おっさんキヴォトスに行く 作:無い頭のおっさん
本日投稿分1/2です!前半です!気を付けてくださいね!
ミレニアム郊外――廃墟地帯
崩れた高速道路の下を、
ゲーム開発部の面々と先生、おっさんが歩いていた
頭上では、途中で折れた高架道路がまるで巨大な墓標みたいに空へ突き出している
遠くに見える灰色のビル群
窓ガラスはほとんど割れ落ち、
風が吹くたび、どこかで金属が軋む音が響いた
空気そのものが、どこか冷たい
ユズはあたりを見回し、その景色を見つめていた。
「・・・ここが、廃墟区域。」
「うん!」
モモイが勢いよく頷く
「前に私達がアリスを見つけた場所!」
「正直かなり危ない場所だけどね・・・。」
ミドリが小さく肩を竦めた
「警備ロボットがあちこち徘徊してるし、前に来た時も普通に襲われたし・・・。」
「えっ・・・。」
ユズの肩がぴくりと震える
彼女の視線が、思わず周囲の瓦礫へ向いた
「だ、大丈夫なの・・・?」
「大丈夫大丈夫!」
モモイが笑いながら言う
「今回も先生とアンラさんが居るし!」
「いやお姉ちゃん、その二人前提なのちょっとどうかと思う。」
「えぇー?でも実際そうじゃない?」
「まぁ否定は出来ないけど・・・。」
そんなやり取りを聞きながら、
ユズは少し不安そうに制服の袖を握った
その様子に気付いたのか、先生が優しく声をかける
「"ユズ、大丈夫だよ。"」
「"危なくなったら、ちゃんと私達が守るから。"」
先生の声音は穏やかだった
それだけで、張っていた空気が少しだけ和らぐ
「・・・はい。」
ユズは小さく頷いた
その隣で、おっさんがぼそりと呟く
「まぁ、流石に今回は前よりマシやとええんやけどなぁ。」
「前回はロボットの歓迎会凄かったもんね。」
モモイがげんなりした顔になる
「もうほんと、わらわらと湧いて出てきたし。」
「工場に着くまで本当に大変だったよね・・・。」
ミドリも苦笑混じりに続ける
「・・・工場。」
ユズがその単語を小さく繰り返した
「アリスちゃんが居た場所・・・。」
「うん。」
ミドリが頷く
「だから今回も、まずはあそこを調べようって話になったの。」
「それにしても……。」
モモイが辺りを見回しながら、少し首を傾げた
「なんか静かじゃない?」
「……あ。」
ミドリもその言葉で気付いたように周囲を見る
崩れた車
倒壊したビル
ひび割れた道路
廃墟らしい光景は広がっている
けれど――
「・・・ロボットが居ない。」
ミドリがぽつりと呟いた
ユズがびくりと肩を揺らす
「えっ・・・?」
「前に来た時は、廃墟区域に入って少ししただけで遭遇したんだよ。」
「しかも一体じゃなくて、かなりの数。」
モモイが苦笑する
「うん・・・」
ミドリも頷いた
「あの時は工場に着くまで、ずっと戦ってた気がする・・・。」
だが、今の廃墟は静まり返っており、風が吹き抜ける音だけが耳に入る
前回来た時にはそこら中から聞こえていた、機械の駆動音が一切しなかった
瓦礫の隙間
ビルの影
本来ならロボットが巡回していてもおかしくない場所が、
まるで最初から何も存在しなかったかのように空白になっている
(・・・おかしい。)
思わず目を細める
ロボットがおらん事自体は別にええ
むしろ歓迎すべき事や
けど――居なさ過ぎる・・・
前回来た時は、廃墟区域へ入った瞬間から警備ロボットがうろついとった
あれだけ大量に居ったもんが、一体残らず消えとるなんて普通やない
ちらり、と隣を見る
先生も同じ事を感じ取ったんやろう
さっきからずっと周囲へ視線を巡らせとる
「・・・アンラさん?」
ミドリが不思議そうにこっちを見た
「なんか変?」
「・・・静か過ぎる。」
先生が小さく口を開いた
「"ロボットが居ない事自体は良い事なんだけど・・・。"」
「"前回との差が大き過ぎる・・・"」
短いやり取り
けど、それだけで十分だった
モモイ達も空気を察したのか、少しだけ表情を硬くする
「な、なんか嫌な感じ?」
珍しく声を潜めるモモイ
「・・・わからん。」
正直にそう答える
「せやけど、こういう時の【何も無い】は、大抵碌な事にならん。」
その言葉に、ユズがぎゅっと袖を握った
先生はそんなユズへ安心させるように微笑む
「"大丈夫。"」
「"まずは予定通り、工場へ行こう。"」
「・・・はい。」
ユズは小さく頷いた
一行は警戒を強めながら、再び廃墟の奥へ進み始める
足音だけが、静かな廃墟へ小さく響いていた
巨大なシャッターは半開きのまま
前回来た時とほとんど変わっていなかった
薄暗い入口の奥は、まるで口を開けた怪物みたいに見える
「・・・入れる、ね。」
ユズが小さく呟く
「うん。」
ミドリが頷いた
「前もここから中に入ったの。」
「・・・行こっか。」
モモイが珍しく声を潜めたまま言う
そのまま全員で工場内部へ足を踏み入れる
薄暗い通路
止まったベルトコンベア
放置された機械群
埃っぽい空気が鼻につく
だが――
「・・・普通に入れちゃったね。」
