おっさんキヴォトスに行く   作:無い頭のおっさん

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AとZ君頑張ってくれてる!!
私はまだ舞えるとキーボードが訴えてる!

追伸
同日投稿間に合わなかった!!!
5分の遅刻!


先生と怒れるPTA

黒い棒が地面に突き刺さり

その傍らに、砂色のローブをなびかせながらアンラさんが降り立った

 

「よぉ、PTAのご登場だ。クソガキ共」

 

アンラさんは地面に突き刺さった黒い棒を片手で引き抜く

 

「大事な娘を返してもらいに来たぞ」

 

その声を聞いた瞬間、胸の奥に張り詰めていたものが少しだけ緩んだ

 

「"アンラさん・・・!"」

 

「おう、先生。待たせたなぁ」

 

アンラさんは軽く手を上げて応える

 

そして、トキへ視線を向けた

 

「さて・・・」

 

黒い棒を肩に担ぐ

 

「お前さんが、ここの番犬っちゅうわけか」

 

「対象確認。七篠アンラ」

 

トキの機械的な声が響く

 

『やはり、現れたわね。』

 

リオの声が通信機から聞こえた

 

『まさか、本当にここまで辿り着くとは思わなかったけれど』

 

「おう。お前の子飼いにじゃれ付かれて来るん大変やったがな。」

 

アンラさんは軽く笑った

 

「ほな、始めよか」

 

その瞬間だった

 

トキの背面スラスターが噴射し

轟音と共に、巨大な外骨格が一気に加速した

 

正面からの突進しながら両腕のバルカンが火を噴く

 

ダダダダダッ!!

 

けれど、アンラさんは動かなかった

 

いや、動いている

手にした黒い棒が、目にも止まらぬ速さで回転していた

 

ガガガガガガガガッ!!

 

棒の表面に弾丸が弾かれ、火花が散る

まるで黒い円盤がアンラさんの前に出現したかのようだった

 

「そない玩具で俺をどうにかしようってか?」

 

アンラさんが一歩踏み込み

その姿が、消える

 

「――ッ!?」

 

トキの頭部が横を向く

 

しかし、もう遅い

 

アンラさんはトキの懐へ入り込んでいた

 

「遅いわ」

 

回転していた黒い棒が、横薙ぎに振るわれる

 

ガァンッ!!

 

トキの左腕に装着されたバルカン砲が、装甲ごと大きくひしゃげた

 

「左腕部、損傷」

 

トキは即座に後退しようとし、背面スラスターが全力で噴射された

だが、アンラさんはその動きを追っていた

 

黒い棒が再度回転する

そのまま身体を捻り、もう一度、横から叩きつける

 

ゴギィッ!!

 

今度はアビ・エシュフの左腕そのものが根元から外れた

バルカン砲ごと外骨格の腕が、火花を散らしながら地面へ転がっていく

 

「左腕部、機能停止。損傷率――」

 

トキの報告が途中で途切れた

アンラさんは棒を回転させたまま、さらに踏み込んでいた

 

「まだ終わりやないで」

 

黒い棒が縦に振り下ろされる

 

トキは反射的に身体を傾け、同時に背面スラスターを全力で噴射する

 

ゴォォォッ!!

 

巨大な機体が横へ跳ぶ

 

だが――

 

「・・・っ!」

 

避けきれなかった

黒い棒の先端が、トキの右肩を捉える

 

ドゴォンッ!!

 

装甲が大きく歪み、衝撃でトキの身体が横へ流され

そのまま数メートル先の地面へ叩きつけられる

 

ズザザザッ!!

 

「被弾。右肩部装甲、損傷」

 

トキはすぐに体勢を立て直そうとすし、背面スラスターが再び噴射された

しかし、左右の推力が噛み合わない

片側のスラスターを失った影響で、機体の姿勢制御にわずかな乱れが生じていた

 

「・・・推力不足。姿勢制御を再計算」

 

トキは残ったスラスターを細かく噴射し、無理やり姿勢を整える

そして、アンラさんへ向き直った

 

「対象の移動速度を再計測。回避行動を修正します」

 

次の瞬間

 

トキの背面スラスターが、先ほど以上の轟音を響かせ

残された推進機構が限界まで噴射される

機体が一瞬で加速し、アンラさんの側面へ回り込もうとした

 

だが

 

「そっちか」

 

アンラさんの姿が消える

 

「――!?」

 

トキが反応するより早く、黒い棒がトキの目の前に迫っていた

咄嗟にアビ・エシュフの右腕を持ち上げる

 

ガァンッ!!

 

衝撃が外骨格を揺らした

 

右腕の装甲が大きく陥没し、トキの身体が再び後方へ押し戻される

 

トキはスラスターを全開にして距離を取ろうとする

 

しかし、推力が足りない

アンラさんの速度に追いつけない

加速しようとするたびに、損傷した機体がわずかに姿勢を崩す

 

その一瞬の遅れを、アンラさんは見逃さなかった

 

「なんや。そないに頑張って飛ばしても、まだ足りへんのか?」

 

黒い棒が回転させながら

アンラさんは一気に間合いを詰めた

 

「ほな、もう一発や」

 

回転する棒が、今度は上から振り下ろされる

トキは右腕を掲げ、受け止めようとした

 

だが、その腕は既に損傷している

 

ドゴォォン!!

