おっさんキヴォトスに行く 作:無い頭のおっさん
habitantibus in regione umbrae mortis, lux orta est eis.
カイザーPMCからアビドス自治区に対して大規模侵略があったその翌日
アビドス都市部の祈願屋事務所で、アンラは椅子に深く腰掛けていた
「報告はそれで全部かいユメちゃん?」
『はい。治安維持部隊、便利屋68、アビドス対策委員会の合同で、
侵攻してきたカイザーPMCはほぼ壊滅。残敵は散発的に砂漠へと撤退していきました。』
「上出来やな」
予定通り、配置も、進行速度も、崩れ方も
すべて想定の範囲内
「ほな、次はホシノちゃんやな。」
その瞬間、机の上のスマホが震えた
表示された名前に、おっさんはわずかに口角を上げる
「ほんま、タイミングええよな。」
通話を取る
「おつかれさん、先生。ちょうど今アンタの話しとったとこやで」
『"奇遇だね。私もだよ"』
「誰とかは想像着くけど、聞かんとくわ。」
軽口を交わしながらも、互いに本題は理解している
『"単刀直入に言うね。ホシノの救出を手伝ってほしい"』
「やろな、そのための盤面はもう整えたんやろ?
それでもおっさんの力がいるんかい?」
「”私は、自分が出来る全ての札を切ってでもやり遂げるって決めたからね。”」
「おーおーカッコいいねぇ先生。
男前だよ。でも残念やけど、おっさん自身は動けないんや。
ちょっとおっさんじゃないと出来ない別件があってな。」
短い沈黙
「何、誰も手伝わないとは言ってないで、うちの部下を向かわせる。
おっさん程じゃないけど、カイザー全戦力を相手取っても勝てる位には強いで。」
『"助かるよ"』
「まぁ依頼やからな、酒の席では期待しとるで。」
その言葉と共に先生との通話を切った
先生からの通話を切った後、
すぐさま、ユメに連絡を取った
「ユメちゃん、朗報や。
ユメちゃんが表立って動ける大義名分が出来たで。
シャーレからの依頼や、ホシノの救出を手伝ってほしいだとさ。」
『アンラさん。今直ぐに行きますか?』
「いや、便利屋68に依頼を出してから、やな。
便利屋68と共に現地のカイザー基地に殴り込みに行ってくれ。
全責任は先生が取ってくれるそうやから、今回は被害規模は気にしなくて良いで。」
『あはは・・・全力でやります。』
「まかせた。ほな便利屋ちゃん達に依頼出し終わったらそっちも一報入れるわ。」
そう言うとまた通話を切り、
今度は最上階に事務所を構えている、便利屋に直接向かった
【コンコン】
ノックと共に事務所の玄関扉を開けた
「昨日はお疲れさん。」
「あら、アンラさんじゃない。
昨日みたいな依頼ならいくらでもいいわよ!」
「それはよかったわ。
また依頼やねん。今度の依頼はな、
【砂漠の真ん中の悪い大人たちの要塞から、お姫様の救出】やで、
面白そうやろ?」
「うふふ、いいわね。その依頼受けるわ!』
即答するアルの後ろで、
カヨコの眉がわずかに動いた
(・・・それ)
聞いたことがある
【冗談】として流した依頼・・・
(まさか・・・全部?)
一瞬だけ、背筋に冷たいものが走る
(いや、まさかね)
「ほな、この後うちの社長と合流して現地に向かってくれ、
場所は社長が知ってるわ。頼んだで」
「ええ!まかせて頂戴!」
≪梔子ユメ視点≫
銃声が響く
爆炎が視界を焼く
カイザーPMCの包囲網の中で、先生と対策委員会は確実に押し込まれていた
(間に合った。)
その瞬間
空気が裂けた
ドゴォォォォンッ!!!
砲撃にも似た轟音と共に、何かが包囲の一点を【貫いた】
それは盾だった
あり得ない速度で投げ込まれた鋼の塊が、
兵士も兵器も関係なく、一直線に薙ぎ払う
「なっ――!?」
誰かが振り向いたその先
次の瞬間には、もう【そこにいた】
砂煙を引き裂いて、フルフェイスの影が突っ込んでくる
盾の軌道をなぞるように
着地と同時に、片手のデザートイーグルが火を噴いた
ドバンッ!
