おっさんキヴォトスに行く 作:無い頭のおっさん
本日更新分2/2後半です!
お気をつけて!
【合宿場・大部屋】
窓の外では虫の鳴き声が聞こえていた
模擬試験を受け、その後日が沈むまで勉強漬けになっていた補習授業部
流石に夜も遅いと言う事で、大部屋に戻ってきていた
「ふぅ~!すっきりしました!」
「もうお風呂に入ったんだ、早いねヒフミ。」
「うふふ、そうですよね。なにせヒフミちゃん朝にシャワーを浴びれず、
寝汗の香りのまま今日一日―――」
「わわっ!そ、その言い方は恥ずかしいです・・・っ!
ううっ、寝坊さえしなければ・・・」
「"まぁ昨日は遅くまで頑張ってたからね・・・"」
「・・・ごめん、ヒフミ。私たちの準備の為に。
もし、明日の朝も起きるのが辛かったら言って。今度はヒフミの身体を洗ってあげる。」
「い、いえ!それは遠慮させて頂こうかと・・・!?」
「自分で洗えばいいでしょ!子供じゃないんだから!」
「効率の問題だ。皆で洗う事による利点は少なくない。
もちろん水の節約にもなる。」
「大浴場は無いので、皆で一心不乱に洗いっこというイベントは
ちょっと難しいようですが・・・」
「あ、いい事思いつきました。
今度お風呂代わりに、皆で裸でプールに飛び込むのはどうでしょう?」
「さらっと何言ってんの!?ダメ!そんな凄いの絶対禁止っ!!」
「悪くない案だと思うけど、それをプールでやるメリットがあるのか?」
「解放感があると思いませんか?青空の下、
全てをさらけ出して掛け合う様子を想像するだけで・・・うふふ♡」
「なるほど、そういうのは確かに考えてなかった。解放感、か・・・」
「バカバカバカバカ!!考えちゃダメ!想像しちゃダメ!そういうのは絶対ダメっ!!」
「アズサを変な風に染めるな!トリニティの変態はあんただけで十分だから!!」
「そういえば、初日言ってましたよね、コハルちゃんも全裸で泳ぎたい派なんですよね?」
「脈絡全無視!?無敵なの!?そっ、そもそもあれはあんたが勝手に言ってただけで
私は言ってないから!プールでは普通に水着!!それが正義なの!
あんただって昨日はちゃんと着てたじゃん!」
「あら・・・?よく思い出してみてください、コハルちゃん。
私が昨日プールで着ていた物を・・・」
「え、あ、あの水着が何・・・?」
「あれは、本当に【
「!?!!?」
「み、水着じゃなかったら何なのよ・・・!?」
「最近の下着はデザインがかなり充実していますし、
一目で水着かどうかの判断は難しいと思いませんか?それに、ペイントという線も・・・♡」
「・・・・・・!?!!?」
「え、嘘!?って、言う事は・・・!?」
「あらら、どうしたんですか?」
「あれがもし水着じゃなかったとして、
何かが変わってしまうんでしょうか?ねぇ、コハルちゃん?」
「え、だ、だって・・・」
「例えば、水着と下着の違い・・・それは何でしょう?
