おっさんキヴォトスに行く   作:無い頭のおっさん

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ばにたすばにたす


おっさんユズとチルタイム

【ミレニアム・ゲーム開発部部室】

 

放課後

 

窓の外では、ミレニアムの高層ビル群が夕焼けに染まり始めていた

ゲーム開発部の部室の中は静かだった

珍しく、本当に静かだった

 

カタカタ・・・

キーボードを叩く音だけが、小さく響いている

 

「・・・」

 

花岡ユズはモニターへ向かったまま、黙々とコードを書いていた

 

ゲーム開発部の部室

 

その一角

ユズ専用ロッカー

だが、もはや普通のロッカーではない

 

内部には小型クーラー

 

長時間座っても腰が痛くならない高級クッション

 

ブランケット

 

小型冷蔵庫

 

簡易照明

 

更にはロッカー内でPC作業しやすいよう、小型テーブルまで増設されている

控えめに言って、秘密基地だった

 

しかも、それら全部

 

アンラさんが揃えた

 

最初は、

 

「ロッカーの中蒸し暑い・・・」

 

というユズのぼやきから始まった

 

次の日には、小型クーラーが届いた

 

「長時間座ってると腰が・・・」

 

と言えば、翌週には高級クッション

 

「飲み物ぬるくなる・・・」

 

と言えば、小型冷蔵庫

 

結果

 

ゲーム開発部の誰も、もうユズのロッカー生活を止めなくなった

 

むしろ最近では、

「ユズちゃん、そのロッカー普通に私の部屋より快適じゃない?」

と言われるレベルである

 

「・・・。」

 

ユズはロッカーの中から顔だけ出し、静かにコードを書く

 

落ち着く

 

安心する

 

ここは、誰にも邪魔されない

 

・・・いや

一人だけ例外がいた

 

【ガチャ】

 

「おーう。邪魔するでー。」

 

「・・・あ。」

 

砂色のローブ

 

見慣れた人物

七篠アンラだった

 

「今日はユズしかおらんのか?」

 

「うん・・・みんな出てる。」

 

「ほーん。」

 

おっさんは部室を見回す

 

床にゲーム雑誌

 

積み上がった資料

 

ホワイトボードに書かれた意味不明なゲーム案

 

いつものゲーム開発部だった

 

おっさんは適当に椅子を引っ張ると、そのまま座る

その自然さが、もはや部員だった

 

「んで、ユズは何しとったん。」

 

「次回作のプログラム・・・少し。」

 

「少し、の顔ちゃうなそれ。」

 

「・・・。」

 

「目ぇ完全に職人のやつやぞ。」

 

ユズは小さく視線を逸らす

 

否定しない

 

「まぁええけど。ちゃんと休んどるか?」

 

「・・・ロッカーの中だから休んでる。」

 

「その理論通るなら、おっさんも仕事中ずっと寝袋入っとるだけで休憩扱いや。」

 

「・・・?」

 

「納得するな。」

 

ユズが少しだけ笑う

 

おっさんはその様子を見ながら、ロッカーの中を覗き込んだ

 

「しかし快適そうやなぁ。」

 

「・・・快適。」

 

「なんか増えとらん?」

 

「この前追加した。」

 

ユズがロッカー内の枕を指差す

 

「前の、ちょっと硬かった」

 

「せやったか?」

 

「長時間中で寝てると痛くなる。」

 

「女子高生のセリフちゃうねん。」

 

おっさんが呆れたように笑う

だが、その顔はどこか満足げだった

 

最初、ユズは本当にロッカーから出てこなかった

ゲーム開発部のメンバーとすら、最初は距離があった

 

だからおっさんは、無理矢理引っ張り出すんじゃなく、

まず「そこに居ても大丈夫」にしようとした

 

結果

ロッカー環境だけが異常進化した

 

「・・・アンラさん。」

 

「ん?」

 

「コーヒー飲む?」

 

「お、もらおかな。」

 

ユズはロッカーから出る

その動作も、以前よりずっと自然になっていた

 

