おっさんキヴォトスに行く   作:無い頭のおっさん

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Vere languores nostros ipse tulit, et dolores nostros ipse portavit; et nos putavimus eum quasi leprosum, et percussum a Deo, et humiliatum.

Ipse autem vulneratus est propter iniquitates nostras, attritus est propter scelera nostra: disciplina pacis nostrae super eum, et livore ejus sanati sumus.

救世主は誰が救う


おっさん先生と飲み明かす

おっさんは今シャーレに来ていた。

以前は忍び込んだが、今回は正式に客として訪問していた。

 

部屋に入った瞬間、鼻を刺すアルコールの匂い。

——いや、“刺す”なんてもんやない。

並んでる瓶の時点で、もう性格が悪い。

 

(・・・殺す気か・・・?)

 

ラベルの度数と配置。

初見殺しの順番に並べられてるあたり、

【歓迎】の顔したちょっとした仕返しだった

 

「にしても、先生本当に酒の席を用意してくれるとはなぁ」

 

「"約束はちゃんと守るよ。私は生徒たちの規範なんだからね。"」

 

「そいつはまぁお偉いこって。」

「それで、その規範の先生は、いったいどこでこんなどぎつい酒仕入れてきたんや・・・?」

 

「"それは私のコネとしか言えないかな?"」

 

「規範ねぇ・・・」

 

並んでいるのは、規範どころか処刑具に近いラインナップやなぁ・・・

 

「・・・先生は・・・寒冷地出身だったりするんか?

酒決め込んで寝ないと死ぬような・・・」

 

「"文化的には百鬼夜行に近い所からこっちに来ましたよ。"」

 

「さよか・・・」

「ほんならおっさんになんか恨みあったりする?

ほんのりこのお酒のラインナップは殺意を感じるんやけど?」

 

「"いえいえ、そんなのありませんよ。"」

「"ええ、ありませんとも、子供の事を長年騙して泣かせたりとか、

酒のみ仲間が居ないと誘っておきながら若い女の子と宴会してるとか

なにも思ってませんよ。"」

 

「めっちゃ含みあるやん。」

 

軽く笑いながらも、その目は笑っていない

ほんの少しだけ棘を混ぜた物言い——

 

(まぁ当然やなぁ怒らん方がおかしい。)

「まぁ前者に関しては先生は怒るやろうなぁ・・・

それでもおっさんはアレが一番正しい道やったと思うけどな。」

「あと、ユメちゃんとの宴会に関してはアビドスの土地をやっと解放出来たんやし、

戦友と酒飲むくらいはええやん。」

 

「"まぁ・・・あの後土地の話を聞いたらたしかに理解は出来ますけどね。"」

 

ほんの少しだけ、トゲが丸くなる

納得はしている。でも感情は別——そんな声

 

「ま、そない話は置いといて、さっそくなんか飲もうや。

おっさん流石にこの火酒類は飲み方しらんのやけど、先生おすすめの飲み方で出してくれん?」

 

「"わかりました。とりあえず最初の一杯目はコレに限りますね。"」

 

そう言って差し出された透明な液体

ラベルには【spirytus】の文字

 

「へ~そうなんやな。ちなみにコレストーレートで飲むん?」

 

「"ええ、そうですよ。まずは一発目はストレートが基本ですね!"」

 

満面の笑みで先生がそう進めてきていた

 

「へ~ほな一杯・・・」

 

おっさんが【spirytus】に口を付けた

 

口に含んだ瞬間、思考が一瞬で焼き飛ぶ

 

ゴフッ、な、なんやこれ。エタノールかなんか?」

 

「"エタノールじゃないですよ、ほら見てください。"」

 

瓶を見せられて、思わず声が出る

 

「いやいや待て待て!!95%alc./volってかいてんじゃねーか!!」

「これ酒やなくてアルコールやろ!!」

 

「"こんなに美味しいのに・・・"」

 

唇を尖らせるその顔に、一瞬だけ違和感を覚える

 

(・・・あぁ)

 

年相応、や・・・

普段の【先生】やなくて、ただの子供の顔。

 

「はぁ・・・まぁこっちでコーラと割って飲むわ・・・」

 

「"まぁ自分が美味しいと思う飲み方が一番ですからね。"」

 

「先生いつか死ぬんじゃないか・・・?

いや・・・いっそのことセリナを呼ぶか・・・?」

 

「"!?、いや!それはやめて欲しいです!!絶対呼ばないで?!"」

 

——反応が早すぎる

 

言葉より先に拒否が出てる

その瞬間、確信に変わる

 

「・・・なんか・・・しょーもない事で先生の裏とれちまったなぁ・・・」

 

「"え?"」

 

「なんで、先生はセリナを知っとるんよ?」

 

一拍

先生の視線が揺れる

 

「”っ!、いえ、キヴォトスに来た当日に一通りの生徒は覚えたんですよ!”」

 

「生徒名簿に、呼んだらどんな所でも召喚される

謎生徒なんて書いてるわけねーやろ・・・」

 

「"ですよね・・・"」

 

諦めが早い、誤魔化す気も、もう薄い

 

「えらい諦めるの早いなぁ」

 

「"なんとなく、アンラさんも私と同じな気が前からしていたんです。"」

 

「同じねぇ・・・多分先生とおっさんは本質的な所では違うと思うぞ?」

 

「"そうなんですか?キヴォトスをやり直してるんじゃ・・・?"」

 

「いや、それはおっさんじゃないなぁ。」

 

視線を、自然とあのタブレットに落とす

 

「それをやってた奴は1人知ってるけど今はおらんからな。」

 

