おっさんキヴォトスに行く   作:無い頭のおっさん

120 / 120
Ἐγώ εἰμι ὁ ποιμὴν ὁ καλός· ὁ ποιμὴν ὁ καλὸς τὴν ψυχὴν αὐτοῦ τίθησιν ὑπὲρ τῶν προβάτων·

κἀγὼ δίδωμι αὐτοῖς ζωὴν αἰώνιον, καὶ οὐ μὴ ἀπόλωνται εἰς τὸν αἰῶνα, καὶ οὐχ ἁρπάσει τις αὐτὰ ἐκ τῆς χειρός μου.


Οὐκέτι ἔσται ἑτέρα φορὰ.


先生の過去と未来と覚悟

 

 

先生とアンラが、アリウススクワッドの四人が待つ場所へと戻ってくる

戦いの痕跡が生々しく残る通路を、二人は並んで歩いていた

やがて、こちらの姿に気づいたサオリが顔を上げる

 

「先生・・・ベアトリーチェは・・・?」

 

「ああ、」

 

おっさんは肩をすくめ

 

「逃げよったで」

 

「なっ・・・!?」

 

サオリが目を見開く

 

「あの負傷で逃げた・・・?」

 

「まぁ、さっきの戦いを見とったら分かると思うが、再生能力も異常やったからな。」

「肉体をズタズタにしても、燃やしても、しぶとく再生しよる。」

「せやけど、最後はギリギリ死なん程度まで治ったところで逃げよったわ」

 

「そんな・・・」

 

「でも、もう二度と皆を苦しめることは無いと思うよ」

 

隣から先生が口を開く

 

「せやな。最後はおっさんにクッソビビり散らしとったさかい。」

「ここには近づいてこんやろな」

 

「・・・・・・」

 

サオリはまだ驚きを隠せない様子だったが

ひとまずベアトリーチェの脅威が去ったことに安堵したのか小さく息を吐いた

 

その時

 

「先生、おじさん」

 

アツコが立ち上がり、二人の方へと歩み寄ってきた

 

「私達を助けてくれて、ありがとう」

 

「うん。アツコも、無事でよかった」

 

先生が微笑みかける

 

おっさんも軽く手を振って応じようとしたのだが・・・

 

「おじ・・・?」

 

ふと、その呼び方が気になった

 

「いや、まぁ・・・おじさん・・・?」

 

なんやろう

 

おっさん、別に年齢を気にするような歳やないと思うんやけど

 

「おじいさん・・・?」

 

「何をぶつぶつ言っているの?」

 

「いや、なんでもあらへんで」

 

先生はおっさんを完全に無視して、アツコへと向き直った

 

「ところで、あのマスクはもう付けなくても良いの?」

 

「あ、うん。大丈夫」

 

アツコは自分の顔に触れ、それから手に持っているマスクへと視線を落とした

 

「私も、マダムがどうしてこのマスクを付けさせたがっていたのか、」

「よく分からなかったんだけど・・・」

 

少しだけ考えるように間を置く

 

「そこのおじさんに殴られた時、私の身体を保護してくれた装置があって・・・」

「多分、それを動作させるのに必要だったんだと思う」

「マダムがどこまで知っていたのかは分からない。」

「でも・・・結局、マダムは私を守るために、このマスクを付けさせていたんだろうね」

 

「"じゃあ、今後も必要な時は付けようか"」

 

「うん」

 

アツコは柔らかく微笑んだ

 

「・・・分かった。マスクは、たまに着けるようにする」

 

「せやな。それがええ」

 

おっさんも頷く

 

「ああ、そのマスクには変な小細工はされとらんから、安心して着けとったらええで。」

「おっさんが確認しとる」

 

「うん。ありがとう、おじさん」

 

「おぅ・・・・・・」

 

そんなやり取りが一段落したところで、サオリが先生の方へと向き直った

その表情から、先ほどまでの安堵が消えている

代わりに浮かんでいたのは、覚悟を決めた者の真剣な顔だった

 

「先生・・・」

 

「"うん?"」

 

「約束通り、姫を救ったから・・・先生の好きにしてくれ」

 

その言葉に、先生がわずかに首を傾げた

 

「"好きに・・・?"」

 

「私が全ての元凶だ」

 

サオリは一度、目を伏せた

 

けれど、すぐに顔を上げる

 

「エデン条約事件も、セイア襲撃も、ナギサ襲撃も・・・」

「ミサキも、ヒヨリも、アツコも。みんな、私のせいでこうなってしまった」

 

一つひとつの名前を口にするたび、声が重くなっていく

 

「連邦生徒会でも、トリニティでも・・・矯正局でも、なんでも構わない。」

「先生が思う、一番適切な所に私を送ってくれ」

 

言い切った瞬間だった

 

「一体、何を・・・!?」

 

ミサキが目を剥いた

 

「り、リーダー・・・?」

 

ヒヨリも、信じられないものを見るようにサオリを見つめる

 

アツコは何も言わなかった

ただ、じっとサオリの顔を見つめていた

 

「ふ、ふざけないで、リーダー・・・!」

 

ミサキの声が震える

 

「一人だけ、そんな・・・! どうして、リーダーだけが全部背負おうとするの・・・!?」

 

「いや・・・これは私の責任なんだ」

 

サオリは目を逸らさなかった

 

「これでいい。今が償う時なんだ」

 

「り、リーダー・・・」

 

ヒヨリが俯く

 

例え、脅されていようと、洗脳下であろうとサオリが罪を犯したことは、事実だ

彼女の行動によって多くの人が傷つき、取り返しのつかない事態も起きた

その責任から、サオリが逃れることはできない

 

だが・・・・・・

 

「"・・・そうだね"」

 

先生が静かに頷いた

 

「"サオリは、責任を負わないといけない"」

 

サオリの肩がわずかに揺れる

 

「"サオリは長い間、周囲の子達を守るために頑張ってきた。"」

「"他人の面倒を見て、守って、耐えて・・・そうやって、ずっと責任を負ってきたんだよね"」

 

「・・・・・・」

 

「"だからこそ、その子達を人質に取られて要求された時"」

「"サオリにはその選択をするしかなかった"」

 

サオリが瞠目し、おっさんの方に視線を向ける

 

「先生には伝えたる」

 

おっさんが頷きサオリに伝える

 

「"でもね、サオリ"」

 

先生の声が、再び響いた

 

「"サオリ達は、罪を犯した悪い生徒。それは変わらない"」

 

四人の表情が強張る

 

「"だからと言って、苦しんで当然なわけじゃない"」

 

先生は、まっすぐにサオリを見つめていた

 

「"子供達が苦しむような世界を作った責任は、大人が負うものだからね"」

 

「・・・・・・おっさんもか・・・」

 

思わず口を挟むと、先生がちらりとこちらを見る

 

「"うん。アンラさんもね"」

 

「まぁええけんども」

 

そら、そうか・・・この子らを救えるのに救わなかった

今は救わないと言う選択をした

 

その時点で、おっさんの方が罪は重い

 

「な、何を言っているんだ・・・!」

 

困惑した声が漏れる

 

「そんな・・・!!」

「では・・・一体私は・・・・・・」

 

「私は何の責任を負わなければならないんだ・・・?」

 

自分の罪を認めた

罰を受ける覚悟もした

罪を犯したのだから、自分も苦しむべきだと思った

 

それなのに

 

それすら、否定されてしまったような気がしたのだろう

 

「・・・・・・」

 

ヒヨリは俯いたまま、何も言えずにいた

 

「リーダー・・・」

 

ミサキが小さく呟く

 

アツコも、サオリを見つめている

 

そして、先生は答えた

 

「"責任を負うのは、自分の人生そのものだよ、サオリ"」

 

「・・・ど、どういう意味なのか、分からない」

 

サオリは困惑していた

 

自分の人生

そんなものを、どうすれば責任として背負えるのか

そもそも、どうやって生きればいいのか

考えたことすらなかったのだろう

 

「・・・私は分かる気がする」

 

そこで、アツコが口を開いた

 

「サっちゃん、やりたいことはある?」

 

「・・・・・・」

 

「アズサは、学ぶのが楽しいって言ってた。」

「友達と一緒にいることが幸せだって」

 

アツコは、穏やかな声で続ける

 