 

「ぐっ・・・!」

 

トキの身体が地面へ叩きつけられ

コンクリートが砕け、周囲に亀裂が走る

 

アンラさんは追撃の手を緩める様子が無い

黒い棒を回転させながら、倒れたトキへ歩み寄っていく

 

「"アンラさん!!"」

 

思わず声が出た

 

「"トキを殺す気ですか!?"」

 

アンラさんはちらりとこちらを見る

 

「あん?」

 

そして、何でもないことのように答えた

 

「まぁ、運がよけりゃ死なんやろ」

 

「"運!?そういう問題じゃありません!!"」

 

「せやかて、こいつまだやる気やぞ?」

 

アンラさんは再びトキへ視線を戻した

 

その時だった

 

『トキ!!』

 

通信機から、リオの声が響く

 

今までの冷静な声とは違う

明らかな焦りが混じっていた

 

『主砲の使用を許可するわ!!』

 

「・・・イエス、マム」

 

トキが即座に応答する

その瞬間、アビ・エシュフの背中に装着されていた砲門が展開され、

アビ・エシュフ肩に装着される

 

「"主砲・・・!?"」

 

私は思わず声を漏らした

 

『中央タワーに電力が集まってる!』

 

通信機からチヒロの声が響く

 

『先生、そこから離れて!!』

 

その声が聞こえたか、聞こえなかったか

凄まじい轟音が周囲を震わせた

 

次の瞬間

 

まばゆい光が、トキの両肩から解き放たれた

 

ゴォォォォォッ!!

 

光の奔流がアンラさんを飲み込み

地面が融解し、コンクリートが赤熱する

 

ドゴォォォォンンッ!!!!

 

途轍もない爆発と衝撃波が広場を駆け抜け、周囲の瓦礫を吹き飛ばした

 

「"みんな、伏せて!!"」

 

私は咄嗟にシッテムの箱を操作しアロナのシールドが展開され、

モモイ達と気絶したネルを包み込んだ

 

直後、爆風がシールドを叩く

 

バァァァン!!

 

「きゃあっ!!」

 

「わぁぁっ!?」

 

モモイとユズが悲鳴を上げる

ミドリもネルを庇うように身を屈めていた

 

私はシールドを維持しながら、光の消えた先を見つめる

 

やがて砲撃が止んだ

そこには、地面が大きく抉れ、赤く溶けた跡が残っていた

 

リオの声が通信機から響く

 

『・・・ここまでよ。先生。』

 

私は、砲撃の跡から目を逸らさなかった

 

「"・・・リオ"」

 

一度、息を吸う

 

「"君は・・・アンラさんを分かってない。"」

 

その時だった

砂埃の向こうから、黒い影が動いた

ゆっくりと、まるで何事もなかったかのように

 

『・・・そんな』

 

通信機から、リオの声が漏れた

吹き荒れていた爆風が収まり、舞い上がった砂埃が少しずつ地面へ落ちていく

 

その奥から、砂色のローブを纏った人影が姿を現した

 

アンラさんだった

ローブの裾は一部が焦げ、表面には細かな煤が付着している

けれど、身体には傷ひとつ見当たらない

 

手にした黒い棒を肩へ担ぎ、何でもなかったかのように歩いてくる

 

「なかなか派手な花火やったなぁ」

 

アンラさんは、肩に担いだ棒をくるりと回した

 

『・・・直撃したはずよ』

 

リオの声が震えていた

 

『主砲の出力は最大。エリドゥの演算能力を使い、一点に集中させた。それなのに・・・』

 

「"リオ"」

 

私は通信機へ呼びかけた

 

「"これが、アンラさんだよ"」

 

 

『・・・トキ』

 

リオは私の言葉には答えなかった

 

『トキ、対象の状態を報告して』

 

「対象の損傷を確認。外見上、重大な損傷は認められません。」

 

『そんな・・・』

 

一瞬、通信が途切れた

 

『トキ、後退しなさい。主砲の再装填まで時間を稼ぐのよ』

 

「了解。後退します」

 

トキの背面スラスターが噴射する

爆炎を伴う噴射が地面を叩き、巨大な外骨格が後方へ跳ねる

 

だが

 

「逃がすわけねぇやろ」

 

アンラさんが地面を蹴る

砂煙が弾け、次の瞬間にはもうトキの目の前に迫っていた

 

「――ッ!?」

 

トキは咄嗟に右腕を引き寄せ、正面を庇うように構えた

 

アンラさんの黒い棒が、横から迫る

 

ガァンッ!!

 

右腕の装甲が激しく鳴り、衝撃で機体が横へ傾いた

トキはその反動を利用して身体を捻る

残されたスラスターを噴射し、アンラさんとの距離を取ろうとした

 

しかし、アンラさんは棒を打ち込んだ勢いをそのまま回転へと変えていた

黒い棒が、トキの右腕を押し返すように回る

 

そのまま身体を沈め、腕の下へ潜り込み

 

「何もかも遅いわ」

 

短い言葉と同時に、黒い棒が突き出される

 

トキは腰を捻り、上半身を横へ逃がそうとした

 

同時に、背面スラスターが噴射する

機体が斜めに滑った

だが、片側の推進機構を失った影響で

加速の瞬間に姿勢がわずかに乱れる

 

ほんの一瞬

それだけで、回避には足りなかった

黒い棒の先端が、露出した腹部へ突き込まれる

 

ドゴォンッ!!

 

「かはっ・・・!」

 

装甲による防御はない

棒の先端がトキの身体を直接打ち据え

その衝撃が逃げ場なく腹部へ叩き込まれた

 

上半身が大きく折れ曲がり

トキの喉から、苦悶の声が漏れた

 

アンラさんは棒を引き抜くと、そのまま手首を返し黒い棒が高速で回転する

 

ギャリギャリギャリッ!!

 

回転の勢いを乗せた棒が、斜め上へ跳ね上がった

その軌道の先には、トキの右肩がある

 

ガゴォンッ!!

 

肩部装甲が内側へ陥没し、接続部が歪み右腕の動きが一瞬止まる

 

「くっ・・・!右肩部、損傷。」

「関節駆動に異常を確認。」

 

トキは反射的に後退した

 

右腕を引き戻しながら、残ったスラスターを噴射する

しかし、アンラさんはその場から離れない

 

棒を握る手を緩め、今度は両手で柄を持ち直す

 

そして、身体の横で棒を回転させ始める

最初はゆっくりとした円運動だった

だが、次第に回転速度が増していく

 

風を切る音が重なり、黒い棒の輪郭が曖昧になった

 

「・・・っ!」

 

トキが右腕を前に突き出す

 

損傷したバルカン砲の砲口がアンラさんを向いた

 

ダダダダダッ!!