一発
直線状に居た数人が赤い閃光と共に薙ぎ払われ、
背後のロボットごとスクラップになる
「増援・・・!?」
「いや、あれ・・・!」
そうセリカちゃんが指をさして来た
私の腕についてるアビドス治安維持部隊の腕章を
私は後輩ちゃん達を見る事無く、さっき投げつけた盾の鎖を引く
ガシャリ、と
投げたはずの盾が、鎖に引かれて私の手元に戻る
そしてその勢いを殺す事なく、
そのまま、鎖を振るう
500kgを超える鉄の塊が付いた鎖がカイザーPMCに襲い掛かる
「っ!、退・・・」
(遅い)
重量と速度を乗せた盾による一撃が、まとめて数体を薙ぎ払い、鉄屑へと変える
動きは無駄がない
迷いもない
ただ、【破壊】だけがそこにあった
「”・・・来たね”」
先生が小さく呟く
その声に、わずかに反応するように
フルフェイスの越しに先生を見つめ首を縦に振った
盾が唸りを上げるたび、包囲は削られていく
一歩踏み込むごとに、味方が消える
あまりにも一方的な光景に、カイザーPMCの隊列に明確な【揺らぎ】が走った
「な、なんだあれ・・・!」
「人間か?」
後退りする兵士の一人が、震える声で呟く
その視線の先、砂煙の中で躍るフルフェイスの影
「あ、あの戦い方・・・」
記憶の奥底にしまい込んだ恐怖の象徴
盾、鎖、無茶苦茶な突撃
それなのに、無駄が一切ない動き
「まさか・・・いや、でも」
否定しようとして、できなかった
「アビドスの悪夢が帰ってきた・・・!」
その言葉が、戦場に落ちた
一瞬の静寂
そして――
ギャリッ、と
重い金属が擦れる音
気づいた時には、もう遅く
上から落ちてきた【それ】が、声の主を捉えていた
振り下ろされた盾が、PMCの身体を縦に押し潰していた
まるで空き缶を縦に踏み潰すように
抵抗も、悲鳴も、形を保つ時間すら与えられなかった
何事もなかったかのように、盾が持ち上がる
その裏に残っていたものは、もう【元の形】は保っていなかった
ギリ、と
フルフェイスの奥で、僅かに歯噛みする
(・・・その名前を)
(後輩ちゃん達が居る所で言わないでくれるかな。)
次の瞬間には、再び動き出す
何もなかったかのように
ただ、敵だけを排除する機械のように
「……え?」
小さく漏れた声
対策委員会の面々も、今の一言ははっきりと聞いていた
「アビドスの・・・悪夢?」
「ん、強い。凄く」
シロコが短く答える
その目は細められたまま、相手の動きを追っていた
「ホシノ先輩なら、知ってるかもしれない」
「え?」
「助けたあとで、聞く」
淡々とした声
だけど、その視線にはわずかな熱が宿っている
ぽつりと呟く
「全部終わったら戦ってみたい」
「はぁ!?」
「ちょっとシロコ先輩!今そんな事いってる余裕ないでしょ!?」
「ん、でも気になる」
戦場の只中で、
一人だけ方向性の違う興味を抱いている仲間に、
セリカは思わず頭を抱えた
戦線は、すでに傾いていた
たった一人に
フルフェイスの影が進むだけで、前線が押し上げられていく
盾が唸るたび、敵が消える
銃声が一つ鳴るたび、進路が開く
「な、何なんだよあいつ……!」
「止めろ!足を止めさせろ!」
叫びも虚しく、前線は崩壊寸前だった
そこへ
「ちょっとちょっと!置いてくなんて聞いてないわよ!?」
砂煙を切り裂いて、別の一団が飛び込んでくる
「便利屋68、遅れて到着よ!」
アルの声と同時に、横合いから火力が叩き込まれる
