おっさんキヴォトスに行く 作:無い頭のおっさん
vanitas vanitatum et omnia vanitas
【トリニティ・補習授業部教室】
「ハナコ、この問題はどう解けば良い?」
「どれですか?ああ、なるほど。こういう時はですね、倍数判定法を用いてこのように・・・」
「なるほど・・・うん、理解した。」
「・・・。」
「・・・?」
「えっと、コハルちゃん?何かわからない問題でもありましたか?」
「いっ、いやっ!別に!?」
顔を真っ赤にして焦った様に否定するコハル
「ちなみに今見てるそのページは、今回のテスト範囲ではありませんよ。」
「えっ、うそっ!?」
「やっ、ちが・・・っ!し、知ってるし!」
「今回の範囲は余裕だから、先の所を予習してただけ!」
コハルが焦った様に誤魔化している様子をみて、
ヒフミは思わず苦笑いが出てしまう
「あ、あはは・・・」
「ハナコ、この文章は何?」
「古い叙事詩の冒頭部分ですね。【怒りを歌え、神性よ――】という・・・」
「あぁ、あれか。理解した。」
「・・・。」
「ハナコ、これは・・・」
「これは古代語を重訳した物ですね。原文を理解するには辞書が無いと・・・」
「ちょっと待っていてくださいね。」
「ああ、なるほど。なら、これはおそらく【Gaudium et Spes】・・・喜びと希望、か。」
「えっと・・・はい、そうみたいですね。これは第二回公会議における・・・」
「いえ、それよりも、アズサちゃんは古代語が読めるんですね?」
「あぁ、昔習った。」
「・・・。」
「"良い感じみたいだね。"」
「はい!ハナコちゃんが何だかとっても凄くって・・・!」
「それに、アズサちゃんも学習意欲たっぷりです!」
「コハルちゃんは実力を隠していたそうですし・・・」
「これならもしかして、余裕で合格出来てしまうかもしれません・・・!」
「"う、うーん・・・そうだね・・・"」
「本当に良かった・・・実はすっごく心配してたんです・・・」
「実は、【もし一次試験で不合格者が出てしまったら、合宿をしてください】と
ナギサ様から言われてまして・・・」
「"合宿ね・・・"」
("本校舎から離して隔離するいつも通りの流れだね・・・")
「はい、そうなんです・・・」
「それに、もし三次試験まで全部落ちてしまったら・・・あうう・・・」
「"まぁ落ちなければ良いんだからそんなに悲観的にならないで、ね?"」
("この時点でナギサは自身の友人であるヒフミには退学の件を伝えてる・・・")
("そして、その友人すらも処分しようとしてる・・・")
「そ、そうですよね!心配も杞憂で終わりそうですし、暗い話はこの辺りにして・・・」
「とにかく、試験は問題無さそうで良かったです!」
「ハナコちゃんはどうやら凄く勉強が出来る感じなのですが、
どうして落第してしまったんでしょう・・・?」
「私みたいにテストを受けられなくてとか、何か事情があったんでしょうか・・・?」
「"ハナコにも色々あるのかもしれないね・・・"」
("そう・・・色々あったんだろうね。")
それから数日後、
第一次特別学力試験の当日
補習授業部の教室にて、
ヒフミ、ハナコ、アズサ、コハルの四名がテスト受ける準備をしていた
「・・・っ」
コハルは終始険しい表情を浮かべながら椅子に座って落ち着かない様子
「うぅ・・・」
ヒフミも困惑を浮かべながら緊張した様子で椅子に腰かけていた
「ふふっ」
ハナコはテスト前にふさわしくないほどの満面の笑みを浮かべており
「・・・。」
アズサは真剣な表情で椅子に座っていた
「"皆、落ち着いて頑張ってね。"」
「え、エリートの力を見せてやるんだから!」
「あ、あはは・・・頑張ります。」
「ふふっ、はい。」
「準備は完璧。」
【ゴーン、キーン、カーン、ゴーン】
そう言ってる間に、
トリニティ総合学園の尖塔に備え付けられた古びた鐘から、
少し調律の狂った、定刻を知らせる鐘の音が鳴り響いた
「"今回のテストの制限時間は60分だよ。"」
「"それじゃ、机の上に置かれた問題用紙をめくって解いていってね。"」
私がそうが言った瞬間、一斉に皆が裏返しにされていたテスト用紙を捲り、
問題を黙々と解いていく
私はそれぞれの顔を見ていく
ヒフミは、問題が自分が思ってる物よりも、優しかったのか、
不安な表情から一変して明るい表情になって問題を解いていた
「こ、これは・・・え、えぇっと・・・」
コハルは、問題があまり解けていないのか、
難しい顔でペンが時折止まりながらも頑張って解いており、
「ふふっ」
ハナコはもうペンすら持たずに、後ろから皆の事を微笑ましく見ていた
「・・・ふむ。」
アズサは真剣な顔で問題一個一個を解いている
("うんうん、ハナコ以外皆頑張ってる・・・")
("ハナコは今回何点を目指すのかな・・・")
("前は第一次、第二次で19点、19点とか45点、45点とか取ってたけど・・・")
暫くすると、
【ゴーン、キーン、カーン、ゴーン】
テストの終わりを告げる鐘の音が鳴り響いた
「"はい!そこまで!"」
「"答案用紙から、手を離してね。一枚ずつ今から回収していくよー!"」
「み、皆さんお疲れ様でした・・・!」
「えっと、100点満点で60点以上でしたら合格だそうです!」
「高得点は取れなくても、取り敢えずそのラインだけ超えられれば大丈夫です。」
