオリもミサキもヒヨリもミカですら声を失う

 

アンラはまるで子供が新しい玩具でも見つけたかのような顔でバルバラを見つめていた

 

その口元がゆっくりとつり上がる

 

「・・・・・・」

 

殺気というより純粋な愉悦だった

目の前にいる相手がどれだけ強く、どれだけ重武装で

どれだけ強固な装甲を持っているか

 

そんなものどうでもいい

 

ただ、どう斬れば面白いか

それだけを考えているような目

 

「・・・・・・」

 

次の瞬間

 

消えた

 

「"・・・・・・!?"」

 

先生達の視界から完全にアンラの姿が消失する

 

次に見えた時には

 

もうバルバラの目の前だった

 

「―――」

 

腰を落とし右足を僅かに引き

 

右手が刀の鞘に触れる

 

親指が鍔を押し上げ

 

ほんの僅かに鞘と刀身の間に隙間が生まれる

 

そこへ

 

左手が添えられ

 

そして

 

抜く

 

速いという言葉では足りない

柄を握った瞬間、抜刀が終わっていた

 

一閃

 

バルバラのガスマスクが付けられた額から

 

縦に一文字

 

「――――」

 

硬い装甲ごと

 

頭部を深々と切り裂く

 

だが止まらない

 

刃をそのまま寝かせ。

 

踏み込むと同時に腰を回し柄尻を押し出す

 

平突き

 

刀身がバルバラの胸部へ一直線に潜り込む

 

ズブッ

 

何の抵抗も無く装甲を貫き

内部を切り裂き背中側へ突き抜ける

 

「・・・・・・」

 

アンラはそこで刀を抜かない

 

ほんの一瞬だけ柄を握る力を入れる

そしてそのまま身体を半回転

 

バルバラの中に入ったままの刀が横薙ぎに振るわれ

左胸部から一直線に真っ二つに薙ぎ払う

 

装甲、皮膚、筋肉、骨格、内臓

 

全てまとめて切り離す

 

だが、まだ終わらない

アンラは止まらない

 

刀を返す

 

手首だけを僅かに返し

 

刃の角度を変え足を踏み替る

 

身体を沈め次の一撃

 

逆袈裟に右足元から左肩へと斜めに一閃

バルバラの胴体へ深い切断線が走る

 

「くくく・・・・・・」

 

それでもアンラは止まらない

 

むしろここからだった

 

「・・・・・・はははっ」

 

笑う

 

ほんの少し楽しそうに

 

そしてもう一閃

 

「―――」

 

さらに一閃

 

「――――」

 

刀を引く

 

振り上げる

 

落とす

 

返す

 

払う

 

踏み込む

 

抜ける

 

反転

 

また斬る

 

一つ一つの動作に一切の無駄がない

 

なのにその斬撃には必要性が無かった

 

殺すだけなら最初の一太刀で十分だった

頭部を両断した一撃で、心臓部を貫いた一撃で事足りていた

 

それなのにアンラは

 

斬る

 

斬る

 

斬る

 

何度も

 

何度も

 

何度も

 

バルバラが腕を上げる

 

その腕を

 

斬り落とす

 

防御しようとした銃身を

 

斬る

 

反対側の腕

 

斬る

 

脚部が動く

 

踏み出そうとした瞬間

 

膝から下を

 

横一文字に斬る

 

バルバラの身体が傾く

その身体を支えようとした腕へ

 

また一閃

 

「―――」

 

ズバッ

 

「―――」

 

ズバッ

 

「――――」

 

ズバッ

 

斬撃がどんどん速くなる

 

一撃ごとに踏み込みが深くなる

 

一撃ごとに刀の軌道が短くなる

 

振り抜く必要すらない

 

最小限の動きで

 

ただ最短距離だけを通して

 

身体を切り刻んでいく

 

やがて目で追えない

 

刀身が見えない

 

ただ閃光のような銀色だけが

 

