おっさんキヴォトスに行く   作:無い頭のおっさん

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ばにたすばにたす


おっさん腕白フォックスを雇う

ミレニアムプライスも終わり、

ゲーム開発部の廃部も仮にではあるが白紙になった

 

結果として、おっさんも先生もミレニアムへ常駐する必要は無くなり、

それぞれが積み上げていた仕事を処理する為、自分達の巣へ戻っていた

 

【アビドス都市部・祈願屋オフィスビル】

 

扉を開けた瞬間――

 

おっさんは、眉を顰めた

 

空気が違う

 

いつもの事務所だ

景色も配置も変わらない

 

だが、静か過ぎた

 

応接用ソファ

 

そこへ当然のように腰掛けている人影が一つ

 

淡い金色の髪

上品なドレスのような白い制服

肩には、小さな鳥

 

そして――

 

「やぁ、アンラ。」

 

静かな声

 

まるで、以前からここに居たみたいな口振りだった

 

「・・・」

 

おっさんは無言で扉を閉める

 

【カチャッ】

 

鍵は掛けない

 

数秒

 

沈黙

 

(幻覚であってくれ・・・)

 

再び扉を開く

 

だが現実は変わらない

 

ソファ

 

セイア

 

そして、その横に立つユメ

 

「・・・」

 

ユメは無言だった

 

ただし、目が怖い

 

静かに、

本当に静かに怒っている時の目だった

 

「アンラさん。」

 

「・・・なんや。」

 

「何をしているんですか?」

 

「現実逃避や。」

 

即答だった

 

ユメの目がさらに細くなる

 

おっさんは反射的に視線を逸らした

 

(アルの事務所行くか・・・?)

 

一瞬、本気で考える

 

だが

 

「座るといい。」

 

セイアが、くすりと笑った

 

「安心したまえ。私は客人だよ。」

 

「ただ・・・そうだね。

此処が最も安全圏に近いと判断しただけさ。」

 

さらっと言う

 

情報量が重い

 

おっさんは天井を見上げた

 

(ミレニアム終わったばっかやぞ・・・)

 

ユメが一歩動く

 

逃走経路が消えた

 

「・・・いや。」

 

おっさんが低く呟く

 

「ほんま何やねん、この状況。」

 

セイアは少しだけ首を傾けた

 

「困惑しているようだね。」

 

「当然やろ・・・。」

 

「ふふ。」

 

セイアは紅茶を口に運ぶ

 

動作一つ一つが妙に優雅だった

 

「良い場所だ。静かで、騒がしくて。」

 

「矛盾しとるぞ。」

 

「トリニティ程ではない、という意味だよ。」

 

軽い

 

だが、その軽さが逆に怖い

 

「それに。」

 

セイアの視線がおっさんへ向く

 

「君がいる。」

 

ユメの空気が冷えた

 

おっさんの背筋に嫌な予感が走る

 

(なんやこの腕白フォックス・・・)

 

セイアは微笑む

 

「昔からそうだが、君は【渦中】に居る時ほど動かないね。」

 

「観察か?」

 

「感想だよ。」

 

即答だった

 

軽いのに、妙に核心を突いてくる

 

その時

 

ユメが静かに口を開く

 

「セイアさん。」

 

「何かな?」

 

「あなたは現在、死亡扱いのはずです。」

 

空気が変わる

 

おっさんの目が細まった

 

(あー・・・そういう事か。)

 

一瞬で理解する

 

セイアは小さく笑った

 

「正確には、【そう見せている】だけだね。」

 

「・・・」

 

ユメの視線が鋭くなる

おっさんは深くため息を吐いた

 

「おい。なんでウチの事務所で最高機密レベルの話始まっとんねん。」

 

セイアは紅茶を置く

 

「此処が最も安全だからだよ。」

 

「それに。」

 

視線が向く

 

「君なら、私がこうする可能性くらい、既に織り込み済みだったのではないかな?」

 

沈黙

 

ユメがおっさんを見る

 

【どこまで知っているのか。】

 