「サオリの好きなものは何?」

「やりたいことは?趣味は?好きな食べ物は?」

 

一つずつ、問いかける

 

「私は今まで、そういうことを一つも聞いたことがなかった」

 

サオリは黙っていた

 

「サオリ。将来の夢は?なりたいものはある?」

 

「・・・そんな、そんなものは・・・」

 

唇が震える

 

「分からない・・・一度も、そんなものを考えたことがなかった・・・」

 

自分が何を好きなのか

何をしたいのか

これから、どこへ向かって生きていきたいのか

 

「私が何が好きなのか、何がしたいのか・・・私は、一つも分からない・・・」

 

それは、あまりにも正直な言葉だった

サオリは、いつだって誰かのために動いてきた

仲間を守るために判断し、必要なことを学び、計画を立ててきた

 

けれど、自分自身が何を望んでいるのかについては

一度だって、真剣に考えたことがなかった

 

「好きな物かは分からんが・・・」

 

おっさんは、ふと思い出して口を開いた

 

「お前さん、昔に送った香水は気に入って使い続けとったよな」

 

「・・・・・・え?」

 

サオリがこちらを見る

 

「いや、別に深い意味はあらへんで」

「使っとるのを見かけたことがあったからな。」

「好みに合わんかったら、とっくに使わんようになっとるやろ」

 

「・・・・・・」

 

サオリは答えなかった

自分が好きなものそんな話をしているのに、誰もが自分を責めない

自分の罪を忘れたわけではないだろう

それなのに、今まで目を向けてこなかった部分を、一緒に探そうとしてくれている

 

「サオリは、責任感が強くて・・・決断力があって・・・」

 

アツコが考え込むように首を傾げた

 

「んーっと・・・あとは・・・」

 

「お、教えるのが上手です・・・!」

 

ヒヨリがおずおずと手を挙げる

 

「い、いろいろ・・・教えてくれる時は、怖いですけど・・・」

 

「そこは余計だろう・・・」

 

「で、でも、本当に上手です!」

 

「・・・はぁ」

 

サオリは困ったように眉を寄せた

 

「真面目ではあるよね」

 

今度はミサキが口を開く

 

「計画を立てるのも上手いし、指揮をするのも上手だし」

 

「・・・・・・」

 

褒められている

 

そう理解しているのに、どう反応すればいいのか分からなかった

戦いの中で、仲間の命を預かることには慣れていた

命令を下すことにも、決断することにも、迷わないよう努めてきた

けれど、仲間から自分の長所を教えられることなど、今まであっただろうか

 

サオリは渋い顔を浮かべたまま、黙り込んでしまった

そんな彼女を見て、先生が小さく笑った

 

「"そっか・・・"」

 

そして、何かを思いついたように頷く

 

「"それなら、サオリは今後、良い先生になれるかもしれないね"」

 

「・・・・・・!!!」

 

サオリの目が見開かれた

 

「せ、先生に・・・!?」

 

ヒヨリが驚きの声を上げる

 

「リーダーが先生に・・・!?」

 

「まぁ、あんまり想像はつかないけど」

 

ミサキが率直な感想を零す

 

「ううん、そんなことないよ」

 

アツコはにこにこと笑っていた

 

「よく似合いそう・・・でしょう?」

 

「・・・・・・」

 

サオリは三人の顔を順番に見た

 

先生になる

自分が、誰かを教える

誰かのために、何かを伝える

今まで自分が生きてきた道とは、あまりにも違う未来だった

 

「・・・分からない」

 

やがて、サオリが小さく呟く

 

「私に・・・そんな未来が、本当に・・・?」

 

視線が揺れる

 

「そんな・・・人生の責任を負うという意味も、そんな未来も・・・何も分からない」

 

そして、震える声で問いかけた

 

「私は・・・私は、生きていても・・・いいのか?」

 

コツン

 

おっさんは、サオリの頭を軽く小突いた

 

「お前。あん時に言ったやろ」

 

「・・・っ」

 

「生きろって」

 

サオリが目を見開く

 

「だ、だが・・・」

 

「だがやない」

 

おっさんは、はっきりと言った

 

「生きろ。そして――」

 

「"さっきの疑問の答えは、自分で見つけようね"」

 

先生が、その言葉を引き継いだ

 

「"何が好きなのか、何がしたいのか。"」

「"これから、どんな人生を送りたいのか。"」

 

優しく、けれど確かな声で

 

「"それは、誰かに決めてもらうことじゃないよ。"」

「"サオリ自身が、自分の人生を生きながら見つけていくものだから"」

 

「・・・・・・」

 

アリウススクワッドの四人は、何も言えなかった

それぞれに、言葉にできない思いがあったのだろう

先生は、そんな彼女たちを見つめてから、柔らかく微笑んだ

 

「"じゃあ、ここでお別れだよ"」

 

「なっ・・・!?」

 

サオリが目を見開く

 

「き、急に・・・待ってくれ、先生!?」

 

「"まだ、助けが必要な生徒がいるんだ"」

 

「ま、待ってくれ・・・!!」

 

サオリが思わず手を伸ばしかける

 

「私は・・・私達は・・・」

 

そこで、サオリは口をつぐんだ

先生には、まだ行くべき場所がある

助けを待っている生徒がいる

 

そして、自分たちには

 

「・・・いや、そうか」

 

サオリはゆっくりと手を下ろした

 

「それを見つけるのが・・・私の・・・」

 

「"大人の私が保証するよ"」

 

先生は、サオリに優しい笑顔を向けた

 

「"その答えは、必ず見つけられる"」

 

「・・・・・・」

 

サオリは、もう何も言わなかった

ただ、先生の顔をじっと見つめていた

その姿を見届けてから、おっさんは先生へと向き直る

 

「あー、すまんけど先生」

 

「"はい?"」

 

「こいつらの今後のセーフハウスとかの面倒を見るさかい、おっさんはここまでや」

 

「・・・!」

 

四人が一斉にこちらを向いた

 

「如何せん、今までちゃんと面倒を見る・・・とまではできてへんかったからな。」

「ようやく諸々終わったことやし、こっからはきっちり支援できる」

 

秘密裏に祈願屋の保護下に置けば

少なくとも、いきなりトリニティに引き渡されるような事態は避けられる

その後の生活だって、どうにか出来るだろう

 

今までは、未来がどう変わるか分からへんくて助けられななかった

せやけど、ようやく祈願屋として干渉しても問題ない所まで

こいつらが自分たちの力でたどり着いた

 

なら、ここからはおっさんの仕事や

 

「"分かりました"」

 

先生が微笑んだ

 

「"サオリ達はお任せしますね?"」

 

「あいよ」

 

おっさんは片手を上げる

 

「そっちもゴリラの世話、頑張れよ」

 

「"また、そんなこと言う・・・"」

 

先生が苦笑いを浮かべ

 

それから、真っすぐにこちらを見る

 

「"じゃあ、行ってきます"」

 

「先生」

 

おっさんは、行こうとする先生に声をかける

 

「今から使う一回は、無駄やない。」

 

先生の目が、わずかに見開かれた

ほんの一瞬、けれど、ちゃんと言葉は届いたようだった

やがて先生は、柔らかく笑った

 

「"・・・はい。有り難うございます。"」

 

そして、走り出した

来た道を戻り、まだ戦いの続く場所へと向かっていく

 

「い、行ってしまいました・・・?」

 

ヒヨリが呆然と呟いた

 

「・・・きっと、ミカを助けに行ったんでしょ」

 

ミサキが、先生の消えた方向を見ながら答える

 

「ひ、一人で大丈夫でしょうか・・・?」

 

「・・・大丈夫だと思うよ」

 

アツコは、迷いなく頷いた

 

「先生は大人だから。きっと、何か方法があるんだと思うよ。」

 

「せやな。今の先生なら、大丈夫やろ。」

 

おっさんも頷いた

先生は、もう進むべき道を知っている

なら、おっさんが心配することでもない

 

そうしていると、サオリが黙り込んだまま何かを考えていることに気づいた

 

「サオリ、大丈夫・・・?」

 

アツコが心配そうに声をかける

 

サオリはしばらく俯いていたがやがて顔を上げた

 

「うん・・・」

 

かすかに、笑った

 

「まだ・・・何も分からないけど・・・それでも・・・」

 