モモイがぽかんとした顔をした
「う、うん……。」
ミドリも拍子抜けしたように辺りを見回す
おっさんは返事を返さなかった
肩透かしみたいな状況、逆にそれが不気味だった
静か過ぎる
何も起きなさ過ぎる
工場全体が、まるで息を潜めているみたいだった
そうして、全員で工場内を進んでいくと、
ふと、アリスの足が止まった
「ここは・・・?あ・・・」
アリスが僅かに目を見開く
「アリス、どうしたの?」
「わかりません・・・ですが、どこか見慣れた景色です。
こちらの方に行かないといけない気がします。」
そう言うとアリスは、工場内の通路に進んで行った
迷いの無い足取りだった
「えっ?」
「工場内の記憶が残っとったんか?」
「アリスの記憶にはありませんが・・・
まるで【セーブデータ】を持ってるみたいです。」
「この身体が、反応しています。」
「例えるなら、そう、チュートリアルや説明が無くても進められるような・・・
或いはまるで何度もプレイしたことのあるゲームを遊んでいるかのような・・・」
「どういう事・・・?確かに、元々アリスが居たところと似たような場所だけど・・・」
「あっ、あそこにコンピューターが一台・・・あれ?」
「あのコンピューター、電源が付いてる・・・?」
暗い工場の中で、そのモニターだけがぼんやりと光を放っていた
アリスとモモイとミドリはパソコンの方に向かっていった
先生は何か思い詰めた様な顔をして、その一台のパソコンを凝視していた
「"・・・"」
表情は穏やかなままやけど・・・
多分、今の先生はかなり張り詰めとるな・・・
「先生大丈夫か?」
「"・・・はい"」
返事はあった
けど、間があった
「・・・まぁなんかあればフォローはしたるさかい。気楽にな・・・」
「"・・・"」
(全然大丈夫じゃなさそうやな・・・)
そんなやり取りをしつつも、パソコンの近くに向かうと
パソコンから音が鳴り始めた
【ピピッ】
静かな工場の中で、その電子音だけが妙に大きく響いた
【Divi:Sion Systemへ、ようこそお越しくださいました。】
【お探しの項目を入力してください】
「"・・・"」
(自分でDivi:Sion Systemなんぞ名乗って隠す気ねーやろコイツ・・・)
「おっ、まさかの新設設計。G.Bibleについて検索してみよっか?」
「いや、ちょっと怪し過ぎない?それより【ようこそお越しくださいました】って事は・・・」
「【ディヴィジョンシステム】って言うのがこの工場の名前?」
アリスが一歩パソコンに近づいた
「キーボードを発見・・・G.Bible、と入力してみます。」
「あっなんか出た!」
【・・・#$@#$$%#%^*&(#@】
「こ、壊れた!?アリス、いったい何を入力したの!?」
「い、いえ、まだエンターは押していないはずですが・・・」
【あなたはAL-1Sですか?】
そう表示された瞬間モモイとミドリの顔が驚愕に染まる
「いえ、アリスはアリスで・・・」
「ま、待って!・・・外のロボットの事もそうだけど何かおかしい。
アリスちゃん、今はとりあえず入力しない方が・・・」
【音声を認識、資格が確認出来ました。おかえりなさいませ、AL-1S】
「え!?」
「音声認識付き!?」
「えっと・・・AL-1S、っていうのは、アリスちゃんの事なの?」
「あ、ごめん。そういえばまだユズちゃんには言ってなかったかも。」
「・・・アリスの、本当の名前・・・本当の、私・・・」
「あなたはAL-1Sについて知っているのですか?」
【・・・・・・・】
「反応が遅い・・・?」
「何か画面んもぼんやりしてきたけど、処理に詰まってるのかな?」
【そうで・・・@!#%@!$%@!!!!】
「え、え?ナニコレどういう意味!?」
【それは・・・・・・緊急事態発生。】
【電力限界に達しました、電源が落ちると同時に消失します。残り時間51秒】
(急に流暢になるやんけ・・・ケイお前ここらへん、思い付きで行動しとったな?・・・)
「ええっ!?だ、ダメ!せめてG.Bibleのことをおしえてからにして!」
【あなたが求めているのは、G.Bibleですか? <YES / NO> 】
「!?」
「YES!」
【G.Bible・・・確認完了、コード:遊戯・・・】
【人間、理解、リファレンス、ライブラリ登録ナンバー193、廃棄対象データ第一号。】
【残り時間35秒。】
「廃棄!?どうして!?それはゲーム開発者たちの、いやこの世界の宝物なのに!」
【G.Bibleが欲しいのであれば、提案します。
データを転送するための保存媒体を接続してください。】
「えっ・・・?G.Bibleの在り処を知ってるの?」
【あなたたちも知っています。】
【今、目の前に。】
「ど、どういうこと!?」
【正確には、私の中にG.Bibleがあります。
しかし現在私は消失寸前、新しい保存媒体への移行を希望します。】
(私・・・ねぇ・・・?)
