おっさんキヴォトスに行く   作:無い頭のおっさん

126 / 126
ばにばにばに・・・
整合性を取る為の熟読熟考完了。

書いて行くぜ。


時計仕掛けの花のパヴァーヌ編、第二章
先生と魔王と挫折


【DU地区・シャーレ部室】

 

ペロン

 

スマホから鳴った通知音に、私は書類から顔を上げた

画面に表示されていたのは、ミレニアムのハッカー集団――ヴェリタスからの連絡だった

 

『先生、ちょっと見てほしいものがあるんだけど』

 

続けて、現場の写真らしき画像が送られてくる

そこに写っていたのは、深海魚の様なロボットだった

表面はところどころ損傷し、内部の機構が露出している

 

『キャンパス内で変なロボットを見つけたんだよね。』

『どこのメーカー製なのかも分からないし、先生なら何か知ってるかと思って』

『今は動いてないみたいだから、とりあえず部室まで運んでこっちで調べようと思ってる』

 

「"・・・・・・っ!"」

 

写真を見た瞬間、背筋が凍りついた

 

この形状

 

この外装

 

間違えるはずがない

 

("・・・Divi:sion!")

 

それは、かつて私が何度も見た存在だった

 

Divi:sion、そしてその先兵であるロボット

過去の周回で、私はこいつらについて調べたことがある

最初はただの正体不明の機械兵器だと思っていた

けれど、調べれば調べるほど

その存在がキヴォトスにとってどれほど危険なものなのかを思い知らされた

 

そして、何よりも

 

("アリスが接触したら・・・")

 

私は勢いよく立ち上がった

過去の周回の記憶が、頭の中で次々とよみがえる

 

ロボットに接触したアリス

 

変化するヘイローと瞳

 

そして、アリスの中に入り込んだ、もう一つの存在

 

Key

 

アリスの身体を乗っ取り、私たちの知るアリスとはまるで違う言動を取り始める存在

その先に何が起きるのか、私は知っている

 

もう二度と、アリスも、ゲーム開発部の皆も失わせない

 

私はすぐさま端末を操作し、ヴェリタスに通話をつないだ

 

「"今すぐ確認したいことがあるんだけど"」

「"そのロボットの件、ゲーム開発部の子たちは呼んでないよね?"」

 

『・・・・・・え?』

 

一瞬、通信の向こうが静かになった

その沈黙が、妙に長く感じられた

 

『あー・・・・えっと・・・』

 

「"・・・呼んだの?"」

 

『・・・うん。もう呼んじゃった』

 

「"どうして!?"」

 

思わず声が大きくなった

 

『いや、だってさ。』

『変なロボットが見つかったって言ったら、ゲーム開発部も興味持つかなって・・・』

 

「"お願いだから、今すぐモモイたちに伝えて!"」

「"ロボットには絶対に触らせないで!!絶対だよ!!"」

 

『えっ!?ちょ、先生?いったい何が・・・』

 

「"説明は後でするから!"」

「"とにかく、誰にも触らせないで!!私がそっちに向かうから!!"」

 

返事を待つ余裕もなく、私は通話を切った

 

鞄をひったくるように手に取り、執務室を飛び出す

 

("間に合って・・・!")

 

今度こそ

 

今度こそ、あの子たちを守らなければ

 

アリスを

 

ミドリを

 

ユズを

 

そして・・・・・・モモイを

 

私は廊下を駆け抜けながら、駅へと向かった

 

 

 

 

 

 

【DU地区・駅構内】

 

改札を抜け、ホームへ滑り込んできた電車に飛び乗る

扉が閉まると同時に、電車が動き始めた

窓の外を流れていく景色を見つめながら、私は震えそうになる手を握りしめた

 

("落ち着け・・・")

 

焦っても仕方がない

 

まだ間に合う

何も起きていない

 

・・・・・・そう思いたかった

 

けれど、私の記憶はそれを許してくれなかった

 

アリスがKeyに乗っ取られたら、何が起きるのか

 

Keyが目覚めたとき、アリスの意識がどうなるのか

そして、アリスが大切にしてきた仲間たちが、その姿を見てどう思うのか

考えるだけで、胸が締め付けられる

 

("・・・もう、あんな思いはさせない")

 

私は奥歯を噛みしめた

そのとき、ふと頭に浮かんだ人物がいた

 

アンラさん

 

あの人なら、この状況を何とかできるかもしれない

いや、そうでなくても、アリスが関わる事は共有しておく必要がある

 

私は端末を取り出し、アンラさんへ発信した

数回の呼び出し音のあと、通信がつながる

 

『おう、先生。どないしたんや?』

 

聞き慣れた声がした

 

けれど、その声のすぐ後ろから――

 

ダァンッ!!ドォォォンッ!!

 

銃声と、何かが爆発する音が響いてきた

 

「"・・・・・・アンラさん?"」

 

『おう。ちょいと今、取り込み中や』

 

ダダダダダダッ!!

 

『おらぁ!!誰に向かって撃っとんねんボケナス!!』

 

アンラさんの怒号が響いた

そして、何かを蹴り飛ばしたような轟音

 

("・・・・・・何が起きてるの?")

 

「"あ、あの、アンラさん。実はミレニアムで・・・"」

 

私は息を整え、今しがた届いた連絡とロボットの特徴について、できる限り手短に説明した

その間にも、電話口の向こうでは戦闘が続いていた

 

そして、私が話し終えた瞬間

 

『・・・・・・チッ』

 

アンラさんが、舌打ちした

 

『そういうことか』

 

「"・・・え?"」

 

『先生。今、ミレニアムに向かっとるんやな?』

 

「"うん。電車で向かってるところだけど・・・"」

 

『・・・悪い。今すぐそっちに行きたいんやけど、ちょいと無理そうや。』

 

「"何かあったの?"」

 

一瞬、電話口の向こうが静かになった

 

その直後

 

ドォォォォンッ!!

 

凄まじい爆発音が響いた

 

『現在、アビドスは近隣の自治区のほぼ全てから、ヘルメット団の一斉攻撃を受けとる』

 

「"・・・・・・えっ?"」

 

言葉を失った

 

アビドスが?

近隣の自治区から、一斉に?

 

『今、おっさんがここを離れたら、確実にアビドスが荒らされつくす。』

『各地で同時に仕掛けられとるから、どこか一つを片付けても終わらへん』

 

「"・・・そんな・・・"」

 

『せやけどな』

 

アンラさんの声が、低くなった

 

『あまりにもタイミングが良すぎる』

 

私は息を呑んだ

 

『多分、おっさんの足止めが目当てや』

 

「"・・・・・・!"」

 

『このタイミングや・・・恐らく・・・リオやろうな。』

 

ガガガガガガッ!!

 

『必ず現地におっさんも向かう。』

『先生、ちょっとでもええさかい、持たしてくれ』

 

「"アンラさん・・・!"」

 

『アリスを・・・頼んだで、先生。』

 

その瞬間だった

 

ドゴォォォォンッ!!

 

先ほどまでよりも、さらに大きな爆発音が響き渡った

 

『テメェ!!調子こいとんちゃうぞカスがあああああああ!!』

 

アンラさんの怒号が響き、そして続いて激しい破壊音が鳴り響き

直後、通信が途切れた

 

「・・・・・・」

 

私は、端末を握ったまま動けなかった

 

アンラさんは来られない

 

少なくとも、今すぐには

 

アビドスでは、アンラさんがいなければ防ぎきれないほどの大規模な攻撃が始まっている

そして、ミレニアムでは、アリスがディヴィジョンシステムのロボットと接触するかもしれない

 

・・・・・・あまりにも、できすぎている

 

まるで最初から、アンラさんをアビドスに縛りつけ

私が一人でミレニアムに向かうことを計算していたかのように

 

私は、膝の上で拳を強く握りしめた

 

(・・・・・・それでも)

 

ここで諦めるわけにはいかない

 

アンラさんが来られないなら、私がやる

アンラさんが間に合わなくても、私が守る

ミドリも、ユズも、モモイも

 

そして、アリスも

 

誰一人、失わせない

 

("モモイを・・・もう、あんな目に遭わせない")

 

過去の周回で、私はモモイを守れなかった

 

何度も

 

何度も、手を伸ばしたのに

 

救えなかった

 

その記憶が、今も私の中に残っている

 

あのときの後悔を、二度と繰り返さない

 

たとえ、そのために自分がどうなろうとも

私は、シャーレの先生なのだから

生徒を守るために、ここにいるのだから

 

「"・・・待っててね、みんな"」

 

窓の向こうに広がるミレニアムの景色を見つめ、私はゆっくりと息を吐いた

 

もうすぐ到着する

 

絶対に、間に合わせてみせる

 

 

 

【ミレニアム・キャンパス】

 

電車を降りた私は、改札を抜けるなり走り始めた

 

ヴェリタスの部室があるミレニアムタワーまでは、それほど遠くない

けれど、今の私には、その距離がひどく長く感じられた

 

("お願い・・・間に合って")

 

肺が痛い

 

足が重い

 

それでも、走るのをやめるわけにはいかなかった

 

そのときだった

 

ドォォォォンッ!!