無数に走る

 

「・・・な、何・・・あれ・・・・・・」

 

ミカが呆然と呟く

 

それすら聞こえていないのか

 

アンラはただ目の前のバルバラだけを見ていた

 

一歩踏み込む

 

斬る

 

一歩ずれる

 

斬る

 

半歩潜る

 

斬る

 

刀を返す

 

斬る

 

柄を握り直す

 

また斬る

 

装甲へ

 

関節へ

 

胸部へ

 

腕へ

 

脚へ

 

首へ

 

同じ場所を

 

二度

 

三度

 

四度

 

関係なくただ切り刻む

 

バルバラの身体がとうとう原型を保てなくなっていく

 

装甲片が空中へ舞う切断された内部が露出し黒い液体が床へ落ちる

 

それでもアンラは止まらない

 

「・・・・・・」

 

最後に刀を顔の横で握り蜻蛉に構える

その刀に大気が震えるほどの力が集束していく

 

身体を捻る、腰を落とす

左足で地面を踏み抜く

 

そして全身の捻りを

 

一気に

 

刀へ乗せる

 

「――――――九方の新月」

 

 

九手の軌道を一手に重ねるようなあまりにも無法な斬撃

バルバラの身体に刃先が走り抜ける

 

「・・・・・・」

 

一瞬すべてが静止する

 

アンラも動かない

 

バルバラも動かない

 

やがて

 

ヒュン

 

血振るいで刀を軽く振るい刃についた黒い液体を払う

そしてバルバラの身体へ無数の切断線が一斉に浮かび上る

 

前頭、後頭、耳、顎、首、

胸部、右肩、左肩、右上腕、左上腕

右肘、左肘、右前腕、左前腕、右手、左手、右手指、左手指

右肋部、左肋部、右腰部、左腰部、臍部、下腹部、右鼠径部、左鼠径部

右大腿、左大腿、右脛、左脛、右足、左足、右足趾、左足趾

 

身体を部位ごとに執拗なまでにバラバラに切り刻まれ、

バルバラは、パーツ事に別れ、そのまま床へパラパラと落ちていく

 

バルバラの身体はもう身体ですらない

細かな破片がゆっくりと黒い煙へ変わり空中へ消えていく

 

最後に残った煙の中で

おっさんはゆっくりと刀を鞘へ収めた

 

カチン

 

その音だけがやけに静かな空間へ響く

 

「・・・・・・」

 

そして何でもなかったように

口元を再びつり上げる

 

「うし。ストレス発散完了。」

 

そう宣い振り返る

 

「ほな。ちゃっちゃとあのボケを。」

「このラバースーツのミメシスと同じ目にあわせにいこか。」

 

先生達は誰も答えない

 

全員ドン引きしていた

 

「・・・・・・」

 

先生が

 

「"アンラさん!!・・・あのですね―――"」

 

何か言おうとしたその瞬間

 

先生のその背後に

 

巨大な影が現れる

 

「"・・・・・・!?"」

 

先生が振り返る

 

もう一体のバルバラ

 

「"もう一体・・・!?"」

 

おっさんが踏み込もうとする

 

その時

 

「アンラ!」

 

ミカの声が飛んだ

 

「あなたは先生と一緒に先に行って!!」

 

「ここは私がなんとかするから!」

 

「"み、ミカ!?"」

 

おっさんがミカを見る

 

「・・・さよけ。」

 

「お前。気付いとると思うが・・・」

 

ミカがすぐに頷く

 

「うん。今は・・・神秘が使えないみたい。」

 

「・・・・・・」

 

おっさんはミカの顔を見る

 

しばらく何も言わない

 

やがて

 

「・・・お前も、先生にとっての大切な生徒や。」

 

「死ぬなよ。」

 

そう言って先生の首根っこを掴む

 

「"え。ちょ。"」

「"アンラさん!?"」

 

そのまま走り出した

 

サオリは一度だけミカへ視線を送る

 

