おっさんキヴォトスに行く 作:無い頭のおっさん
そして、今回のお話、本文二万文字さらに今日のゴリラが4000文字あります!
ごめんなさい!
半分に割ろうかと思ったんですが、
そうすると変な所で割れるので、二万文字書ききる事にしました!
そういえば、今回も先生の素の文があるので、一部""が取れています。
追伸
フォント機能に、きちんと数字を入れてるのですが、
多すぎるせいか反応しなくなっているので、
また明日直させていただきます。
26/10/10/10:00
フォントの種類を削減しました
【バシリカ・至聖所】
――――ゴッ!!
おっさんが刀を納刀し扉を蹴り飛ばした
ドォンッ!!
巨大な扉が蝶番ごと吹き飛び
その先に広がっていたのはまるで巨大な聖堂そのものだった
ヒヨリが思わず息を呑む
「ここが・・・バシリカの至聖所・・・・・・」
高い天井
崩れかけた柱
長い年月の中で風化した石壁
その上にはいくつものステンドグラスが嵌め込まれている
ところどころ割れてはいるものの
そこから差し込む光が床へ色鮮やかな模様を落としていた
正面の巨大なステンドグラスには白い人型の花のような翼のような
どこか人間とはかけ離れた異形が描かれている
そしてステンドグラスの真正面
その異形の顔を模したような巨大なモニュメントがあり
そのモニュメントに赤い荊のような植物が巻き付いていた
「・・・・・・」
サオリの目がその一点へ向いた
「姫・・・・・・!!!」
モニュメントに絡みついた赤い茨
そこに少女が縛り付けられていた
「アツコ・・・・・・!!」
サオリが駆け出しかける
だがミサキが一瞬先に視線を走らせた
「待って、リーダー。」
「・・・・・・!」
「周囲を確認してから。」
ミサキの視線が倒れた柱、崩れた壁、割れた石床
その向こうにさらにいくつもある遮蔽物へ移る
「今は、まだ何が潜んでるか分からない。」
「・・・・・・」
サオリは歯を食いしばり
そしてアツコへ視線を戻す
「・・・・・・」
ミサキが目を細めた
「・・・・・・大丈夫。」
「姫は気を失ってるだけみたい。」
「呼吸もある。」
ヒヨリがほっと胸を撫で下ろす
「よ、良かった・・・は、早く姫ちゃんを・・・・・・」
その瞬間
「お待ちしておりました。」
声が聖堂へ響いた
全員が一斉に顔を上げる
「私の敵対者よ。」
ステンドグラスから差し込む光の中
一人の異形の女がゆっくりと歩いてくる
「"ベアトリーチェ・・・!!!"」
先生が睨み付ける
その横でアンラは何も言わない
ただ右手で刀の鞘をに触れ
親指を鍔へ掛け
いつでも抜き放てる姿勢を取る
目つきはまるで
今すぐにでも斬り捨てる相手を見るようなものだった
「遅かったですね。」
ベアトリーチェが薄く笑う
「儀式は既に進行しています。」
「ロイヤルブラッドの神秘を搾取し。」
「キヴォトス外から到来する力を借りて。」
「私は、自分の存在をより高位の物へと昇華しています。」
両腕を広げ続ける
「先生。」
「そして。」
「崇高なる者。」
「あなた達はもしかしたら私を誤解しているのかもしれませんね。」
「私達はこの世界を通じて各自が望む事を追及しています。」
「あなた達だって同じでしょう?」
「何に成る事も出来る。全てを識る事も出来る。」
「より高位の存在になる事。」
「それを通じて全てを救う事。」
「それこそが大人の義務なのです。」
ベアトリーチェは両手をゆっくり広げる
「この儀式はキヴォトス外の力を利用し。」
「私がより高位の存在へ至る為に用意されたもの。」
「そうして高みに登り、この世界を救う。」
「それこそが大人の到達すべき境地。」
「その過程に生じる小さなAgnus Deiなど。」
「仕方のない事。」
「そう。この犠牲は必要なのです。」
「これこそが、崇高なる者よ。」
「貴方と同じ。『崇高』へと至る道なのです。」
「・・・・・・」
おっさんの眉間に深い皺が刻まれる
「そして。」
ベアトリーチェは今度は先生へ視線を向けた
「先生。」
「貴女にもこの価値が分かるでしょう?」
「全てを審判する事も救う事も出来る。」
「絶対的な力を有する貴女なら。」
「・・・・・・」
先生はベアトリーチェを真っ直ぐ見つめ
そして静かに
「"それは違うよ。"」
「・・・・・・なに?」
「"私を誤解している。"」
「"私は、審判者ではない。"」
「"誰かを審判する権利は、私にはない。"」
「"私は、救済者でもない。"」
「"この世界の苦痛を消し去る事は出来ない。"」
「"私は、絶対者でもない。"」
「"この世界の罪悪を無くすことも出来ない。"」
「"私は、そんな存在ではないよ。"」
ベアトリーチェの笑みが僅かに歪んだ
「では、貴女は一体何だと言うのですか!!!」
「あなたの能力は存在価値は何なのですか!!」
先生は一歩も引かなかった
「"生徒達の為の先生だよ。"」
「"私は、苦しむ生徒に寄り添いたいだけ。"」
「・・・・・・」
ベアトリーチェの顔が怒りに歪む
「ならば、それを証明してみせなさい・・・!!」
その瞬間
ボキッ
メキッ
ベキベキッ・・・
人型の骨格が無理矢理に
別の形へ組み替えられていく
脚が細長く伸び、根のように広がっていく
身体は細い白い枝を束ねたような異形へ変貌する
背中が裂けそこから二枚の白い羽根が現れる
両腕も白い枝のような形状へ
その先端には鋭い爪の様な物が出来る
そして先へ行くほど赤黒く染まっていた
頭部が大きく開く
花のように翼のように幾枚もの白い花弁が広がり
その一枚一枚から眼球が生えた
その背後には巨大な赤いヘイローがまるで光背のように異形の頭部を取り囲む
「・・・・・・!!」
サオリが目を見開く
ミサキも絶句する
「なっ・・・・・・」
ヒヨリはただ目の前の異形を見つめる
「あ、あううう・・・・・・」
ベアトリーチェが両腕を広げた
「さあ。その目に、しかと映しなさい。」
「これが、私、高位の存在となった姿です。」
「これこそが本来の姿――――偉大なる大人の姿なのです・・・!!」
先生はしばらくその異形を見つめ
「"それが正体なんだね、ベアトリーチェ。"」
サオリが呆然と呟く
「・・・あれが本物のマダム・・・・・・」
ヒヨリも困惑したまま
「た、ただの怪物にしか見えませんが・・・・・・」
ミサキは少しだけ目を伏せる
「そう・・・私達はあんなものにずっと・・・・・・」
「いやいや。」
おっさんが横から口を挟んだ
「お前ら何をそんな真剣に言うとんねん。」
三人が同時にアンラを見る
おっさんは異形のベアトリーチェを指差す
「此処で言う事は一つやろ。」
そう言った後、おっさんが大きく息を吸う
そして
「すっげーキモイデザインだな!!」
「・・・・・・」
完全な静寂の後
ベアトリーチェの無数の目が一斉にアンラへ向いた
ベアトリーチェの視線を受け、おっさんが鯉口を切ると
先生は小さく息を吐きながら口を開いた
「"はぁ・・・アンラさん。"」
「おん?なんや?」
「"ここは。"」
そこで言葉を止めた先生の目をおっさんが見る
「・・・まぁ、」
おっさんは少しだけ考え
それから鯉口を切っていた刀をゆっくり鞘へ戻した
「それもそうやな。」
先生が三人へ向き直る
「"サオリ。"」
サオリが銃を構える
「・・・ああ。」
「"ミサキ。"」
ミサキがセイントプレデターを持ち上げる
「・・・うん。」
「"ヒヨリ。"」
ヒヨリもアイデンティティを構え直す
「・・・・・・はい!」
「"怖がらないで。"」
「"私もアンラさんも付いてる。"」
「"だから。一緒に頑張ろう。"」
「・・・・・・ああ。」
「・・・・・・うん。」
「・・・・・・はい!」
返事が重なり
ヒヨリがぎゅっと銃を握る
「はい!!姫ちゃんを救うのです!!」
「そして全部終わったら。」
「足長おじさんからお菓子を貰います!!!!」
「・・・・・・」
おっさんが横目で見る
「いや。ええねんけど。」
「そこ同列にされたアツコの気持ちよ。」
先生が思わず苦笑する
「"行こう!!!"」
その瞬間ベアトリーチェの片腕が上がった
「――――来なさい。」
空間が震え、次の瞬間
聖堂の床や壁
そして崩れたステンドグラスの奥から黒い影が一斉に湧き上がった
ミメシスが
十
二十
三十
とあっという間に聖堂を埋め尽くしていく
「・・・・・・!」
ヒヨリが息を呑む
だが
おっさんは焦らない
ただ刀の柄へ手を添えた
「先生。」
「"うん。"」
「どれくらい残したらええ?」
先生が周囲を一度見渡す
「"全部お願いします。"」
「さよか。・・・・・・なら。」
柄に手をかけ
「――――虚月・重」
チンッ
鋭い鍔鳴り
その瞬間、聖堂を埋め尽くしていたミメシスに無数の斬線が浮かび上がる
その場に存在する全て一斉に身体へ切断線が走る
「・・・・・・」
次の瞬間
ザァッ!!
