おっさんキヴォトスに行く 作:無い頭のおっさん
補習授業部の皆が試験に合格した後
あの日の騒動が終わっても、私の仕事は終わらなかった
むしろ、本当の意味で忙しくなったのは、それからだった
私はトリニティで起こった一連の事件の事後処理に追われ
まずは、気絶から目を覚ましたナギサに、事件の経緯を一つずつ説明する事
目を覚ました直後こそ混乱し、何故か鬼の形相でハナコへ銃を向けるという一幕まであったが
どうにか事情を説明し、落ち着いてもらう事が出来た
その時、ナギサ本人から話を聞いた事で、
第二次特別試験の会場爆破は彼女の指示ではなかった事も判明した
その情報を確認した後は、今度はゲヘナへ連絡を入れ、向こう側の状況確認
その合間を縫って、ミカへの面会を何度も申請したものの、
本人は誰とも会う意思が無いようで、一度も許可は下りなかった
アズサについてもそうだ
アリウスから送り込まれたスパイだったという事実が判明し、
セイア襲撃事件について詳しく話を聞くため、聴聞会にも立ち会った
そして念のため、シスターフッドとハナコが交わした取引の内容を確認しに向かったりと――
気が付けば時計を見る余裕も無いほど、毎日あちらこちらへ走り回っていた
色々な出来事が、終わったようで終わっていない
事件は幕を閉じても、その後始末だけは延々と続いていた
そんなここ数日をぼんやりと思い返していると
【トリニティ総合学園・シスターフッド会議室】
「・・・先生?」
「"あっ、ごめんちょっと意識飛んでた"」
「・・・お忙しいのは存じておりますが、もう少々集中していただけますと。」
穏やかな声
その一言で、私は現実へと引き戻される
目の前には、いつもと変わらない静かな表情のサクラコ
シスターフッドの会議室も相変わらず静かで、外の喧騒が嘘のようだった
「"あはは・・・ごめんね。"」
「確かにここしばらくずっと、事件の後始末と言いますか・・・」
「色々奔走されていると聞きました。」
「あなたの管轄外の事まで。」
「"・・・力不足でね。"」
私は苦笑しながら、小さく肩を竦める
「"色々とやり切れなかった事とか沢山あったんだよね・・・"」
そう呟くと、サクラコは少しだけ目を伏せた
その表情には責める色は無い
ただ、私の言葉を静かに受け止めているだけだった
「・・・そうでしたか。」
短い返事
けれど、その一言だけで十分だった
「立て続けに色々な事がありましたし、少し整理しておきましょうか。」
そう言うと、サクラコは一度ゆっくり息を吐く
まるで頭の中に散らばった資料を、一枚一枚並べ直すように
「整理する事で進む事が出来る事もありますし、」
「いわゆるポストモーテムと呼ばれるものですね。」
私は小さく頷く
確かに。事件は終わった
だからこそ、何が起こったのかを一度整理しなければ、前には進めない
「・・・では、本題に入りましょうか。」
「セイアさんの部屋が爆破されたのは、夜中の三時頃」
サクラコは、事実を一つずつ積み重ねるように、静かな口調で語り始めた
「その後、現場へ最初に辿り着いたのは救護騎士団のミネ団長でした。」
「ミネ団長は室内の状況を確認した後、直ぐにその事実をティーパーティーに報告。」
「ティーパーティーは混乱に陥りつつも、情報の隠蔽工作や犯人捜しが始まりました。」
トリニティ全体が混乱している光景が頭をよぎる
「しかし、その騒動に紛れるようにして――」
サクラコは一拍置く
「ミネ団長はセイアさんの遺体と共にに姿をくらましました。」
「救護騎士団の他の団員さえ行方が分からないそうです。」
「と、ここまでがティーパーティー視点の状況です。」
「しかし実の所セイアさんの遺体という情報自体がフェイク。」
「ミネ団長はヘイローが破壊されたという偽の情報を流しつつ、」
「セイアさんを安全な所に隠したのでしょうね。」
「普通に考えて、【ヘイローが破壊された生徒】が狙われるはずもありません。」
「セイアさんを守るためには、最善の方法だったと言えるでしょう。」
「ティーパーティーのメンバーが襲撃されると言う異常事態。」
「今は誰を信じるべきかと考える前に自分の手で、と。」
「そう考えたのではないでしょうか。」
その声には、僅かな敬意すら感じられた