その文章が出てきたと同時に、先生が朗らかな顔で自身の懐に手を入れた
「"あ、丁度よかったよ。仕事に使ってた大容量のUSBメモリがあるんだよね。"」
そういって先生は懐からUSBメモリを取り出した
が、その手には何も握られていなかった
先生は一瞬、自分の手元を見つめ――
次の瞬間、何かに気付いたようにこっちを睨んだ
「ん?なんや先生、保存媒体忘れてきたんか?」
「まぁでも、たしかモモイはいつもゲーム持ち歩いとったやろ?」
「アレのメモリカードとかどないなん?」
「"掏りましたね・・・!!"」
「あ、そっか!それがあった!ありがとアンラさん!」
「この【ゲームガールズアドバンスSP】のメモリカードでも大丈夫そう?」
【・・・・・・・・・まぁ、可能、ではあります。】
「ごっつ不服そうで笑うわ」
「"アンラさん後でお話があります・・・!!"」
「・・・こっちにもごっつ不服そうな奴おって笑うわ。」
「な、何だか凄く嫌がってる感じがするんだけど・・・気のせい?」
そんなやり取りをしつつも、ユズは淡々とゲーム機とパソコンを繋いでいた
「データケーブル・・・連結完了!」
【転送開始・・・保存領域が不足、既存データを削除します。残り時間9秒】
「え、嘘っ!?もしかして私のセーブデータ消してない!?ねぇ!?」
【容量が不足している為、確保します。】
「だ、ダメ!お願いだからセーブデータは残して!そこまで装備揃えるの凄く大変だっ――」
【残念、削除。】
「ハハハ、笑う。」
おっさんが腹を抱えて笑っていた
「ちょっとおおぉぉぉおおお!?」
【・・・・・・】
「あれ・・・電源、落ちちゃった・・・?」
「ああぁぁ!私のゲームガールズアドバンスのデータがあぁぁっ!!」
「あ、待って!」
「何かが画面に・・・?」
【転送完了。】
「え?」
【新しいデータを転送しました。<G.Bible.exe>】
「こ、これって!?」
「こ、これ今直ぐ実行してみよう!本物なのか確認しなきゃ!」
「exe実行!あ、何かホップアップが出て・・・」
「って、パスワードが必要!?何それ、どうすればいいのさ!?」
「・・・大丈夫。普通のパスワードくらいなら、ヴェリタスが解除できるはず・・・!」
ミドリの発言に同意するようにユズも何度も頷いている
「そ、そうだね、そうすれば・・・!」
「これがあれば、本当に面白いゲームが・・・【テイルズ・サガ・クロニクル2】が・・・!」
「うん、作れるはず!よしっ!」
「待っててねミレニアムプライス・・・」
「いや、キヴォトスゲーム大賞!」
「私たちの新作は今度こそ、」
「キヴォトスのゲーム界にいい意味での衝撃を与えてやるんだから!!」
「お、お姉ちゃん、声大きすぎ。いくら道中ロボットが居なかったからって・・・」
モモイが慌てて声を潜める
その瞬間だった
――ズン
足元が微かに揺れた
「・・・え?」
ユズが顔を上げる
一瞬遅れて、低い駆動音のようなものが壁の向こうから響いてきた
【ズゥゥゥゥゥゥン・・・】
空気が震える
工場そのものが唸っているような重低音
さっきまで静まり返っていた廃墟に、
突如として【機械】の気配が満ち始める
「"――ッ。"」
先生の表情が変わった
おっさんも反射的に視線を壁際へ向ける
(来る――!!)