群れが一斉に崩れ
黒い煙が波のように床を這う
「・・・・・・」
ヒヨリが目を丸くする
「まぁ。あのキモイのは先生らに任せるとして。」
「雑兵はこっちで消しとく。」
「気持ちよく皆であのキモイのリンチにしてこい。」
先生が苦笑する
「"ありがとうございます。"」
「"でも、さっきからアンラさん、言い方が荒いですよ。"」
「・・・・・・」
おっさんはそっぽを向いた
「キモイもんはキモイねん。」
その瞬間だった
ベアトリーチェの腕が動く
一本の指が先生を指した
おっさんの目が細くなる
「――――!」
次の瞬間、おっさんが先生を抱えた
「"え?"」
横へ一瞬で身体を滑らせる
その直後
「――――!」
先生がいた場所に赤黒い球体が突然現れ破裂する
ドォン!!
大きな爆発と共に床が抉れ石片が飛び散る
先生が目を見開く
おっさんはベアトリーチェを見る
「今度は北欧の魔術か・・・」
「とことんまでおっさんの世界の術式じゃねーか・・・」
先生を見る
「アレ。あいつが指を向けたやろ。」
「"うん。"」
「指を向けた座標、そこを指定して直接魔術を叩き込んどる。」
「つまり。腕と指先を見れば、どこに撃ってくるか読める。」
先生がすぐに頷いた
「"分かりました。"」
「"みんな、ベアトリーチェの腕と指を見て!"」
「"撃つ瞬間を私が伝える!"」
三人が同時に答えた
「了解!」
「分かった!」
「はい!」
その瞬間先生が視線で
右腕、肩、肘、手首、指
その動きを細かく追う
「"サオリ、右!!"」
サオリが即座に横へ飛ぶ
「――――!」
赤黒い球体が先ほどまで立っていた場所を吹き飛ばす
「"今!"」
サオリは飛び退いた直後
そのまま倒れた柱の陰へ滑り込む
そして、神秘をほんの僅かに銃へ纏わせる
一瞬、銃身が淡い光を帯びた
「・・・・・・!」
ダダダダダッ!!
ベアトリーチェへ弾丸が集中する
「無駄です!!」
ベアトリーチェが腕を振る
「"サオリ、止まって!!"」
サオリは即座に身体を止める
次の瞬間、サオリの目の前に赤黒い球体が現れ
ドォン!!
爆発する
だが
「"今!!"」
サオリが再び踏み出し
「・・・・・・!」
瓦礫の陰から飛び出し短い射撃を叩き込む
ダダダッ
無闇に撃ち続けず
神秘を込めるのも必要なその瞬間だけ
「"ミサキ!"」
「うん!」
ミサキが別の倒れた柱の陰から飛び出す
セイントプレデターへ神秘を集中し狙いを定める
「・・・塵は塵へ。」
正面ではない
ベアトリーチェの横のその逃げ道へ
バッシュッ!!
放たれたロケットが弧を描いて飛び
ベアトリーチェの真横で大爆発を起こす
ドゴォォン!!
白い枝の様な身体が大きく揺れる
「ぐっ!!おのれ!!」
ベアトリーチェが即座に指を向ける
「"ミサキ、左に飛んで!!"」
「分かった!」
ミサキ即座に左に飛び退き遮蔽物に滑り込む
その直後、赤黒い球体がさっきまでミサキが居た遮蔽物に生まれ遮蔽物事吹き飛ばす
「"サオリ、今!"」
サオリがライフルに神秘を込め
銃口が水色に輝く
ベアトリーチェが反応し、その指が今度はサオリへ向く
だが
「"ヒヨリ!"」
「はい!!」
ヒヨリはかなり離れた瓦礫の向こうから狙撃姿勢を取っていた
神秘を銃身へ
淡い青い光が集中する
「"今!!"」
ドゴォンッ!!
淡い青い色の閃光が一直線にベアトリーチェの手首へ吸い込まれる
「――――!!」
ベアトリーチェの腕が魔術の発動直前に逸れ狙いがずれる
「・・・・・・!」
ドォン!!
誰も居ない天井を爆破する
その瞬間サオリが銃を構え引き金を絞る
「Vanitas vanitatum!」
水色の閃光が一二発、ベアトリーチェの身体に吸い込まれる
ドゴォォォン!!
着弾と同時に爆発し、ベアトリーチェの身体が仰け反る
「小賢しい・・・・・・!!」
ベアトリーチェの無数の目が一斉にサオリへ向いた
そして怒りに任せるように腕を振り上げる
「・・・・・・!」
先生がその指先を見る
ほんの僅か、だが分かる
「"サオリ、止まらず走って!!"」
サオリが流れる様に走り続ける
サオリが通った場所が
ドォン!!
ドォン!!
ドゴォン!!
何度も何度も爆破され続ける
「"今!!"」
サオリが急停止し
サオリの進行方向が爆破される
ドカァン!!
サオリは瓦礫を支点に身体を反転し銃口をベアトリーチェへ
ダダダダダッ!!
「"ミサキ!!"」
ミサキがセイントプレデターを構え、その砲口に神秘の赤い輝きが宿る
「・・・全部無意味・・・だから吹き飛べ・・・!!」
ドシュッ!!
ロケットがベアトリーチェの上空で爆発する
「・・・・・・!」
ベアトリーチェの頭上で爆発した弾頭が、
無数に別れベアトリーチェのいる場所で大きな爆発を起こす
ドゴォォン!!!!
「がぁああっっ!!」
ベアトリーチェの悲鳴が至聖所に響き渡る
白い枝が次々と砕け至聖所に散らばる
ベアトリーチェの無数の目が先生を睨む
「なぜ・・・なぜ!!!」
「お前達はただ黙って搾取されていればいいものを・・・!!」
先生は黙ってベアトリーチェの腕を凝視している
指、肩そして身体全体そこから読み取れるほんの僅かな予兆をサオリ達に伝えていく
ベアトリーチェがまた腕を上げる
「"今!!"」
ダガァンッ!!
ヒヨリが放った淡い青色の閃光が手首を貫き、ベアトリーチェの腕が跳ね上がる
その瞬間
ドゴォォン!!!!
ミサキが放ったクラスターが炸裂しい大きな爆発を起こし
その横から
ダダダダダッ!!
サオリがライフルに神秘を込め撃ち尽くし
三人の攻撃がほぼ同時に叩き込まれる
「――――ッ!!」
ベアトリーチェの身体が大きく揺れた
だが
「・・・・・・」
その瞬間、聖堂の奥から再び黒い影が溢れ出す
「また・・・!」
ヒヨリが叫ぶ
「ミメシスです!!」
その数、数十
さらにその奥から次々と増えていく
おっさんがそちらへ顔を向けた
「・・・また湧いたんか。ほんま、懲りんなぁ。」
刀へ手を掛ける
「先生。」
「"はい!"」
「こっち、片付けるで。」
「"お願いします!"」
「任せ。」
チンッ
鍔鳴り
「――――虚月・重」
斬撃はまた見えない
ただミメシスの群れへ無数の切断線が一斉に浮かび
次の瞬間
ザァァァッ!!
数十体以上いたはずのミメシスが一斉に崩れ落ちた
黒い煙となって聖堂の床を流れ消えていく
「・・・・・・」
おっさんが再度、鞘の上に右手を置いて一言呟く
「終わり。」
そして、何事もなかったように再びベアトリーチェへと視線を戻した
その一方でベアトリーチェは肩で息をしていた
「・・・・・・」
無数の目がギョロリと一斉におっさんを見る
「・・・貴方は。本当に。」
「・・・・・・忌々しい。」
おっさんは肩を竦める
「褒め言葉として受け取っとくわ。」
「・・・・・・」
ベアトリーチェの白い花のような頭部がゆっくりと上を向いた
その花弁一枚一枚にある眼球が一斉に中央へ集まる
サオリが目を細める
「何だ・・・?」
ミサキもセイントプレデターを構えたまま警戒する
「・・・・・・」
ヒヨリが小さく息を呑む
「な、何か。変です・・・・・・」
先生もその異変を察した
「"・・・・・・"」
ベアトリーチェの頭部
その中心、花弁の奥のそこへ
赤黒い神秘がゆっくりと集まり始める
一つ、また一つと赤黒い光が吸い込まれていく
やがて一点へ凝縮された大きな赤黒い神秘の玉へと変わり、
その周囲の空気まで歪みステンドグラスがビリビリと震え
石床がミシミシと軋み、柱の上から細かな砂埃が落ちてくる
「・・・・・・」
おっさんが目を細める
ベアトリーチェの無数の目が一斉に開く
赤黒い光の玉がさらに濃くさらに巨大に膨れ上がっていく
「これより。」
異形の口がゆっくり開く
「あなた達に。真の崇高を。」
赤黒い神秘が轟々と渦を巻く
「見せて差し上げます・・・」
至聖所全体が低く震え始めた
「――――食らいなさい!!!」
轟音と共に赤黒い神秘の玉が一直線に聖堂を引き裂いた
ゴォォォォォォォォォン!!!!
