おっさんキヴォトスに行く   作:無い頭のおっさん

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Qui seminant in lacrimis, in exsultatione metent.
Euntes ibant et flebant, mittentes semina sua;
venientes autem venient cum exsultatione, portantes manipulos suos.


先生と第二次特別学力試験

ナギサとの話を終えた私は、その足で合宿所へ戻った

 

明日はいよいよ、第二次特別学力試験

この一週間、補習授業部の皆は、本当によく頑張った

 

眠そうにしながらも机に向かい続けたヒフミ

弱音を吐きながらも最後まで問題集を手放さなかったコハル

余裕の笑みを浮かべながら、誰よりも真面目に勉強していたハナコ

そして、不得意な教科に苦戦しながらも、一度も投げ出さなかったアズサ

 

そんな四人の姿を見ていると、胸の奥が少しだけ温かくなる

 

("皆、本当に頑張った・・・")

("だからこそ、絶対に退学なんかにはさせない。")

("今度こそ・・・皆を笑顔でこの部活から卒業させるんだ。")

 

夜も遅くなり、流石に寝なければ明日に響く、そんな時刻になり、

ようやく本日の勉強会を終えたヒフミが、ぱんっと手を叩いた

 

「本日もお疲れ様でした!」

 

少し疲れた顔

それでも瞳には、この一週間で積み重ねてきた自信が宿っている

 

「そして明日はついに、第二次特別学力試験です!」

「この一週間の合宿で、私達はしっかり合格できるだけの実力を身に付けられたはずです!」

 

「うん。」

 

アズサも静かに頷く

 

「はい♡」

 

ハナコも嬉しそうに微笑んだ

 

「そうねっ!」

 

コハルも胸を張る

私はそんな四人を見渡して、小さく笑う

 

「"うん、皆本当に頑張ったね。"」

「"先生から見ても、この一週間で凄く成長したと思う。"」

「"あとは明日、今まで積み重ねてきたものを信じて問題を解くだけだ。"」

 

「"きっと大丈夫。"」

「"皆なら、合格できるよ。"」

 

「はい!」

 

ヒフミが元気よく返事をする

その顔には、最初に出会った頃の不安そうな影はもうほとんど残っていなかった

 

「しっかり試験に合格して・・・堂々と補習授業部を卒業しましょう。」

「今までの勉強が無駄じゃなかった事を、きっちり証明しに行くんです!」

 

「そして最後は、皆で笑ってお別れできるように・・・!」

 

「・・・そうか。」

 

アズサがぽつりと呟いた

 

「合格したら、もうお別れか・・・」

 

一瞬、部屋の空気が静かになる

 

「ちょっ、ちょっとアズサ!?どうしてそんな急にしんみりするわけ!?」

 

慌てるコハル

 

ハナコもくすっと笑った

 

「なるほど♡合宿も含めて、なんだかんだで凄く楽しかったですもんね?」

 

「・・・ああ。」

「いや、それでもやっぱり、出会いがあれば別れもある。全ては虚しいものだ。」

 

ハナコが困ったように笑った

 

「・・・そこまで思う必要はないと思いますよ。」

「アズサちゃんも含めて皆、試験が終わったら何処かに行ってしまう訳じゃないでしょう」

「補習授業部が解散しても、皆同じ学園に居るんですから。」

「会おうと思えばいつでも直ぐに会えますよ。」

 

「ほ、ほら!私はいつも正義実現委員会の教室に居るから!」

「ひ、暇な時があったら来れば・・・?」

 

顔を赤くしながら言うコハル

 

「・・・うん。」

 

アズサが少しだけ笑った

 

その様子を見て、私は思わず笑みを零す

 

("うん・・・。")

 

("皆、本当に仲良くなったね。")

 

「私も気持ちとしては同じなのですが、取り敢えず試験に合格する事が先決と言いますか、」

「何だか急に青春ドラマのエンディングみたいになっているような・・・」

 

「と、とにかく。今日は早めに休んで、明日の試験に備えるとしましょう。」

 

「そういえば、明日の試験会場って前と同じところ?」

 

コハルの何気ない一言に、ヒフミが「あっ」と声を漏らした

 

「そう言えば告知をまだ見ていませんでした。」

 

そう言って、ヒフミは慌ててスマホを取り出す

 

「えっと、トリニティの掲示板っと・・・」

 

私はその様子を見ながら、小さく息を吐いた

 

("そろそろかな。")

 

ナギサと話を終えてから、ずっと頭の片隅にあった予感

 

恐怖はない

不安が無いわけじゃない

 

けれど

 

("来るなら来い。そのために準備はしてきた。")

 

「・・・?」

 

ヒフミの指が止まる

 

「・・・え、ええっ!?」

 

「え、嘘っ!?嘘ですよね!?」

 

("うん、やっぱり仕掛けてきたね。")

 

「ヒフミちゃん?どうかしましたか?」

 

ハナコが後ろから覗き込む

 

「えぇっと・・・【補習授業部の第二次特別学力試験に関する変更事項のお知らせ】・・・?」

「【試験範囲を、既存の範囲から約三倍に拡大】・・・」

 

「はぁっ!?」

 

コハルが椅子から立ち上がった

 

「何それ!?」

 

「【また、合格ラインを60点から90点に引き上げとする】・・・」

 

「わ、私でもまだ、90点なんて超えた事無いのに・・・」

 

「ど、どういう事よこれ・・・」

 

ヒフミも顔を青くしながら画面を見つめる

 

「今日の昼頃、急にアップされたみたいです・・・試験直前になって、こんな・・・」

 

「"・・・"」

 

私は静かに目を閉じる

 

驚きはない

むしろ、ここまで露骨に来た事に僅かな安堵すら覚えていた

 

("そうだよね、ナギサ。")

("君はもう、後戻り出来ないところまで追い込まれてる。")

 

("だからこそ、こういう手段を選ぶ。")

("ここまではいい。問題は、この先。")

 

「・・・なるほど。」

 

ハナコが静かに呟いた

 

「私達の模擬試験の結果を、ナギサさんが誰かから(・・・・)得たみたいですね。」

 

私の脳裏に、あの不穏な司祭の姿が過る

 

("グレゴリーさん・・・か。")

 

「露骨なやり方ですね・・・いえ」

「余裕がない。と言った感じでしょうか。」

「どうしても私達を退学にしたい、という思惑が明け透けに伝わってきます。」

 

「・・・退学?」

 

アズサが顔を上げる

 

「えっ、た、退学!?ちょっとどういう事!?」

 

コハルも目を丸くした

 

ハナコが「あっ」と小さく口元を押さえる

しまった、と言いたげな顔

 

ヒフミも辛そうに視線を落とした

 

部屋の空気が静かになる

私は四人を見回す

 

ここまで来た以上、もう隠す意味はない

隠したまま進めば、きっともっと苦しませる

 

("・・・うん。ここからは皆で進もう。")

 

「"特別学力試験に落ちると、強制的に退学させられる。"」

「"そういう仕組みが組まれていたんだ。"」

 

「え・・・?」

 

コハルの顔から血の気が引く

 

「う、嘘・・・」

 

「そ、そんな話聞いてないわよ・・・!」

 

「そのお話もそうですが・・・」

 

ハナコが画面をスクロールする

 

「その前に、他にも変更された部分があります。」

 

「あ、試験会場と時間も変更されてます・・・」

「試験会場は【ゲヘナ自治区第15エリア77番街、廃ビルの2階】・・・」

「ゲヘナ?」

 

「げ、ゲヘナで試験を受けるんですか!?」

 

「な、何でよ!?どうしてトリニティの試験をゲヘナで受ける訳!?」

 

「行かなければ、未受験扱いで不合格。そういう事ですね・・・」

 

ハナコが静かに告げる

 

「そ、それもそうだけど、さっきの退学ってどういう事!?初耳なんだけど!」

 

「・・・・・・」

 

アズサが辛そうな顔をして黙っていた

 

("アズサ、決して君のせいではないんだよ。")

 

「"初めから、説明するね・・・"」

 

私は静かに話し始める

 

ナギサ

 

補習授業部

 

退学制度

 

そしてヒフミのこと

 