防水性?お肌の保護?デザイン?露出の範囲?」
「コハルちゃんは見た目で分からなかったですよね?あの場、あの時は、
それは【水着】だと信じられていましたよね?」
「・・・???」
「実はあれが下着であったとして・・・その【真実】かもしれない何かは、
どうすれば証明できるのでしょう?」
「証明できない真実ほど無力な物はない・・・そう思いませんか?」
「な、何言ってるのかわかんない・・・け、結局どういう事!?」
「あの水着可愛かったですよね、というお話です♡」
「・・・はぁ!?全部冗談!?」
「・・・なるほど、五つ目のあれか。」
「・・・え!」
「五つ目・・・?えっと、アズサちゃん、何のお話ですか・・・?」
「ただ聞いた話だけど・・・キヴォトスに昔から伝わる七つの古則。
確かその内の五つ目だったはず。」
「【楽園に辿り着きし者の真実を、証明する事は出来るのか】・・・
そんな感じだった気がする。残りは知らないけれど。」
「つまり、誰も証明できない楽園は存在し得るのか・・・
そういう禅問答みたいなものだったと記憶してる。」
「アズサちゃんはどうしてそれを・・・?その話を知ってるのは・・・
もしかしてアズサちゃん、セイアちゃんに会った事があるんですか・・・!?」
少しだけアズサが目を逸らすも
「・・・分からない。この話はただ、どこかで聞いた記憶があるだけで・・・」
("アズサはセイアと面識がある・・・確定、だね。")
「そうでしたか・・・そう言えばアズサちゃんは転校生、でしたね・・・
Vanitas Vanitatum・・・と言う事は」
「・・・いえ、何でもありません。もう遅い時間ですし、そろそろ寝た方が良さそうですね。」
「"じゃ、私の方もそろそろ自分の部屋に戻るね。
また何かあったら気軽に来てくれていいからね。"」
その後皆と別れ、自室で明日の授業の準備と、
シャーレの業務をこなしていると
【コン、コン、コン】
夜もすっかり更けていた
窓の外では虫の鳴き声だけが静かに響き、
昼間あれだけ騒がしかった別荘も今は寝息だけの世界になっている
私はノートパソコンを閉じ、
机の上に積まれた書類から目を離した
「"入っていいよ。"」
扉がゆっくりと開く
「・・・失礼します。」
入ってきたのはヒフミだった
昼間の元気な様子とは違い、
どこか考え込んだような顔をしている
「"どうしたの?"」
「その・・・少しだけ、お時間を頂いてもよろしいでしょうか・・・?」
「"もちろん。"」
ヒフミは小さく頷くと、机の前まで歩いて来た
そして腕に抱えていた数枚の紙をそっと机の上へ置く
それは昨晩一緒に整理した答案用紙だった
「・・・先生。」
「先生が見つけてくれた、この答案なんですが・・・」
「"うん。"」
「今日、勉強の準備をしている時に改めて見返していたんです。」
そう言いながらヒフミは答案を広げる
数学
歴史
トリニティ一般教養
どれも満点
それだけではない
途中式
解説
思考過程
どこを見ても隙が無い
まるで教科書の模範解答だった
「一年生の時点で三年生範囲まで解いています。」
「しかも全部満点です。」
「最初は凄い人が居るなぁ、くらいにしか思っていなかったんですが・・・」
ヒフミは少しだけ言葉を止めた
「今日、名前を確認したんです。」
静かに答案の右上を指差す
そこには綺麗な文字で書かれた名前
浦和ハナコ
「全部。」
「全部ハナコちゃんの答案でした。」
部屋の中に沈黙が落ちる
私は驚いた振りをしながら答案へ視線を落とした
("気付いたね・・・")
正直、気付くのはもう少し後かと思っていた
でもヒフミは真面目だ
一度疑問を持ったら最後まで調べる
それが彼女の強さでもある
「今日の模試。」
「四点でしたよね。」
「でも、この答案を見る限り・・・」
「ハナコちゃんが一年生範囲で躓くなんて、あり得ないんです。」
ヒフミの声は困惑していた
怒っているわけでもない
責めているわけでもない