ステンドグラスが一斉に砕け、石床が爆ぜ、空気が吹き飛ぶ
その真正面へ一人飛び込んだ
「"・・・・・・!"」
先生の目が見開かれる
「"アンラさん!?"」
前にたったおっさんの口元が僅かにつり上がる
おっさんが、飛びあがり赤黒い球まで近づく
その瞬間赤黒い球へと蹴りを入れる
ベアトリーチェの無数の目が見開かれる
「な・・・何を――――」
おっさんはさらに足に力を入れを足裏から魔力を爆発させ一気に蹴りぬいた
「――――受け取り拒否や。」
轟ッ!!
赤黒い閃光が一気に反転し
今度は撃ち出された時以上の勢いで来た道をそのまま逆走し
聖堂の中央を一直線に空間を引き裂きながらベアトリーチェへと迫る
「――――なっ!?」
逃げる暇など無かった
赤黒い光がその異形の胸部へ真正面から直撃する
ドゴォォォォォォォォォォン!!!!
爆炎と衝撃により白い枝の様な身体が大きく、大きく吹き飛ぶ
そのまま至聖所の奥へ何本もの柱をまとめてへし折りながら一直線に突っ込んでいく
おっさんはゆっくりと着地すると
拳をぐっと握り
「ゴール!!」
その一言だけ
やけに楽しそうだった
そんなおっさんを全員呆然としながら眺めていた
サオリが目を丸くしながら
「・・・何を」
ミサキも絶句したまま
「今・・・」
ヒヨリが震える声で
「蹴り返しました・・・よね・・・・・・?」
先生だけが額へ手を当てた
「"・・・・・・アンラさん。"」
「おん?」
「"さすがに。"」
「"あれを蹴り返すのは生き物としてどうなんですか・・・"」
おっさんは何でもないように肩を竦める
「いや、あんなんなら、俺らの業界やと挨拶やから。」
「"・・・また訳の分からない事を言って・・・"」
額に手を置きながら先生がそう呟く
次の瞬間
「――――まだです!!!」
瓦礫の奥からベアトリーチェの怒鳴り声が響いた
「・・・・・・!」
ベアトリーチェが立ち上がる
いや正確には這い出してきた
白い枝の身体はあちこちが砕け
赤黒い液体が床へ滴り落ちている
花のような頭部も大きくひしゃげていた
それでも立っている
いや、立っていようとしていた
「・・・・・・」
無数の目が憎悪に染まって
こちらを睨みつける
「こんな・・・・・・」
「こんな事が・・・・・・」
「私が・・・この私が・・・!!」
身体を震わせながらベアトリーチェは両腕を広げた
「バルバラ・・・!」
「いえ・・・!!」
「バシリカに存在する。全ての兵力を。」
「ここに・・・!!!」
「こちらへ戻ってきなさい!!」
「バシリカの兵よ!!」
「私を保護しなさい!!!」
声が聖堂中へ響き渡る
ヒヨリがおそるおそるベアトリーチェを見る
「ま、まだ来るんですか・・・?」
そして周囲を見渡す
「うわぁ・・・・・・」
露骨に嫌そうだった
おっさんは肩を竦め
「まぁ、なんぼ来ても、全部処理したらええんよ。」
「・・・・・・」
サオリが銃を構え直す
ミサキもセイントプレデターを持ち上げる
ヒヨリもアイデンティティを構えた
先生が静かに
「"気を抜かないで。"」
「"まだ何か来るかもしれない。"」
「・・・・・・」
一秒、二秒、三秒
何も起こらない
風化した聖堂の中を風だけが吹き抜ける
ステンドグラスの破片が床で
からん
と音を立てた
「・・・・・・」
ベアトリーチェの顔が僅かに引きつる
「・・・・・・?」
「・・・・・・」
さらに数秒誰も来ない
「・・・・・・何故。」
ベアトリーチェが周囲を見回す
「何故、来ないのですか・・・?」
「バルバラは・・・?」
「なぜ。まだ誰も・・・」
その時だったどこからともなく
声が響いた
「~~~♪、~~~~♪」
静かな歌声がバシリカ全体へとゆっくりと広がっていく
「・・・・・・?」
ヒヨリが顔を上げる
「こ、この歌は・・・」
ミサキも耳を澄ます
「・・・これは・・・Kyrie eleison・・・?」
先生の表情が変わった
「”・・・!"」
「"ミカ・・・・・・!!"」
その名を口にした瞬間
ベアトリーチェの無数の目が一斉に見開かれた
そして次の瞬間
「なりません!!!!」
聖堂を揺らすほどの声でベアトリーチェが叫ぶ
「なりません!!」
「私の領地で慈悲を語る歌を響かせるなど!!」
「楽器も!!蓄音機も!!全て破壊した!!!」
「それなのに・・・これは・・・奇跡が起きたとでも言うのですか!!?」
歌声は止まらない
むしろどこからともなく
幾重にも重なって聖堂そのものを包んでいく
「なりません!!!」
「生徒は憎悪を、軽蔑を、呪いを謳わなければならないのです!!」
「お互いを騙し、傷付け合う地獄の中で私達に搾取される。」
「そういう存在であるべきなのです!!!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
先生は黙って
その言葉を聞いていた
俯いたまま
一歩
前へ出る
そしてゆっくり顔を上げた
その表情を見て
おっさんが瞠目する
先生の眉間には深い皺
その間には青筋
今まで誰も見たことがないような鬼の形相をしていた
そして静かに
ただ一言
「"黙れ。"」
「・・・・・・」
ベアトリーチェが目を見開く
「・・・なに?」
先生は一歩、また一歩と前へ出る
「"私の大切な生徒に話しかけるな。"」
「"お前は自分のエゴで子供達を奈落へ落とした。"」
「"そんなお前を私は絶対に許さない。"」
「・・・・・・」
ベアトリーチェの顔が歪む
「よ、よくも・・・」
「私にそのような・・・」
「そこまで―――」
言いかけたその瞬間ベアトリーチェの身体が
びくん
と大きく跳ねた
「――――っ!?」
「ぐっ・・・・・・」
「ぁ・・・・・・」
「な。なりません・・・!!」
「わ、私の、権能が・・・!!」
その身体から赤黒い神秘とは明らかに違う
何かが漏れ始める
おっさんだけがそれを感じ取った
「これは・・・」
神秘ではない
もっと深い
もっと根源に近い何かが
ベアトリーチェの身体の内側から滲み出ている
「ぐっ。」
「ぁ。」
「なりません・・・・・・!!」
頭部の白い花弁が痙攣する
一枚、また一枚とその表面に生えていた眼球が膨らみ赤くなる
そして次々に血を噴き出した
「――――っ。」
ヒヨリが息を呑む
「目が・・・全部・・・・・・」
ぐじゅ
ぐじゅり
そんな嫌な音を立てながら
眼球が潰れていく
血が流れ落ちる
だが、それだけではない
潰れたはずの眼球の痕跡が
次々と別の形へ変わっていく
丸い穴が裂け横へ
さらに縦へ
まるで皮膚そのものが口になるように
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
花弁の上に無数にあった目
その全てがいつの間にか口へと変わっていた
「・・・何・・・?」
ミサキが僅かに後退する
サオリも銃を構えながら目を細める
「・・・・・・」
その【何か】の気配を感じ取った
アンラの表情から笑みが完全に消えた
そしてベアトリーチェの無数の口から声が漏れ始める
一つではない
二つでもない
全く違う、無数の声
老若男女
高い声
低い声
幼い声
掠れた声
それぞれが別々の言葉を呟いている
「ああ。」
「悪を。」
「感じる。」
「悪。」
「悪。」
「この世界。」
「悪が。」
「存在する。」
「全て。」
「より良き。」
「世界へと。」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
その光景をアンラはただ、凝視していた
先生がその異変に気付く今までとは明らかに違うアンラの雰囲気
「"アンラさん・・・?"」
「・・・・・・」
返事は返ってこなかった
先生がもう一度呼びかける
「"アンラさん。"」
「・・・・・・」
それでも答えない
ただベアトリーチェの頭部
そこに生えた無数の口だけを見つめている
やがて、また口々に声が重なる
「あぁ。」
「いる。」
「ここに。」
「いる。」
「みつけた。」
「
「全ての。」
「悪。」
「この。」
「世界に。」
「悪。」
「世界は。」
「光で。」
「溢れている。」
「溢れている。」
「溢れている。」
「世界は。」
「幸福である。」
「幸福である。」
「幸福である。」
「世界は。」
「私。」
「わたし。」
「俺。」
「あたし。」
「意思の元。」
「世界は今。」
「一つに。」
「一つに。」
「一つに。」
そして一斉に全ての口が同じ言葉を放った
「「「「「「救いある世界」」」」」」
その瞬間――――世界が白く塗り潰された
――――ッ!!!