「それに内容も結構簡単でしたし・・・では、結果発表と行きましょう!」
「先生採点は大丈夫ですか?」
「”うん、四人分だからね。これくらいならすぐ終わるよ。”」
数分後
「"はい、採点終わったよーじゃ、結果発表していくね。"」
「"ヒフミ、72点!結果――合格。"」
「あ、ありがとうございます!何だか無難な点数ですが、良かったです!」
「"アズサ、32点!結果――不合格"」
一瞬、アズサの動きが止まる
答案用紙と私の顔を見比べながら
何度か瞬きを繰り返した
「・・・はいぃっ!?」
「ちっ、紙一重だったか・・・」
(”うーん・・・アリウスの環境を考えると本当によく頑張った方だよね・・・”)
「・・・ま、待ってください!【紙一重】っていう点数じゃないですよ!?」
「結構足りてないですよ!?」
「"続きも発表していくね。"」
「"コハル、11点!結果――不合格"」
「!?」
コハルの肩がビクリと跳ねた
本人ですら予想外だったらしい
「コハルちゃんんんんんんんっ!?」
「今回はちゃんと一年生用の試験を受けたんですよね!?ま、まさかまた二年生用の・・・」
「いえ、その点数三年生用の試験を受けたんですか?!」
「"うーん・・・ちゃんと一年生用なんだよね・・・"」
「やっ、その・・・!か、かなり難しかったし・・・!」
「すっごく簡単でしたよ!?小テストみたいなレベルでしたよ!?」
「あらあら・・・」
("ハナコ楽しんでるなぁ・・・")
「うぅ・・・合格したのは私とハナコちゃんだけ、と言う事でしょうか・・・」
「となるとまた次の、二次試験を受けないと・・・」
「"あー・・・ヒフミ。ハナコの結果を言うね?"」
「"ハナコ、2点!結果――不合格"」
教室が静まり返る
コハルは口を開けたまま固まり
アズサですら流石に目を丸くしていた
("うん、凄いよ。問題の最低点数が5点の所を、")
("文章問題で三角取って態々点数調節してきたね・・・")
「2点!!?!?!?!?!??!!?!?!?!?」
「2点、2点ですか!?20点ではなく!?」
「いえ、20点でもダメなのですが・・・!むしろ何が正解だったんですか!?」
「と言いますか待ってください、ハナコちゃんもの凄く勉強が出来る感じでしたよね!?」
「"うーん・・・文章問題でなんか凄くフワっとした表現で答えに若干掠ってて2点だね。"」
「確かに私、そういう雰囲気あるみたいですね。まぁ成績は別なのですが。」
("ハナコ楽しそうだなぁ・・・")
「雰囲気!?雰囲気だけだったんですか!?成績とは別ってどういう事ですかっ!?」
「う・・・あうぅ・・・」
ヒフミの顔からみるみる血の気が引いていく
補習授業部の希望
頼れる優等生
そんな認識だったハナコがまさかの2点
精神的ダメージは相当だったらしい
そのままヒフミは叫び過ぎたのかフラッとし、倒れそうになった
「"ヒフミ!?しっかり・・・!"」
そのまま倒れたヒフミを抱きかかえ保健室に向かい、
トリニティでの第一次特別学力試験は終わった
【トリニティ総合学園・テラス】
倒れたヒフミを保健室に連れて行ったり、看病をしたりしていたら
日も沈み、静かな夜になっていたが
今日のテストの結果をナギサに伝えにテラスまで来ていた
テラスにはこんな夜遅い時間なのに紅茶を飲んでいるナギサが居た
夜風に揺れる淡い髪、月明かりを受けたそれは、白銀にも見えた
整った所作
優雅なティーパーティーのホスト
その姿だけを見れば、
誰も彼女が今トリニティ最大級の問題を抱えているとは思わないだろう
("こんな時間にカフェイン・・・急遽ホストになったから仕事が大変なんだろうな・・・")
シャーレで、書類の地獄に埋まる事が多々ある為、
思わず同情的な目でナギサを見てしまう
「あら、先生。お疲れ様です。」
「補習授業部の方はいかがですか?」
「ふふ・・・と言いつつ、既にお話は聞いております。」
「どうやら最初の試験は、上手く行かなかったようですね。」
「ですが、まだ後二回残っていますので・・・」
私はナギサの手元に置かれたチェス盤へ目を向ける
駒は既にかなり減っていた
黒はキングとクイーン
そして無数のポーン
対する白は強力な駒を多数抱えている
どう見ても均衡の取れた盤面ではない
けれどナギサは迷いなく次の一手を指していた
「・・・あぁ、これですか?チェスです、趣味でして。」
「・・・恐らく、見慣れないタイプですよね?黒はキングとクイーン、後は全てポーンだけ。」
「白はキング、ルーク、ビショップ、ナイトがそれぞれ3~4個ずつ・・・
きっとあまり見ない形でしょう。」
「"えらく極端な盤面だね・・・フェアリーチェスかな?ナギサ一人でしてたの?"」
「はい、今は私一人で。五月蠅いミカさんも居ないですし。」
("今は・・・ね、セイアとでも昔はしてたのかな・・・")
「今日は先生に、お伝えしておきたい事があったのですが・・・」
「それよりも先に、先生の方から何か言いたげな事がある様に見受けられますね。」
「"そうだね・・・ナギサ。補習授業部の子達は三回とも不合格になったら、どうなるの?"」
「・・・小耳に挟まれたのでしょうか?出所は・・・ヒフミさんですかね?」
「彼女は、そういう所がありますからね。
まぁそれが、ヒフミさんの良い所でもあるのですが・・・」