純粋に分からないのだ
どうしてそんな事をするのか
「・・・わざと。」
「そう考えるしかありません。」
「ハナコちゃんは今、自分から試験に落ちている。」
「そうですよね・・・?」
「"多分ね。"」
私がそう答えると、ヒフミは少しだけ俯いた
「どうしてなんでしょう・・・」
「勉強が嫌いだから、とか。」
「試験が面倒だから、とか。」
「そんな理由には見えなくて・・・」
「だって、こんな答案を書ける人が・・・」
ヒフミは答案を見つめる
まるで宝物を見るみたいに
「こんなに綺麗に勉強している人が、勉強を嫌いなわけないじゃないですか・・・」
「"・・・・・・"」
("そうだね。")
ハナコは勉強が嫌いじゃない
むしろ好きな方だ
頭も良い
努力も出来る
だからこそ目立った
優秀過ぎた
誰よりも
その結果様々な派閥が彼女を欲した
味方にしたがった
利用したがった
期待した
求めた
求め続けた
そしてハナコは疲れた
だから無能を演じた
馬鹿の振りをした
誰にも期待されないように
誰にも利用されないように
誰にも選ばれないように
("でも、それで自分自身まで傷付ける必要は無い。")
私は内心でそう呟く
この世界では
今回だけは
あの結末だけは変えたい
「"・・・ハナコにも事情はあるんだと思う。"」
「事情・・・ですか。」
「"うん。"」
「"きっと簡単な話じゃない。"」
「"だから無理に聞き出そうとしなくても大丈夫。"」
「・・・・・・」
ヒフミは少し考える
それから小さく頷いた
「でも。」
「放っておくのも違いますよね。」
「"そうだね。"」
「もし困っているなら。」
「私たち、友達ですから。」
その言葉に思わず少し笑ってしまった
("本当に・・・強いな、ヒフミは。")
ヒフミは誰かを疑う事が苦手だ
誰かを切り捨てる事も苦手だ
それでも
誰かを助ける為なら前に進める
だから皆が彼女についていく
「・・・先生。」
「明日の模試なんですが。」
「あの答案を参考にして、もう少し苦手分野を細かく確認できる問題を作りたいんです。」
「"なるほど。"」
「ハナコちゃんの事もそうですけど・・・」
「まずは皆で合格しないといけませんから。」
「"じゃあ、続きをやろうか。"」
「はい!」
ヒフミの表情が少し明るくなる
そうして私達は机を挟んで座り直し、
新しい問題用紙の作成を始めた
夜はまだ長い
けれど――
少なくとも今は
皆が同じ方向を向いて歩き始めていた
【合宿場・玄関ロビー】
先生が居る小部屋以外、寝静まっている中、
ロビーには、音をたてないようにゆっくりとした、
それでいてしっかりとしている足取りで外に向かっていく150cm程の小さな影があった
その影は、そのまま玄関扉に手をかけると、
音が出ない様に開け、外へと姿を消していく
月明かりが差し込むロビーに再び静寂が戻った
だが――
その様子を柱の陰から見ている人物がいた
「・・・アズサちゃん・・・昨日に続き今日も見張りを・・・?」
【トリニティ・合宿所近辺の森林】
月明かりしか存在しない暗い森
木々の隙間から差し込む淡い光だけが二人を照らしていた
そこには先ほど合宿所を出て行った白洲アズサと、
長身の女性――錠前サオリの姿があった
「遅かったな。」
「・・・」
「・・・トリニティでの首尾、生活はどうだ?」
「・・・今の所、誰にも潜入はバレてない。」
「そうか。」
「補習授業部とも問題なく接触出来ている。」
「そうか。」
「・・・」
「・・・」
沈黙が落ちる
月明かりだけが二人を照らしていた
やがてアズサが口を開く
「サオリ達は。」
「問題ない。」
即答だった
「アツコも。」
「問題ない。」
「ミサキも。」
「問題ない。」
「ヒヨリも。」
「問題ない。」
「・・・そうか。」
アズサはそれ以上聞かなかった
サオリがそう言うならそうなのだろう
そう思ったからだ
「補習授業部はどうだ。」
「・・・変な奴らだ。」
「そうか。」