一つずつ、誰も置いていかないように

そうして私は、ナギサに仕組まれたこの補習授業部の裏の仕組みを全て皆に説明した

 

「試験に三回落ちたら、退学・・・・!?」

 

「・・・なるほど。」

 

「か、隠しててごめんなさい・・・まさか、こんな事になるなんて・・・」

 

ヒフミが俯く

 

「ど、どうすれば良いの・・・!?」

「退学になんてなったら、正義実現委員会に復帰できない・・・!」

 

「それは・・・」

 

空気が重く沈みかけた、その時

 

「・・・状況は理解した、とにかく出発しよう。」

 

アズサだった

 

「えっ、えぇっ!?」

 

「試験時間が【深夜の3時】と書かれてある。今から出発しないと間に合わない。」

 

「あ、確かに・・・!?」

 

「驚くにせよ、起こるにせよ、絶望するにせよ・・・」

「それは試験を受けてからでも遅くない。」

 

「障害物の多さに文句を言った所で、状況が変わるわけじゃない。」

「大切なのは、それでも最後まで足掻く事。」

 

「"・・・うん。"」

 

私は小さく頷いた

 

「"私はアズサの意見に賛成かな。"」

 

「"今ここで諦めるのは、皆が頑張ってきた一週間に失礼だ。"」

「"何が待ってるかは分からない。"」

「"でも、最後まで一緒に足掻こう。"」

 

「あうぅ・・・」

 

「う、うぅっ・・・」

 

「・・・そうですね。アズサちゃんの言う通りです。」

「今はとにかく動くしかありません。」

 

「それにしても、ふふっ・・・面白そうですね。」

「ゲヘナに試験を受けに行くなんて、初体験です♡」

 

「ああもう!何もかも意味わかんない!でも、とにかく行くのね!?」

 

「すぐに出発しよう、各自武装を忘れずに。」

 

「装備!?銃火器ですか!?」

 

「そうですね。ゲヘナ自治区はただでさえ無法地帯ですし、

今は風紀委員会が条約帰結前という事もあって対処しきれていないでしょうし・・・」

 

私は頷く

 

そして予め用意していたケースを開いた

 

「"一応皆にコレを渡しておくよ。"」

 

「"ミレニアムのエンジニア部に頼んで作ってもらった物なんだ。"」

「"見た目は防弾チョッキだけど、衝撃を感知すると内部のクッションが展開する。"」

 

「"今の時期のゲヘナだから、念には念をね。"」

 

「む・・・ありがとう先生。」

 

アズサが真っ先に受け取る

 

「う、うぅぅぅ・・・こんなのが必要になる場所なんですね・・・」

 

「え、エリートだからこ、怖く・・・ないもん・・・」

 

「あらあら、オシャレ・・・ではないですねぇ♡」

 

「"あはは・・・デザインは我慢してね。"」

「"普段のゲヘナなら、ここまで必要になる事は少ないんだけど。"」

 

「"備えておいて損はないから。"」

 

そう言って、私は一人一人にチョッキを着せていく

 

コハルのベルトを直し

 

ヒフミの留め具を確認し

 

ハナコのサイズを合わせ

 

アズサの装備も確認する

 

全員の準備が完了した

 

「よし、行こう、先生。」

 

「"うん、皆準備が出来たね。じゃ、出発しようか。"」

 

 

そう言って皆で合宿所の建物の外に出た

夜の空気はひんやりとしていて、合宿所の灯りだけが暖かく周囲を照らしている

明け方の試験に備えて早く移動しなければならない

そう思っていた、その時だった

 

庭先に、一人の男が立っていた

黒い司祭服

まるで最初からそこに居たかのように、静かに

冷たい夜気の中、その場所だけが妙に静まり返っている

 

「"・・・"」

 

思わず足が止まる

 

グレゴリー

 

ナギサが手配したこの別荘の管理人

 

だが、その肩書きだけでは説明できない何かを、私は彼から感じていた

 

("・・・このタイミングで?")

 

私が僅かに目を細める

すると、グレゴリーはこちらに気付き、ゆっくりと歩み寄ってきた

 

砂利を踏む足音

それは不思議と耳に残る

 

私は無意識にヒフミ達の前に立つ

アズサも小さく身構えていた

 

「・・・ほう」

 

グレゴリーは数歩先で足を止める

そして、僅かに笑った

 

「夜風が冷えるというのに、ずいぶんと賑やかなことだ。」

「これから何処へ向かうのかね? 補習授業部の諸君」

 

("探りに来た・・・?")

 

けれど、もう私は未来が違う事そのものに怯えたりはしない

 

違うなら違うでいい

その上で備えるだけだ

 

「"グレゴリーさんこそ、こんな時間に居られるなんて、珍しいですね・・・"」

 

私が問い掛けると、

グレゴリーは楽しそうに目を細めた

 

「剪定をしていてね・・・」

 

「夜の闇に紛れて咲く、摘み取られるべき雑草が多いのでね。」

「私のようなしがない管理人が、少しばかりの手入れをしていたまでだ。」

 

「"・・・。"」

 

意味深な言葉

 

コハルが小さく身を縮める

ヒフミも困ったような顔になっていた

 

("やっぱり不穏だなぁ・・・")

 

私は笑顔を崩さないまま、心の中でだけ警戒を強める

 

すると、グレゴリーは皆を一人一人、値踏みするように見回した

 

「ふふふ」

「明日の特別試験、いやもう数時間後といった所か。」

 

「なるほど、過酷な試練だ。」

「皆のその必死な顔、実に美しい。」

「迷える仔羊たちが、崖っぷちで足掻く姿を見られるとは。」

「聖職者として、これほど心揺さぶられる光景もなかなかない」

 

「"・・・。"」

 

その言い方に私は僅かに眉を寄せた

ヒフミ達の境遇を楽しんでいるようにも聞こえる

 

アズサも警戒を強めている

そんな私達の視線を受けても

 

グレゴリーは気にした様子もなく懐に手を入れた

 

金属の擦れる音

 

そして

 

彼の掌には、銀色に輝くロザリオがあった

 

「さあ受け取ると良い。」

「私が個別に祈りを捧げ、祝福を施しておいたものだ。」

 

「お守り、というやつだよ。」

 

「・・・。」

 

アズサが一瞬だけ躊躇する

 

当然だ、相手が相手である

私自身も警戒していた

 

だが――

 

("少なくとも、今ここで敵意は無い・・・かな。")

「"ありがとう、ございます。"」

 

まず私が一つ受け取る

 

冷たい

 

けれど

 

妙に手に馴染む感触だった

 

「・・・先生。」

 

「"大丈夫。受け取るだけだから。"」

 

私が小さく笑うと

ヒフミも安心したように受け取る

 

「ありがとうございます。」

 

「うぅ・・・。」

 

「わ、私は別に怖くなんか・・・」

 

コハルも続き

 

ハナコは

 

「ふふっ。素敵なデザインですね♡」

 

と、いつも通り微笑んでいた

 

最後にアズサも受け取る

 

全員に渡し終えると、グレゴリーは満足そうに頷いた

 

「必ず、肌身離さず持っておくことだ。」

 

「もしも、君たちがこれから向かう先で真の絶望に直面した時、」

「このロザリオが君たちの『最期』をどのように彩るか。」

「それは神のみぞ知る。」

 

「いや――あるいは、私だけが知っているのかもしれないな」

 

「・・・。」

 

「・・・さ、最期?」

 

コハルの顔が引き攣る

ヒフミも困ったように目を瞬かせていた

 

私は苦笑いを浮かべる

 

("もうちょっと普通に言えないのかな、この人・・・")

 

しかし、グレゴリーはそれ以上何も言わない

 

背を向け

 

「試験の成功を祈ろう。」

「もっとも、地獄の業火で焼かれる準備ができていれば、の話だが」

 

そう言い残して去っていく

 

司祭服の裾が夜闇に溶け

気が付けば、その姿は見えなくなっていた

 

「・・・先生。」

 

コハルが小声で尋ねる

 

「あいつ、本当の本当に、聖職者なの・・・?」

 

「"うーん・・・"」

 