 

至近距離からの連射

だが、弾丸が届くよりも早く、回転する棒がその射線へ割り込んだ

 

ガガガガガガガッ!!

 

弾丸が次々と弾かれていく

火花が黒い円を描き、アンラさんの周囲へ散る

そのままアンラさんは棒の回転を止めず、わずかに手元を傾ける

 

円を描いていた棒が、今度は斜め下からトキの右腕へ向かって走る

 

狙いは、腕の付け根

 

ガギィンッ!!

 

棒が関節を覆う装甲へ食い込んだ

 

アンラさんはその位置をずらさず、手首を返す

黒い棒が関節を軸に回転し、腕を外側へ捻り上げた

 

ギギギギギッ!!

 

金属が軋む

装甲の継ぎ目が開き、接続部から火花が噴き出した

 

トキは腕を引こうとする

だが、アンラさんは棒を押し込んだまま、足を踏み替える

その場で身体を回転させ、棒を軸にした全身の捻りが腕の関節へと集中する

 

ドゴォンッ!!

 

腕が大きく跳ね上がった

砲身が折れ、バルカン砲の銃口が明後日の方向へと向く

 

「右腕部、駆動異常。射撃機構、使用不能」

 

「おう。右腕ももうあかんか」

 

アンラさんは棒を引き抜くと、すぐさま逆手へ持ち替えた

 

トキは残された右腕を無理やり振り上げる

アビ・エシュフの巨体を利用した、力任せの払い

まともに受ければ、アンラさんでも無視できない衝撃になるはずだった

 

しかし、アンラさんはその動きを見てから、半歩だけ後ろへ下がる

 

巨大な腕が目の前を通り過ぎる

その腕の付け根へ、黒い棒が滑り込んだ

 

「ほれ」

 

棒が回転する

腕の動きと反対方向へ、強烈な捻りが加わった

 

ギギギギギッ!!

 

関節が軋み、装甲の継ぎ目がさらに開く

アンラさんは棒を軸にして身体を回転させ、その勢いを乗せたまま、腕を下から叩き上げた

 

ドゴォンッ!!

 

右腕が跳ね上がる

その反動で、トキの上半身が大きく後ろへ傾いた

 

そこへ、アンラさんの左足が踏み込まれる

砕けた地面を踏み締め、身体を低く沈める

 

棒が、今度は頭上から振り下ろされた

 

「――ッ!」

 

トキは残ったスラスターを全開にした

 

背面から噴き出す推力が、機体を後方へ押し出す

同時に腰部の姿勢制御機構が作動し、身体を斜めに傾ける

機体全体が横へ滑り、棒の直撃を避けようとした

 

けれど、やはり足りない

片側の推進機構を失った機体は、加速と姿勢制御のタイミングが噛み合わない

トキの身体が避けきるよりも早く、黒い棒の先端が右肩を捉えた

 

ガァンッ!!

 

右肩の装甲が剥がれ、トキの身体が横へ流される

地面へ着地しようと脚部を動かす

 

しかし、その動作を終えるよりも早く、アンラさんが追いついていた

 

「まだまだやで」

 

棒が、下から跳ね上がる

今度は、露出した胴体の脇腹へ

 

ドゴォッ!!

 

再び、生身へ直接衝撃が叩き込まれた

 

「がっっ・・・!」

 

トキの身体がアビ・エシュフごと宙へ浮く

 

アンラさんは棒を回転させたまま、踏み込みの勢いを殺さず追いかける

そして、落ちてくるトキの身体へ、斜め上から棒を叩きつけた

 

ドガァァンッ!!

 

トキの身体が地面へ叩き落とされる

コンクリートが砕け、周囲に亀裂が走った

 

「・・・っ、くっ」

 

トキが片膝をつく

 

それでも、倒れきることはなかった

脚部の駆動音が鳴り、背面スラスターが再び点火する

 

まだ立とうとしている

 

まだ戦おうとしている

 

『トキ・・・』

 

通信機から、リオの声が聞こえた

 

『機体の損傷は?』

 

「左腕部喪失。右腕部、射撃機構使用不能。」

「右肩部、腹部に損傷。背面推進機構にも異常があります」

 

『・・・分かったわ。もういい。いったん後退して』

 

「・・・戦闘を継続します」

 

『トキ?』

 

「対象の排除を優先します」

 

リオの声が、一瞬止まった

 

『・・・駄目よ。もう一度言うわ。後退しなさい』

 

トキは答えなかった

 

残された右腕を持ち上げ、アンラさんへ向ける

折れたバルカン砲の砲口が、最後の火花を散らした

 

ダダダダダッ!!

 

弾丸が飛ぶ

 

アンラさんは黒い棒を身体の前で回転させた

 

カカカカカカッ!!

 

弾丸が弾かれ、地面へ突き刺さっていく

その隙に、トキは脚部のスラスターを噴射した

 

低い姿勢から一気に踏み込む

巨大な外骨格が、アンラさんへ体当たりを仕掛けた

 

正面からの突進

 

残された全推力を使った、最後の接近戦

それを見たアンラさんが笑みを深める

 

「ハハッ・・・無茶しよるなぁ」

 

アンラさんは棒の回転を止めた

 

そして、迫る巨体を正面から見据える

 

トキが右腕を振り上げる

 

アンラさんはその動きに合わせ、棒を身体の横へ引いた

 

一瞬、棒が静止したように見えた

 

次の瞬間

 

アンラさんの腰が回る

 

足元から生じた回転が胴体へ伝わり、肩を通って腕へと流れていく

 

その全身の力が、黒い棒の一撃へと集約された

 

「ほな、これで終いや」

 

棒が横薙ぎに振るわれる

 

ドゴォンッ!!