 

キャンパスに爆発音が響き渡った

 

「"・・・・・・っ!?"」

 

私は思わず足を止めかけた

 

音のした方向は・・・ヴェリタスの部室がある方だった

 

嫌な予感がした

 

全身から血の気が引いていく

 

("まさか・・・・・・!")

 

私は、さらに走る速度を上げる

廊下を駆け抜け、角を曲がり、階段を飛び降りる

 

そして、ようやく目的の場所にたどり着いた

 

「"・・・そん、な・・・"」

 

目の前の光景に、息が止まった

 

ヴェリタスの部室があった場所

そこは、もう部室ではなかった

 

壁は吹き飛び、扉は跡形もなく消え、内部の家具や機材が瓦礫となって散乱している

本来なら部屋を区切っていたはずの壁も天井も、その多くが崩れ落ちていた

 

もはや部室というより、屋外と言った方が正しい

その瓦礫の中に、見覚えのある少女が立っていた

 

アリスだった

 

「"・・・・・・アリス?"」

 

思わず名前を呼びかけた

 

けれど、返事はない

 

アリスは私たちの知る、いつものアリスではなかった

 

顔を伏せ、こちらを見てもいない

 

そして――その目は、赤く染まっていた

 

アリスの口が動く

 

『・・・・・・有機体の生存反応を確認』

 

機械のように冷たい声

その瞬間、全身の毛が逆立った

 

("間に合わなかった・・・!?")

 

違う

 

まだだ

 

まだ、ここで終わりじゃない

私は瓦礫を踏み越え、アリスへ向かって駆け出した

 

「"ミドリ!、ユズ!、マキ!、アリスを無力化するよ!!!"」

 

「・・・・・・っ!?」

 

三人が、こちらへ振り返った

 

ミドリは呆然とした顔でアリスを見つめ、ユズは青ざめたまま立ち尽くしていた

マキも、いつもの余裕のある表情を失っている

 

誰もが、目の前で起きていることを理解できていない

けれど、アリスが危険な状態なのは間違いない

 

今は、止めることを最優先にしなければ――

 

「「あー・・・・・・うん。」」

「「ほんとにエクストラステージがあるなんて・・・ね・・・・・・」」

 

声がした

 

瓦礫の向こうから

 

聞き覚えのある声

 

その声を聞いた瞬間、私は思わず動きを止めた

 

そして、ゆっくりと振り返る

 

瓦礫の影から、一人の少女が姿を現す

 

その少女は頭から血を流し

制服もひどく汚れ、身体のあちこちに傷がある

 

それでも、少女は平然と立っていた

まるで、そんな怪我など気にする必要もないとでも言うように

 

片手には、私も見たことのない銛

もう片方の手には、見慣れた愛銃――ユニーク・アイディア

 

そして、頭上に浮かぶヘイローには、激しいノイズが走っていた

 

光が不規則に明滅し、ときおり黒くくすむ

欠けた黒いヘイローが、そのノイズの向こうに見え隠れしていた

 

「"・・・・・・モモイ?"」

 

思わず、その名前が口から漏れた

 

モモイは私の声に顔を向ける

 

そして、ほんの少しだけ笑った

 

「「うん、ごめんね先生。」」

「「多分、あんまり持たないから話はあと」」

 

そう言った瞬間

 

モモイが一歩踏み出した

 

たった一歩

 

それだけで、モモイの姿がかき消えた

 

「"・・・・・・っ!?"」

 

次の瞬間、モモイはアリスの目の前にいた

 

「"モモイ!?"」

 

私が叫ぶより早く、モモイの銛がアリスへ突き出される

 

ガキィィンッ!!

 

金属音が響き渡った

アリスは光の剣で、銛の一撃を受け止めていた

 

けれど、モモイは止まらない

 

「「私は、もう、弱くない。」」

 

静かな声だった

 

その言葉と同時に、モモイは受け止められた銛の石突を膝で蹴り抜いた

 

「――っ!」

 

鈍い衝撃音

 

アリスの身体が大きく傾き、そのまま後方へ転倒した

 

「「わたしを、もう、置いていかせない。」」

 

モモイは間髪入れずにユニーク・アイディアを構え

 

ダダダダダダダダッ!!

 

銃声が連続して響いた

 

放たれた弾丸が、倒れたアリスへ次々と襲いかかる

 

「"・・・・・・っ、モモイ!!"」

 

私は叫んだ

 

けれど、モモイは一瞬たりとも手を止めない

アリスの身体が弾丸の衝撃に揺れ、それでも、ゆっくりと立ち上がる

 

そして、光の剣を大きく振りかぶった

 

「・・・・・・!」

 

アリスが光の剣を振り回す

 

大振りの一撃

 

まともに受ければ、モモイの身体など簡単に吹き飛ばされてしまうだろう

しかし、モモイは後方へ飛び退き、その攻撃を紙一重でかわした

 

同時に、銛から伸びる鎖が走る

 

ジャラッ!!

 

鎖がアリスの脚へ巻きつき

 

「――!」

 

モモイが鎖を強く引く

 

足を取られたアリスの身体が傾き、再び地面へ転倒し

そして、モモイは倒れたアリスの顔へ銃口を突きつける

 

銃口に、黒い神秘が集まっていく

 

「「Keyじゃ、私には勝てないよ。」」

 

引き金が引かれた

 

ドォンッ!!

 

弾丸がアリスの頭部を直撃し

衝撃に吹き飛ばされたアリスの身体は、瓦礫の向こうへと消えていく

 

「・・・・・・っ!」

 

一瞬、周囲が静まり返った

 

けれど、モモイは攻撃の手を緩めない

銛を構え直し、瓦礫の向こうへ踏み出そうとする

 

そのときだった

 

「・・・・・・おね、ちゃん・・・・・・?」

 

か細い声が響いた

 

ミドリだった

 

ミドリは、目の前の光景を理解できないというように、モモイを見つめていた

 

その声を聞いた瞬間

モモイの身体が、ぴたりと固まった

 

そして、一瞬だけ

ほんの一瞬だけ、ミドリに振り返ってしまう

 

その隙を、アリスは見逃さなかった

 

瓦礫の向こうから、凄まじい光が迸った

 

「・・・・・・っ!?」

 

光の剣を構えたアリスが、再び姿を現していた

その砲口が、ミドリへと向けられている

 

そして、砲口に光が集束していく

 

フルチャージ

 

レールガンの最大出力

ミレニアムタワーを縦に何層も貫けるほどの凄まじい破壊力を持った一撃

 

「"ミドリ!!逃げて!!"」

 

叫んだ瞬間には、もう遅かった

 

光が射出される

 

モモイが反射的に動いた

 

「「――ミドリ!!」」

 

モモイはミドリを庇うように射線へ飛び込み、銛を横向きに構えた

 

次の瞬間

 

ギィィィィィィィンッ!!

 

凄まじい轟音が周囲を震わせた

 

光の奔流が、銛へと直撃する

 

モモイの足元が砕け、瓦礫が舞い上り

銛が大きくしなり、鎖が激しく揺れる

 

それでも、モモイは踏みとどまった

歯を食いしばり、全身を使って光の軌道を横へ逸らす

 

光の奔流が地面を削り、壁の残骸を吹き飛ばしながら、私たちの横を通り過ぎていった

 

やがて、光が消える

 

けれど、代わりに

 

モモイの身体が宙へ浮いていた

 

「「・・・・・・あ」」

 

私は、声も出せなかった

 

衝撃で吹き飛ばされたモモイが、勢いよく瓦礫へ叩きつけられた

 

ドガァァンッ!!

 

重い音が響き、崩れた壁の一部がさらに砕け散る

 

「お姉ちゃん!!」

 

ミドリが悲鳴を上げ、モモイの方へ駆け出した

 

「・・・・・・っ」

 

私はすぐにアリスへ視線を戻した

アリスは光の剣を再び構えていた

 

砲身に、またしても光が集まり始めている

 

このままでは、今度こそモモイが――

 

その瞬間だった

 

「――おらぁっ!!」

 

背後から、鋭い声が響いた

 

小柄な影が一気にアリスへ接近し

そして、アリスの横腹へ強烈な回し蹴りを叩き込む

 

ドゴォッ!!

 

「・・・・・・っ!?」

 

アリスの身体が横へ弾き飛ばされ、瓦礫へと叩きつけられる

その影は、間髪入れずに両手のサブマシンガンを構え

 

ガガガガガガガガガガガッ!!