そんな目だった

 

おっさんは頭を掻く

 

「・・・はぁ。」

 

「計画は順調、そう認識しとけばええんか?」

 

「概ねは。」

 

セイアは頷く

 

「無論、誤差はある。未来とは常に揺らぐものだからね。」

 

「最初のミネん所に匿ってもらう予定崩れとるけどな?」

 

「より安全な場所へ移行した、とも解釈できる。

それにミネも抱き込み済みだよ。」

 

「こんな警備もクソも無い場所がか?」

 

「よく言う。」

 

セイアが笑った

 

「今、私の目の前にはキヴォトス最高戦力が二人居る。」

 

「君達のどちらかが本気になれば、

この学園都市群など数日と持たないだろう?」

 

ユメが無言で視線を逸らす

 

おっさんは即座に否定しなかった

 

それだけで、

この場の危うさが分かる

 

「・・・わかった。」

 

おっさんはソファへ腰を下ろした

 

「そうやな・・・ちょうど人手が欲しかったんや、ここで匿う序に仕事してくれ。」

「アルバイトやな。報酬は衣食住の提供と護衛。」

 

「・・・背に腹は代えられないね・・・」

「構わないとも。」

 

「よし。ほん、でだ。」

 

おっさんが目を細める

 

「ミカはどうするつもりや。」

 

少しだけ

 

ほんの少しだけ

 

セイアの笑みが薄れた

 

「・・・未来通りに進んでもらう。」

 

静かな声だった

 

「魔女コースか。」

「友人にする仕打ちやないな。」

 

「私も、君も。」

 

セイアは目を伏せる

 

「きっと地獄行きだろうね。」

 

「おっさんを巻き込むなや。」

 

「私の計画を知りながら止めない時点で、共犯者だよ。」

 

おっさんは小さく鼻を鳴らした

 

「まぁ、それはそうやな・・・。」

 

「下手に弄って未来崩れる方が怖い。」

 

それから、少しだけ真面目な声になる

 

「予知夢の制御は。」

 

「相変わらずさ。」

 

セイアは肩を竦めた

 

「断片的で、曖昧で、

都合の悪い部分ほど鮮明だ。」

 

「最悪やな。」

 

「同感だよ。」

 

沈黙

 

重い話の筈なのに、

妙に空気は穏やかだった

 

だからこそ逆に危うい

 

その時だった

 

セイアがふと思い出したように口を開く

 

「そういえば。」

 

「アンラ、君の所の部隊名。」

「【アビドスのティーパーティー】なんだって?」

 

その瞬間

横に立っていたユメの肩がぴくっと揺れた

 

明らかに挙動不審

おっさんは視線を逸らす

 

「あー・・・。」

 

「別にお前さんらから取った訳ちゃうぞ?」

 

「ほぅ?」

 

「お前さんから大量に押し付けられたロールケーキ消費する為に、

部隊の連中でちょいちょい茶ァしばいとったんや。」

 

「そしたら自然とそう呼ばれるようになった。」

 

数秒

 

セイアは静かに瞬きをした

 

それから

 

「・・・ふふ。」

 

肩を揺らす

 

「成程。それは実に、君らしい命名理由だ。」

 

「笑うわ。」

 

「いや実際、各学区から問い合わせが殺到していてね。」

「ティーパーティーがアビドスと手を組んだのか、と。」

 

「風評被害やろもう。」

 

「否定しても信じてもらえない辺り、実に困った話だよ。」

 

セイアはくすくす笑う

 

「もっとも。」

 

「今はその対応をナギサへ任せられる。」

「気が軽いとも。」

 

「お前なかなか酷い事しとるぞ。」

 

「諸悪の根源が言わないで貰えるかな?」

 

おっさんは深くため息を吐いた

そして――

 

「・・・ユメちゃん。」

 

「はい?」

 

「お茶淹れたって。」

 

「はい。」

 

ユメがキッチンへ向かう

 

それを見送ってから、

おっさんは片手を上げ虚空に手を突っ込む

 

【ズゥ・・・】

 

