おっさんキヴォトスに行く 作:無い頭のおっさん
Vanitas vanitatum et omnia vanitas
全ては虚しいけれども、
≪小鳥遊ホシノ視点≫
私は対策委員会の教室を出た後、
二年ぶりに連絡をしてきた怪しい奴の所に来ていた
そこには私を見て愉快そうに口角を上げながら見つめてくる異形の存在が居た
「これは、これは、およそ二年でしょうか?
お久しぶりですね、暁のホル・・・いえ、小鳥遊ホシノさん。」
「二年ぶりに連絡をしてきて、今度は何の用なのさ」
「状況が変わりましてね、この度は再度、
キヴォトス最高の神秘をお持ちのホシノさんにご提案をしようと思いまして。」
「昔と違って、今のアビドスの借金は返せない金額じゃない。
それを踏まえてご提案?・・・・ふざけてるの?」
思わず手にした愛銃に力が籠る
「まぁまぁ、落ち着いてください。
確かに以前ご提案させて頂いた状況とはかけ離れましたが、
1つ、質問をよろしいですか?ホシノさん。
一体なぜ、今もアビドスの借金は残っているので?」
この異形から出てきた言葉に思わず過剰に反応してしまう
「ッ!!!それはどういう事かな?・・・黒服」
「いえいえ、以前にアビドス生徒会長と契約をした、企業から
未だに毎月の支払いが行われていますよね?
それだけの資金があれば、今のアビドスに借金など残るはずがない。」
「・・・・・・」
「貴女が何故、あの会社から支給されるお金に手を付けないか。
ただ、それが不思議でして。」
「・・・私があの人が居た会社のお金を使わない事にお前と何か関係があるの?」
「クックック・・・いえいえ、確かに関係ありませんでしたね?」
黒服のその反応から、私の神経を逆撫でしたいだけの発言だったと理解した
「それで、二年ぶりに会って嫌がらせをしたいだけだったら
お前に一撃入れた後すぐに帰りたいんだけど、もう言い残す事は無い?」
「クックックック、それは恐ろしい。
ですが、よろしいので?この度のご提案は恐らくホシノさん。
貴女にとって、何に代えても欲しい情報だと思いましてね?」
そういった異形の表情は今まで以上に喜悦に溢れていた
「ホシノさん、貴女が大切にしていた人は死んではいません」
私はその言葉の意味を、理解するのに一瞬かかった
そして次の瞬間、視界が赤く染まった
「ッ!!どういう事だ黒服!!お前は何を知っている!!」
「いえいえ、私はキヴォトス中を観察しておりまして、
その際に観測したことがありましてね?」
「あの人は今何処にいる!!!」
「クックック、さぁ?それは私も今は知りませんね。」
黒服が愉快そうに笑い、私の反応を見て楽しむその態度が腹立たしい
(こいつを半殺しにしてでも・・・)
気づけば、引き金に指がかかっていた。自分でも、止める気がなかった。
銃口を向けられても、黒服は一切表情を崩さなかった
「クックックック、落ち着いてくださいホシノさん、本当に居場所は知らないのですよ。
ですが、貴女が私の提案を飲んで下されば貴女の探し人を私が探してあげますよ。」
「・・・早く言え・・・」
「ええ、そうですね。ではお気に入りの映画のセリフがありまして、
この度はそれから引用してみましょうか。
ホシノさん、貴女に、決して拒めないであろう提案をひとつ、
興味深い提案だと思いますのでどうかご清聴ください。」
私は、黒服からの提案を聞いて、あまりにも都合の良い提案と、
あまりにも残酷な条件が噛み合わず、思考が止まっていた
それこそずっと鳴り続けていたスマホの通知音にすら気づかなかった程に
私がスマホの通知に気づいて柴関の爆破現場に行った時には既に全部終わった後だった
「うへぇ、先生、委員長ちゃんと最後、何か話してたけどなんだったの?」
「"うん、ちょっとね。私も教えてもらった情報の裏取りをしたいから
伝えるのはそれからでも良いかな?"」
「うん、いいよ。判ったら教えて」
その後私は先生から離れて対策委員会の皆の元に向かった
「うへ~、結局おじさんはあまり状況が全然わかってないんだけど、何があったの?」
「説明したいところなのですが、私達も到着したら終わっていたので・・・
風紀委員は結局なぜここまで来たのでしょうか・・・」
『そうです、わからないのは私達も同じなんですよ!!