 

銃声が、途切れることなく響き渡る

 

アリスが叩きつけられた場所へ、容赦なく弾丸が撃ち込まれていく

 

弾倉が空になるまで

 

最後の一発が撃ち尽くされるまで

 

そして、ようやく銃声が止んだ

 

瓦礫の上に、ぼろぼろになったアリスが横たわっていた

その姿を見下ろしながら、乱入してきた少女は短く呟いた

 

「・・・・・・大人しく寝てろ」

 

そして、小さく舌打ちする

 

「チッ・・・クソみてーな再戦になっちまったじゃねーか・・・・・・」

 

そこにいたのは、美甘ネルだった

 

ネルは倒れたアリスを一瞥すると、周囲を見回し

その視界にまだ動いているディヴィジョンシステムの先兵が入る

 

ネルは心底面倒くさそうに息を吐いた

 

「・・・こいつら、ここにもいやがったのか」

 

そして、肩を回す

 

「はぁ・・・・・・片付けるか」

 

ネルは周囲に控えていた三人へ振り返った

 

「おい、行くぞ」

 

「はーい! 部長!」

 

アスナが軽い調子で返事をした

 

「支援する」

 

カリンも対物ライフルを構え、周囲を警戒する

 

「ええ。後方はお任せください」

 

アカネが穏やかに頷いた

 

次の瞬間、四人が同時に動き出した

ネルが先陣を切ってロボットへ突っ込み、アスナが軽快な動きで敵の側面を取る

カリンは後方から正確な射撃で援護し、アカネが状況を見極めながら部隊の動きを支えていく

 

銃声

 

爆発音

 

金属が砕ける音

 

それらが短い間隔で連続し、周囲に残っていたロボットが次々と無力化されていった

最後の一体が、アスナの攻撃を受けて崩れ落ちる

 

「これで終わり!」

 

アスナが明るい声を上げた

 

「作戦終了」

 

カリンが周囲を確認する

 

「お疲れ様でした」

 

アカネが武器を下ろした

 

ほんの数分

 

それだけで、あれだけの数がいたロボットは全て動かなくなっていた

ネルは銃を下ろし、ようやく私の方へ振り向いた

 

「・・・んで、何があったんだ?」

 

ネルは壊れた部室を見回した

 

「すげぇ音がしたから来てみたら、部室がボロボロじゃねぇか。」

「それに、チビのあの姿は一体・・・」

 

「"あ・・・・・・ネル。ごめん、詳しい説明はまた後で!"」

 

私はネルへ頭を下げた

 

「"今は、モモイが・・・!"」

 

そう言って、私はモモイの方へ駆け寄った

ミドリがモモイのそばに膝をつき、泣きじゃくっていた

 

「お姉ちゃん・・・お姉ちゃん・・・・・・!」

 

モモイは瓦礫にもたれかかるように座り込み、ぐったりとしていた

 

頭から流れる血

 

傷だらけの身体

 

力なく垂れた腕

 

その姿を見た瞬間、心臓が大きく跳ねた

 

("・・・お願い、今度こそ・・・")

 

私はモモイのそばに膝をつき、怪我の状態を確認しようと手を伸ばした

 

すると

 

モモイの手が、私の手首を掴んだ

 

「"・・・・・・っ!?"」

 

モモイが驚いたように顔を上げる

 

その目は、焦点が合っていなかった

それでも、必死に何かを探すように揺れている

 

「「あ・・・・・・せんせ・・・・・・」」

 

モモイの唇が震えた

 

「「ミドリは・・・・・・?」」

 

「"・・・・・・大丈夫だよ、モモイ"」

 

私はできる限り穏やかな声で答えた

 

「"ミドリは無事。モモイのおかげで、ちゃんと無事だから"」

 

「「・・・・・・」」

 

モモイの表情が、ほんの少しだけ緩んだ

 

そして

 

「「・・・・・・よかった」」

 

小さく笑った

 

「「今度は・・・守れた・・・・・・」」

 

その言葉と同時に、私の手首を掴んでいた手から力が抜けた

 

「"・・・・・・モモイ?"」

 

返事が返ってこなかった

 

「お姉ちゃん!?お姉ちゃん!!」

 

ミドリが半狂乱になってモモイへすがりつこうとする

 

私は慌ててミドリの肩を掴んだ

 

「"ミドリ!!今は揺らさないで!!"」

 

「で、でも・・・・・・!」

「お姉ちゃんが・・・お姉ちゃんがぁ・・・・・・!」

 

「"大丈夫だから!今は私に任せて!"」

 

自分でも、声が震えているのが分かった

それでも、ここで取り乱すわけにはいかない

 

モモイを助けなければ

 

今度こそ

 

絶対に

 

「"ユズ!医務室まで案内して!急いで!!"」

 

「は、はいっ!!」

 

ユズが慌てて走り出した

私はモモイの脇へ腕を通し、身体を支えながら持ち上げる

ミドリも涙を拭う余裕さえないまま、モモイの足を抱えた

 

「"ミドリしっかり支えて!絶対に落とさないようにね!"」

 

「・・・・・・うん!」

 

ミドリが必死に頷く

 

こうして私たちは、ネルたちに後を任せ、急いでミレニアムの医務室へと向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ミレニアム・医務室】

 

「・・・・・・先生」

 

治療がひとまず終わったあと、医務室の担当者が私に声をかけた

 

「処置は完了しました。」

「まだ意識は戻っていませんが、現時点では命に別状はありません」

 

「"よかった・・・"」

 

思わず、全身から力が抜けそうになった

 

命に別状はない

 

その言葉を聞いただけで、胸の奥に詰まっていたものが、少しだけ軽くなった

 

「ただ、かなりの衝撃を受けています。」

「しばらくは安静が必要です。容体に変化があれば、すぐに対応します」

 

「"・・・ありがとう"」

 

私は深く頭を下げた

 

モモイはベッドの上で眠っていた

 

傷の処置を受け、包帯が巻かれた頭

 

点滴につながれた腕

 

静かに上下する胸

 

・・・・・・生きている

 

その事実が、何よりも大切だった

 

ベッドのすぐそばでは、ミドリがモモイの手を握っていた

先ほどまで泣きじゃくっていたミドリは、ようやく落ち着いたようだった

けれど、目は赤く腫れていて、今にもまた泣き出しそうな顔をしている

ユズも隣で心配そうにモモイを見つめていた

 

「・・・・・・先生」

 

ユズが、遠慮がちに口を開いた

 

「アリスちゃんは・・・?」

 

「"・・・アリスは、別の場所にいるよ"」

 

私はそう答えた

 

あのあと、ネルたちがアリスを確保し

意識を失った状態でゲーム開発部の部室へ運んでくれたらしい

 

そして、先ほどネルから連絡が入った

 

アリスが目を覚ました、と

 

「"これから、アリスの様子を見に行こうと思う"」

 

私がそう告げると、ミドリがぴくりと反応した

 

そして、モモイの顔をじっと見つめ

しばらくしてから、ゆっくりと立ち上がる

 

「・・・・・・私もも行きます。」

 

声はまだ震えていた

 

けれど、目には強い意志が宿っていた

 

「アリスちゃんに・・・・・・会いに行く」

 

「"・・・・・・ミドリ"」

 

私はミドリを見つめた

 

「うん・・・・・・私も、一緒に行きます」

 

ユズも立ち上がった。

 

「アリスちゃんがどうなったのか、ちゃんと確かめたいです・・・」

 

・・・・・・そっか、そうだよね

 

アリスのことを心配しているのは、私だけではない

二人にとっても、アリスは大切な友達なのだから

 

「"・・・分かった。一緒に行こう"」

 

私は二人へ頷いた

 

ミドリが再度モモイを見て手を握る

 

「・・・お姉ちゃん。すぐ戻ってくるからね」

 

そして、そっと手を離した

私たちは医務室を後にし、ゲーム開発部の部室へ向かって歩き始めた

 

 

 

【ミレニアム・ゲーム開発部部室前】

 

部室へ近づくと、扉の前に見慣れた姿があった

 

ネルだ

 

壁に背を預けながら、腕を組んで立っている

 

私たちに気づくと、ネルは顔を上げた

 

「おう、先生」

 

「"・・・・・・ネル"」

 

私は足を止め、頭を下げた

 

「"さっきはありがとう。助かったよ"」

 

「・・・・・・別に、礼を言われるようなことじゃねぇよ」

 

ネルは気まずそうに頬を掻いた

 

「それより、チビのことだ」

 

ネルの表情が、少しだけ真剣になる

 

「あいつなら目を覚ましたぜ」

 

「"・・・・・・そう"」

 

「ただ・・・・・・」

 

ネルは、扉の方へ目を向けた

 

「ずっと泣いてる」

 

「"・・・・・・"」

 

その言葉に、胸が痛んだ

 

アリスは、何を思っているのだろう

意識を取り戻して、自分が何をしたのか理解したのだろうか

モモイを傷つけたことを、覚えているのだろうか

 

私は一度、目を閉じ

 

そして、ゆっくりと深呼吸する

 

「"・・・・・・ありがとう、ネル。ここからは私が話すね"」

 

「おう。頼んだぜ」

 

私は扉の前に立った

 

もう一度、深呼吸をする

 

大丈夫

 

アリスは今、きっと自分を責めている

 

だからこそ、私が伝えなければならない

アリスは一人ではないのだと

 

私は扉を軽くノックした

 

コン、コン

 

「"アリス。入るよ"」

 

そう声をかけながら、ゆっくりと扉を開けた

 

 

 

 

 

【ミレニアム・ゲーム開発部部室】

 

部室の中は、妙に静かだった

 

いつもならモモイの声が響いている場所

ミドリが静かに突っ込みを入れ、ユズがおろおろしながら二人をなだめている場所

 