音すら消える
光
光
光
視界の全てが白へと置き換わる
「――――!」
先生が腕で目を覆う
サオリも
ミサキも
ヒヨリも
何が起きたのか
理解出来ない
そして
次に視界が戻った時
「・・・・・・」
青空だった
どこまでも、どこまでも澄み渡った
青
その下には果ての見えない
緑の草原
風が吹き草が一斉に揺れる
「・・・・・・」
「・・・・・・?」
「"・・・・・・ここは。"」
先生が呆然と周囲を見渡す
サオリも同じように
「・・・・・・何だ。」
ミサキは言葉を失ったまま空を見上げる
ヒヨリがおろおろと
「こ、ここ・・・さっきまで」
「バシリカの至聖所・・・ですよね・・・・・・?」
誰も答えを出せない
ただ一人
「・・・・・・」
アンラが聞き覚えのある声を聴き
その場で立ち尽くしている
俯き
肩が僅かに震えている
「"・・・・・・?"」
先生がアンラを見る
次の瞬間
「・・・・・・は。」
アンラの口元が
歪む
「はは。」
「はははは・・・・・・」
「――――はははははははははははははははははは!!」
笑い声
高らかな笑い声
青空の下
草原の中
あまりにも不釣り合いな
狂ったような笑い声
「"アンラさん・・・?"」
先生が恐る恐る声を掛ける
その時アンラがゆっくり顔を上げ
その両目から赤い血の涙が頬を伝っていた
「"っ・・・・・"」
それでも笑っている
「はははは・・・・・・・・はぁ・・・お前がアイツの声で囀るな。」
その声だけが妙に静かだった
笑い声が止まり
草原を風が吹き抜ける
「・・・・・・」
アンラが天を見上げ
そして静かに右手を胸の前へ
「・・・・・・」
その表情から一切の感情が抜け落ちる
そして一言
「――――我が神名を此処に。」
その瞬間、空気が変わった
――――ズン
見えない重圧が世界そのものへ落ちる
草原が一斉に伏せ、地面が沈み、空が軋む
「・・・・・・っ!」
サオリが片膝をつく
ミサキも身体を支えながら必死に立っていた
「な、なんですか・・・・・・これ・・・・・・」
ヒヨリの声が震える
アンラから放たれる神気が
物理的な質量を持った重圧となって周囲へ降り注いでいる
「先生!」
サオリが咄嗟に呼ぶ
先生はすぐに三人の元へ駆け寄り
「"アロナ!"」
『はい、先生!』
シッテムの箱から淡い光が広がる
四人を球状のシールドが包む
重圧がその表面へ何度も叩き付けられる
ミシ、ミシ、ミシ
『大丈夫です!』
アロナの声が箱の向こうから響く
『余波でしたらシールドで防げます!』
だがアンラは後ろを見なかった
先生達の存在を確認することすらしない
アンラの右手がゆっくりと前へ伸びる
その瞬間ベアトリーチェのすぐ傍の空間が裂けた
「・・・・・・!?」
裂け目から何かが飛び出した
一本
二本
十本
数十
数百
視認すら困難な速度で
魔剣
邪剣
神剣
呪剣
異形の刃
黒
白
赤
青
大小も形状も全て違う刃が
一斉にベアトリーチェへ殺到した
ガガガガガガガッ!!
胸、腹、肩、脚、翼、腕、首、頭
次々と突き刺さる
貫く
抉る
切断する
一瞬でベアトリーチェの全身が巨大な剣山へ変わった
それでも刃が飛ぶ
身体を削る、裂く、砕く
無数の斬撃と刺突が
一瞬のうちにベアトリーチェの身体を細かな破片へ変えていく
「――――ッ!!」
白い枝、花弁、翼、肉、骨
その全てが空中へ飛び散る
だが、次の瞬間
飛散した肉片が燃え上がる
白い炎
その炎が肉片を包み
骨を組み
枝を繋ぎ
砕けた身体を元の形へ戻していく
アンラがそれを見ても止まらない
右手を前に出し続ける
裂ける
飛ぶ
刺さる
砕ける
燃える
戻る
また飛ぶ
また刺さる
また崩れる
「・・・・・・」
何度も、何度も繰り返す
ベアトリーチェが再生する度
その身体をまた無数の刃が蹂躙する
そしてその途中アンラが右手を天へ掲げた
「【天照】」
青空の彼方から
光が集まり始める
無数の光が一点へ落ちてくる
その全てがアンラの右腕へ
右手へ
掌へ
凝縮される
眩い光が右手を包み
空気が熱を帯びていく
同時に左手が
ゆっくりと下へ向いた
「【雷霆】」
その瞬間
バヂヂヂヂィィィッ!!
左手から大量の雷が噴き出した
青白い放電が草原を走り
空を裂く
地面を焼く
だがそれすら徐々に左手へ収束していく
雷が一本、二本、数十本、数百本
その全てが左の掌へ吸い込まれていく
右手に太陽
左手に雷
アンラは両手を胸の前へ合わせ
二つの魔導を混ぜ合わせる
「【複合魔導:雷光】」
合わされた魔導が、白く輝きながら時折スパークを放つ球体が生れる
そのまま両手の間に生まれた球体を両手を合わせ取り込む
「魔装:雷身天光。」
その瞬間アンラの身体が微かな放電を繰り返し
その体の輪郭が光のように揺らぎ続ける
「・・・・・・」
腰に差した刀が黒い液体金属へ変わる
ぬるりと形を失い
その黒い物質が黒いグリーブへと変わる
次の瞬間
アンラが一歩踏み込み
――――消えた
光すら追いつけない速度で、ベアトリーチェの懐へ潜り込み
右脚を振り上げ、その胴体を蹴り抜いた
ドゴォォォォォォォン!!
大気が爆ぜ
草原が捲れ上がり
草原が円形に捲れ上がり、土ごと地面が吹き飛ぶ
衝撃波が地表を走り、先生達を守るシールドが大きく揺れ
そのまま全員が、シールドごと後方へ押し流される
「"きゃっ!?"」
そんな声が聞こえた
けれど、アンラの目は既に上空を向いていた
蹴り上げられたベアトリーチェが、空中を舞っている
脚を覆っていた黒い液体金属が形を変え、一振りの刀となり腰に収まる
「――――死ね。」
呟きと同時に、親指で鍔を弾く
「――――虚月・重」
無数の斬線が、空中のベアトリーチェへ走った
白い枝のような胴体が裂ける
腕が千切れ飛び、翼が幾つもの断片へと分かたれ、脚が胴体から切り離される
一つの斬線が走る間に、別の斬線が交差する
切断が切断を重ね、ベアトリーチェの身体は瞬く間に無数の肉片へと変わった
一拍遅れて、血が噴き出す
ジュッ!!
天照の熱が、飛び散った肉片を焼いた
白い肉が赤熱し、黒く焦げる
そこへ、雷霆が流れ込んだ
バヂィィィィッ!!
青白い雷が肉片の一つひとつを駆け巡り、焼けた肉を内側から弾けさせた
血と黒い灰が、空一面に撒き散らされる
普通なら、これで終わりだ
肉体は砕け、焼かれ、元の形すら残っていない
だが――――
散らばった肉片が、蠢き
焼け焦げた断面から、赤黒い神秘が滲み出し
それは血管のように肉片の間を繋ぎ、互いを引き寄せていく
千切れた腕が、断面から新たな肉を生み出し始め
砕けた胴体が、脈打ちながら形を取り戻していく
焼け落ちた肉の奥から、白い枝が伸びていく
この【世界】にいる限り、ベアトリーチェの肉体は死なない
どれほど損壊しようと、どれほど焼き尽くそうと
死という結末そのものを拒み、失った部位を再生させる
ならば
「――――虚月・重」
再び、抜刀
集まりかけていた肉片が、一瞬で細断され
繋がりかけた腕が千切れ飛び、形を取り戻しかけた胴体が、再び幾重もの断片へと分かたれる
再生のために伸びた肉が、繋がるよりも早く斬り裂かれた
天照が焼く
雷霆が砕く
そして、虚月が刻む
アンラは、ただそれを繰り返した
「――――虚月・重」
抜刀
斬撃が交差し、肉片が飛び散る
「――――虚月・重」
抜刀
焼けた胴体が、再び無数の欠片へと変わる
ベアトリーチェの身体は、何度も形を失った
頭部だったものが裂け、腕だったものが千切れ、
翼だったものが細かな肉片となって草原へ降り注ぐ
それでも、あいつの神気は途切れない
散らばった肉片が集まり、欠損した部位が再び形を得る
焼かれた肉の奥から新たな肉が生まれ、砕かれた骨の代わりに白い枝が伸びていく
再生する
何度でも
何度でも
何度でも
だから、アンラは斬った
再生したばかりの腕を
形を取り戻したばかりの胴体を
今まさに繋がろうとしている肉片を
一度の抜刀に幾重もの斬撃を重ね
再生する暇すら与えず、身体を刻み続ける
叫び声が聞こえた気がした
だが、関係ない
斬る
焼く
砕く
その繰り返しに、慈悲も怒りも必要なかった
ただ、再生できなくなるまで刻み殺す
「――――虚月・重」
抜刀
肉片が散る
いつもなら、斬撃が通り過ぎた直後には、もう再生が始まっていた
だが、今度は違った
焼けた断面から肉が盛り上がるまでに、わずかな間が生まれた
散らばった肉片が互いを引き寄せる動きも、先ほどより鈍い
ほんの僅か、見落としてしまいそうなほどの差だった
けれど、アンラには十分だった
「――――虚月・重」
再び刻む
再生しかけていた部位が、また千切れ飛んだ
赤黒い神秘が肉片を繋ごうとする
しかし、その動きは確実に遅れていた
次の抜刀
さらに次の抜刀
斬るたびに、再生が追いつかなくなっていく
最初は一瞬で元に戻っていた肉体が
少しずつ、少しずつ、形を取り戻すまでの時間を延ばしていく
一瞬だったものが、数瞬へ
数瞬だったものが、さらに長く
それでも、再生は止まらない
まだ、死なない
「――――虚月・重」
アンラは、また抜く
地面へ落ちた
飛び散った肉片が草原を赤黒く染め、天照の熱がそれを焼き、雷霆が容赦なく打ち砕く
再生が始まる
遅い
だが遅いだけで、止まってはいない
アンラは刀を納めることすらせず、構え直した
これで終わらせる
「九方の――――」
その瞬間
「アンラさん!!」
右腕を掴まれた
「――――」
ジュゥ
そんな音共に先生の皮膚が焼ける
肉が焼ける
煙が上がる
それでも先生は手を離さなかった
「アンラさん!!」
「気をしっかりしてください!!」
「私との約束は忘れたんですか!?」
アンラが止まり、ゆっくり視線だけを先生へ向ける
「チッ」
舌打ちの後、刀を下ろし納刀する
そしてそのまま先生に掴まれていない左手をベアトリーチェへ向ける
「雷光閃」
次の瞬間アンラの身体へ装填されている
光と雷の全てが一斉に解放された
ゴォォォォォォォォォォォン!!!!