「・・・・・・」

 

何かを言いたそうに、けれど

 

言わずおっさんの後を追う

 

ミサキとヒヨリもすぐに続いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

進行方向から、まるで波のようにミメシスが押し寄せる

 

おっさんは足を止めず

 

刀を水平に一閃

 

「――――」

 

前方の群れが

 

一斉に上下へ分かれ、

上半身と下半身が地面へ落ちるより先に黒い煙へ変わっていく

 

右から

 

左から

 

どこから来ても

 

同じだった

 

一閃

 

また一閃

 

まるで道端の雑草でも刈り取るように

次々とミメシスを処理していく

 

「・・・・・・」

 

先生が後ろから叫ぶ

 

「"ア、アンラさん!"」

「"ミカが!ミカの所に戻ってください!"」

 

「アホか!」

 

おっさんが振り返らずに怒鳴る

 

「あいつの覚悟をちったぁくんだれ!」

 

「それに先生が言っとったんやろが!」

「生徒をちったぁ信じたれ!」

 

「"・・・・・・っ!"」

 

先生が言葉を失う

 

おっさんはさらに前へ進む

 

「それにあの脳たりんが儀式の条件を無視したとしても。」

「アツコが犠牲になる可能性はまだあるんや。」

 

「早く、アツコを助け出して」

「その足でミカも助けるぞ!」

 

先生が顔を上げる

 

「"・・・はい。"」

 

一拍

 

「"・・・・・・ありがとうございます。"」

 

前方でさらにミメシスが湧く

おっさんの刀が再び走る

 

ズァッ

 

その一閃で道が開く

 

サオリ、ミサキ、ヒヨリ、先生の四人がその後ろを駆ける

 

終わりなく押し寄せる群れ

 

それでもおっさんは止まらない

 

水平に、斜めに、時には真っ直ぐに

 

一体、また一体と黒い煙が通路の両側へ流れていく

 

やがて暗闇の先に巨大な扉が見えた

 

至聖所

 

その奥にアツコがいる

先生の走る速度がさらに上がる

 

サオリも

 

ミサキも

 

ヒヨリも

 

その後を追う

 

先頭のおっさんが刀を握り直す

 

「・・・ほな、行くで。」

 

五人は

 

至聖所へ向けて

 

一直線に駆け抜けていった

 




【今日のセイア】
そこは夢なのか
それとも現実なのか
判別することすら出来ない、奇妙な世界だった

ただその世界の中で

セイアはずっと、一人の少女を見つめていた

ミカが泣いている

ミカが苦しんでいる

ミカが壊れそうになっている

それをセイアは何も出来ないまま見ていた

「・・・すまない・・・ミカ・・・私のせいで・・・」

胸へ手を当てる

心臓が痛い

いや違う身体が痛いのではない

まるで魂そのものが少しずつ、少しずつ
削り取られているようなそんな感覚だった

「・・・・・・っ」

息が詰まる

膝へ手をつき
必死に呼吸を整える

(早く・・・ここから抜け出す方法を)
(見つけなければ・・・)