「"少なくとも、普通の神父さんではないと思うかな・・・"」

 

「・・・だな。」

 

アズサも静かに頷く

 

「"でも。今はグレゴリーさんの事を考えてる時間はないよ。"」

 

私は腕時計を見る

 

「"ちょっと時間を取られちゃった。"」

「"皆、走るよ!ゲヘナ行きの電車に間に合わなくなる!"」

 

「あうぅっ!?は、はいっ!」

 

「急ごう。」

 

「ふふっ♡」

 

私達は気持ちを切り替える

それぞれロザリオをポケットにしまい

 

夜の駅へ向かって走り出した

 

 

 

 

私たちは沈黙を飲み込み、ゲヘナへと続く道へと踏み出した

グレゴリーとのやり取りで妙な空気にはなったものの、それ以上のトラブルは無かった

 

夜の列車に揺られ

そして幾つかの路線を乗り継ぎ

気付けば私達は、ゲヘナ自治区まで辿り着いていた

 

 

【ゲヘナ・スラム街】

 

「ここが、ゲヘナの自治区・・・ですか・・・」

 

ハナコが辺りを見回しながら呟く

 

トリニティとはまるで違う景色

 

落書きだらけの壁

深夜だというのに何処か騒がしい空気

遠くから聞こえる銃声

 

そして何より

道端で堂々と寝ている生徒

 

「・・・すごい。」

 

「聞いていた通りというか・・・」

 

「想像以上ですねぇ♡」

 

「うぅ・・・な、何か怖い・・・」

 

コハルが私のすぐ後ろに隠れる

 

("まぁ、初めて来たらそうなるよね・・・")

 

すると

 

そんな様子を見ていた周囲の不良達が、早速こちらに目を付けた

 

「んー?何だか見慣れない奴らだなぁ・・・?」

 

「無視とは冷たいねぇ、そんなに急いで何処に行くのさ?」

 

「わぁ・・・【無法地帯と言えばコレ】みたいな古典的な感じですねぇ・・・」

 

「え、えっと、私達は試験を受けに行く途中でして・・・」

 

「・・・はぁ?試験?頭大丈夫?」

 

("うん、それはそう。")

("私でも初見ならそう言う。")

 

「ま、まぁそうなりますよね・・・」

 

思わず苦笑いする

 

すると

 

「まっ、理由はどうあれ、ここら一帯を歩くにはうちらの許可が必要なんだよ!」

 

「ん?よく見たら、その制服・・・トリニティのお嬢様じゃね?」

 

「・・・マジじゃん。ひゅーっ、お金持ちのお嬢様達がこんな所にねぇ」

「あれ、って事はコイツらを攫ったら、身代金がたっぷり貰えるって事?」

 

「おおっ、ナイスアイティア!」

 

「"・・・。"」

 

("アンラさんがよく『頭ゲヘナ』とか言ってたけど・・・")

("なるほど・・・こういう。")

 

「や、やっぱりまたこういう展開に・・・」

 

ヒフミが半泣きになる

 

その横で

 

「・・・時間の無駄だ。」

 

アズサが静かにライフルを構えた

 

「強行突破あるのみ。」

 

「えぇっ!?ちょ、ちょっと待ってアズサちゃん!?」

 

「"うん、必要以上に戦う必要はないけど・・・"」

「"囲まれちゃったし、突破するしかないかな。"」

 

私は皆の位置を確認する

 

ヒフミ

 

コハル

 

ハナコ

 

アズサ

 

全員の動きを把握しながら、周囲の人数を見る

 

("十人・・・いや二十人くらい?")

("問題ない。")

 

「"さっと抜けるよ。"」

 

「はい!」

 

「うぅぅ・・・!」

 

「了解。」

 

「ふふっ♡」

 

そして数分後

 

――不良達を制圧し、その包囲網を突破した私達は、

そのままスラム街を抜けてゲヘナ中心部へと進んでいた

 

後ろでは

 

「ま、待てぇ~・・・」

 

「何なんだよあいつら・・・」

 

「トリニティ怖ぇ・・・」

 

などという声が聞こえていた

 

 

「ふふっ。あらあら、繊細ですねぇ♡」

 

「先を急ごう。」

 

アズサが振り返りもせずに歩いていく

 

「ま、待って!置いて行かないでっ!?」

 

コハルが慌てて後を追う

 

「あ、あはは・・・すみません、通らせてもらいますね・・・」

 

ヒフミは倒れている不良達に申し訳なさそうに頭を下げていた

 

("ヒフミらしいなぁ・・・")

 

そんな様子に小さく笑いながら、私も後を追う

 

やがて、ゲヘナの中心部まで辿り着く

 

「えっと、何とか内部には入れましたが・・・」

「いくら夜中とはいえ、人気が無さ過ぎません?」

 

確かに

 

本来ならこんな時間でも、ゲヘナには人が居る

騒ぎが起きていてもおかしくない

 

なのに妙に静かだった

 

誰も居ない

 

まるで人だけが綺麗に消えたような

 

「・・・。」

 

アズサも周囲を警戒している

 

「変だ。静かすぎる。」

 

「うふふ♡逆に不気味ですねぇ。」

 

("何かあったのかな・・・")

 

そう考えた、その時

 

【タタタタンッ】

 

乾いた銃声が夜の街に響いた

全員の動きが止まる

 

「・・・銃声だ。何処かで戦闘が起きてる。」

 

アズサが即座に方向を確認する

 

「うーん、目的地に行くにはこのまま進むしかありませんし・・・」

「取り敢えず行ってみましょうか。」

 

「"そうだね。状況だけでも確認しよう。"」

 

夜風が吹く

 

そして少し先の交差点に差し掛かった時

私にとっては見慣れた制服を着た生徒達が、道路を封鎖しているのが見えた

 

「あれは、検問・・・?」

 

「止まれ!ここから先は立ち入り禁止になっている!」

 

「そもそも今日は、町全体に外出禁止令が出されている筈だ!早く戻って――」

 

「"・・・。"」

 

("風紀委員会。")

 

そこに居たのは

ゲヘナ風紀委員会の生徒達だった

 

そして、向こうもこちらの制服に気付く

 

「・・・?その制服、トリニティ?」

 

「どうしてここに・・・!ゲヘナに何をしに来た!目的は何だ!」

 

「い、いえその、本当にここを通りたいだけでして・・・」

 

ヒフミが慌てて説明する

 

「何の目的も無しに、トリニティがゲヘナに来るわけがあるか!」

 

「ですが私達は本当に、ただ試験を受けに来ただけなんです。」

「特に問題を起こしに来たわけではなく・・・」

 

「トリニティの生徒が試験を受ける為に、どうしてゲヘナの自治区に来るんだ!!」

「せめてもっと真面な嘘をつけ!」

 

「"・・・。"」

 

("本当なんだけど。")

("その通りとしか言えない・・・")

 

「せ、正論・・・あうぅ・・・」

 

ヒフミが沈む

 

("うーん、そろそろ仲裁に入った方が良いかな・・・")

 

そう思って私が口を開こうとした時、

二人の風紀員がコハルの制服に目を向けた

 

そして固まった

 

("あ。")

 

いや

 

気付いてしまった

 

「・・・っ!そこのお前、その制服は正義実現委員会じゃないか!?」

 

「なっ、ほ、本当だ!!!襲撃!!正義実現委員会が襲撃しに来たぞ!!!!」

「上層部に報告!!正義実現委員会が遂に攻めてきた!!!」

 

「えぇっ!?いやその、そ、そうなんだけど、今は違うって言うか、うぅっ・・・!」

 

コハルが涙目になって慌てる

 

「違うの!今は補習授業部なの!本当!」

 

「誰が信じるか!!」

 

「武器を構えろ!!」

 

【ガチャッ】

 

二人の風紀委員が一斉に銃を構える

 

「・・・仕方ない」

 

アズサが静かにライフルを持ち上げる

 

「制圧しよう。」

 

「えぇっ!?誤解が深まりませんか!?」

 

「"アズサ待って!まだ何とか――"」

 

そこまで言った時だった

 

【ピュー・・・】

 

「・・・?」

 

何かが頭上を通り過ぎた

 

細い笛のような音

 

そして

 

【ドゴォォォォン!!】

 

 

「のあぁぁぁっ!?」

 

「こ、こいつら・・・やはり・・・」

 

爆発

 

突如として起きた爆風が、

戦闘態勢に入っていた風紀委員二人を巻き込み、そのまま吹き飛ばした

 

「きゃぁっ!?」

 

「うわぁっ!?」

 

「っ・・・!」

 

「先生!」

 

思わず皆を庇うように前に出る

爆煙が立ち込める

 

「"・・・。"」

("この爆発・・・グレネードランチャー?")