部室の隅にあるコーヒーメーカー

それもおっさんが持ち込んだ物だった

 

ゲーム開発部が妖怪MAXだけで六日徹夜しようとしていた時、

「死ぬぞお前ら」と真顔で設置されたのである

 

しばらくして、部室にコーヒーの香りが広がった

 

「はい。」

 

「お、サンキュー。」

 

おっさんがカップを受け取る

一口飲む

 

「・・・苦っ。」

 

「今日はブラック。」

 

「なんでや。」

 

「眠そうだったから。」

 

「気遣い方が地味に社会人なんよ。」

 

ユズは小さく笑った

 

そして少し迷ってから――

自分の席ではなく、おっさんの隣へ座った

 

「ん?」

 

「・・・たまには。」

 

「ほーん。」

 

静かな時間が流れる

不思議と、気まずくない

 

パソコンの排熱音

 

外を走る車の音

 

夕焼け色の部室

 

「・・・そういや。」

 

「ん?」

 

「最近、部室に人増えたな。」

 

おっさんが何気なくそう言う

 

ユズは少しだけ視線を上げた

 

「・・・うん。」

 

TSC2が公開されてからだった

 

以前のゲーム開発部は、良くも悪くも人が寄り付かなかった

廃部寸前の、問題児の集まり

 

そんな扱いだった

 

だが今は違う

 

「この前も、他の部の人来てたよな。」

 

「・・・攻略、教えてくださいって。」

 

「ほーん。」

 

「あと・・・隠しイベントの条件が分からないって。」

 

「まぁユズ達のゲーム無駄に隠し要素多いからな・・・。」

 

「無駄じゃない。」

 

「お、珍しく強気。」

 

ユズは少しだけ口を尖らせた

 

「ちゃんと意味ある。」

 

「全部、世界観の補強だから。」

 

「はいはい。」

 

おっさんが笑う

 

その反応を見て、ユズも少しだけ笑った

 

以前なら考えられなかった

 

誰かが部室へ来るだけで、ユズはロッカーへ逃げ込んでいた

視線が怖かった

評価されるのが怖かった

 

クソゲー開発部

 

そう呼ばれる度に、胸の奥が冷えていた

 

だが今は違う

 

「・・・ゲームの感想、言いに来る人も居る。」

 

「おー。」

 

「面白かったって。」

 

「せやろな。」

 

「・・・でも、まだ慣れない。」

 

ユズがカップを両手で包み込む

 

「急に人増えたから。」

 

「まぁ、そらそうや。」

 

「でも・・・」

 

少しだけ間が空く

 

「嫌じゃ、ない。」

 

「・・・。」

 

「ゲームの話、するの。」

 

おっさんは少しだけ目を細めた

 

「そら、ユズ達がちゃんと積み重ねた結果や。」

 

「・・・うん。」

 

静かな声

 

けれど、前よりずっと柔らかかった

 

おっさんは何気なくユズが居なくなって

見やすくなったロッカーの中を見る

 

さっきは気づかなかったが、以前よりさらに装備が増えていた

 

「・・・今気づいたけど、なんか増えとらん?」

 

「増えた。」

 

「今度は何や。」

 

「加湿器。」

 

「ロッカーに?」

 

「乾燥すると喉痛くなる。」

 

「もう住居やん。」

 

「あと照明も変えた。」

 

ユズがロッカー上部を指差す

 

「前の、少し目が疲れたから。」

 

「おっさん、ロッカー環境にここまで本気出した奴見るのは人生初やぞ・・・。」

 

「・・・でも快適。」

 

「せやろな。」

 

しかも、その電源周りを支える為、

気付けばロッカー裏には業務用レベルの電源タップまで増設されていた

 

もはや簡易個室である

 

(確かに欲しいものがあるって言われてお金渡したが・・・)

(ここまでになってるとは・・・)

 

「・・・アンラさん。」

 

「なんや。」

 

「これ、すごく落ち着く。」

 

ユズがロッカーの中を見ながら呟く

 

「ここに居ると・・・安心する。」

 

「そら良かった。」

 