このままでは

いつまでも

この白昼夢に捕らわれ続ける

現実の身体がどうなっているのか考えたくもなかった

「・・・これなら・・・アンラから。」
「ブラックホールの切り方でも教えてもらうんだったね・・・」

ほんの少し
冗談めかして呟いた

だが次の瞬間

胸を強烈な痛みが貫いた

「――――っう・・・ぐ・・・」
「ぁ・・・ああっっっ!!」

セイアは胸を押さえたまま
その場へ膝をつく

視界が揺れる

意識まで遠のいていく

「私は・・・」

「まだ・・・」

「ミカに・・・」

それだけを必死に呟いた

「だから・・・まだ・・・・・・」

そこで意識が途切れた










「・・・・・・」

目を開ける

最初に視界へ入ったのは

空だった

青いどこまでも、どこまでも広がっている
セイアはゆっくりと身体を起こした

「・・・・・・?」

身体を動かす

痛みはなかった
先ほどまで感じていた
魂を削られるような苦痛も今は感じない

けれど周囲の光景は明らかに異常だった

足元には石畳
それが視界の果てまでどこまでも続いている
その中央にぽつんと一本だけ鳥居が立っていた

そしてその周囲には満開の桜
風が吹くたびに桜吹雪が舞い上がる

あまりにも幻想的な光景だった

「・・・・・・」

セイアはゆっくり立ち上がり
辺りを見渡す

「此処は・・・蜃気楼・・・?」

「いや・・・百鬼夜行自治区・・・?」

その呟きに返事が返ってきた

「ふぅむ。」

「お客様かの・・・?」

「・・・・・・!?」

セイアが勢いよく顔を上げる

声の主は鳥居の上にいた

白い髪

白い狐耳

そして同じく白い大きな狐の尾

その少女は鳥居の上へ座りながら
隣へ置いた一升瓶から酒を注ぎ
お猪口を傾けていた

「・・・・・・」

あまりにも
この場所に似合いすぎている

少女はセイアへ視線を向けると
お猪口を口元から離した

そして

「・・・ほう。」

小さく笑う

次の瞬間

タンッ

鳥居を蹴った

そのまま空中をまるで足場でもあるかのように蹴り
一度、二度、三度と虚空を踏んで
ゆっくりとセイアの前へ降り立った

「ここに妾以外が足を踏み入れるのは。」

「・・・・・・あやつ以来じゃのう。」

少女はセイアをじっと見つめる

「如何にして。」
「このような白昼夢に見えたのじゃ?」

セイアは警戒しながら尋ねる

「貴女は・・・・・・誰だ?」

「私を・・・認識、出来るのか?」

その瞬間白髪の少女が

くん

と鼻を鳴らした

もう一度

すん

と匂いを確かめる
そしてほんの僅かに眉間へ皺が寄った

「・・・・・・ふむ?」
「其方。もしや、彼奴の知り合いか。」

「・・・・・・あやつ?」

セイアが聞き返す

少女は少しだけ笑った

「まぁ。よい。」
「それよりも。」

少女の瞳がセイアの身体を見透かすように細められる

「其方。色彩と接触したな。」

「・・・・・・!」

セイアの表情が変わる

「色彩・・・・・・?」

少女は静かに頷いた

「キヴォトス外より到来する。」
「曠古の災禍を引き起こす存在じゃ。」
「其れそのものに人格や意思があるのか妾にも分からぬ。」
「肝要なのはこのキヴォトスの民にとって。」
「あれは致死の毒足りえるという点じゃ。」

少女の声は淡々としていた

「色彩に曝露された者の肉体は捻じれる。」
「やがて精神すら蝕まれていく。」
「キヴォトスの民であればそれだけで命を落とす事は、そう多くはない。」
「じゃが個そのものが捻じ曲げられ。異物へ成り果てる。」

少女はそこで僅かに目を細める

「果たして。それを同一の存在と呼べるのかは・・・別の話じゃな。」

セイアは黙って聞いていた

「しかし。」
「色彩がキヴォトスを見つける事は不可能に等しい。」
「砂漠の中からたった一粒の砂を探すようなものじゃ。」
「故にそれに触れてしまったのであれば。」
「まこと、数奇な巡り合わせとも言える。」