 

「アズサちゃーん!?!?!?!」

 

「・・・いや、まだ手は出してない。私以外の誰かだ。」

 

「"うん、私達のかなり後方から飛んできたね。"」

 

そう言って皆で後ろを見る

 

すると、遠くの道路の向こう

こちらに向かって車が猛スピードで走ってきていた

 

「・・・車?」

 

「トラック・・・?」

 

「速くないですか!?」

 

【キキィィィッ!!】

 

急停止

 

私達のすぐ近くで横滑りしながら止まった車から

数日前に見た顔が飛び出してきた

 

「あらっ☆やっぱり先生でしたか!」

 

「大当たりでしたわね。ご機嫌よう。ここで何をされているのですか、先生?」

 

「"美食研究会の皆!じゃ、さっきのグレネードはアカリ?"」

 

「正解です☆」

 

アカリが満面の笑みでサムズアップする

 

「あ、あれ!?確かこの間戦った・・・!?」

 

「あら、あのアクアリムを襲撃した・・・」

 

「え、えっと・・・?も、もう何が何やら・・・」

 

ヒフミとコハルの頭が完全に追いついていない

 

「ふふっ。敵味方なんて些細なことですわ。」

「食を追求する者に、細かいことを気にする余裕はありません。」

 

「"いや、細かくはないと思うんだけど・・・"」

 

("相変わらずだなぁ・・・")

 

そんな事を思いながら、一通り事情を説明する

 

特別学力試験、試験会場

 

ゲヘナに来た理由、そして今の状況

 

「・・・なるほど、状況は概ね理解しました。」

「とにかくこの場所に行かねばならないのですね?」

 

「"うん。そうなんだ。でも何か問題が起きてるみたいでね"」

 

「事情は分かりましたが、今はタイミングが悪かったですね・・・」

 

ハルナが溜め息をつく

 

「この辺りは現在それなりに大きな騒動になっていまして。」

 

「温泉開発部が市街地のど真ん中をドカン☆と爆発させたとかで、」

「とにかく滅茶苦茶な状態なんです。」

 

("カスミ達か・・・!!")

("何してるの本当に・・・")

 

「そのせいで、風紀委員会も慌ただしく動いているという状況で・・・」

 

「まぁそのおかげで、機に乗じて」

「私達もこうして風紀委員会の牢屋から抜け出せたのですけれど。ふふっ♪」

 

「そうですね。」

 

アカリも笑顔で頷く

 

「それに非常事態と言う事もあって、」

「またしてもその場に偶々偶然居合わせた給食部のフウカさんが、

部の車とバイクを快く貸してくれましたし☆」

 

「んんっ!?んーーっ!んーーーーーーっ!!!!」

 

「"・・・?"」

 

荷台の方から聞こえてきた声に視線を向ける

 

そこには給食部のトラックの荷台で芋虫のようにぐるぐる巻きにされ

猿轡を噛まされたフウカが転がされていた

 

「んんんんんんんんんっ!!!!」

 

「"・・・。"」

 

("すっごい横に首振ってる・・・")

 

「新しく買ったばかりの車を貸してくれるなんて」

「これぞ美しい友情という奴ですね☆」

 

「んんっ!んっ、んんんんんっ!!!!!!!!!」

 

先程より必死な唸り声が響く

 

「"・・・。"」

 

「・・・その友情のお相手、また縛られたまま荷台に積まれていません?」

 

ハナコが苦笑する

 

「問題ありませんわ、フウカさんはこういった事に慣れていますから。」

 

「もはや専門家と言っても過言ではありませんね☆」

 

そんな話をしていると、

ハルナの通信機から通信が入った

 

『ハルナ、アカリ!今何処!?こっちも包囲網を破ったけど、合流できそう!?』

 

『ぎゃーーーっ!風紀委員会がまだ追いかけてきてる!!!』

 

通信機からジュンコとイズミの声が響く

 

「ジュンコさん、脱出作戦は取り消しです。」

 

『えっ、何で!?』

 

「ふふっ、あの時のお礼と言う事で。」

「先生とトリニティの皆さんの事は、私達が責任をもってご案内しますわ。」

 

「ですね☆それでは、とにかく乗ってください!☆」

 

「"ありがとうハルナ、よろしくね。"」

 

「え、えっと・・・それではよろしくお願いします・・・?」

 

ヒフミがぺこりと頭を下げる

 

「・・・本当だ給食って書いてある。」

 

アズサがトラックのボンネットを見る

 

「じゃあ失礼するけど・・・」

 

「給食部の貴女は本当にそのままで大丈夫?」

 

アズサが心配そうに荷台のフウカを見る

 

「んんーーっ!!んんんんーーーーっ!!!」

 

「元気そうですわね。」

 

「はい☆問題ありません!」

 

("いや、問題しかないんだけど・・・")

 

そして私とアズサ、ハナコが荷台へ

ヒフミとコハルがフウカのスクーターへ乗り込む

 

「では!ちゃんと捕まっていてくださいね☆出発です!!」

 

【ブォォォォン!!!】

 

アクセル全開

給食部のトラックが唸り声を上げながら急発進した

 

「きゃぁぁっ!?」

 

「は、速いですぅ!?」

 

「うふふ♡絶叫マシーンみたいですねぇ。」

 

「"・・・。"」

 

「本当に大丈夫なのか。」

 

アズサが呟く

 

("うん。私も今、同じ事を考えてる。")

 

 

 

そんなアカリの荒い運転に耐え、二時間が経過した頃

 

 

 

今の私達は、風紀委員会と、温泉開発部に絶賛追われていた

 

【ドゴォォォォン】

 

私達の後ろを走る、ヒフミ達のスクーターのすぐ後ろで

とんでもない爆発が起こる

 

 

「うわあぁぁぁぁぁっ!?」

 

ヒフミの悲鳴が夜空に響く

 

「何ですか何でなんですか!?いったいどうしてこんな事に!?」

 

("うーん・・・ゲヘナだからとしか・・・にしてもヒフミよく転ばないなぁ・・・")

 

「ヒフミ、揺らさないで!照準が合わないからっ!」

 

後ろのコハルが必死に銃を構える

 

「わ、私が揺らしてるんじゃありません!!」

「み、道そのものがさっきから揺れっぱなしで・・・!」

 

【ドゴォォォォン】

 

「また爆発しましたぁっ!?」

 

「トリニティの貴女、バイクの運転上手だね!!!」

 

イズミが楽しそうに笑う

 

「良いじゃん良いじゃん!頑張れー!」

 

ジュンコも大笑いしていた

 

「いえいっぱいいっぱいなんですけどぉっ!?!!!!」

 

「"普通はいっぱいいっぱい程度でこの環境でスクーターは運転出来ないんだよ・・・"」

 

思わず本音が漏れる

 

「アカリさん、8秒後にまた爆発が来ますわ。」

 

「はい、問題ありません☆」

 

「ハルナぁっ!!もう車はあげるから降ろしてーーーーっ!?!?」

 

荷台で転がるフウカが涙目になっている

 

「ふふっ、フウカさんもこうして応援してくれていますし、」

「もう少し派手にやるとしましょうか。」

 

「そうですね、声援を力に☆そして速度に♪」

 

トラックがほんのり光り始めた

 

「・・・?」

 

「"え?"」

 

「・・・先生。」

 

「"うん。"」

 

「・・・光ってる。」

 

「"光ってるね。"」

 

「トラックが光ってる。」

 

「"うん。"」

 

「コレは何・・・?」

 

「"多分神秘。"」

 

「・・・。」

 

「トラックに?」

 

