おっさんキヴォトスに行く 作:無い頭のおっさん
おっさん豪華客船に乗る
先生のおもりが一旦終わり、
以前から問題視していた事を解決する為に今おっさんが動いていた
それは
ゲーム開発部のジャンクフード漬け対策である
「と、言うわけでお前らのハンバーガーしか食わない所を矯正する為に、」
「やってきました豪華客船ゴールデンフリース号。」
普段のローブ姿と違い、スーツを着たおっさんこと、七篠アンラが居た
「ホンマ、ここのチケットを取るのはクッソ苦労したぞ。」
「知り合いのワンパクフォックスの伝手を使ってやっと手に入れたからな。」
そして、おっさんの前にはそれぞれのイメージカラーにあわせて、
オーダーメイドで作られた比較的カジュアルなドレスで着飾っているゲーム開発部の子達が居た
「うぇー・・・私、こんな豪華な所でごはんなんて食べたくない・・・」
「でも、お姉ちゃん、こんな豪華なお船、ゲームの材料とかにもなるよ?」
「せやぞー、基本写真はカジノ客以外は撮ってええらしいからな。」
「ほらユズも。」
「・・・あぅ。」
ユズは船体を見上げたまま、小さく息を呑む
真っ白な船体は陽の光を受けて眩しく輝き、何階建てなのかも一目では分からない
港へ横付けされたその姿は、もはや船というより一つの街だった
「・・・大きい。」
「ゲームのラスボスステージ、みたい・・・。」
「やろ?」
おっさんは満足そうに頷く
「こういうスケール感っていうんは、自分の目で見とかんと中々想像出来へんからな。」
「ゲーム作るなら、本物を見るんも勉強や。」
「確かに!」
モモイの目がきらりと光る
「甲板でボス戦とか絶対映えるじゃん!」
「その後、船が沈み始めてタイムリミットイベント。」
ミドリが真面目な顔で付け足す
「ラスボスが逃げる演出も出来そう。」
「いや、実際に沈めんなよ?」
即座にツッコミが飛ぶ
「おっさん苦労してチケット取ったんやぞ。」
「沈めるならゲームの中だけにしといてくれよ?」
「えへへ。」
モモイが笑う
「安心して、アンラさん。」
「リアルではやらないよ!」
「当たり前や。」
「そこ安心させる所ちゃうねん。」
そんなやり取りをしていると
バニー姿の学生が穏やかな笑みを浮かべながら近付いてきた
「本日はゴールデンフリース号へようこそ。」
「乗船証を確認させていただいてもよろしいでしょうか。」
「あいよ。」
おっさんは懐からSと書かれた五人分の乗船証を取り出す
乗務員は一枚ずつ丁寧に確認した瞬間一瞬瞠目する
「っ!、確認いたしました。」
「皆様のご乗船を心より歓迎いたします。」
「では、お部屋までご案内いたします。」
案内役の生徒が丁寧に一礼すると、そのまま五人を先導し始めた
「うわぁ・・・」
モモイは歩きながら辺りを見回す
ロビーだけでも、まるで高級ホテルそのものだ
吹き抜けの天井には巨大なシャンデリア
磨き上げられた大理石の床
壁一面に飾られた絵画
中央ではグランドピアノが静かな音色を奏でている
「これ全部、船の中なんだよね・・・?」
「せや。」
「まだ入口や。」
「・・・。」
「入口?」
モモイの動きが止まる
「これで?」
「せや。まだロビー。」
「えぇ・・・。」
今度はミドリまで固まった
「ゲームだったら、もうラスボスの城だよ・・・。」
「いや、流石に言い過ぎやろ。」
そう言いながらも、おっさんも内心では同じ事を思っていた
(・・・いや、思った以上やな。)
案内役に続き、一行はエレベーターへ乗り込む
静かに扉が閉まり、表示が上へ上へと上がっていく
「・・・。」
ユズが数字を見上げる
「上・・・。」
「まだ上がる・・・。」
「最上階まで行くみたいやな。」
おっさんも表示を見つめる
「・・・なんで?」
モモイが小さく呟く
「普通、お客さんって途中じゃないの?」
「おっさんに聞くな。」
「おっさんも初めて来た。」
その返事に四人が揃っておっさんを見る
「「「「えぇ・・・。」」」」
やがて
【チン】
軽い音と共に扉が開いた
そこには一般客室とは明らかに違う、静かな専用フロアが広がっていた