そして、アリスがゲームの話を楽しそうにしている場所

 

そこには、今は誰の声もなかった

 

部屋の隅

 

アリスが、膝を抱えて蹲っていた

顔を俯かせ、両腕で自分の身体を抱きしめるようにしている

小さな肩が、かすかに震えていた

 

「"・・・・・・アリス"」

 

私はゆっくりと近づく

 

「"アリス。大丈夫?"」

 

返事はない

 

アリスは顔を上げようともしなかった

 

私はその隣に腰を下ろした

 

無理に顔を上げさせることはしない

 

今は、ただそばにいてあげたかった

そっと手を伸ばし、アリスの頭を撫でる

さらさらとした髪に触れながら、何度も優しく撫で続けた

 

「"・・・・・・大丈夫だよ"」

 

もう一度、そう声をかける

 

しばらくすると

 

「・・・・・・アリスの・・・・・・」

 

か細い声が聞こえた

アリスの肩が、また震える

 

「アリスのせいで・・・・・・モモイが・・・・・・」

 

「"・・・・・・モモイなら、命に別状はないって"」

 

私は、できる限り穏やかに伝えた

 

「"だから、安心して"」

 

「・・・・・・っ」

 

アリスが唇を噛んだ

 

「それでも・・・アリスが・・・アリスがモモイを撃ちました・・・・・・」

 

声が震えていた

 

「もう・・・二度と間違えないって・・・・・・約束したのに・・・・・・撃ちました・・・・・・」

 

アリスの両手が、ぎゅっと膝を握りしめる

 

「どうして・・・撃ったのか・・・・・・アリスにも・・・わかりません・・・・・・」

 

私は黙って、アリスの話を聞き続けた

 

「あの時・・・・・・何かが・・・・・・」

 

アリスが、かすかに顔を上げた

 

その瞳には、涙が溜まっていた

 

「まるで・・・まるでアリスの知らないセーブデータが・・・」

「アリスの中にあるかのような・・・・・・」

 

「"・・・・・・"」

 

私はアリスの頭を撫でながら、はっきりと告げた

 

「"大丈夫・・・・・・アリス"」

 

アリスが、ゆっくりとこちらを向いた

 

「"私とアンラさんが、必ず何とかするから。安心して"」

 

「・・・・・・お父さん・・・・・・?」

 

「"うん"」

 

私は頷いた

 

「"アンラさんも、今、急いでこっちに向かえるようにアビドスで仕事をしているんだ"」

 

「・・・・・・」

 

「"だから、必ずアリスの問題も何とかしてくれるよ。もちろん、私も手伝うから"」

 

そう言って、私はアリスへ微笑みかけた

 

そのときだった

 

「先生。それでは、根本的な解決にはならないわ。」

 

背後から、静かな声が響いた

 

「・・・・・・っ!?」

 

ミドリとユズが、驚いたように振り返った

 

「か、会長・・・!?」

 

そこに立っていたのは、ミレニアムの生徒会長

 

調月リオだった

 

私はアリスの頭を撫でる手を止めず

そして、声の主へ顔を向けることなく答えた

 

「"リオ。それでも、私はアリスを助けるよ"」

 

「・・・・・・」

 

リオは一瞬、意外そうな表情を浮かべ

 

「・・・そう。私のことを知っているのね」

 

「"生徒の名前と特徴は、全員覚えてるよ"」

 

リオは、少しだけ黙った

 

その沈黙のあと

 

私は、改めて口を開いた

 

「"リオ、先に言うね。"」

 

私は立ち上がり、リオの方を向いた

 

「"君の計画は失敗するよ。"」

 

「・・・・・・それは、どういう意味かしら?」

 

リオの表情がわずかに険しくなる

 

「"君は・・・・・・アリスのことを分かっていない。"」

「"Keyのことも分かっていない"」

 

「・・・・・・」

 

「"ただ、昔のデータに書かれた危険性だけを見ているんだ。"」

「"その危険性というものの本質を理解していない"」

 

私は、リオの目を見つめた

 

「"だから、リオ。君は失敗する"」

 

「先生・・・・・・貴女も色々と調べたようだけれど」

 

リオは静かに言った

 

「私は、それを踏まえて万全な準備を既に整えているの」

 

「"リオ。この世界に【絶対】なんてものはないんだよ"」

 

「・・・・・・そう」

 

リオは目を細めた

 

「どうしても、アリスを渡さないのね」

 

「・・・・・・っ」

 

その言葉に、ミドリが声を上げた

 

「待ってください、会長!」

 

ミドリがリオの方へ一歩踏み出す

 

「そのアリスを渡す、渡さないって、どういうことなんですか!?」

 

リオはミドリへ視線を向けた

 

「あなた達は今回の事件で、一つの考えに到達したのではなくて?」

 

「・・・・・・え?」

 

「今まで友人だと思っていた彼女が見せた、異なる姿。」

「そして、同時に生じた破壊と混乱」

 

リオは、淡々と続けた

 

「そして、あなた達はこう思ったのではないかしら。」

「今まで友人だと思っていたものは、そうではないのかもしれない、と」

 

「・・・・・・っ」

 

アリスの身体が、びくりと震えた

私はすぐにアリスの肩へ手を置く

 

「"アリス、聞かなくていい。大丈夫だから"」

 

けれど、リオは話を止めなかった

 

「単刀直入に言うわね。」

 

リオの視線が、アリスへ向けられる

 

「その少女の外見を備えたソレは、普通の生徒ではないわ。」

 

「・・・・・・」

 

「あなた達がアリスと名付けたソレは――Divi:Sionの指揮官であり、名も無き神を信仰する無名の司祭が崇拝したオーパーツ」

 

そして、リオは告げた

 

「古の民が残した負の遺産――名もなき神々の王女、AL-1S」

 

「・・・・・・っ」

 

私は歯を食いしばった

 

ここまで調べていたのか

 

リオは、アリスに関する情報を集め、危険性を分析し、独自の結論へたどり着いたのだろう

 

けれど、その結論が正しいとは限らない

 

そして、正しかったとしても

 

それだけで、アリスを一人の生徒として扱わない理由にはならない

 

「・・・・・・あ、アリスには・・・・・・理解できません・・・・・・」

 

アリスが震える声で呟いた

 

「"アリス、聞かなくていい"」

 

私は、アリスを庇うように少しだけ身体を寄せた

 

「"大丈夫だから・・・・・・"」

 

「そうですよ!」

 

ミドリが声を張り上げた

 

「何を言ってるんですか!?一方的に脳内の独自設定を話さないでください!」

 

「・・・・・・ミドリ?」

 

ユズが戸惑った声を漏らした

 

けれど、ミドリは止まらなかった

 

「よく、お姉ちゃんがそうやって話してきたから分かるんです!」

 

「・・・・・・」

 

「勝手にアリスちゃんに設定を付与しないでください!」

 

リオは、わずかに目を伏せた

 

「・・・・・・ごめんなさい」

 

「・・・・・・え?」

 

「私の配慮が足りなかったわね。」

「もっと理解しやすいよう、あなた達の好きなゲームに例えましょう。」

 

リオはアリスへ向き直った

 

「つまり、アリス」

 

そして、淡々と告げた

 

「あなたは――このキヴォトスを滅ぼすために生まれた魔王なのよ」

 

「・・・・・・っ!」

 

アリスの身体が震えた

 

「またそんな設定を・・・・・・!」

 

ミドリが叫ぶ

 

「どうしてそんなことを言うんですか!? 一体、何を企んでいるんですか!?」

 

「"リオ、違うよ。アリスは魔王なんかじゃ――"」

 

「いいえ。何も企んでなんかいないわ」

 

リオは、私の言葉を遮った

 

「それに、現実を見て頂戴。」

「アリスは暴走し、この世界を滅ぼすために存在するDivi:Sionのロボット兵を操った」

 

リオはアリスを見つめた

 

「これを魔王と呼ばず、何というの?」

 

「・・・・・・っ!」

 

言葉が詰まった

 

アリスがロボットを操った

そして、部室を破壊し、モモイへ銃を向けた

それは、間違いのない事実だった

 

けれど

 

それでも

 

「"・・・・・・リオ"」

 

私は、強く拳を握りしめた

 

「"アリスは、自分が何をしたのか分かっていない。"」

「"自分の意思でやったことじゃないんだよ"」

 

「それは、今回が偶然壊れかけの個体との接触だったからよ」

 

リオは淡々と答えた

 

「だから、この程度の被害で済んだ」

 

「"・・・・・・"」

 

「でも、次に完全な個体と接触した場合。」

「次の被害は、こんな程度では済まないわ」

 

そして、リオはアリスの方へ向き直った

 

「この脅威を解決する方法は一つだけよ、アリス」

 

「・・・・・・解決・・・・・・する方法・・・・・・?」

 

アリスの声が震えていた

 

「そう」

 

リオは一切表情を変えず、告げた

 

「――アリス、あなたが消えること」

 

「・・・・・・っ」

 

「この世界に、あなたは存在してはいけない」

 

「・・・・・・そ、んな・・・・・・」

 