言葉を探すように、何度か口を開いては閉じる

そして、ようやく見つけた言葉を口にした

 

「初めて・・・この世界にいてもいいのだと、思うことができたよ」

 

「・・・・・・」

 

ヒヨリも、ミサキも、アツコも

誰もすぐには返事をしなかった

その言葉がどれほど大きな意味を持っているのか

きっと、全員が分かっていたからだ

 

「さよけ・・・」

 

おっさんは、静かに頷いた

それから、わざとらしく手を叩く

 

「まぁ、とりあえずや。」

「お前さんら、ここにおったら、嫌でもトリニティが拘束しに来よるからな」

 

「・・・・・・あ」

 

「とりま、一旦アビドスの方で保護して、セーフハウスまで案内するわ。」

「細かい話は、移動しながらでええやろ」

 

「分かった」

 

サオリが頷く

 

「ありがとう、アンラさん」

 

「ええよ。今さらやろ」

 

おっさんは踵を返し、歩き出した

 

その後ろに、アリウススクワッドの四人が続く

まだ、彼女たちが抱えている問題は何一つ終わっていない

犯した罪も、失ったものも、これから向き合わなければならない現実もある

それでも、その足取りはほんの少しだけ、先ほどよりも前を向いていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【バシリカ・聖歌隊室】

 

「ゲホッ・・・ゲホッ・・・!」

 

ミカの身体が、崩れかけた壁へと叩きつけられていた

瓦礫が散り、埃が舞い上がる

 

「っ・・・あーあ・・・もう、全身ぼろっぼろ・・・・・・」

 

痛みに顔をしかめながら、ミカはどうにか上半身を起こした

 

身体は限界に近かった

何度も撃ち続けた銃の反動

何度も避け、何度も受けた衝撃

休む間もなく戦い続けたせいで、呼吸すらまともに整わない

 

それでもミカは、崩れた天井の向こうを見上げた

そこから、朝の光が差し込んでいた

 

「でも・・・日が昇るまで、耐えきったよ・・・」

 

自分でも驚くほど、穏やかな声が出た

 

「かなり大変だったけど・・・」

 

ミカは目を細め、差し込む光を見つめる

 

夜が明けた

 

長い長い夜が、終わろうとしている

 

「きっと、アツコは助けられたよね?」

「サオリも、他のスクワッドも・・・みんな、ハッピーエンドを迎えられたかな」

 

先生が一緒にいたはずだ

 

なら、きっと大丈夫

先生なら、きっと・・・

 

『――――――ッ!!』

 

凄まじい咆哮が響き渡った

アンブロジウスの鳴き声だ

 

ミカは、ゆっくりと顔をそちらへ向けた

 

バルバラが、こちらへ近づいてきている

その後ろには、巨大なアンブロジウス

さらには、残った聖徒会のミメシスたちが、じわじわと包囲を狭めていた

 

「あはは・・・」

 

ミカは、困ったように笑った

 

「うん・・・それなら、いいや」

 

自分の身体は、もうほとんど動かない

 

ここまで戦った

アツコを助けるために

サオリたちに、未来を残すために

 

それだけは、やり遂げられたはずだ

 

なら・・・

 

「ごめんね、先生・・・」

 

ミカは、かすかに笑みを浮かべた

 

「私は、ここまでかな・・・」

 

喉の奥が、少しだけ苦しくなる

 

「先生と一緒に、帰りたかったのに・・・」

 

その瞬間だった

 

「"待って!!!!"」

 

聞き覚えのある声が、瓦礫の向こうから響いた

 

ミカが目を剥く

 

「せ、せ・・・先生!?」

 

そこには、息を切らしながら全力で駆けてくる先生の姿があった

 

「"遅くなってごめんね、ミカ"」

 

先生は、ミカのすぐそばまで駆け寄ると、彼女の姿を見て痛ましそうに眉を寄せた

 

「せ、先生・・・なんでここに・・・? ど、どうして・・・?」

 

「"言ったでしょ?"」

 

先生は、ミカに微笑みかける

 

「"私はいつもミカの味方だって"」

 

「・・・・・・!!」

 

「"ミカのピンチには、当然駆けつけるよ"」

 

その言葉に、ミカの表情が崩れかけた

 

嬉しかった

どうしようもなく、嬉しかった

 

けれど、同時に恐ろしかった

 

「そ、そんな・・・わ、私は・・・悪い子で・・・」

 

声が震える

 

「先生が救う価値のある存在じゃないのに・・・!」

 

ミカは、先生の背後を見た

 

迫り来るバルバラ

その巨体の向こうで咆哮するアンブロジウス

 

「そ、それに・・・!」

 

慌てて先生へと向き直る

 

「せ、先生一人で、あの聖徒会をどうやって相手にするの・・・?」

「あの人は簡単に倒してたけど、アレは次元が違うよ、先生・・・!」

 

自分だって、弱くはない

それでも、あれは別格だった

 

何度撃っても止まらない

何度攻撃しても立ち上がる

普通の相手と同じようには戦えない、理不尽な化け物たち

 

「わ、私も結構強いけど・・・アレは反則みたいなものだよ!?」

 

ミカの目から、涙がこぼれた

 

「先生、お願いだからやめて!」

 

彼女は、必死に訴えた

 

「私は、そんな価値のある存在じゃないよ・・・!」

「今からでも逃げて・・・!!」

 

先生は、静かにミカを見つめていた

それから、はっきりと言った

 

「"ミカは問題児だよ"」

 

「・・・・・・っ」

 

「"でもね"」

 

先生は、一歩前へ出る

 

「"問題だらけの不良生徒だとしても"」

「"危険に晒されている生徒に背を向ける先生なんて、どこにもいない!!!"」

 

ミカの瞳が、揺れた

先生は懐へ手を入れると、一枚のカードを取り出した

 

灰色のカードだった

それを掲げ、指先に力を込める

 

すると、カードの表面に少しずつ黄金色が差し始めた

 

淡い光が漏れ出し

 

やがて、その輝きは急速に強まっていった

 

先生は、迫り来るバルバラを睨みつける

 

そして

 

「"・・・私の・・・私の大切なお姫様に、何してるの!!!!"」

 

その叫びと同時に、カードが眩い光を放った

思わず目を閉じたくなるほどの輝き

 

 

その光の中から、明るい声が響く

 

「あははっ!」

「先生、やっぱり何度リトライしても、ブレずに先生なんだねー!」

 

先生の表情が凍りついた

その声を聞いた瞬間、瞳に涙が浮かぶ

 

それでも、声を振り絞った

 

「"うん・・・そうだよ・・・ごめんね。モモイ"」

 

光がゆっくりと薄れていく

 

そこに、人影が現れた

 

ミレニアムサイエンススクールの制服

けれど、それは見る影もないほどに傷んでいた

所々が焦げ、燃え落ち、布地はボロボロになっている

 

片手には煤に汚れ、元の色が分からなくなったライフル

もう片方の手には、鎖が巻きつき、赤黒い錆びがこびり付いた銛

 

そして、その頭上には――黒く変色し、欠けたヘイローが浮かんでいた

 

「なんで?」

 

モモイは、いつものような明るい口調で笑った

 

「先生が謝らなくても良いんだよ」

 

その声は明るい

まるで、いつも通りのモモイのように

けれど、その目には光がなかった

 

「"それでも・・・"」

 

先生は唇を噛んだ

 

「"アリスを救えなかったのも、モモイを止めてあげられなかったのも、私の責任だから・・・"」

 

「そっか・・・」

 

モモイは、少しだけ首を傾げた

 

「先生は変わらないね。」

 

それから、ぱっと笑顔を作る

 

「あっ!それじゃー先生!エクストラステージを楽しもうか!指揮はお願いね!」

 

「"・・・うん"」

 

先生は涙を堪えながら頷いた

 

「"指揮は任せて!モモイ!!"」

 

その返事を聞くなり、モモイは地面を蹴り

次の瞬間には、その姿が常人の目では追えないほどの速度でバルバラへと迫っていた

 

「――ッ!」

 

バルバラが反応し、拳を振り下ろそうとする

 

けれど

 

「あはは!遅い!遅いよ!!」

 

モモイは、その攻撃を紙一重で躱していた

すれ違いざまに銃口をバルバラの肩関節へと突きつけ

 

引き金を引く

 

ダダダダダダッ!!!!