「さて、質問にお答えしますと、簡単なお話です。
試験で不合格を繰り返す、落第を免れそうにない、助け合う事も出来ない。」
「だとすれば、皆さん一緒に退学して頂くしかありません。」
「"退学ね・・・"」
「もちろん、本来のトリニティでは退学等に関する校則は、
長々とした手続きと会議を経なければ出来ませんが」
「今回急造された補習授業部は、このような校則を無視し強行出来る用に
シャーレの権限を少し組み込ませて頂いております。」
「そもそも、補習授業部は生徒を退学させる為に、作ったものですから。」
("やっぱり、何度繰り返しても、追い詰められたナギサは同じ結論に辿り着く。")
犯人は分からない
だから
合理的で、そしてあまりにも危うい方法
「"ナギサ、君は本当にそれでいいの?"」
「ええ、仕方ありません。あの中にはトリニティの裏切者が居ます。」
「その裏切者の狙いは、エデン条約締結の阻止。」
「この言葉が持つ重さを理解していただくには、
【エデン条約】とは何か、という説明が必要ですね。」
「エデン条約・・・簡単に言いますと、トリニティとゲヘナの間に結ばれる不可侵条約です。」
「その核心はゲヘナとトリニティの中心メンバーが全員出席する、
中立的な機構を設立する事にあります。」
「Eden Treaty Organization、通称【ETO】と呼ばれるであろうこの団体が、
トリニティとゲヘナの間で紛争が起きた時に介入し、その紛争を解決する事になります。」
「この抑止力のおかげで、二つの学校間で全面戦争が起きる事は無くなります。
誰かが踏み込めば、仲良く共倒れしてしまう事になりますので。」
「トリニティとゲヘナの長きにわたる敵対関係は、互いに大きな重荷になっています。」
("重荷・・・万魔殿は多分重荷とすら思ってないだろうなぁ・・・")
("何せ統治業務の殆どを風紀委員会に依存してるからね・・・")
「エデン条約はその無意味な消耗を防ぐ為の、恐らくは唯一の方法であり、
キヴォトスにおける力のバランスを保つ為の方法でもあります。」
「これは、連邦生徒会長が提示した解決策でもありました。」
「彼女が行方不明になってしまい、一度は空中分解しかけた物を
私の元でどうにかここまで立て直したのです。」
「そしてこの念願の条約が締結される直前まで来た、
このタイミングでコレを妨害しようとする者たちが居るという情報を耳にしてしまいました。」
「まだ、それが誰なのかはわかりません。特定には至りませんでした。」
「そこで、次善の策として、その可能性がある容疑者を一か所に集めたのです。」
「・・・裏切者は必ず居ます。ですが、誰なのかが分かりません。」
「であれば、一つの箱に纏めてしまい、
いざという時に纏めて捨ててしまおう。そういう手筈です。」
「"なるほどね。でも、それを今私に話すという事は、それだけじゃないんでしょ?"」
「・・・流石先生、理解が速いですね。」
「先生・・・補習授業部に居る裏切者を、探していただけませんか?」
「"ナギサは、以前私が言った事を理解した上でそれを言ってるのかな?"」
「【生徒皆の味方】ですか?大変高尚な志だとは思います。」
「ですが、先生やトリニティを騙そうとしている者が居ます。
裏切者は、平和を破壊しようと企むテロリストです。」
「私達だけでなく、キヴォトス全体の平和を自分達の利益と天秤にかけようとしているのです。」
「そんな裏切り者の味方をする、と言うのですか?」
「"・・・ナギサ。例え裏切者と呼ばれていても、例えテロリストだと言われていても、
彼女達は私の【生徒】なんだ。"」
「だから私は【先生】として、この問題に対処させて貰うよ。"」
「・・・そうですか、残念ですが分かりました。」
「・・・ですが、先生。ゴミを細かく分別して捨てるのが難しい時は、箱ごと捨てると言うのも手段の一つ、そう思いませんか?」
「それから、もう一点・・・試験については基本的に、私達の掌の上にあります。」
「例えば、【急に試験の範囲が変わる】ですとか、【試験会場が変わる】ですとか、
【難易度が変わる】などです。」
「まぁそういった事が起きない事を祈っていますが・・・」
先ほどまでの仄めかした腹黒い計画を感じさせない朗らかな笑みを浮かべる
「失礼しました。良くない物の言い方でしたね。
それではこれからも、引き続き補習授業部を宜しくお願いします。先生。」
「私たちの方から、先生に対して不利益や損害を与える事はありません・・・
と言いたい所なのですが・・・」
「"最悪、私を消すかい?"」
「・・・消すだなんてそんな。ただ、そうですね。
もしかしたらお怪我をされる事があるかもしれないと・・・だけ。」
「だからと言って、先生が生徒達を放って置くような方ではないと思っておりますので、
これからの展開は私にも予測しきれておりません。」
「どうか、この結末が・・・出来るだけ、苦痛を伴わない物である事を願うだけです。」
「ああ、ですが一つだけお伝えしておきますと・・・」
「一次試験において、私達の方では如何なる操作も行っておりません。
この部分については、誓って嘘ではない事をお約束します。」
「先生としてのやり方、それがトリニティに利する物である事を願っていますね。」
「・・・それでは、また。」