客室は数えるほどしかなく
廊下は広く
窓からは一面の海が見える
案内役は迷う事なく、一番奥の扉の前で立ち止まった
カードキーをかざすと静かに鍵が開く
「こちらがお客様のお部屋になります。」
扉が開かれた瞬間
「「・・・・・・。」」
誰も動かなかった
広い
そんな一言では到底足りない
リビングだけで部室が丸ごと入ってしまいそうな広さ
巨大なソファ
長いダイニングテーブル
海を一望できる大きな窓
さらに奥には複数の寝室まで見えている
「・・・・・・。」
モモイがゆっくり振り返る
「アンラさん。」
「ん?」
「私達を、何処に連れて来たの?」
「・・・」
おっさんも部屋を見回す
「おっさんも今、それ思っとる。」
「いや、聞いてた話と大分違うぞ・・・?」
「これ部屋じゃないよね。」
ミドリが真顔で言う
「お屋敷だよね。」
「ホテル一室の広さじゃない・・・」
「・・・・・・。」
ユズは入口から一歩も動かない
「処理能力・・・追いつかない・・・」
「こんな背景・・・容量足りない・・・」
「だからゲーム基準やめぇ。」
おっさんが思わず突っ込む
「まぁ、ぶっちゃけおっさんもだいぶ引いとるんやけどな・・・」
その一方で
「わぁ・・・!」
アリスだけは瞳を輝かせていた
窓際まで駆け寄り
海を眺め、ソファを触り
部屋の中を嬉しそうに歩き回る
「お父さん!」
「ん?」
「ゲームのお城みたいです!」
「このお部屋、イベント専用マップみたいです!」
「隠し通路がありそうです!」
「宝箱もありそうです!」
「夜になるとボスが出てきそうです!」
「出てこん出てこん。」
おっさんは苦笑した
「普通に寝る部屋や。」
「残念です。」
「残念なんかい。」
そんなやり取りを見て、案内役の生徒が小さく微笑む
「皆様が驚かれるのも無理はございません。」
「こちらはロイヤルスイートルームとなります。」
「・・・。」
五人揃って固まる
「ロイヤル・・・?」
モモイが聞き返す
「はい。」
案内役は丁寧に頷いた
「皆様がお持ちの乗船証は、最上位であるS等級の乗船証となっております。」
「S等級のお客様は、こちらのロイヤルスイートをご利用いただく規定となっております。」
「いやいやいや。」
おっさんが思わず手を上げる
「おっさん、そんな凄いもん貰った覚えないんやけど?」
案内役は不思議そうに首を傾げる
「こちらの乗船証には、S等級、つまりはロイヤルスイートルームのご利用権の他」
「船内全施設の無料利用権が付与されております。」
「さらに、S等級のお客様は船内における最高権限を有しており、」
「船内でのあらゆる判断は、S等級のお客様が最優先となります。」
「また、この乗船証は返却不要でございます。」
「お客様がお持ちいただいている限り、次回以降も何度でもご利用いただけます。」
「・・・・・・・・・。」
沈黙
「アンラさん。」
ミドリが静かに振り返る
「この乗船券くれた人って・・・」
「どんな知り合いなの?」
「・・・・・・」
おっさんは遠い目をした
「アイツ・・・」
「『ちょっと実家から融通を利かせてもらった』言うて渡してきよったけど・・・」
乗船証をもう一度見つめる
金色に輝く【S】の文字
(・・・これ、融通でどうにかなるレベルちゃうやろ。)
思わず額を押さえる
「帰ったら、一回ちゃんと問い詰めたる・・・」
「それでは、ごゆっくりお寛ぎくださいませ。」
案内役の生徒は深々と一礼すると、静かに部屋を後にした
【カチャン】
扉が閉まる
「・・・・・・。」
しばらく誰も喋らない
静かだ
船の揺れすらほとんど感じない
「・・・。」
モモイがソファへ腰を下ろす
「柔らかっ!」
そのまま身体が沈み込む
「これダメだ。」
「立てなくなるやつ。」
「ほんまやな。」
おっさんも反対側へ腰掛ける
「・・・なんやこれ。」
「ソファというより雲や。」
ミドリも恐る恐る座る
「ふわふわ・・・」
「これ、部室にも欲しい・・・」
「買えたとしてもこないデカイの置けるとこないやろビーズクッションで我慢せぇ」