少女の視線がセイアを貫く

「じゃが、其方の身体。」
「色彩に直接触れた訳ではないのじゃろう?」

「・・・・・・」

「して。何があった?」
「申してみよ。」

セイアは少し迷ってから

口を開く

「それは・・・・・・」

だが少女は小さく手を上げた

「ふむ。妾が診ようか。」

「・・・・・・?」

白髪の少女がゆっくり近づく

「失礼。」

そう言ってセイアの額へ
指先を触れた

「・・・・・・」

瞬間

少女の表情が変わる

「成程。」

「未来を固定した者に。」
「接触したのか・・・」

「だが。そうか。」

「其方。やはり色彩と直接遭遇したのではないのじゃな。」

セイアの目が見開かれる

「未来視を通し。」
「ある者の力へ触れ間接的にあれへ触れた。」

「だからこそ。」
「こうして、まだ意識を保てている。」

「・・・・・・」

少女は少しだけ苦い顔をした

「しかし。それも長くは保たぬじゃろう。」

「・・・!」

「其方の精神は此処にある。」
「じゃが肉体は既に崩壊の一途を辿っておる。」

セイアの顔から血の気が引く

「そんな・・・」

「私はまだ倒れる訳には・・・」
「・・・どうにか、留める方法は無いのか?」

少女はセイアを見つめたまま答えた

「無い。」

「・・・・・・」

一瞬言葉が詰まる

だが少女はふっと笑った

「・・・・・・と。」

「本来ならそう言うてやる所じゃが。」

「其方、一つ。」
「幸運と巡り会えたようじゃの。」

少女は自分の胸元へ手を当てる。

「この妾、百鬼夜行の預言者。」
「クズノハと見える事が出来たのじゃ。」

「・・・・・・クズノハ。」

その名をセイアは呟いた

クズノハ百鬼夜行の預言者
少女はどこか楽しそうに笑った

「そうじゃ。」

「妾が其方を導いてやろう。」

「・・・・・・!」

「じゃが、それには代償が伴う。」

「代償・・・・・・?」

セイアが尋ねる

クズノハは静かに頷いた

「其方を構成する本質を一つ。」
「手放してもらう。」

「本質・・・・・・?」

「そうじゃ。」

「此の場合は・・・未来視じゃろうな。」

セイアの表情が固まった

「未来視を・・・」

クズノハは淡々と続ける

「色彩は我らの本質を歪曲する。」
「より正確に言うのであれば――根源を反転させる。」
「いずれにせよ。今の自分でなくなる事に変わりはない。」

「じゃが。」

クズノハの指先がセイアの胸元へ向く

「代償さえ支払えば。」
「其方は色彩の浸食から抜け出す事が出来よう。」

「・・・・・・」

「さぁ。如何する?――トリニティの預言者よ。」

セイアは少しだけクズノハを見つめていた

そして

一歩前へ出る

「他に。選択肢はないのだろう?」

クズノハは目を細める

「ふむ。迷いなく断じるとは。」
「・・・・・・友の為かのう?」

ほんの少し口元が緩む

「――お見事。」

「それでは。」

クズノハがセイアへ近づき
左胸へそっと手を当てた

「・・・・・・」

「では。此れにてさらばじゃ。」

「セイア。現世に戻っても妾を探そうとするなよ?」
「妾はもう其処には居らぬからの。」

セイアはその言葉に眉を顰めた

「・・・・・・何?」

クズノハはくすりと笑う

「ああ。そうじゃった。」
「一つ。頼みがあったのう。」

「・・・・・・?」

「あのクズ男に会ったら伝えて欲しいのじゃが」
「次は。もっと良い酒を持ってこいとな。」

「・・・・・・」

セイアが僅かに目を細める

「クズ男・・・・・・?」

しかしクズノハは
それ以上説明しなかった。

「それとついでじゃが。」
「最後に本質を喪う過程で最後の予知が発動するやもしれぬ。」

「・・・・・・!」

「それは必要な痛みじゃ。」

にこやかに

あまりにも

にこやかに

クズノハは告げた

「――死ぬほど痛いと思うが。」
「我慢せい。」

「・・・・・・」

セイアの顔が引きつる

「ま、待て。」
「それは聞いてないぞ!?」

クズノハの手に力が込められる

「・・・・・・さぁ。終わりじゃ。」

「――――ッ」

一瞬。

セイアの視界が真っ白に染まった

「――――あ。」

「――あ、ああ・・・・・・」

「ま、待て!」

「これは・・・そんな程度の痛みじゃ――――」

頭に何かが無理矢理入ってくる

「――――あ。」

「――――あああああああああああああああっっっ・・・・・・!!!」











と言う事で、
とうとう、ベアトリーチェ戦一歩手前まで来ました!