アリスが、ゆっくりと顔を上げた

 

その目には、涙が溜まっていた

 

「アリスは・・・・・・ただ・・・・・・勇者に・・・・・・」

 

言葉が途切れる

 

それでも、アリスは必死に声を絞り出した

 

「みんなと一緒に・・・・・・ゲームを・・・」

「クエストを、したかった・・・・・・それだけなのに・・・・・・」

 

「いいえ。それは叶わないわ」

 

リオの声は、冷たく響いた

 

「私はゲームに詳しくはないけれど、辞書的な知識ならあるの」

 

リオは、アリスへ問いかけた

 

「だから、あなたに質問するわね」

 

「・・・・・・」

 

「あなたは己を勇者と呼んでいるけれど・・・勇者とは、友人に剣を向ける存在かしら?」

 

「・・・・・・っ」

 

アリスの顔から、血の気が引いていく

 

「むしろ、あなたのやったことは魔王ではなくて?」

 

「アリスちゃん!聞かなくていい!!」

 

ミドリが叫びながら、アリスとリオの間へ身体を滑り込ませた

 

「生徒会長が変わり者だとは聞いていたけど・・・」

「こんな人だとは思わなかった・・・・・・!!」

 

「せ・・・・・・先生・・・・・・!」

 

ユズが不安そうに私を見つめた

 

私は、リオを睨みつけた

 

「"リオ。それ以上言わないで"」

 

「何故?」

 

リオは首を傾げた

 

「事実から目を背けるのは、思いやりではないわ、先生。」

「それは単なる現実逃避に過ぎない」

 

そして、静かに続けた

 

「負うべき責任の放棄は、きわめて非合理的な行動よ」

 

「"リオ、これはね。合理、非合理の問題じゃないんだよ。"」

 

「・・・・・・」

 

「"アリスが何者であっても、今まで一緒に過ごしてきた時間は消えない。"」

「"アリスがみんなと過ごしてきたことも、"」

「"アリスが勇者になりたいって頑張ってきたことも、全部本当なんだ"」

 

私は、アリスへ目を向ける

 

アリスは、震えていた

ミドリの背中の向こうで、両手を握りしめている

 

「・・・・・・それじゃあ」

 

小さな声がした

 

「・・・・・・あ、あ、アリスは・・・」

「アリスは・・・・・・どうすればいいんですか・・・・・・?」

 

その声に、胸が痛んだ

 

リオは、間を置かずに答えた

 

「先ほども言った通り、全ての元凶は」

「アリス、あなたがここにいるから起きている」

 

そして、まるで簡単な問題の答えを示すように言った

 

「ならば、あとは簡単でしょう?」

「爆弾は、安全な場所で解体すればいいだけだもの」

 

「・・・・・・爆弾を・・・・・・解体・・・・・・?」

 

アリスが呟く

 

「ああ、分かりづらかったかしら?」

 

「"リオ!!"」

 

私は思わず声を荒らげた

 

けれど、リオは止まらない

 

「つまり――あなたのヘイローを破壊すれば解決する。」

「そういうことよ」

 

時間が止まったような気がした

 

アリスの表情が固まる

 

ミドリも

 

ユズも

 

誰一人、すぐには言葉を発せなかった

 

ヘイローを破壊する

 

それが意味することを、ここにいる全員が分かっていた

 

「"・・・・・・リオ"」

 

私は、震える息を吐いた

 

「"やめて。それ以上の言葉は、許さないよ"」

 

リオは、少しだけ目を伏せた

 

「・・・・・・私の言動が不愉快ならば、謝罪するわ」

 

その声には、ほんのわずかな疲れがにじんでいた

 

「昔から私のことが嫌いな人間は多かったもの。」

「それは、私に問題があるということなのでしょうから」

 

リオは顔を上げた

 

「でも、理解されなくても構わないわ。」

「私は、皆を守りたいだけ」

 

そして、部室の入口へ視線を向けた

 

「さあ、あなたの出番よ――美甘ネル」

 

「・・・・・・っ」

 

入口に控えていたネルが、眉間に皺を寄せた

 

ゆっくりと部室の中へ歩み入ってくる

 

「・・・・・・ネル先輩・・・・・・」

 

ミドリが呆然と呟いた

 

ユズも、不安そうにネルを見つめていた

 

リオは二人の反応を気にする様子もなく、淡々と説明を続ける

 

「あまり悪く思わないであげてね。」

「元々、C&Cはセミナー・・・正確には、私の直属のエージェントなの」

 

「・・・・・・」

 

「そこに私的な感情はないわ。」

「私の命令に粛々と従うだけ」

 

リオはネルを見つめた

 

「ネル相手では、アビドスの彼がいない今、」

「現在のアリスだけでは先生の指揮があったとしても抵抗できないでしょう?」

 

「"・・・・・・リオ"」

 

私は、ようやく口を開いた

 

「"やっぱり、アンラさんの方は君が・・・・・・"」

 

「・・・・・・ええ」

 

リオは隠そうともしなかった

 

「それに、もし彼以外に助けを求めたとしても・・・・・・」

 

その瞬間リオが、指を鳴らした

 

パチン

 

乾いた音が、部室に響く

 

同時に、部室の入口から複数台のロボットが入ってきた

一輪の車輪で自立し、機体の左右には銃が搭載されている

 

これまでのロボットとは違う、洗練された構造

 

リオは、その機体を一瞥した

 

「この周囲は、既にAMASで掌握しているわ。」

「救援が間に合うことはない」

 

そして、ネルへ顔を向けた

 

「さあ、仕事の時間よ」

 

「・・・・・・」

 

「ネル。」

「アリスを回収してくれるかしら?」

 

部室が静まり返った

 

アリスが、不安そうにネルを見上げる

 

「・・・・・・ネル先輩・・・・・・」

 

ネルは、黙ったままだった

 

そして

 

「・・・・・・ふっ」

 

小さく、息を吐いた

 

「・・・・・・ふっ?」

 

リオが眉をひそめる

次の瞬間、ネルが目をカッと見開き

 

「くっそ、やってられっかよ!!!」

 

銃声が響いた

 

ダダダダダダッ!!

 

ネルが、リオへ向かって銃撃を放った

 

リオのそばにいたAMASが即座に前へ出て、射線を塞ぐ

弾丸が装甲へと叩きつけられ、火花が散る

 

「・・・・・・っ!?」

 

ミドリが目を見開く

 

「"ネル・・・!?"」

 

アリスも、驚いたようにネルを見つめた

 

リオは、静かにネルを見返した

 

「ネル・・・一体、何のつもり?」

 

ネルは銃口を下ろさなかった

 

「今までだって、依頼内容を気に入ったことはあんま無かったけどよぉ」

 

その声は、いつもより低かった

 

「同じ学園の生徒を――それも、アスナの恩人の娘を誘拐しろってか・・・?」

 

ネルは、歯を剥き出しにして笑った

 

「あぁん?」

 

そして、吐き捨てる

 

「はん、んな依頼やってられっかよ」

 

銃口が、再びリオへ向けられた

 

「もう、テメェに付き合う義理はねぇよ・・・リオ!!」

 

ダダダダダダッ!!

 

再び銃声が響く

 

今度はAMASが全ての弾丸を防ぎきれず

一発が装甲を貫通し、機体の側面に大きな穴を開ける

 

煙を吹きながら、AMASがその場に崩れ落ちる

 

リオの表情が、わずかに変わった

 

「ネル・・・ここで裏切るつもり?」

 

「裏切る?」

 

ネルが鼻で笑った

 

「ハッ!テメェの指示がクソほど気に入らねぇだけだ」

 

「・・・・・・そう」

 

リオは、一度だけ目を閉じた

 

「そういうことなのでしょうね」

 

再び目を開けたとき、そこにはもう迷いはなかった

 

「ネル、あなたはいつもそう。」

「気分次第で命令に違反する」

 

「・・・・・・あぁ?」

 

「いつ爆発するか分からない癇癪玉のような側面。」

「それがあなたの長所であり、一番厄介だった」

 

リオは淡々と告げた

 

「・・・・・・だからこそ、この状況も全て想定しているのよ。」

 

「・・・・・・チッ」

 

「最初からC&C全員ではなく、あなただけに声をかけておいて正解だったわ」

 

ネルが眉をひそめる

 

「・・・・・・あぁ? 何だって?」

 

リオは、部室の奥へ視線を向けた

 

「トキ――あなたの出番よ」

 

その瞬間

 

ネルの背後に、人影が現れた

 

「"ネル!!危ない!!"」

 

私が叫ぶ

けれど、間に合わなかった

 

トキの脚が、ネルの横腹へ叩き込まれる

 

ドゴォッ!!