即座にツッコミが入る
ユズは窓際まで歩き
大きなガラス越しに海を見つめる
「・・・静か。」
「こんなに人がいるのに・・・」
「船の中って感じ、しない・・・」
一方アリスは部屋中を探検していた
「お父さん!」
「ん?」
「こちらのお部屋にもお部屋があります!」
「寝室やな。」
「こちらにも!」
「それも寝室。」
「こちらも!」
「せやから全部寝室や。」
「すごいです!」
「パーティー全員が泊まれます!」
「その為の部屋やからな。」
おっさんは笑った
その様子を見ていたモモイも少し肩の力を抜く
「なんかさ。」
「最初は緊張してたけど、ちょっと慣れてきた。」
「それでええんや。」
おっさんは立ち上がる
「ほな。部屋でのんびりするんはこれくらいにして。」
スマホの時計を見る
「昼飯までまだ時間ある。」
「船ん中、探検しに行こか。」
「「「「はーい!」」」」
部屋を出ると
船内は相変わらず賑わっていた
学生達が思い思いに休日を楽しんでいる
「あ。」
モモイが案内図を見つける
「アンラさん!」
「地図ある!」
「ほー?」
おっさんも歩み寄る
「まずは・・・」
船内案内図を眺める
「カフェ。」
「高級レストラン。」
「温泉。」
「娯楽室。」
「カジノ。」
「あと劇場やショップなんかもあるみたいやな。」
「全部回る?」
ミドリが目を輝かせる
「全部は流石に今日だけじゃ無理やな。」
「今日は雰囲気だけ見て回ろかー」
「うん!」
まず訪れたのはカフェだった
甘い焼き菓子の香り
窓際では学生達がお茶を楽しんでいる
「かわいい・・・」
ミドリが思わず呟く
「こういう背景好き。」
「ゲームでも休憩ポイントって落ち着くもんね。」
モモイも頷く
「BGMも穏やかな感じにしたい。」
ユズはメニューを眺める
「飲み物だけで・・・こんなにある・・・」
「全部覚えられない・・・」
続いて娯楽室
ビリヤード
ダーツ
ボードゲーム
読書スペース
「ゲームある!」
モモイが真っ先に反応する
「いや。」
おっさんが笑う
「今日はゲームちゃうやろ。」
「ゲーム作る勉強の日や。」
「うっ・・・」
「正論。」
さらに温泉
湯気が漂い
落ち着いた百鬼夜行風の造りになっている
「後で入りたい・・・」
ユズがぼそり
「ええな。」
「夜飯食った後にでも来よか。」
「うん・・・」
ユズが少しだけ笑った
最後に
船内でも一際賑わっている場所へ辿り着く
大きな看板
【CASINO】
「おぉ・・・」
モモイが目を丸くする
「あれ?学生しかいないのに普通にカジノなんだ。」
「私達が作った時はあんなに怒られたのに・・・」
「この船はこの自治区でも特殊やからなぁ・・・」
おっさんは苦笑した
「ちなみに、ホンマにお金賭けてやっとるさかい、」
「遊ぶくらいならええけど、ハマんなよ?」
「へぇー」
四人が中を覗く
ルーレット
カードゲーム
スロット
学生達が何処か必死そうに遊んでいる
「アンラさん。」
ミドリが小声になる
「なんかここ全体凄い真剣。」
「あぁ。」
おっさんも頷く
「ここで勝ち続けると。」
「乗船証のランクアップ挑戦権が貰えるらしんよな。」
「つまり。」
モモイが目を輝かせる
「レアアイテム集め?」
「まぁそんなもんや。」
「BからA。」
「AからS。」
「そこ目指して皆頑張っとる。」
「なるほど・・・」
ユズも静かに頷く
すると、近くを歩いていると学生達の会話が聞こえてくる
「うあぁああああーなんでー!!」
「あと少しでA等級だったのにー!」
「もう一回挑戦する!」
「資金は潤沢なんです!絶対S取るんですから!」
「S等級って都市伝説じゃないの?」
そんな声が聞こえてきた
モモイ達は自然と顔を見合わせる
そして
全員の視線がおっさんのポケットへ向く
そこには金色の【S】が刻まれた乗船証
「・・・」
「・・・」
「アンラさん。」
モモイが小声で囁く
「これ。見せちゃダメなやつ?」
「絶対アカン。」
おっさんは即答した
「今ここで見せたら。」
「質問攻め確定や。」
「だから秘密。」
四人は同時に頷く