救護者として一人の生徒を守ろうとしたミネ
サクラコも、その決断を理解しているのだろう
「実際に、犯人がティーパーティーのミカさんであった事を考えると、」
「彼女の判断は正しかったと言えますが・・・」
そう言ったあと
サクラコは少しだけ言葉を探すように視線を落とした
「・・・ですが。」
「結果として、セイアさんの現在地は誰にも分からなくなってしまいました。」
「"その後のセイアの足取り・・・だね。"」
私の言葉に静かに頷く
「ミネ団長から送られ来たメッセージで、セイアさんの無事だけは確認出来ています。」
「ですが、セイアさんが何処に居られるのか。」
「それを知る者は、一人も居ません。」
再び静寂
部屋の時計だけが、小さく時を刻んでいる
「唯一、ご存じなのではないかと思われる方も居られたのですが・・・」
「"あれから、グレゴリーさんも足取りが掴めないの?"」
「はい。」
サクラコは僅かに首を横へ振る
「以前まででしたら、」
「毎日のようにトリニティ自治区内の何処かの教会で説教をされていました。」
「ですが、あの一件以降。」
「トリニティ自治区内での目撃情報は、完全に途絶えました。」
その言葉を聞きながら、私は自然とあの司祭の姿を思い浮かべる。
その口から出る全ての言葉が不穏で、人の不安を煽るのが趣味の様な人物
でも、私達の危機を何度も救ってくれ、
そしてセイアと直接契約を結んでいた人物
「ふぅ・・・」
サクラコは小さく息を吐く
「凡そといった形ではありますが、」
「この辺りがセイアさんが襲撃された件についてのお話でしょうか。」
事件は終わった
だが、謎だけはまだ幾つも残っている
そんな事を考えていた、その時だった
張り詰めていた空気を切り裂くように
【ガチャッ】
勢いよく会議室の扉が開かれた
「"ハナコ!"」
そこには、いつもと変わらない笑顔を浮かべたハナコが立っていた
「あまり面白くないサクラコさんに捕まって苦しんでいるのではないかと思い、」
「先生を助けに来ちゃいました。ふふっ♡」
張り詰めていた空気が、少しだけ緩む
("・・・やっぱりハナコは凄い")
("場の空気を読むのも、壊すのも、本当に上手だ")
「・・・冗談を言うタイミングではありませんよ、ハナコさん。」
サクラコは額に手を当て、小さくため息をついた
それでも怒っているというよりは、
いつもの調子を取り戻したハナコに少し安心しているようにも見える
「サクラコさんは相変わらずですねぇ・・・」
「今度一緒に、ちょっと過激な本でも読みませんか?」
「なんとなくですが、サクラコさんはそういった方面に免疫がなさそうですし・・・うふふ♡」
「・・・ハナコさん。」
少し真剣な声色だった
「あの時の約束、忘れていませんよね?」
ハナコは一瞬だけ目を丸くした後
すぐに、いつもの悪戯っぽい笑みを浮かべた
「・・・もちろんですよ。」
そして
これ以上ないくらい真面目な表情で頷く
「登校時の服装には、裸のみを認め、更には先生もトリニティ内での衣服の着用禁止・・・!」
「そんな校則を作り、トリニティを裸の楽園へと変える計画に手を貸して欲しい・・・」
「そういう事でしたよね?」
「ええ、そうで――」
サクラコは頷きかける
「はい?」
そのまま思考が止まった
「"え?・・・何それ初耳・・・"」
私も思わず口を挟んでしまう
いや、何その計画あと何で私も脱がされるの?
聞いてない
「まさかシスターフッドがこんな陰謀を企んでいたなんて・・・」
「流石サクラコさん、謎に包まれた秘密主義の長ですね。」
ハナコは腕を組み、何度も深く頷く
「それにあの例外に関する条項、原則全裸。」
「ただしシスターフッドのみ、登校時にベールの着用を認める。」
「流石の私も慄きましたよ。裸にベールだなんて、何と言う新しい世界・・・!」
「はい・・・っ!?」
サクラコの悲鳴が会議室に響き渡る
普段滅多に表情を崩さないサクラコが
今だけは完全に思考停止していた
("あ、良かった。")
私は胸を撫で下ろす
("いつものハナコの冗談か・・・")
そう思った、次の瞬間嫌な予感が頭を過る
("・・・いや、今のハナコは、はっちゃけてるから本当に冗談ですますか・・・?")