「"トラックに。"」

 

「・・・。」

 

「意味が分からない。」

 

「"私も。"」

 

二人で真顔になる

 

 

「ショベルカーにブルドーザーまで来てる?!何で!?」

 

「ど、どうしてゲヘナの温泉開発部にまで追われる事になってるんですかぁっ!?」

 

("うーん・・・それは分からない。ゲヘナだからとしか・・・")

 

「やばっ、風紀委員会も来た!!」

 

「わ、私達はあくまで、試験を受けに来ただけなのに・・・」

 

「どうしてこんなことになっているんですか?!うわあぁぁんっ!!」

 

ヒフミの悲鳴が響く

 

その直後

 

【ガガガガガガッ!!】

 

「きゃああっ!?」

 

「ヒフミ!?」

 

「だ、大丈夫です!!転びません!」

「転んだら終わりですからぁっ!!」

 

("ヒフミ、本当に凄いな・・・")

 

思わず感心する

 

 

そして十数分後

 

 

【ドゴォォォォォン!!】

 

「きゃっ!」

 

「"・・・っ!"」

 

橋の欄干が吹き飛ぶ

 

「"ハルナ!前、前っ!!"」

 

「ふふっ。問題ありませんわ。」

 

「ですね☆」

 

「"問題大ありだよ!?"」

 

【ガシャァァァァァン!!!】

 

給食部のトラックが橋を突き破り

 

そのまま川へと落ちていく

 

「「「"きゃぁぁぁぁぁぁっ!!"」」」

 

「飛び降りろ!!」

 

アズサの声

 

次の瞬間、私達は一斉に飛び降りた

 

【ドボォォォォン!!】

 

背後で給食部のトラックが川へ沈んでいく

 

「"ハルナ!?"」

 

川の中からハルナが優雅に親指を立てる

 

「ご武運を。」

 

「えぇっ!?」

 

「"ハルナ!?"」

 

「トラックと一緒に沈んでる!?」

 

「ごぼぼぼっ!!!!」

 

フウカの悲痛な叫び(?)も聞こえる

 

「"大丈夫かな・・・"」

 

「・・・。」

 

「親指立ててる。」

 

「多分大丈夫。」

 

「"そうだね・・・"」

 

そうして

 

全身ずぶ濡れになりながら

私達は何とか試験会場のビルまで辿り着くのだった――

 

 

 

全身ずぶ濡れ、

髪も服もぐしゃぐしゃ

 

「はぁっ・・・はぁっ・・・」

 

「つ、着いた・・・?」

 

コハルが膝に手をついて肩で息をする

 

「し、試験会場は、ここ・・・?」

 

「"う・・・うん、多分ここ・・・だね。死ぬかと思った・・・"」

 

本当に、今回は本当に

死ぬかと思った

 

「無事に辿り着けて良かったです・・・」

「給食部の車が川にダイブした時は、もう終わりかと思いましたが・・・」

 

「"ハルナ、親指を立てながら沈んで行ったけど大丈夫かな・・・"」

 

「ふふっ。美食研究会の皆さんなら大丈夫でしょう♡」

 

「・・・多分。」

 

アズサも珍しく断言できなかった

 

「2時45分・・・何とか開始時間前に着いたか。」

「流石に疲れた・・・」

 

「うふふ。刺激的なドライブでしたね。」

 

ハナコ以外全員満身創痍だった

 

("凄いなぁハナコ・・・元気だ・・・")

 

そして私達の前には、古びた廃ビル

 

窓ガラスは割れ

 

壁も所々崩れ

 

街灯の明かりに照らされるその姿は、どう見ても試験会場には見えなかった

 

「ゲヘナの試験会場ってこのビル?」

 

「ゲヘナ自治区第15エリア77番街、廃ビルの二階・・・」

 

ヒフミがスマホを確認する

 

「はい、ここであってます。」

「このビルですね。」

 

「ど、どうしてこんな所で試験を・・・」

「あ、試験用紙とかどうなるんでしょうか、誰か来てるんですかね・・・?」

 

「いや・・・」

 

アズサが辺りを見回す

 

「誰も居なさそうだ。」

「でも何かしら、手段は用意してるはず。」

 

「"そうだね。流石に何もないって事は――"」

 

「・・・これだ。」

 

「ん?」

 

アズサがしゃがみ込み、何かを拾い上げる

 

その手にあったのは砲弾

 

「ひっ!?ほ、砲弾!?」

 

コハルが飛び上がる

 

「これは・・・不発弾、ですか?」

 

「L118、牽引式榴弾砲の弾頭だ。」

「スローガンとかの散布用なのか、雷管と爆薬を取り除かれていて爆発しない。」

 

「なるほど。」

 

ハナコが小さく頷く

 

「L118と言う事はティーパーティーの・・・」

「つまり、ナギサさんからという事ですね。」

 

("やっぱり。そう来るよね。")

 

「この中に何かあるはず。開けてみよう。」

 

【カチャ】

 

簡単に蓋が開く

 

「あ、中に紙が・・・これが試験用紙という事ですね!」

 

「特に破損も見られない。」

「こっちは・・・通信機か。」

 

アズサが機械に触れると

 

【ピッ】

 

ホログラムが展開される

 

『これを見ているという事は無事に到着されたようですね。』

 

「な、ナギサ様!?」

 

「・・・。」

 

「え、じゃあこの方が、ティーパーティーの・・・?」

 

コハルが目を丸くする

私は黙ってホログラムを見つめた

 

「"・・・"」

 

『ふふっ・・・恨みの声が聞こえてきますね。』

『まぁこれは録画映像なので、リアルタイムには聞こえないのですが。』

『ですので、今の私に話しかけても無意味ですよ。』

 

『それでは約束の時間までに試験を終えて、戻ってきてくださいね。』

 

『一応引き続きモニタリングはさせて頂いておりますので、』

『その事をお忘れなく・・・それではさようなら(・・・・・)。【補習授業部】の皆さん、そして先生。』

 

【プツッ】

 

ホログラムが消え、辺りに静寂が戻った

 

("さようなら・・・ね。")

「"ナギサ、君にその罪は背負わせないよ。"」

 

ナギサのホログラムを見てひとり呟く

 

「あうぅ・・・」

 

「何だか最後、含みのある言い方でしたね・・・?」

 

ハナコが訝し気に呟く

 

「・・・。」

 

アズサも僅かに眉を寄せていた

 

「とにかく時間がない。早く中に入って始めよう。」

 

「は、はい!皆さん入りましょう、いよいよ第二次特別学力試験です!」

 

「う、うん!」

 

「そうですね♡」

 

私は四人を見回した

 

対爆スーツは全員着ている

 

問題ない

 

("未来が違うなら、準備する。")

("何が起きても対応する。")

 

「"よし、皆行こうか!"」

 

「はい!」

 

「うん!」

 

「・・・ああ。」

 

「ふふっ♡」

 

そうして

 

私達は廃ビルへと入っていく

 

軋む階段、剥がれた壁

静まり返った内部

 

二階へ上がると通路の先に扉が一つだけあった

 

そこには机も椅子も何も無く、

ただぽつんと真ん中に中型冷蔵庫くらいの箱が置かれているだけだった

 

「ここ・・・?」

 

「みたいだね。」

 

【ギィ・・・】

 

扉を開く

 

「え、何も無いじゃない。」

 

コハルが目を丸くする

 

「ゆ、床で問題を解くのでしょうか・・・?」

 

そこには、机も、椅子も

照明すらない

 

ただ、部屋の中央に

中型冷蔵庫ほどの大きさの箱が、一つだけ置かれていた

 

「"・・・"」

 

私は箱へ近付く

ヒフミ達も後ろからついてくる

 

「この箱は何でしょうか?」

 

「机にするの?」

 

「・・・。」

 

「先生?」

 

「"うん。開けてみようか。"」

 

箱に手をかける

 

【ガコン】

 

蓋が開く

 

そして

 

「"っ!?"」

 

「な・・・!なによこれ!?」

 

箱一杯にぎっしりと、黄色い棒状の爆薬

 

「・・・ダイナマイトだ。」

 

アズサの声が低くなる

 

「この量だと・・・700kgほどになる。」

 

「700kg!?そんなの!」

「爆発したらビルどころじゃ無いじゃない!」

 

「・・・最悪。私達のヘイローも砕ける。」

 

「っ・・・」

 

コハルの顔から血の気が引いた

 

「・・・ナギサさん、ここまでするのですか・・・?」

 

「"皆。"」

 

私はすぐに振り返る

 

「"テストは中止。今すぐここを離れるよ。"」

 

「え・・・で、でも・・・」

 

「"これが爆発したらキヴォトス人でも危険だ。"」

「"試験は第三次がある。今は安全を優先して。"」

 

「・・・わかった。」

 

アズサが即座に頷く

 

「私も賛成だ。」

 

「そうですね。ここに残る理由はありません。」

 

「う、うん・・・!」

 

その時だった

外から声が聞こえた

 

「へへっ。何処からの情報か良く分からないけど、

親切に温泉がありそうな場所を教えてくれるなんてありがたいこった。」

 

「よぉし、発破準備!!」

 

 

("――!!")