「了解。」
「秘密。」
「隠す。」
「アリスも秘密にします!」
「えらい。」
おっさんは満足そうに頷いた
「ほな。」
スマホの時計を見る
「ちょうど昼や。そろそろ今回の目的。」
「ジャンクフード矯正講座のお時間や。」
四人が同時に首を傾げる
「「「「講座?」」」」
「せや。」
おっさんは悪戯っぽく笑う
「今日はお前らに。」
「『本物のコース料理』っちゅうもんを体験してもらう。」
案内された先は、船内中央に位置するメインダイニング
重厚な両開きの扉が静かに開かれる
中へ一歩踏み入れた瞬間――
「・・・・・・。」
誰も喋らなくなった
天井から吊るされた巨大なシャンデリア
磨き抜かれた大理石の床
大きな窓から差し込む陽光が、海を一枚の絵画のように照らしている
落ち着いたピアノの生演奏
ゆっくりと談笑する乗客達
そして、テーブルへ整然と並べられた銀食器
「・・・・・・」
モモイが固まる
「・・・・・・」
ミドリも固まる
「・・・・・・」
ユズは入口で完全に停止した
おっさんはそんな固まった皆を見て苦笑いを浮かべていた
「アンラさん。」
ミドリが小さな声で尋ねる
「ここって・・・。」
「本当に、ご飯食べる場所ですか・・・?」
「せやで。」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
返事が返ってこない
「いやほら、食器置いてあるやん。」
おっさんが苦笑する
「飯食う場所や。見たら分かるやろ。」
「分からないよ!!」
モモイが小声で叫ぶ
「だってこれ絶対イベント会場じゃん!」
「ボス倒した後に王様が出てきて祝勝会する場所じゃん!」
「ご飯食べる場所じゃないよ!」
「ゲーム脳が過ぎるわ。」
即座にツッコミが飛ぶ
ユズはというと
「・・・・・・」
まだ入口で固まっていた
「ユズ?」
「・・・・・・」
「ユズ?」
「帰りたい・・・」
「まだ入ってすらないやろ。」
「だって・・・」
ユズは視線だけを店内へ向ける
「床、ピカピカ・・・」
「歩くだけで怒られそう・・・」
「怒られへん怒られへん。」
「椅子座るだけで五万円くらい請求されそう・・・。」
「されへん。」
「水飲んだら十万。」
「それはもうぼったくりバーやねん。」
ミドリも静かに頷く
「私も。」
「ナイフとフォークいっぱいある店は・・・。」
「何を使えばいいのか分からない。」
「間違えたら追い出されそう。」
「そんなルール無い。」
「あります。」
「無い。」
「ある。」
「無い。」
「あります。」
「何でそこだけ自信満々やねん。」
おっさんが頭を抱える
その隣では
「わぁ・・・!」
アリスだけが目を輝かせていた
「お父さん!」
「ゲームのお城です!」
「すごいです!」
「テーブルもピカピカです!」
「シャンデリアがあります!」
「あの窓から海が見えます!」
「NPCの皆さんも、とても幸せそうです!」
「せやな。」
おっさんはようやく一人だけ正常(?)な反応を見つけて安心したように笑う
「アリスは楽しそうやな。」
「はい!」
「ゲームのエンディング会場みたいです!」
「ここでラスボスを倒した後。」
「みんなで祝賀会をします!」
「だから何で皆ゲームにするねん。」
「えへへ。」
その笑顔だけは、本当に嬉しそうだった
そのままアリスは嬉しそうにメニューを眺めていた
「お父さん。」
「今日は全部、おいしそうです。」
「せやろ。」
「それに、見たら分かるが、普通の服の人ばっかやろ?」
「こういう所の昼は結構気楽な所が多いねん。」
「せやから今は。」
おっさんは四人へ笑いかける
「ハンバーガーの事は忘れて。」
「ゆっくり世界一贅沢な昼飯、楽しもか。」
「「「は、はい・・・。」」」
「はい!」
返事だけはしたものの
「・・・」
「・・・」
「・・・」
モモイ、ミドリ、ユズの三人は、席へ着いてからというもの背筋がぴんと伸びたままだった
テーブルクロスは真っ白
銀色に磨き上げられたカトラリーが左右へ何本も並び、グラスも大小様々な物が置かれている
「・・・」