空間が裂ける

 

セイアの目が僅かに細くなった

 

「・・・興味深いね。」

 

「見るん初めてか?」

 

「話には聞いていたとも。」

 

虚空の中をガサゴソと漁る音

 

そして――

 

【ゴトッ】

 

ロールケーキの箱

 

さらに

 

【ゴトッ ゴトッ ゴトッ】

 

増える

 

まだ増える

 

「・・・待ちたまえ。」

 

流石にセイアが止めた

 

「量がおかしくないかい?」

 

「安心したまえ。」

 

おっさんがあえて話し方を真似る

 

「まだ二百本くらい残ってるとも。」

 

「二百。」

 

「全部お前さんが押し付けてきた奴や。」

 

セイアは静かに目を逸らした。

 

「・・・糖分の過剰摂取は身体に良くないからね。」

 

「せやからって友人に流すな。」

 

おっさんは箱を指で叩く

 

「朝のロールケーキ。」

 

もう一箱置く

 

「昼のロールケーキ。」

 

さらに置く

 

「夜のロールケーキ。」

 

「三食ロールケーキ生活、いってみようか?」

 

「それは最早、緩やかな処刑ではないかな。」

 

「善意のお裾分けや。」

 

「君の善意は時折、刃物のようだね・・・。」

 

ちょうどその時

ユメがお茶を持って戻って来た

 

そして、テーブルに積み上がったロールケーキの山を見て固まる

 

「・・・また増えてる・・・」

 

「セイア用の備蓄や」

 

「備蓄って量じゃないですよこれ・・・」

 

ユメが若干引き気味に呟く

 

セイアは小さく咳払いした

 

「・・・一応言っておくが、私も全てを一人で食べていた訳ではないよ。」

 

「ほーん?」

 

「ティーパーティーの会合や来客対応でも消費していたとも。」

 

「それ込みでこの量なんやろ?」

 

「・・・。」

 

「黙るなや。」

 

セイアは視線を逸らした

 

その姿を見て、ユメが少しだけ困ったように笑う

 

「・・・でも、少し意外でした。」

 

「何がかな?」

 

「もっとこう、近寄り難い人かと思ってました。」

 

セイアは目を瞬かせる

 

「それはまた、随分な評価だね。」

 

「だって、あのトリニティのトップですよ?」

 

ユメは少しだけ困ったように笑った

 

「全部見透かしてて、何考えてるか分からなくて、もっと怖い人なのかなって。」

 

「ふふ。」

 

セイアは静かに笑う

 

「残念ながら、私はそこまで万能ではないよ。」

 

その声は、少しだけ柔らかかった

 

「予知夢も、見たい未来ばかり視える訳ではない。」

 

「むしろ逆だ。」

 

空気が少し静まる

 

セイアは紅茶へ視線を落とした

 

「知りたくもない未来ほど鮮明に視える。」

「止めたい場面ほど、指の隙間から零れ落ちていく。」

 

「・・・。」

 

ユメが黙る

 

その言葉に、少しだけ聞き覚えがあったからだ

未来を知っていても変えられない

 

それはきっと、

先生やアンラさんが時折見せる顔とよく似ていた

 

セイアはそんなユメを見て、ふと目を細める

 

「君は優しいね。」

 

「え?」

 

「だからこそ、壊れやすい。」

 

ユメの肩が僅かに揺れた

 

だが、その直後。

 

「まぁ、アンラが過保護になるのも理解は出来るか。」

 

「やかましいわ。」

 

即答だった

 

空気が少し緩む

 

セイアはくすりと笑った

 

「何しろ君は、自分の身内に対してだけは驚くほど甘いからね。」

 

「否定はせん。」

 

「しないんですね・・・。」

 

「せんで。」

 

即答だった

セイアはそんなおっさんを見て、小さく肩を揺らす

 

「二年前もそうだった。」

 

「・・・あぁ?」

 

「君が、キヴォトス全域の指名手配犯を一日で狩り尽くした時の話さ。」

 

ユメがぴくりと反応した

 