次の瞬間
轟音
工場の壁面が内側へ爆ぜ飛んだ
【――ガッシャアアアアアッ!!】
鉄骨がひしゃげ、コンクリート片が周囲へ撒き散らされる
轟音と共に壁を突き破って現れたケテルを見上げながら、
おっさんは崩れ落ちる瓦礫の向こうへ視線を細めた
粉塵が舞う
コンクリート片が床へ転がり、
工場内へ重たい駆動音が響いていた
四本脚で立つ白い多脚戦車
無機質な装甲
橙色に発光するライン
上部へ搭載された巨大砲塔
それは明らかに、
そこらの警備ロボットとは格が違っていた
「な、なにこれぇぇぇぇっ!?」
モモイが悲鳴を上げる
ユズも完全に硬直していた
「戦車・・・?!」
「いや、ロボット・・・?」
「"違う・・・!"」
先生が低く呟く
「"デカグラマトン・・・!!"」
その瞬間、
ケテルの大型砲塔がゆっくりとこちらを向いた
ギギギ、と重たい駆動音
照準用の赤いセンサーが一行をなぞる
空気が張り詰めた
だが――
(妙や・・・)
おっさんは目を細める
この機体、
最初からここに居った訳やない
壁の破壊跡
崩れた配管
踏み潰された通路
まるで、今この瞬間、
外から真っ直ぐ突っ込んできたみたいな跡や
そして何より――
(廃墟のロボット兵がおらん理由が、これか)
前回来た時、
あの警備ロボット共は異常な数で徘徊しとった
ただの施設警備にしては過剰過ぎるほどに
せやけど、
もしあれが――
「・・・防衛線やったとしたら。」
ぽつり、と呟く
「え?」
ミドリがこっちを見る
おっさんはケテルから目を離さないまま続けた
「おそらく連邦生徒会長の置き土産や。」
「廃墟区域のロボット兵は、外を守っとったんやなくて――」
ケテルの脚部が床を削る
重低音の駆動音
「こいつを、外へ出さん為に配置されとった。」
空気が凍った
モモイの顔から血の気が引く
「え・・・。」
「じゃ、じゃあ前にいたロボット達って・・・」
「全部、こいつの迎撃に回っとったんやろな。」
そう考えれば辻褄は合う
今日ここまで異様なほど静かやった理由
ロボット兵が一体残らず消えとった理由
全部、
より奥――水没区域側で、
このデカグラマトンと戦っとったからや
先生も同じ結論に至ったんやろう
苦い顔でケテルを見上げていた
「"・・・最悪だ。"」
「しかも、かなりな。」
おっさんは乾いた笑みを浮かべる
デカグラマトン
AIへ語り掛け、
役目そのものを疑わせ、
自ら裏切らせる異常存在
せやけど――
(流石に雑兵一体一体を勧誘して回るほど暇ちゃうやろ。)
あんな尊大な釣り銭AIが、
その辺の警備ロボットへ逐一声掛けするとは思えへん
つまり、
これはもっと単純や
正面から押し潰した
あるいは、
防衛線そのものが崩壊した
だから今、
こいつがここまで来とる
その証拠みたいに、
ケテルの白い装甲には無数の傷跡が走っていた
砲身の一部は焼け焦げ、
脚部装甲にも破損が見える
相当数とやり合って来たんやろう
けれど――
それでもなお、
ここまで辿り着いてしまった
「っ・・・!」
その時、
ケテル上部の装備が変形を始めた
ガコン、と重たい音
大型砲が折り畳まれ、
代わりに複数のミサイルポッドが展開される
「変形した!?」
「"Type.V・・・!"」
先生が即座に叫ぶ
「"全員伏せて!!"」
先生の叫びと同時に、
ケテルのミサイルポッドが橙色に発光した
次の瞬間――
【ドドドドドドドドッ!!】
凄まじい爆音
大量の小型ミサイルが一斉に射出され、
工場内へ火線が走る
「きゃあぁっ!?」
モモイが悲鳴を上げる
爆炎
衝撃
床が揺れ、
鉄骨が軋み、
熱風が工場内を吹き荒れた
「伏せぇ!!」
おっさんが叫びながらモモイの腕を引っ張る
直後、
すぐ横のコンベアが爆発で吹き飛んだ
【ガァァァン!!】
破片が飛び散る
埃と煙が視界を埋めた
「げほっ・・・!」
「み、みんな無事!?」
「だ、大丈夫・・・!」
ミドリが咳き込みながら返事をする
先生は瓦礫の陰から素早く周囲を確認していた
「"負傷者は!?"」
「な、なんとか!」
「アリスちゃんは!?」
「アリスはここです!」
煙の向こうから、
アリスがユズを庇うように立っていた
その姿を見て、
先生が僅かに安堵する
だが――