 

「ぐっ・・・・・・!?」

 

ネルの身体が宙へ浮いた

 

勢いよく吹き飛ばされ、部室の外へと叩き出される

 

「クソがっ!!誰だ、テメェは!?」

 

ネルが床を転がりながらも、すぐに身体を起こす

その先に立っていた少女が、静かに頭を下げる

 

ネルたちと同じ、メイド服

 

長袖の上着に、長いスカート

 

表情の薄い顔

 

そして、どこか機械的な佇まい

 

「初めまして、先輩。」

「そして先生」

 

少女は、優雅にカーテシーをした

 

「C&C所属、コールサインゼロフォー。」

「ご挨拶申し上げます」

 

「"・・・トキ"」

 

私は、思わずその名を呼んだ

ミドリも、トキを見つめたまま呆然と呟く

 

「・・・え? 五番目・・・?」

 

「・・・・・・」

 

ネルは、ゆっくりと立ち上がった

そして、怒りに満ちた目でトキを睨みつける

 

「背後から奇襲たぁ、舐めた真似してくれるじゃねぇか」

 

両手のサブマシンガンを構え直す

 

「覚悟はできてんだろうなぁ!?」

 

「"ネル、待って!トキは――"」

 

私の声は届かなかった

 

ネルが床を蹴り、通路へと飛び出す

そして、近くのAMASへ銃撃を浴びせながら、前進した

 

ダダダダダダダッ!!

 

「んなザコで足止めになるわけねぇだろうがよ!!!」

 

ネルは一息にAMASをなぎ倒し、トキへと肉薄する

 

銃撃

 

蹴り

 

身体を捻りながら放つ、近接攻撃

ネルの動きは、常人には捉えられないほど速かった

 

しかし

 

トキは、その悉くを躱した

 

頭をわずかに傾け、弾丸を避ける

 

上体を反らし、蹴りをかわす

 

ネルの腕が伸びた瞬間には、既にその射程から外れている

まるで、ネルが次に何をするのか、最初から知っているかのようだった

 

「・・・・・・チッ!」

 

ネルが舌打ちした

 

「このっ・・・・・・!」

 

さらに踏み込み、銃撃を重ねる

 

それでも、トキは当たらない

 

一発も

 

一度も

 

ネルが繰り出す攻撃の全てを、まるで先読みしているかのように回避し続けていた

 

リオが、わずかに目を細める

 

「流石ネル。」

「AMAS程度では、あなたを止められないというわけね」

 

そして、トキへ命令を下した

 

「トキ、武装の使用を許可します」

 

「承知しました」

 

トキはネルから大きく飛び退いた

 

「準備完了。モード2に移行します」

 

「はぁ?何をゴチャゴチャと――」

 

その瞬間

 

トキの服装が、変化した

 

長袖で、ロングスカートだったメイド服

それが一瞬で姿を変え、ノースリーブの上着に、短いスカートへと変わった

 

露出した腕

動きを妨げない軽装

 

そして、先ほどまでとは明らかに違う、戦闘に特化した姿

 

「・・・・・・え?」

 

ミドリが、思わず声を漏らした

 

「あれ? 服が・・・・・・」

 

私は、その姿を見た瞬間に理解した

 

「"っ!!ネル!!今のトキはネルの動きを読んでくる!気を付けて!!"」

 

「・・・・・・!」

 

トキの目が、わずかに動いた

 

私の言葉に反応したのだろう

けれど、ネルは一瞬だけ眉をひそめたあと、すぐに笑った

 

「あぁ?読むだぁ?」

 

ネルが銃を構え直した

 

「出来るならやってみろ――やぁ!!!」

 

再び、ネルが突っ込んだ

 

トキは、真正面から受け止めようとはしなかった

通路の奥へと引き、ネルの攻撃をかわす

 

ネルが追いすがり、銃撃を重ねる

 

トキはその弾丸さえ、紙一重で躱し続けた

 

そして、通路を曲がる

 

一瞬

 

本当に一瞬だった

 

トキの姿が、視界から消えた

 

「・・・・・・っ!?」

 

ネルが足を止めた

 

「チッ!クソ・・・マジで当たんねぇ・・・!」

 

周囲を見回す

 

「一体、どこに行きやがった・・・!」

 

そのときだった

 

「ネル先輩、後ろ・・・・・・!」

 

ユズの声が響いた

 

「・・・・・・ッ!何!?」

 

ネルが振り返る

 

しかし、遅かった

 

トキは、既にネルの背後にいた

ネルの後ろ手を掴み、腕を捻り上げる

 

「ぐっ・・・・・・!?」

 

さらに、膝裏へ鋭い蹴りを叩き込み

ネルの膝が折れ、その身体が崩れ落ちた

 

ガッ!!

 

「ぐあっ!!?」

 

ネルが地面へ叩きつけられ

トキはその背中を押さえつけ、腕を拘束した

 

「"ネル!!"」

 

私は思わず叫んだ

ミドリも、信じられないものを見たように呟いた

 

「気付いたら・・・突然、現れて・・・・・・」

 

「・・・・・・あ、あうぅ・・・・・・」

 

ユズが顔を青ざめさせる

ネルは、地面へ押さえつけられたまま暴れている

 

「クソッ!離せ!?ぶっ殺されてぇのか!?」

 

トキは捻り上げた腕に、さらに力を加えた

 

「そうやって暴れたら、曲がってはいけない方向に腕が曲がりますよ、先輩」

 

ネルの動きが一瞬止まった

 

「皆さんも、下手に動かないでくださいね。」

「無駄な抵抗はおすすめしません」

 

「・・・・・・っ」

 

ミドリが唇を噛む

 

ユズも、どうしていいか分からないというように私を見つめた

 

私は、リオへ顔を向けた

 

「"リオ・・・あれは・・・・・・"」

 

「私が作った特殊武装よ」

 

リオは静かに答えた

 

「こんなところで出すつもりはなかったのだけれど」

 

("・・・・・・やっぱり")

 

私は、トキの動きを見つめた

 

("今のトキには、エリドゥのバックアップが入っている・・・")

 

エリドゥ

 

そして、リオ

 

彼女が何を準備し、どこまで計算してこの場へ来たのか

 

(""今の戦力で、トキをどうにかするには・・・!")

 

必死に頭を回転させる

 

けれど、考えがまとまる前に、リオが次の指示を出した

 

「さあ、AMAS。」

「アリスを回収しなさい」

 

「・・・・・・っ!!」

 

ミドリが息を呑む

 

「ちょ、ちょっと待っ・・・・・・!」

 

ユズも声を上げた

 

しかし、AMASは止まらない

アリスへ向かって、一斉に動き始めた

 

「"させない!!"」

 

私は、すぐさま走った

アリスの前に身を挺して立ち、両腕を広げる

 

「"リオ!やめて!今ならまだ大丈夫だから!"」

 

AMASが、私の目の前で停止した

 

けれど、リオは表情を変えなかった

 

「"私もアンラさんも、必ず解決策を見つける!"」

「"だから、もう少しだけ待ってほしい!"」

 

「先生。もう、そんな段階は過ぎ去ったのよ。」

 

リオの声は、冷たかった

 

「次にいつDivi:Sionがアリスと接触するか分からない。」

「これは必要なことなのよ」

 

「"それでも・・・・・・!"」

 

リオは、小さくため息を吐いた

 

「はぁ・・・AMAS。先生を取り押さえなさい」

 

「"・・・・・・っ!?"」

 

次の瞬間、周囲のAMASが一斉に動く

 

「"ぐっ・・・・・・!!"」

 

左右から腕を掴まれる

 

背後から身体を押さえつけられ、身動きが取れなくなった

抵抗しようとしても、複数の機体に力ずくで拘束され、両腕を固定されてしまう

 

「せ、先生・・・・・・!」

 

アリスが、震える声を上げた

 

リオは、私の目の前へ歩み寄った

 

「先生。私もあなたとは対立などしたくないわ」

 

「"・・・・・・"」

 

「あなたと敵対する気も、憎まれる気もない」

 

リオは、静かに続けた

 

「でもね。本来、こういった事態において、」

「子供より感情に支配されず、冷静に状況を判断するのは誰なのかしら?」

 

私はリオを睨みつけた

 

「シャーレの先生。」

「大人であるあなたが、真っ先に処理するべきなのではなくて?」

 

「"処理だなんて・・・アリスは私の生徒だよ!!"」

 

その瞬間、リオが怒鳴った

 

「いつまでそんな寝言を吐き続けるつもりなの!!!」

 

「"・・・・・・っ!!"」

 

思わず、息が詰まった

リオは、私の目を見据えた

 

「勘違いしないで頂戴、先生。」

 

その声は、再び冷静さを取り戻していた

 

「アレは生命体ではないの。あなたが背負うべき生徒ではない。」

 

「"・・・・・・"」

 

「もし、そう感じるのであれば、それはエライザ効果にしか過ぎないわ」

 

リオは、一切目を逸らさなかった

 

「アレは、この世界を終焉へと至らせる恐るべき兵器。」

 

そして、最後に告げた

 

「アレとキヴォトスの全生徒を秤にかけろと問われたら、答えは明白でしょう?」

 

「"・・・・・・リオ"」

 

私は、唇を噛みしめた

 

「"そうやって、自分を納得させようとして・・・感情を合理で押しつぶして"」

 

リオの瞳が、わずかに揺れる

 

「"もし成功したとしても・・・リオは必ず後悔することになるよ・・・・・・"」

 

「・・・・・・」

 