「毎日騒がしい。」
「そうか。」
「勉強もさせられている。」
「・・・そうか。」
少しだけ間が空く
「だが。」
「?」
「悪くない。」
「・・・」
サオリは何も答えなかった
ただ帽子の鍔の影で
僅かに目を伏せる
「そのまま潜入を続けてくれ。」
「分かった。」
「こちらから指示するまで動くな。」
「了解。」
サオリは背を向ける
そして数歩進み――
止まった
「・・・アズサ。」
「なんだ。」
「トリニティでは余計な事をするな。」
「?」
「任務に集中しろ。」
「・・・分かった。」
「以上だ。」
そう言ってサオリは森の奥へ消えていく
翌日
【合宿場・野外プール】
もう今頃、皆起きて、教室で昨日作った自習用の用紙と、
テストをしている頃だろうか・・・
私がなぜ教室に居ないかと言うと、
今朝ある人物から呼び出しがあったからであった
「"おはよう、ミカ。"」
「あはは、おはよう!先生!寝ぐせが付いてるよ?」
「"え?ほんと?"」
「うん、後ろ髪が跳ねてるよ。」
「"また後で直さないとだなぁ・・・"」
そんな話を、私を呼び出したミカとしていると、
ミカはある事に気づいたようだった
「わぁっ!プールに水が入ってる!」
「あはっ、ここに水が入ってるのなんて久しぶりに見たなぁ
もしかしてこれから泳ぐの?それとも皆でプールパーティー?」
「"それで・・・ミカ、この時間に呼び出してどうかしたの?"」
「・・・えへへ。
先生は上手くやってるかな、って思って。」
「にしてもナギちゃん、随分入れこんでるみたいだねー
ティーパーティーの施設まで貸し出しちゃって。」
「所で、合宿の方はどう?遠いのを良い事に、何か楽しそうなことしてたりしない?
例えば皆水着でプールパーティーとか!」
「"ミカがプールに入りたいってのは良く伝わってきたよ・・・"」
「あはっ、バレちゃった?
最近忙しくて、まだ海にも行けてないんだ~」
「全部終わったら、皆・・・で海行きたいなって」
「"・・・そうだね。"」
「あ、所でさ、ここ食事とか大丈夫?何か美味しい物でも送ろっか?ケーキとか紅茶とか。」
「"大丈夫だよ。ナギサがここの管理を任せていた人が居て、
その人が色々食材を買ってきてくれてるからね。"」
「・・・?、そんな人居たかな・・・?」
「"え?、昨日もずっと庭園の管理とか色々してくれてたよ?"」
「ふーん・・・ナギちゃんが個人的に雇ってる人かも。」
("グレゴリーさんの事、ミカが知らない・・・?")
「あ、それでね先生。本題なんだけど・・・さ」
「あっ。ちなみに私がココに居る事について、ナギちゃんは知らないよ?
見ての通り付き添いも無しの私の独断行動!」
「という訳で、改めて本題なんだけど・・・」
「先生、ナギちゃんから取引とか提案されなかった?」
「"取引?何のこと?"」
「例えば、そうだなぁ・・・【トリニティの裏切者】を探して欲しい、とか。」
「"裏切者なんているんだね?"」
「へー・・・?先生ほんとに聞いてないの?それとも隠してる?」
「"ミカはどっちだと思う?"」
「うーん・・・先生の顔を見てもどっちか分からないなぁ・・・
なんか、先生のそういうポーカーフェイスな所セイアちゃんみたいだね。」
「"ふふ、ありがとう。
それで、裏切者についてだったね。ナギサから依頼はされたよ。"」
「やっぱり。」
「"でも、断ったけどね?私は私の方で、この問題に対処していくつもりだよ。"」
「”裏切者探しは【先生】の役目ではないからね。”」
「先生の役目か・・・確かに先生はトリニティとは本来関係のないシャーレ、
つまり第三者だもんね。」
「確かにそれはそれで正しいよね。」
「じゃあさ、先生は、一体誰の味方なの?」
「やっぱり、シャーレの上位組織の連邦生徒会?、それともゲヘナ?
それかやっぱり、良く接触してるアビドスの味方なのかな?」
「"私は、生徒皆の味方だよ。"」
「・・・あ、あぁー・・・なるほどね?
