おっさんキヴォトスに行く 作:無い頭のおっさん
≪先生視点≫
とうとうこの日が来た
アビドスが本当の意味で動き出すこの日が。
私はここまで、万全の準備をして来た。
何度も何度も何度も生徒達を傷付け、失って来た自分の無能さに嫌になり、
この命を投げ出そうと思った事も一回では済まない。
だけど、生徒達の笑顔が、私が経験した私しかもう知らない【あの子達】の人生が、
・・・【あの子達】の最期の顔が忘れられない。
もう失敗はしない。
私の何を犠牲にしてでも、最良の結果を引き寄せる。
私の目の前にホシノからの手紙があった、
もう何百回とこの結果を見てきた。
その都度ホシノがここまでの悲壮な決意を抱くまでに
なんとか出来ないかと努力した、ここでは上手く行ったとしても
結果的に全員この手から零れ落ちる事になった。
だから、今度こそは・・・
『アビドス対策委員会のみんなへ
まずは、こうやって手紙でお別れの挨拶をすることになったこと、許してほしい。
おじさんにはこういう、古いやり方が性に合っててさ。
みんなには、ずっと話してなかったことがあって。
実は私、昔からずっとスカウトを受けてたんだ。
カイザーPMCの傭兵として働く、その代わりにアビドスが背負っている借金を肩代わりし、
その上カイザーがアビドスから手を引く。そういう話でね。
・・・うへ、中々良い条件だと思わない?
おじさんこう見えて、実はけっこう能力を買われててさ~
借金の事は、私がどうにかする。
皆がこの手紙を読んでる頃には多分全額無くなってると思う。
カイザーからの嫌がらせも、アビドスを裏から支配していた祈願屋も、
私がアビドスから居なくなれば全部解決するから。
これで対策委員会の皆も、借金から解放されてアビドスの復興に移れるよ。
私が居なくなればきっと祈願屋さんも復興の手助けをしてくれると思う。
私は連絡先を知らないんだけど、きっと先生が調べてくれるから、皆も頼ってみて。
まぁ・・・その、アビドス高校からも、キヴォトスからも離れる事になったけど、
私のことは気にしないで。勝手なことをしてごめんね。
でもこれは全部、二年前の私が犯した罪、
その清算が今のアビドスに降りかかってるだけ
だから・・・私が責任を取るべきこと。
それに、私はアビドスの最後の生徒会だからね。
だから、ここでお別れ。じゃあね。』
対策委員会に宛てられた手紙の内容が違う・・・
また、だ・・・今度こそ失敗出来ないのに
私への手紙にも何か変化はあるのか・・・
『先生へ
実は私、大人がちょっと苦手だった。
昔にお世話になったあの人の事がちらついてね。
でも、先生みたいな大人と最後に出会えて私は・・・
いや、照れ臭い言葉はもういいよね。
先生。
最後に我がままを言って悪いんだけど、お願い。
私が居なくなれば祈願屋は今回の件から手を引いてくれると思う。
でももしそうじゃなければ、皆を連れてアビドスから逃げて。
私はあの人に許されない事をしてしまった。
あの人は表向きは飄々としてるけど、でもその内は凄く冷酷な人だと思う。
そんな人が私だけを怨んで済ませてくれるか私にもわからない。
だから、もしも私が居なくなった後も襲撃が続くようであれば・・・
アビドスを捨てて皆で逃げて。
嫌な役目を押し付けてごめんね。』
(ホシノ・・・)
(ごめんね、ホシノ。その頼みは絶対聞いてやれない。)
私は手紙から顔を上げる
対策委員会の皆は沈鬱な表情をしていた
「"皆、ホシノが私に残した手紙を見て欲しいんだ。"」
ホシノゴメンね、帰ってから皆に怒られようね。
その実、私も今回はかなり怒ってるよ。覚悟してね。
私に宛てられた手紙を読んで真っ先にセリカが激昂し始めた
「ホシノ先輩!!!
何なの!?あれだけ偉そうに話しておいて!!