「ですが、今の立場では協力せざるを得ません・・・!」
「そしてやるからには、必ずや成功させてみせます♡」
「しかしそのベールの件はずる過ぎます!」
「ですので私からの提案ですが、原則全裸。
「ただし、全生徒靴下だけは着用可とするというのはいかがでしょうか!」
「これを飲んで下さるのなら、その計画に協力しましょう!」
ハナコは腕を組みながら、真剣そのものと言わんばかりの表情で頷いた
まるで国家間の重要条約でも交渉しているかのような口ぶりだった
壁際で控えていたマリーが、小さく息を呑む
「さ、ささささサクラコ様!?そ、そんな計画を・・・!?」
「違いますよ!?」
サクラコが思わず机に手をつき、勢いよく立ち上がる
「そんな・・・」
「【そんな・・・】ではありません!」
「いきなり何を言っているのですか貴女は!」
「私達がハナコさんの頼みを聞く代わりに、ハナコさんも私達からの頼みを一つ聞く。」
「そういう約束でしょう!?」
「・・・あぁ、そんなお話もありましたねぇ。」
ハナコは何事もなかったかのように微笑んだ
("切り替え早っ!?")
("今の流れから普通に戻れるんだ・・・")
サクラコも一度目を閉じ、小さく息を吐く
どうやらこれ以上付き合っていても埒が明かないと判断したらしい
「はぁ・・・」
「本当なら、貴女がシスターフッドに入ってくれればそれが一番いいのですが・・・」
そう言って、ハナコを真っ直ぐ見つめる
その瞳には、先程までの困惑も呆れもない
シスターフッドの長としての、真剣な眼差しだった
「それは貴女をただ虐めて、追い詰める様な物でしょうから。」
「・・・」
ハナコも、それを感じ取ったのだろう
先ほどまでの悪戯っぽい笑みを少しだけ和らげ、静かにサクラコの言葉を待っていた
「・・・今回の事件を契機として、私達のこれまでの【無干渉主義】も変っていきます。」
「政治的な事も徐々に、足を踏み入れる事になるでしょう。」
会議室に、再び静かな空気が戻る
「その過程できっと、色々とあるはずです。」
「その時、ハナコさんの様な方から助けてもらえるというのは大きなキーになり得ます。」
「あくまでそういうお話ですよ。」
その言葉には、無理に勧誘しようという意思は感じられなかった
必要だから来てほしい
でも、来られない理由も理解している
そんな、不器用な頼み方だった
ハナコは少しだけ目を伏せる
「・・・」
その表情は穏やかだったが、何かを考えているようにも見えた
その沈黙を破ったのは、サクラコではなかった
「なので、部屋の隅で震えるのはやめてくださいマリー。」
「ひゃっ!?」
突然名前を呼ばれたマリーが、小さく肩を震わせる
いつの間にか壁際まで後退し、小動物のように縮こまっていた
「わ、私はその・・・」
「お、お二人のお話を聞いているうちに・・・」
「トリニティの未来が少し心配になってしまいまして・・・」
「安心してください。」
サクラコは即座に答える
「そのような校則を作る予定は一切ありません。」
「ほ、本当ですか・・・?」
「本当です。」
間髪入れずに返ってきたその一言に、マリーは心の底から安堵したようだった
胸に手を当て、大きく息を吐く
「よ、良かったです・・・」
その様子を見ていたハナコが、くすりと笑う
「まぁ、その程度なら構わないのですが・・・はぁ・・・」
「どうして、そう残念そうな表情をするのですか・・・」
サクラコは半眼になりながら、ハナコへ視線を向ける
「いえ、もう話をそちらに戻さないで欲しいのですが・・・」
「ふふっ♡」
ハナコは悪戯が成功した子供のように微笑む
どうやら十分満足したらしい
("良かった・・・本当に満足したみたいだ。")
私は心の中でそっと胸を撫で下ろした
もしここからもう一段階ギアを上げられていたら、
流石のサクラコでも収拾がつかなかった気がする
「"ハナコは政治面での手伝い、本当に嫌じゃない?"」
私は改めて尋ねる
先程まで笑っていたハナコの表情が、少しだけ柔らかくなる
「先生・・・」
その表情は、先ほどまでの冗談を言っていた時とは違う
少しだけ照れくさそうで
けれど、真剣だった
サクラコも静かに言葉を続ける