 

銃声が連続し、黒い神秘を帯びた弾丸が至近距離から叩き込まれ

バルバラの動きが、一瞬だけ止まる

 

その隙を、モモイは逃さなかった

身体を捻り、回し蹴りを腹部へと叩き込む

 

「そーれっ!」

 

ドゴォッ!!

 

巨体が吹き飛び

バルバラは壁へと叩きつけられ、その向こう側に瓦礫が舞い上がる

 

「・・・・・・あれ?」

 

モモイが、自分の手を見下ろした

 

「なんか、力が湧く・・・」

 

彼女の周囲に、黒い神秘が集まり始めていた

まるで、彼女自身の力に呼応するように

あるいは、戦いそのものを喜んでいるかのように

 

「まぁいっか!」

 

モモイは、すぐに顔を上げた

 

「もっと楽しもうよ!!」

 

そのまま、聖徒会のミメシスたちの群れへと突っ込んでいくと同時に

持っている銛を投げつける

 

投げ放たれた銛が、一体のミメシスの身体を貫通し

モモイは鎖を掴み、一気に引き戻す

 

串刺しになったミメシスが引き寄せられ、その身体が盾のように掲げられ

モモイは、その向こう側からライフルを構える

 

銃口へと黒い神秘が凝縮していく

 

「――生きる苦しみ」

 

ぽつりと、呟く

 

そして引き金を引き続けた

 

ダダダダダダダダダダダッッッ!!!!!

 

黒い閃光が、銃口から連続して放たれる

一発一発の弾丸が、濃密な神秘を纏っていた

それらはミメシスの身体を貫き、後続の群れへと突き刺さっていく

 

撃ち抜かれた個体は、次々と黒い煙へ変わっていく

 

モモイは銃撃を止めない

残弾が尽きるまで、ひたすらに弾丸をばら撒き続ける

 

やがて、最後の銃声が鳴り響いた

 

煙が舞い散り、崩れた瓦礫が床に転がる

そこにはもう、聖徒会のミメシスは一体も残っていなかった

 

「"モモイ!上に飛んで!"」

 

先生の声が響く

モモイは即座に反応した

 

「はーいっ!」

 

大きく跳躍する

 

その直後

 

彼女が立っていた場所へ、アンブロジウスの青黒い神秘の閃光が突き刺さった

轟音と共に、床が砕け散る

 

モモイは空中で身体を捻り、落下の勢いを利用して銛を構えた

 

「うん・・・この感覚、久しぶりだなぁ・・・」

 

口元に、楽しげな笑みが浮かぶ

 

銛へと黒い神秘が集まっていく

 

「せーのっ!」

 

振り下ろされた銛が、アンブロジウスの頭部を貫き

そのまま巨体を地面へと縫い付ける

 

アンブロジウスが咆哮を上げようとする

けれど、その前にモモイは銛から手を離し、ライフルを構えていた

 

「はい、追加ー!」

 

銃声が連続する

黒い神秘の閃光が、アンブロジウスの胸部へと何度も叩き込まれた

 

一発、二発、三発

 

容赦のない追撃がアンブロジウスを襲う

やがて、アンブロジウスの巨体から力が抜けていく

 

その輪郭が崩れ、青黒い光が消え失せ

そして、巨大な身体は黒い煙へと変わっていった

 

残る敵は、ただ一体

 

モモイが最初に蹴り飛ばした、バルバラだけだった

 

壁の残骸から、バルバラがゆっくりと立ち上がる

 

その巨体を見据えて、モモイはライフルを片手で構えた

 

「・・・・・・」

 

わずかに照準を動かす

その目から、最後まで光が消えたままだった

 

「ドットを打つように緻密に・・・」

 

静かな呟き

 

そして、一瞬

 

銃口が火を噴いた

 

放たれた弾丸は、わずか五発

そのすべてが、正確に標的を捉えていた

 

頭部に二発、胸部に三発

 

黒い神秘を纏った弾丸が、バルバラの身体を貫通する

巨体がぐらりと揺れ、次の瞬間バルバラもまた、黒い煙へと崩れ去った

 

「・・・・・・なんてね」

 

モモイは銃口を下げ、少しだけ苦笑する

 

「やっぱり、ミドリみたいにはいかないなぁ・・・」

 

それから、くるりと振り返った

 

先生が、こちらを見ていた

モモイは、いつもの調子で先生へと歩み寄る

 

「ねぇ、先生」

 

「"・・・うん?"」

 

「ミドリは元気?」

 

先生は、静かに頷いた

 

「"うん、元気だよ。"」

 

そして、一人ずつ名前を挙げていく

 

「アリスも、ミドリも、ユズも。皆、元気。」

 

「・・・・・・そっか」

 

その瞬間だった

 

モモイの表情から、明るい笑顔が消えた

代わりに浮かんだのは、今にも泣き出しそうな顔だった

 

「そっか。良かった・・・」

 

声が震える

 

「先生・・・ごめんね」

 

モモイは俯いた

 

「私・・・ダメだって分かってた・・・けど、止まれなかった・・・」

 

その肩が、小さく揺れ始める

 

「"・・・・・・っ"」

 

先生は、何も言わずに歩み寄った

 

そして、モモイを強く抱きしめる

 

「"ごめん。ごめんね、モモイ。"」

 

その言葉を聞いた瞬間

 

モモイは、堰を切ったように泣き出した

 

「うっ・・・うぅ・・・っ、先生・・・っ」

 

何度も嗚咽を漏らしながら、先生の服を握りしめる

いつものように、明るく笑うこともできない

冗談を言って、誤魔化すこともできない

 

ただ、泣き続けた

先生も、彼女を抱きしめたまま、何度も謝り続けた

やがて、モモイの身体が少しずつ透け始め

先生の腕の中から、輪郭が薄れていく

 

「・・・・・・あ」

 

モモイは、それに気づいて顔を上げた

 

自分の手が、透けている

 

指先から、少しずつ消えていく

 

「先生・・・」

 

「"モモイ・・・!"」

 

先生が、彼女を抱きしめる腕に力を込めた

 

離したくなかった

 

今度こそ、救いたかった

 

けれど、腕の中の少女が消えていくのを止めることはできなかった

モモイは泣きながら、それでも笑おうとした

 

「あはは・・・ねぇ、先生」

 

「"・・・・・・うん"」

 

「この世界のアリスとミドリをお願い。」

 

先生は、何度も頷いた

 

「"うん・・・うん・・・絶対守ってみせる!!"」

 

「・・・・・・」

 

モモイは、安心したように目を細めた

 

「あはは・・・うん、先生なら安――」

 

最後まで言い切ることはできなかった

 

モモイの身体が、光の粒子となって消えていく

 

指先が、腕が、肩が

 

そして、最後にはその笑顔までもが先生の腕の中から、完全に失われた

 

「・・・・・・」

 

何も残らなかった

先ほどまで確かにそこにいたはずの少女は、もういない

 

先生は、その場に一人、立ち尽くし

 

静寂が降りる

 

遠くから聞こえる戦闘の音さえ、今だけはひどく遠く感じられた

 

やがて

 

「"・・・・・・っ"」

 

小さな、嗚咽が漏れた

 

先生は俯き、目元を押さえ

涙が頬を伝い、床へと落ちていく

 

ほんの少しの間だけ

そこには、先生の涙する音だけが響いていた

 

そして先生は、ゆっくりと涙を拭い

 

顔を上げる

 

瞳はまだ赤い

 

けれど、その奥に宿る光には、強い覚悟があった

救えなかった生徒がいた

今も、失ったものは戻ってこない

 

それでも、今、目の前にいる生徒は

 

「"・・・・・・"」

 

先生は、振り返った

壁際に座り込んだまま、呆然とこちらを見つめる少女

 

「"ミカ"」

 

先生は、柔らかく微笑んだ

 

「"終わったよ"」

 

「せ、先生・・・」

 

ミカは、何が起きたのか分からない様子で先生を見つめていた

 

「あの・・・さっきの子・・・」

 

先生の顔に、一瞬だけ寂しげな表情が浮かぶ

 

「"・・・私の・・・昔、救えなかった生徒だよ"」

 

「・・・・・・」

 