切羽詰まったら何でもしちゃうって、自分でわかってたくせにっ!!!」
「こんなの、受け入れられるわけないじゃない!!」
ホシノに対する怒りと自分に対する怒りで震えていた
「ん、助けないと。
私が行く。対策委員会に迷惑がかかるし、私一人で・・・」
「落ち着いてください、今はまずは足並みを揃えないと。」
そんな事を話していると
学校の近くで大きな爆発音が聞こえてきた
ドカアァァァァァン!!!!
「"かかったね。"」
「うわあっ!?」
「爆発音?!」
「近いです場所は・・・」
「"市街地。"」
「えっ」
「"市街地からカイザーPMCが数百ほど、こちらに向かって進軍中"」
「"カイザーPMCの目的はここ、アビドス高校の占拠。"」
「先生・・・?」
「"うん、ごめんね。実は私は事前にこうなる事を知ってたんだ。"」
「"でも、知っているからこそ対策も既に出来ているから"」
「先生は・・・味方なんですよね?」
「"うん、安心して、私は生徒皆の味方だよ。"」
「"私はまず、ホシノが契約する為に行った悪い大人の所に行かないと行けない。"」
「"その間、アビドス高校を守っていて欲しいんだ。"」
「で、ですが!私達だけで撃退するには数が!」
「"大丈夫。さっきの爆発音は私が仕掛けた対戦車地雷。
他にも対ロボット用EMP地雷、対空地雷。それぞれ1000ずつアビドス市街地に設置済みだよ。"」
「"学校付近の市街地は、まだ復興が進んでなくて廃墟になってたから気にせず設置できたね。"」
「うわぁ・・・っ!だから先生あの時市街地で徘徊していたの・・・?」
私がそんな事を言うとさっきまで怒り心頭だったセリカが
ドン引きしたような声をもらした後
以前市街地で遭遇した事を思い出したようだった
「"正解。まぁ爆弾を仕掛けて回ってたから、
セリカの言った通り不審者だったね。"」
「"まぁ地雷を除去しながら進んでくる事になるだろうから、
少しは敵の数も減らせるし、時間も稼げると思う。
その間に私も援軍を要請しておくよ。"」
そう言いながら私は便利屋68に連絡を取る
『はい、こちらは便利屋68!!』
タタタタタッッ!!
声の後ろで銃声が鳴り響いていた
「"戦闘中だったかな?ごめんねアル。"」
『あら、先生じゃない、ふふ、気にしないでいいわ。それで依頼かしら?』
「"うん、アビドス高校がね、カイザーに襲われてるんだけど、
助けてあげて欲しいんだ。もちろん依頼料は出すよ。"」
『うふふ、残念ね。依頼がブッキングしてしまったわ。』
凄く機嫌が良さそうな声だった
「"ッ!もしかしてアルはカイザーに雇われてるの?"」
『いいえ、今回はアビドス治安維持部隊からの依頼よ。
依頼内容を先生になら言っても良いってあらかじめ言われているから教えるわね
アビドスに不法に侵入してきたカイザーPMCの撃滅よ。』
『と言う事で今回は仲間ね、よろしくお願いするわ先生。』
「"治安維持部隊が動いてるんだね。"」
『ええ、お冠よ。今回は社長自らが出陣しているわ。
今も私の近くで戦車が盾に殴られて50mくらい吹き飛んで行ったわ。』
「"それは頼もしい援軍だね。
カイザーPMCの目的はアビドス高校の占拠。
だからアル達も対策委員会の子達と合流して学校を守ってもらいたいんだけど大丈夫?"」
『ええ、先方もアビドス高校の防衛が主目的よ。
またあとで会いましょう。』
そう言うと通話が切れた
「"と言う事で、治安維持の社長さんと便利屋68が援軍で来てくれる。
私はこの後直ぐにホシノが取引した相手、黒服の所に向かってくるね。
必ずホシノを助け出すよ!!"」
「「はい!!」」
今廃ビルの一室に来ている
私の前には、珍しく驚いたような顔をしている、異形頭の化物が居た
こいつの顔を見て表情が読み取れるくらいには顔なじみになってしまった。
「"さて、今回は初めましてだね、黒服"」