巨大な閃光がベアトリーチェを正面から飲み込み
そのヴェアトリーチェの身体を焼き尽くす
花弁、翼、枝、無数の口
その全てが燃え焦げ、黒くなる
最後には人型の巨大な炭だけが残った
「・・・・・・」
その瞬間
――――パキン
何かが割れた
パキン
また
パキン―――パキン――――――パキン
世界へ亀裂が走る
草原がだった世界が割れる
青空だった世界が割れる
地平線が割れる
まるで巨大なガラスの世界へ
一斉にヒビが入ったように
「・・・・・・」
先生がその場で立ち尽くす
そして
ガシャァァァン!!
青空が、草原が、砕け散る
その向こうから風化した石壁が現れる
崩れた柱、砕けた床、壊れたステンドグラス
バシリカの至聖所に展開されていた異空間が完全に消え失せた
「・・・・・・」
元の世界へ戻った
その中心に炭化したベアトリーチェが転がっていた
だが、終わっていない
炭化した身体へ亀裂が走る
中から赤黒い神秘が漏れ
少しずつ炭が動き再生が始まる
「・・・・・・」
アンラがそれを見つめ
「やはり、死なんか。」
刀へ手を添える
「此処で、確実に息の根を止めておくべきか。」
「アンラさん!!!」
先生が突然アンラの顔を両手で掴んだ
「・・・・・・!?」
無理矢理、先生の方へ向ける
そして
「ふんッッッッ!!!!」
聖堂中へ響くほどの大声と同時に
そのまま額と額を思い切りぶつける
ゴンッ!!
「がっぁ!!」
おっさんがよろめく
「いってぇな!!」
額を押さえる
「何すんねん!?」
先生はにっこり笑った
「・・・・・・いつものアンラさんに・・・戻りましたね。」
「・・・・・・・・・・・・」
数秒
おっさんは何も言わず黙り込む
やがて深いため息と共に口を開き
「・・・・・・はぁ。」
頭を掻く
「あー・・・・・・まぁ・・・・・・なんだ。」
「すまなんだ。」
先生は黙っている
おっさんは先生の焼けた右手へちらりと視線を落とす
「ちょい、こいつが取り込んだ外の力っつうのが。」
「どうも。俺の知ってる奴の残滓っぽくてな。」
「ちょっと、暴走したわ。」
そして先生へ顔を向ける
「サオリ達は大丈夫か?」
先生が後ろを指差す
「"アロナがシールドで守ってくれてます。"」
アンラがそちらへ視線を向ける
薄い青色の半透明なシールド
その中でサオリ、ミサキ、ヒヨリの三人がこちらを睨んでいる
「・・・・・・」
おっさんが首を傾げる
「なんか。めっちゃ睨んどるんやけど。」
「おっさんは分かるが、先生。なにしたんや。」
先生は困ったように頬を掻いた
「"いえ・・・ちょっとアンラさんがおかしくなってる時に"」
「"皆の静止を無視してシールドの外に飛び出した・・・から・・・ですかね・・・・・・?"」
「・・・・・・」
おっさんが目を閉じ深いため息を吐く
「・・・・・・はぁ。」
「まぁ、今回の原因はおっさんやからなんも言えんが・・・」
「無茶するなぁ、先生・・・・・・」
先生は少しだけ苦笑する
「"ごめんなさい。"」
二人がシールドへ向かって歩く
先生がシッテムの箱へ手を伸ばした
「"アロナ。"」
「はい、先生!」
「"もうシールドはいいよ!"」
「了解です!」
淡い光が消えシールドが解除された
その瞬間サオリが真っ先に飛び出した
「――――っ!!」
拳がアンラの顔面へ
ゴッ!!
「うおっ!?」
おっさんの魔力障壁にサオリの拳が突き刺さる
「アンラさん!!!」
続けてミサキも拳を振るう
ゴンッ!!
「ちょ、おい!!」
おっさんは両手を上げる
「すまん!!」
「ほんまにすまん!!」
「おっさんが悪かった!!」
「ちょっとやり過ぎた!!」
サオリがさらにもう一発
ゴッ!!
「だから謝っとるやろ!!」
「反省しろ!!」
「してるしてる!!」
ミサキも
「・・・ふざけるな。」
「いやほんまに悪かった!!」
「だから拳やめぇ!!」
二人の拳が何度もアンラへ叩き込まれる
だが傷一つつかない
ヒヨリだけは少し離れた場所で
困ったように三人を見ていた
「えっと・・・・・・」
「その・・・・足長おじさん。」
「・・・ちょっと。怖かったです・・・」
おっさんの動きが止まる
「・・・・・・それは。」
少しだけ顔を伏せる
「すまん。ほんまに。」
先生は苦笑しながら口を開く
「"とりあえず、アツコをおろそっか"」
「・・・あ、そうです!姫ちゃんを下ろしてあげないと!」
「"とりあえず、アツコをおろそっか。"」
「あ・・・そうです!」
ヒヨリが慌てて声を上げる
「姫ちゃんを下ろしてあげないと!」
「あぁ、せやな。はよ下したらんとやなったな」
おっさんは気を取り直し、皆と一緒にモニュメントの方へと向かった
そこには、赤い茨のような物に縛りつけられたアツコがいた
ぐったりと項垂れ、顔にはマスクが装着されている
おっさんはその姿を見上げ、小さく息を吐いた
「・・・ほんま、悪趣味なことで。」
腰に差していた刀を抜き
ヒュッ、ヒュッ!!
二度、三度と刃を走らせ
赤い茨のような何かが、切断されていく
支えを失ったアツコの身体が、ゆっくりと前へ倒れ込んだ
「っと。」
おっさんはその身体を抱き留めると、慎重に床へ寝かせた
「ほい。これでよし。」
刀を納め、少しばかり身体を横へずらす
すると、ヒヨリが恐る恐るアツコへ近づいていった
「ひ、姫ちゃん・・・?」
震える手で、アツコの肩に触れる
「姫ちゃん・・・」
マスクへ手を伸ばし、そっと取り外した
露わになったアツコの顔は、血の気が失せていた
サオリも傍らに屈み込む
「姫・・・しっかりしてくれ・・・」
ミサキもアツコの様子を確認し、表情を険しくした
「・・・外傷が酷い。血を流し過ぎてる。」
「姫・・・・・・」
サオリはアツコの手を握った
「アツコ・・・頼む、目を開けてくれ・・・」
「お願いだ・・・アツコ・・・目を開けてくれ・・・」
その声は、少しずつ震えていく
「・・・・・・頼む。」
返事はない
サオリの指が、アツコの手を強く握り締める
「アツコ・・・・・・」
ミサキもヒヨリも、悲しそうな顔でその光景を見つめていた
誰もが、もう一度その声を聞きたいと願っていた
・・・・・・そんな中
おっさんは、じっとアツコの顔を見下ろしていた
「・・・・・・」
ジト目になる
隣に立つ先生も、どこか察したような顔で苦笑いを浮かべていた
そして
「・・・・・・ん。」
アツコの瞼が、ぴくりと動いた
ゆっくりと目が開く
「・・・サッ、ちゃん・・・?」
「・・・・・・っ!!」
サオリが顔を上げた
「アツコ・・・!!!」
ミサキも、驚いたように身を乗り出す
「姫・・・!」
ヒヨリもぱっと顔を明るくした
「ひ、姫ちゃん!! 気が付きましたか!?」
三人が一斉にアツコの傍へ集まる
その様子を見て、おっさんは思わずぼそりと呟いた
「いや・・・お前起きとったやろ・・・」
先生も小声で返す
「まぁまぁ・・・アツコですし・・・」
そんなおっさん達の会話など気にも留めず、アツコはゆっくりと周囲を見回した
そして、柔らかな笑みを浮かべる
「うん、サオリ、ヒヨリ、ミサキ・・・みんなおはよう。」
その瞬間だった
「アツコ・・・!!」
サオリが、アツコの身体をぎゅっと抱き締めた。
「あ、サっちゃん・・・?」
突然のことに、アツコが目を丸くする
サオリは構わず、アツコを強く抱き締めていた
「良かった・・・」
声が震える
「本当に、良かった・・・」
アツコは困惑しながらも、サオリの背中へそっと手を回した
「う、うん・・・?」
サオリの肩が、小さく震えた
「アツコ・・・生きていてくれて、ありがとう・・・」
「本当にありがとう・・・っ」
とうとう、サオリの目から涙が零れ落ちた
「くっ・・・うぅ・・・」
普段は決して弱音を吐かず、どんな苦境でも前を向いてきた少女が、
今はただ、友人が生きていてくれたことに涙を流していた
アツコは少し困ったように微笑むと、サオリの背中をぽんぽんと優しく叩く
「サオリ・・・泣かないで。」
「私は大丈夫だから。」
そして、顔を上げる
「先生と、あの人が手伝ってくれたんだね・・・?」
アツコの視線が、先生とおっさんへ向けられた
サオリは涙を拭いながら、小さく頷いた
「ああ・・・そうだ・・・」
それから、先生へ顔を向ける
「ありがとう、先生・・・・・・」
「もう、これで大丈夫なんだな。」
先生は穏やかに微笑んだ
アツコも、そんな先生の表情を見て、ゆっくりと頷く
「・・・うん。大丈夫だよ、サオリ。」
そして、三人の仲間を見渡した
「きっと全部、終わったよ。」
その言葉に、サオリは再びアツコを抱き締めた
今度は、先ほどよりも少しだけ優しく