「あ。」

 

思い出したような声だった

 

「そういえば、あの事件・・・。」

 

「【合法的なテロ】って呼ばれてた奴ですね。」

 

「やめーやその呼び方。」

 

「実際そうだっただろう?」

 

セイアが紅茶を傾けながら言う

 

「ゲヘナ、ミレニアム、トリニティ。

三大校の治安機構が同時に飽和した。」

 

「拘束された不良の数は千を超え、

輸送、留置、尋問、記録処理、医療確認・・・全ての行政機能が麻痺した。」

「結果、各学区は一時的に非常警戒態勢へ移行。」

 

「誰かが裏で軍事行動を起こしたのではないか、とね。」

 

「ほんまアホみたいな騒ぎになっとったなぁ・・・。」

 

アンラが遠い目をする

 

ユメも苦笑した

 

「アビドスにも問い合わせ来ましたからねー・・・。」

「『秘密裏に新戦力を保有していないか』だったかな。」

 

「せやせや。」

 

「で、おっさんが犯人やってバレた瞬間、ユメちゃんとホシノちゃんにガチ詰めされた。」

 

「当然です。」

 

即答だった

 

「だって、開業直後の企業が月収八億ですよ?」

 

「しかも実態不明。」

 

「普通に考えたら反社です。」

 

「辛辣ぅ。」

 

「しかも事情聴取したら、

『おっさんが一人で全員しょっ引いただけ』とか言い出すんですよ?」

 

「いや事実やし・・・。」

 

「その時のホシノちゃん、本気で頭抱えてましたからね?」

 

ユメがくすくす笑う

 

セイアは静かに目を細めた

 

「懐かしいね。」

 

「お前さん、どっから見とったんや。」

 

「君の夢の中からだよ。」

 

さらりと言う

 

「君の夢へ潜った時、私は初めて理解した。」

 

「君が、【知っている側】の存在だと。」

 

空気が少し静まる

 

ユメの視線がおっさんへ向いた

 

おっさんはロールケーキを切り分けながら、面倒そうに肩を竦める。

 

「別に大層なもんちゃう。」

 

「おっさんはただ、先の展開を知っとるだけや。」

「予知とは違う。」

 

「視えた未来じゃなく、知識として知っとるだけや。」

 

「だから外れる。」

 

「変わる。」

 

「予想外も起きる。」

 

その声は、妙に淡々としていた

 

セイアは静かに頷く

 

「だが、それでも。」

 

「君が知っている未来は、私の予知夢と異なり、極めて体系的だった。」

 

「断片ではなく、流れとして未来を把握している。」

 

「だから私は、君を観測対象にした。」

 

「人聞き悪いな。」

 

「事実だよ。」

 

セイアは悪びれず言った

 

「君は、未来を知りながら介入する異物だった。」

「しかも遠慮が無い。」

 

「本当に賞金首千二百人狩りは流石にやり過ぎでは?」

 

「賞金首のリストの切りが良かったからなぁ・・・。」

 

「あの数はリスト全部やったからだったんですか・・・」

 

ユメが呆れたようにため息を吐く

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、アンラ、君は先生に甚く肩入れをしているようだね?」

 

空気が少し止まった

 

ユメがぱちりと瞬きをする

 

「・・・先生?」

 

おっさんが露骨に嫌そうな顔をした

 

「なんの話や?・・・」

 

「ふふ、そんな誤魔化しても無駄だよ。

君は先生に関しては凄く判り易いからね。」

 

「何がや。」

 

「君。」

 

セイアはさらりと言った

 

「先生関連だけ、判断が甘い。」

 

「は?」

 

「本来の君なら、あそこまで深く関わらない。」

 

「契約も。」

「保護も。」

「精神面への干渉も。」

 

「全部、過剰だ。」

 

アンラの眉がぴくりと動く

 

ユメも少し驚いた顔をした

 

「・・・そうなんですか?」

 

「そうとも。」

 

セイアは静かに頷いた

 