「シャーレの先生・・・なぜ、こちらに?」
「"ホシノを返してもらいに来たよ。"」
「クックックッ」
「"先に言っておくけど、私はゲマトリアに入るつもりは無いよ。
後、生徒達に危害を加えるなら君たちの敵にも回る。それを先に伝えておくよ。"」
「!これは、これは。クックック
私の提案が先回りされて全部潰されてしまいましたね。それにゲマトリアをご存じとは。」
「ですが、先生。
貴女の行動に正当性が無い事にお気づきですか?今の貴女にいったい何の権利があって、そんな要求をされているのでしょう?」
「ホシノさんはもうアビドスの生徒ではありません。届け出を確認されていないのですか?」
「"まだだよ、黒服。
まだアビドスで唯一の先生であり顧問の私がホシノの退学書類に判を押してないよ。"」
「"だから、ホシノはまだ対策委員会の所属だし、アビドスの副生徒会長だし、
今でも私の生徒だから。"」
「なるほど、貴女が【先生】である以上、担当生徒の去就には貴女の判が必要。
そういう事ですか。なるほどなるほど・・・
学校の生徒、そして先生・・・ふむ。中々に厄介な概念ですね。」
「"黒服、お前はホシノを騙し、心を踏みにじり、その苦しみを利用した。"」
「ええ、確かに仰る通りです。他人の不幸よりも、私は自分たちの利益を優先しました。
それを否定はしません。私の行動は善か悪かと問われればきっと悪でしょう。」
「ですが、ルールの範疇です。」
「そこは誤解しないでいただきましょうか。」
「”最初から誤解してないよ。黒服”」
「"過不足無くお前達ゲマトリアの事を正確に理解しているよ。"」
「でしたら・・・アビドスから手を引いていただけないでしょうか、先生。
ホシノさんさえ諦めていただければ、あの学校については守ってさしあげましょう。」
「カイザーPMCの事についても、私の方で解決いたします。」
「あの子達もアビドス高等学校に通い続ける事が出来るはずです。」
「そして、これはあのホシノさんも望んでいることのはず。いかがですか?」
「"断る"」
「・・・どうして?どうあっても、私達と敵対するおつもりですか?」
「"最初に言ったはずだよ、黒服。
生徒達に危害を加えるなら君たちの敵に回ると。
ホシノに危害を加えた時点で私は君たちの敵だよ。"」
「貴女は無力です、戦う手段など無いでしょうに!」
懐から大人のカードを取り出す
「・・・先生。
確かに、それは貴女だけの武器です。
しかし、私はそのリスクも薄っすらとですが知っています。」
「使えば使うほど削られていくはずです、貴女の命が、その時間が。」
「・・・そうでしょう?
ですからそのカードはしまっておいてください、先生。
貴女にも貴女の人生があるはずです。
あの子達よりも、もっと大事な事にその命を使ってください。」
「放っておいても良いではありませんか。
元々貴女の与り知る所ではないのですから。」
「"ふふ、黒服お前は私の逆鱗に触れるのがいつも上手いね。
私は・・・私は【あの子達】の為に!
この命を使う!そこに何の躊躇いも無い!
だから、黒服。お前の提案は【断る】"」
「なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?」
何度聞いても壊れた人形みたいで不気味だな
と場にそぐわない事を考えていた
「理解できません、なぜ?なぜ断るのですか?
どうして?先生、貴女は一体何のためにそこまでするのですか?」
「"あの子たちの苦しみに対して、責任を取れる大人が誰も居なかった。"」
「・・・何が言いたいのですか?
だから、貴女がそのすべての責任を取るとでも?
貴女はあの子達の保護者でも、家族でもありません。」
「貴女は偶然アビドスに呼ばれ、偶然あの子達と会っただけの他人です。」
「一体どうして、そんな事をするのですか?