 

全身の血の気が引く

 

("まずい!!このタイミングで!?")

("外の爆薬と七百キロが誘爆したら――!!")

 

振り返る

 

四人がいる

 

考えるより先に身体が動いていた

 

「っきゃ!」

「え、エッチなのは――」

「先生?」

「あら・・・?」

 

四人を強引に抱き寄せる

 

「"アロナ!!!!全力でバリアを展開して!!!!"」

 

『はい!!!』

 

そのアロナの返事と同時だった

 

【ゴォォォォォォォォォッ!!!!】

 

世界が、弾けた

 

耳が潰れる

音という概念そのものが吹き飛ぶ

 

ただ

 

光、熱、衝撃

 

全てを破壊し尽くす暴力だけが、世界を埋め尽くしていた

 

「"っ――――!!"」

 

咄嗟に抱き寄せた四人を背中に庇う

 

その瞬間

 

【ブワッ】

 

蒼い光が広がった

 

半球状の障壁

 

アロナのバリア

 

『先生!!展開完了です!!』

 

「きゃあぁぁっ!!」

 

「先生!?」

 

「うぅっ!」

 

「・・・っ!」

 

四人の悲鳴が腕の中から聞こえる

 

そして

 

【ミシッ】

 

("・・・重い!?")

 

一瞬、息が止まる

 

("違う・・・!")

 

("七百キロのダイナマイトだけじゃない!")

 

外の発破

 

そして

 

誘爆

 

連鎖

 

圧縮された衝撃波

 

("誘爆していったいどれほどに・・・!!")

 

【ゴガァァァァァァァァァン!!!!】

 

「"ぐっ・・・!!"」

 

青い障壁の向こう側で、世界そのものが燃えていた

 

鉄骨、ガラス、コンクリート

 

壁、床、天井

 

全部、全部が溶鉱炉のような熱量で押し寄せてくる

 

『先生!!!耐えてください!!!』

 

「"アロナ・・・!!もっと・・・!!"」

 

『もう最大です!!』

 

直後、ビルそのものが吹き飛んだ

 

【バキバキバキバキッ!!!】

 

5m程に展開された青い障壁

その中に閉じ込められたまま

 

私達は砲弾のように射出された

 

「きゃぁぁぁっ!」

 

「先生!!」

 

「うぅっ!!」

 

「っ・・・!」

 

後ろでは皆の悲鳴が聞こえる

 

しかし、バリアの外側では

 

崩壊したビル群

 

吹き飛ぶ車

 

砕け散るコンクリート

 

街灯

 

看板

 

瓦礫

 

全てが巨大な津波のように押し寄せてくる

 

【ガガガガガガガガッ!!!!】

 

障壁は、次々と廃墟の壁を突き破りながら一直線に進む

 

一棟

 

二棟

 

三棟

 

「"っ・・・!"」

 

障壁の表面に無数の亀裂

 

『あっ・・・!』

 

アロナの悲鳴

 

『先生・・・!!』

 

『バリア出力・・・40%・・・20%・・・!!』

 

「"まだ・・・!!アロナ!!"」

 

『ごめんなさい、せんせい、もう』

 

アロナの声が、ノイズ混じりに掠れていく

 

("駄目だ・・・!!まだ終わらせない!!")

("皆だけは・・・!!")

 

【ガキィィィィィン!!】

 

そして蒼い障壁が、硝子のように砕け散った

 

「"っ!!"」

 

「先生!?」

 

「きゃっ!」

 

「せ、先生・・・!」

 

「・・・っ!」

 

私は反射的に四人をさらに抱き込む

 

背中を向ける

 

「"大丈夫!!"」

 

「"絶対離れないから!!"」

 

次の瞬間

 

【ドゴォォォォォォン!!!!】

 

爆風が背中を叩いた

 

【ボンッ!!】

 

対爆チョッキが反応

 

内蔵クッションが展開する

 

身体が宙へ投げ出された

 

「うわぁぁぁっ!」

 

「先生っ!」

 

「きゃぁっ!」

 

「っ・・・!」

 

視界が回転する

瓦礫と共に夜空と炎が混ざり合う

 

【ガァァァァァッ!!】

 

地面へ叩きつけられる

 

転がる

 

削れる

 

クッションが潰れる

 

瓦礫が背中に叩きつけられる

 

アスファルトが身体を削る

 

それでも腕だけは絶対に離さない

 

「"っ・・・!!"」

 

「先生!!」

 

「ぐぅっ!」

 

「きゃぁっ!」

 

「・・・!」

 

("守る・・・!!この子達だけは・・・!!")

 

【ゴォォォォォッ!!】

 

何十メートルも吹き飛ばされる

 

転がる

 

それでも腕だけは

 

離さない

 

「先生ぇぇっ!!」

 

誰かの涙声

 

「うわぁぁっ!」

 

誰かの悲鳴

 

「先生・・・!」

 

誰かの声

 

「・・・先生!」

 

誰かの温もり

 

("まだ・・・終わって・・・ない・・・")

 

("せめて・・・皆だけでも・・・")

 

ぼやける視界

薄れていく意識

 

その時

 

「・・・。」

 

誰かが、私達に覆い被さるように立った

 

「"・・・え?"」

 

霞む視界の中

 

砂色のローブが風になびく

 

そして

 

「全く。」

「せやから、その自己犠牲はどうにかならんのか。」

 

聞き覚えのある声

 

「"・・・ア・・・"」

 

「まぁ今回はよう頑張ったな。」

 

「あとは任せ。」

 

その瞬間

 

微かに

 

五つのロザリオが淡く光った気がした

 

「"・・・。"」

 

("アンラ・・・さん・・・?")

 

だが

 

そこで

 

私の意識は

 

真っ白な闇の中へと沈んでいった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先生!!」

「先生起きてください!!」

 

「"っ・・・う・・・"」

 

重い瞼を開く

最初に見えたのは、涙でぐしゃぐしゃになったヒフミの顔だった

 

「先生っ・・・!良かったぁ・・・!」

 

「"ヒフミ・・・?"」

 

「うぅぅ・・・!本当に良かったですぅ・・・!」

 

ぼやける視界の中、私はゆっくりと上半身を起こす

全身が鉛のように重い

 

("・・・生きてる?")

 

("皆は・・・!")

 

「"み、みんな・・・!"」

 

「ここに居ます!」

 

「う、うぅ・・・びっくりした・・・」

 

「・・・無事だ。」

 

「ふふっ。目が覚めて良かったです♡」

 

四人とも、すぐ傍に居た

それを見た瞬間、胸の奥に溜まっていた何かが抜ける

 

「"良かった・・・本当に・・・"」

 

思わずその場に座り込む

 

あれだけの爆発だった

 

アロナのバリアは途中で砕けた

そのまま瓦礫と一緒に地面を転がったはずだ

 

なのに

 

「・・・?」

 

「どうしたの先生?」

 

「"皆・・・怪我は?"」

 

「ないけど・・・?」

 

「私も特に。」

 

「す、少し頭がくらくらするくらいです・・・」

 

「どこも痛くないです♡」

 

「"そんな・・・"」

 

私は周囲を見回した

そこは元のビルから百m以上離れた場所

地面は抉れ、砕けたコンクリートや鉄骨が周囲に散乱している

 

遠くでは、さっきまで試験会場だったビルが完全に崩れ落ち、炎を上げていた

 

あんな爆発に巻き込まれて

 

あれだけ吹き飛ばされて

 

全員が無傷?