「・・・・無理矢理にという手段はとりません。」
「どちらにせよハナコさんには【手伝っていただく】という形ですし、」
「無茶な事を要求するつもりもありませんから。」
壁際では、ようやく落ち着きを取り戻したマリーも
ほっとしたように胸を撫で下ろしている
「・・・ハナコさんの事考えてくださいありがとうございます、サクラコ様。」
「いえ。」
「当然の事です。」
サクラコは短く答えると、軽く咳払いをした
「話がそれましたね・・・本題に戻りましょうか。えっと・・・」
「全裸登校についてのお話ですね♡」
間髪入れずにハナコが答える
「はい、その話・・・ではありません!!」
今度は即座に否定が飛ぶ
「話を戻さないでと言ったでしょう・・・!」
「ふふっ。」
ハナコは肩を震わせながら楽しそうに笑う
サクラコも一瞬だけ頭を抱えたものの、それ以上は何も言わなかった
もう反応するだけ負けだと悟ったらしい
「"うん、私、ハナコが三年になって"」
私は苦笑しながら口を開く
「"もしもティーパーティーに入ったらトリニティに絶対近づかない・・・"」
「先生、それは少し失礼ではありませんか?」
サクラコは呆れたようにため息を吐く
「ですが。否定しきれないのが少し悔しいですね・・・。」
「ふふっ♡」
ハナコが満足そうに微笑む
しばらく笑い声だけが会議室に響いたあと
彼女はすっと表情を切り替えた
「仕方ありませんねぇ・・・セイアちゃんの襲撃事件、その話に戻りましょうか。」
空気が変わる
それまで笑っていたハナコとは思えないほど、その声は静かだった
「実行犯はご存じの通り、アズサちゃんだったようです。」
「セイアちゃんの部屋が爆破されたのは夜中の三時です。」
「その部屋へ侵入したのは、夜中の二時頃だったそうです」
私は小さく頷く
その時間差は、私も聴聞会で確認していた
「つまり。アズサちゃんは、およそ一時間もの間。」
「セイアちゃんと、二人きりであのお部屋に居たんです。」
会議室が静まり返る
その一時間、そこに、この事件の全てが詰まっている
誰もが、そう思っていた
「その一時間の間に、お二人がどんなお話をされたのか・・・。」
「アズサちゃんは、あまり詳しく話してはくれませんでしたが。」
「セイアちゃんから。元々迷っていたアズサちゃんへ。」
「どうやら、アリウスを救う道を示されたらしいですね。」
「"うん、あの聴聞会は私も出席したけど、」
私は静かに頷く
あの時のアズサは、多くを語ろうとはしなかった
それでも
セイアと交わした約束だけは、大切そうに胸へ抱いているように見えた
「二人との間のやり取りはそんな感じだったね。"」
「"その後、セイアの死を偽装する為に部屋を通常の爆弾で爆破し、"」
「"爆破の後、アズサはそのまま現場を離れた・・・そういう流れだった。"」
「・・・そうですか。」
サクラコは小さく目を伏せる
事件の経緯だけを並べれば、決して褒められた話ではない
けれど、その奥にあった想いまでは、誰にも否定する事は出来なかった
「とにかく、白洲アズサさん・・・」
「彼女がトリニティに転校してきて、そして実際にナギサさんを守り抜いた。」
「その事だけは変わりません。」
一つ一つ、確認するように言葉を紡ぐ
「その過程で様々な事があったとはいえ、特別学力試験にも合格。」
「補習授業部は彼女を含めて全員、明確な結果を残しています。」
サクラコは真っ直ぐ前を見据えた
その表情には迷いがない
「文句のつけようなど無いでしょう・・・」
「彼女の学籍の書類は、私が正式な物にしておきます。」
「シスターフッドが保証しましょう。誰にも、異議申し立てなどさせません。」
会議室が静まり返る
その一言は、シスターフッドの長としての正式な宣言だった
「・・・ありがとうございます、サクラコさん!」
ハナコの表情がぱっと明るくなる
心の底から安堵しているのが伝わってきた
「"ありがとう、サクラコ。"」
私も自然と笑みが零れる
ようやく
ようやくアズサは、自分の居場所を得る事が出来た
そう思うと、胸の奥に張り詰めていたものが少しだけ軽くなる
「・・・これで白洲アズサさんは、正式にトリニティの生徒となりました。」