「彼は基本的に、自分から誰かへ依存関係を作らない。」

「必要最低限の距離を保ったまま、零れ落ちる者だけ拾う。」

「だが先生に対しては違う。」

 

「随分と近い。」

 

「・・・。」

 

アンラは黙る

 

セイアは紅茶を置いた

 

「だからこそ。」

 

ぽつりと

 

「先生は、君に絆されたんだろうね。」

 

その瞬間

 

アンラの動きが僅かに止まった

 

ほんの一瞬だけ

 

ユメは、その横顔を見て、

ふと思ってしまった事を口に出した

 

「・・・アンラさんって。」

 

「なんや。」

 

「先生の事、かなり好きですよね・・・」

 

ユメが呟くように言ったその言葉は不機嫌という感情が滲み出ていた

 

「ブフッ」

 

アンラが盛大にむせた

 

セイアが静かに目を逸らす

 

「だって。」

 

ユメは不機嫌そうな顔で言う

 

「今の話聞いてたら、ほぼそれじゃないですか。」

 

「違う。」

 

即答だった

 

「おっさんはただ、

あの先生放っとくと普通に自分削り切るから管理しとるだけや。」

 

「管理。」

 

セイアが復唱する

 

「随分と便利な言い換えだね。」

 

「実際そうやろ。」

 

アンラは顔を顰めた

 

「先生、自分優先順位一番下に置く癖あるんやぞ。」

 

「放っといたら、自分死ぬルート平気で選びよる。」

 

「・・・。」

 

ユメは少し黙る

 

それは、なんとなく想像出来た

あの先生は、確かにそういう人間だ

 

自分が壊れる事に頓着しない

だからこそ、アンラみたいな人間が横に付いてないと危うい

 

「似た者同士だね。」

 

セイアがぽつりと言う

 

「どこがやねん・・・」

 

椅子に深く座り項垂れたおっさん

 

その時だった

 

【プルルル】

 

おっさんのスマホに電話がかかってきた

 

全員の視線が向いた

 

アンラが嫌そうな顔をする

 

「・・・嫌な予感しかしねぇ。」

 

「出ればいいだろう?」

 

「おっさんの勘は大体当たるんや。」

 

そう言いながらスマホを取る

 

「はい祈願屋ー。」

 

数秒

 

アンラの表情が真顔になった

 

「あー・・・先生か。」

 

ユメが少しだけ首を傾げる

 

セイアは静かに紅茶を口へ運んだ

 

スマホの向こうから、

切羽詰まった声が聞こえてくる

 

『"アンラさん・・・助けてください。"』

 

「嫌です。」

 

即答だった

 

『"お願いします・・・。"』

 

「・・・なんや?えらい必死そうやな、アトラハシースでも顕現したか?」

 

『"違います。そんなの出て来たらこんな呑気に電話してません。"』

 

先生の声が死んでいた

 

『"書類です。"』

 

おっさんの顔も死んだ

 

「あっ・・・。」

 

ユメが察する

 

先生は続けた

 

『"ミレニアムへ長期間出ていた分、

シャーレの決裁書類と報告書が完全に滞留していまして・・・。"』

 

『"ミレニアムから帰って直ぐ書類の処理を始めたんですが・・・

8時間ほど処理して、まだ机の高さが変わってないんです。"』

 

「地獄やん。」

 

『"地獄です。"』

 

即答だった

 

『"しかも途中から、誰かが善意で追加の案件を積み始めました。"』

 

「善意で言う単語ちゃうぞそれ。」

 

『"シッテムの箱も使って最高率で処理していますが・・・。"』

 

電話越しに、

【バサァッ!!】

と紙の崩れる音が聞こえた

 

数秒の沈黙

 

『"・・・アンラさん。"』

 

先生が静かに言う

 

『"私、多分もうすぐ死にます。"』

 

「死因:事務作業は嫌やなぁ・・・。」

 

ユメが思わず吹き出す

 

セイアも肩を揺らした

 

アンラは深くため息を吐く

 

「はぁ・・・。」

 

『"来て、くれますか・・・?"』

 