モモイは恐る恐るフォークを見つめる
「ねぇ・・・」
「これ。どれから使うの・・・?」
「知らない・・・」
ミドリも小さく首を振る
「全部同じフォークにしか見えない。」
「・・・」
ユズは更に固まっていた
「間違えたら・・・ゲームオーバー・・・?」
「ゲームちゃうねん。」
おっさんが苦笑する
「そんな一発アウトみたいなルール無いわ。」
「でも!」
モモイが身を乗り出す
「こういう所ってマナー間違えたら追い出されたりしない!?」
「せぇへん。」
「ほんと?」
「ほんま。」
そう言うと、おっさんは何でもない様子で椅子へ腰掛けた
背筋は自然に伸び
椅子へ深くもたれ掛かる事もなく
動作一つ一つに無駄が無い
それは気取っているのではなく、身体へ染み付いている所作だった
その様子を見ていたモモイが首を傾げる
「アンラさん。」
「何でそんな普通なの?」
「ん?」
「いやいやいや!【ん?】じゃないよ!」
「こんなの私達からしたらイベントボス戦だよ!?」
「アンラさんだけチュートリアル終わってるじゃん!」
「はは、まぁな。」
おっさんは苦笑した
「昔、こういう所よう出入りしとったから。」
「え?」
三人が揃って顔を上げる
「遥か昔にな、王女様の近衛兵やっとった時期があって。」
「貴族絡みの晩餐会やら夜会やら。」
「護衛兼出席者みたいな立場で、嫌っちゅうほど参加させられたんよ。」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
沈黙
「え?」
モモイだけが間の抜けた声を出した
「今さらっと凄い事言わなかった?」
「はは、そうか?」
「えぇ・・・」
ミドリも驚きを隠せない
「だからテーブルマナーも・・・」
「全部分かる。」
「フォーク使う順番も。」
「ナイフの持ち方も。」
「食べ方も。」
「全部教え込まれた。」
「ほぇぇ・・・」
モモイは素直に感心する
「アンラさんって何者なの・・・」
「今はただのおっさんや。」
「「「そこじゃない!」」」
思わず全員が突っ込む
その様子に、おっさんは肩を揺らして笑った
「まぁ安心せぇ。」
「今日ここへ来たんは、飯食いに来たんやなくて勉強しに来たようなもんや。」
「分からん事あったら全部おっさん見とけばええ。」
「おっさんが先にやる。」
「お前さんらは真似したらええ。」
「それだけで十分や。」
その一言だけで三人の表情から、少しだけ緊張が抜ける
「それと。」
おっさんは店内を見回した
「さっきも言ったが、昼は比較的カジュアルや。」
「制服でも私服でも入れる。」
「せやけど。」
少しだけ口角を上げる
「今、ここで慣れとかんと。」
「夜、泣くで?」
「・・・え?」
モモイが固まる
「夜はドレスコードある。」
「フォーマル限定。」
「夜用のドレス着て、もう一回来る予定や。」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
ゲーム開発部三人の思考が止まる
「もう一回来るの?」
「来る。」
「夜も?」
「夜も。」
「この空気の中?」
「もっと別の空気になっとるやろうけど、せやな。」
「無理ぃぃぃぃぃ!!」
モモイが頭を抱えた
「私もう胃が痛い!」
「だから昼のうちに慣れるんや。」
おっさんは涼しい顔でメニューを開く
「昼は練習。」
「夜が本番。」
「鬼ぃ・・・」
ミドリがぽつりと呟く
「教育係としては正しい。」
「でも鬼。」
「だから最初に言うたやろ。」
おっさんは笑う
「今日は【知らん世界を知る日】やって。」
おっさんはメニューを一通り眺めると、小さく頷いた
「よし。今は初心者向けのランチコースにしとこか。」
「初心者向けなんてあるの?」
モモイが目を丸くする
「あるで、テーブルマナーを気を付けながら食べ辛い料理なんか頼んでもしゃーないやろ?」
「せやから今は、テーブルマナーの練習も兼ねた、一番食べやすいコースや。」
「・・・なるほど。」
ミドリは納得したように頷く
「じゃあ今は練習。」
「そういう事や。」