【ギュィィィィン・・・】
ケテルの砲塔が再び駆動音を鳴らした
ミサイルポッドがこちらへ向く
「っ、第二射来るよ!?」
モモイが叫ぶ
「ッ・・・」
おっさんはケテルを見上げる
今なら潰せる
この程度の機械、本気も出さずに数秒で終わりや
せやけど――
ちらり、と視線を横へ向けた
そこには、
恐怖で震えながらも、
銃を握り直しているゲーム開発部の面々が居た
モモイは顔を引き攣らせながらも前を睨み、
ミドリも息を呑みつつ照準を合わせている
ユズは明らかに怖がっとる
けど――逃げてへん
そしてアリスは、静かにケテルを見上げていた
その瞳には、怯えとは別の光が宿っとる
「・・・先生。」
おっさんが小さく呼びかける
「"アンラさん?"」
「今回は、あの子らに任せるぞ。」
先生が目を見開く
おっさんは肩を竦めた
「自分らでここまで来たんや。」
「ほんなら、自分らで乗り越える覚悟もあるやろ。」
その言葉を聞いて、
モモイ達が息を呑む
「アンラさん・・・。」
「ま、流石に死にそうなら助ける。」
軽く笑う
「せやけど最初から全部大人が片付けても、面白ないやろ?」
「・・・っ。」
ユズがぎゅっと銃を握る
怖い
けど、
その言葉で少しだけ背筋が伸びた
アリスが一歩前へ出た
「先生。」
「アリス?」
「アリスは戦えます。」
静かな声だった
けれど、その声音には確かな意思があった
「アリスは、皆を守りたいです。」
モモイとミドリも顔を見合わせる
そして――
「・・・だね。」
モモイが口元を引き締めた
「ここまで来て逃げるとか、ゲーム開発部らしくないし!」
「お姉ちゃん、それ多分今言う事じゃない・・・。」
そう言いながらも、ミドリも銃を構える
「でも・・・うん。」
小さく頷いた
「やろう、アリスちゃん。」
ユズも深呼吸を一つ
震える手で
「わ、私も・・・頑張る。」
先生はそんな生徒達を見つめていた
恐怖はある
けれど、
それでも前へ進もうとしている
その姿を見て――
先生は静かに息を吐いた
「"・・・わかった。"」
次の瞬間、その目付きが変わる
優しい教師の顔から、生徒を戦場で導く指揮官の顔へ
「"全員、戦闘態勢。"」
先生の声が鋭く響く
その瞬間、空気が切り替わった
「"アリス、前に出るけど深追いはしないで。"」
先生の指示が飛ぶ
「"モモイは右から牽制。"」
「"ミドリ、脚部の関節を狙える?"」
「やる!」
ミドリが即座にスコープを覗き込む
ミドリの
長く調整された銃身が、瓦礫の隙間からケテルを捉えた
「"ユズ。"」
「は、はいっ!」
「"君のグレネードが一番重要になる。"」
「・・・え?」
ユズが目を瞬かせる
先生はケテルの脚部を指差した
「"装甲は硬い。でも、関節や足回りなら衝撃で体勢を崩せる。"」
「"アリスの攻撃を通す為の隙を作って。"」
その言葉に、ユズの目が少しだけ見開かれる
自分にも役割がある
その実感が、震えていた指を少しだけ落ち着かせた
「・・・わ、わかりました。」
その瞬間
【ギュィィィィィン――】
ケテルのミサイルポッドが再び発光する
「来る!」
ミドリが叫んだ
だが――
その直前
【ドンッ!!】
アリスが地面を蹴った
「アリス、行きます!!」
巨大な【光の剣】を横抱えにしたまま、真正面から突撃する
その重量を感じさせない踏み込み
「うわっ!?」
モモイが思わず声を上げた
「アリスちゃん速っ!?」
ケテルのセンサーがアリスを追尾する
ミサイルポッドの照準が急速旋回
だが
「――遅いです!」
アリスが低く滑り込む
次の瞬間
【ドゴォッ!!】
光の剣の砲身そのものが、ケテルの前脚へ叩き込まれた
「なっ――!?」
モモイが目を丸くする
撃たない
殴った
以前のアリスなら、真正面から砲撃していた
けれど今は違う
アンラとの模擬戦で学んだ
【光の剣は撃つだけの武器ではない】
【ガギィィンッ!!】
凄まじい金属音
ケテルの巨体が僅かに傾ぐ
「今です!」
アリスが叫ぶ
「ユズ!」
「覚悟してください!」
ユズがトリガーを引いた
【ボンッ!!】
グレネード弾が放たれる
にゃん'sダッシュ特有の丸っこい弾頭が、煙を引きながらケテル脚部へ直撃した
【ドガァァンッ!!】
爆炎
衝撃