「嫌や。」

 

『"アンラさん。"』

 

「なんや。」

 

『"ゲーム開発部の部室で、祈願屋の経理処理を私が徹夜で手伝った事、覚えてますよね?"』

 

「・・・。」

 

アンラが目を逸らした

 

ユメが察した顔になる

 

「借り作ってたんですね。」

 

「うるさい。」

 

先生の声が少しだけ穏やかになる

 

『"では、お待ちしています。"』

 

「まだ行く言うてへん。」

 

【ツー、ツー、ツー】

 

切れた

 

アンラは数秒、無言でスマホを見つめる

それから深くため息を吐いた

 

「・・・家、帰ってええか?」

 

「ダメですね。」

 

ユメが即答した

セイアも静かに頷く

 

「諦めたまえ。」

 

「お前さんは?」

 

「私は死んだ事になってるからね。」

 

「クソ狐。」

 

セイアはくすくす笑う

 

「しかし。」

 

「シャーレも随分とブラックだね。」

 

「何言うとる。」

 

アンラが立ち上がりながら言う

 

「祈願屋もシャーレと同じで連邦生徒会長肝入り組織やぞ?」

 

「つまり公僕。労基適応外や。」

 

数秒

 

セイアが静かに瞬きをした

 

「・・・今、とんでもない事をさらっと言わなかったかい?」

 

「安心しろ。」

 

アンラは真顔で親指を立てる

 

「だからセイア、お前さんも適応外や。」

 

「安心材料が何一つ無いんだがね?!」

 

ユメが小さく吹き出した

 

おっさんはいつものローブを羽織りながら、

事務所の机の一角を占拠するように置かれているアビドス全域監視モニターへ視線を向ける

 

砂嵐が吹く廃墟区画

 

最近元ヘルメット団を雇って結成させた、治安維持部隊の下部組織が夜間の巡回中だった

 

遠くで小競り合いを始めた不良グループ

 

いつものアビドスだった

 

「ユメちゃん。」

 

「はい。」

 

「今日はおっさん一人で行く。」

 

ユメが少しだけ目を瞬かせる

 

「・・・いいんですか?」

 

「祈願屋は治安維持業務も兼ねとる。」

 

アンラは顎でモニターを示した

 

「誰か一人は常駐しとかんと、アビドス側の対応が遅れる。」

 

ユメは静かに頷いた

 

それは、この数ヶ月で嫌というほど理解している

 

今のアビドスは、私達が抑えているから均衡を保てている部分が大きい

 

祈願屋が動かなくなれば、裏側から一気に崩れ始める

 

「だから。」

 

アンラは軽く手を振った

 

「留守番頼むわ、社長。」

 

「・・・はい。」

 

ユメが少しだけ困ったように笑う

未だにその肩書きには慣れない

 

セイアはそんな二人を見ながら、静かに紅茶を飲み干した

 

「では私は?」

 

「書類の処理とユメちゃんが出動した時の留守番。」

 

「随分と雑な扱いだね。」

 

「衣食住の保証に追加で、ロールケーキ出るだけマシやと思え。」

 

「まだ食べさせる気なのかい・・・。」

 

セイアが珍しく若干引いていた

 

 

 

おっさんはふと何かを思い出したように足を止めた

 

「・・・あ。」

 

「?」

 

ユメが首を傾げる

おっさんはローブの内側をごそごそと漁り、小さな箱を取り出した

 

「そういや忘れとった。」

 

「ミレニアム土産。」

 

「え?」

 

ユメの顔が少し明るくなる

 

「買ってきてくれたんですか?」

 

「最終日に思い出してな。」

 

「危なかったわ。」

 

そう言いながら机の上へ箱を置いた

ユメは少し嬉しそうに包装を開ける

 

そして――

 

中身を見た

 

「・・・。」

 

沈黙

 

数秒

 

「・・・。」

 

さらに沈黙

 

セイアも横から覗き込む

 

「・・・何だいこれは?」

 

箱の中には、奇妙なフィギュアが鎮座していた

 