「"うん、ナギサ、君は納得しないかもしれない。でも私は必ず皆を救ってみせるよ。"」
ナギサは何も言わない
ただ紅茶を一口だけ飲んだ
その横顔からは、何を考えているのか読み取れなかった
「"・・・じゃあね。"」
夜風が吹く
チェス盤の上で、黒のポーンが一つ倒れていた
【数日後・トリニティ自治区山間部】
第一次特別学力試験の結果は散々だった
合格者はヒフミのみ
アズサ、コハル、ハナコの三名が不合格となり、
補習授業部は次の試験へ向けて合宿を行う事となった
山道を歩く一同の空気は重い
ヒフミは申し訳なさそうに周囲を見回し
コハルは不機嫌そうに先を歩き
アズサは黙って景色を眺めている
ハナコだけは何処か楽しそうだった
今回の合宿場所は、
ティーパーティーが所有する別荘
トリニティ本校から少し離れた山間部に建てられた、
避暑地として利用される施設らしい
ナギサ曰く、
【集中して勉強するには最適な環境ですよ】
との事だった
("・・・。")
私は先頭を歩きながら、
数日前のナギサとの会話を思い出す
補習授業部
裏切者
エデン条約
そして退学
ナギサは、間違いなく本気だ。
まだ猶予はあるが、いつ強硬策に出てもおかしくない。
彼女は補習授業部の中に居る裏切者を恐れている
だからこそ、
最悪の場合は全員まとめて切り捨てるつもりでいる
("・・・まぁ。")
("そんな事、私が絶対させないけどね。")
生徒を守る
それが先生の仕事だ
私がそう考えていると、
「わぁ・・・!」
不意にヒフミの声が聞こえた
視線を上げる
木々の隙間から、
大きな洋館が姿を現していた
石造りの重厚な建物
山の中とは思えないほど立派な造りだ
周囲には綺麗に整備された庭園まである
「す、凄いです・・・」
「本当に別荘なのね・・・」
コハルも思わず足を止める
そんな中、
(・・・ん?)
私は門の近くに居る人影に気付いた
花壇の傍
誰かが屈み込んで作業をしている
男だった
歳は三十代前半ほどだろうか
長身で、
痩せすぎず太り過ぎてもいない引き締まった体格
黒い司祭服を身に纏い、
胸元には金色の十字架が揺れている
神父
そう呼ぶのが最も近い
だが――
(・・・。)
何故だろう
視線が引っ掛かった
男はただ花壇の手入れをしているだけだ
危険な様子はない
武器も持っていない
それなのに
何処か戦場に立つ兵士のような印象を受ける
穏やかに微笑んでいる
しかしその瞳だけは妙に鋭かった
まるでこちらを見ているようで、
その実もっと別の何かを見ているような
そんな奇妙な違和感
私達の気配に気付いたのか、
男はゆっくりと立ち上がった
司祭服の裾を軽く払う
その何気ない仕草にすら妙な洗練さがある
「ほう」
低く落ち着いた声
不思議と耳に残る、地を這うような声音だった
「足音で察してはいたが・・・まさか、これほど可憐な訪問者とはな」
男は唇の端をわずかに吊り上げ、穏やかに、しかし一切の感情を読ませない笑みを浮かべる
「えっと・・・はい。」
ヒフミが圧に圧されながらも、なんとか答える
「ふむ。落第の烙印を押され、それでもなお足掻くことを選んだ仔羊たち・・・。
なるほど、君たちが【補習授業部】か」
男は恭しく、完璧な所作で一礼した
「歓迎しよう。よくぞ苦難の道を歩み、ここまで辿り着いた」
「私はグレゴリー。主の教えに身を捧げる、ただのしがない司祭だ。
現在はティーパーティーの敬虔なる要請により、この別荘の管理を任されている。」
「よ、よろしくお願いします・・・!」
ヒフミが慌てて頭を下げる
それに続いて、コハルたちも緊張の面持ちで軽く会釈をした
「・・・ふん。そう畏まる必要はない。私はただの管理人だ。
短い間だが、どうぞ我が家のように、自由にくつろぐといい」
グレゴリーは深く底の知れない笑みを浮かべながら頷く
「では――まずはこの館の案内から始めるとしよう。
迷い込んだ哀れな迷子に、正しい道を指し示すのも、聖職者の務めだからな。」
男はゆっくりと歩を進め、
私達もその後に続いた
【ティーパーティー所有別荘・内部】
重厚な木製の扉が開かれる
中は思っていた以上に広かった
高い天井、赤い絨毯
壁には古い絵画や装飾品が飾られている
まるで貴族の屋敷、あるいは歴史ある大聖堂の奥の院のような重苦しい雰囲気が漂っていた
「わぁ・・・」
ヒフミが感嘆の声を漏らす
「な、何よこれ・・・」
コハルが思わず立ち止まる
「別荘ってこんなのなの・・・?」
「えっと・・・私も初めてなので・・・」
「いやいやいや!」
「どう見ても普通じゃないでしょ!?」
少女たちの喧騒を背中で聞きながら、グレゴリーは淡々と説明を続ける
「出入口は二つ。
今入って来た正面玄関と、裏手にある裏口だ。
万が一、不測の事態――いわゆる【災厄】がこの館を襲った際、
どちらからでも避難出来るよう、その身に記憶しておくといい。」
「一階には教室が三部屋、それと簡易的な体育館がある。」
そう言って案内された先には、実際に授業で使用出来そうな教室が並んでいた
「勉強合宿には十分ですね。」
ハナコが微笑む
「・・・ふむ。それを聞いて安心したぞ。
落第という【罪】を贖うための学び舎としては――申し分のない環境という事だ。」
グレゴリーも静かに頷いた
その時だった
「・・・。」
気付けばアズサの姿が消えている