脚部装甲が吹き飛び、ケテルの機体が大きく揺れる
「や、やった・・・!?」
「まだ!」
ミドリが即座に引き金を引いた
【ダダンッ!!】
精密射撃
火花
破砕音
ケテルの左前脚が僅かに沈んだ
「おぉ・・・。」
おっさんが感心したように笑う
「ちゃんと連携になっとるやん。」
先生も僅かに目を細めた
「"アリス、左脚が崩れてる!"」
「"そこを起点に!"」
「はい!!」
アリスが踏み込む
今度は真正面じゃない
左右へ軸を揺らしながら接近する
まるで、あの日の模擬戦みたいに
「ほー。」
おっさんが後ろで楽しそうに笑った
「ちゃんと避け先考えとるやん。」
ケテルの砲塔がアリスへ向く
大型砲が展開
橙色の光が収束していく
「高出力来るよ!?」
モモイが叫ぶ
だが
アリスは止まらない
「光の剣は――」
走る
「撃つだけじゃありません!!」
【ブォンッ!!】
超重量の砲身が横薙ぎに振り抜かれる
空気が裂けた
ケテルが砲撃体勢を崩される
その隙へ
「"モモイ!"」
「私の怒りの弾丸を食らえ!!」
【ダダダダダッ!!】
弾幕
センサー部へ集中射撃
火花が散る
ケテルの照準がブレた
その瞬間
「"アリス!"」
先生の声
アリスの瞳が細まる
――今
そう理解した
【ギュイイイイイン――】
光の剣が唸る
高出力チャージ
周囲の空気が震え始めた
ケテルも危険を察知したのか、後退しようと脚を動かす
だが
「逃がしません!」
アリスが砲身を地面へ叩きつける
【ドゴォンッ!!】
跳ね上がる瓦礫と粉塵
視界妨害
そしてその煙の中から――
極小出力レーザー
【バチィッ!!】
牽制射撃
ケテルのセンサーがそちらへ反応する
その一瞬
アリスはもう懐へ潜り込んでいた
おっさんの口元が吊り上がる
「せや。」
「そうやって、撃たせるんや。」
アリスが【光の剣】を構える
零距離
ケテルの中枢装甲へ、砲口が突き付けられた
「この光に意志を込めて――」
ケテルのセンサーが赤く点滅する
回避行動
迎撃機銃
全部、遅い
「貫け!バランス崩壊!」
【バチィィィィィィィッ!!!!】
閃光
轟音
極太の閃光がケテル内部を貫通した
白い装甲が内側から弾け飛ぶ
爆炎が工場内を染め上げた
【GAAAAAAAAA――!!】
断末魔みたいな機械音
ケテルの巨体が大きく傾く
脚部が砕け、砲塔が火花を撒き散らしながら崩れていく
そして――
【ズゥゥゥゥゥン・・・】
重たい音を響かせながら、巨大機体が横倒しになった
静寂
熱風だけが吹き抜ける
「・・・た、倒した?」
モモイが呆然と呟く
ミドリも息を呑んだままケテルを見つめていた
ユズはまだグレネードランチャーを抱えたまま固まっている
アリスだけが、煙の向こうで静かに立っていた
その背中を見ながら、先生がふっと笑う
「"お疲れ様、みんな。"」
その瞬間
モモイが勢いよく飛び跳ねた
「やったぁぁぁぁぁっ!!!」
「勝ったぁぁぁ!!」
「お、お姉ちゃん声大き――」
言いかけたミドリも、途中で笑ってしまう
ユズもぽかんとしていたが、少し遅れて顔を綻ばせた
「・・・ほんとに、勝てた。」
その様子を見ながら、おっさんがくつくつ笑う
「ええやん。」
そして、煙の中に立つアリスへ視線を向けた
「ちゃんと、勇者様しとったで。」
「・・・!」
アリスの目が少しだけ大きくなる
その顔は、どこか誇らしそうだった
――だが、その瞬間だった
【・・・G、GG・・・】
「・・・え?」
ユズが固まる
横倒しになっていたケテルの残骸
その奥で、橙色の光が微かに点滅した
【SYSTEM・・・REBOOT】
「っ!?」
先生の表情が変わる
「"全員離れて!!"」
次の瞬間
【ギュオォォォォン――!!】
ケテルの内部から、強引に駆動音が唸り始めた
砕けたはずの脚部が痙攣するように動く
火花
漏電
白い装甲の隙間からオレンジ色の光が明滅していた
「う、嘘ぉっ!?」
モモイが悲鳴を上げる
「まだ動くの!?」
「しぶとい・・・!」
ミドリが咄嗟に銃を構える
アリスも即座に【光の剣】を持ち上げた
だが――
「待て。」
アンラが手で制する
「"・・・アンラさん?"」
先生が目を細める
おっさんは煙を上げるケテルを見ながら、小さく鼻を鳴らした
「様子がおかしい。」