一瞬、リオは何も答えなかった

けれど、すぐに表情を引き締めた

 

「・・・・・・アリスのヘイローは、私の手で破壊する。」

 

そして、静かに告げる

 

「準備は既に整っているわ」

 

「"・・・・・・っ"」

 

私は必死に身体を捩った

けれど、AMASの拘束は緩まない

 

このままでは

 

このままでは、本当にアリスが連れて行かれてしまう

 

そのときだった

 

「違う・・・・・・!」

 

ミドリの声が響いた

 

「・・・・・・違うよ!!」

 

ミドリがアリスの前へ飛び出した

 

リオとアリスの間に立ち、両腕を広げる

 

「アリスちゃんは、兵器なんかじゃない!!」

 

涙の跡が残る顔

 

それでも、ミドリは一歩も引かなかった

 

「アリスちゃんは・・・・・・勇者だよ!!」

 

「・・・・・・ミドリ・・・・・・」

 

アリスが、震える声で名前を呼んだ

 

ミドリは、アリスの背中を守るように立ったまま、強く言い切った

 

「だって――アリスちゃんは、光の剣を・・・」

「勇者の証であるスーパーノヴァを持っているもの!!」

 

「・・・・・・光の剣?」

 

リオが、わずかに首を傾げた

 

「エンジニア部と、あの大人が作っていた、あの玩具?」

 

リオはアリスの背中へ目を向けた

 

「そう・・・あなた達がそう言うのなら・・・・・・そうね」

 

そう言いながら、リオは手元の端末を操作した

 

ピッ

 

小さな電子音と共に

アリスの背中にあった光の剣から、明かりが消えた

 

「・・・・・・え?」

 

ミドリが、呆然と呟いた

アリスも、背中へ手を伸ばす

 

「・・・・・・光の剣が・・・・・・」

 

リオは端末を下ろした

 

「これでいいかしら?」

 

そして、淡々と告げる

 

「光の剣はもうないわ。これで証明は終わり。」

 

「"・・・・・・っ"」

 

私は、歯を食いしばった

そんなものは証明じゃない

 

けれど、アリスには、違った

 

「アリスの・・・剣が・・・・・・」

 

アリスは、消えた光を見つめていた

 

「ゆうしゃの・・・あかしが・・・・・・」

 

声が震える

 

「あ、う・・・うぅ・・・・・・」

 

とうとう、アリスの目から涙が零れ落ちた

 

「・・・・・・アリスちゃん・・・・・・」

 

ミドリも、泣きそうな顔でアリスを見る

リオは、そんな二人を一瞥したあと、再びアリスへ目を向けた

 

「さあ、行きましょう」

 

「・・・・・・」

 

アリスは、ミドリとユズを見つめた

 

「・・・・・・ミドリ・・・・・・ユズ・・・・・・」

 

「アリスちゃん・・・・・・!」

 

ミドリが手を伸ばそうとする

 

けれど、アリスはその手を取らなかった

 

最後に、部室の入口へ視線を向ける

 

そこには、トキに押さえつけられたネルがいた

 

「くそっ!!離せ!!!」

 

ネルが地面を蹴った

 

「おい、チビ!!じっとしてないで反撃しろよ!!」

 

「・・・・・・ネル先輩・・・・・・」

 

アリスが、かすかに呟く

 

それから、ようやく

 

私の方を見た

 

「・・・・・・先生・・・・・・」

 

「"アリス!!"」

 

私は必死に声を張り上げた

 

「"大丈夫だから!行かなくていいんだよ!アリスは何も悪くない!!"」

 

「・・・・・・っ」

 

「"アリス!!"」

 

AMASの拘束が、さらに強くなる

 

「"ぐっ・・・・・・!!"」

 

言葉の途中で、押さえつけられた身体が壁へ押しつけられた

 

息が詰まる

 

それでも、私は必死に声を出した

 

「"ッアリス!!お願いだから・・・・・・!!"」

 

アリスは、私を見つめたまま震えていた

 

そして

 

「・・・・・・行きます!」

 

その声が、部室に響いた

 

「・・・・・・行きます・・・・・・だから・・・・・・」

 

アリスは、涙を流しながらリオへ向き直った

 

「・・・・・・先生を、放してください・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

リオは、しばらくアリスを見つめていた

 

そして、小さく頷いた

 

「そう。合理的な判断よ。」

 

リオが端末を操作する

すると、私を拘束していたAMASが、わずかに力を緩めた

 

「"・・・・・・っ!"」

 

拘束から解放された私は、思わず咳き込んだ

それでも、すぐに身体を起こし、アリスへ向かおうとした

 

けれど、AMASが再びその前に立ち塞がる

 

「"・・・・・・っ!!"」

 

アリスが、私を見つめていた

 

涙で濡れた顔

 

震える唇

 

それでも、アリスは私へ小さく微笑みかけようとした

 

「・・・・・・アリスが・・・魔王だから・・・・・・」

 

「"・・・・・・アリス・・・・・・"」

 

「アリスが、ここにいたら・・・・・・また皆を傷つけます・・・・・・」

 

アリスは、ゆっくりと俯いた

 

「だから・・・・・・アリスが消えるとします」

 

「"・・・・・・違うよ"」

 

私は、必死に首を振った

 

「"アリスは魔王なんかじゃない。君は・・・・・・"」

 

けれど、アリスは最後まで私の言葉を聞かなかった

 

小さく息を吸い、そして

 

「・・・・・・先生」

 

アリスが、顔を上げた

 

「お父さんに・・・・・・は、言わないでください・・・・・・」

 

「"・・・・・・っ!!"」

 

その言葉を最後に、アリスはリオとAMASに囲まれ、部室の外へと連れ出されていった

 

「ダメ!!アリスちゃん!!!」

 

ミドリの叫びが響いた

 

「ア、リス・・・・・・ちゃん・・・・・・」

 

ユズの声は、かすれていた

 

ネルは、いまだにトキに押さえつけられながら、床を殴りつけた。

 

「くそっ!!離せぇ!!!おい、テメェ・・・・・・!!」

 

けれど、トキは動かない

 

リオの足音が、遠ざかっていく

 

アリスの姿が、扉の向こうへ消えていく

 

私は、動けなかった

 

まただ

 

また、守れなかった

 

あの子を守ると決めたのに

 

アリスに、もう二度と自分を責めさせないと決めたのに

 

モモイを守ると決めたのに

 

私は結局、何一つ守り切れなかった

 

「・・・・・・くそっ」

 

拳を握る

 

身体が震えていた

 

怒りなのか

 

悔しさなのか

 

自分自身への嫌悪なのか

 

もう、何も分からなかった

 

ただ、どうしようもなく

 

どうしようもなく、悔しかった

 

私は、床へ拳を叩きつけた

 

ドンッ!!

 

「くそっっっっ!!!!!」

 

床に亀裂が走る

 

「また!!!!」

 

もう一度、拳を振り下ろす

 

「わたしはっ!!!!!」

 

声が、喉の奥で潰れた

 

それ以上、言葉が出なかった

 

ミドリは泣きながら、アリスが消えていった扉を見つめている

 

ユズも、その場に立ち尽くしたまま俯いていた

 

ネルは、なおもトキの拘束から逃れようと暴れている

 

そして、扉の向こうから、リオの声が聞こえた

 

「それでは、失礼するわ」

 

一瞬の沈黙

 

それから、リオは最後に告げた

 

「もしも――先生が、私の言動に傷ついたのであれば・・・」

「すべてが終わった後、改めて謝罪をさせてちょうだい。」

 

足音が、遠ざかっていく

 

「では、また――」

 

その声を最後に、リオも去っていった

 

 

 

 

部室には、もう誰の声も響かなかった

 

泣きながら入口を見つめるミドリとユズ

いまだにトキに押さえつけられ、怒りに震えるネル

 

そして

 

床に拳をついたまま、俯いている私

 

アリスがいた場所には、何も残っていなかった

 

光の剣も

 

笑顔も

 

いつも元気に叫んでいた「パンパカパーン!」も

 

何一つ

 

何一つ、残っていなかった

 

・・・・・・また、私は守れなかった

 

今度こそ

 

今度こそ、絶対に守ると決めていたのに

 

私の目の前で

 

私の生徒が

 

連れていかれてしまった

 

「・・・・・・アリス」

 

誰もいない部室で、私は小さくその名を呼んだ

 

返事は、なかった

 




さて・・・
ifの話をしましょう。

キヴォトスに本当の魔王が現れるお話です。

その魔王は大変妻を大切にしておりました。
ですが、その妻に先立たれ。
虚無の生を送っていました。

そんな魔王に、父と呼び慕い、
そして己自身も娘とよんだ。
そんな存在が出来ました。

ですが、国の国王が、その娘を連れ去り、極刑にしてしまいました。
今まで、ニコニコといい人の皮を被っていた魔王は、
本当の姿を現します。

その本当の姿が現れた瞬間に世界の空は赤く染まり、
大地は全て赤黒い泥に覆われ、
赤黒い泥から無限の死体が這い出て、
全ての生きとし生きる物を殺し尽くす世界になりました。