ミサキは静かに目を伏せ、ヒヨリは涙ぐみながら二人の姿を見つめていた
・・・・・・まぁ
ようやく、ひと段落やな
おっさんは小さく息を吐いた
先生も同じように息をつき、スクワッドの四人を見つめる
今は、そっとしておいてやるべきやろう
「・・・・・・先生。」
「"はい。"」
「ちょっと離れよか。」
「"そうですね。"」
二人は、スクワッドの四人から静かに離れていった
その先瓦礫の散らばる地面に、異形の人影が横たわっていた
ベアトリーチェ
さっきまで完全に黒炭と化していたはずの身体は、
いつの間にか元の異形な人型へと再生していた
もっとも、再生したところで無事というわけではないらしい
「く、ぐぅっ・・・・・・」
苦悶の呻き声が漏れる
先生が、その姿を見下ろした
「"終わりだよ、ベアトリーチェ。"」
その声には、静かな怒りが滲んでいた
おっさんも隣で頷く
「せやな。」
それから、少しだけ目を細めた
「まぁ、その前にお前から、あの力を誰から渡されたか話して貰わんといけんがな。」
そう言いながら、おっさんは腰から一本の短剣を取り出した
刃が波打つ、独特な形状の短剣
それを手の中で弄びながら、ベアトリーチェへ一歩近づく
「さて。ちぃとばかし、【お話】しよか。」
ベアトリーチェの目が見開かれた
「・・・・・・っ!」
彼女は怯えたような目でおっさんを見つめ、地面を這うようにして後ずさろうとする
「ま、待ちなさい・・・!」
先生が慌てて声をかけた
「"アンラさん、ちょっと・・・!"」
しかし、おっさんは足を止めない
「先生。」
声だけは、妙に落ち着いていた
「こいつのあの力は、下手せんでもキヴォトス全体を危険に晒す奴や。」
短剣を持つ手が、ゆっくりと持ち上がる
「その出所も分からんまま放置するわけにはいかんやろ。」
「"だからって・・・!"」
先生が制止しようとした、その時だった
「いいえ。」
不意に、場違いなほど穏やかな声が響いた
「このお話は、これで終わりです。」
「・・・・・・チッ。」
おっさんは舌打ちした
「クソが・・・思ったより来るのが早いな・・・」
先生が驚いたように顔を上げる
声のした方向
そこには、まるで空間そのものを切り裂いたような裂け目が生じていた
その裂け目の向こうから、一人の人物が姿を現す
首はない
レインコートを身に纏い、片手には遺影のような写真を持っている
人間のようで、人間ではない
その異様な姿を見た瞬間、先生の表情が変わった
警戒心を露わにし、鋭い眼差しで相手を睨みつける
すると、その人物は先生の方へ身体を向け
「ああ、落ち着いてください。」
「驚かせたなら申し訳ありません。」
どこか芝居がかった、丁寧な口調
「私はゲマトリアのゴルコンダ。」
「――挨拶は省略するとしましょう。」
手にした写真を軽く傾ける
「もしかしたら私達は、以前お会いしたかもしれませんから。」
「・・・・・・!」
先生の表情が、さらに変化した
ゲマトリア
その名を聞いた瞬間、先生の脳裏に様々な情報がよぎったのだろう
ゴルコンダはそんな先生の反応を気にする様子もなく、淡々と話を続けた
「私は戦いに来たのではありません。」
そして、地面に横たわるベアトリーチェへ視線を向ける
「ベアトリーチェを連れ戻しに来たのです。」
「それに、戦闘で勝てる自信もありません。」
肩をすくめるような仕草
「ゲマトリアが皆、ベアトリーチェのように化物に変われる訳ではないですからね。」
・・・・・・なるほど
こいつ、少なくとも今ここで戦うつもりはないらしい
もっとも、わざわざ敵の前に姿を現しておいて、何の企みもありませんなんて話を信じるほど、おっさんもお人好しやない
おっさんが黙って様子を窺っていると、ゴルコンダはベアトリーチェへ向き直った
「ベアトリーチェ。」
静かな声が、瓦礫の散らばる空間に響く
「これで明らかになりました。」
「先生はあなたの敵対者ではありません。」
「これはあなたの物語ではないのです。」
「・・・・・・っ!」
ベアトリーチェが瞠目し
その視線が、憎悪を込めてゴルコンダを睨みつける
しかし、ゴルコンダは一切動じない
「あなたが起こした事件、葛藤、過程の数々・・・」
「それらは知らずとも良い物に格下げされました。」
「あなたは主人公どころか、先生の敵対者でもなく、ただの舞台装置だったのです。」
「く・・・ぐぅっ・・・!!!」
ベアトリーチェが呻く
その言葉が、肉体の傷以上に彼女の心を抉っているのだろう
だが、ゴルコンダは容赦しなかった
まるで、用意していた台本を読み上げるかのように、淡々と続ける
「先生・・・あなたが介入してしまうと、全ての概念が変わってしまいます。」
「元々この物語の結末はこうでは無かったはずなのです。」
そして、少しばかり考え込むような間を置いた
「友情で苦難を乗り越え、努力で打ち勝つ物語・・・・・・?」
「私が望んでいたテクストはもっと文学的なものだったはずなのですが・・・・・・」
先生は何も答えない
ただ、警戒したままゴルコンダを睨みつけている
「ふむ・・・申し訳ありません。」
ゴルコンダは、ようやく自分の言葉を止めた
「ご気分を害してしまったようですね。」
そして、何事もなかったかのように告げる
「それでは私はマダムを連れて帰ります。」
先生をちょいちょい突いとるが、はやり原作通り、
こいつの目的は、あくまでベアトリーチェの回収
本来であれば・・・そのまま行かせないと契約違反・・・
こいつは、最初から先生と戦うつもりなんぞなかったんやろな
先生を挑発するような言葉を並べてはいたが、結局のところ、目的は一つ
原作通り、こいつはベアトリーチェを回収しに来ただけ
本来なら、ここで見逃すべき相手ではある
ベアトリーチェの処遇に口を出すことも、
ゴルコンダの帰還を妨げることも、アロナとの契約に含まれていない
むしろ、これ以上余計な介入をすれば、契約違反の可能性すらある
・・・だが、
あのカスが取り込んだ、キヴォトスの外から来た力
あれは俺の勘違いでなければあいつの神気だった
確実に殺した、それも世界線共纏めて消し飛ばした
そんな奴の力の残滓が今更出て来る・・・
そんなもん放り投げておけるわけが無い
「おぅ、待てや。」
おっさんが声をかけた瞬間、ゴルコンダの動きが止まった
先生もこちらを振り向く
おっさんは、手に持った短剣を腰へ戻し
代わりに、刀の鞘へ手を伸ばす
右手の親指で鍔を押し上げ、鯉口を切り
カチリ
小さな金属音が響く
「そのカスに力を与えた奴を聞くのが、まだなんやわ。」
ゴルコンダはしばらく黙っていた
やがて、ゆっくりとこちらへ身体を向ける
「もしかして私の邪魔をするつもりでしょうか?」
「どうかそのような決断はなさらないでください。」
「たとえば・・・私は様々な道具を生産できます。」
その声には、相変わらず余裕があった
「ヘイローを破壊する爆弾も私の作品です。」
「・・・・・・ほぅ?」
おっさんは口元を歪めた
「おっさん相手に速度対決しようってか?」
「お前が起爆する前に、お前が粉に変わる方が早いと思うがな?」
「・・・・・・」
ゴルコンダが沈黙する
まぁ、脅しのつもりなんやろう
実際、ヘイローを破壊できる爆弾なんぞ、キヴォトスにとっては洒落にならん代物や
ただし、それをおっさん相手に持ち出したところで
どれほどの意味があるかは別の話やけどな
やがて、ゴルコンダは小さく息を吐くような仕草を見せた
「ああ、これはこれは・・・とても恐ろしい。」
「・・・・・・」
「では、そうですね。」
少しばかり考えるように間を置いてから、ゴルコンダは提案した
「後日、背後関係が分かり次第、そちらに一報する。」
「というので、どうでしょうか?」
おっさんは、しばらくゴルコンダを見つめていた
やがて、刀の鍔を押し上げていた親指を離す
カチン
鯉口を切っていた刀が、元の位置へ戻った
「さよけ。」
おっさんは肩をすくめた
「なるはやで頼むぞ。」
「でなければ、お前らのアジトごと粉にするからな。」
「・・・・・・ふむ。」
ゴルコンダは、肩をすくめ
「では取引は成立ということでよろしいですね。」
そして、地面に横たわるベアトリーチェへ向き直る
「ベアトリーチェ。」
「・・・・・・っ!」
ベアトリーチェは、憎悪を隠そうともせずゴルコンダを睨みつけた
「ゴルコンダ・・・!」
しかし、ゴルコンダは彼女の反応を意に介さない
「今回の実験は失敗です。」
「帰りましょう。」
「・・・・・・ッ!」
ベアトリーチェは、なおも何かを言おうとした
だが、ゴルコンダはすでに先生へと身体を向けていた