そもそもホシノ先輩はこんなタイミングまでいったいどこでなにをしていたんですか!』
私が今回の原因を聞くとアヤネちゃんがホログラム越しに怒っていた
「うへぇ、ごめんごめんよ~アヤネちゃ~ん・・・通知に気づかなかったんだよ~」
『はぁ・・・なんだか、更に大ごとになってきている気がします。
慌ただしい事ばっかりで、わかっていない事だらけです。』
「そうですね、今日も色んな事がありましたし、
無理せず私達も休憩した方が良いかもですね☆」
『はい。では今日はいったん解散して、
また明日学校で状況の整理をしましょう。』
「うん、そうだね~アヤネちゃんの言う通りだよ。」
そんな会話と共に現地解散の流れになった
私は気がついたら自分の家のベッドで膝を抱えて座っていた
壁にはあの時、私が破ってしまった砂祭のポスターがあった
ベッドから見えるテーブルには、アンラさんが持ってきた
皆で使っていたティーセットが置いてある・・・
ここは・・・いつも皆の思い出で溢れている・・・
そんな事を考えていると今日会った黒服との会話が頭にこだまする・・・
【ホシノさん、貴女が大切にしていた人は死んではいません】
(生きているなら・・・なんで、
何も言わずにどっかに行っちゃったんだろう・・・
会いに来てくれないんだろう・・・
やっぱり片腕を無くす原因を作った私を恨んでいるから・・・?)
そんな思いが頭に過ると息が苦しくなり目の前が暗くなってくる
【生きろよホシノ】
(あぁ・・・アンラさんの声も・・・
もう、思い出せないや・・・)
胸が苦しい・・・
息が、上手く吸えない・・・
指先が冷たくなっていく・・・
「はっはっ・・・くぅ、はぁ、あぁ・・・
辛い・・・よ・・・でも、この苦しさが私の罰なんだよね・・・」
(私の事は恨んで良い・・・よ・・・命だって差し出すよ・・・だからせめてもう一度・・・)
そんな事を考えていたら気を失っていたのか、いつの間にか朝になっていた。
(あれ・・・明るい・・・昨日の巡回、さぼっちゃったな・・・)
(・・・学校、行かないと)
そんなボロボロの状態でいつものユメ先輩の盾と自身の愛銃を片手に持ち
玄関に着いて、一度だけ息を整え。
ユメの盾を握りしめながらドアノブに手をかけた時には
いつもの気怠そうなアビドス高校三年の【小鳥遊ホシノ】が居た
「うへぇ~行って来ます。」
対策委員会の教室に着いた私は扉を開けた
対策委員会の教室に入ると、いつもより少しだけ空気が張り詰めていた。
「・・・ただいま戻りました」
私が席に着いたと同時に、
アヤネちゃんとセリカちゃんが、ほぼ同時に教室に入ってきた
「柴関の大将は無事でした。命に別状はありません」
その一言で、場の空気がわずかに緩む
「よかった・・・」
誰かの安堵の声が、小さく零れた
「でも、問題はその後です」
アヤネちゃんの声が、すぐに空気を引き締める
「大将のところに、カイザーから正式な立ち退き命令が出ていました」
「・・・立ち退き命令?」
そんな言葉を聞いた私は思わず間の抜けた声が出た
アヤネちゃんとセリカちゃんが、
柴関ラーメンの大将のお見舞いに行った帰りに持ち帰ってきた話は、
あまりにも現実味がなかった
「はい・・・大将のところに、カイザーから正式に通達が来ていたそうです」
「カイザーが・・・?」
私は思わず眉をひそめる
「でもさ、それっておかしくない?アビドスの土地って・・・」
「・・・それが、その・・・」
アヤネちゃんは言い淀みながら、手元の資料を差し出してきた。
「登記を確認したところ・・・
土地の所有権を私たちの学校が所有している事になっていませんでした。」
「えっ・・・どういうこと?アビドス自治区がアビドスの所有じゃないって、そんなわけ・・・」
そう言いながら私も登記を確認した
「現在のアビドス自治区の殆どの土地の所有者はカイザーローン、そう書かれています。」
言葉が、頭に入ってこない
(・・・カイザーが・・・土地を・・・?)