ミカは、それ以上何も聞かなかった

先生がどんな思いで、今の言葉を口にしたのか

その表情を見れば、聞かずとも分かる気がしたから

 

けれど、先生はやがていつものような明るい調子を取り戻し

 

「"さ!そろそろトリニティの皆が、アリウスに突入してくる頃だよ!"」

 

「え?」

 

ミカが目を白黒させる

 

「え、え?トリニティが・・・?」

「え・・・?なんで?」

 

「"それは、ミカが自分の目で確かめてほしいかな!"」

 

そう言って、先生はミカへと手を差し伸べ

ミカはしばらくその手を見つめていた

 

それから、おずおずと自分の手を伸ばし

先生の手が、しっかりと握り返してくれた

 

「・・・・・・」

 

引き起こされ、ミカはゆっくりと立ち上がる

 

身体の痛みは消えていない

傷だらけの身体は重く、足元も覚束なかった

 

それでも、隣には先生がいた

 

二人は並んで、部屋の外へと歩き出した

 

 

 

 

 

外へ出た瞬間、銃声と爆発音が一斉に耳へ飛び込んできた

 

崩落した建物

 

瓦礫の散乱する石畳

 

そこかしこで、正義実現委員会と救護騎士団の生徒たちが、聖徒会のミメシスを迎え撃っている

 

「・・・・・・え?」

 

ミカは、思わず足を止めた

 

「せ、正義実現委員・・・?」

「ど、どうしてここに・・・?」

 

銃撃の合間を縫うように、一つの影が駆け抜けていく

その先では、二丁の散弾銃を構えた少女が、目の前の壁ごとミメシスを吹き飛ばしていた

 

壁が砕ける

 

瓦礫が舞う

 

彼女はそれを気にする様子もなく、最短距離を突っ切っていく

 

「けきあああああああああああっーーーー!!」

 

ショットガンの轟音と共にミメシスの身体が煙へ変わる

 

さらに次の壁へ

 

そして、また壁をぶち抜く

 

「"・・・・・・ツルギ"」

 

先生は、頭痛でも覚えたかのように額へ手を当てた

 

「あ、あはは・・・」

 

ミカは、乾いた笑いを漏らす

 

「うん・・・元気そうだね・・・?」

 

いや、元気すぎる

どう考えても、元気すぎる

 

「・・・先生」

 

「"うん?"」

 

「ツルギちゃん、建物の壁を全部壊すつもりじゃないよね・・・?」

 

「"・・・・・・"」

 

先生は、遠くでまた一つ壁が砕け散る音を聞きながら、そっと目を逸らした

 

そこへ

 

「――あっ!」

 

こちらに気づいた生徒が、駆け寄ってきた

 

「せ、先生!」

 

少し緊張した様子で、けれど嬉しそうに頭を下げる

 

「あ、ああ・・・こんにちはっす、先生。」

「正義実現委員のイチカっす」

 

「"こんにちは、イチカ"」

 

先生が笑顔で返す

イチカはほっとしたように頬を緩めた

 

「この前、美食研究会を逮捕した時に、一応お会いしたことがあるんすけど・・・」

「もしかしたら、覚えてないかもしれないっすね・・・」

 

「"ううん、覚えているよ"」

 

先生は、優しく微笑んだ

 

「"会えてとても嬉しいよ、イチカ"」

 

「えへへ・・・」

 

イチカは照れくさそうに笑った

 

「先生と挨拶できて嬉しいっす」

 

それから、仕事を思い出したように無線機を取り出す。

 

「ハスミ先輩、先生とミカ様を確保したっす」

 

すぐに返答があった

 

『それでは、早急に安全地帯へ退却してください。』

『先生を、カタコンベの確保されたルートへご案内します!』

 

「はいはーい」

 

イチカは無線機をしまい、二人へ向き直る

 

「さぁ、行きましょう!」

 

そして、ミカへと笑いかけた

 

「皆さんを待っている人がいるっすよ」

 

「・・・・・・?」

 

ミカは首を傾げ

先生は答えず、ただ微笑んでいた

イチカの案内に従い、二人は安全地帯へと向かう

 

正義実現委員会が拠点として制圧している、崩落した聖堂の跡地

その一角に足を踏み入れたミカは、目を丸くした

 

そこには

 

こんな戦場の真っただ中だというのに、ティーテーブルと椅子まで持ち込まれた一角があった

 

そのテーブルの上には、ケーキと紅茶

 

そして、そこに座っているのは・・・

 

「先生・・・!!」

 

ナギサだった

 

彼女は先生とミカの姿を見つけた途端、すぐさま立ち上がり

 

「ミカさん・・・!!ご無事でしたか!」

 

「な、ナギちゃん・・・?」

 

ミカは呆然としたまま、目の前の光景を見つめた

 

「え・・・?どうして・・・ここに・・・?」

 

ナギサは、少しだけ表情を和らげた

 

「ここが、アリウス修復作戦の指揮本部です」

 

「し、指揮本部・・・?」

 

ミカはますます混乱した

 

「ど、どうやってここに来たの・・・?」

 

その時だった

 

「私が教えたのだよ」

 

聞き覚えのある声が響いた

 

先生とミカは、同時にそちらを向いた

 

「"セイア!"」

 

「セイアちゃん!?」

 

けれど、次に二人が目にした光景は、予想していたものとはあまりにも違っていた

 

そこにいたセイアの頬には、青あざができていた

 

瞼も腫れ、口元には切れた傷から血が滲んでいる

 

「"・・・・・・え?"」

 

先生が固まった

 

ミカもまた、呆然とセイアを見つめていた

 

「セ、セイアちゃん・・・?大丈夫?その怪我・・・」

 

「ええ、そのボケナスフォックスの怪我は自業自得なので、気にしないでください。」

 

ナギサが、実に冷静な声で言った

 

「ははは・・・・・・」

 

セイアは、力なく笑った

 

その笑顔は、どう見ても痛みを堪えている人間のものだった

先生は、セイアの顔を見つめてから、静かに口を開いた

 

「"・・・抜け出せたんだね、セイア"」

 

「ああ」

 

セイアは頷く

 

「白昼夢から抜け出すのに、ちょっとした取引をしたがね」

 

「"取引・・・?"」

 

「詳しい話は後にしよう。」

「起きてすぐにナギサとシスターフッド、それから正義実現委員会を呼びつけてね。」

「なんとか、ここまで駆けつけたというわけさ」

 

「"そうだったんだ・・・"」

 

先生は頷きかけて、もう一度セイアの顔を見た

 

「"・・・その怪我。もしかして、ナギサに話したの・・・?"」

 

「・・・・・・ああ」

 

セイアが、そっと視線を逸らした

 

「ナギサにミカの話や先生の話、それからアリウスのことを語る時に、一緒に話したさ」

 

「"・・・・・・"」

 

「その後、ベッドの上で馬乗りになられて、顔を何発も殴られたよ・・・」

 

「"・・・・・・えぇ"」

 

先生の口から、思わず声が漏れた

 

「騒ぎを聞きつけたミネの救護(シールドバッシュ)がなければ、もう一回白昼夢に旅立っていたね・・・」

 

「当然でしょう」

 

ナギサが紅茶のカップを置く

その音は、やけに静かな戦場に響いた

 

「まったく・・・!」

 

ナギサはセイアを睨みつけた

 

「どれだけの事をしたのか、分かっているのですか・・・!」

 

「・・・・・・」

 

セイアは何も言い返さなかった

やがて、セイアはミカの方へと向き直る

 

「ミカ」

 

「・・・・・・」

 

ミカは、何も言わずにセイアを見つめた

セイアは、その視線を正面から受け止める

 

「ナギサは、君を救うためなら、自分の全ての権力を手放しても構わないとまで告げたよ」

 

「・・・っ」

 

「そして、周囲を総動員させた。」

「もちろん、サクラコに、ミネ、そしてハスミも快諾してくれた。」

「皆が、君を救うためにここへ来たんだ」

 

ミカは、ゆっくりとナギサへ顔を向けた

 

ナギサは、何も言わなかった

 

ただ、いつものように背筋を伸ばし、ミカを見つめていた

 

「・・・・・・みんな」

 

ミカの瞳に、涙が浮かぶ

セイアは、胸を張って言った

 

「私達も、先生の力を借り続けていてはならない」

 