「失礼しました、先生。」
「それでは、また。」
「あぁ、せやせや。」
「黒服に伝えといてくれ。」
「以前の観戦の対価。こいつをどうにかした時に必ず俺に一報よこせってな。」
「ええ、必ず。」
そう言い残すと、ゴルコンダはベアトリーチェを伴い、再び空間の裂け目へと向かう
異様な二つの影が、裂け目の向こうへと消えていく
そして
スゥゥゥ・・・
空間の裂け目が閉じた
後には、静寂だけが残された
「・・・・・・」
おっさんは、しばらく裂け目があった場所を見つめ
「・・・・・・はぁ」
また面倒なことになりそうやな、これ
そう思いながら、おっさんは刀の柄から手を離した
【最後のゴリラ】
走る
ひたすらに走る
背後から迫る聖徒会のミメシスへ、ミカは振り返りざまに銃口を向け
Quis ut Deusの引き金を引く
放たれた弾丸がミメシスの身体を貫き、その輪郭を崩壊させ
一体、二体、三体と次々と煙へ変わり、消えていく聖徒会のミメシス
しかし、敵の数は一向に減る気配を見せなかった
「もー! いったい何体いるのさぁ!」
愚痴をこぼしながらも、ミカは走る足を止めない
その瞬間だった
「――っ!」
横合いから、巨大な影が迫り
反応するよりも早く、バルバラの拳がミカの身体を捉えた
轟音と共に壁が砕け散る
ミカの身体は壁をぶち抜き、その向こうにある部屋へと吹き飛ばされた
瓦礫が床に散らばり、遅れて砂埃が舞い上がる
「はぁ・・・はぁ・・・・」
ミカは荒い呼吸を繰り返しながら、床に手をついた
「うぅ・・・痛い・・・疲れた・・・」
身体のあちこちが痛む
服は破れ、肌には傷が刻まれていた
呼吸をするだけでも身体が悲鳴を上げている
「あーもう、傷だらけ・・・・・・」
自分の身体を見下ろし、ミカは困ったように眉を下げた
それでも
「でも・・・まだ大丈夫・・・」
そう呟いて、ゆっくりと立ち上がる
そこでようやく、ミカは自分が吹き飛ばされた先を見渡した
広い部屋だった
高い天井
壁際に並ぶ譜面台
長い間、誰も使っていなかったのだろう室内には薄く埃が積もり、置かれた楽器も静かに沈黙している
その奥には、大きなオルガン
棚には何冊もの楽譜
そして、隅に置かれた古い蓄音機
「・・・・・・ここは・・・聖歌隊室?」
ミカは呆然と室内を見回した
「オルガンと・・・楽譜・・・蓄音機まで・・・」
ひとつひとつを確かめるように視線を巡らせてから、ふっと小さく笑う
「・・・そっか、そうだよね」
誰に向けるでもなく、独り言ちる
「アリウスも私達と同じ授業を受けていたはずだもんね」
違う学校
違う環境
違う道を歩いてきた
けれど、彼女たちもまた、私と同じ学生だった
授業を受けて、勉強して、歌を覚えて
自分たちと同じように、教えられたことを学んでいたはずなのだ
ミカは、蓄音機のそばまで歩み寄り
古びた機械に手を伸ばし、そっとスイッチを入れる
・・・・・・何も起きない
「・・・動かないかぁ・・・」
少し残念そうに肩を落とし
「まぁ、長い間使ってなさそうだし、仕方ないよね」
手を離し、ミカはその場に立ち尽くした
そして、ふと思い出したように小さく息を吐く
「はぁ・・・・・・」
コハルちゃんが、身を挺して助けてくれた時
あの時のコハルちゃんは、本当にカッコよかったなぁ・・・
「コハルちゃん、物語のお姫様みたいだった」
窮地に陥ったお姫様
そこへ現れる、運命の人
先生が登場して、助けてくれて
まるで、絵本から飛び出してきたような光景だった
「私も、そういうお話が好き」
ミカは目を伏せる
窮地に陥ったお姫様を、運命の人が救う―――そんな御伽噺
子供っぽくて、夢に溢れていて
素敵で、胸がときめくような
いつか自分にも、そんな物語が訪れるのだと
そんな夢を見ていた頃もあった
「・・・私も、そんな物語の主役になりたかったなぁ・・・」
ぽつりと零れた言葉は、誰に届くこともなく、埃っぽい空気の中に溶けていく
けれど、ミカは自分の答えを知っている
「でも、分かってる。私にはそんな資格なんて無い」
自嘲するように、ほんの少しだけ口元が歪んだ
「魔女がハッピーエンドを迎えるお話なんて、この世の何処にもないもの」
それは、諦めだった
自分が何をしてきたのか
誰を傷つけてきたのか
何を壊してしまったのか
忘れたわけじゃない
許されたと思っているわけでもない
だからこそミカは、静かに目を閉じた
「サオリ・・・私はね・・・」
声は穏やかだった
責めるような響きはない
「自分が受けた痛みを、あなたに感じて欲しかった」
あの時は、本当にそう思っていた
自分が傷ついたのなら、相手も傷つくべきだ
自分が苦しんだのなら、相手にも苦しんでもらわなければ不公平だ
そうでなければ、自分の痛みだけが取り残されてしまう気がした
「そうじゃないと、不公平だと思っていたの」
けれど
「でも・・・そうだよね・・・」
ミカは、ほんの少しだけ顔を上げた
「私と同じ様に、あなた達も救われたかったよね」
あなた達も、苦しかった
あなた達も、傷ついていた
「あなた達も・・・幸せになりたかったよね」
それは、今まで考えないようにしていたことだったのかもしれない
自分が受けた傷に目を向けるあまり、相手にもまた傷があったことを、認められずにいた
けれど、今なら分かる
「あなたがアツコを助けたい理由も分かるよ・・・」
サオリ
あなたは、たくさんの人を騙した
たくさんの人を絶望に陥れた
取り返しのつかないことを、いくつもしてきた
それでも
「多くの人を騙し、絶望に陥れたあなたでも・・・」
ミカは静かに微笑んだ
「最後の最後に、誰かを救う事が出来たなら・・・」
苦痛だらけだった人生
自分のしてきたことを悔いて、失ったものを抱えて、それでも最後に誰か一人を救うことができたなら
それだけで
「苦痛だらけのあなたの人生も、それだけで報われる・・・」
言葉を区切り、ミカはゆっくりと息を吐く
「・・・そう、思ったのでしょう?」
答えを求める問いではなかった
彼女には分かるから
「わかるよ――私も・・・そうだもの」
その瞬間
『――――――ッ!!』
バシリカ全体を震わせるような、アンブロジウスの咆哮が響き渡った
空気が震える
遠くから、幾つもの足音が迫ってくる
ミカはそちらへ顔を向けることなく、静かに言葉を続けた
「だから・・・アリウススクワッド」
声に、迷いはなかった
「あなた達の為に、祈るね」
「いつか・・・いつか、あなた達の苦痛が癒える事を――」
「やり直しの機会を希うのと同じ様に――」
未来があってほしい
今までとは違う明日があってほしい
もう一度、選び直せる機会があってほしい
「あなた達に、未来が・・・次の機会がある事を――」
ミカは目を閉じ
そして
「だから、私は―――あなた達を赦すよ」
それは、過去をなかったことにするという意味ではない
罪が消えるわけでもない
失われたものが戻るわけでもない
それでも
「それは、互いが公平に不幸である事よりも、もっと良い結末だろうから」
ミカは、そう独り言ちた
そして――
「――――ッ!!」
聖歌隊室の扉が、乱暴に吹き飛んだ
聖徒会のミメシスが、雪崩れ込むように室内へ侵入してくる
その後ろには、巨大なアンブロジウス
さらに、床を踏み砕かんばかりの勢いでバルバラが駆け込んできた
「もー・・・せっかくいい話をしてたのに」
ミカは肩をすくめた
その手には、すでに銃が握られている
Quis ut Deusの銃声が轟く
先頭のミメシスが煙となって消え、後続の個体がその隙間を埋める
ミカは撃つ
撃って、撃って、撃ち続ける
弾丸が敵を貫き、煙が舞い、アンブロジウスの巨体が部屋の入口を塞ぐ
バルバラがその向こうから迫ってくる
それでも、ミカの口元には笑みが残っていた
――例えアツコを救ったとしても、あなた達の未来はきっと苦難に満ちている
戦いながら、ミカは語りかける
「一生、追われるかもしれない・・・」
銃声
「表を歩く事が出来ないような、悲惨な人生になるかもしれない」
銃弾がミメシスを撃ち抜く
だが、敵は止まらない
ミカもまた、止まらなかった
「でも、それでも・・・」
「あなた達の未来に、ほんの一筋でも光明があると信じるのなら――」
サオリ
あなたはアツコを救えばいい
そして
「アツコを助ける事で、あなた達自身をも救えばいい」
ミカは銃口を上げ、迫り来る敵を撃ち払った
「私は・・・もう手遅れだけど・・・」
一瞬だけ、その表情に寂しげな色が差す
「あなた達には、まだ時間が残されているでしょう?」
自分には、もう戻れない場所がある
もう取り戻せないものがある
もう選び直せないことがある
それでも