("・・・アズサ、トラップ仕掛けに行ったな・・・")
私が視線を向ける
教室の隅
アズサが何やら工具箱を開いていた
「"アズサ?"」
「大丈夫だ。」
「入口に警報装置を――」
「結構だ。」
いつの間にか後ろに立っていたグレゴリーが即座に却下した
「だが――」
「――結構だと言っている。私の管理下において、不埒な外敵の侵入など万に一つもあり得んよ」
「・・・そうか。」
アズサは素直に工具を片付けた
("止めるの早いなぁ・・・")
何となく感心してしまう
その後も案内は続く
物置
洗濯室
浴場
各種設備を一通り見て回る
「二階には寝室がある」
階段を上がりながらグレゴリーが説明する
「六人ほど利用出来る大部屋が三室。」
「それとは別に小部屋が二室ある。ベッドも一通り揃えてある、各々ご自由に使うといい」
「おぉー・・・」
ヒフミが思わず声を漏らした
想像していたよりずっと本格的だ
その時
「"・・・。"」
再びアズサの姿が消えていた。
("今度は何処・・・")
探してみると
廊下の窓際で何やら紐を張っている
「"アズサ。"」
「侵入者対策だ。」
「夜間は視界が悪くなる。」
「結構だ。」
またしても即座にグレゴリーの声が飛んだ
「・・・そうか。」
アズサは少しだけ残念そうだった
案内は更に続く
地下へ降りる
そこには大きな食堂とキッチンが存在していた
「こちらは自由に使って貰って構わん。」
「食材も私の方である程度用意しておいた。
飢えを凌ぐための保存食から、生鮮食品まで一通り揃えてある。」
「・・・ああ、それと。
もしよければ私の贔屓にしている店の直伝の非常に刺激的な調味料も置いてある。」
「料理の隠し味に使うといい。脳を焼くような愉悦が味わえるぞ。」
「す、凄いです・・・!」
「これ全部使って良いんですか!?」
ヒフミが目を輝かせる
「あぁ。施された恵みを腐らせるなど、主への背信行為に等しい。」
「遠慮は不要だ」
「・・・。」
その隙に
アズサが厨房の換気口へ近付いていた
「換気口から侵入される可能性が――」
「結構だ。」
「・・・。」
「・・・重ねて、結構だと言っている。
少女よ、その無駄な足掻きをここで披露する必要はない。」
「・・・分かった。」
三度目だった
流石にコハルも吹き出しそうになっている
「外には庭園と花壇がある。
それとプールもある。好きに使いたければ使うと良い。」
全ての案内が終わり、再び玄関ホールへ戻って来る
「ただし――」
グレゴリーはそこで付け加えた
「私もつい最近ここへ派遣されたばかりでね。」
「一通りの清掃は済ませてあるが、未だ過去の【澱み】」
「・・・埃が残っている場所もある。その点だけは考慮してもらいたい。」
「なるほど・・・」
確かによく見ると、
棚の隅などには少し埃が残っている
長らく使われていなかったのだろう
「まぁ、生きて生活を営む分には支障はない。
気になるようであれば掃除道具もある。己の手でその汚れを清めるのも良い経験となるだろう」
そう言ってグレゴリーは再び歩き出した
「それでは」
「皆さんの部屋へと案内しよう。」
二階の廊下を進み、
最も大きな部屋の前で立ち止まる
扉を開く
そこには六人でも十分に利用出来そうな広々とした寝室があった
整然と並んだベッド
大きな窓
荷物を置くスペースも十分に確保されている
「ここだ。合宿期間中は、この部屋で夜を明かすといい。」
そう言ってグレゴリーは静かに、完璧な所作で一礼した
そのまま流れるような動作で踵を返し、音もなく廊下の向こうへと去っていく
司祭服の裾が揺れ、
その背中が角を曲がって完全に消えるまで――私達の間に、奇妙な沈黙が支配していた
グレゴリーの足音が完全に途絶えた、その瞬間
「・・・は、はふぅぅぅううううっ・・・!!」
ヒフミがまるで堰を切ったように大きな息を吐き出し、
近くのベッドへへなへなと腰を下ろした
まるで、目に見えない巨大な重力からようやく解放されたかのような脱力ぶりだった
「やっと・・・やっと着きましたね・・・。」
「なんだか、立っているだけで魂を持っていかれそうな圧というか、
背筋が凍るような神父さんでした・・・」
「な、何よあいつ・・・! 偉そうに『結構だ』なんて連呼しちゃって・・・!」
コハルも引きつった顔で荷物を床へ置きながら、凝り固まった肩を回す
「い、一応トリニティの聖職者みたいだから我慢したけど、
怪しすぎるでしょ! もし変なことしてきたら、即死刑だからね! 死刑!!」
「うん、良い居住区だ」
そんな二人をよそに、アズサは窓際へ向かいながら周囲を確認している
だが、その瞳はいつになく鋭い
「・・・だが先生、あの男はただの司祭ではないな。」
「私が仕掛けようとしたすべてのトラップの死角を、
一切の視線を向けずに完全に見抜いていた。」
「あれは間違いなく、本物の【修羅場】を幾度も潜り抜けた者の身のこなしだ。警戒を怠るな」
「ふふっ。私は結構好きですよ、こういう場所。・・・それに、あの冷徹な神父様も」
ハナコは相変わらず楽しそうに、
どこか意味深な笑みを浮かべて部屋を見回していた
皆がそれぞれ、ようやく緊張を解いて荷物を整理し始める
その様子を眺めながらも、私の意識は別の所へ向いていた
("・・・。")
グレゴリー、あの司祭
("誰だ・・・?")