 

あり得ない

 

「先生・・・?」

 

不安そうにヒフミが顔を覗き込んでくる

 

「顔色悪いですよ?」

 

「"・・・いや。おかしいんだ。"」

「"バリアは途中で割れた。"」

 

私はゆっくりと立ち上がる

 

制服はボロボロ

 

土と煤で汚れ

 

袖も破れている

 

なのに

 

「"・・・痛くない。"」

 

腕を動かす

 

脚を動かす

 

肩を回す

 

どこも痛まない

 

「"そんなはず・・・"」

 

("アロナのバリアは割れた。")

("その後は生身だった。")

("何度も瓦礫と一緒に転がった。")

 

("それなのに・・・?")

 

「・・・確かに。」

 

アズサも眉を寄せる

 

「私も、最後に何度も地面に叩きつけられた感覚があった。」

 

「なのに傷一つない。」

 

「変だ。」

 

「えぇ・・・?」

 

コハルが青ざめる

 

「そ、そんなに凄かったの・・・?」

 

「わ、私は真っ白になって、その後の記憶が・・・」

 

「うふふ。夢でも見ていたのでしょうか♡」

 

「・・・夢じゃない。」

 

アズサが静かに否定する

 

「私も覚えている。」

「先生が最後まで私達を庇っていた。」

 

「その背中が見えた。」

「何度も地面に叩きつけられて・・・」

 

「それなのに。先生も無傷だ。」

 

("そういえば意識を失う前に・・・何かを見た気がする・・・")

 

「・・・先生。」

 

アズサが何かに気付き、しゃがみ込んだ

 

「これ。」

 

「"ん?"」

 

彼女の指先に、小さな銀色の光が見えた

 

瓦礫の中

 

私と四人を囲むように、五つのロザリオが落ちていた

 

「・・・ロザリオ?」

 

ヒフミが呟く

私は思わず息を呑んだ

グレゴリーから受け取ったもの

 

「・・・何だこれ。」

 

アズサが一つを拾い上げる

 

「ひび割れてる・・・?」

 

「"え・・・?"」

 

表面に無数の亀裂

十字架の部分は今にも砕けそうになっている

 

まるで何かの衝撃を

代わりに受け止めたかのように

 

 

 

「そういえば、あの司祭様が・・・」

 

ヒフミの顔から血の気が引いていく

 

【必ず、肌身離さず持っておくことだ。】

【もしも、君たちがこれから向かう先で真の絶望に直面した時。】

【このロザリオが君たちの『最期』をどのように彩るか。】

【それは神のみぞ知る・・・】

【いや、あるいは、私だけが知っているのかもしれないな】

 

「・・・っ。」

 

コハルが震えた

 

「あ、あいつ・・・最初から知ってたの・・・?」

「私達がこうなる事を・・・?」

 

「"・・・。"」

 

私は掌の上のロザリオを見る

砕けかけた十字架

 

そして、その亀裂の隙間から、微かに漏れるような暖かさ

まるで誰かが最後まで守り続けてくれていたかのような・・・

 

「・・・暖かい。」

 

ヒフミが、小さく呟いた

砕けかけたロザリオ

 

そのひび割れた十字架から伝わる僅かな熱

まるで、誰かの掌の温もりのようだった

 

「・・・。」

 

誰も言葉を発せない

ただ、あの不気味な司祭の笑みだけが脳裏をよぎる

 

だが――

 

【ウゥゥゥゥゥゥ・・・!!】

 

遠くからサイレンの音が響いた

 

「・・・風紀委員会だ。」

 

アズサが顔を上げる

 

「この規模の爆発だ。間違いなく集まってくる。」

 

「そ、そうですよ!?」

 

アズサとヒフミの話を聞いてコハルも青ざめる

 

「しかも今はエデン条約直前なんだから!」

「こんな所でトリニティの生徒が居たなんて知られたら、大問題になる!」

 

「それに、試験会場が爆発したなんて説明しても、信じてもらえないでしょうし・・・」

 

「うふふ♡事情を説明するには、少々刺激的すぎますねぇ。」

 

「"皆、立てる?"」

 

「うん!」

 

「問題ない。」

 

「だ、大丈夫です!」

 

「もちろんです♡」

 

「"よし。"」

「"ここから離れよう。"」

「"今はとにかく、トリニティへ戻るんだ。"」

 

「はい!」

 

「うん!」

 

「・・・ああ。」

 

「ふふっ♡」

 

そうして

 

私達は崩壊した現場を後にした

背後では、風紀委員会の装甲車らしきライトが見え始めていた

 

 

その光を避けるように

 

誰にも見つからないように

 

私達は夜のゲヘナを走った

 

そして

 

数時間後

 

ようやく合宿所へ帰ってきた頃には、空が白み始めていた

 

 

 

 

【トリニティ・合宿所】

 

「つ、着いたぁぁぁ・・・」

 

玄関をくぐった瞬間、コハルがその場にへたり込む

 

「も、もう無理・・・。」

 

「私も流石に疲れました・・・。」

 

ヒフミも壁にもたれかかりながら息を吐く。

 

「刺激的な夜でしたねぇ♡」

 

「・・・もう二度と御免だ。」

 

アズサも珍しく疲労を隠さなかった

 

そして

 

「"皆、先に座って。"」

「"念のため、怪我が無いか確認するよ。"」

 

「え?」

 

「怪我?」

 

「"あれだけ吹き飛ばされたんだ。"」

「"自覚がなくても、何処か痛めてるかもしれない。"」

 

「そうですね。」

 

ハナコも真面目な顔になる

 

「後から症状が出る事もありますから。」

 

「それじゃあ、順番に診ましょうか。」

 

「うぅ・・・なんか病院みたい・・・。」

 

 

まずコハル

 

「"頭痛は?"」

 

「ない。」

 

「"吐き気は?"」

 

「ない。」

 

「"腕を上げてみて。"」

 

「・・・上がる。」

 

「"足は?"」

 

「動く。」

 

「"痛い所は?"」

 

「・・・ない。」

 

コハルが自分の身体を見下ろし呟く

 

「ない・・・?」

 

次にヒフミ

 

「どこも痛くありません。」

 

「"本当に?"」

 

「はい。」

 

「"打撲も?"」

 

「ありません。」

 

「"擦り傷も?"」

 

「ありません。」

 

「"・・・。"」

 

「・・・。」

 

二人で顔を見合わせる

 

「お、おかしいですよね?」

 

「"うん・・・。"」

 

次はハナコ

 

「全く問題ありませんよ♡」

 

「"本当に?"」

 

「はい♡」

 

「"脈拍正常、呼吸正常。"」

 

「むしろ、いつもより体調がいいくらいです♡」

 

「"それはそれで何で・・・?"」

 

最後にアズサ

 

「・・・異常なし。」

 

「"本当に?"」

 

「骨も問題ない。」

 

「打撲もない。」

 

「筋肉痛すらない。」

 

「先生。」

 

アズサが静かに私を見る

 

「私達は、本来なら死んでいてもおかしくなかった。」

 

「"そうだね・・・。"」

("私もここまでの爆発は想定していなかった・・・")

 

「なのに、誰一人として怪我をしていない。」

 

「奇跡的・・・いや。」

 

彼女はポケットから、あのロザリオを取り出した

 

「奇跡なんて曖昧な言葉で済ませるには、出来すぎている。」

 

亀裂だらけになった銀の十字架

もう今にも砕けそうだった

 

「・・・。」

 

誰も口を開けない

 

静かな部屋

 

窓の外からは、朝日が差し込んできていた

 

「"・・・でも皆、本当に無事なんだね。"」

 

そう呟いた瞬間

張り詰めていたものが、ふっと切れた

 

「良かったぁぁぁ・・・!」

 

ヒフミが涙を零しながら、私に抱きついてくる

 