彼女たちは違う
「それに・・・先生が手伝ってくれているから、きっと大丈夫・・・」
先生がいる
手を差し伸べてくれる人がいる
だから、きっと
「あなた達のその行く先に幸いが――祝福が有らんことを―――」
そこまで言った時だった
「・・・・・・あれ?」
ミカが、ふと顔を上げた
何かが聞こえる
銃声でも、咆哮でもない
耳を澄ませば、かすかに聞こえる旋律
それは、背後からだった
ミカはゆっくりと振り返る
先ほどスイッチを入れた、あの蓄音機
「・・・・・・え?」
止まっていたはずのレコードが、ゆっくりと回っていた
針が盤面をなぞり、古びた機械から音が流れ出す
何十年前のものなのかも分からない
誰が録音したのかも、もう分からない
それでも、その音は確かに、今この場所に響いていた
――Kyrie eleison
主よ、憐れみたまえ
ミカは目を丸くし
そして、思わず笑ってしまう
「あははっ、故障してたんじゃなかったの?」
場違いなくらい、明るい笑い声だった
ミカは銃を構えたまま、そっと目を閉じ
ほんの少しだけ流れてくる歌に、耳を傾ける
古びた蓄音機の音は、決して鮮明ではなかった
ノイズが混じり、音は揺らぎ、ところどころ擦り切れている
けれど
そこに込められた祈りだけは、失われていなかった
「これは・・・慈悲を求める歌」
ミカは、静かに呟いた
「別に、この歌が好きなわけじゃないけど・・・」
目を開く
その瞳には、先ほどまでとは違う光が宿っていた
「そうだね、うん」
その時異変が起きた
ミメシスが、動きを止め
アンブロジウスが身を翻し、バルバラもまた、ミカに背を向ける
まるで、何かに呼ばれたかのように
彼らは一斉に聖歌隊室を離れ、別の場所へ向かおうとしていた
「・・・・・・あれ?」
ミカは首を傾げた
それから、すぐに理解したように微笑む
「あは☆ 何をそんなに急いでるのかな?」
コツ
靴音が鳴った
ミカは銃を手にしたまま、優雅に歩き出す
コツ、コツ、コツ
蓄音機から流れる旋律に合わせるように、一歩ずつ
敵が向かおうとする先へと回り込み、その進路を塞ぐ
バルバラが足を止め
ミカは、その眼前で立ち止まる
「あは☆ あなた達は通れないよ」
笑顔だった
いつもの、柔らかくて、気さくな笑顔
「この先にあるのは、救済の戦いを繰り広げる主人公の舞台」
銃を持つ手に、力がこもる
「私達みたいな悪役には許されてないの」
――だから
ここから先へは行かせない
「さぁ、先生―――あの子たちを救ってあげて」
ミカは、ゆっくりと銃口を持ち上げた
「ここは私が食い止めるから」
コツ
一歩
コツ
もう一歩
ミカはバルバラたちへと歩み寄っていく
蓄音機から流れる聖歌が、静かな聖歌隊室を満たしていた
――
その旋律に、ミカはそっと息を吸い込んだ
そして
歌い始めた
古びた蓄音機の歌声に重なる、澄み渡るような声
それは、どこまでも綺麗で
どこか悲しくて
それでも、不思議なほど優しかった
ミカは歌う
まるで祈るように
自分が赦した彼女たちのために
自分が救えなかったもののために
そして、これから救われるべき彼女たちのために
その歌声は、蓄音機のかすれた旋律と重なりながら、バシリカ全体へと広がっていく
一歩、また一歩
ミカは歌いながら、迫り来るバルバラたちを迎え撃つ
もう、振り返らない
彼女たちが進む先に、光があると信じて
自分が進む先に、何が待っているのかを知りながら
ミカは、ただ歌い続けた
――
その祈りを、戦場に響かせながら
よし!
ちょっと作者仕事、休憩(執筆)仕事、仕事終わり、執筆、飯、風呂 執筆、寝るをずっと続けてたせいか、過労の初期症状が出てきました!
気合と根性が足らないっすね!!
さて・・・解説を・・・と思ったが、ちょっと頭が回ってないぞ・・・!
本文読み返してくる!
よし!読み返した!
では解説!
まず、ベアトリーチェですね。
原作と同じく、キヴォトスの【外】の力を取り込んでます。
そして、その外の力と、アンラはかなり深い関係があります・・・
そうです。
あのアンラが泥酔した時に見たアンラの夢の人物です。
まず、その特徴が一つ。
原作でのベアトリーチェのバケモンフォルムは、背中の翼は、
羽根ではなく、枯れ枝のような物が生えているだけでした。
ですが、今回は取り込んだ力が別の物だった為、
その力に影響を受けフォルムが変わっていました。
そして、途中まで、アツコの神秘を使って、その力を抑え込んで
他人のふんどしで相撲取って得意げにしていましたが、
その中で、サオリ達にリンチにあい、
元々、他人から教えてもらった儀式の条件すら真面に守らず無理矢理強行した儀式なので、
杜撰かつ、穴だらけで、サオリ達からのリンチも相まって、
取り込んだ力が抑え込めずに、途中から力に乗っ取られる形になり、
それがアンラの逆鱗に触れる事になりました。
この作品を読んでいて、アンラが異様に強いというか、
過剰火力が極まっていると感じていると思いますが・・・
その実、アンラの世界は、あの力の残滓の本体が出て来る様な世界で殺し合いをしていました。
なので、基本その戦闘体系自体がキヴォトスというぬるま湯に適してないんですよね・・・
あ、ちなみにもしもベアトリーチェが儀式をちゃんとやった上で、
あの力を取り込んだままだった場合、
ベアトリーチェの中でアンラがぶちころがした奴が再生していき、
最終的には中身乗っ取られていましたね。
むしろ、力を提供した側の狙いはそれだったりします。
今回アンラがキレて執拗に刻み続けたおかげで、
残滓が燃え尽きて、完全に消滅してしまいましたので、
あのボケナスクソカス二度と面見せるな神が生き返ることは無いでしょう。
そして、
切れたアンラを止めた先生ですが・・・
何気に、ずーっと描写してきましたね。
最初はアビドスリゾートでアンラに馬乗りになってぶん殴ってた時ですかね。
そしてエデン条約4章の中でも、アンラの魔力障壁を無視してアンラに触れ、
そして攻撃を通してましたね。
なので、今回みたいにあの段階の名開放状態で本気であり、全力を出しているアンラ相手に、
頭突きをお見舞いしています。
いやね、ラブロマンスとかだったらキスで正気に戻すとかでしょうけど・・・
いやアンラと先生だしね。
先生はほの字かもしれないけど、あの場面だったら確実に選択肢としては頭突きでしょうよ。
にしても、本気でキレてるアンラを止めれたのは、
元の世界含めて、先生が初めてですよ。
そこは誇って良いですよ。
流石
あ、ちなみにアンラの腕をつかんだ時に先生の手が火傷したのは、
アンラの表面に微かに放電していた雷によるものです。
極限まで体内に抑え込んで力を運用しているので、触っても火傷程度で済んでます。
抑えなかったら・・・?
ほら、そこに黒い炭の塊になったベアトリーチェが転がっていたじゃないっすか。
アレですよアレ。
さて、そして話をちょっと飛ばして、
ゴルコンダが出て来た所ですね・・・
ゴルコンダのセリフは原作とほぼ同じです・・・
ですが、そのセリフが、先生が周回している。という前提で言わせると
恐ろしい程にマッチしてしまう・・・
原作・・・もしかして・・・もしかする・・・?
まぁそれは置いておいて、
アンラが要求したのはベアトリーチェに取引を持ち掛けた奴の情報。
対価はお前らの命。
昔先生に突きつけたような契約内容ですね。
今回はガチで殺す気だったので、契約として成立しています。
そして、最後に黒服への伝言ですが・・・
この小説の超最初の方。
それこそ原作開始前の時の「おっさん約束する」で出て来た、
黒服のワンシーンが伏線となっております。
その時にわざわざ、アンラが観戦を許して、
それを見た事によって黒服に、対価を要求できるようになる。
そういう仕掛けです。
そしてその対価として要求したのが、
ベアトリーチェを処分した時に即座に一報入れろ。っていう奴です。
これは何故か、
ベアトリーチェの処分後ほぼ間髪を入れずに終章が開始するからですね。
その目安が欲しかった。と言った所です。
そういや・・・アンラの事を言ってませんでしたね・・・
今回アンラがキレた理由。
それは嫁さんです。
嫁さんを殺した奴が、
嫁さんの声を使って、
自分の剥奪された名前を呼んだ。
そら殺しますよ。
ちなみに今回出て来た『我が神名を此処に』は、『おっさん約束する』で出て来た、
神名開放の第一段階です。
と言う事で・・・
そろそろ解説する事も・・・多分?無くなったので・・・
作者はベッドで死ぬ様に眠りたいと思います・・・Zzzz・・・・('、3[____]