 

衝突した瞬間、周囲の空気が震えた

 

トキの右腕が、付け根から大きく弾かれる

 

そのまま外骨格の上半身が後方へ持っていかれた

 

脚部が地面を削り、機体を支えようとする

 

だが、アンラさんは追撃の手を緩めなかった

 

トキが体勢を立て直すために右足へ重心を移す

 

その瞬間、アンラさんの棒が足元を薙いだ

 

ガンッ!!

 

脚部装甲に衝撃が走り、

踏ん張ろうとしていた足が横へ弾かれ、トキの機体が大きく傾いた

 

アンラさんはその隙に懐へ入り込む

棒を短く持ち、柄の中ほどで右肩を打つ

 

ガンッ!!

 

続けて、回転を加えながら肘の関節を打ち上げる

 

ゴギィッ!!

 

さらに棒を返し、腕の付け根を横から叩いた

 

ガギィンッ!!

 

三度の打撃が、ほとんど一つの動作のように連続する

右腕の関節が歪み、接続部から火花が噴き出していた

 

「右腕部、駆動停止。外骨格の接続に異常――」

 

その報告の途中で、アンラさんが棒を振り上げた

 

トキは残された脚部の駆動機構を動かし、後ろへ逃れようとする

 

背面スラスターも再点火する

けれど、失われた推進機構の穴は埋まらない

 

機体が浮き上がるより早く、アンラさんの棒が振り下ろされた

 

ドゴォォンッ!!

 

黒い棒が、トキの背中を打ち据え、地面が陥没する

トキの身体が地面へ押し込まれ、脚部が大きく沈み込む

 

「ぐっ・・・!」

 

それでも、トキは腕を動かそうとした

 

残された右腕を地面につき、身体を起こそうとする

背面スラスターも、まだ完全には死んでいない

機体のあちこちから火花が散る中、推進機構が再び起動しようとしていた

 

その背中へ、アンラさんの足が乗せられた

 

「もうええやろ」

 

グッ、と体重がかかる

トキの身体が地面へ押さえつけられた

黒い棒の先端が、トキの首元へ向けられる

 

そして

 

棒の側面から、黒い刃が横向きに伸びた

 

鎌のような形状

鋭い刃が、トキの首筋にぴたりと添えられる

 

「しまいや。死にたくなかったら動くな」

 

「・・・」

 

トキの身体が止まった

けれど、完全に諦めたわけではなかった

残された脚部の駆動音が、微かに響いている

 

『トキ!!』

 

通信機から、リオの声が飛び込んできた

 

『もう動かないで!!』

 

トキの脚部が、わずかに動く

 

『お願いだから!!そこで止まりなさい!!』

 

リオの声が、明らかに上ずっていた

 

『もういいの!戦闘は終了よ!これ以上は駄目!!』

 

先ほどまでのリオは、トキに命令を下していた

アビ・エシュフの性能を信じ、エリドゥの演算能力を信じ、アンラさんを止められると考えていた

 

けれど今は違う

命令というよりも、必死にトキへ呼びかけているようだった

 

私は、目の前の光景を見つめる

アビ・エシュフは、もう戦える状態ではない

 

左腕は根元から失われ、右腕もまともに動かない肩部装甲は砕け、

脚部にも損傷がある腹部には、トキ自身が受けた打撃の痕が残っていた背面の推進機構も、

片側を失ったうえに酷使され、火花を散らしている

 

それでも、トキは動こうとしていた

首元に刃を突きつけられてなお、命令を果たそうとしている

 

「・・・さて」

 

アンラさんはトキの背中を踏みつけたまま、通信機の方へ視線を向けた

 

「お前さんがリオやろ?」

 

『・・・』

 

「随分と元気な番犬を飼っとるやないか」

 

『・・・トキを離しなさい』

 

リオの声が聞こえた

 

先ほどまでの焦りとは違う

押し殺そうとしているのに、隠しきれない怒りと恐怖が混じった声だった

 

「そら無理やなぁ」

 

アンラさんは、足元のトキを見下ろす

 

「この子がまだ動こうとしとる。まずは大人しくしてもらわんとな」

 

『トキは私の命令に従っているだけよ!悪いのは私であって、トキではないわ!』

 

「せやから?」

 

アンラさんの声が、少しだけ低くなった

 

「おっさんは最初から、お前さんに用があるんや」

 

その言葉に、通信機の向こうが沈黙した

アンラさんは黒い刃を動かさない

トキも、今度は動かなかった

 

『・・・私に、何を要求するつもり?』

 

しばらくして、リオが口を開いた

 

声は落ち着きを取り戻そうとしていた

けれど、先ほどまでのような余裕はない

 

「簡単な話や」

 

アンラさんは、トキの背中を踏みつけたまま答えた

 

「降伏せえ」

 

『・・・何ですって?』

 

「聞こえんかったか?完全降伏や」

 

アンラさんが、黒い棒をわずかに傾ける

首筋に添えられた刃が、トキの肌へほんの少しだけ近づいた

 

「これ以上の抵抗は認めへん。」

「エリドゥの防衛システムも、残っとる戦力も、全部止めてもらう。」

 

『・・・冗談でしょう?』

 

「冗談でこんなこと言うかいな」

 

『私は、この都市の管理者よ。あなたの要求に従う理由はないわ。』

 

「せやなぁ」

 

アンラさんは、軽く頷いた

 

「確かに、お前さんには従う理由なんてあらへん」

 

そして、足元のトキへ視線を落とす

 

「せやけど、こっちには従わせる理由がある」

 

『・・・っ』

 

「この子や」

 

アンラさんが、黒い棒の先端を少しだけ動かした

 

トキの肩が微かに強張る

 

「お前さんの大事な子飼いやろ?」

 

『・・・トキを人質に取るつもり?』

 

「人質っちゅうと聞こえが悪いなぁ」

 

アンラさんは、いつもの調子で笑った

 