サクラコも柔らかく微笑む
「まだ問題は山積みですし、特にアリウス分校の事は何も解決できていませんが・・・」
「取り急ぎ、目の前の問題だけは落ち着いたと言えるかもしれませんね。」
そう言ってサクラコは席を立つ
「お疲れ様でした。ハナコさん、そして先生。」
「では、私は他に用事があるのでお先に失礼します。」
「マリー、行きましょう。」
「は、はい。」
マリーも慌てて此方へ駆け寄ると、私達へ丁寧に一礼した
「あの、ハナコさん」
「先生も」
「状況が落ち着きましたら、その時はぜひ、ゆっくりお話しましょう。」
「ふふっそうですね。」
「楽しみにしてますよ、マリーちゃん。」
「"私も落ち着いたら必ず顔を出すね。"」
「はい!」
嬉しそうに頷くマリー
そしてサクラコとマリーの二人は、静かに会議室を後にした
【ガチャ】
扉が閉まる音が響く
広かった会議室は、私とハナコだけになった
先ほどまで賑やかだった部屋が、不思議なくらい静かに感じられる
ハナコが一つ、大きく息を吐いた
「ふぅ・・・」
「アズサちゃんの書類も、これで何とかなりましたね。」
その声音には、隠しきれない安堵が滲んでいた
「"そうだね。お疲れ様ハナコ。"」
「はい、先生の方こそお疲れ様です。」
ハナコは小さく笑う
「ですがまだ、色々と残っていますね・・・」
その笑みは直ぐに少しだけ曇った
「"そうだね・・・"」
私は静かに頷いた
アズサの件は、一つ区切りがついた
正式にトリニティの生徒となり、補習授業部も全員が試験に合格した
それだけを見れば、今回の一件は丸く収まったと言っていい
けれど
("まだ終わっていない・・・。")
胸の奥に、小さな引っ掛かりが残っていた
私はその違和感を振り払うように、小さく息を吐く
「"結局あの第二次特別試験の試験会場に仕掛けられた爆弾はナギサじゃなかった。"」
ハナコも静かに頷く
「そうですね・・・」
「"私の方でも伝手を辿ってヒナに連絡を取ってみたんだけど"」
「"ゲヘナの方でも、あの爆弾を仕掛けた犯人を今、血眼になって探しているそうなんだ。"」
「ゲヘナの方でも・・・ですか。」
少しだけ驚いたようにハナコが目を瞬かせる
「"うん。"」
「"流石のゲヘナでも、あの規模の爆発は生徒が死にかねなかったからね。"」
「"だから、本気で探しているみたい。"」
ヒナの声を思い出す
普段通り冷静ではあった
けれど、その言葉の端々からは、決して逃すつもりはないという意思が伝わってきた
あれは風紀委員長としての立場だけではない、ゲヘナ生としての顔だった
それにもちろん、キヴォトスの教師として見ても、放置できる事件ではない
「それに。」
私は苦笑しながら続ける
「"温泉開発部の方もその爆弾の犯人を捜しているようでね。"」
「"温泉開発部の部長から、私宛に。"」
「"【犯人を見つけたら絶対に教えてくれ】って連絡が来たよ。"」
「・・・・・・。」
ハナコが一瞬だけ黙る
それから、何とも言えない表情でこちらを見た
「・・・巻き込まれた私達が言うのも変ですが、」
「爆弾を仕掛けた方は無事に済むのですか・・・?」
「"・・・・・・。"」
私は思わず言葉を失う
脳裏に浮かぶのは、通信越しのカスミの声
普段の飄々とした調子は影を潜め
珍しく、本気で怒っていた
("あのカスミが、あそこまで怒るなんて・・・。")
正直、犯人が見つかった時、一番心配になるのは犯人の身の安全かもしれない
「"まぁ・・・"」
私は苦笑しながら肩を竦めた
「"犯人が見つかったら私も絶対に付き添うようにするから多分大丈夫・・・"」
「・・・多分。」
ハナコも苦笑する
「先生がそこまで言うという事は・・・。」
「かなり怒っていらっしゃるのですね。」
「"うん・・・。"」
「"出来れば、穏便に済ませたいかな・・・。"」
そんな他愛もないやり取りに、お互い少しだけ笑みが零れる
事件は終わっていない
問題も、まだ山積みだ
それでも
こうして笑い合える時間が戻ってきた事が、少しだけ嬉しかった
ふと、何かを思い出したように、ハナコがこちらを見る
「あ、そう言えば、この前、ナギサさんがヒフミちゃんとあったそうですよ。」