さて・・・本文解説しますかね!

サオリとミカの戦闘についてですね。
この小説の設定で、圧縮神秘を完全に習得した場合、
それを習得していなければ、まともなダメージにならないという設定がありますが。

実は気づいた方おられましたかね・・・?
以前の話の時に、ミカとスクワッド全員との戦闘で、
ミカが神秘を圧縮した色付きの閃光以外の攻撃も、手で弾いてガードしていたのを。

本来であれば、色付き閃光でない攻撃なんて、ガードする必要すらないはずなんですよね。
そこで、ミカのスキル構成が関わってきます。

ざっくり言うと、この時のミカのスキル構成は
EXスキル:Kyrie eleison これは変わらず続投ですね。
ノーマルスキル:暗く深い井戸の底 これがマイクロブラックホール生成ですね
パッシブスキル:There's a Royal Banner こちらが改変されたスキルです。
スキル構成は、攻撃力を数十倍に跳ね上げる代わりに、防御力をほぼゼロにする。
そう言った物です。
ちなみにサブスキルは変わらずBenedictioの常時クリティカルです。

うん殺意が高い。
まぁテラー化スキルツリーだからしかたないね。
ちなみにテラー化が解けた現在はこのスキルツリーは失われ、
従来のミカのスキルツリーに変わっています。

そして、このミカのパンチを食らって、
何故か生きていたサオリ。
まぁ作中描写でちょっと書いてますが、
神秘をほんの少し操作できるようになっています。
その理由もありまして、先生の指揮の時に、
強制的に神秘を圧縮し、運用する術を体感させられた事により、
今まで、目の前で幾人もの人物が神秘圧縮を使い更には、
ヒフミに色付き閃光の直撃を貰う等もしていた為、
神秘の操作くらいなら出来る下地は出来ていたんですよね。
なので、今回死ぬ。と思った時に手繰り寄せた鉄板に神秘を流して強度を少し上げて、
ミカの神秘と相殺して、辛うじて生きていた。という流れです。

まぁ神秘で相殺した上に、殴った鉄板は鉄の破片になるくらいに吹っ飛び、
そのまま直撃していないのに衝撃でサオリは壁を二枚ぶち抜いて、
三枚目の壁に背中から叩きつけられるという。
ゴリラを超えたキングコングな事になってます。



そしてサオリの独白ですね。
ここも、表現的にあえて語らない表現にしたので、
色々疑問が残ると思うので、解説していきます。
まず、サオリが言う、正しいと思って突き進んで来た。これは、
アツコを人質に取られ、暗殺を強要され、更には自分達に首輪を付けさせられる事になった。
それら全ての事ですね。
正しい・・・これは道理的という意味ではなく、その選択をする事で、皆を守れるなら。
という意味の正しいという事になります。

結果的にその選択をする事で、大量の被害者とスクワッド全員が洗脳されるという最悪の事態を引き起こしたことで、この選択がそもそもの間違いだった。と己を責めてる場面ですね。

それ以外の場面でいうなら・・・
アズサのトリニティとの平和の架け橋のお話ですかね。
実際にこの当時のアリウスはサオリが言って通り、
アンラからの介入もあって、食うものにも娯楽にも困っていなかったのもあって、
洗脳もされていなければ、トリニティに恨み辛みも持っていなかった。
さぞベアトリーチェからしたら、イライラしてたでしょうね。ハハ笑う。

そして、前話で言っていたベアトリーチェがした、
ある取引が切っ掛けとなり、自治区全体に洗脳術式が張り巡らされる事になります。
前話に出ていた石柱がそれの増幅装置、つまり汚染の中継ポイントになっています。