おっさんは静かにスタッフへ注文を伝える
「こちらの、ランチコースを五名分。」
「かしこまりました。」
一礼したスタッフは静かに下がっていく
それから程なくして
カチャ
ワゴンを押したスタッフが戻ってきた
「失礼いたします。」
静かな声と共に、一皿ずつ丁寧に料理が置かれていく
真っ白な皿
中央に美しく盛り付けられた色鮮やかな前菜
宝石のように並べられた野菜
薄く切られた魚
小さく添えられたソース
「うわぁ・・・」
モモイが思わず身を乗り出す
「これ・・・食べ物?」
「芸術作品みたい・・・」
ユズも静かに見つめる
「・・・イベントCG。」
「だからゲームで例えんな。」
おっさんは苦笑しながらフォークへ手を伸ばした
「コース料理っちゅうんはな。」
「基本、前菜から始まる。」
「その後にスープ。」
「魚料理。」
「肉料理。」
「最後にデザート。」
「その順番に出てくる。」
「全部一気に出てこないんだ?」
モモイが驚く
「冷たいもんは冷たいうちに。」
「温かいもんは温かいうちに食う。」
「その為に、一皿ずつ運ばれてくるんや。」
「なるほど・・・」
ミドリは小さく頷く
「ゲームのステージみたいに順番に進んでいくんだ。」
「まぁそんな感じやな。」
おっさんは自然な所作でナプキンを膝へ広げる
「ほら。みんなも。」
四人は慌てて真似をする
ナプキンを広げ
二つ折りの状態で膝へ置く
フォークとナイフを見つめる
そして
「で、でも・・・」
モモイは恐る恐るフォークを手に取る
「あぁもう!」
「こうなったら覚悟決める!」
「いただきます!」
おっさんが小さく頷く
「よし。」
「外側のフォークから取って」
「一口だけ食ってみ。」
モモイは言われた通り、フォークでサラダと魚を刺し
恐る恐る口へ運び――
「・・・」
もぐ
「・・・・・・」
咀嚼する
次の瞬間だった
「・・・え?」
思わず声が漏れた
「え?」
「え?」
「え?」
他の三人まで反応する
「ど、どうしたのお姉ちゃん!?」
モモイは固まったまま
皿を見て
もう一度料理を見る
そしてもう一口
もぐ
「・・・・・・」
「お、おいしいぃぃぃ・・・」
力なく呟いた
「な、何これ・・・」
「サラダなのに。すっごく美味しい・・・」
「えぇ・・・」
ミドリも恐る恐る一口
「・・・・・・」
「!」
目が丸くなる
「・・・」
もう一口
「・・・」
更にもう一口
「ミドリ?」
モモイが呼ぶ
「・・・」
返事がない
ただ黙々と食べ続けている
「ミドリ!」
「・・・」
「・・・美味しい。」
一言だけだった
「これ、本当にサラダ・・・?」
「素材も下ごしらえも一級品やからな。」
おっさんもフォークを動かしながら答える
「高い飯っちゅうんは。」
「量やなくて、質に金かけるんや。」
「・・・」
ユズも小さく料理を口へ運ぶ
もぐ
「・・・」
静かに目を閉じた
「・・・」
数秒
「・・・ユズ?」
モモイが心配そうに覗き込む
「・・・」
ユズはゆっくり目を開き
ぽつりと呟いた
「HP。」
「全快した・・・」
「ゲームやないねん。」
思わずおっさんが笑う
「でも。」
ユズは真面目な顔だった
「ゲームならHP完全回復アイテム。」
「それくらい、おいしい。」
「それは分かる・・・」
ミドリも静かに頷く
「なんか、身体が喜んでる感じする。」
「やろ?」
おっさんは嬉しそうに笑う
「ジャンクフードが悪い訳やない。」
「たまに食う分には最高や。」
「せやけど。」
四人を見渡す
「毎日同じもんばっか食っとると。」
「舌が育たへん。」
「色んな味知っとった方が。」
「飯も人生も面白い。」
「ゲームも、や。」
その時だった
「お父さん。」
アリスが静かに手を挙げる
「ん?」
「アリス。」
嬉しそうに微笑む
「幸せです。」
その一言に
おっさんは少しだけ目を細めた
「そうか。」
「はい。」
「今まで食べた事のない味です。」
「でも、とても好きです。」
その笑顔を見て
モモイもミドリも自然と笑ってしまう
「・・・」
モモイはもう一度料理を見る
「アンラさん。」