生徒皆の味方、かぁ・・・そっかぁ・・・そう言えば、お茶会してた時にも言ってたね・・・」
「あ、あのさ・・・って言う事は、その・・・先生は一応、私の味方でもある・・・って
考えても良いのかな?私も一応生徒会長とは言え、生徒に変わりないんだけど・・・」
「"もちろん、ミカの味方でもあるよ。"」
「・・・わーお。先生さらっと凄い事言うね?」
「大人だなぁ・・・そういう話術?って思う気持ちもあるけど・・・
うん、ちょっと純粋に嬉しいかも。えへへ・・・」
「でも、それを額面通りに受け取るのもちょーっと難しいなぁ・・・
だってそれは同時に誰の味方でもないって解釈もできるよね?」
「だから、そのまま受け取るんじゃなくて、私からも先生に取引を提案させてもらおうかな。」
「"取引?"」
「うん、補習授業部の中にいる【裏切者】は誰なのか、教えてあげる。」
「"・・・"」
「ナギちゃんの言う【トリニティの裏切者】、
今必死に探して退学にさせようとしているその相手。」
「実際の所、もう少し複雑で大きい問題もあるんだけど・・・」
「今このまま、先生がナギちゃんに振り回される姿を只々見てる・・・
なんて言うのは、ちょっと申し訳ないなって。」
「そもそも、先生の事を補習授業部の担任として推薦したのは私だからね。
この事は知ってた?」
("知ってるよ・・・ミカが内心で私に助けを求めていたのは・・・")
「"ミカが・・・?"」
「うん、ナギちゃんにはずっと反対されてたんだけどね。
せっかくの借りをこんな風に使うのはどうとかこうとかで。」
「先生とナギちゃんの間に、色々あったんだね?」
「"そうだね・・・アビドスでカイザーPMCを相手取る時にちょっとね?"」
「わぁお、そんな派手な事してたんだ・・・?」
「まぁ・・・話を戻すと、私の方にも色々あってね・・・
トリニティでもゲヘナでもない、第三の立場が欲しかったの。」
「あぁ、そうだ、【裏切者】のお話だったね。」
「補習授業部に居る【トリニティの裏切者】、それは・・・白洲アズサ」
「"・・・"」
「先生驚かないんだね。もしかして知ってた?」
「"知ってたよ。"」
「・・・え?」
ミカが目を瞬かせる
「"アズサがトリニティの裏切者である事も。"」
「"そして、ナギサが彼女を疑っている事もね。"」
「・・・」
ミカの表情から笑顔が消えた
「"でもね、ミカ。"」
私は静かに続ける
「"ミカが本当に私に伝えたかった事は、それで全部かな?"」
「・・・」
「"アズサが裏切者だというだけなら、わざわざこうして私を呼び出す必要は無かったはずだ。"」
「"君はティーパーティーの一員だ。"」
「"その気になれば、もっと早く、もっと簡単に私へ伝えられた。"」
「"それでも今、このタイミングで私を呼んだ。"」
「"それはアズサの話だけじゃないからじゃないかな。"」
風が吹く
プールの水面が小さく揺れた
ミカはしばらく黙り込んでいた
「・・・先生ってさ。」
「うん?」
「本当に嫌だなぁ。」
苦笑するように笑う
「そういう所。」
「"そうかな?"」
「だってさ。」
ミカは少し俯いた
「全部見透かされてるみたいじゃん。」
「"そんな事はないよ。"」
「そうかなぁ・・・」
ミカは困ったように笑う
「私は結構隠すの得意な方なんだけどなぁ。」
「"そうかもしれないね。"」
「・・・」
少しだけ沈黙が落ちた
プールの水面を揺らす風の音だけが聞こえる
「実はね、私の本題はここから先なんだ。」
「"うん。"」
ミカはすぐには続けなかった
何かを言おうとして
そして飲み込む
まるで言葉の順番を探しているみたいに
「先生にはアズサちゃんを守ってほしい。」
「・・・」
「彼女はね、ただの裏切者なんかじゃない。」
ミカは遠くを見るように目を細めた
「アズサちゃんは【アリウス分校】の生徒なんだ。」
「"アリウス分校・・・"」
「うん。」
ミカは頷く
「今のトリニティじゃ、ほとんど名前も聞かなくなった学校。」
「昔はちゃんとあったんだよ?」
「トリニティを構成する一つの学校としてね。」
「でも今は・・・色々あって、完全に切り離されちゃってる。」
「私も詳しい事情全部を知ってる訳じゃないんだけど。」
ミカは少し言葉を選ぶ
「それでも一つだけ確かな事がある。」
「アズサちゃんは、そのアリウスから来た。」