「普通は、ロッカーから出ろって言う。」

 

「まぁ普通はな。」

 

「でもアンラさん、そうじゃなかった。」

 

「・・・。」

 

「居てもいいって、言ってくれた。」

 

部室に、静かな空気が流れる

 

おっさんは少しだけ頭を掻いた

 

「まぁ、安心出来る場所あるんは大事やろ。」

 

「・・・うん。」

 

「無理矢理変えようとしても、しんどいだけやしな。」

 

「・・・。」

 

ユズがカップを両手で包み込む

 

それから、少しだけ迷うように視線を揺らした

 

「・・・アンラさん。」

 

「ん?」

 

「・・・お父さん、みたい。」

 

「・・・。」

 

おっさんの動きが止まる

 

数秒の沈黙

 

「・・・最近流行っとるんか?それ。」

 

「・・・?」

 

ユズがきょとんとする

 

「いや、アリスにも言われた。」

 

「あ。」

 

以前、アリスがおっさんを「お父さん」と呼んだ時

 

ユズも、その場に居た

 

「・・・。」

 

「・・・。」

 

妙な沈黙

 

それから、おっさんが苦笑する

 

「知らん間に子沢山になっとるんやけど。」

 

「・・・ふふ。」

 

ユズが小さく吹き出した

 

かなり珍しい笑い方だった

 

その表情を見ながら、おっさんも少しだけ笑う

 

「まぁでも、そんな大層なもんちゃうぞ。」

 

「・・・そう?」

 

「おっさん、ただのおっさんやし。」

 

「でも・・・」

 

ユズがぽつりと呟く

 

「ちゃんと見てくれる。」

 

「・・・。」

 

「無理に変えようとしないし。」

 

「・・・居てもいいって、言ってくれる。」

 

「・・・。」

 

「だから、安心する。」

 

おっさんは少しだけ視線を逸らした

 

こういう真正面からの言葉には、未だに慣れない

 

「まぁ・・・ユズ達が頑張っとるからや。」

 

「・・・うん。」

 

静かな返事

 

けれど、その声はどこか嬉しそうだった

 

その時

 

「ただまぁ。」

 

おっさんがコーヒーを飲む

 

「最近は結構外おるけど。」

 

「・・・あ。」

 

そこで初めて気付いたように、ユズが少し目を瞬かせた

 

今の自分はロッカーの外に居た

 

以前なら、誰かが来た時点で反射的に中へ戻っていたはずなのに

 

「・・・。」

 

ユズが少しだけ俯く

 

耳が赤い

 

おっさんは何も言わなかった

 

多分ここで指摘すると、恥ずかしくなってロッカーへ逃げる

 

だから代わりに、何でもない風を装って話を変えた

 

「そういや次回作、どんな感じなんや。」

 

「・・・まだ秘密。」

 

「なんやそれ。」

 

「でも・・・ちゃんと、面白くしたい。」

 

「TSC2よりも?」

 

「・・・うん。」

 

ユズの目が少しだけ真剣になる

 

「今度はもっと、いっぱいの人に・・・最後まで遊んでほしい。」

 

「ほーん。」

 

「だから、怖い。」

 

「期待されるんが?」

 

「・・・うん。」

 

「もし次がダメだったらって。」

 

おっさんは少しだけ黙る

 

それから、ぽりぽり頭を掻いた

 

「世のクリエイター、大体みんなそんなもんや。」

 

「・・・そうなの?」

 

「一発当てた後なんか特にな。」

 

「二作目で胃薬と睡眠薬が友達になる奴もおる。」

 

「それは・・・良くないと思う。」

 

「せやな。」

 

ユズが少しだけ笑う

 

その表情を見ながら、おっさんは続けた

 

「でも、怖がっとるって事は、ちゃんと真面目に作っとる証拠や。」

 

「適当に作っとる奴は、失敗なんか怖がらへん。」

 

「・・・。」

 

「ほんで、おっさんはユズ達のゲーム好きやで。」

 

「!」

 

ユズの肩がぴくりと揺れた

 

「完成度だけなら、もっと上はいくらでもある。」

 