「"え?ナギサが?"」
思わず聞き返す
あのナギサが、自分から
それは私にとっても初耳だった
「私もヒフミちゃんから聞いただけですが・・・」
ハナコは思い出すように視線を少し上へ向けた
「あの日の事を謝ってくださったそうです。」
「ですが。」
「ヒフミちゃんが笑った瞬間に、何やら発作のようなものを起こされたとか・・・。」
「"・・・やっぱり出来るだけ早くにナギサに会いに行くよ・・・"」
私がそう呟くと
ハナコも静かに頷いた
「うーん・・・」
「誤解はもう解けたのですが。」
「私達も爆破事件の犯人がナギサさんだと思い込んでしまって・・・。」
「少し、やり過ぎてしまったみたいですね・・・。」
その声音には、少しだけ自責の色が滲んでいた
「それに。ナギサさんは、補習授業部のみんな一人一人に会って。」
「直接、謝ってくださったそうです。」
「渋々・・・という感じではありましたけど。」
「私にも謝ってくださいました。」
「酷い事をしてしまった・・・と。」
会議室に、静かな沈黙が落ちる
「一応、疑心暗鬼の闇からは、抜け出せつつあると思います。」
「"・・・何か、私に出来る事をしないと・・・"」
そう口にしてから
私はもう一人の顔を思い浮かべる
鉄格子の向こう側で、一人きりになっている少女を
「"それに、もちろんミカも。"」
「・・・・・・。」
ハナコの表情から笑みが消える
「ミカさん・・・。」
静かに、その名前を繰り返した
「先生は・・・。」
「ミカさんの動機について、どう思いますか?」
私はすぐには答えられなかった
("・・・・・・。")
本当の理由を、私は知っている
少なくとも私が知っている未来では
ミカは最初からゲヘナを壊そうとしていた訳じゃない
全部が全部、悪意から始まった訳でもない
けれどそれを今ここで話す事は出来ない
まだ、出来ない
「私には・・・」
ハナコはゆっくりと言葉を続ける
「【ゲヘナが嫌い】という理由だけで、」
「あの事件を起こしたとは到底思えないのです。」
私は小さく息を吐く
「"・・・・・・"」
答えない
いや、答えられない
「ですが、今の所顛末はこういった形になるしかなさそうです。」
「ゲヘナの事が嫌いだったミカさんが、ホストになる為にティーパーティーを襲おうとした。」
「襲撃を指示したのはミカさん、実行したのはアリウススクワッド。」
「そして最終的にセイアちゃんが居た部屋を爆破したのはアズサちゃん。」
「各々に、違う理由と目的があり・・・」
「その行動の結果が次から次へと連鎖し、誤解と不信が混ざり合い、今ここに辿り着いた・・・」
「これが結論なのでしょうか・・・」
「"ハナコ・・・"」
私は静かに口を開く
「"例えば・・・」
「"そう、例えばだよ。"」
ハナコが不思議そうに首を傾げる
「"ミカも最初は・・・"」
私は少しだけ言葉を選ぶ
("ここまでなら・・・。")
("これくらいなら、未来を知っているなんて思われない。")
「"ただ、セイアを驚かせようと思っただけ・・・だった。とか"」
ハナコは一瞬だけ目を瞬かせる
「・・・先生?」
「急に、何を・・・?」
「仮定の話だとしても、かなり極端な例えに思えますが・・・」
そう言いながらも
ハナコは真剣に考え始める
すぐに否定しないところが、彼女らしい
「えっと、一応考えてみますと・・・」
少しだけ視線を伏せる
「ミカさんの性格を考えるに・・・」
「実際のところはさておき、ミカさんは政治に向かないと言われるくらい、」
「傍から見るとあまり計算などをせずに行動するタイプです。」
私は黙って耳を傾ける
「それで、毎日のように難しい話をして。」
「嫌味ばかり言ってくるセイアちゃんへ。」
「少しくらい仕返しをしてやろう、と考えた・・・。」
「そこまでは、まぁ。」
「ミカさんなら無くはないかもしれません。」
ハナコは苦笑する
「ですが。」
その笑みはすぐに消えた
「そこからアリウスと繋がるのは・・・。」
「流石に飛躍し過ぎています。」
「恣意的と言いますか・・・。」
「どうしても、そこだけ不自然なんです。」
私は小さく頷いた
「"・・・うん。"」
「"そうかもしれないね。"」