「それも、トリニティとアリウスを繋ぐ為に。」
「・・・」
「本当はね。」
ミカは苦笑した
「そんな大層な役目、あの子一人に背負わせるべきじゃないんだと思う。」
「でもアズサちゃん本当に良い子だから。」
「"だから守ってほしい?"」
「うん。」
ミカは即座に頷いた
「ナギちゃんはアズサちゃんを疑ってる。」
「実際、疑う理由だってある。」
「だから私はナギちゃんを責めるつもりはないよ。」
「でもね。」
そこでミカは先生を真っ直ぐ見た
「アズサちゃんは退学なんかしちゃ駄目なんだ。」
「絶対に。」
「彼女がいなくなったら。」
「アリウスとトリニティを繋ぐ道は、たぶん本当になくなっちゃうから。」
「"・・・"」
「先生なら。」
ミカは少しだけ笑った
「先生なら、生徒を見捨てないでしょ?」
「"そうだね。"」
私は頷く
「"私は【生徒】を見捨てない。"」
「・・・そっか。」
その言葉を聞いて、
ミカはほんの少しだけ、安心したように目を細めた
「ありがと、先生。」
そう言って踵を返す
これで目的は果たした
そう言わんばかりに歩き出そうとして――
「"ミカ。"」
その背中に声を掛けた
ミカの足が止まる
「"一つだけ聞いても良いかな。"」
「ん?」
振り返ったミカへ
私は静かに問いかけた
「"君が私に伝えたかった事は――本当にそれが全部?"」
「・・・っ」
その瞬間
ミカの表情が僅かに崩れた、まるで何かを飲み込むように
苦しそうに
辛そうに
ほんの一瞬だけ顔を歪める
「・・・」
風が吹く
プールの水面が揺れる
ミカは俯き
小さく息を吐いた
そして
ゆっくりと顔を上げる
そこには、いつもの笑顔があった
「うん。」
「これだけだよ。」
「先生にはアズサちゃんを守ってほしい。」
「それだけ。」
「・・・」
「だからお願いね?」
「"・・・分かった。"」
「えへへ。」
ミカはいつものように笑った
「流石先生。」
「じゃあ私はもう行くね。」
「ナギちゃんに見つかったら怒られちゃうし。」
そう言って手を振ると
ミカはそのまま歩き出した
私はその後ろ姿を見送る
振り返る事なく
ミカは去っていった
やがてその姿が見えなくなる
「"・・・"」
静寂
風の音だけが聞こえる
("やっぱり・・・ミカは優しい子だ。")
("だから、自分の事より先に他人を助けようとする。")
("アズサを。")
("ナギサを。")
("トリニティを。")
("そして――")
("自分自身の事は、最後まで後回しにする。")
("アズサの事を頼みたかっただけなら、こんな遠回しな話にはならなかった。")
("アリウスの話をしたかった訳でもない。")
("裏切者の話をしたかった訳でもない。")
("ミカは助けを求めている。")
("でも。")
("まだ、その言葉を口に出来ない。")
「"また・・・届かない"」
ミカを救い上げるだけの力が今の自分にない
その事実だけが
酷く重かった
私は揺れるプールの水面を見つめながら
しばらくその場から動けなかった
先生ェ・・・
なお実際。
ミカがセイアを暗殺するように仕向けたのは【セイア】
現在のトリニティの諸問題はほとんどの部分でセイアの掌の上にあります。
神秘の扱いを習得したセイアが、肉体的なポテンシャルが元に戻った為、
色々な未来予知を行って心にダメージを負ったとしても肉体面ではピンシャンしてるので、
バイタリティのゴリ押しで色々と試行錯誤した結果。
この原作準拠のエデン条約になるように転がされています。
哀れミカ。
哀れナギサ。
二人はセイアに怒って良いと思うよ。
ちなみにナギサの疲労が原作から3割増しくらいになってるのは、
セイアから押し付けられた、アビドスのティーパーティーについての各学校からの問い合わせの対応によるものですね。
そして、サオリ。
この世界のサオリも、原作世界と同じで、クッソ口下手です。
内心はアズサが一人で新天地で上手く行ってるか聞きたいのですが、
如何せん聞き方が判らず、こんな任務報告の様な物になってます。
そして、アズサ視点では、
原作と同じく、アリウスからトリニティへのスパイだと自分は思っているので、
サオリから近況報告を聞かれても、基本その任務報告しかしません。
うん、まぁ二人共アリウスだからね・・・
そこら辺の戦闘以外のコミュニケーション能力は今後頑張ってもらいましょう・・・
書き忘れ!