少なくとも、私の知る過去には存在しなかった
一周や二周ではない
百回以上繰り返した記憶の中に、あの男は一度たりとも現れていない。
補習授業部の合宿
その流れ自体は知っている
だが――
("あんな司祭は居なかった。")
胸の奥に小さな違和感が残る
ナギサの手配した人間か
それともミカ側の人間か
あるいは・・・
("アリウス・・・?")
その可能性も否定できない
エデン条約を巡る状況は、
既に水面下で動き始めている
もし補習授業部を監視する為の人員なら――
("いや・・・。")
私は小さく首を振った
判断材料が少なすぎる
だが
("また未来が変わった・・・?")
その考えだけは、
どうしても頭から離れなかった
知っている未来から外れた出来事
それはいつだって、
ろくな結果を連れてこなかったからだ
("・・・。")
知らず知らずのうちに、考え込んでいたらしい
「先生?」
「・・・先生?」
「先生ー?」
「"・・・え?"」
顔を上げる
いつの間にか補習授業部の面々がこちらを見ていた
「どうしたの?」
「さっきから呼んでたんですよ?」
ヒフミが少し心配そうな顔をしている
「何か考え事ですか?」
ハナコが首を傾げた
「"ああ、ごめん。"」
「"少しね。"」
そう答えると、コハルが呆れたように肩を竦める。
「それより先生。」
「これからどうするの?」
「どうするって?」
「だから!」
コハルは部屋の隅々を指差した
「掃除よ、掃除! あの司祭も言ってたじゃない! あちこち埃が残ってるって!」
「"あぁ・・・"」
確かに棚の上や窓枠を見ると、薄っすらと埃が積もっている
合宿期間を考えると、最初に片付けてしまった方が良さそうだ
「私も賛成です!」
ヒフミが元気よく手を挙げる
「折角使わせて貰うんですし!」
「ふふっ。」
「みんなでやれば早そうですね。」
ハナコも同意する
「・・・問題ない。拠点の清掃は防衛の基本だ。」
アズサも頷いた
「"そうだね。"」
私は苦笑しながら立ち上がる
「"じゃあまずは大掃除から始めようか。"」
「やった!」
「よーし!」
ヒフミが気合いを入れる
私は軽く手を叩いた
「"それじゃ一旦解散。"」
「"みんな汚れても良い服に着替えてきてね。"」
「"十分後に正面玄関集合。"」
「はい!」
ヒフミが元気よく返事をする
「・・・分かった。」
アズサも短く頷く
「ふふっ、了解です。」
ハナコは相変わらず楽しそうだった
「よ、汚れても良い服って・・・体操服でも良い・・・?」
コハルはそう言いながらも、
既に荷物の中を探し始めていた
10分後
【合宿場・正門】
私もいつもの白いシャーレの制服を脱ぎ、
中学の頃に買った芋ジャーを着ていた
("・・・今でも普通に着られるんだよね、これ。")
("流石にそろそろ新しいの買った方が良い気がするけど・・・")
「先生、お待たせしました!」
「"おお、体操着姿!"」
「はい、服装から入るのも大事ですからね。体操着の方が動きやすいですし、
汚れた時に洗濯もしやすいですし。」
「・・・で、私は何をやればいいの?」
「あっ、コハルちゃん早かったですね。」
「お待たせ。」
「アズサちゃんも――って、どうして銃を・・・?」
「肌身離さず持っていないと、銃の意味がない。襲撃はいつ来るかわからない物だ。」
「いえ、それはその、何と言いますか、その通りなのかもしれませんが・・・」
「お待たせしました、皆さん早かったですね?」
柔らかな声と共にハナコが姿を現す
("あぁ・・・また水着なんだろうなぁ・・・")
私は半ば確信していた
今までの周回でも、
補習授業部の合宿やイベント事になると、
何故かハナコは高確率で水着を持ち出してくる
もはや季節も場所も関係ない
だから今回も当然そうだと思っていたのだが――
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
そこに居たのは、
普通に体操服を着たハナコだった
白い体操服
紺色のジャージ
体操服の上着の前を開けている以外に特に露出も無い
極めて健全な格好である
("・・・えっ!?")