あっさりと引き下がった私に
今度はハナコの方が少し驚いたようだった
「・・・先生?」
「そんなに簡単に納得されるんですね?」
私は小さく笑う
「"じゃあ・・・もう一つだけ。"」
「"これも例えば、だよ。"」
「"ミカは本当に。"」
「"ただ、アリウスと仲直りしたかっただけだった。・・・とかね。"」
ハナコの瞳が、僅かに揺れる
先ほどよりも
今度の仮定の方が、ずっと現実味を帯びて聞こえたのだろう
「仲直り・・・。」
「する事が、本当の目的で・・・。」
「その気持ちを、誰かに利用された・・・。」
ハナコはそこまで口にしてから
ゆっくりと私を見る
「・・・いえ」
小さく首を振る
「先生がおっしゃりたいのは。」
「そういう事ではありませんね。」
私は何も答えない
ハナコは静かに微笑んだ
「私達には。」
「ミカさんの本心を、本当の意味で知る事なんて出来ない。」
「・・・そういう事ですか?」
私は少しだけ視線を落とし、静かに頷いた
胸の奥で、一つだけ思い浮かぶ言葉があった
何度も、何度も考え続けてきた問い
「【楽園に辿り着きし者の真実を証明する事は出来るのか】・・・」
その言葉に、ハナコも僅かに表情を引き締める
「五つ目の・・・」
「楽園に辿り着いたものは、楽園の外で観測される事がない。」
「存在する事を観測できない・・・楽園存在証明に関するパラドックス・・・」
私は小さく息を吐いた
「"証明出来ないものをどう証明するのか。"」
「・・・・・・」
ハナコは少しだけ目を伏せ
そして、ゆっくりと言葉を選ぶように口を開いた
「・・・もし他者の本心なんて物に辿り着いたら・・・それはもう、他人ではありません。」
「たどり着けないなら、やはり本心など分かっていないという事で・・・」
「楽園も、誰かの本心も一緒・・・そういうお話ですか?」
私は静かに頷く
「"誰かの本心を、本当の意味で証明する事なんて出来ない。"」
「"私達に見えるのは、その人の行動や言葉だけ。"」
「"その奥にある理由は・・・結局、本人にしか分からない。"」
「確かに・・・そうかもしれませんね。」
ハナコは小さく微笑みながらも、その瞳にはどこか寂しさが宿っていた
「私達は誰かの心に直接触れる方法も、その真実を証明する術も持ってはいません。」
「
「不可能なのでしょうか。」
「他者の本心を理解する方法は、ないのでしょうか・・・。」
私は少しだけ考え
静かに答える
「"・・・私達には出来ないんだろうね"」
「"それはきっと、人間には不可能な証明・・・"」
未来を知っていても
何百回繰り返しても
結局、私は誰かの心の内だけは最後まで断言出来なかった
だからこそ――
「"だとすれば、もう私達人間は信じるしかないのかもしれないね。"」
「"そこには楽園があるって。"」
「・・・・・・」
ハナコはゆっくりと目を閉じる
その言葉を、胸の中へ落としていくように
「そう、ですね。」
「考えてみれば、先生は最初からそうでしたね。」
「この疑惑と疑念で満ち溢れたお話の、初めからずっと――」
「ミカさんやナギサさんを含め、先生は生徒達を疑わない・・・」
「そういう事ですか?」
「・・・たとえその結果として、誰かに裏切られても?」
私は少しだけ笑った
「"その時はきっと、何か事情があるに違いないからね。"」
「・・・・・・」
ハナコは私を見つめる
どこか呆れたような
それでいて、少しだけ嬉しそうにも見える表情だった
「どうして・・・先生はどうして、そんなに・・・」
私は少しだけ考えて、すぐに答えた
「"先生が生徒を信じないと何も始まらないからね。"」
私は静かに笑い
「"だからね、このエデン条約が終わったら"」
「"ミカにも、ナギサにも、必ずもう一度会いに行こうと思う。"」
「そうですね・・・すべてが片付いたら、皆でもう一度・・・」
「どうなるかは分からずとも、私達はお互いに手を伸ばして努力するしかありません。」
「そういう事ですよね。」
「"それがきっと、私達に出来る唯一の事だから・・・"」
「・・・はい、そうですね。」
しばらくの間、誰も言葉を発しなかった
静かな沈黙だけが、シスターフッドの会議室を優しく包んでいた
と!