すでに崩れかけていた陣形は、その一撃で完全に瓦解した
私は周囲の戦況を見渡す
対策委員会の位置
先生の動き
そして、今しがた追いついた増援
(うん、十分だね。)
私は対策委員会と先生へと視線を向け
無言のまま、腕を上げる
指先で示したのは、半壊した搬入口
地下へと続く、暗い穴
「ん、あれ」
シロコが即座に反応する
「地下への入り口」
私は何も言わない
ただ、もう一度だけ、同じ場所を指す
(行って。)
「先生」
「ああ……うん」
先生が短く頷く
「"行こう。ホシノはあそこだ"」
「で、でも・・・!」
セリカちゃんが振り返ってくる
(心配してくれるんだね。
でも、アビドス生徒会長はこの程度の数じゃやられないよ。)
その瞬間
盾を振り抜き敵陣に投げ込む
邪魔をしようと突っ込んできた敵の集団が、まとめて吹き飛ぶ
(後輩ちゃん達の邪魔はさせないよ。)
「・・・っ、わかった!」
「ん、任せる」
対策委員会は進路を変える
先生を最後尾に、地下への入口へと走り出した
「ホシノちゃんをよろしくね。」
≪ホシノ視点≫
「……そっか」
ぽつりと、声が零れた
黒服の言葉
カイザーとは無関係
最初から全部、繋がってなかった
「私は・・・」
また騙された
「・・・ごめん、みんな。
私のせいで・・・ほんと、学ばないなぁ」
でも、
ゆっくりと目を閉じる
これで、いい
私がここで終われば
少なくとも、アンラさんがアビドスに手を出す【理由】は消える
「・・・あの人が本気で来たら」
今の皆じゃ・・・抵抗すら出来ない・・・
だから
「私の命で止まるなら、安いよね。」
そう呟いた瞬間
胸の奥が、わずかに軋んだ
浮かぶ顔
教室でくだらない話をしてた時間
可愛い後輩たちの声
先生の、あの少し抜けた笑い方
「・・・やめてよ」
今は、今だけは思い出したくなかった
決めたのに
もう、迷わないって
「・・・っ」
唇を噛む
私は
ユメ先輩を殺した・・・
アンラさんの片腕を奪った・・・
そんな私が
今さら、何を迷ってるんだ
「・・・許されるわけ、ないでしょ」
その時だった
『諦めるなよ』
「え・・・?」
凍りつく
今の・・・
『お前には、必ず楽しい未来が来る』
「・・・なん、で」
聞き覚えがある、でも
思い出せなくなったはずの声
『好いてやまない、頼りがいのある大人も現れただろ?』
頭の奥に、直接響く
逃げ場なんて、どこにもない
『だから、』
一瞬、息が止まる
『何死のうとしてんだ、ホシノ』
心臓が、大きく跳ねた
「っ、ぁ・・・」
呼吸が上手くできない
胸が、苦しい
『生きろよ、ホシノ』
その一言が、頭の中で反響する
「・・・っ!!」
視界が揺れる
何それ
なんで今さら・・・
思い出すのかな・・・
「・・・そんなの」
そんなの、今さら
もう、終わりにするって
そう決めたのに
でも
「・・・いいのかな」
気づけば、口が勝手に動いていた
「私・・・」
喉が震える
「生きてて、いいのかな・・・」
その瞬間、決壊した
「っ、ぁ・・・っ!」
涙が溢れる、止まらない
「やだ・・・」
違う、こんなの・・・
ちゃんと死なないといけないのに・・・!
でも・・・
「死にたく、ないよ・・・っ」
声にならない声が、零れる
「っ、やだよぉ・・・」
子供みたいに、ただ、嫌だと
今さらそんなこと
「・・・っ、ぅ・・・あぁっ!!」
止められない
ずっと押し込めていたものが
全部、溢れてくる
その時
ドガァァァァンッ!!