~今日のセイア~
今日のセイアは二週間ぶりの休日です。
普段のセイアが何をしているか見てみましょう。
朝、5時普段起きる時間ですね。
まだベッドの中で大福みたいになっています。
昼、11時・・・
やっと起きてきましたね。
髪がぼっさぼさ、目の下にクマもあり、全体的にやつれていますね。
昼、12時
お風呂にはいって、メイクも終わったのか
普段のセイアですね。
ですが、服だけ普段のタイトなトリニティの制服ではないようです。
最近アビドスに出来たファッションモールでユメが買って来た
ダボっとしたオーバーサイズの服だけ上に着てますね。
完全に休日のOLみたいな恰好になってます。
おっと、セイヤ様、その姿のまま外に出ようとしています。
お昼なのでお腹が空いたのでしょうか・・・
ビルの外に出て初めて自分の恰好がとんでもない事に気づいたようです。
急いでビルに戻っていきました。
先ほどのオーバーサイズの服に下にジャージのズボンを履いた姿で柴関ラーメンに来ています
柴関ラーメンの店舗、以前吹き飛ばされたようですが、寸分たがわない姿で再建されたらしいです
その柴関の大盛チャーシュー麺をガツガツいっています・・・
体重は前回計った時が元の体重の+5キロになっていたのですが、
こんなに食べて大丈夫なのでしょうか。
セイア様、大将に料金を払おうとしますが、大将から受け取り拒否されています。
困惑顔ですね。何せずっと受け取って貰えてないのです。
理由は店舗再建の際全額祈願屋が負担し、建設するのも全て祈願屋が受け持った為、
その恩返しらしいです。温かいお話ですね。
さて、セイア様。
祈願屋のオフィスビルの社宅に戻ってきました。
何をするのでしょうか・・・?
おっと、ゲーム機を取り出しました。
何をしているのでしょうか・・・TSC2ですね・・・
オンラインマッチでマルチプレイも対応してるので優雅に休日を満喫していますね。
夜21時
まだセイア様はベッドで横になったままおかしを食べてゲームをしていますね・・・
セイア様の生活は色々と大丈夫なのでしょうか・・・
夜22時
やっとゲームをやめましたね。
お腹が空いたのか、冷蔵庫を開けています
冷蔵庫を開けた瞬間顔色が曇りましたね
どうしたんでしょう・・・
冷蔵庫の中には色とりどりのロールケーキが入ってるいるだけですね
普通の食材は無いのでしょうか。
おっと、またセイア様外食です。
というよりまた柴関に行っていますね・・・
セイア様そんな一日に何度もラーメンを食べると高血圧になっちゃいます。
柴関から出てきました。ホクホク笑顔ですね。
どうやら、大将にお金が渡せないので、バイトの子にどさくさに紛れて払ったようです。
多分この手のやり口は次から対策されますよセイヤ様
再度社宅に戻ってきましたね
おっと?セイア様そのままの姿でベッドにダイブしました。
もしかして食べてすぐに寝るつもりでしょうか?
いえ、完全に寝息を立てていますね。寝ています。
まぁ明日も6時から出勤なので、頑張ってくださいね。
本日までのロールケーキ消費本数:42本
本日までの柴関来店回数:31回