その声には、いつものような自信があった

 

「彼女の人の道先に光を灯せてこそ、理想的な関係足り得るからね」

 

そして、柔らかく微笑む

 

「だから・・・君を救うために、皆来たよ」

 

「・・・・・・セイアちゃん」

 

ミカは、しばらくセイアを見つめていた

やがて、眉を寄せる

 

「相変わらず、何言ってるのか分かんないよ」

 

「・・・・・・」

 

「本当に偉そうだし、心底ムカつく」

 

セイアの表情が、わずかに強張った

けれど、ミカはすぐに、満面の笑みを浮かべた

 

「何度も・・・懲らしめたいと思ってた」

 

一瞬、言葉が途切れる

 

「・・・それでも、大好き。セイアちゃん!!!」

 

「・・・・・・っ」

 

セイアは言葉を失った

苦虫を噛み潰したような顔

良心の呵責に、心の内側から悲鳴を上げているような顔

 

けれど、ミカはそんなセイアの様子には気づかず、今度はナギサの方を向いた

 

「ナギちゃんは、ヒステリーが酷すぎ!」

 

「なっ・・・!?」

 

「っていうか、こんな所まで紅茶を手放せないのは、ちょっとどうかと思うよ?」

「カフェイン中毒?それとも強迫症?」

 

「ミ、ミカさん・・・!?」

 

ナギサの眉間に皺が寄る

 

けれど、ミカはにこにこと笑っていた

 

「・・・でも、そんなナギちゃんが大好き!!!」

 

「・・・・・・」

 

ナギサは口を開きかけ、そして閉じ

困ったように笑う

 

その表情を見たミカは、セイアとナギサを交互に見つめた

 

大好きな二人

ずっと一緒にいたかった二人

傷つけてしまった二人

 

もう二度と、以前のようには戻れないのだと思っていた

 

それなのに

 

「うん・・・」

 

ミカは、笑い

目尻から、涙が一筋流れ落ちる

 

「二人とも・・・大好きだよ」

 

涙が、次々と頬を伝っていく

 

「二人とも、ありがとう・・・」

 

声が震えた

 

「そして、ごめんね・・・」

 

言葉にした途端、堪えていたものが崩れた

ミカは顔をくしゃくしゃにしながら、泣き声を漏らした

 

「ごめんね・・・っ、私・・・ひどいこと、いっぱい・・・っ」

 

「ミカさん・・・」

 

ナギサが、そっと声をかける

 

セイアは、しばらく黙っていた

そして、やがて静かに口を開いた

 

「・・・いや。むしろ、謝るのは私の方だよ」

 

ミカが顔を上げる

セイアは、まっすぐに彼女を見つめていた

 

「・・・すまなかった、ミカ」

 

それは、軽々しく言える言葉ではなかった

 

「詳細はここでは話せないが・・・改めて、席を設けたい」

 

セイアは、わずかに頭を下げた

 

「その時、私の話を聞いてくれないだろうか?」

 

ミカは、涙を拭いながらセイアを見つめた

しばらく考えるように黙り込んでから、小さく頷く

 

「・・・うん。わかった」

 

「ありがとう、ミカ」

 

セイアは、ようやく息を吐いた

その隣では、ナギサが相変わらずセイアを滅茶苦茶に睨みつけている

 

「"・・・・・・"」

 

先生は二人の様子を見ながら、そっと口を開いた

 

「"・・・その話し合い、私もいた方がいいかな?"」

 

「むっ・・・」

 

セイアは一瞬だけ言葉に詰まった

 

「その・・・・・・いや。私が一人でやるべきことだからね」

 

「"そっか"」

 

先生は無理に踏み込もうとはしなかった

 

ただ、優しく笑う

 

「"うん。頑張ってね、セイア"」

 

「・・・・・・」

 

「"きっとミカも分かってくれると思うから。"」

「"セイアが何を思って、何をしたのか・・・ちゃんと全部話してあげて"」

 

セイアは、まっすぐに頷いた

 

「ああ、もちろんだよ」

 

そんな会話が一段落したところで

 

コツ、コツ

 

石畳を踏む足音が近づいてきた

 

「あ、ええっと・・・良い雰囲気の中、申し訳ないっすけど・・・」

 

イチカが、少しばかり申し訳なさそうに声をかけた

 

「ミカさんに、渡したいものがあるっす」

 

ミカが顔を向ける

 

「私に・・・?」

 

「はい。これを・・・」

 

イチカが差し出したのは、少し焦げた箱だった

 

ミカは不思議そうに箱を受け取る

 

それから、ゆっくりと蓋を開けた

 

「・・・・・・え?」

 

中に入っていたものを見て、ミカの目が大きく見開かれる

 

「ナギちゃんと一緒に選んだ私の・・・アクセサリー・・・?」

 

そこには、確かに見覚えのある品々が収められていた

 

「え、どうして・・・? 全部、燃えちゃったはずなのに・・・!」

 

「ええっと・・・押収品の管理室担当員が・・・」

 

イチカは、説明に困ったように頭を掻いた

 

「んー・・・ちょっと説明しにくいんすけど・・・」

 

「その子が、ミカさんのアクセサリーで燃えずに残ってたものを、保管してたみたいで」

 

ミカは、箱の中から顔を上げた

 

「・・・・・・コハルちゃんが?」

 

「はい、コハルが・・・って」

 

イチカが、ぱちぱちと瞬きをする

 

「ええっ!?コハルのこと、ご存じだったんすか?」

 

「・・・・・・うん」

 

ミカは、困ったように笑った

 

「知ってる」

 

箱の中のアクセサリーを、そっと指先で撫でる

そこに残っていたのは、ただの装飾品ではなかった

 

自分が失ったと思っていたもの

もう戻ってこないと思っていたもの

 

そして、あの時の自分を知っているコハルが、それでも残しておいてくれたもの

 

「ありがとう、コハルちゃん・・・」

 

ミカの声が、かすかに震えた

 

「私、あなたに酷いことしたのに・・・」

 

ナギサも、セイアも、先生も

誰も何も言わず、ただ優しい目でミカを見つめていた

 

ミカは箱を胸元へと抱き寄せる

その手には、もう力が入りすぎてはいなかった

大切に、壊さないように

今度こそ失くさないように

 

「・・・・・・」

 

ナギサは、そっと息を吐いた

そして、場の空気を切り替えるように口を開く

 

「では、そろそろ参りましょうか」

 

三人が顔を向ける

 

「ミカさんの聴聞会まで、もう時間がありませんから」

 

「・・・ああ」

 

セイアが頷く

すると、ミカは自分の格好を見下ろした

 

血まみれで、所々が破れた制服

傷のせいで、布地には血が滲んでいる

髪もすっかり乱れてしまっていた

 

「えー・・・」

 

ミカは心底困ったような顔をした

 

「私、この格好で行かなきゃダメ・・・?」

 

「・・・・・・」

 

「ちょっと着替えたいんだけど・・・」

「傷の治療もしたいし、人前に立つんだから、髪もセットし直さなきゃいけないし・・・」

 

「・・・・・・はは」

 

セイアが、思わず苦笑した

 

「ああ、好きにするといいよ」

 

「やったぁ・・・!」

 

ミカの顔が、少しだけ明るくなる

ナギサも頷いた

 

「ええ。それに私達三人とも徹夜してしまっていますし・・・」

「こんな格好では、聴聞会に出るのも気が引けますから」

 

先生が微笑んだ

 

「"私も一緒に行くよ"」

 

ナギサは、当然だと言わんばかりに頷いた

 

「もちろんです、先生」

 

それから、三人を見回す

 

「全員で聴聞会に出席するのが、私達の約束ですからね」

 

「・・・・・・うん」

 

ミカが頷き

 

セイアも、静かに笑った

先生は、そんな二人を見て、柔らかく目を細めた

 

まだ、すべてが元通りになったわけではない

失われたものが戻ったわけでもない

これから向き合わなければならないことも

謝らなければならない相手も、きっと数え切れないほどある

 

それでも

 

今は、三人が同じ場所にいる

同じ道を歩き出そうとしている

そのことが、何よりも嬉しかった

 

「じゃあ、行こうか」

 

先生が声をかける

 

「ええ」

 