ケテルの砲塔は壊れている
脚部も半壊
さっきの一撃で、中枢まで焼かれとる
まともに戦える状態やない
それでも――
【……排除……優先順位……変更……】
ケテルの装甲が、ガコン、と開いた
「っ!」
おっさんが先生の前へ出る
だが次の瞬間
【シュゴォォォォォッ!!】
大量の白煙が一気に噴き出した
「うわっ!?」
工場内が一瞬で真っ白に染まる
視界が消えた
焦げ臭さと薬品臭が鼻を刺す
「煙幕!?」
「み、見えない・・・!」
ユズが慌てる
【ドゴンッ……!!】
重たい衝撃音
崩れる瓦礫
何か巨大なものが動く気配
「右だ!」
ミドリが叫びながら発砲する
【ダダンッ!!】
だが弾丸は煙の向こうへ吸い込まれるだけだった
「"アリス!"」
先生の声
アリスが目を閉じる
「・・・解析。」
青い瞳が微かに発光した
煙の向こう
崩れた壁面
そこへ向かっていく巨大反応
「逃走しています!」
その瞬間
【ガァァァァァァンッ!!】
工場外壁がさらに崩壊した
白煙の向こうに、一瞬だけケテルの後ろ姿が見える
片脚を引きずりながら
火花を撒き散らしながら
それでもなお、巨大機体は廃墟の奥へ消えていく
【……AL-1S……確認……】
ノイズ混じりの音声
【……優先事項……更新……】
通信が途切れた
その直後
遠ざかっていく重低音
やがて、それすら聞こえなくなる
静寂
白煙だけが、工場内へゆっくり漂っていた
「に、逃げた・・・?」
モモイが呆然と呟く
「撤退したみたいやな。」
おっさんが肩を竦める
「賢いやん。」
「賢いで済ませていい相手じゃないと思うんだけど・・・!?」
モモイが半泣きでツッコむ
先生は崩れた壁の向こうをじっと見つめていた
「"AL-1Sを確認・・・か。"」
その呟きに、アリスが反応する
「・・・アリスを、見ていました。」
静かな声だった
先生はゆっくり頷く
「"うん。"」
「"多分あれは・・・最初からアリスを探していた。"」
空気が少しだけ重くなる
だが、その空気を壊すように――
「いやーでも。」
おっさんが笑った
「半数が初実戦であれ追い返したんや。」
ゲーム開発部を見る
「十分やろ。」
「・・・!」
モモイ達が目を瞬かせる
そして少し遅れて、ユズが小さく笑った
「・・・うん。」
その手には、まだ少し震えの残るグレネードランチャー
けれどさっきより、ずっとしっかり握れていた
工場を出た頃には、空は少し赤みを帯び始めていた
崩れた高架道路の隙間から夕陽が差し込み、
廃墟の瓦礫を長く照らしている
さっきまでの戦闘の熱気が嘘みたいに、
風だけが静かに吹き抜けていた
ゲーム開発部の面々は、そんな廃墟区域をゆっくり歩いていた
「いやー・・・。」
モモイがぐったりした声を漏らす
「流石に今日は疲れた・・・。」
「そりゃそうだよ・・・。」
ミドリも苦笑する
「最後、完全にボス戦だったし。」
「しかもイベントムービー付き。」
ユズがぽつりと呟いた
「・・・確かに。」
アリスが真顔で頷く
「とても高難易度レイドボス感がありました。」
「やめて、そう言われるとまた出てきそうだから!」
モモイが半泣きで言った
その様子を見ながら、
先生が小さく笑う
「"でも、みんな本当に頑張ったよ。"」
「"初めてとは思えないくらい、ちゃんと連携できてた。"」
「えへへ・・・。」
モモイが少し照れ臭そうに頭を掻く
ミドリも小さく息を吐いた
「正直、途中から必死だったけど・・・。」
「でも、ちゃんと戦えてた気はする。」
ユズは少し考えるように、自分の手の中のグレネードランチャーを見下ろした
「・・・怖かったです。」
小さな声
「でも・・・皆が居たから、動けました。」
その言葉に、
モモイがにっと笑う
「うんうん!それがパーティプレイってやつだよ!」
「お姉ちゃん、それゲーム脳過ぎ。」
「ゲーム開発部だから問題なし!」
「開き直った・・・。」
そんなやり取りを見ながら、
おっさんがくつくつと笑う
「まぁ実際、連携は悪くなかったで。」
「特にアリス。」
「!」
アリスがぴくりと反応する
「途中から完全に近接戦の動きしとったやろ。」
「はい!」
アリスが少し誇らしげに胸を張る
「アンラ先生との模擬戦の成果です!」