「おっさんは、無駄にガキを傷つける趣味はあらへん」*1

 

その言葉に、私はわずかに目を見開いた

 

確かに、アンラさんはトキを徹底的に叩き伏せた

装甲を砕き、外骨格を破壊し、露出した腹部へ直接打撃まで叩き込んだ

 

けれど、今は違う

 

首筋に刃を添えているだけで、それ以上の攻撃はしていない

 

「この子を解放する条件は三つや」

 

アンラさんが、指を一本立てた

 

「一つ。リオ、お前さん自身が完全降伏すること。」

 

二本目

 

「二つ。エリドゥの防衛システム、兵装、残存部隊。」

「こっちに敵対する可能性があるもんは、全部停止させること。」

「自動迎撃も例外やない。後からこっそり動かすような真似もなしや。」

 

そして、三本目

 

「三つ。先生らをアリスのところまで案内すること。」

 

「・・・!」

 

私は思わず息を呑んだ

アンラさんは、こちらをちらりと見てから続ける

 

「道中の警備も、罠も、迎撃も、全部なしや。」

「誰も邪魔させるな。お前さん自身も含めてな。」

 

『・・・アリスのところへ』

 

「ああ」

 

アンラさんが頷く

 

「おっさんらの目的は、そもそもアリスや。」

「ここでお前さんと戦争ごっこを続ける気はない。」

 

『それは・・・』

 

「もちろん、トキを解放した後に反故にするんもなしや」

 

アンラさんの声から、少しだけ笑みが消えた

 

「降伏したふりをして、先生らを背後から撃つ。」

「通路に罠を仕掛ける。自動兵器に襲わせる。」

「そういう小細工をしたら・・・分かるな?」

 

『・・・』

 

「おっさんは二度も同じことを言うんが嫌いなんよな」

 

沈黙が流れる

 

その間にも、アンラさんの足元ではアビ・エシュフの駆動音が微かに続いていた

 

「"・・・アンラさん"」

 

私は、思わず声をかけた

 

「"そこまでしなくても・・・"」

 

「先生」

 

アンラさんは、こちらを見ずに答えた

 

「こいつらは、覚悟を決めてきとる。」

「ここで徹底的にやっとかんと、また同じことの繰り返しや。」

 

「・・・っ」

 

返す言葉がなかった

アリスのところまで辿り着かなければならない

それは、私たち全員にとって譲れない目的だった

 

『・・・少し、考えさせてちょうだい。』

 

リオが言った

 

「ええで」

 

アンラさんは、あっさりと答えた

 

「好きなだけ考えたらええ」

 

そう言って、黒い棒をわずかに持ち上げる

トキの身体が地面へ押さえつけられた

 

「せやけどな」

 

アンラさんの声が、少しだけ低くなる

 

「おっさんが待つんは、あんまり得意やないんや。」

 

『・・・トキは、まだ戦闘能力を残しているわ。』

 

リオが、唐突に言った

 

『あなたが少しでも油断すれば、トキは反撃できる。』

『あなたも、それは分かっているはずよ』

 

「ほう?」

 

『それなら、交渉の条件を見直すべきではないかしら。』

『トキを解放する代わりに、防衛システムの一部を停止する。』

『あなたたちがアリスのところへ向かう間、こちらも必要以上に干渉しない。それなら――』

 

「却下や」

 

即答だった

 

『・・・まだ最後まで話していないわ』

 

「聞く必要もないわ」

 

アンラさんは、黒い棒をくるりと回した

 

「一部停止?必要以上に干渉せん?そんなん、いくらでも抜け道があるやろ」

 

『それは・・・・・・』

 

「お前さん、まだ自分が交渉できる立場やと思っとるんか?」

 

その言葉に、リオが黙り込む

 

「今の状況をよう見てみぃ」

 

アンラさんは、足元のトキを軽く踏み直した

 

「お前さんの切り札は、ここで地面に転がっとる。」

「主砲も使った。残っとる兵器でおっさんを止められる保証もない」

 

黒い棒の刃が、トキの首筋をなぞるように動く

 

「それでも、まだ条件を選べるつもりなんか?」

 

『・・・・・・』

 

「別に、お前さんを殺したいわけやない。」

「エリドゥを全部ぶっ壊したいわけでもない。」

 

アンラさんは、淡々と告げた

 

「ただ、先生らをアリスのところまで無事に連れていければ、それでええ」

「そのために、お前さんが邪魔をせんと約束する。それだけの話や」

 

『・・・トキを解放して』

 

「条件を呑んだらな」

 

『先に解放してくれれば、こちらも交渉に応じるわ。』

 

「そらあかん。」

 

『どうして?』

 

「俺が、お前を信用してねぇ。」

 

一瞬だけアンラさんの話し方が変わった

 

『・・・っ』

 

「それに、今まで散々好き勝手やっとったんやろ?」

「こっちが先に譲歩する理由はあらへん。」

 

アンラさんは、少しだけ首を傾ける

 

「もう一度言うで。」

「トキを解放する代わりに、お前さんは完全降伏する。」

「エリドゥの防衛機構を停止させ、先生らをアリスのところまで案内する。」

「道中、一切の妨害は認めへん」

 

そして、静かに付け加えた

 

「どうする?」

 

通信機から、返答はなかった

 

リオは迷っているのだろう

ここで降伏すれば、リオが築き上げたエリドゥの支配体制は崩れる

アビ・エシュフも失い、残された防衛戦力も使えない

それは、これまでの計画を自分自身の手で終わらせることに等しい

 

けれど、断れば

 

アンラさんの足元にいるトキが、どうなるか分からない

 

「・・・リオ様」

 

トキの声が響いた

 

「私は、まだ戦闘を継続できます」

 

『トキ!黙っていなさい!』

 

「しかし――」

 

『いいから、黙って!!』

 

通信機の向こうから、リオの悲鳴にも似た声が飛んできた

 