ナギサが微笑み、セイアも頷いた

ミカは、箱を大切そうに抱え直してから、三人の隣へと並ぶ

そして、四人はゆっくりと歩き出した

 

向かう先は、トリニティ

 

その先には、聴聞会が待っている

罪を問われる者がいる

向き合うべき過去がある

それでも、彼女たちはもう一人ではなかった

朝日が差し込む崩落した聖堂跡地を抜け、四人はトリニティへと帰っていく

 

長い夜が、ようやく明けた

 

 





~今日の姫ちゃん~

アリウス自治区を抜けた先
木々が生い茂る森の中を、おっさんを先頭に四人の少女が歩いていた

舗装された道はなく
枝葉の隙間から差し込む光を頼りに
草木をかき分けながら進んでいく

そんな道中、後ろを歩いていたヒヨリがおずおずと口を開いた

「こ、こっちの道は初めてです・・・」
「何処に繋がっているんでしょうか・・・」

「とりあえず進んでみよう」

アツコは周囲の木々を見回しながら、いつも通りの柔らかな声で答えた

「どこだって、これから私達が初めて歩く道だから」

「おう、ええ話風に言うてんちゃうぞ」

「・・・?」

「とりあえず進んでみよう、ちゃうねん。」
「おっさんの後ろについてこいって言うとるやろ」
「道案内しとる本人が目の前におるんやから、行き先くらい聞いたらどうやねん」

「そ、そうでした・・・」

ヒヨリが申し訳なさそうに縮こまる

「いや、ヒヨリはええねん。問題はアツコ、お前や」

「私?」

「せや。これ、既に六回目やぞ」

「そうだったかな?」

「そうやっちゅうねん!」

まったく、この姫様は・・・

いや、分かるで?

今まで居た世界から飛び出して、新しい場所へ向かう
これからどんな未来が待っているのかも分からへん
そういう時に、ちょっと格好ええことを言いたくなる気持ちも分からんでもない

せやけどな

今のお前さん、毎回同じこと言うとるだけやからな
もうちょっとこう、変化をつけるとか・・・

そんなことを考えながら歩いていると、背後からヒヨリの声が聞こえてきた

「・・・あれ?」

足音が止まる

「り、リーダーは!?」

「・・・ん?」

おっさんも足を止めて振り返った

そこにいたのは、アツコとミサキ、そしてヒヨリ
本来なら、その後ろにいるはずの少女の姿がない

「・・・あれ?」

アツコも不思議そうに首を傾げた

「サオリ?」

ヒヨリが慌てて、今まで歩いてきた道を振り返る

「た、たしかリーダー、後ろにいたはずなんですが・・・」
「い、いなくなりました!?」

「・・・・・・チッ」

小さな舌打ちが聞こえた

ミサキだった

「ミサキ・・・?」

アツコが声をかける
ミサキは顔を伏せたまま、ぽつりと呟いた

「リーダーは、どっか行ったよ・・・」

「ど、どっか行ったって・・・なんでなんですか!?」

「私に、皆を頼むって言い残して・・・」

ミサキが唇を噛む

「勝手だよね」

その声音には、怒りよりも、寂しさが滲んでいた

「リーダー・・・ど、どうして・・・」

ヒヨリが俯いた
アツコも、何も言わなかった

ただ静かに、サオリが消えた道を見つめていた

「ずるいよ、サオリ」

やがて、ミサキが口を開く

「こんな風に足枷を残すなんて・・・私には、重すぎる・・・・・・」

誰よりも頼りにしていた
誰よりも背中を追いかけてきた
どんな状況でも、サオリが先頭に立ってくれると信じていた

そのサオリが、何も言わずにいなくなった
残されたのは、託された言葉と、自分たちで進まなければならない道だけ

そら、重いわな
今まで四人で生きてきたんや
その中心におった人間が急にいなくなれば、何をどうすればええのか分からんようにもなる

「・・・大丈夫、ミサキ」

アツコが、そっと声をかけた

「姫・・・・・・」

「サオリには、もう少しだけ時間が必要なんだよ」

アツコは、森の向こうへと目を向けた

「己を振り返り、自分自身を知る時間が。」
「自分の命題に応えるための時間が・・・」

「・・・・・・」

「サオリは、ずっと私達のために頑張ってくれていたから」

それは、きっと本当なのだろう
サオリは仲間を守るために戦ってきた
自分が傷つくことも、自分の未来を犠牲にすることも、きっと当たり前だと思っていた
だからこそ、今になってようやく立ち止まれたのかもしれん
自分の人生を、自分のために使うために

「せやな」

おっさんは、静かに頷いた

「それに、サオリが初めて言うたわがままや」

三人が、こちらを向く

「おっさんの方でも手伝ったるさかい、聞いてやってくれ」

「・・・・・・」

ミサキは、何も言わなかった
けれど、先ほどまでとは違い
その目からは少しだけ険が取れていた

「リーダーは・・・」

今度は、ヒヨリが不安そうに尋ねてきた

「サオリ姉さんは、帰ってくるんでしょうか・・・?」

「うん・・・」

アツコが、迷いなく頷いた

「サっちゃんは帰ってくるよ」

「・・・・・・」

「今度はきっと、自分の足で帰ってきてくれると思う」

アツコは、そう信じているようだった

「今後、私達だけで・・・生きていかないといけないんですか?」

ヒヨリが、さらに小さな声で尋ねる

「うん・・・」

アツコは、ゆっくりと頷いた

「いつまでもサっちゃん頼りじゃいけないからね」

「そんな・・・」

ミサキが顔を上げる

「私達は、これからどうすればいいの・・・?」

声には、隠しきれない不安があった

「アリウス自治区にも、トリニティにも、ゲヘナにも・・・私達の居場所はない」

今まで自分たちがいた場所には、簡単には戻れへんやろうな
犯した罪は消えず、周囲から向けられる目もすぐには変わらんやろう

それでも・・・

「まぁ、その三つには今はないかもな」

おっさんは、なるべく軽い調子で言った

「せやけど、おっさんはアビドスの管理側の人間やで?」

三人の視線が集まる

「喜んでアビドスに案内したるわ」

「・・・・・・!」

ヒヨリが、目を丸くした
ミサキも、驚いたようにこちらを見ている
アツコだけは、少し考えるように首を傾げた

「・・・アビドスの生徒会に許可は取っているの?」

「・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・おじさん?」

「・・・・・・・・・・・・」

いや、うん
そら、そうなるわな

祈願屋の社長であるおっさんが、アビドスの土地を管理しとるのは事実や
せやけど、アビドスの生徒会に何の相談もせず
いきなり生徒を四人も連れて帰ってええのかと言われたら・・・

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・おじさん?」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

・・・あかん
この姫様、妙なところで鋭いわ

「さて!」

おっさんは、わざとらしく手を叩いた

「ちゃっちゃと移動始めんと、夜の砂漠横断することになるさかいな!ぱっぱといこかー!」

「えっ、ちょ、ちょっと待ってください!」

ヒヨリが慌てて声を上げる。

「い、今の間は何だったんですか!?」

「気のせいや」

「絶対、気のせいじゃないですぅ・・・!」

「ほら、行くでー」

おっさんは、三人の返事を待たずに歩き始めた

「おじさん・・・・・・」

アツコが、何か言いたげな声を出す

「アビドスの生徒会への話は――」

「道中で考えるわ!」

「やっぱり許可は取っていないんですね・・・!?」

ヒヨリの悲鳴が、森の中に響いた

「・・・・・・ふふっ」

その声に、ミサキが小さく笑う

本当に、少しだけ
それでも、確かに笑った
アツコもまた、そんなミサキを見て微笑んだ

おっさんは三人を連れ、森の奥へと進んでいく
木々の向こうには、まだ見たことのない景色が広がっている

これから先、何が待っているのか
どんな問題が起きるのか

そもそも、アビドスの生徒会にどう説明すればええのか
考えなあかんことは山ほどある

・・・最後の問題については、まあ、あとで何とかしよう

少なくとも、今までとは違う
誰かの命令に従うためだけに歩く道ではない
誰かを守るためだけに、自分を犠牲にする道でもない
何も分からへんままでも、少しずつ自分たちの未来を探していく

そんな道や

「・・・・・・」

おっさんは、ふと後ろを振り返った

ミサキは、まだ時折寂しそうな顔をしている
ヒヨリは、慣れない道に不安を抱えながらも、一生懸命ついてきている
アツコは、相変わらずのんびりした様子で、周囲の景色を眺めていた

そして、ここにはいないサオリもまた
どこかで、自分の道を探し始めたのだろう

今は、それでええ
無理に答えを出す必要なんてない

自分が何者なのか

何をしたいのか

どこへ向かって生きていきたいのか
それを見つけるための時間くらい、あったってええやろ
おっさんにできるのは、せいぜい、その時間を守ってやることくらいや

「・・・ま、悪くないか」

誰にも聞こえないよう、小さく呟いた
森の向こうには、まだ知らない世界が広がっている
そこが本当に彼女たちの居場所になるのかは、まだ分からない

ホシノにしばき回される可能性も、まあ、十分・・・いやかなりある

せやけど・・・

思ったよりも、こいつ等にとって悪くない未来があるかもしれない
そんな小さな希望を、胸の奥にそっと秘めながら
おっさんは、三人を連れて森の中を歩き続けた













エデン条約4章!!!完!!!!!!