「―――教え子が素直で助かるわ」
軽口みたいに笑う
――けれど、その瞬間だった
ほんの一瞬
アンラの表情が止まった
笑みが、僅かに崩れる
それは本当に一瞬だった
瞬きほどの時間
けれど真正面に居たアリスだけは、それを見てしまった
「・・・アンラ先生?」
アリスが不思議そうに首を傾げる
「ん?」
おっさんはすぐにいつもの調子へ戻る
「どないした勇者様。」
「今、少しだけ・・・。」
アリスが言葉を探す
「少しだけ、悲しそうでした。」
その言葉に、おっさんが一瞬だけ目を細めた
夕陽が崩れた高速道路の隙間から差し込み、
廃墟の瓦礫を赤く照らしている
風が吹いた
おっさんは頭を掻きながら、困ったように笑う
「あー・・・。」
「まぁ、その呼ばれ方がちぃと懐かしかっただけや。」
「懐かしい?」
「せや。」
おっさんは少しだけ空を見上げた
「昔、おっさんにも弟子がおってな。」
「弟子……。」
「何人か、そんな感じで呼んどったんよ。」
その声音は軽い
けれどアリスは、そこに妙な重さを感じた
「その人達は、今は居ないのですか?」
「居るで。」
即答だった
「元気にしとる。」
「多分な。」
最後だけ少し雑に付け足す
アリスはじっとおっさんを見上げていた
おっさんはそんな視線に気付くと、
わざとらしく肩を竦める
「なんやその顔。」
「いえ。」
アリスは少し迷ってから口を開く
「アンラ先生は、その人達の事を大切に思っていたのですね。」
「・・・まぁ、そら弟子やしなぁ。」
おっさんは苦笑した
「飯奢ったり、武器を渡したり、死にかけたら助けたり。」
「割と苦労したで?」
「親みたいです。」
「やめぇ。」
おっさんが即座にツッコむ
「おっさんそんな歳寄りに見えるか?」
「ですが、少しだけ嬉しそうでした。」
「・・・。」
アンラが黙る
アリスは真っ直ぐだった
変に空気を読む訳でもなく、遠慮する訳でもなく、
見たままをそのまま言葉にする
だからこそ、妙に刺さる
「・・・ほんま、アリスは真っ直ぐやなぁ。」
アンラが小さく笑う
その笑みは、今度はちゃんと自然だった
「でもまぁ、悪い気はせん。」
そう言ってアリスの頭へぽん、と手を置く
「教えた事ちゃんと吸収しとるし。」
「勇者様としては上出来や。」
「はい!」
アリスが少し誇らしげに頷く
その様子を見て、アンラはふっと目を細めた
――似とるな
不意に、昔の誰かの顔が脳裏を過る
真っ直ぐで
不器用で
馬鹿みたいに必死で
だからこそ最後まで、自分へ剣を向け切れなかった弟子
(・・・あかんな。)
思考を切る
この世界にあいつは居らん
おっさんはいつもの調子で笑い直し
「まぁでも、アリスはまだまだや。」
「もっと鍛えな、ああいうデカブツまた来た時苦労するで?」
「はい!」
「アリス、もっと強くなります!」
その返事に、おっさんは笑った
「ええ心掛けや。」
その声は軽い
軽かった
けれどアリスは、何故か少しだけ思った
――アンラ先生は、とても遠い人みたいだ、と
おっさんの弟子ぇー!
ってかおっさんが先生って呼ばれるのは世界的にノイズ!
ええかげんにせいやおっさん!!
ちなみに、このお話・・・
実は次のお話と合わせた一本でした。
文字数が18000文字って見えて白目向きました。
二分化しましたすいません。
でも色々大切なお話が又交じってるのでカットできません。
それにしても以前おっさんが不穏な事言うからホントにケテルが来ちゃいました。
まぁ目当ては名も無き神々の王女っぽいですけどね!
まぁ一番奪取できそうな所で失敗したので、今後の接触はよほどの時になると思います。
そして、以前言っていたアンラの弟子のお話です!
ちなみにこのアンラが想像したのは女の子の弟子ですね。
アリスみたいな黒髪ロングの子でした。ちなみに魔導に到達した子がこの子ですね。
ちなみに今回アリスとのやり取りで、アンラ表記とおっさん表記が混じってるのは、
ワザトです。おっさんという皮の中に居るアンラがちょろっと出てきてる。
そういう描写です。
以前の描写で言うと。全力で隠れている所をホシノに観測された時などが該当します。
おっさんプチ情報
おっさんの嫁さんとのなれそめの切っ掛けは。
おっさんの一目惚れ。からの猛アタック。