「でも、ユズ達のゲームにはちゃんと、お前らの個性がおる。」

 

「モモイの勢い。」

 

「ミドリの優しさ。」

 

「アリスの真っ直ぐさ。」

 

「ユズの異様な作り込み。」

 

「・・・異様。」

 

「褒めとる。」

 

「・・・ほんとに?」

 

「ほんまほんま。」

 

ユズは少し俯く

 

耳がまた赤かった

 

その時

 

【ピコン】

 

ユズのスマホが震える

 

「ん?」

 

ユズが画面を見る

 

【モモイ:今どこー?】

 

【ユズ:部室】

 

【モモイ:アンラさん来てる?】

 

【ユズ:来てる】

 

既読

 

「・・・?」

 

「どした。」

 

「・・・なんでもない。」

 

だが数分後

 

ユズは部室の扉が、ほんの少しだけ開いている事に気づいた

 

そこから

 

「・・・。」

 

「・・・。」

 

「・・・。」

 

三つの顔が覗いていた

 

モモイ

ミドリ

アリス

 

三人とも無言

ただじーっと見ている

 

「・・・。」

 

ユズの動きが止まる

 

数秒

 

そして

 

「~~~~~っ!!!!」

 

顔が一気に真っ赤になった

 

「ユズ。」

 

「お父さんって言ってました!」

 

「アリスと同じです!」

 

「ち、違っ・・・!?これは・・・っ!」

 

ユズが勢いよく立ち上がる

 

そしてそのまま、ロッカーへ高速突撃した

 

【バタンッ!!!】

 

ロッカーが閉まる

 

中から

 

「・・・しばらく出ない・・・。」

 

くぐもった声が響いた

 

 

 

「うわぁ、ユズちゃん真っ赤。」

 

「かわいい・・・」

 

「照れています!」

 

「お前らなぁ・・・。」

 

おっさんが苦笑する

 

だがその表情は、どこか穏やかだった

 

ロッカーの中から聞こえる恥ずかしそうな呻き声

 

騒がしく笑う三人

 

その光景を見ながら、おっさんはふと窓の外を見た

 

ミレニアムの夕焼けは、いつの間にか夜景へ変わり始めていた




ゲーム開発部でおっさんと一番付き合いが長いのはユズです。
そしてユズのロッカーの住居環境を整えて、ロッカー型のコンテナルームみたいにしています。
何気にこのロッカーは多重構造になっていて、間に断熱材も入ってる特殊なロッカーです。
いやもうそれロッカーなんか・・・?ロッカーの形した個室なんじゃ・・・

まぁユズの住居環境がいいなら良し!!

そんな気持ちで魔改造されたユズのロッカー。
ちなみに内部の製品の殆どが、エンジニア部製です。
おっさんがスポンサーの権利で発注かけて特注されています。
特に小型エアコンは凄いです。
ロッカーの上部にくっついているのですが、クッソ薄型で、とんでもない磁力で屋根にペタっとくっついてます。

あとユズの高級クッションは、ミレニアムの新素材開発部が作った、
へたらないハニカムクッションが使われています。

あのロッカー1つで大体1000万くらいお金を突っ込んでいます。
ちなみに金額はユズは知りません・・・知ったら泡吹いて倒れるんじゃないかな・・・
ちなみにこれ以外にも、このユズが使っていたパソコンも通常のパソコンではなく・・・
ミレニアムのエンジニア部製のパーツをふんだんに使用した、もはやスパコンに近い物になっています。
どれくらいの物かと言うと、特異現象捜査部のヒマリのパソコンとほぼ同一スペックです()

そらね・・・こんだけ物品揃えられてたらユウカからお前ら部費何処に使ってんねんって言われますよ・・・


おっさんプチ情報
おっさんは作中で自身の年齢を言う所がありますが・・・33歳ですね、

それら全ては自称です。
この作中でおっさんの年齢を表記する際はすべてにおいて自称33歳と付けています・・・
そして、この年齢は2年たった今もおっさんが年齢を言う時は33歳って言ってます。

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