なぜ、背負う必要のない責任まで背負おうとするのですか?」
「"それが、大人のやるべきことだからだよ。"」
「・・・ああ、そうですか。
大人とは【責任を負う者】、そう言いたいのですか?」
「先生、その考えは間違っています。
大人とは望む通りに社会を改造し、法則を決めて、
規則を決め、常識と非常識を決め、平凡と非凡を決めるものです。」
「権力によって権力の無い物を、知識によって知識の無い物を、
力によって力の無い物を支配する、それが大人です。」
「自分とは関係の無い話、なんてことは言わせません。
貴女は、このキヴォトスの支配者にもなり得ました」
「この学園都市における莫大な権力と権限。
そしてこの学園都市に存在する神秘、
その全てが、一時的にとはいえ貴女の手の上にありました。」
「しかし、貴女はそれを迷わす手放した。理解できません。
一体その選択に、何の意味があるのですか?真理と秘儀、権力、金、武力
その全てを捨てるなんて無意味な選択をどうして。」
【あの子達】が笑って楽しそうに過ごしていた日々を思い出す。
「"言ってもきっと、理解できないと思うよ黒服。"」
「・・・良いでしょう。交渉は決裂です、先生。
私は貴女の事を気に入っていたのですが・・・仕方ありませんね。」
「先生、ホシノさんを助けたいですか?
ホシノさんは今、アビドス砂漠のPMC基地の中央にある実験室に監禁されています。」
「【ミメシス】で観測した神秘の裏側、つまり恐怖。
それを生きている生徒に適用する事ができるか、そんな実験を始めるつもりです。」
「もし、ホシノさんが失敗したらあのアヌビスを代わりに、とも思っていたのですが・・・
ふぅ、どうやら前提から崩れてしまったようですね。」
「そういう事ですので、精々頑張って生徒を助けるといいでしょう。
微力ながら、幸運を祈ります。」
「"ありがとう、黒服。
お前のそういう律儀な所は好感が持てるよ。"」
「クックック・・・先生、ゲマトリアは、貴女の事をずっと見ていますよ。」
「"知ってる。ストーカーしか居ないもんね。"」
「クックック、これはこれは辛辣ですね。」
その言葉と共に私は黒服の事務所から退出した
アビドスの対策委員会の教室に着くと、
砂埃などでちょっと汚れてはいたが、無傷で皆が出迎えてくれた
「ん、おかえり先生」
「先生、お待ちしておりました!☆」
「先生!」
「先生・・・」
「"お待たせ皆。"」
「ん。何か掴んできた顔だね
じゃぁ改めて・・・」
「"ん、ホシノを助けに行こう!!!"」
「ん、行こう。」
「"ホシノを助けて、ここに連れ戻す!"」
「はい、そう言って下さると思っていました!」
「"助けて、その後は皆で厳しく叱ってあげないと!!"」
「うんうん!自分で言った事守れなかったんですから、お仕置きです!☆
きちんと叱ってあげないと!」
「"そうだね!【おかえり】って言って【ただいま】って言わせよう!"」
「うんう・・・えっ!?
何それ、恥ずかしい!青春っぽい!背筋がぞわっとする!」
「ん、私はする。」
「セリカちゃんがしなくても、私もします!☆」
「えっ、ええっ!?」
「わ、私も。ちょっと恥ずかしいけど・・・」
「か、勝手にして!私は絶対、そんな恥ずかしい事言わないから!」
「あ、あはは・・・ではそれはそうとして、救出のための準備を・・・」
「でも、今の私達だけじゃ勝てない。誰か協力者を・・・」
「便利屋は?」
「確かに今回は治安維持部隊の依頼と同じだった為、私達の事を助けてくれましたが、
もう一度お願いしても良いのでしょうか?」
「大丈夫だって!また何処に行ったんだか知らないけど、
ここまで散々迷惑かけられてきたんだから、これくらいのお願いは聞いてもらわないと!」
「"ふふん!私に良い考えがある!"」
「え・・・?えっと、それはどういった・・・?」
「"先生のコネを総動員するよ!"」
今度こそ最良の結果を
さーて、先生の裏が見えてきました。
この世界の主要人物皆腹に一物もってますよ。
まぁホシノに関しては可哀想だけど腹に一物持ってると言うより
無理矢理胃袋に鉛みたいな一物叩き込まれただけだけど。
そして、この話は結構書き方が変わってます。
気付いた方が居るかわかりませんが、
カギカッコまたは内心描写等以外で
。を一切使っていませんでした。
ただ、今回はふんだんに使っています。
何故かと言うとその全てが先生の内心描写だからです。