「・・・そんなの・・・」
知らなかった
(・・・いつから・・・?)
「先生・・・それって・・・」
私は縋るように、先生を見る
先生は少しだけ視線を落としてから、静かに口を開いた
「"・・・ヒナから、情報をもらってる"」
先生の表情から昨日最後に話してた内容がこれだったと確信する
「"カイザーは今、砂漠で何かをしてるらしい"」
「・・・砂漠で?」
「"それと・・・もう一つ"」
「"祈願屋っていう企業が、関わってる可能性がある"」
その言葉を聞いた瞬間、
心臓が、強く跳ねた
(・・・祈願屋・・・)
喉が、乾く
視界の端が、少し暗くなる
「・・・どういう、こと?」
自分でも分かるくらい、声が掠れていた
「"土地の名義はカイザーだけど、実際の主導権は別にあるかもしれないって話なんだ"」
「その【別】が、祈願屋・・・?」
「"祈願屋について調べても何も出てこないから・・・まだ、可能性の話だけどね。"」
頭の中で、何かが繋がる音がした
(カイザーが表に立ってるのに・・・)
(裏で、別の誰かが動かしてる・・・?)
(・・・そんな事、する理由なんて)
一つしか、思い浮かばなかった
(やっぱり・・・)
「ん、ホシノ先輩?」
誰かが呼ぶ声が、遠くに聞こえる
(やっぱり・・・アンラさんは・・・)
息が、少しだけ苦しくなる
(私の事を・・・)
「・・・恨んでるんだ」
気づけば、口に出ていた
教室の空気が、止まる
「・・・え?」
「え?・・・」
「あー・・・うへへ~気にしないで~」
反射的に、笑う
いつも通りに
何もなかったみたいに
でも、うまくいかなかった
(カイザーに土地を持たせて・・・)
(そのまま気づかせずに・・・裏から全部握る・・・)
(逃げ場を無くしてから・・・)
可能性に思い当たりぞくり、と背中が冷える・・・
(それって・・・)
そこまで考えて、
それ以上は考えたくなくて、思考を止めた
「・・・先生」
ゆっくりと顔を上げる
「その砂漠の話・・・詳しく教えて」
声は、思ったより落ち着いていた
でも・・・
「・・・もちろん、行くんでしょ?」
自分でも分かる
これは、確認なんかじゃない
「"うん、皆でカイザーが砂漠で何をしているか調べにいこう。
祈願屋の事も何かわかるかもしれないからね。
私の知人にも今度尋ねてみるから、もうちょっとだけ祈願屋の事は待っていて欲しい。"」
「うへ~わかった、じゃー祈願屋は先生に任せるね?
皆はこれからアビドス砂漠に行くから食料と水とかの用意をしよっか。」
(・・・見に行かないと)
(本当に、何をするつもりなのか・・・)
(もし、私が思ってる通りなら・・・)
喉の奥が、ひりつく
「じゃ、みんな~準備出来次第出発するよ~!」
(終わらせるなら・・・私がやらないと・・・)
今回のホシノ視点は、
対策員会の教室から出てから、翌日アビドス砂漠に赴くまで、ですね
うん、書いてて人の心ってなんだっけって思いながら書いてます。
自分が鬱になりそうだZE
人の心?そこに無ければ無いですね。