爆音と共に扉が吹き飛んだ
その爆発で私を拘束していた物も解かれていた
「ホシノ先輩!!!!」
「あ、あれ・・・皆、どうやって・・・」
「どうして・・・だって、私は・・・」
「"ホシノ迎えに来たよ。"」
(あぁ・・・そっか・・・皆が、先生が・・・)
(私は、本当に生きていていいんだ・・・)
「お、おかえりっ!先輩!」
「ああっセリカちゃんに先を越されてしまいました!
恥ずかしいから言わないって言ってたのに、ズルいです!!」
「う、うるさいうるさいっ!順番なんてどうでも良いでしょ!」
「ん、無事でよかった。」
「ホシノ先輩、おかえりなさい!!」
「おかえりなさい、です☆!!」
「ん、おかえり、ホシノ先輩。」
「・・・あ、はは・・・
なんだか皆、期待・・・に満ちた表情だけど。」
涙が止めどなく溢れてくる
「・・・求められてるのは・・・あのセリフ?」
「ああもう!わかってるなら焦らさないでよ!」
「うへ~・・・可愛い後輩達のお願いだし、仕方ないなぁ・・・」
「ただいま!みんな!」
(あぁ……)
(ここに・・・居ていいんだ。)
とうとう、対策委員会編完結しました。
長かった・・・
あ、でもこの後結構何話か閑話が間に挟まります。
結構色々触れてない事回収してない事があるんで、
アビドスで起こった事はアビドスで終わらせる。
基本この精神でやるんで閑話が長くなるかもです。
あとこの小説は基本原作をトレースして進んでいきます。
つまり。
ロア編まで進む気マンマンです。
大丈夫なのか俺。まぁ未来の俺がきっとなんとかしてくれる。
未来の俺から殺気が飛んできたような気もするけど気にしない方向で行きますね。
この後は閑話を何話か挟んで、
それから時計じかけの花のパヴァーヌ編 第1章をぶち込んで
皆大好きエデン条約編に入ります。
ちなみにミレニアムもおっさんの影響が既に結構はいってます。
あとがきを読んでくれてる人がいれば知ってるかもしれませんが、
おっさんは子供が出来なかったので、
それはもうゲーム開発部の子らを溺愛してます。
爺さんが孫を可愛がるくらいに溺愛しています。
もう・・・鏡争奪戦がどうなるか・・・私にもわかりません。
多分理性を効かせて動かないと思う・・・思いたい・・・なんかその場のテンションで
いらんことしそうなんですよねぇあのおっさん・・・
自分も基本プロットを作ってあとはそれぞれのキャラを作ったキャラシ的なのを持って、
そのキャラを自分の中に落とし込んでその時のノリでこう動くなこいつはっていう感じで、
物語を進行しているので、たまにとんでもない動きして、自分でしたのに自分がダメージ入る事が多いです。
まぁ今回はおっさん豆知識は重くない物にしておきますね。
折角ホシノちゃんが生きる気力持ってくれましたし。
おっさんが持っている黒い液状の何かは、
液体金属です。
おっさんの魔力やら神気やらを食わせる事で体積を変化させる事が出来ます。
形態種類は
現状出ているグリーブ、刀、そして記載はしませんでしたが、弓もそうです。
他に連接剣、鎌とあります。残ったこの二つは凄まじく使い勝手の悪い極地特化兵装なんで
そうそう出て来ないですね。
そういえば、以前弓を空に向かって撃つのがおっさんの朝の日課って言いましたよね。
あれ今も続いてます。
この2年間ずっと続いてます。
あと何故かこの2年間ずっとカイザーの重要施設が
流れ星にぶち当たって全壊する事件も続いてます。
あまりにも続いてるのでもうカイザーの施設が壊れるのは
いつもの事になってしまい報道もされません。かわいそうですね(笑)
それにより、カイザーの重要施設は基本地下に作られるようになりました。
が、何故かバンカーバスターのような流れ星が的確に入り全壊してますね
不思議な事もあるものです。
あ、そういえば前書きの奴ですけど、
気付いた方が居られるかもしれませんが、
vanitas vanitatum, et omnia vanitasと同じ、ラテン語訳の旧約聖書の一文です。
基本ラテン語で書かれている前書きは、
そのお話のあらすじに沿った、旧約聖書の一文をチョイスして書いてます。