そんな世界を只一人赤い涙を流しながら、冷めたい目で見つめる魔王の姿がありました。

そして魔王は一つの奇跡を使います。

「今、贄は揃った。喰えズルワーン。」

そして、世界は巻き戻ります。
何も無かった時代へ、
娘が死んでない時間へ、

でも、1つだけ違う事があります。
今度は、お父さんではありません。

過去に本当の魔王が顕現しました。
目的の為に一切の手段を、一切の犠牲を厭わない。
本来の魔王の姿が、そこにはありましたとさ・・・

ちゃんちゃん。


リオは、自分が最も正しいと思った時、
視野が狭くなる子ですからね。

リオがした結果、世界が本当に滅びに向かう。
そういう事が分からない・・・

いや、普通はわからんけどね。
だれが、単身で文字通り世界を滅ぼせると思うよって話しよな。


本文の説明に行きましょうか。
ついにパヴァーヌ二章が始まりました。

そして・・・
以前からアビドスに対してハッキングやヘルメット団が襲ってきてる。
その理由もここで発覚しましたね。

ヘルメット団はリオが、横領した金の一部を流し、アンラの足止めとして使っています。
そして、祈願屋や、アビドスに対して行われていたハッキングもまた、リオによるものです。
その目的は、アビドス側の対応能力の把握の為です。

最初の事件はアビドスにある、デパートに対してのハッキングが初めになります。
あの時に、アビドス側の初動対応と、その治安維持部隊の戦力を把握する為に
威力偵察として行っています。

次に、祈願屋に対するハッキングは、
その指揮形態や、部隊総数の把握の為に行っていました。
まぁ蓋を開けたら、制圧部隊には隊員が二人しかいないという
とんでもない事実が出て来るのですが・・・

これにより、リオの計画が、アンラの封じ込めとして、散発的にアビドスを襲わせ、
アリスを確保する前後だけ襲撃を本格的に行い、完全に動けなくする。
そういう方法になりました。

そういや書くの忘れていました。
リオがこんな動きをしている・・・
ぶっちゃけ原作から動きが乖離しているという違和感を感じると思います・・・
その理由は、かなりネタバレになりますが。
エデン条約編3章でアンラが気付いた、
世界がアリスが死亡する方向に収束している。
ここに繋がります。
つまり、世界からの修正により、
アンラ自身がミレニアムで起こる事件に関われない様にされています。





そして・・・
モモイの話をしましょうか・・・
実は1話に設置してあるキャラクター設定集の所をひっそり更新しておりまして、
モモイ*テラーが先生に召喚された後の話もそこで触れています。

モモイ*テラーは意識だけを召喚された結果、
完全消滅せず、この世界のキヴォトスを漂っていました。

そこで、この世界のモモイが負傷し意識が混濁した瞬間に
その意識がモモイ*テラーと混じり、本文にあったような展開になりました。

この後のモモイは・・・次の話の後書きで描こうかと思っています。









【今日の姫ちゃん】

アビドスの空に、爆発音が響いていた

一度きりではない

遠くから、間を置かずに何度も聞こえてくる

アツコは家の小さな花壇にしゃがみ込み、ジョーロでタンポポに水をやっていた
細い水の筋が、乾いた土に染み込んでいく

「・・・・・・」

また、爆発音

アツコは水やりの手を止め、顔を上げた

窓辺にいたミサキも、外の様子を確かめようと窓を開ける
砂埃の向こうから、かすかに銃声が聞こえてきた

「・・・・・・何か、あったみたい」

「・・・うん」

アツコは最後にもう一度、タンポポへ水を注いだ

その時、ミサキの携帯電話が鳴った

画面に表示されたのは、ヒヨリからの着信だった

「ヒヨリ?」

ミサキが電話に出る

『ミ、ミサキさん!今、アビドスの都市部にいるんですけど・・・大変なことになってます!』

電話の向こうから、ヒヨリの慌てた声が聞こえてくる

「何があったの?」

『足長おじさんたちと、対策委員会の皆さんが・・・』
『アビドス中に散らばっているヘルメット団と戦ってるみたいです!』
『あちこちで銃声も爆発音も聞こえて・・・!』

ミサキは窓の外へ目を向けた

「アビドス全域で・・・?」

『はい!近隣の自治区から来たヘルメット団もいるみたいで・・・』
『みんな、別々の場所に向かってるんです!』

電話越しにも、遠くの騒ぎが伝わってくる

ミサキは一度、短く息を吐いた

「分かった。教えてくれてありがとう、ヒヨリ」

『えっ?あ、はい……!』

通話を終えると、部屋に再び爆発音が響いた

アツコはジョーロを置き、両手をパンパンと叩いて土を落とした
続けて膝についた土も払う

そして、ミサキを真っ直ぐに見た

「ミサキ。恩返し。しようか。」

ミサキの表情が、すぐに鋭く変わる

「・・・・・・了解」

アツコは家の中へ戻り、アリウスの白いコートを手に取る
ミサキもそれに続き、二人は手早く身支度を整える

その時、ミサキの携帯電話が再び鳴った

ヒヨリからの着信だ

今度はアツコが電話を取る

「ヒヨリ」

『あ、姫ちゃん!?ミサキさん、どうしましたか?』

「私達も戦うよ」

電話の向こうで、ヒヨリが息を呑む

『えっ・・・ふ、二人もですか・・・?』

「うん。アビドスにお世話になってるから」

アツコは自分の武器を手にし、ミサキへ視線を向けた

『そ、そうですよね・・・! 私も・・・私も行きます!』

ヒヨリの声は震えていた
それでも、言葉ははっきりしていた

『美味しいご飯が食べられなくなるのは・・・い、いやですからね・・・!』

「うん。待ってるね、ヒヨリ」

通話を切る

アツコとミサキは、それぞれ武器を手に取った

玄関を開けると、砂漠の風が吹き込んできた
遠くの都市部では、まだ爆発音が続いている

アツコは一度だけ、家の花壇を振り返った

小さなタンポポが、風に揺れている

「・・・・・・行こう、ミサキ」

「・・・うん」

二人は家を飛び出し、都市部へ向かって駆け出した

アビドスの街を守る(恩返しをする)ために




  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

百鬼夜行の鬼(作者:龍玉)(原作:ブルーアーカイブ)

七稜アヤメが元ゲマトリアの鬼いさん(?)と出会う話。▼対策委員会編 第一章、第二章通過済み。▼エデン条約編 全章通過済み。▼パヴァーヌ編 進行中……


総合評価:1636/評価:8.64/連載:55話/更新日時:2026年10月18日(日) 09:00 小説情報

銃弾が飛び交う学園都市?!んでもって銃の耐性なし?!・・・やってやろうじゃねえかこの野郎!!(作者:オーバジン)(原作:ブルーアーカイブ)

突如としてキヴォトスに来てしまった何も知らない無知無知な男子高校生!ブルーアーカイブをやったことない?!噓だろ!マジかよ!▼何とかお情け程度であった特殊能力を活かして生き残れ!銃弾一発が致命傷だゾ!▼そんな男子高校生が歩むキヴォトスでの笑いあり、涙あり、曇らせあり、恋愛あり、シリアスありの、青春物語です。良ければどうぞ見ていってください。


総合評価:1648/評価:6.55/連載:107話/更新日時:2026年10月11日(日) 18:18 小説情報

俺だけ反転できる件(作者:天叢)(原作:ブルーアーカイブ)

転生してから何でもありな男がキヴォトスで生きる話▼旧作の【自由自在に反転できる男】のリメイク版です▼主に外見や見た目はAIを使ってます▼零斗のヘイロー▼【挿絵表示】▼ ▼月滅神刀 阿修羅▼【挿絵表示】▼【挿絵表示】▼


総合評価:320/評価:5.62/連載:26話/更新日時:2026年10月08日(木) 12:00 小説情報

楽しい銃社会の生き抜き方(作者:WEVE)(原作:ブルーアーカイブ)

ミレニアムサイエンススクールに所属するキヴォトス唯一の男子生徒『居待(イマチ) ウツキ』がなんやかんやありながら学園生活を満喫(?)する話▼今後必須以外タグ追加の可能性があるので苦手な方はブラウザバックを推奨してます▼大体許せるよって方は是非読んでいってください!▼現在の進捗▼アビドス編1,2章 完結▼ミレニアム編1章 完結▼エデン条約編1,2章 更新中


総合評価:601/評価:6.89/連載:52話/更新日時:2026年09月25日(金) 15:30 小説情報

Blue Legend〜一般男子の物語〜(作者:宗也)(原作:ブルーアーカイブ)

簡単なあらすじ▼これは何故か中途半端な特典を持ってブルーアーカイブの世界であるキヴォトスに来てしまった一般男子の青春の物語である。▼なお、一部生徒は結託して一般男子を囲い込もうとしている模様。▼詳細なあらすじ▼目が覚めると何故かブルーアーカイブの世界にやって来ていた一般男子高校生。特典みたいな物はあるが、何故か中途半端。しかも原作の9ヶ月前の世界だった。▼原…


総合評価:1429/評価:6.57/連載:103話/更新日時:2026年10月21日(水) 21:51 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>