「ん?」
「私、ちょっとだけ考え変わったかも。」
「ハンバーガーも好きだけど。」
「こういうのも、すっごく美味しい。」
「せやろ、世界は広いんや。」
おっさんはワイングラスではなく
キヴォトスらしくぶどうジュースの入ったグラスを軽く持ち上げる
「今日の目的は。」
「これを知ってもらう事や。」
四人もそれぞれグラスを手に取る
「いただきます。」
改めて小さく乾杯すると
先ほどまでテーブルマナーに怯えていたゲーム開発部の面々は、
いつの間にかそんなことも忘れ、それぞれ夢中になって料理を味わい始めていた
その様子を見ながら、おっさんは心の中で小さく笑う
(よし。)
(第一段階は成功やな。)
(まずは「ジャンクフード以外も美味い」って知ってもらう。)
(話は、それからやな。)
「・・・ごちそうさまでした。」
最後のデザートまで食べ終え
五人は満足そうに席を立つ
レストランを出た瞬間
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
四人が同時に立ち止まった
そして
「「「「めちゃくちゃ美味しかったぁぁぁ!!」」」」
ロビーへ元気な声が響く
「いや何あれ!」
モモイが興奮したまま両手を振り回す
「見た目あんな少ないのに!」
「最後にはちゃんとお腹いっぱいになってるし!」
「お肉も・・・」
ミドリは少し頬を押さえる
「ナイフ入れた瞬間に切れた。」
「柔らか過ぎ。」
「スープも・・・」
ユズがぽつりと呟く
「飲み物じゃなくて・・・」
「料理、だった。」
「あとデザート。」
アリスが目を輝かせる
「世界を救える甘さでした。」
「大袈裟やなぁ。」
おっさんは笑う
「でも、ハンバーガーだけやと知らん味、いっぱいあったやろ?」
四人は顔を見合わせ
「「「「うん!」」」」
迷いなく頷いた
その返事を聞いて、おっさんは満足そうに腕を組む
「ほな。」
「昼飯の目的は達成やな。」
「え?」
モモイが首を傾げる
「もう終わり?」
「いや。」
「飯以外にも色々見て回る。」
「せっかくのS等級や。」
「遊べるもんは遊ばんとな。」
その一言で
「カジノ!」
モモイの目が輝いた
「ねぇアンラさん!」
「ちょっとだけやってみたい!」
「私も。」
ミドリも珍しく興味を示す
「ゲームの参考になる。」
「・・・」
ユズも小さく頷いた
「見てみたい。」
アリスも元気よく手を挙げる
「お父さん!」
「アリスも挑戦したいです!」
「まぁ。」
おっさんは肩を竦める
「ちょっと遊ぶくらいならええやろ。」
懐から財布を取り出し
四人へ封筒を一つずつ手渡した
「ほい。」
「え?」
モモイが中を覗く
「えっ。」
「えぇっ!?」
「こんなに!?」
中にはカジノ専用のチップへ交換出来るクーポンが入っていた
「一人5万分。」
「勝っても負けてもそれ以上は無し。」
「無くなったら終わり。」
「増えた分は好きに持っといてええ。」
「うわぁぁ!」
「頑張る!」
「勝ってゲームいっぱい買う!」
「・・・」
ミドリは冷静に頷く
「ギャンブルの勉強。」
「・・・」
ユズは小さく拳を握る
「資料集め。」
「アリスも頑張ります!」
四人は元気よくカジノの方へ走っていった
「・・・」
おっさんは苦笑する
「まぁ。勝っても負けても経験や。」
「痛い目見るんも勉強やしな。」
それからしばらくして
おっさんは広いカジノを歩き回っていた
ポーカー
ブラックジャック
ルーレット
バカラ
船内とは思えないほど多くの学生達が、それぞれ思い思いに遊んでいる
(モモイは・・・)
ルーレット
「あぁぁぁ!また赤ぁ!」
「なんで黒じゃないのぉ!」
元気に叫んでいた
(あっちは。)
ミドリ
ブラックジャックのルールブックを真剣に読みながら、ディーラーへ質問している
(ユズ。)
隅の方でビンゴマシンのような小さなゲームを静かに遊んでいた
(全員楽しんどるな。)
そのまま歩いていると
聞き覚えのある声が耳へ届く
「アリスちゃん!」
「もう一回!」
「ほらほら!」
「回しちゃおー♪」
(ん?)