「最初先生が起きなくて、本当に怖かったんですよぉ・・・!」

 

「うぅぅっ・・・!」

 

コハルまで目を赤くしていた

 

「ば、馬鹿先生・・・!」

 

「死んじゃったかと思ったじゃない!」

「いや、私達も死ぬ所だったんだけど!」

 

「本当に・・・。」

 

ハナコも優しく微笑む

 

「皆一緒で良かったです♡」

 

「・・・ああ。」

 

アズサも小さく頷く

 

「皆、生きている。それだけで十分だ。」

 

朝日が部屋を照らす

 

徹夜で走り続けた夜

 

爆炎、崩壊、絶望

 

その全てを乗り越えて

 

今、ここに私達は、確かに生きていた

 

そして私は

机の上に置かれた、ひび割れたロザリオを見つめる

 

("・・・ありがとう。グレゴリーさん、貴方が誰の味方か分からないけど")

("それでも、この助けて貰ったこの命を無駄にはしない。")

 

そう心の中で呟きながら

私は、皆の笑顔を静かに見つめていた――

 

 

 




なっげぇ・・・

でもまぁ、今考えてる構想のエデン条約二章で1・2を争うシーンだから、
しかたないんやけども・・・

さて、とりあえず先生達が吹き飛ばされましたね。
ビルに設置してあった、700kgのダイナマイト
温泉開発部が使った産業用ダイナマイト300kg

あわせて1tにも及ぶダイナマイトの大爆発。
ジュールで言うなら推定42億ジュール

ちなみに巡航ミサイルは、直撃して凡そ30億~40億ジュール

つまりまぁ、そういう規模の爆発です。
実際にコレが起こったらビルは内側から高熱と衝撃波で
ガラスや鉄筋が溶けて曲がり、
衝撃波でコンクリートが粉々になって100m以上吹き飛ぶことになります。

ちなみにアロナバリアがなぜ最初の一撃で砕けなかったか、ですが。
これにも理由があります。
古聖堂は屋根に当たり、頭上で爆発しています。
つまり満遍なく上から下に爆発の衝撃波が叩きつけられる事になるので、
衝撃の逃げ道が存在しません。

ですが、今回は全員真横からの爆発なので、
そのまま横に吹っ飛ぶ事で衝撃を軽減する事に成功しています。

但し、人間5人分の丸いバリアで囲まれた質量砲弾と化しても、
その飛距離は凡そ100mにも及ぶ上に、
ビルくらいなら平然と何棟もぶち抜くエネルギーで飛ぶ事になります。
なので最初の爆発で大幅に出力が削がれたアロナバリアが、
ビルを何棟も貫通する事でとうとう限界に到達する。
そういう事が起きていました。

あ、ちなみに先生が吹き飛ばされて意識を失う前に見た物は、
記憶に残ってないですね!
如何せん、ズタボロの上に意識が朦朧としていたので、気がする程度しか記憶が残ってないです。

なにかの拍子に蘇るかもしれないですけどね。

ちなみに今回あのローブが出てきた理由は、
あっこ、トリニティじゃないんで。
出禁されてないんで。


~今日のセイア~

おや、今日のセイア様、ご機嫌のご様子です。
デスクに座って紅茶を嗜みながら書類をスイスイと処理していっています
以前は良くない未来を見たのか鬼気迫っていましたが、どうやらそれも解決したようですね。

おや、今日は珍しくローブ姿の同僚の方が、事務所に戻ってきたようですね。
ユメ社長がお出迎えしています。

セイア様もご機嫌になにやら小難しい事を言いながら迂遠な嫌味を言っています。

同僚の方が、何やらかな笑顔らお土産を買って来たようですね。
あ、あれはトリニティでの名物、ミラクル5000ですね!!
大人気すぎて、移動販売の車を狙った強盗があるくらいの限定ケーキです。
良く買えましたね。
このお土産に対して先ほどまで嫌味を言っていたセイア様も満面の笑みです。
なにせ、祈願屋でアルバイトしてからセイア様の甘味はロールケーキ以外食べていなかったので、尚更でしょうね。

おや、ローブの同僚さん、まだお土産があるようですね・・・何やら袋から取り出しています。
なんでしょうか・・・コレは・・・?
触手が生えた紫色のパンケーキ・・・?でしょうか?
なにやら、ゲヘナでぬいぐるみが売っていたから買って来たそうですね。
これに関してはユメ社長もセイア様も顔が引き攣っています。

あ、ユメ社長、なにやら仕方がないと言いたげな表情で、
紫色のパンケーキのようなぬいぐるみをアヴァンギャルド君の横に配置しました。
・・・凄いインパクトのある事務机ですね・・・

あ、どうやら、このまま仕事は一旦休憩で、
ティータイムにするようですね。

セイア様が珍しくウキウキしています。
余程ロールケーキ以外の物を食べるのが嬉しいのですね。

やっぱりトリニティで有名なだけはあるのですね。
一口食べたセイア様のお顔が、朗らかになっています。
大変幸せそうですね。

その向かいで、ユメ社長がボソっと言ったダイエット模擬戦またしないとと言う
発言は聞こえていないご様子です。
まぁ聞こえない方が精神衛生上はセイア様にとって良いので良かったかもしれません。
皆さん美味しいのでしょうね。幸せそうに食べています。

今日の所は皆幸せそうなのでここで観察は終わりたいと思います!










さて、ここからはこの章どころか、
下手したらこのエデン条約編そのものの、大きなネタバレになります。
もし読まれる方はお気を付けください。












































ここまでスクロールしたという事は、
ネタバレバッチ来いの方々と言う事ですね。
では行きますよ?

まずは設定からです。

グレゴリー司祭が渡したあのロザリオ、

三つのパーツから構成されています。
一つ目、身代わりの十字架
二つ目、守護の宝玉
三つ目、赤いウールの紐
この三つの神具で構成された、使い捨ての神具となっています。

一つ目の十字架は文字通り、対象者の負傷を肩代わりします。

二つ目の守護の宝玉は、文字通り呪い、負傷といった厄災からその身を保護してくれるそういう玉です、これがロザリオとして、赤いウールの紐に59個通されています。

三つ目、赤いウールの紐。こちらは、ユダヤ教に伝わる神具で、他者からの嫉妬や悪意ある視線、あらゆる負のエネルギーから身を守るための強力な厄除けとなっています。

これらの神具をそれぞれ魔術による補強と強化を行い、
相乗効果として一つのロザリオに仕上げた物があの使い捨ての神具となります。
凄まじい過保護ぶりですね。

そして、これらの過剰とまで言える神具をもってして、
ズタボロになるほどのダメージが入ったのが今回の爆発です。


今回の爆発の背景ですが、
本来はあそこまでの大規模爆発ではない予定でした。
ナギサ様が指示したのはあくまで、温泉開発部への温泉情報という嘘のリークまででした。
ですが、その動きをアリウス、というよりヴェアトリーチェに把握されていた為、
今後、障害になりうる可能性を考え早期に芽を摘もうと動き、
試験会場にダイナマイトの設置を指示したという形になります。

セイアはこのヴェアトリーチェの咄嗟の動きによって変わった未来を察知し、
急遽アンラに連絡を入れ、防備の強化を求めた形となります。



そして、先生達が吹き飛ばされ、先生の意識が失われる寸前に見えた砂色のローブは、
セイアからの連絡で、周りで常に警備していたアンラ本人になります。

前回のミサキの自殺未遂から、今回の先生の暗殺未遂。
ここまでくると我慢強いアンラも流石に殺意が迸っている状態です。

ヴェアトリーチェと相対した時にどうなるか・・・

流石に『命は』取りません。取ると原作の流れが崩壊するので。
ですが、命以外の全てを潰す可能性がありますね。


ちなみに、温泉開発部のカスミもこの1tものダイナマイトの爆発を知っていて、
自分の部員が爆風に巻き込まれ負傷した上に、
自分達の温泉開発が誰かの暗殺に利用された事に勘づいています。
そしてかなりキレています。

カスミがというより、温泉開発部全体がキレていますね。

暫くゲヘナはかなりピリついていると思います。
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