終わってしまった・・・!!

そして、今回・・・この作品で初めて先生が大人のカードを使いました。
先生の大人のカードの効果は、自分の生徒、特に縁が強い生徒を呼び出すという物。
なので、一発目に来たのはモモイでした。
なんせ、先生はモモイのあの銛で突き刺され死んだことがあるので、その縁もそりゃ深いです。

そして、
モモイ・・・

あれが、モモイ*テラー
先生の周回で、アリス暴走し、アリスを討伐し、
そしてキヴォトス全土からミレニアムが攻撃され、
その戦火でミドリが死んだ。
その結果、反転したモモイです。

以前話していた、あのモモイです。

いざ、その戦闘方法を書いて表すと、
今のモモイよりも更に苛烈かつ容赦がありません。
攻撃一つ一つを命を消す為の最善手として打ってきます。

そういえば、
モモイのEXスキルは「生みの苦しみ」という物ですが、
テラー化した事でコレが変わっており「生きる苦しみ」になっています。

そして、疑似的に、ミドリのEXスキルの「ドローイングアート」を
再現しようとしていましたが・・・
本人からすると、全然まだまだ・・・という感じらしいです。
全然まだまだな攻撃でバルバラは瞬殺されてましたが。

まぁ、強いですよね。
そりゃ、たった二人の戦いでキヴォトス全土が焼け野原になり、
全員が死に絶える戦闘を繰り広げていたんだから、弱いはずが無いんですよね。

ちなみにモモイの服の燃えた跡は、モモイと戦ったもう一人の攻撃によるものです。


次の説明行きましょうか・・・
次はー・・・
セイアですね!

ちなみにセイアがどんな顔面になってるかと言うと、
グラップラー刃牙の「ガッ・・・・・・ガイアッッッ」って
検索したら出て来る顔面くらいにボコられてます。

セイアが病室のベッドで白昼夢から覚め、
即座にナギサ達を呼んで、
ナギサに詳細を伝える時に、自身が未来を操作していた事、全ての事件が起こったのは、
自分が操作した結果によるもの。と言う事を告白した段階で
聞いていたナギサがプッツンして馬乗りになって顔面殴り続けるという事が起こりました、
外に控えていたミネ団長がKYU☆GO(扉を破砕しながら)してきたおかげで、
セイアが三途の川を渡らなくて済みました。

その後、ナギサに、ナギサとミカがこの未来以外では死んでいた事を伝え、
その為にセイアがこの未来になる様に調整した事を伝えた事で、
一旦ナギサの溜飲が落ちた感じです。

ちなみに、これを表ざたにすると、
ただでさえ現時点で落ちているティーパーティーの権威が、
地に落ちるどころか、無くなる可能性があるので、
今回のセイアの未来操作の件は極秘事項となりました。

後日、セイアがミカに同じ事を伝えるのですが・・・
その時どうなるかは、お楽しみと言う事で・・・

ちなみに、この後の流れは、原作と同じで、
それぞれの組織にナギサとセイアが頼み込んで、
それぞれが快諾しアリウスにカチコミかけた感じです。

あと、ミネ団長は、調印式の時に保護したアリウス生の面倒も見ていたので、
アリウスが現状どうなっているかも聞いているので、
かなり高強度の救護(物理)体制になっています


そして、アリウススクワッド・・・

この子達は・・・

この後、アビドスに匿われます。
現在のアビドスは間諜の類を元々アンラが全滅させているので、
外からの目も耳もシャットアウトされている。
ほかの自治区からしたら情報の空白地帯のような物になっています。
なので、スクワッドを匿うのには最適なんですよね。
それに、変装のプロフェッショナルのユメちゃんもいるので、
全員に変装の仕方を叩き込んで、外を出歩いていても大丈夫くらいには仕上げてくれるでしょう
もちろん、元々祈願屋は、救われない生徒を外道に落ちようとも救う為にアロナが設立した、
特務機関なんで、アリウスの子達を匿うのもその仕事の範疇に入ってますしね。

ホシノは・・・・・・

ユメちゃんがきっと頼み込めば、渋い顔しながらもOKだします。

アンラが頼んだら?

アビドス砂漠に沈されます。



あ、そう言えば、
作者の気分が乗れば
今日の姫ちゃんはシリーズ化するかもしれないです。
するともしないとも言えないです・・・
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

銃弾が飛び交う学園都市?!んでもって銃の耐性なし?!・・・やってやろうじゃねえかこの野郎!!(作者:オーバジン)(原作:ブルーアーカイブ)

突如としてキヴォトスに来てしまった何も知らない無知無知な男子高校生!ブルーアーカイブをやったことない?!噓だろ!マジかよ!▼何とかお情け程度であった特殊能力を活かして生き残れ!銃弾一発が致命傷だゾ!▼そんな男子高校生が歩むキヴォトスでの笑いあり、涙あり、曇らせあり、恋愛あり、シリアスありの、青春物語です。良ければどうぞ見ていってください。


総合評価:1630/評価:6.55/連載:107話/更新日時:2026年10月11日(日) 18:18 小説情報

百鬼夜行の鬼(作者:龍玉)(原作:ブルーアーカイブ)

七稜アヤメが元ゲマトリアの鬼いさん(?)と出会う話。▼対策委員会編 第一章、第二章通過済み。▼エデン条約編 全章通過済み。▼パヴァーヌ編 進行中……


総合評価:1622/評価:8.64/連載:54話/更新日時:2026年09月06日(日) 09:00 小説情報

Blue Legend〜一般男子の物語〜(作者:宗也)(原作:ブルーアーカイブ)

簡単なあらすじ▼これは何故か中途半端な特典を持ってブルーアーカイブの世界であるキヴォトスに来てしまった一般男子の青春の物語である。▼なお、一部生徒は結託して一般男子を囲い込もうとしている模様。▼詳細なあらすじ▼目が覚めると何故かブルーアーカイブの世界にやって来ていた一般男子高校生。特典みたいな物はあるが、何故か中途半端。しかも原作の9ヶ月前の世界だった。▼原…


総合評価:1417/評価:6.57/連載:98話/更新日時:2026年10月10日(土) 22:40 小説情報

楽しい銃社会の生き抜き方(作者:WEVE)(原作:ブルーアーカイブ)

ミレニアムサイエンススクールに所属するキヴォトス唯一の男子生徒『居待(イマチ) ウツキ』がなんやかんやありながら学園生活を満喫(?)する話▼今後必須以外タグ追加の可能性があるので苦手な方はブラウザバックを推奨してます▼大体許せるよって方は是非読んでいってください!▼現在の進捗▼アビドス編1,2章 完結▼ミレニアム編1章 完結▼エデン条約編1,2章 更新中


総合評価:586/評価:6.89/連載:52話/更新日時:2026年09月25日(金) 15:30 小説情報

銃社会を、吸血鬼は生きる(作者:MIKAZUKIN2525)(原作:ブルーアーカイブ)

体は子供。記憶はなし。そんな状態でキヴォトスに転生してしまった主人公。▼つらくても、苦しくても、めげずに生き抜いてやる。▼本編は0章からになります。


総合評価:256/評価:5.14/連載:106話/更新日時:2026年10月05日(月) 06:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>