無骨な四角い胴体

 

妙に自己主張の激しい赤い目

 

絶妙に言葉を選びたくなる造形

 

「アヴァンギャルド君や。」

 

おっさんが誇らしげに言う

 

「ミレニアムで売っとった。」

 

「・・・。」

 

ユメはフィギュアを見る

 

もう一度見る

 

角度を変えて見る

 

「・・・えっと。」

 

言葉を選んでいた

 

「ロボット・・・ですか?」

 

「せや。」

 

「・・・。」

 

「・・・。」

 

再び沈黙

 

セイアが静かに口を開いた

 

「君はこれを見て、土産として適切だと思ったのかい?」

 

「購買で売っとったんやぞ?」

 

「質問に答えたまえ。」

 

「・・・。」

 

おっさんは目を逸らした

 

ユメはフィギュアを持ち上げる

 

正面から見る

 

横から見る

 

後ろから見る

 

やはり感想は変わらなかった

 

「・・・なんというか。」

 

「うん。」

 

「独創的ですね・・・?」

 

「気遣いが見える評価やな。」

 

「だって・・・。」

 

ユメは困ったように笑う

 

「可愛いとも格好いいとも言い難いというか・・・。」

 

「せやろ?」

 

おっさんが即答した

 

「おっさんも見た瞬間そう思った。」

 

「じゃあなんで買ってきたんですか!?」

 

「他に土産になりそうなもん見つからんかった。」

 

あまりにも正直だった

 

セイアが吹き出す

 

「ふふっ・・・。」

 

「いや確かに、これはなかなかのデザインだ。」

 

「やろ?」

 

「褒めてはいないよ。」

 

即答だった

 

ユメはしばらくフィギュアを眺めていたが、

 

やがて観念したように小さく笑う

 

「・・・まぁ。」

 

「アンラさんらしいお土産ですね。」

 

そう言って、自分の机の棚へアヴァンギャルド君を置いた

 

置かれたフィギュアは何とも言えない存在感を放っている

 

「飾るんか。」

 

「せっかく貰いましたし。」

 

「優しいなぁ。」

 

「捨てるのも可哀想ですからね。」

 

「それフォローになっとらんで。」

 

セイアがちらりと棚の上を見る

 

「・・・なるほど。」

 

「何がや。」

 

「君達の事務所らしいと思っただけさ。」

 

「どこがやねん。」

 

「統一感が無いのに、不思議と馴染んでいる。」

 

棚の上には書類の束と、アビドスの地図

その横にはユメが置いた小さな観葉植物

 

そして、その隣で堂々と鎮座するアヴァンギャルド君

 

「確かに馴染んでますね・・・。」

 

「馴染んでるんじゃなくて、周囲が諦めただけやろ。」

 

ユメとセイアが小さく笑う

 

事務所の空気は穏やかだった

 

ほんの少し前まで未来や陰謀の話をしていたとは思えないくらいに

 

 

 

おっさんは、扉へ向かいながらぼそりと呟いた

 

「・・・先生、まだ生きとるかなぁ。」

 

「死んでたら?」

 

ユメが聞く

 

アンラは少し考えてから答えた

 

「ん-・・・ユメちゃんみたいに心臓に刀刺して無理矢理起こして働かせる。」

 

「ブラックも極まってますね・・・。」

 

ユメが思わず笑う

 

その笑い声を背に、おっさんは扉を開けた

外から夜の砂風が吹き込む

 

【ガチャッ】

 

「ほな行ってくるわ。」

 

「いってらっしゃい、アンラさん。」

 

「道中気を付けたまえ。」

 

アンラは片手を軽く上げ、

そのまま夜のアビドスへ消えていった

 

扉が閉まり、静寂が戻る

 

 

 

 

少しして

 

ユメが不満そうにぽつりと呟く

 

「・・・なんだかんだ、ちゃんと行くんですね。」

 

セイアは静かに目を細めた

 

「彼は、そういう人間だからね。」

「面倒事を嫌がる癖に、結局見捨て切れない。」

 