そして、作中通りに、サオリがアズサを逃がす。
でもそれをベアトリーチェに見つかり利用される。
やることなす事全て裏目に出る。
そんなサオリでしたね。

まぁ・・・アズサはサオリがアリウスから逃がしたと聞いた時に
助ける事を選択したので、アズサを逃がした。
そこだけは英断だったと思いますけどね。

サオリからしたら、その結果、アズサに人殺しの汚名を着せる事になったという事で
プラマイでいうなら大幅マイナスなんでしょうが。

ちなみにサオリはこの時にミカに、自分達が洗脳されていた事は、
あえて言っていません。
その理由は、洗脳されていた。が免罪符のようになってしまうからですね。
例えどんな状態であろうとも、自分がした事は全て自分に責任がある。
なので、あえて言わなかったんです。


そしてまぁ・・・ミカがサオリを殺せなくなった理由は・・・本文通りの理由ですね。
ぶっちゃけここはいう事も解説する事もあまりないです・・・

まぁ一個言うならば、
このミカの心境の変化により、ヘイローが元に戻った。
そしてこの時のヘイローが元に戻る時、
まるでメッキが剥がれる様に元に戻りましたね。
これ、ネタバレになりますがこの表現の仕方はあえてやってます。

あ、ちなみに最後の方で、ミカが神秘を使えなくなっているという話は
単純にテラー化の反動ですね。
かなり時間はかかるでしょうがまた自分の意思で操れるようになるでしょう。
魂と精神が回復すれば・・・ですが。




そして先生が来てから、
アンラを見て肘入れた理由ですね・・・
ぶっちゃけて言うと、ここの先生の内心は、
なんでこの人先にダッシュしてミカとサオリを止めないんの。っていう気持ちでいっぱいでした。
そしていざ、現場に付くと、ミカのヘイローが元に戻ってる。
それでアンラの方に視線を送るとニヤっと笑い、この流れがアンラの知る未来の流れだと理解し、
知っていた上で黙って、更にはそのせいで滅茶苦茶心配させられた+単純にその顔が無性にムカつく。という結果を踏まえ肘を横腹にぶち込んだ感じです。

さー・・・なっがい解説になった・・・
こっから先はアンラの解説になりますね。

今回、ミカを殺さない様にと色々ブラストレーションの溜まる戦いを強いられてきたので、
更に仕上げは、ずっとずっと、殺すことをクッソ我慢して、いつ手が滑るかっていうくらいに我慢していたのに、最後の最後で自分の言葉を遮って上からクソみたいな言葉を重ねられた事で、
珍しく身内が絡まないのにプッツンして、結構素が出てるアンラです。
関西弁で話しているのは先生が居るから辛うじてそこだけは皮被ってるけど、それ以外は、
マジでキヴォトスに来る前のアンラその物ですね。

そこからの戦闘描写から、
アンラって・・・キヴォトスだと優しいおっちゃん演じてるけど、
実は結構精神的にヤバい奴なんや。っていう事をお披露目しています。
まぁ・・・むかーしに、
ホシノが手紙を残して黒服の所に行った時に、
アンラの事を表面上は飄々としてるけど、その中身は凄く冷酷な人。と評したあれは、
実はかなり的を得ているんです。

しまった!追記!
一個解説してなかった!
アンラがここで力を使った理由です!
原作と違う。
つまり、ベアトリーチェ側が、明らかに何者かと取引をし、異常な力を手にしている。
それを確認出来たので、アンラとアロナの契約から、
物語に介入し、矯正する必要が出て来たため、力の行使が出来る様になりました!
追記終わり!


と言う事で・・・終わり!!
長かった・・・

あと、最近アクセス数を初めて見たんですが・・・

なんか前話と前々話のアクセス数だけ跳ね上がっててちょっとびっくりしました・・・
駄文を定期的に投棄してるだけなのに読んで行ってくれて大変嬉しい限りです。

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