いう事で!
完全にエデン条約二章完走です!
この後は閑話で夏イベ系列と、
時系列的に入っていないとおかしいお話を何個かぶち込んでから、
エデン条約三章に突入したいと思います!
エデン条約三章までは、先生オンリーのお話ですが!
エデン条約三章の締めくらいにはおっさんが復活すると思います!
この後の閑話で、バニーチェイサーを入れようかと思っています。
最終、囧に最終章で戦ってもらうので、ここいらで出ておいてもらわないと、
何やお前!になりかねませんからね()
ちなみにイベントのお話はアンラ視点で始まります。
あともう一個言うと、アンラはブルアカの原作ストーリーは知っています。
具体的に言うと、終章終わってデカグラマトン編くらいまでは履修済みです。
ですが、イベントストーリーに関しては一切知りません。
なのでイベント編で出てくるアンラは普段のストーリーアンラと比べて、
ちょっとはっちゃけてると言うか、普段はセーブしていた所でアクセルべた踏みしてます。
なんせ、未来に影響しないんで。
あ、後、デカグラマトンもここいらでちょろっと出てくると思います。
いい加減アリスを追って来た釣り銭AIについても触れないといけませんしね!
わ、わぁ書く事イッパイダァ囧
まぁなのでちょっとエデン条約三章に入るのはしばし期間が空くと思います
~今日のセイア~
今日もセイア様は祈願屋で事務仕事です。
先日、ずっと留守にしていた、普段ローブを着ている男性の同僚さんも出張が終わったのか、
事務作業に参加しており、普段の2、3倍で、業務が進んでいます。
ん・・・?
事務所の扉がノックされましたね。
あ、普段ローブを着ている同僚さんが開けようとした所、
セイア様が腕をつかんで止めています。
どうしたのでしょうか・・・?
うわっ!、扉が吹き飛びました。
え・・・扉の向こうから、看護師の帽子をかぶり、ライオットシールドを構えた人物・・・
ミネ団長、ミネ団長が扉を吹き飛ばして入室してきました。
凄い形相でセイア様を睨んでいます。
あ、セイア様が窓から逃げようと走りました。
男性の同僚さんがセイア様の首根っこを掴んで捕まえました。
今のセイア様は、ユメ社長のしごきに耐え、俊敏性だけやたらと上がったのに、
簡単に捕まえるとは、この同僚さんもすさまじいです。
うわっ・・・すごいセイア様が暴れてます
蹴りに殴りにと・・・ユメ社長に摑まった時はここまでじゃなかったのに、
セイア様同僚さんには遠慮がないんですね・・・
暴れながらも無視して同僚さんがミネ団長の所に連れてきましたね・・・
えっと・・・?
治療途中で置手紙だけ残して突然居なくなった・・・?
え・・・?セイア様、そんな事してたんですか・・・?
あ、セイア様が顔を背けてます・・・
えっと・・・?
あー・・・治療が終わったら事が終わるまで、軟禁されるから、
飛び出して来た・・・と・・・
凄い、ミネ団長のお顔に青筋が・・・
それにしても、ミネ団長はよくセイア様が祈願屋に居る事がわかりましたね・・・?
あ、なるほど・・・
同僚さんの出張先がトリニティだったので、ついでにミネ団長に知らせていたんですね。
あ、凄いです。セイア様がお嬢様がしていいお顔じゃないお顔で同僚さんを睨みつけてます。
まるでヤ〇ザです。
あ、その睨んでいるセイア様を同じくいい所のお嬢様がしていい形相ではないお顔でミネ団長が睨んでいます・・・
あ、そのままセイア様を受け取りました・・・
どうやら三階のセイア様の自室に連れていかれるようです。
あぁ・・・なにやらセイア様が暴れてる音が聞こえます・・・
セイア様も居なくなったので、今日はここまでにしておこうかと思います!
本日までのロールケーキ消費本数:72本
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