私は、目を閉じた

リオも、トキも互いを大切に思っているのだろう

だからこそ、ここまで追い詰められている

 

そして、アンラさんはそれを理解したうえで、交渉を続けていた

 

『・・・分かったわ』

 

やがて、リオが口を開いた

 

『あなたの条件を受け入れる』

 

「ほう」

 

アンラさんが、目を細める

 

『エリドゥの防衛システムを停止する。』

『残存部隊にも戦闘停止を命じる。』

『あなたたちがアリスのもとへ向かう間、いかなる妨害も行わない』

 

「それで?」

 

『・・・・・・私自身も、降伏するわ』

 

静かな声だった

 

『これ以上、あなたたちに抵抗しない』

 

アンラさんは、しばらく黙っていた

 

「よっしゃ。交渉成立やな」

 

黒い刃が、ゆっくりと霧のように消えていく

 

アンラさんの足が、トキの背中から離れた

 

「トキ。もう動いてええで」

 

「・・・」

 

トキは、すぐには動かなかった

首筋に残る刃の感触を確かめるように、ゆっくりと顔を上げる

 

それから、損傷した腕を地面につこうとした

だが、関節が動かない為、身体を支えきれず再び地面へ沈みかける

 

「おっと」

 

アンラさんが、棒を片手に持ったまま、トキの肩を支えた

 

「無理せんでええ。そないボロボロで立とうとするなや」

 

「申し訳ありません・・・リオ様。」

 

『謝らなくていいわ、トキ。』

 

リオの声が、少しだけ柔らかくなった

 

『よく頑張ったわ。もう戦わなくていい。』

 

トキは、しばらく黙っていた

 

そして、静かに答える

 

「・・・イエス、マム」

 

私は、その光景を見つめていた

敵だったはずのトキが、今はアンラさんに支えられている

 

その一方で、通信機の向こうでは、リオが完全降伏を宣言した

 

戦いは終わった

少なくとも、この場所での戦いは

 

「先生」

 

アンラさんが、こちらを振り返った

 

「ほな、アリスを頼むわ」

 

「"・・・アンラさんは?"」

 

私が尋ねると、アンラさんは軽く顎をしゃくった

 

「おっさんは、ここに残る」

 

「えっ!?」

 

真っ先に声を上げたのはモモイだった

 

「なんで!?アンラさんも一緒に行こうよ!」

 

「そうですよ!ここまで一緒に来たんですから、」

「最後まで一緒にアリスちゃんを迎えに行きましょうよ!」

 

ミドリも、珍しく強い口調で続けた

 

「わ、私も・・・その方が安心です。」

「アンラさんが一緒なら、きっと・・・」

 

ユズも不安そうにアンラさんを見上げていた

 

三人とも、アンラさんが来てくれるものだと思っていたのだろう

その気持ちは、私にも分かった

 

ここまでの戦いで、アンラさんは何度も私たちを助けてくれた

そして、今もなお、誰よりも頼もしい存在だった

 

「・・・おっさんも、アリスの顔を見たいんは山々なんやけどな」

 

アンラさんは、少し困ったように笑った

 

「ここは残らなあかん」

 

「どうして?」

 

モモイが尋ねる

 

アンラさんは、通信機の方へ視線を向けた

 

「リオが約束を守るか、見届けるためや」

 

「"・・・!"」

 

私は、すぐに意味を理解した

 

「"つまり、リオが再び防衛システムを動かしたり、"」

「"私たちを攻撃したりしないように、ここに残るという事ですか?"」

 

「せや」

 

アンラさんは頷いた

 

「おっさんがここにおる。それだけで、リオには分かるやろ。」

 

『・・・・・・』

 

通信機の向こうから、何も返ってこない

 

「先生らがアリスのところへ向かっとる間に、」

「リオが約束を反故にして再び動き出したら・・・その場で止める」

 

アンラさんは黒い棒を肩へ担ぎ直した

 

「お前さんらがここを離れた途端に、防衛機構を再起動させる。」

「残った兵器を動かして、後ろから襲う。」

 

「そういう真似をさせへんためや」

 

「"でも・・・"」

 

私は、少し渋い顔を浮かべた

 

「"もうリオは降伏しましたし、"」

「"それに、トキもあんな状態なので・・・そこまで警戒しなくて――"」

 

「先生」

 

アンラさんは、静かに私を見た

 

「こいつらは、覚悟を決めてきとる。さっきそう言ったやろ。」

 

「"・・・・・・"」

 

「リオは、トキに主砲を使わせた。」

「あの攻撃が先生らに当たれば、どうなるか分かっとったはずや。」

「それでも撃つと決めた。」

 

アンラさんは、トキへと目を向ける

 

「トキも同じや。自分が何を撃っとるのか、分かっとった。」

「それでも命令に従って攻撃した」

 

「"それは・・・"」

 

「先生。」

「キヴォトスでの殺人は、俺らの世界での殺人よりも重いんや。」

 

私は、言葉を失った

 

アンラさんは、ゆっくりと続けた

 

「この世界の生徒は、普通の人間とは身体の頑丈さが違う。」

「銃弾を受けても、爆発に巻き込まれても、簡単には死なん。」

「神秘やヘイローがあるからこそ、命を奪うっちゅうのは、そう簡単な話やない」

 

「"・・・・・・"」

 

「せやから、この世界で人を殺すっちゅう選択は重いんや。」

「普通の喧嘩や、ちょっとした撃ち合いとは訳が違う。」

 

アンラさんの声が、少しだけ低くなる

 

「リオもトキも、それを分かった上で攻撃してきた。」

「自分らの目的を果たすためなら、人の命を奪うことも選ぶ。」

「その覚悟をした上で、ここまでやっとる。」

 

「"・・・・・・"」

 

「なら、自分らが同じことをされる可能性も、受け入れてもらわなあかん。」

 

アンラさんは、黒い棒の先端を軽く地面へ向けた

 