おっさんが視線を向ける
そこには巨大なスロットマシンの前で
目を輝かせながらレバーを引くアリス
その隣には長い髪を揺らしながら楽しそうに笑う少女
「そこだよー!」
「レバー!」
「はい!」
ガコン
リールが勢いよく回転する
「おぉーー!」
アリスが目を輝かせる
「あと一つで揃います!」
「いけいけー♪」
「・・・」
おっさんは少し離れた柱の陰で足を止めた
(・・・C&C、アスナやんけ。)
どうしてこんな場所におんねん
その疑問が真っ先に浮かぶ
(任務か?)
(いや。)
(わざわざここの連中の制服まで着てるし)
(遊びに来とるわけあらへんな。)
自然に周囲へ目を向ける
癖だった
護衛
監視
尾行
何百年も染み付いた習慣は簡単には抜けない
(・・・リオか?)
(アリスの監視でも頼んだんか?)
C&Cなら十分あり得る
そんな考えが頭を過る
だが
「やったぁ!」
「当たりです!」
「すごーい!」
「アリスちゃん運あるねぇ♪」
二人はまるで昔からの友達のように笑い合っていた
アスナも任務中とは思えないほど自然な笑顔だった
(・・・)
おっさんは数秒だけ眺め
ふっと小さく笑う
(まぁ、アリスが楽しそうやし。)
(今はええか。)
監視だろうが
偶然だろうが
少なくとも
今、アリスは心の底から笑っている
それだけで十分だった
おっさんは二人に気付かれないよう静かに踵を返し
再び他のゲーム開発部の様子を見に歩き始めた
さーて、船上のバニーチェイサー編前編!
次が後編だよ!
あ、そういや言い忘れてました!
今日のセイアは先生視点の時にのみ出てくるオマケ要素なのであしからず!
その代わりですが、
今回、おっさんにこのチケットを渡したセイアの内心をご説明!
おっさんには自身のわがままも含めて色々借りもあるので、
そういった頼み事は基本快諾してくれます。
ですが、前回あった、ミネにセイアの居所を密告した事と、
自身をロールケーキ漬けにした事は一切許していないので。
その意趣返しで、S等級の乗船券をかなり無茶をして取り寄せています。
それこそ自分が今は行方不明になっているのに、その上で気取られない様にと、した結果。
もう一度言います。かなり滅茶苦茶してます。
財力と権力ってこえぇ・・・っていう事ですね・・・
あ、ちなみにセイアの社宅にはミネが住み着いてます。
セイアの食生活を聞いた瞬間にぶちぎれて住み着きました。
あと、気付いた方も居られるかもしれませんが、
このお話から一応【白兎】は出て来てます。
ちなみに、このお船に皆を連れて行くのは、
パヴァーヌでゲーム開発部の子達に何を食べたいと聞くと、
毎回チーズバーガー言われて危機感覚えるって言ってたあれが伏線です。
先生と話してた高いレストラン連れて行って、っていうくだりですね。
実際に冗談ではなく、マジで連れてきました。
そして、おっさん視点の時にでてくるオマケ!
おっさんのプチ情報!
ぶっちゃけ滅茶苦茶久しぶり。
まぁ、今回は作中にも出てきた、アンラの過去に近衛兵をしたお話をしましょうか。
アンラはこのブルアカ世界とは別の世界で召喚された際、
まだ女王になっていないとある国の王女殿下に召喚された事がありました。
その子の要望は自身の国を守って欲しい。という物でした。
なのでアンラは条件を設定し5回だけ守るという事で、近衛騎士として雇われる事になりました。
そして王女殿下は魔術の才があり、アンラに弟子入りする事で、
魔導に到達する程の凄腕になっています。