「・・・。」

 

ユメは小さく笑う

 

窓の外では、アビドスの夜景が静かに広がっていた

 

 

 

 

 

 




おっさんに神秘の使い方を学んだせいで、
身体が元気になった腕白フォックス。
暗殺されたついでにキヴォトスで一番安全な所に転がり込む事に決めた模様
まぁ実際現在のアビドスって、非常時になるまで滅茶苦茶強い治安維持組織を飼ってるっている事を他の学区に悟らせる事なく運用している凄まじく不穏な学区だからね・・・
間諜とかが入ってきたとしても治安維持の名目で掃除されますし。

腕白フォックスが転がり込んできたのは予想外でだったが、丁度書類関係の処理が出来る人員が欲しかった為、最高の補充要因になりました。
喜べセイア、君の身の安全は労基無視された労働環境の上に保証される。
そしてこの祈願屋が絡んだ時点で、死んでも働かせます(直喩)

現実だと公僕には労基以外で人事院規則とかで人権は辛うじて守られてますが、
連邦生徒会長が急ピッチで作り上げた組織なので、そんな救済措置は存在しません。
なのでシャーレも、祈願屋も所属した瞬間に人権はゴミになります。

セイアは原作通り、アズサが暗殺しに来ましたが、原作同様説き伏せ、アズサを抱き込みます。
その後、自身が持っていた爆発物を使い自室を吹き飛ばしました。
救護リラ・・・ミネ団長には、前もって、セイアの自室が爆発したら開ける様にという指示書が渡されており、それに従って、現在セイアの死亡を偽装しています。また、ミネ自身もそれに伴って雲隠れしました。

なので、トリニティでは原作通りの展開が進んでいます。
唯一違うのは、セイアがピンシャンしてて
祈願屋でグロッキーになるまで書類仕事させられる位です。

あとミレニアムの購買にて、
筆記用具とミレニアムの制服に混じって、
端っこの方にぽつんと、アバンギャルド君のフィギュアが売られていました・・・
明らかに売れてないだろうというのが判るくらいに端っこに追いやられていました。
まぁ・・・100%生徒会長からの命令で置いてるんだと思います・・・要らねぇ・・・

あ、ちなみに作者は製作決定したアヴァンギャルド君プラモは買う予定です!
あぁいうぶっさいくなの好きなんですよね
なので私自身ペロロ様も結構好きだったりします。
ペロロ様の悪口言った瞬間紙袋被って襲撃とかまではしませんが。



おっさんプチ情報
おっさんには幾つか、自己強化系の魔術が存在します。
現在はそのどれも使用していません。
もう一度言います。

今までそのどれも使用していません。

ちなみにどんな能力かと言うと、
魔装と言われる身体と魔術を融合させる技法ですね。
以前言っていた光と熱を収束する魔導をコレと併用して使うと。
光の速度で蹴られた事はあるかぁい?が出来ます。
まぁコレ使ってなくてもただの移動術で光速に突入出来るんですけどね。
ちなみにこの魔装の最大の利点は、全攻撃にこの魔装で取り込んだ術の威力が乗る事ですね。
エンチャントする魔剣の身体バージョンみたいなもんです。

他には、一撃に自身の全エネルギーを収束させる技等もあります。
まぁ前準備も無く撃ったら死ぬ奴ですね。
BLEACHでいうと無月です無月。
それか、落第騎士の英雄譚で出てくる一刀羅刹とかですね。
実際はあんなに派手じゃないですけどね。
派手に見えるのも何もかもエネルギーロスなので、本当に刀一本に収束しきるので、
同じBLEACHで例えるなら残火の太刀みたいな感じですね。
あっちは熱出てましたけどこっちは熱すら出ないのでぱっと見
収束してるエネルギーに気づけないです。

一応自己強化で言うのであれば結果的には以前言った神名開放の各段階の解放もそれですね。
実際は強化というより、封印解除に近いので本来の強さに戻ってるだけなんですが。


次はおっさんが普段している歩法について触れていきましょうかね。
ではまた次回!

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