「おっさんは、今ここでこいつらを殺すつもりはない。」

「トキも解放した。リオの降伏も受け入れた。」

「ここまでは譲歩しとる。」

 

「"・・・・・・"」

 

「せやけど、次はない。」

 

その一言だけは、はっきりとしていた

モモイたちは、何も言わなかった

先ほどまで一緒に行こうと訴えていた三人も

アンラさんが何をしようとしているのか、ようやく理解したのだろう

 

「・・・だから、ここに残るんですね。」

 

ミドリが、小さく呟いた

 

「せや」

 

アンラさんは頷いた

 

「先生らがアリスのところへ辿り着くまで、リオが約束を守るよう見張っとく。」

「おっさんがここに残る。それ自体が、こいつらへの釘刺しや」

 

「"・・・・・・"」

 

私は、もう何も言えなかった

 

アンラさんがここに残る理由は分かった

それは、単にリオを警戒しているからではない

私たちがアリスのもとへ向かっている間、リオが再び裏切るという選択をしないように

その選択をした瞬間、必ず代償を払うことになるのだと、目の前に示しておくためだった

 

「先生」

 

アンラさんが、私を見た

 

「アリスを頼む。」

 

私は、アンラさんの顔を見つめた

 

まだ、納得しきれない気持ちはある

できることなら、アンラさんにも一緒に来てほしい

この先に何が待っているのか分からない以上、戦力は多い方がいい

けれど、アンラさんがここに残る意味は理解できた

 

「"はぁ・・・分かりました。"」

 

私は、小さく息を吐いた

 

そして、モモイたちへと向き直る

 

「"モモイ、ミドリ、ユズ。行こう"」

 

「・・・うん」

 

モモイは、少しだけ不満そうに頬を膨らませた

けれど、最後にはアンラさんへ向き直る

 

「アンラさん!アリスは絶対に連れて帰るからね!」

 

「ああ。頼んだで」

 

「私も、アリスちゃんに会いたいですし」

 

ミドリが頷く

 

「ちゃんと、みんなで帰りましょう。」

 

「う、うん・・・!」

 

ユズも、小さく拳を握った

 

私は三人の顔を順番に見た

 

それぞれに疲労が残っている

傷もある

 

それでも、三人とも前を向いていた

 

「"無理はしないでね。何かあったら、すぐに私に知らせて"」

 

「はーい!」

 

モモイが明るく返事をする

私は最後にもう一度、アンラさんを振り返る

 

「アンラさん」

 

「おう」

 

「"・・・気をつけてくださいね。"」

 

アンラさんは、少しだけ笑った

 

「誰に言うとるんや。心配せんでええ」

 

そして、黒い棒を肩に担ぎ直す

 

「それより、そっちは頼んだで」

 

「"・・・うん"」

 

私は頷いた

 

アンラさんの言葉を受け止め、

モモイたちを連れて中央タワーの奥へと歩き出した

 

その先にあったのは、大きなエレベーターだった

扉の前まで進むと、ミドリが操作盤を確認する

 

「・・・動いているみたい」

 

「"リオが約束を守っているなら、使えるはずだよ"」

 

私は操作盤へ手を伸ばし最上階のボタンを押す

 

ピッ

 

短い電子音が鳴り、エレベーターの扉が開いた

 

「"行こう"」

 

三人を促し、私も中へ入る

 

全員が乗り込んだのを確認してから、操作盤の扉を閉じた

 

ゴウン・・・

 

低い駆動音と共に、エレベーターが動き始める

表示されている階数が、一つずつ上へと変わっていく

 

モモイは、じっと階数表示を見上げていた

ミドリはユズの隣に立ち、少しだけ不安そうに周囲を見回している

ユズは、胸元で両手を握りしめていた

 

私は、三人の様子を見てから、そっと目を閉じた

 

この先に、アリスがいる

何が待っているのかは分からない

けれど、もう迷っている時間はなかった

 

「"・・・もう少しだよ"」

 

私の言葉に、三人が頷いた

エレベーターは、静かに最上階へと上昇していく

 

 

*1:
無駄じゃなければやると言う意




~今日の姫ちゃん~
【アビドス都市部・公園】

祈願屋の事務所からほど近い場所に、小さな公園がある
その公園のベンチに、三人の少女が並んで座っていた

アツコ、ミサキ、ヒヨリ

アリウススクワッドの三人である

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

三人の間に、穏やかな沈黙が流れていた
時折、風が吹いて木々の葉を揺らす
公園の向こう側では、子供たちが楽しそうに遊んでいた
遠くからは車の走る音が聞こえる

平和だ

実に平和だった

「・・・・・・ねぇ」

最初に口を開いたのはミサキだった

「何これ」

「・・・?」

アツコが、隣から顔を向ける

「何が?」

「いや、何がって・・・」

ミサキは周囲を見回した

公園

ベンチ

色々な制服の生徒たち

そして、特に何も起きていない都市部

「私達、何をしてるの?」

「都市防衛だよ?」

アツコは、いつも通りの柔らかな声で答えた

「・・・・・・」

ミサキは、しばらくアツコを見つめていた

「いや、それは分かってるけど」

「うん」

「もっとこう・・・あるでしょ」

「ある?」

「敵が大挙して押し寄せてきて、それを迎え撃つとか。街の中に侵入した敵を追いかけるとか」

ミサキは、少しだけ眉を寄せた

「私達、そういうことをするためにここに来たんじゃないの?」

「そうだよ?」

「・・・・・・」

アツコは、膝の上に置いた手を眺めながら答えた

「だから、こうして待っているんだよ」

「・・・・・・そう」

ミサキは、再び前を向いた

納得したようには見えなかった
そもそも、三人とも最初はこんな展開になるとは思っていなかったのだ

アンラさんが出発した後、アビドス対策委員会の面々と共に自治区の境界線まで打って出た
敵が侵入してくる可能性がある以上、都市部に被害が及ぶ前に迎撃する
そのために、祈願屋の治安維持部隊と連携し、都市部周辺の警戒に当たることになった