思わず二度見した
「えっ。」
コハルも固まる
「えっ?」
ヒフミも固まる
「・・・?」
当の本人だけが不思議そうに首を傾げていた
「どうかしましたか?」
「い、いえ・・・」
ヒフミが戸惑いながら答える
「その・・・ハナコちゃんが普通の体操服だったので・・・」
「何ですかそれ。」
ハナコが苦笑する
「私だって体操服くらい着ますよ?」
「いや、着るんだ・・・」
コハルが思わず呟いた
「失礼ですね。」
「だってハナコだし・・・」
「どういう意味ですか?」
("うん・・・コハルの気持ちはわかる。")
私も内心で同意する
少なくとも、
私の知る限りではこういう場面のハナコは大体水着だった
なので正直かなり驚いている
「まぁ・・・」
ハナコは少しだけ視線を逸らした
「今回は男性も居ますから。」
「男性?」
ヒフミが首を傾げる
「グレゴリーさんですよ。」
「ああ。」
なるほど
確かに知らない男性が居る状況だ
「流石に初対面の男性の前であまり大胆な格好をするのもどうかと思いまして。」
そう言って少しだけ照れ臭そうに笑う
「だから不承不承ながら今日は普通です。」
「それでは、まず!建物周辺の雑草から抜いて行きましょう!」
「今日は日差しも強いですし、熱中症には気を付けてくださいね。」
「は~い♪」
「草を、抜く・・・ま、まぁ別に・・・」
「なるほど。確かに本陣の周囲で、
敵が隠れられそうなポイントから取り除くのは理にかなってる。」
「"多分人が隠れられる程の雑草は生えてないよアズサ・・・・"」
「む・・・そうか。」
「えっと・・・と、とにかくまず、建物の周りを整えたら、
その後はそれぞれ一か所ずつお掃除をしていくという順番でお願いします!」
「さあ、始めましょうか!」
「「"おー!"」」
熱い日差しの下、
私達は手分けして作業を始めた
最初こそ不満そうだったコハルも、
いざ始めてしまえば黙々と雑草を抜いている
ヒフミは軍手を付けながら楽しそうに作業をしており、
アズサは雑草を抜くというより、
何かの捜索作戦のような真剣な顔で周囲を警戒していた
ハナコだけは終始楽しそうだ。
("本当にこういうイベント好きだなぁ・・・")
合宿所周辺の雑草を一通り抜き取り終える
一部謎のガラクタが見つかった為、
グレゴリーさんに確認し、
邪魔にならないよう端へ纏めて寄せておいた
その後も、合宿所内の各部屋に溜まった埃などを掃除していく
元々ある程度清掃されていた事もあり、作業は思ったより順調だった
いつもの周回で見た別荘より、遥かに綺麗な状態だった気がする
("グレゴリーさん、本当に管理人なんだな・・・")
あの神父の事は未だによく分からない
だが少なくとも、別荘の手入れはしっかり行っていたようだった
「"こんなもんかな・・・?"」
私は雑巾を絞りながら周囲を見回す
窓ガラスも綺麗になり、
床の埃もほとんど見当たらない
「良いんじゃない?元々ある程度はキレイだったけど、
更にキレイになった気がする。うん、気持ち良い。」
「・・・うん、悪くない。」
「そうですね、お疲れ様でした!」
ヒフミが満足そうに頷いた
すると
「あ、まだ一か所だけ残ってますよ?」
ハナコが人差し指を立てる
("あれ、ハナコ・・・グレゴリーさんが居るからそれは・・・")
「あれ、そうでしたっけ・・・?」
「はい、野外プールが♡」
「ぷ、プール・・・?」
「あ、そう言えばさっき、グレゴリーさんが外にあるって・・・」
実際に皆で現場を見に行く事となった
木々に囲まれた敷地の奥
そこには想像以上に大きな野外プールが広がっていた
「これは・・・」
アズサが周囲を見渡す
長らく使われていなかったのだろう
水は抜かれ、底には砂や落ち葉が積もっている
プールサイドにも雑草が伸び、どことなく寂しげな雰囲気だった
「大分大きいな、どこから取り掛かれば良いのか・・・いやそもそも、
補習授業に水泳の科目は無かったはずだけど?」
「試験に関係ないなら、別にこのままでもいいじゃん。掃除する必要ある?」
「いえいえ、良く考えてみてください、コハルちゃん。」
「キラキラと輝く水で満たされたプール、楽しい合宿、はしゃぎ回る生徒達・・・」
「・・・楽しくなってきませんか?」
「・・・!?」
コハルが一歩後ずさる
私は思わず苦笑した
("あぁ・・・。")
この顔は知っている
ハナコが何か企んでいる時の顔だ
大抵ろくでもない事になる
「ですが確かに、こうして放置されてしまったプールを見ていると・・・
なんだか寂しい気持ちになりますね。」
「このサイズだし、元々は、賑やかな声が響き渡っていた場所なのかもしれない。」
「それでも、こんな風に変わってしまう。
【Vanitas Vanitatum】・・・それが、この世界の真実。」
風が吹く
プールの底に落ちていた枯葉が、
かさりと音を立てた
「?」
「えっと・・・?」
「古代の言葉ですね、【全ては虚しい物である】・・・確かに、そうなのかもしれません。」
「・・・アズサちゃん、ヒフミちゃん、コハルちゃん!」
「今から遊びましょう!」
「え、えぇっ!?」
「今から掃除して、プールに水を入れて、皆で飛び込んだりしましょう!」
「明日からは頑張ってお勉強をし続けてないといけませんし、
となると今日が最後のチャンスかもしれないじゃないですか。」
「今のうちにここで楽しく遊んでおかないと!