「"そうなんですね・・・じゃーアンラさんはやり直してないんですか・・・?"」

 

「せやな、おっさんは全部が上手く行った未来を知ってるだけや。」

 

——その瞬間

 

空気が変わる

 

「"!!!、それはどんな未来ですか!?どうすれば!!"」

 

食いつきが早い

焦りが、そのまま表に出ている

 

(あぁ・・・追い詰められとるな)

 

「落ち着け。それは言えん。先生が自分で辿り着かんといけん未来や。」

 

「”っ・・・そうですか・・・”」

 

沈む顔

けど、泣かない

 

「・・・先生はもう何週目なんや?」

 

「"多分・・・300は超えました。"」

 

(……300、ね)

 

軽く言う数字やないな

その重さを理解して、それでも言ってるんやろな

 

「300回は生徒達の死に目に会ったのか。」

 

言った瞬間、顔が歪む

 

でも——崩れない

 

(壊れることすら許されてへん顔やな)

 

「"・・・"」

 

「先生、一つ良い事を教えるわ。

先生をキヴォトスのループに巻き込んだ犯人は今はもう居ない。」

「つまり次はもう無い。この周で奇跡に到達しなければ本当に子供達は死ぬことになる。」

 

「"なんで・・・そんな事がわかるんですか・・・"」

 

「さっき言ったやろ。やり直ししてる奴を知ってるって。

そいつが今回はやり直しをする側におらん。そいつは先生に全部任せて傍観する事に決めた。」

 

「"そうですか・・・でも私自身、この周で全てを終わらせるつもりです。"」

 

「さよか・・・」

 

「なぁ・・・先生。自分を犠牲にした先の未来で子供は笑うと思うか?」

 

「"っ!・・・何が・・・判るんですか・・・"」

 

「まぁまぁ、年長者のお話は聞くもんや。

おっさんは先生より遥かに多い数世界を巻き戻した事がある。」

 

「"・・・え?"」

 

「一人の為に世界を犠牲にし続けて、巻き戻し続けて・・・」

「その人に言われたよ。私の為にと言うならもうやめて欲しいってな。」

「おっさんはそこで止まらなかった。いや、止まれなかった。

既に屍の山が出来てたからな、その犠牲が俺が歩みを止める事を許さなかった。」

 

「先生は・・・自分で子供達を殺したわけじゃない、

その死に顔が呪いになって止まれなくなってるだけや。」

「その子達は先生に生きて欲しい、だから死んでいった。そうじゃないんか?」

 

「それでも、私は——」

「"・・・私はあの子達が笑う未来の為なら・・・"」

 

声は安定している

でも中身は、もう限界なんやろな

 

「本当に笑ってほしいなら自分も一緒に生徒達と笑わないとな。」

 

「"そんな未来!私だって辿り着けるなら辿り着きたかった!!!!"」

 

今まで“先生”として押さえつけていた感情が、涙と共に一気に溢れ出す

 

「やろなぁ・・・でも先生忘れたんやないか?

おっさんはその未来を知ってるって。」

 

「"ぁ・・・"」

 

ほんの一瞬

その目に、光が差す

 

(……蜘蛛の糸、ってやつやな)

 

地獄の底に垂れた、たった一本の希望

 

 

「先生新しく俺と契約を結びなおそうか。

先生への条件はそうやな、先生が無駄に大人のカードを切らない事。

その代わり、先生がどうしても無理な時はおっさんを呼んで良いで」

 

「"助けてくれるの?"」

 

その声は、もう“先生”のものではなかった

ただの子供の、大人になるしかなかった、子供の声だった

 

「流石に、さっきみたいにボロ泣きしとった女をほったらかしにするほどクズでもないわ。」

 

「あははは!女、女かぁー・・・久しぶりに聞いたなぁ。」

 

(・・・あぁ、そういうことなんやな)

 

誰も、そう扱ってこなかった

 

「・・・なんか琴線に触れたんか?」

 

「うん、ちょっと久しぶりに楽しい気持ちになったよ。」

 

無理のない笑顔、作ったものじゃない

 

「アンラさんのその契約、受けるよ。絶対助けてね?」

 

声が、軽い

肩の力が抜けている

 

(やっと降りてこれたんやな。)

 

“先生”という役割から

 

「まぁ助けるは助けるが・・・未来が変わらない範囲やしな?」

 

「うん、よろしくね。アンラさん。」

 

「あいよ。聖良(セイラ)ちゃん。」

 

名前を呼ぶ

ほんの少しだけ、目が揺れる

 

「名前を呼んでもらうのもなんかすごく久しぶりなきがするなぁ・・・」

 

「ま、生徒は皆先生呼びやからな。」

 

そう言いながら二人で火酒をあおる

 

さっきまでの重さが嘘みたいに、空気が軽かった

 

 

「そういや、先生!あんたこの前ようもやってくれたな?!」

 

「なんのことかなー?」

 

「アビドスの練習試合や!」

 

笑い声が混ざる

 

——もう、大丈夫やな

 

さっきまで、悲壮に折れそうだった

 

いや、違う

折れることすら許されず、“大人”で居続けるしかなかった少女

 

 

 

その重荷を、ほんの少しだけ下ろした―――ただの少女の顔だった

 

 




ずっと疑問やったんよね。
先生なんて言っても。
20代くらいの子供。
そんな子供が、同じ子供達を庇って、その命を使い潰す。
そんな救世主然とした物語。

救世主(羊飼い)は誰が救う?


神も羊も救わないなら

悪人が救うしかないよね。
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