当然、三人は覚悟していた
これから先、何度も戦闘が起きるだろう
敵のヘルメット団が押し寄せてくるかもしれない
場合によっては、圧倒的な数を相手に死地へ飛び込むことになるかもしれない
だからこそ、武器を確認し、装備を整え、いつでも戦えるように準備していた

ところが

「・・・・・・」

何も起きない

敵の姿もない

銃声も爆発音も聞こえない

無線機から入る連絡も、今のところは巡回中の部隊からの定時報告だけ

そして現在

三人は、公園のベンチでぼんやりと座っていた

「・・・・・・ふぅ」

ミサキが、小さく息を吐く

「・・・私、もっと大変なことになると思ってた」

「そうだね」

アツコが頷いた

「でも、平和なのは良いことだよ」

「・・・・・・」

「敵が来なければ、街の人達も安心して暮らせるから」

「それは、そうだけど」

ミサキは、膝の上で頬杖をついた。

「なんか・・・拍子抜けする」

「わ、私も・・・」

今度はヒヨリがおずおずと口を開いた

「へ、平和なのはいいと思います・・・」

「・・・・・・」

「こ、こうして何事もなく待っていられるなら、それが一番だと思います・・・」

「ヒヨリは、そう思う?」

アツコが微笑む

「は、はい・・・」

ヒヨリは、少しだけ肩の力を抜いた

「だって、戦わなくていいなら、その方が・・・」

「・・・・・・」

「そ、それに、アビドスの街って、思っていたより綺麗なんですね」

ヒヨリは公園の外へ目を向ける

整備された道路

並ぶ建物

人々が行き交う商店街

アリウスとは、まるで違う景色だった

「こういう場所を守るために、私達がいるんですよね・・・」

「うん」

アツコは、静かに頷いた

「だから、ちゃんと守ろうね」

「・・・・・・」

ミサキは二人の会話を聞きながら、少しだけ目を細めた

何も起きないこと
誰も傷つかないこと

それは、きっと良いことなのだろう

分かっている
分かっているのだが

「・・・・・・暇」

「ミサキ」

「・・・だって、暇なんだもん」

アツコが小さく笑った

「ふふっ」

その時だった

【ピッ】

三人の傍らに置かれていた無線機が、突然音を立てた

『こちら、治安維持巡回部隊第二班』

三人の表情が変わる

『敵性ヘルメット団の集団を確認。現在、都市部東側の商業区画へ向けて移動中』

「・・・・・・!」

ミサキが即座に立ち上がった

ヒヨリも慌てて無線機へ手を伸ばす

『人数はおよそ二十名。武装を確認。こちらで追跡を継続します』

「場所は?」

ミサキが無線機へ問いかける。

『商業区画の南側です。』
『祈願屋の事務所から東へ約一キロ。』
『進行方向から考えて、都市部への侵入を試みている可能性があります』

「了解。こちらで対応する」

ミサキは通信を切ると、すぐに武器を手に取った

「やっと来たね」

「うん」

アツコもベンチから立ち上がる

ヒヨリも慌てて装備を確認し、二人の後ろへ並んだ
先ほどまでののんびりとした空気は、もうない

三人の視線が、同じ方向を向いていた

「さ、お仕事しよっか」

アツコが、いつもの柔らかな笑顔で言った
そして、真っ先に駆け出す

「ちょ、ちょっと待ってくださいぃ!」

ヒヨリが慌てて後を追う

「・・・まったく」

ミサキも小さく息を吐き、二人に続いた
公園に残されたベンチには、先ほどまで三人が座っていた温もりだけが残っていた

穏やかな昼下がりは、ひとまず終わり
アビドスの街を守るための、彼女たちの仕事が始まった






さて、
アビドスの反攻作戦も動いてきましたね・・・
実は・・・ずっと悩んでいたオリジナルキャラを出そうかどうかを、
今回アビドスの本当の復興に向けて出そう決めました。

なので、この章の中で、その人物達を登場させる予定です。


よしそれでは本編解説いきます!

まずは・・・

このお話の9割5分くらいを締めてる
アンラとトキの戦いの解説ですね。

まずこの二人の戦いは只管に、トキはアンラの高速移動に対して、
スラスターで対処しようと頑張っているが、モモイがぶっ壊したスラスターが無い為、
左右バランスと、そもそもの総合出力が低下しており、対処が出来なくなっています。

そしてアンラの方は、
今回何故か、魔術も特殊な技も使わず、
ただひたすら棒術でしばきまわしてます。



これにも実は理由があります。
それは・・・この棒・・・もとい大鎌に問題があるんですよね。

以前極地特化で凄まじく使い勝手の悪い武器と言って、
この大鎌と連接剣を上げさせてもらいました。

そのうちの大鎌に付与されている能力に問題がありまして・・・
この武器は出してる間、とんでもねぇ勢いで魔力や神気、神秘、果ては生命力と言った
根源的な物すらも吸収して蓄積していくと言う能力があります。

なので、魔術を使わなかったと言うより、
使えなかったが正しいんです。

いや、それデメリットやん。

っていう話ですけど、
勿論、デメリットがあると言う事は
そのデメリットが霞むほどのメリットが存在します。

それは、この大鎌を媒介にして使った攻撃に、
大鎌に吸収させていた全エネルギーが相乗で乗ると言う物です。

まぁつまり、
大鎌に100吸わせて、

威力5の魔術を使うと・・・

まぁ軽く説明すると
7.9×10の69乗で乗ります。



ね?使い勝手悪いでしょ。
こんなのキヴォトスで使ったら
ただのインジェクションみたいなマッチの火が、インフェルノとか
流刃若火とか、残火の太刀とか、炎々ノ消防隊の【大災害】とかになっちゃいます。



でも、そんな一発限りの最終兵器みたいな武器をアンラが持ち出した・・・

これはそういうお話なんです。



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