途中からはまた別の事で、色々と疲れてしまうかもしれませんし・・・!」
「さぁさぁ、早く濡れても良い恰好に着替えてきてください!プール掃除を始めましょう!」
「"まってまって、ハナコ。グレゴリーさんがいるから水着は嫌なんじゃ・・・?"」
「ふふふ、安心してください。グレゴリーさんはさきほど大掃除している時に、
仕事が終わったから帰るといって出ていかれましたよ!」
「"・・・・"」
("さっき露出出来なかった分までここで何かする気だ・・・")
「・・・うん。例え全てが虚しい事だとしても、
それは今日、最善を尽くさない理由にはならない。」
「問題ない、ちゃんと水着も持ってきてる。待ってて。」
そう言うなり、アズサは迷いなく建物へ向かって走り出した
「あ、アズサちゃん!?早っ・・・!?」
("行動力だけは本当に凄いなぁ・・・")
("・・・まぁ、アズサが楽しそうだし良いっか・・・")
「さぁヒフミちゃんも!コハルちゃんも早く水着・・・
いえ、何でも良いので濡れても良い恰好に!」
「"なんだか・・・ハナコ目が怖いよ・・・"」
「うーん、でも確かにここだけ掃除しないのも何だか気持ち悪いですし・・・
私も、着替えてきます!」
「え、えぇっ!?補習授業とは全然関係ないじゃん・・・うぅ、何で・・・」
「ふふっ、コハルちゃん♡」
じわじわとハナコがコハルへにじり寄る
「わっ、分かった!分かったから!!無言で近寄らないで!」
しばらくして
再びプールへ集まったヒフミ達は、
思わず足を止めた
「「「・・・・・・」」」
ヒフミ、アズサ、コハルの三人が、
トリニティ指定の水着姿で立っていた
そして
ハナコだけ、
普通の制服で来ていた
「さぁ、これでびしょびしょになっても構わないと言う事ですね♡」
「うん、問題ない。」
「ま、まぁ一応・・・」
「では、皆でお掃除を始めましょうか?」
「待て待て待てっ!!!!」
「コハルちゃん?どうかしましたか?」
「あんたどうして制服なの!?本当にバカなの!?
【濡れても良い服】ってあんたが言ったんじゃん!?」
「これが濡れても良い恰好ですよ?」
「もう、あんたが何言ってるか分かんない!制服が濡れてもいいの!?」
「コハルちゃん、これは各々の美学の問題かもしれませんが・・・」
「え、美学・・・?」
「水着と制服、どちらの方が濡れた時に居【良い感じ】になると思いますか?」
「は、はぁっ!?【良い感じ】って何よ!?何の話!?」
「ふふ、まぁ半分は冗談ですよ。ほら、実は中に着てるんです。
お小遣いで買ったマイクロビキニの水着。」
("ん・・・?今聞き捨てならない単語が一瞬聞こえた気が・・・")
気のせいだろうか
多分気のせいだ
深く考えない方が良い気がした
「え、え・・・?」
「コハルちゃんの許可も出た事ですし、ではそういうことで♪」
「改めて、お掃除始めましょうか!」
「"最後は無理矢理ゴリ押した・・・"」
そのあと皆はプールの掃除を始めた
私は流石に水着なんて持ってきていないので、
一人プールサイドの掃除をしている
時折視線を向けると、皆は思った以上に楽しそうだった
補習授業部として集められてから、まだそこまで時間は経っていない
ぎこちなさも残っている
それでも
こうして一緒に笑って、一緒に騒いでいる姿を見ると
少しだけ安心してしまう
「見てください、虹ですよ!虹!」
ハナコが楽しそうにホースを上に向けてヒフミに水をかけていた
「ひゃっ!?ちょっ、ハナコちゃん冷たいですよぉ!」
「ふふっ、トリニティの湖から引っ張ってきている水みたいですので、
そのまま口を開けて飲んでも大丈夫ですよ?」
「ど、どうしてこんなことに・・・」
「こちらのブロックは完遂した。続けて速やかに其方へ向かう。」
賑やかな声が響く
先程まで静かだった別荘が、
少しずつ人の居る場所になっていく
私はデッキブラシを止め、
思わず空を見上げた
「"はぁ・・・若いっていいなぁ・・・"」
そうして、皆で掃除を終えた後、プールに水を入れ始めたものの・・・
想像以上に時間がかかり、プールに水が溜まった頃には、既に日が暮れてしまっていた
22歳聖良先生!年齢=彼氏無し!帰宅部で直帰し、家で芋ジャーを着て漫画を読みふける生活を送る!つまり灰色の青春時代を謳歌した人物である!
そんな人物にこんな青春映像は劇物だよ。
聖良先生くらいに精神強くないと精神ダメージで精神崩壊するよ。
そして、出てきました。
謎の司祭グレゴリー
ちなみに彼は本当にティーパーティーからの依頼でこの別荘の管理業務を任されています。
そしてきちんとトリニティの司祭の資格も持っている司祭さんです。
今までの周回で居なかった理由は恐らく今回の周はアンラや先生といったイレギュラーが沢山生えているのでその変数によるものでしょう。
~今日のセイア~
セイアちゃんは現在祈願屋オフィスビル3階をリフォームし社宅としています。
ここで朝5時に起床し朝食(ロールケーキ)を渋々食べ、
そのまま二階の祈願屋に出社、出社後書類を処理し
昼休憩で柴関ラーメンを食べに行き、いたく気に入ったようです。
まぁずっと甘い物食わされてるので塩分を体が欲しているのでしょう。
休憩が終わったら、屋上に行き一旦仮眠という予知夢タイムに入りトリニティの現在の状況に探りを入れています。
前回の先生の夢に干渉する為の睡眠を休憩時間とした事がユメに発覚した為、
アンラはしばかれて、夢の干渉や予知夢などの睡眠は業務時間に出来るようになりました。
これが終わったらまた深夜まで書類を捌き続けます。
時計が午前1時くらいになってやっと社宅に戻れました。
風呂に入った後夜飯(ロールケーキ)を食ってたらいつの間にか意識を失うようにベットで横になっていました。
血糖値スパイクでもしたんですかね不思議ですね(すっとぼけ)
なお翌日の出社時間は朝6時です。頑張ってください。
本日までのロールケーキ消費本数:35本
本日までの柴関来店回数:18回